宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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後半が2202本編改変の趣が強かった前作「猛虎咆哮す」と比べると、
今作は仮想史・仮想戦記色を全面に押し出した毛色の違うものになると思われるため、
そうした点をご理解の上読んでいただけるとお楽しみいただけるかもしれません。



第一章 サレザー事変
第一話 猛虎去りし虎穴


 

【第1話】

 

 

 

時に、西暦2205年3月。

 

大宇宙の脅威・白色彗星帝国(ガトランティス)に対する劇的・奇跡的な大勝利から約2年。

戦勝国である地球連邦・共和政ガミラスの両国は平和を謳歌し、

その国力は、いよいよ隆盛に至らんとしていた。

 

 

天ノ川銀河系の伴銀河・大小マゼラン銀河に存在する星間連邦国家、

共和政ガミラスは、戦勝国のイメージに相応しい経済的活況を見せていた。

 

2年前、同国家の首都惑星であったサレザー恒星系第四惑星・ガミラスは、

紆余曲折ありガミラスを離れた末にガトランティスの虜囚の身になって

戦後ようやく帰還したという、()()()アベルト・デスラー総統によって

星そのものの寿命が50年とない事実が明かされ、急遽遷都・脱出計画が始動した。

 

ガミラス人の移住計画は、純血のガミラス人が他天体の環境では長く生きられない

民族的体質と、それに伴い移住候補地が制限されるという大問題があったが、

対ガトランティス戦争による戦利品(医療技術情報)を活用した研究が行われ

ガミラス人の免疫など体質を強化する薬剤が発明されたことで課題を克服。

移住候補地を、サレザー恒星系近傍の星系にあり、首都星の食糧生産拠点として

農業プランテーション天体化されていた惑星ゴアに定め、計画を進めた。

 

計画は、本物のデスラー総統が(手続きを踏んだ正当な)帰還を果たしたことなどで

ガミラス国内が政治的に安定していたこと、地球から艦船・物資の供与など

手厚い支援が行われたこと、移住候補地がガミラス星からすぐ近くだったこと、

様々な好条件が手伝って驚異的なペースで進行し、地球時間換算で2204年6月には

ガミラス全住民の完全星外避難が実現され、同年12月には元ガミラス星住民の

半数が、ガミラス星からゴア星に移築された都市への入居を果たした。

 

遷都計画は順調なまま現在でも進んでおり、既に7割の旧首都星住民が

(ノエン)ガミラス』と改称された新首都星への移住を完了させていた___。

 

 

こうしたガミラス=ゴア間(途中の一時避難地含む)の大民族移動は

膨大な物資需要を生み出し、地球からの供与物資以外の需品を

大小マゼラン圏全域に求めることによって巨大な経済効果を発生させた。

 

旧帝政期管区の首府星を中心とした属州惑星・植民惑星は空前の好景気に沸き、

ガミラス星からの脱出民が一時避難して大量の生活物資を求める収容地や、

地球供与(及びガミラスでのライセンス生産が行われた)巨大リング型重量物輸送艦で

都市建造物の移送・移設が行われ、基礎建材を必要としているゴア星に、

大量の製品・産品を輸出した。

 

遷都・移民計画の完了と共に、こうした好景気が終わりを迎えるのではないかと

危惧する声も存在したが、民主政府や経済界は、既に"次"を見据えていた_____

 

 

 

___一方、もう一つの戦勝国・地球連邦が本拠地である、

天ノ川銀河系オリオン腕の一角、太陽系の第三惑星・地球では

7つの時間断層工廠を()()()()()()()()未だに保有し続けており、

太陽系第十一番惑星・炉王星(バルカン)宙域に漂流する彗星帝国艦隊の残骸を

資源とした巨大な工業生産力を誇っていた。

それがガミラス人移民計画の支援に遺憾なく発揮されたことは、前述の通りだ。

 

また、戦前から()()()()()()()()()()()()()()()()()バランスを保った

軍備体制を敷いていたことが幸いして、対ガトランティス戦後の軍縮と

『平和通商国家路線』への国家方針と産業構造の転換は円滑に進み、

地球連邦の内情は安定し、民需経済の活性化が続いている。

 

移民計画支援の諸物資供与や、ガミラス民主政府がなお足りない物資調達のため

発行した国債を引き受けたことで、地球復興時・対彗星戦役時の借款や支援を

事実上帳消しにしたため、文字通り"対等な"同盟国となったこの惑星国家こそ、

先に述べた共和政ガミラスが移民計画完了後に陥ると危惧される不景気に対抗する

『切り札』になると考えられていた_____。

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

地球・極東管区、首都メガロポリス。

 

『新都』とも称される、超高層ビルが林立する地球一の繁都は極東管区、

古くは『日本国』と呼ばれた列島の中西部・近畿地区の湾岸に突き出た半島と、

その"付け根"に建設されている。

 

地球連邦政府が主庁舎としている、一際目立つ超巨大ビルの周りには、

庁舎ビルほどではないが新都の平均的なビルと比べれば一回り大きく高い

超・摩天楼とでも言えそうなビルが何棟か建っているが、

その中には要人を宿泊させるための「新都グランドホテル」も存在していた。

 

 

人口減に伴い、ホテル内は全てロボットなどによる自動化が行われている。

それは、特級のスイートルームとして整備された最上層階も例外ではない。

 

その一フロア丸ごとが広大な宿泊区画と化した、

VIP専用スペシャルスイートの扉の前に、ある男がやってくる。

 

金髪の若い男で、パッと見ただけでも上品さがわかるようなスーツ姿。

だが、何よりもこの星で目立つのは、彼の"青い肌"であった。

 

 

「ただいま戻りました。」

 

チェックイン時に部屋のカギに設定した番号・指紋・虹彩の三重認証をクリアし

その男は特級スイートルームに入室する。

 

そこに待ち受けていたのは、これまた"青い肌"の二人の男。

一人は恰幅のいい中年で、もう一人は体格のいい壮年。

共に、プライベートであることを示す、ラフな格好だ。

 

中年はソファーにくつろぎながら、ワインクーラーに入ったボトルから

地球産の赤いワインをグラスに入れ、仰いでいる。

 

壮年は、部屋の入口から中年に至るまでの最短経路に陣取るように

移動させた椅子に腰かけており、万一の襲撃者から中年を護るような態勢だった。

 

 

「あぁ、おかえり。 "知り合い"と連絡はついたかね?」

 

壮年の男が若い男を一瞥して、挨拶とばかりに黙って手を挙げたのとは対照的に、

中年の方は気さくな調子で部屋に戻った若い男に尋ねてきた。

 

「いえ、どうも入れ違いになってしまったようです。

 ……まあ、"彼ら"は私と違って現役軍人ですから、予想はしていました。」

 

「そうか、だが我々も長逗留の予定だ。 いずれ会う機会もできるだろう」

 

薄く口元を歪めた若い男の答えを聞くと、中年の男はワインを飲み干した。

それから、今度は壮年の男が問いを口にする。

 

 

「それで、ドルジ団長は何と言ってた? ()()()()

 

質問された若い男___ガミラス国防軍元少佐、クラウス・キーマンは、

コクリと頷いてから、二人の男に対し自らが託された言伝を口にし出した。

 

 

 

かつて、宇宙戦艦『ヤマト』のテレザート派遣航海の折、

表向きはガミラス軍の連絡士官として、裏ではガミラス保安情報局の密偵として、

『ヤマト』に乗艦したクラウス・キーマンこと、ランハルト・デスラー。

 

彼はガトランティス戦争から生還した後、軍と保安情報局を辞し、

伝手を辿ってガミラス貴族院議員秘書の職を得ていた。

 

彼が仕えるその議員こそ、新都グランドホテルのVIPルームを占有し、

地ガ戦争前から長期保存された地球産ワインを楽しんでいる中年男性、

セグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵である。

 

ツァインフェルテ議員の傍らに控えている壮年は、

キーマンの先輩格である議員の運転手兼警護役、グレメッツ・シュロク。

彼もまた、軍を退役した後に伯爵の下にやってきたらしい。

 

 

ツァインフェルテは、旧ガミラス大公国時代の末から頭角を現し、

()デスラーの独裁体制期においてもゼーリック派や親衛隊からの干渉を巧みに躱し、

一代で伯爵家をガミラス屈指の富豪に育て上げた傑物である。

 

彼自身は、伯爵家が営む家業からは引退し貴族院議員となっているが、

兄の庶子を養子に取って継がせた惑星開発事業・星間宙運業に対して

隠然たる影響力を有しており、議員としてはこれらの業者の利益を代弁している。

 

 

そんなガミラスの大物である伯爵一行が、なぜマゼラン銀河から遠く離れた

同盟国・地球の高級ホテルに宿泊しているかの理由は、議員活動の一環であった。

 

ガトランティス戦争後、民間にも限定解放された銀河間航路における

対地球運送事業や天ノ川銀河オリオン腕宙域における惑星開発事業などに関する

新たな経済協力協定の締結のため、かつて地球との講和条約にも出席した

現ガミラス帝国銀行総裁のエゼフ・ドルジを団長、

ツァインフェルテ伯爵を副団長とした使節団が派遣されたのだ。

 

ドルジら使節団本隊は現在、地球のグアム島にあるガミラス駐地球大使館におり、

副団長ツァインフェルテ伯爵との連絡には新都グランドホテルの一角にある

VIP用回線秘匿通信室の機器を用いて行っている。

 

キーマンはその連絡役として、先ほどまで通信室に行っており、

そのついでに、顔なじみの大使館職員に"知り合い"___かつての戦友、

『ヤマト』の乗組員たちが今どこにいるのかを聞いていた。

結果は、不首尾だったようだが____

 

 

「……明後日には使節団本隊も新都に到着、五日後の交渉に備えるとのことです。」

 

「そうか、わかった。

 ……では、それまでに我々もやることをやっておかねばな。」

 

キーマンからの報告を聞いて、シュロクにワインを片付けてもらった伯爵は呟く。

彼の言に、シュロクはこめかみに指をあてて"やれやれ"と言った素振りをし、

キーマンは(まさか……)という考えが脳裏をよぎる。

 

伯爵は、最近お気に召したらしい地球製のサングラスをかけながら、二人に告げた。

 

「明日、こっそり出かけるぞ! デーツやユンたちに土産を買わねばな!」

 

「マジですか……」

 

「閣下……」

 

二人の従者は、行動力のある伯爵の相変わらずの"悪癖"に頭を抱えるのだった。

 

 

 

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同時刻、同じくメガロポリスの一角に建設された、揚羽美術館では。

 

表向きは美術鑑賞会の名目で集まった、

揚羽グループ会長、南部重工社長、森田製薬社長など

極東管区の経済界の重鎮たちが、地下会議室で秘密裏の会合を開いていた。

 

その目的は、「地球企業の政府統制撤廃時期先倒し」についての意見交換だ。

 

地球側の企業経営者たちも、新たな地ガ経済協力協定の締結に向けて

ガミラス側が使節団を送り込むなど動き出したことに目ざとく反応しており、

このまま地球連邦政府による生産ほか各種活動に統制を受けていては、

今後の天ノ川銀河の植民開発惑星の市場をガミラス企業に独占されてしまい

地球人類が享受できる利益が損なわれると危惧し、議会を突き上げて

企業統制の撤廃時期を早めさせようとしていたのである。

 

「……この前、地中海管区の方と個人的に話す機会がありましたが、

 向こうでもそういう機運は高まっているようですな。」

 

「北米管区では、管区議会から突き上げを行っているようです。

 まだ、表沙汰になってこそいませんが……」

 

極東管区だけでなく、地球連邦に属する他管区においても、

「外宇宙の脅威が消滅した以上、企業統制を受け続ける意味がない」

「ガミラス企業と競合するだけの地力は既に確保されたのでは」

といった声が上がっていると、出席者からは報告される。

 

それを受け、この議場の提供者で議長も務める揚羽グループの揚羽幹雄会長が言った。

 

「……連邦議会への突き上げは、管区を越えて連帯した形で行うべき、ですな。

 調印されるであろう経済協定が発効する前には、統制を撤廃させられるはずです」

 

場を仕切る揚羽の言葉に、普段は競合企業である南部重工の康造社長も同意し頷く。

が、ここで一人の出席者が挙手する。

 

「……北米では、今後は再度の全面統制を禁ずることを連邦憲章に追記させよ、

 という意見も上がっているようですが、その点はどう考えられておられる?」

 

「流石にそこまで過激な意見はな……」

 

出席者たちのどよめきの声が響く。まだガミラス戦争の記憶も生々しい中では、

人類の危機では政府の統制やむなし___というのが極東管区人の共通認識のようだ。

揚羽会長も言う。

 

「世の中、何が幸いするか分かったものではありませんからなぁ……。

 大戦中に政府による統制を受け入れたことで助かったのも事実です。」

 

一斉に、参加者の耳目が揚羽に注がれた。

彼は「私事で恐縮ですが」と前置きし、語りだす。

 

「……大戦当時ではどの道、我が財閥の有していたシェルターや物資を

 難民に開放することにはなったでしょうが、政府の関与と助力なしに

 円滑な対応は困難だったと思います。___流血沙汰すら有り得たでしょうね。

 私や家内、そして息子が生き延びられた要素では確かにあったかと。」

 

揚羽会長による、厳しい時代を回顧しながら語り口に聞き入る一同。

揚羽同様に防衛産業に携わる南部も口を開いた。

 

「……確かに現状では、地球人類の存立を脅かす危機の姿は認められない。

 が、ガミラスの来航が突然だったように、

 いつどこから脅威が現れても不思議ではありません。

 "強さ"というのは、採れる選択肢の数に現れるものであると思っています。

 それをいたずらに縛る必要性はない、と私は考えるのですが、いかがか。」

 

極東管区を代表する軍需企業の二大巨頭の言には、確かな重みがある。

出席者たちは拍手を以て、彼らの見解に賛同の意を示すのだった。

 

 

 

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一方。

 

極東管区の関東地区___かつて旧日本国の首都、東京が置かれた地域。

 

連邦首都メガロポリスから距離を隔てたこの地には対ガミラス戦争後、

地球の空を行き交い貨客を運ぶ内航船向けの新宇宙港が建設されると同時に、

列島中西部に集中していた人口を分散させるための新たな都市が建設されている。

 

そんな街のはずれには、大きく、壁に囲まれ重厚な警備が施された邸宅があった。

 

 

「……そうか、貴官が……。 わざわざ挨拶してくれてご苦労。

 この老骨に役立てることがあれば、なんでも言ってくれ。

 既に退役の身だ、普段は野良仕事をしておるよ」

 

通信を交わすのは、屋敷の主。

 

かつて、凄惨な"未来"を視て、その回避のために人知れず励んだ男。

 

『地球防衛軍最初の元帥』、『防衛軍の虎』、『猛虎』___

 

___彼を称える言葉は()()()()には多い。

 

 

 

 

邸宅の門に据えられた表札には、威厳ある字で『芹沢』と刻まれていた。

 

 

 





本作も数年にわたる不定期投稿になると思いますが、よろしければお付き合いください。
感想の方、心よりお待ちしております。
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