宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第十九話 バーナード星の対決

 

【第19話】

 

 

時に、西暦2206年1月30日未明。

 

天ノ川銀河オリオン腕に在する太陽系第三惑星の惑星国家・地球の一角にある、

『極東管区』を構成する日本列島の最大の島・本州の西部海岸に置かれた宇宙軍港にて。

 

同国の軍に所属する一隻の宇宙戦艦が埠頭を離れた。

その艦は尾部の巨大な推進機に炎光を灯し、闇夜の中で轟々と白波を蹴立てながら飛翔する。

その姿は程なくして、最も暗くなるとされる夜明け前の空へ消えていったが、

軍港からそれを見送る人々の視線は、宇宙戦艦が見えなくなっても依然空へと向けられている。

彼らの心眼は確かに、今しがた旅立った船―――宇宙戦艦『ムサシ』を捉えていた。

 

事の重要性ゆえ、『ムサシ』の出発を見届けたのは、ごく一握りの政府・軍の高官に限られた。

その中には、連邦政府大統領エイブラハム・ダグラスの姿もある。

 

「頼むぞ……」

 

彼が祈るような面持ちで口にした呟きを、臨席していた藤堂平九郎国防局長官の耳が拾った。

 

「彼らなら、きっと望ましい結果を出してくれる筈です。」

 

「あぁ。星間戦争など二度と御免だからな……」

 

大統領と言葉を交わし、藤堂は『ムサシ』に乗って発ったかつての部下、芹沢のことを思う。

十五年前。中央委員会の命令、民主主義国家の軍人の責務を忠実に守ったとはいえ、

芹沢の行動は結果的にガミラスとの全面戦争を引き起こすこととなってしまった。

その過去がある芹沢であればこそ、その反省から、新たな星外勢力・ボラー連邦に対して

有効な交渉の手を講じている―――藤堂は、白色彗星戦役時の芹沢の活躍から、そう勘案する。

 

防衛軍長官時代の彼の未来視(じじょう)を知らない藤堂は

暗空の彼方に消えた『ムサシ』に、同艦に乗る芹沢虎鉄に期待の眼差しを注ぎ続け、

それから再び、ダグラス大統領へ語りかけた。

 

「……極東管区は今、暗い空の下ですが、もう少し経てば夜が明けます。

 地球の未来にも同じように、ボラーとの和平という夜明けを外交団がもたらすでしょう。

 そのために必要な準備を、地球連邦(われわれ)は整えたと確信しています。」

 

「そうだな……そう信じるとしよう」

 

 

ダグラス大統領と藤堂国防局長官、

かつて『呉』と呼ばれた地域に建設された、防衛軍の宇宙軍港に立つ二人。

 

彼らの頭上に広がる未明の空は、黎明にはまだ遠く、星月の光も差していなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一方、大統領らが出発を見送った、外交団を乗せた宇宙戦艦『ムサシ』は

極東管区の地表よりも一足早く、恒星の光を一杯に浴びている。

 

地球上の航路管制局の誘導を受けつつ、

地球重力圏外に設定した星系外へのワープを行える空間に歩を進めるヤマト級宇宙戦艦二番艦。

『ムサシ』が現在航行しているのは、普段なら地ガの宇宙商船なども多く航過する航路だが、

事前に政府と軍が規制をかけているため、『ムサシ』周辺に艦影は全く見られない。

 

「月軌道の航過まで一時間。ワープ予定時刻に変動ありません」

 

「よろしい」

 

同艦の第一艦橋に詰める幹部クルーの間でも、重要任務ゆえの緊張感が滾っている。

『ムサシ』の航海長・副長を兼務する自見壮介少佐が報告する声も、

同艦長・北野誠也中佐(『ヤマト』戦術長北野大尉の実兄)が応じる声も、共に硬い。

 

(―――流石に皆、気負わずにはいられんか。)

 

北野中佐は自分も"そう"であることを自覚しながら心中で呟くと、

視線を下ろし、機械仕掛けとなった自分の片腕をまじまじと見つめる。

艦長服に包まれて人工物の代替部位は見えないが、生身と異なる感覚が、

確かな"喪失"を彼に再認識させた。

 

(交渉が全てを左右する訳でもなかろうが……しくじれば、また誰かがこうなり得る)

 

白い手袋に包まれた手を握ったり開いたりして、思索に浸る北野。

かつてのガミラス戦争時、火星沖海戦による戦傷で彼の半身は機械仕掛けの義体と化した。

もし、交渉が不首尾に終わるなどしてボラー連邦との関係構築が失敗すれば、

最悪の場合同国との星間戦争もあり得る。

そうなれば、北野と同じように多くの地球人が傷つき、斃れることになる―――。

それを思えば、ボラーとの交渉とそれに伴う任務に携わる人間が緊張するのは当然の事だ。

 

(……だが、当の外交団は見た限り、そこまで緊張していないようだ。

 流石に交渉役に選ばれるだけはある、外交のプロということか。

 それとも、何か楽観的になれるような情報でも有しているのか―――)

 

北野は、地球政府からボラー連邦との国交開設の交渉につき全権を委任された外交団が

『ムサシ』に乗艦した時のこと、諸々の折衝で彼らと顔を合わせた際の事などを思い出し、

その特異性について考えを巡らせた、そんな折。

 

 

ちょうど『ムサシ』が月軌道に達しようとする頃、第一艦橋のレーダー席に座る、

同艦の船務長を務める女性士官・星名百合亜中尉の新たな報告が艦橋内に響き渡った。

 

「前方3万に艦影! 識別信号―――我が軍の巡洋艦『コルドバ』!

 ……防衛軍司令長官旗を掲揚しています!」

 

「キンメル長官御自らお見送りとは……当然ではあるが、期待されているようだな」

 

北野艦長は、外交団が乗艦前に行っていた簡素な出発式にも

地球の最高責任者・ダグラス大統領が出席していたことを思い出しながら呟く。

 

宇宙戦艦『ムサシ』の遥か前方にただ一隻現れたのは、

地球連邦防衛宇宙海軍の数の上での主力とも言えるエディンバラ級宇宙巡洋艦。

だが、その艦は只の巡洋艦ではなく、その特殊性を知る北野中佐は

同艦が現れたことから瞬時に防衛軍統括司令長官の意思を悟ったのだ。

 

 

エディンバラ()級宇宙巡洋艦『コルドバ』。

地中海管区に艦籍を置くこの艦は、宇宙戦艦『ヤマト』『ムサシ』と同じく

防衛軍司令部直轄の特務艦で、しかもヤマト級戦艦のような外交任務艦ではなく

地球防衛軍統括司令部の移動本部―――即ち、地球防衛艦隊総旗艦である。

 

『コルドバ』は2203年、旧第三艦隊の一艦として白色彗星迎撃作戦に参加し

その総仕上げとなる彗星動力炉破壊に際して波動砲船団(コンボイ)を護衛中、

被弾した彗星帝国軍の巨人爆撃機パラノイアの特攻から旗艦『アキリーズ』を庇い

艦後部に体当たりを受けて、三番主砲塔脱落など大損害を負いながらも生き延びた。

 

戦後、軍縮という風潮もあり、『コルドバ』は廃艦処分が検討されていたが、

当時の防衛軍統括司令長官タナカ大将の発案もあり、損壊した後部を改造し

通信機能を強化・司令部機能を付与することで防衛軍司令部専用の旗艦として

生まれ変わらせたのである。

 

そのため改造後の『コルドバ』は、艦後部に増設され艦橋と半一体化した、

山のように盛り上がった大規模な司令部設備が特徴となり、

将兵からは「駱駝のコブ」と綽名されていた。

 

 

そんな地球連邦防衛軍の旗艦は、外交団を見送るため同艦の針路上で停止しており

宇宙戦艦『ムサシ』は『コルドバ』を追い越そうとする形で接近していく。

 

『コルドバ』と、その後部にある特徴的な司令部施設「駱駝のコブ」の姿が

外交特務艦の第一艦橋から小さく見え始めるころ、

『ムサシ』通信長・柏木紗香中尉が北野へ振り返り、報告した。

 

「『コルドバ』より電文!

 ―――『貴艦の航海の無事と、交渉の成功を祈る』とのことです!」

 

北野艦長が推察した通り

『コルドバ』艦上に居るであろうウォルター・I・キンメル大将ら防衛軍司令部は、

外交団とその乗艦『ムサシ』の活躍に期待している、という激励の電文を送ってきた。

返信はいかがしますか、と問う柏木通信長に対し、北野は―――

 

「―――"我、本分を全うす"と返電せよ」

 

『ムサシ』艦長の身では、バーナード星までの航海はともかく

国交開設交渉の成功までを確約することはできないが、

それでも、自分たちに課せられた使命については最大限に果たして見せる――

そんな意をこめて、柏木中尉に防衛軍総旗艦への返信内容を伝えた。

 

 

「総員『コルドバ』に、キンメル防衛軍司令長官に対し、敬礼!」

 

激励電文に対する返電の後、『ムサシ』が『コルドバ』を追い越すにあたり、

北野『ムサシ』艦長は、第一艦橋の幹部乗員と、手空きの乗員に命じる。

 

「駱駝のコブ」に居ると思われるキンメル大将に敬礼が届いたかは不明だが、

『コルドバ』乗員からも、旅立つ艦に対し敬礼が行われる様を見ることができた。

そんな見送りを受けつつ、『ムサシ』は加速し、ワープイン空間へ向け前進を続ける。

 

(確かなことは言えないが……やれることをやるまで、だ)

 

その艦長席にて身を沈める北野誠也中佐はまた、自身の義手を見つめながら

防衛軍のトップに返した電文内容を、自身に言い聞かせるように反芻する。

その脳裏には、『ヤマト』で勤務する弟・哲也や、

『ムサシ』乗艦前に防衛大学校で教鞭を振るった教え子たちの顔が浮かび上がるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

交渉に先立つ1月下旬、地ガ側の国交関係構築についての要望やボラー側が求めた

両国についての情報(のうち明かせるもの)は既に書簡としてボラー側に送られていた。

 

地球外交団は2月初旬にプロキシマ・ケンタウリ恒星系の植民惑星『シャンバラ』で

ノエンラート元外務相、エリーサ・ドメル未亡人らガミラス側外交団と合流し

両国で擦り合わせた交渉方針の再確認を行った後、交渉場所であるバーナード星へ向かった。

 

その一方、ボラー側外交団は………。

 

 

地球時間西暦2206年2月1日、

ボラー連邦軍不明勢力(バルメーダ)調査艦隊が地球・ガミラス艦隊と初接触した宙域。

同宙域には、ボラー軍調査艦隊と地球軍第八任務部隊、ガミラス軍接触派遣艦隊が、

当座の地ガ・ボラー間連絡のため、ローテーションしながら展開を継続しており、

三国間の対話チャンネルの任を果たしていた。

 

そんなボラー軍艦隊の旗艦で、

外交チャンネルのボラー側臨時責任者である艦隊司令テヴァン・マガロク中将の乗艦である

大型戦艦『ボルボガフ』の艦橋で、同艦の観測オペレーターが報告を発した。

 

「後方2000に、跳躍解除反応!」

 

「来たか。」

 

「定刻通りですな……」

 

報告を受け、マガロク提督はぼそりと呟き、旗艦艦長キョードル・ガンプキン大佐は唸った。

『ボルボガフ』艦橋上部に設えられたモニターは、ボラー艦隊の後方空間、

ワープアウト反応が検知された座標の映像を映し出す。

何もない虚空に突如、(ヒビ)のような光が灯り、空間と亜空間の境界が割れるように砕け散る。

そうした空間波紋は計五つ生じ、そこから五隻のボラー軍艦艇が出現した。

 

「航宙母艦『ラブロコフ』及び護衛艦、予定ポイントに現出!」

 

ワープアウトしたボラー軍小艦隊の陣容は、

『ラブロコフ』と呼ばれたガノンダ級空母を中心にクロトガ級・アマンガ級戦艦が各二隻。

それらは『ボルボガフ』率いるボラー艦隊に合流するべく、前進を続けていた。

 

マガロクは手元の操作盤(コンソール)を叩き、映像通信画面(ウィンドウ)を出現させる。

そこには、艦隊政治将校ヴィルキ・ボローズの強張った面持ちが映し出された。

背景にあるのは『ボルボガフ』艦内の小型艇格納庫である。

 

「ボローズ政治将校、移乗用意はできているか」

 

『ハッ、準備は完了しております』

 

ボローズは緊張を押し殺すべく軽く息を吸ってから応答する。

その背後では政治将校付き秘書官チェフ・レバルズが心配げに彼を見ている。

 

「間もなく『ラブロコフ』が到着する。そろそろ輸送艇に乗ってもらいたい。

 ―――貴官は調査艦隊全体の代表として、交渉団に随行するのだ。

 くれぐれもよろしく頼むぞ。」

 

『は、ハッ!』

 

艦内連絡が終わり、通信回線は閉じられる。

地球・ガミラスとの接触前に見せていた威勢はどこへ行ったのやら、

政治将校ボローズはすっかり精神的余裕を失ったように見えた。

そんな狼狽半ばの彼の顔を横から見ていて、これまでボローズから口うるさく小言を

言われていたらしいガンプキン艦長は気をよくしたのか、薄ら笑いを浮かべる。

それから、表情を真面目なものに戻し、マガロクへと口を開いた。

 

「しかし、意外でしたな。本国がここまで早く動くとは」

 

「うむ、それだけ中央は地球とガミラスのことを重視しているのだろう。

 最高管理委員長閣下のお考えは私などには到底想像もつかぬが、

 今回の人選を見るに、"書記官閣下"の御意向もあるのかもしれんな。」

 

マガロクは旗艦艦長にそう返すと、情報スクリーンを立ち上げた。

そこには、ボラー本国中央委員会から派遣されてきた交渉役の顔ぶれがあり、

その筆頭として、交渉団長―――緑肌のボラー人女性が映っている。

 

「マージヤ・トロンジョワ政治委員閣下。

 リュドミ・ダーリヤ書記官閣下の懐刀と言われる、派閥の重鎮。

 かの方を派遣なさったということは、

 ダーリヤ閣下が地球とガミラスを重視していることの表れと言えましょう。」

 

ガンプキンも、提督が言わんとしていることに頷く。

 

先ほどワープアウトしたボラー軍航宙母艦『ラブロコフ』に乗る使節団の面子は、

少なくともボラー人将兵らに永久管理機構が本腰を入れて

地球とガミラスという未知といっていい二つの勢力に対して交渉せんとしている、と

印象付けるに値するメンバーであった。

 

その一方で、口には出さないが、マガロクはもう一つの可能性について考え至っていた。

 

(……あるいは、我々の想像以上に本国の事態は切迫しているのかもしれん。)

 

『ボラー連邦中央は地球にもガミラスにもそれほど関心がないが、

 より一層重要な問題を内部に抱え、その解決に注力するため外患となり得る存在を

 なるべく早く除去・安定化させる必要に駆られている』―――という可能性。

だが、この時点では、あくまでマガロクの想像の域を出ない。

 

やがて、現地・オリオン腕臨海で得られた情報を交渉団と共有する任務も兼ねた

連絡要員にマガロクが選んだ、政治将校ボローズ(とレバルズ秘書官)が乗った輸送機が

指揮戦艦『ボルボガフ』から交渉団の乗艦『ラブロコフ』へ飛び立った旨が

マガロク提督に伝えられ、彼の意識は答えの出ない思考から軍務へと向けられる。

 

調査艦隊旗艦を発進した輸送機が、要人を乗せた航宙母艦に収容されたのを

マガロクらが確認してから数十分後、ボラー軍の小艦隊は地球軍艦に先導され、

地ガ・ボ三国が初接触を果たした記念すべき宙域から離れ、

交渉予定地の惑星へと向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時に、西暦2206年2月16日。

 

銀河系オリオン腕・地ガ共同開発宙域内の植民惑星バーナードⅭ(ガミラス名:バルナーテ星)、

その入植市街中心部に位置する官公舎の大会議場を舞台として、

地球連邦・共和政ガミラス・ボラー連邦の三か国から派遣された外交団が一堂に会し

地ガ・ボラー間での国交開設・今後の関係構築のための交渉が幕を開けることになった。

 

地球側代表は、クロード・ヴェルニーとチャールズ・C・エバット、新旧二人の連邦外務局長官と

白色彗星(ガトランティス)戦役を地ガ同盟の勝利に導いた立役者・"防衛軍の虎"芹沢虎鉄退役元帥。

 

ガミラス側代表には、地球との終戦・国交開設やマゼラン銀河植民星の分離独立運動への対処に

際して外交面での最高司令官として辣腕を発揮した前外務相コスタン・ノエンラートと、

外交官の娘に生まれ、民主化後のガミラスの再編を水面下の非公式な外交という面から支えた、

かつてのガミラスの名将エルク・ドメルの伴侶エリーサ・ドメル。

さらに軍事面でのオブザーバーとして、同国防軍の銀河駐留軍団参謀長を務める

ギュンテル・クライツェ少将が二人の下につけられた。

 

対するボラー側代表は、ボラー連邦の事実上のNo.2であるリュドミ・ダーリヤ書記官の子飼いで

自身もまた女傑と称される政治委員、マージヤ・トロンジョワと、彼女を補佐する二人の部下、

技術面での助言役グローキ・ボヤズギーと、軍事面での助言役ヴァルサ・ドンズラフ。

 

 

「翻訳機に問題はありませんか」

 

「えぇ。地球言語も、ガミラス言語も、問題なく翻訳されています」

 

「―――では、交渉を始めましょう」

 

 

この瞬間、天ノ川銀河・オリオン腕方面情勢の行方は、このテーブルに委ねられたのだった。

 

 

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