宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
投稿が遅くなり、大変申し訳ありません!
期間が開いただけに長い内容となっております、
よろしければお付き合いください。
【第18話】
自由浮遊惑星バラン。
天ノ川銀河と大小マゼラン銀河間を結ぶ長大な航路の丁度中間地点に位置する
かつては楕円球形、今では球形のガス惑星は、同航路を利用した早急な銀河間の
往還に不可欠な『亜空間ゲートネットワーク』のハブであり、
バラン軌道上には巨大なリング状構造物と一体化した二つの亜空間ゲートが浮かび、
惑星自体もゲートにエネルギーを供給するためのプラント施設となっていた。
また、その大気層内部には、西暦2199年に生起した戦闘の余波で破壊された
古代星間文明の遺跡に代わって、外宇宙から移送されてきた岩石小惑星を改造した
新たなエネルギープラント制御設備を兼ねた宇宙要塞が配置されており、
同要塞___『新バラン鎮守府』を拠点として、
共和政ガミラス国防軍の銀河方面軍司令部及び銀河間航路防衛軍団は活動している。
地球時間にして西暦2206年1月17日。
そんな地ガ星間交易路の最重要防衛拠点である新バラン鎮守府要塞は、
その宇宙軍港の一角に、かつての主を迎えていた。
「ソト長官、いえ、参謀次長閣下。 御足労頂き、ありがとうございます。」
「フラーゲ君、ヘプラー君も、息災そうで何よりだ。
ワルニム君も、大分バランに馴染んだようだな」
互いに微笑を湛えながら、
恰幅の良い体格に
右目の眼帯が特徴的な初老の男、二人の青肌ガミラス人将官が挨拶を交わす。
前者は
前・銀河方面軍(旧称:銀河機甲軍)司令長官 ヘルム・ソト上級大将。
後者は同戦役後、
現・銀河方面軍司令長官 シー・フラーゲ大将。
鎮守府司令部には、同じく西暦2202~2203年時から銀河方面軍に名を連ねる
方面軍参謀長 エーリク・ヘプラー中将(元第一五空間機甲師団艦隊司令官)、
2203年後半に新たに銀河方面軍へ銀河間航路防衛軍団司令官として配属された
第六空間機甲師団艦隊司令官ハンゲン・ワルニム中将の姿もあった。
「後は、バウル閣下とアクション中将が居れば、勢揃いなのですがね」
「まぁ、仕方あるまい。
バウル君はザフィーア軍管区司令官としてよくやっているし、
アクション君も貴官の後任として銀河軍団長の職を十分にこなしていると聞く」
二人は懐かし気に、この場にいないかつての僚将たちの名を口にする。
そのうちに、かつての任地の視察のためやってきた本国の参謀本部次長に
新バラン鎮守府の各部の現状を披露するため、
案内役の士官が要塞内移動用の車両にソトとフラーゲを促す。
「積もる話は車内で、ということにしましょう」
「うむ。ヘプラー君、ワルニム君、また後でな。」
二人の将官は出迎えに集まった将士に見送られ、視察行に出発した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから数時間後。
ソトとフラーゲ、新旧二人の銀河方面軍司令長官の姿は、辺境基地であるバラン星に
駐屯する将兵の数少ない心の癒しの一つ・士官用ラウンジにあった。
ソト参謀本部次長は、要塞内の軍港・工廠・兵員居住区・動力部を始め
予定された各部の視察を終え、基地の高級士官を集めた晩餐会を恙なく済ました後、
基地に複数あるラウンジバーのうち一つを貸し切って、現司令長官フラーゲを始め
銀河方面軍の幹部である将官たちと、高級幕僚の佐官数人を集めて「酒席」を設けた。
だがそこで酒が提供されることはなく、
給仕役の
「酒席」の名目で高級軍人らが集められたのは、
ソト上級大将が視察としてバランを訪れた"真の理由"に基づいてのことである。
「……では諸君、これより、我がガミラスと友邦
外交関係構築を試みている天ノ川銀河中心部の星間国家『ボラー連邦』との間に、
"万が一"戦端が開かれた場合、国防軍、特に銀河方面軍は如何に行動するかの
戦略方針及び、参謀本部が得られているボラー連邦軍の装備・動向についての
情報共有ならびに再確認を実施したい。」
ソトは不織布で曇りを拭き去った
同時に、機械従兵が一同のテーブルの前に運んできた可動式のモニターに
ガミラス軍上層部が秘密裏に有する仮想敵・ボラー連邦についての情報が映し出された。
それらは2205年12月の地ガ両国とボラー連邦の
その出所は、かつてボラー連邦の勢力圏に強行偵察艦を派遣していた
2203年の同国の敗戦に伴う情報の開示・接収によって、地球とガミラスは銀河中心部に
居を置く大星間国家・ボラー連邦の存在を知ることになったのである。
「……デスラー紀元107年(=西暦2203年)初頭時点においてボラー連邦軍が
オリオン腕に面する領域に展開していた戦力は、彼らの戦力単位にして27個艦隊。
うち6個が、我が軍の空間機甲師団に相当する『戦闘艦隊』であり、
残る21個は我が軍の空間師団に相当する『打撃艦隊』であるとのことだ。」
ソトの口から明かされる情報の一部は、
銀河方面軍の長たるフラーゲ大将やその補佐役であるヘプラー中将など
最上級将官にとっては既に通達されており、再確認する形になる。
だが、それより一段下の銀河間航路防衛軍団幕僚の佐官らにとっては初耳だ。
情報開示範囲が広がることは、事態の切迫度が一層増したことを彼らに自覚させる。
「だが、これはあくまで平時における配備数と見做さねばなるまい。
参謀本部では、オリオン腕宙域への侵攻が実施される場合、
この1.5倍の戦力が動員され、順次投入されるものと推定している。」
「せめてもの救いは、ボラー軍の標準艦隊定数が我が軍より少ないことですかな。
もっとも、戦時編成がどうなるかは分かりませんが」
敵は大軍を擁する、というソトの説明に対し、補足するフラーゲ。
彼の言う通り、モニターに映るボラー軍の情報として同軍の艦隊定数が、
『戦闘艦隊』250~300隻、『打撃艦隊』150~200隻、と掲示されている。
確かに、前者はガミラス軍空間師団、後者は同軍空間旅団程度の数であり、
相当する位置付けと比して数は少ないように見える。
「仮に、戦時編成で数に変わりがなかったとしても、軽視はできません。
ボラー軍の主力戦闘艦艇は一部を除いて、『ボラー砲』なる決戦兵器を
標準装備しているとの事です。」
仮想敵の"量"に次いで、"質"についてもヘプラー参謀長が言及する。
モニターも発言に応じて、ボラー主力軍艦の設計図断面を表示し、
参加者たちの視線は、設計図上で艦首に当たる部分へと集中する。
「『ボラーチウム』なる元素を利用した、収束式の重粒子砲。
我が『ガミラシウム弾頭』同様に国家の名を冠した兵器ゆえ、
決戦兵器という位置付けであると判断して間違いあるまい。
ガトランティスからの情報を基にしたデータとはなるが、
反射衛星砲と同等以上の威力であるらしい。」
「艦隊規模の斉射となると、
重大な脅威である、と言わざるを得ませんな。」
ソトによってボラー軍の決め手『ボラー砲』の詳細が説明され、
フラーゲがその具体的な脅威度合いを口にすると、室内の空気は一層重くなる。
情報を初めて明かされる面子が、仮想敵の強大さを充分に理解したことを確認し
参謀次長は自軍についての話題へ切り替えた。
「……だが我々も
軍縮の気運の裏で、この潜在的な脅威に対抗する方策を進めてきた。」
モニター画面が再び切り替わり、天ノ川銀河・オリオン腕宙域の宇宙地図が映され、
そこにガミラス十字―――同地に駐留するガミラス軍艦隊を表すアイコンが出現する。
アイコンは5つ、地ガ共同開発宙域の辺境を守備する第五八・第一四一空間師団艦隊、
同盟国
銀河系に展開する軍団の中枢戦力である第二空間機甲師団艦隊と、
つい先月、対ボラー防備のために銀河間空間から増派された第一八空間機甲師団艦隊、
同じく増派され移動中のヘルム・ゼーリック空間機甲師団艦隊をそれぞれ表している。
先ほど言及されたボラー軍の予想侵攻戦力が40個艦隊を上回ることを思えば、
圧倒的に少数であると言わざるを得ないが―――
「
両国間で再度の軍事衝突を回避し緊張を緩和するため、
またガミラス星からの移住計画に注力するために大規模な軍縮が実施されたが、
水面下では対ボラー有事に対処するための余力を保全する試みがなされた。」
「軍縮の一環として行われた、師団艦隊数の削減。
実際には、解体された師団艦隊の艦艇は、他の空間師団を増強空間師団や
空間機甲師団へ改組するために配置換えされており、
艦艇数自体は軍縮前と比べて大きく減じてはいない。」
「天ノ川銀河オリオン腕に配置された第五八・第一四一空間師団も
そうした配置換えで生まれた増強師団であり、通常の空間師団より強力です。」
ソト、フラーゲ、ヘプラーがモニターの画像を指して将校たちに説明すると、
続いてモニターは、ガス惑星の大気層だろうか、
バラン星の大気圏とよく似た空間を背景に、特徴的な"目"を消灯させ眠りながら、
多数のガミラス軍艦が浮かんでいる一見奇妙な画像を映し出した。
「―――場所は伏すが、
これは民主化後に親衛隊討伐艦隊として運用された、旧親衛隊の航宙艦隊だ。
現在は全艦が退役し、某ガス惑星へ係留され解体の時を待っている。
―――あくまで表向きは、な。」
「実際には
有事には機械兵が操艦する無人艦として投入可能となっています。」
「参謀本部はこれを『予備警察艦隊』と呼称している。
本当に老朽化して処分された艦を割り引いても、
現存する艦艇は6個機甲師団と12個師団、合計18個師団分の約6600隻。
運用役の機械兵も同じく、軍縮で表向き破棄・実際は保管されているものを使う」
ソトに加え、事前に説明を受けていたフラーゲとヘプラーは淡々と語るが、
ここで初めて情報を開示される面々の中で最上位者であるワルニム中将が
躊躇いがちに挙手し、質問する。
「……表向き軍縮で廃棄されたものを保持し続けている点について、
政府と
「尤もな指摘だ。
だが心配は無用、軍縮の裏で行っている対ボラー戦備に関しては
政府は無論、
戦備のいくつかに関しては
数年前まで文民統制など無かった国家の軍人とは思えない、
よくできたワルニムの質問にソトは淀みない答えを返し、彼を安心させる。
そこから、純軍事面に話題を引き戻したのはヘプラー中将だった。
「国防軍としては、当面の対ボラー防衛戦の主力をこの予備警察艦隊とし、
必要に応じてマゼランから艦隊を増派することになります。
ボラー軍が侵攻艦隊として投入すると思われる艦艇数は約一万隻。
予備警察艦隊とオリオン腕配備部隊を合計すれば約九千隻、
これに更なる増援を加えれば、充分にボラー軍への対抗が可能です。」
「とは言え、この無人艦隊は動態保存艦を引っ張り出すという性質上、
迅速な派遣は困難……いや、不可能だ。
従って、ボラー軍がオリオン腕共同開発宙域に侵攻した場合、
増援無人艦隊が到着するまでの間は、先述の五個師団艦隊を以て
防衛線を維持してもらうことになっている。」
フラーゲ大将が発した、「侵攻初期は結局在地戦力で迎撃するしかない」という
戦力差についての議論を振り出しに戻す言に、室内の空気は冷え込む。
そこにすかさず、ソトが参謀本部の練った対応策を提示した。
「ボラー軍といえど、一時に40個以上、一万隻の艦隊を
航行困難宙域も多い、彼らにとり航路未整備な宙域へ投入可能とは考えにくい。
数個艦隊を波状に進出させ、漸増させていくものと考えられる。
参謀本部としては、侵攻軍が集結しきらないうちに、奇襲的戦術を以て
各敵艦隊の指令系統を破壊して足止めを強要、時間を稼がせる方針だ。」
同時にソトは、「そのための手段も用意してある」と言って
モニターに新たな画像を表示させた。
それは、室内にいる将校らの殆どが目にしたことのない艦型をしたガミラス軍艦。
多くの艦で採用されている、水棲生物を思わせる鋭角的なシルエットではなく
各所が丸みを帯びながらもスマートな艦影だ。
「これは……次元潜航艦ですか?」
モニターを凝視し、
頭の中で既知の知識と整合させようと努力しながらワルニム中将が呟く。
我が意を得たり、とばかりにソトは微笑を浮かべ、語りだした。
「その通り―――
UX級に代わる新型艦、その名も『ゼランダル級攻撃型次元潜航艦』。
既に四番艦まで就役を済ませている。
本来はボラーとの接触を見据え、
深宇宙観測艦隊に代わってボラー連邦勢力圏臨界面に長駆進出させ、
秘密裏に長距離潜航偵察・戦略パトロールを行わせる計画だった。」
ソトの説明が進むにつれ、
モニターの画像は、建設中の基地を写したようなものに切り替わる。
「その任務を担わせるにあたり出撃基地として、
オリオン腕共同開発宙域の某所で、極秘裏に潜航艦用
そして、先ほど言った『
運用や整備の能力とノウハウを与える目的で、UX級の実物を含めた
次元潜航艦技術の供与が行われている。」
画像は昨年、同盟国の
次元潜航艦『UX-13』を移送した、供与品の改FE級輸送艦『レッドワン』に変わる。
「――だが、実際に潜航パトロールが実現される前に
ボラー連邦との接触が現実のものとなったという訳だ。」
肩をすくめて、ソトは当初の新型次元潜航艦配備・運用計画の顛末を述べた。
が、それは銀河系への新型次元潜航艦の派遣そのものを
撤回させることにはならなかった。ソトによる説明を、ヘプラーが引き継ぐ。
「しかし、ディッツ提督の航宙艦隊総司令部は対ボラー戦備として
ゼランダル級の一番艦『ゼランダル』と三番艦『ミルベリア』を、
外洋機動艦隊の派遣隊に先行させて天ノ川銀河へと向かわせたとのことです。」
「既にオリオン腕宙域に到達している筈だから、万一のことがあっても
侵攻艦隊への奇襲による遅滞作戦に参加させることも可能だろう。
だが、奇襲作戦に投入されるのはこれだけではない。」
再び参謀次長がモニターの画像を切り替えると、
今度は比較的列席者が、ガミラス将兵が見慣れた艦の姿が現れる。
「ゲルバデス級のようですが……いや、これは……」
映るのは深緑色に山吹色と薄灰色が差し色となった艦体塗装の航宙戦闘母艦。
画像のゲルバデス級
『遮蔽式砲戦甲板』を展開している状態―――
自軍の艦とは言え珍しい部類に入る"戦闘空母"を一目見て、
違和感を抱くことができた士官は、少数であった。
「この艦は、正確に言えばゲルバデス級とは言えない。
もっと言えば、航宙戦闘母艦ではない。―――見たまえ」
参謀次長の補足説明が入り、モニターのゲルバデス級?の画像の上に被さる形で
同艦の一部をクローズアップした画像のウィンドウが表示される。
それが、ソトの言うゲルバデス級との違い、航宙戦闘母艦でないことの証左らしい。
「これは『物質転送機』……!」
「……この砲戦甲板、回転機構が廃されている……?」
それにより、面々の大部がようやく違和感に気付きだし、
先んじて気付いていた一部の幕僚は違和感の正体に納得する。
そして、ソトはこのゲルバデス級のようでゲルバデス級でない艦の正体を明かした。
「この艦は、改ゲルバデス級――バレケス級航宙戦艦。
かつてタラン将軍が率いた銀河系探査艦隊に配備されていた
簡易設計型のゲルバデス級を大改装したものでな、
改装に当たりあの『デウスーラ三世』から得られたノウハウを活用している。」
その言の通り、
画像の艦・バレケス級の艦首船体部左右には総統座乗艦『デウスーラ三世』同様、
かつて勇将ドメルが用いて宇宙戦艦『ヤマト』を苦しめた『物質転送機』が
一基ずつ装備されていた。
「七色星団海戦で得られた戦訓やその後の運用試験の結果、
物質転送機はその性能こそ申し分ないが、エネルギー消費が激しい欠点がある。
そのため、本来はゲルバデス級に装備したとしても満足な運用は不可能です。」
「その点このバレケス級は、航宙母艦としての機能を廃し、それに伴って空いた
格納庫に相当する区画を物質転送機専用のジェネレーターに転用することで
問題をクリアしている。」
「また、単純に戦艦機能に特化させたという訳でもない。
回転機構を廃止して固定化した砲戦甲板の備砲は、
その多くが
防空能力は原型艦に比べ飛躍的に向上しているし、
通信・索敵機能も増強され航空戦の指揮艦として運用可能だ。
総じて機動部隊―――師団航空戦隊の旗艦、護衛艦に最適な出来の艦と言える」
ソトに次いでヘプラー、フラーゲがバレケス級の特性について説明すると、
画像を切り替え「そんな艦をどうボラー戦に投入するのか」の説明に移行する。
「既に、銀河系には四隻のバレケス級を派遣している。
ダゴン将軍の第一八空間機甲師団艦隊に随伴させ、先日中に移動は完了した。」
「参謀本部としては、これらバレケス級を軸として
オリオン腕駐留各師団の航空戦隊と共に機動部隊を編成させ、
ボラー艦隊への奇襲に投入することを計画している。
その総指揮は、空母艦長を歴任し航空戦に通暁したダゴン将軍に執ってもらう。」
画面に映るのは、天ノ川銀河に派遣されたと思しき四隻のバレケス級の姿。
艦名はネームシップ『バレケス』を含め、それぞれ七色星団海戦で戦死した
四人の航宙母艦艦長に因んでおり、『ヴォーグル』『ベステラ』『リターリス』と
艦名を示す文字が四隻の下に銘打たれていた。
ガミラス軍は、
ボラー連邦に対する情報イニシアティブを活かし、想定される同国との衝突に向け
可能な限りの準備を図っていることがこうして明白となる。
しかし、「ボラーとの開戦」という前提条件に対し、ここで一石が投じられた。
「参謀本部としては現状、ボラー連邦との開戦に至る可能性を、
どの程度と見積もっておられるのでしょうか?」
紅茶を啜って、質問を投げかけたのはフラーゲ司令長官だった。
それを受けたソトは、若干表情を強張らせて呻くように答える。
「……恥ずかしい事だが、参謀本部次長としても確たることは言えない。
その是非はボラー側に委ねられており、今のところ彼らの動きを知る術もない。
ただ、軍という安全保障の当事者である立場上、
希望的観測は厳に戒められるべきところであるから、
開戦の可能性は相当に高いと見て、諸々の戦備確立に動いている……。
―――要するに、分からん。」
身も蓋もない締めくくりに、フラーゲも苦笑を禁じえなかったが、
事態の深刻さ・ソトの懊悩については理解するところであった。
「……考えられる開戦に至る経緯として、
ボラー側が外交交渉を侵攻兵力集結の時間稼ぎとして利用し、
外交交渉予定日に相前後して奇襲的に侵攻を開始する……という
"基本"の他に、参謀本部ではどんな
次いで聞いてきたのは銀河方面軍No.2のヘプラー参謀長。
「参謀本部では、今挙がった"基本"の他、いくつか考えられている。
ボラーが交渉を隠れ蓑にオリオン腕進攻を企んでいなかった場合でも、
外交交渉の結果如何では事を構える可能性は大きい。」
ソトの応答に、場の空気が一気に引き締まる。
列席者たちは皆、「外交交渉」の席においてガミラスとボラーの
対立の火種になり得る議題が現実として存在していることをよく知っていた。
「《ガルマン星問題》。
昨年11月の異変で、サレザー系に突如出現した有人星含む双子星。
今でこそ我がマゼラン諸惑星連邦の一員となってはいるが、
それらは元は、ボラー連邦の支配下にあったらしい。」
「もしボラーが、ガルマンの転移を我々の仕業と判断し、
双子星の返還要求をしてきた場合、開戦は避けられないということですか」
「うむ。事実として返還のしようなどない。
マゼランにかの国の飛び地を作る訳にはいかぬし、
当のガルマン人曰くだが、あんな圧政者に故地を渡すなど国民が許さん。」
ソトはフラーゲと互いの見解を述べ合うが、そこにワルニムが割って入った。
「……ガルマン星の転移自体、ボラー連邦が企図した可能性はありませんか?
マゼランへの出現こそ偶然にしろ、何らかの実験の失敗といった線はどうです?」
「ガトランティスから得られた情報を鑑みるに彼らの文明レベルは我々と同水準、
一部ならともかく惑星を丸ごと転移させるほどの超技術を有しているとは
考えにくいが、アケーリアス文明の遺跡を利用した可能性などはあり得るから、
一概に否定もできんな……」
鋭い指摘にソトは唸るが、議論が脱線することを危惧したフラーゲが再度口を開く。
「……転移自体については、あまり考えるべきではないかもしれません。
あまりに多くの可能性が浮上してしまい、方針が定まりませんからな……。
それこそ、
ガルマンを転移させた可能性すら出てくるわけですから。」
「ボラー連邦に別の『敵』がいるという予想は参謀本部もしている。
ボラーが予想より早く平和関係構築を受諾した理由付けになり得るからな。
……いずれにせよ、対ボラー警戒でオリオン腕宙域に増援艦隊を
送り続けることは半ば決定事項だ。」
ソトの結論に「酒席」参加者は一様に頷く。その中でもヘプラーは、
モニターの画面を操作して、現状における銀河系への兵力移動を再確認した。
「先ほど挙がった新型次元潜航艦2隻と、第一八空間機甲師団を別にして、
現時点における国防軍のオリオン腕への増援戦力の移動状況はこうです。
ヘルム・ゼーリック(HZ)空間機甲師団艦隊が戦闘団単位で銀河系外縁に移動中、
外洋機動艦隊派遣部隊の第一陣は昨日集結を完了しマゼラン銀河を出撃。
前者は「交渉」直前に共同開発宙域に到着しますが、
後者は急場に間に合わない可能性もありますね……」
「―――参謀本部の立場として言わせてもらうと、最悪のシナリオは
ボラーとの開戦でも、増援艦隊が間に合わないことでもない。」
おもむろにソトは、重々しい声で告げる。
どうやら、時間が遅くなりつつあることを確認して、総括に入ったらしかった。
「軍上層部、そして政府が何より恐れること……それは、
ソトの言葉と、それが示す事態を理解して、室内の全員が凍り付く。
地球側がガミラスに対し、
ガルマン星の怨恨で開戦に走るのではないかと危惧しているのと同様に、
ガミラス側もまた地球に対し、
ボラー連邦による調略に乗って盟約を破棄し、万一の対ボラー戦争時に中立、
ひいてはボラー側で参戦するのではないかという懸念を抱いていたのだ。
これまで挙げられたガミラス軍によるオリオン腕共同開発宙域防衛作戦は、
言外のうちに同盟国
これが崩れた場合、防衛戦略は根底からひっくり返されてしまう。
「地球を我々の側に繋ぎ止めておけるかは、外交に拠る所が大きい。
はっきり言って、我々の防衛策は悉くが薄氷の上に立つものと言わざるを得まい」
ソトは上記の件について述べ、論尾をそう結んだ。
それを受け、フラーゲがソトの意を汲んで言葉を返す。
「もしも地球がボラー側に寝返った場合、
ガミラスの銀河系への橋頭保が丸ごと失われる……
それ即ち、対ボラー防衛線が一気にここ、バラン星まで後退するのと同義。
この星は決して後方ではない、最前線となり得る、ということですな?」
「そうだ。だからこそ諸君には、改めて胸に刻んでおいてもらいたい。
我々の背は、何の罪もない、ガミラス市民の生命と営みを負っていることを。
―――これにて、酒席はお開きとする」
そう言ってソトが椅子から立ち上がると、
フラーゲを始めとする銀河方面軍の将校らは一斉に右手を垂直に挙げ、敬礼。
そこから各自がラウンジから退出していくが、
彼らの表情は一様に硬く強張り、
とても「酒席」に参加していたと言い訳できそうなものではなかった―――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
地球時間に換算して、西暦2206年1月20日。
銀河間航路の要衝・バラン星の防衛の一切を左右する一室である鎮守府司令室にて。
既に昨日、参謀次長ヘルム・ソト上級大将はバラン星を後にしているが、
司令室にはソトを要塞に迎えた時と同様、銀河方面軍司令長官シー・フラーゲ大将、
同軍参謀長エーリク・ヘプラー中将、銀河間航路防衛軍団長ハンゲン・ワルニム中将ら
バラン星の顔役三人が揃っており、
彼らは司令部壁面を一杯に使った大モニターに視線を注いでいる。
そこには、来るボラー連邦との「国交開設交渉」のため、
交渉予定地である天ノ川銀河系オリオン腕の地ガ共同開発宙域内にある
植民惑星・バルナーテ星(地球名バーナードⅭ)へと向かう
ノエンラート前外務相、エリーサ・ドメル未亡人らガミラス外交団の乗る
航宙戦艦「シャングリ・ラー」の姿が映し出されている。
マゼラン銀河側のゲートから現れ、バラン軌道上で補給艦から物資を受領した同艦は、
これより、バランを通過して天ノ川銀河側ゲートへ突入し銀河系へ向かうのだ。
「総員、外交団へ向け、敬礼!!」
フラーゲの号令一下、司令部にある将兵全員が外交団の乗艦を敬礼で見送る。
(――皮肉なものだな。
我が任地であるバラン星の命運を一番左右するのが司令官の俺ではなく、
軍人ではない外交筋の人間であろうとは。
……それが、民主主義国家の軍人というものなのだろうがな)
かつて、盟邦と協力して巨大な敵・白色彗星帝国ガトランティスの打破に寄与した
勇将シー・フラーゲを以てしても、目の前、実際は数万㎞以上の距離を隔てた
宇宙戦艦に乗る外交団が無事に目的地へ辿り着けるか、
辿り着けたとして、そこで行われる交渉がどこへ向かうかは計り知れない。
それでも、
天ノ川銀河とマゼラン銀河を結ぶ航路における『宇宙の灯台』バラン星は、
頼りなくもそこにある、和平への道を照らし続けているのだった。
ご精読ありがとうございました!
次回もなるべく早めに投稿したいと思っています!(投稿できるとは言ってない)
感想・質問の方、心よりお待ちしております!