宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第十七話 凪のほとり

 

【第17話】

 

 

地球時間換算で西暦2206年1月12日。

 

星間連邦国家・共和政ガミラスの領域である大マゼラン銀河の一角。

サレザー大管区と呼ばれる連邦首都を擁する行政区分の中の、とある惑星。

その天体は、ガミラス人有力貴族・ツァインフェルテ伯爵が所有しており、

豊かな自然を活かしたリゾート地や、上流階級向けの高級食品を産する

農場や牧場、果樹園、蒸留所などがいくつも所在していた。

 

そんな星の奥地、緑が映える山地の彼方には、

『女神の浴槽(バスタブ)』と呼ばれる景勝地が存在する。

深く澄んだ水を真円状に湛える、隕石湖である。

 

惑星に落着した隕石が生んだクレーターに地下水が永い時をかけて流れ込み、

周囲に聳える山脈の、木々の緑・岩の白と美しいコントラストを描く

青い湖水は、その全域が伯爵の私有地となっており、そのほとりには

デスラー家、ゼーリック家のものよりは小ぶりながら、

重厚さはそれらに負けず劣らずの見事な屋敷が建っていた。

 

それこそはツァインフェルテ伯爵の別荘であり、

別荘から湖に延びる桟橋には、伯爵の有する宇宙船が係留・停泊しており

屋敷に伯爵が在していることを示している。

 

 

屋敷の一角、本来は商売相手や伯爵の友人の貴族を招くための応接室で、

ガミラス共和国上院議員、セグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵は

議員付き私設秘書を務めるクラウス・キーマン退役少佐、

伯爵家の運転手兼警護役であるグレメッツ・シュロク退役大佐と共に籠り、

話を外部の人間に聞かれぬよう鍵をかけ、"方針会議"を開いていた。

 

「……まずはクラウス、長きに渡って、ご苦労だったな」

 

応接間のソファに腰掛け、地球土産に持ち帰ってきたコーヒー豆と、

同じく地球製のミルやドリッパーで淹れたコーヒーのカップを手に、

恰幅のいい中年__ツァインフェルテ伯爵は、テーブルを挟んだ

対面するソファの片側に座らせた、自分の秘書となっている

顔だちが整った、金髪の青年の労をねぎらう。

対して青年議員秘書・キーマンも一礼して、労いの言葉を受けとった。

 

 

キーマンは、昨年11月から伯爵の指示によって、

ツァインフェルテ家が営む空間採掘業の事業地となっていたサレザー星系に

突如として現れた謎の双子惑星__ガルマンとバルパラへ送られる

政府の科学調査団に帯同することとなり、出現した双子星の現地人で、

ガミラス人と祖を同じくするガルマン人との初接触(ファーストコンタクト)の瞬間にも居合わせた。

 

彼はその後も、折を見てはガルマン人と交流したり、

他の団員から調査結果を聞かせてもらったり、

調査団の報告を受けとる政府や軍の人間と接触することで、

謎多き双子星、特に今後の市場となり得るガルマン星の情報収集に務め、

(地球時間)1月初旬に調査団の事実上の解散に伴い、伯爵のもとへ帰参したのだ。

 

情報を主人に送り続けたキーマンだが、この日、

伯爵は彼に調査団への随行で得られた情報の総括・最終報告を求めていた。

 

 

「……よろしい。助言についての判断材料は大方揃ったな」

 

キーマンの最終報告__

「ガルマン星はインフラ等が絶対的に足りておらず、ガミラス人にとって

 歴史的重要性が高いため地所開発の余地・需要が大いに見込まれる」

「ガルマン人のメンタリティは宗教関連を除き、

 概ねガミラス人と共通しているとの見解が調査団においては支配的、

 既存製品の市場化が叶う可能性が高い」

「ガルマン星埋蔵資源は、転移前の同惑星を支配した勢力により

 相当量が採掘されているが、依然産業化に充分な埋蔵量を誇ると推定」

__などといった、今後の資本投下の判断材料となる報告を聞き終え、

ツァインフェルテ伯爵は一息入れる。

 

……この時、湖畔の別荘の密室で開かれている"方針会議"は、

伯爵自身の議員活動に関するものではなかった。

会議は、伯爵家が運営し、伯爵令嬢ユノールが社長を務める天体開発企業の

活動に対して行う助言の方針を決定するため、

議員らの伝手で集められた情報を吟味・考察するものであった。

 

キーマンの報告と、これまで伯爵が集めた手持ちの情報を照らし合わせ、

助言先の令嬢を介してツァインフェルテ社をどのように動かしていくか。

同じソファに隣り合わせて座るキーマンとシュロクのどちらも、

眼前で思案する伯爵が「銀河系からガルマン星への投資シフト」を

言い出すものと考えていたが、彼の口から出たのは真逆の内容だった。

 

「……ガルマン星については当面、開発も運送も様子見した方が良さそうだ。

 あの星に開発資材やらを運んでも、産業がないんじゃ運び出す荷が無い。

 だが、かの星の人々にも我が社の名を知ってもらうためにも、

 ガミラスとイスカンダルの破片採掘をする作業船の基地あたりを

 ガルマンに整備する手はあるかもな。」

 

伯爵の言葉に面食らうキーマンとシュロクは、一度顔を見合わせ、

絶好の投資対象を前に血迷った(?)主人を翻意させようとする。

 

「ということは、それ以上の開発事業には、手出しをしないと?

 既に政府はガルマン星の情報を小出しで公開し始めてます、

 他の開発業者も動き出す頃ですよ!」

 

「……あの星での公共事業の入札も、まもなく始めるでしょう。

 そうなれば、競合相手に事業を持っていかれるのは目に見えていますが……」

 

何を言い出すのだと言わんばかりに説得を始めた部下に対し、

「最後まで話を聞け」と、ツァインフェルテは掌を上げて制した。

 

 

「……ガルマン星。

 神話の星だけあって、皆目の色変えて欲しがるだろうし、

 それだけに競争率は高くなりそうだ。

 我が社の力なら競合を弾いて事業を勝ち取ることは出来るが……

 いかんせん、我が社はガミラスとイスカンダルの破片の独占権を

 貰っちまったばかりだ。そこにガルマンの利権まで欲しがった日には、

 競合連中が団結してツァインフェルテを叩きに来るだろうよ。」

 

いくら俺が物好きでも怨みは買いたくないからな、と言い置く伯爵。

秘書(キーマン)警護役(シュロク)も、納得が行ったようだった。

 

 

 

「だからな、ユンには引き続き、天ノ川銀河への投資を継続……

 いや、強化してもらうことにする。」

 

ガルマン星の投資を小規模に抑える代わりとばかりに、

伯爵は自身の姪で養女であるユノール令嬢に、

伯爵家企業の現路線__「天ノ川銀河オリオン腕・地ガ共同開発宙域内の

植民惑星への資本投下」の維持・拡大、注力すべしと助言する意向を明かした。

 

 

「__グレム、こないだの報告をクラウスは知らんだろう。

 お前さんの"相棒"がくれたネタを教えてやれ」

 

「えぇ、分かりました」

 

伯爵は、上記の助言内容の判断材料とした、

シュロクが持ってきた情報をキーマンに伝え、再確認を行う。

 

「……俺の古巣の奴が教えてくれてな。

 あの宇宙の狼、ドメル閣下の未亡人と、前の外相ノエンラート氏が、

 外交任務艦『シャングリ・ラー』に乗艦して地球(テロン)に向かったらしい。」

 

「前外相と、エリーサ・ドメル女史が、ですか。」

 

伯爵に促され語りだしたシュロクに、キーマンは怪訝な表情で向き合った。

 

___ツァインフェルテ伯爵家運転手兼警護役、グレメッツ・シュロクは、

元ガミラス国防軍大佐、それも国防軍情報部所属のエリートだった。

そんな彼が伯爵の下で働くことになったのは紆余曲折あってのことらしいが、

その伝手は未だに健在であるらしい。

本来厳重に秘匿されるべき要人の移動情報が流出するのは大問題だが、

キーマンはこの際それに触れなかった。

だが、それが「オリオン腕宙域への投資拡大」にどう関わるのか。

 

「……ドメル未亡人のお父上は元外交官、未亡人もその薫陶を受けているらしい。

 そんな御仁が元外相と外交任務艦に乗って地球(テロン)へ向かう。

 これは間違いなく外交団の派遣、それも極秘の重要案件についてのものだ。

 ここから先、オリオン腕で大きな動きがある、と伯爵は考えなさったのさ。」

 

シュロクの補足を受けキーマンは、

伯爵の付き人の先輩(シュロク)から伯爵本人へ視線を動かした。

ツァインフェルテは、くつくつと笑いながら言う。

 

「まぁ、そういうことだ、クラウス。

 ……地球(テロン)で、ミューラー大使やアクション将軍と話した時のことを覚えてるか」

 

「は……」

 

キーマンは、記憶野に仕舞った一年近く前の記憶を探る。

伯爵は、秘書がそれを見つけるのを待つことなく、語り出した。

 

「……今でもそうだが、天ノ川銀河に設けられている

 地球(テロン)・ガミラスの共同開発宙域はだな、

 必ずしも全域で経済活動が行える訳じゃない。」

 

その言葉で、キーマンの脳裏に昨年地球(テロン)で行われ、

自身が同席した数々の要人との面談の記憶が呼び起こされる。

伯爵の言う通り、オリオン腕の地ガ共同開発宙域は、

地球(テロン)側・ガミラス側問わず、民間団体による資本投下が規制された星が存在する。

 

「現状あの宙域で、民間企業が投資を行える星はマゼラン銀河から

 地球へ向かう航路沿い、それに太陽(ゾル星)系を中心として

 一定の距離までの間にある星だけだ。

 宙域外縁に近い星は手付かず、いや、軍とか新領土開拓連盟とか公的機関が

 調査や初期環境整備(テラフォーミング)している所もあるにはあるそうだが……

 基本的に開発は低調なままに留まってる。」

 

「民間の開発に規制が入っている理由は確か……

 警備や行政に要するリソースの不足、でしたか。

 民間人保護の観点からすれば、合理的な理由ですが……」

 

「それだけに、開発の足枷になっていると言えなくもない、か」

 

伯爵の説明で地球での会合で同じ話題が出たのを思い出したキーマンの言葉に、

シュロクが付け足すように言う。それを受けた伯爵は、不敵に口元を歪めた。

 

「……その方針が、この外交団の派遣で変わる可能性がある、という訳だ。

 そうなれば、民間企業が手出しできなかった星に手が届く。

 その際に、向こうで動かせる金がデカいほど美味い星が手に入る、

 そういう考えの元に、この方針を考えたのだ」

 

「さすがは旦那、目の付け所が違う!」

 

「ガハハハハ!!」

 

シュロクの感嘆の声、伯爵の哄笑を聞きながら、キーマンもまた、

セグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵という男が、

狡猾で油断ならない、ガミラス屈指の商売人であることを再確認する。

 

 

しかし。

 

(……外交団は本当に、共同開発宙域の件で地球(テロン)へ向かっているのか?)

 

キーマンの胸中に、形容しがたい不気味さが沸き上がる。

 

外交団が出立する報を、軍の情報部から手に入れなければ

知ることが出来ない位に、厳重に秘匿するものだろうか?

 

ツァインフェルテのような宇宙商人が、外交団の派遣の報から

商機を嗅ぎ付け、事前に動くことによって起こる混乱を、

極力抑止するため__などということなら、筋は通るが……。

 

 

("ボラーの走狗ではないのか?")

 

青年秘書の脳裏に、ガルマン人との接触時に告げられた言葉が甦る。

 

ガルマン星を支配していた宇宙国家__"ボラー"。

 

それかどうかはともかくとして、

天ノ川銀河の共同開発宙域からそれほど離れていない位置に星間国家が存在し、

それと接触したために地球へ外交団が送られた可能性は考えられないだろうか?

 

 

(……確たる証拠はない。)

 

だが、キーマンの胸中に湧いた懸念を肯定する情報は何もなく、

自分の考えすぎだ、と、彼は思考を一端頭の外に追い出し、ため息をついた。

 

それからふと、キーマンの目には、

応接室の一面、湖を望める屋敷のバルコニーへと繋がる強化ガラスの扉越しに、

『女神』の名を冠されるほどに美しい、青い湖面が飛び込んでくる。

 

(……(アキラ)にも見せたいものだな)

 

議員秘書クラウス・キーマン、否、ランハルト・デスラーの心には、

かつて惹かれつつも、"デスラー"の名が引き寄せるかもしれない煩事に

巻き込むことを恐れ、遠くから想うことにした(ひと)の姿が浮かび上がった。

 

 

 

ツァインフェルテ伯爵領惑星の景勝地、隕石湖『女神の浴槽(バスタブ)』。

その青い湖面の如く、天ノ川銀河の情勢は依然平静さを保っている。

 

だが、その水面下で何が蠢いているのかは、未だ見えなかった。

 

 

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