宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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活動報告の欄でお知らせした通り、
これまで・これからの本作の設定の一部は公式設定とかなり乖離・矛盾する可能性があります。
そのため、その点に関しては「本作の舞台は公式世界線のパラレル世界」であることを
ご理解していただけるとありがたいです。
お読みいただく場合、ご留意ください。

という訳で、本作におけるガルマン星の双子星バルパラ(3199の衛星スターシャに相当)は、
公式では衛星となりますが、「猛虎世界線(バース)」においては惑星ということになります。
あしからず。



第三章 巨雄動乱
第二十一話 均衡点


 

【第21話】

 

 

 

時に、西暦2206年4月下旬。

天ノ川銀河系オリオン腕内、地球・ガミラス共同開発宙域に在する

植民惑星バーナードCで行われた、地ガ・ボラー連邦間国交開設交渉から2カ月弱。

地球の極東管区にある首都では、とある式典が挙行されている。

 

 

『それでは、この度我が地球を離任されるミューラー大使から、

 一言ご挨拶を賜りたいと思います』

 

進行役によるアナウンスの後、

大統領府の催事ホールに設えられた壇上の席に座っていた

共和政ガミラスの駐地球大使 メフィルス・ミューラーが立ち上がり

万雷の拍手の中で壇上中央に置かれた講演台へと移動し、

台に置かれたマイクを微調整してから、語り出した。

 

「ご紹介に預かりました、

 共和政ガミラスの駐地球全権大使を務めさせて頂いております、

 メフィルス・ミューラーであります。―――」

 

 

この日、地球連邦大統領府では、

ガミラスの地球大使メフィルス・ミューラーの離任に伴う式典が開かれていた。

ミューラーの後任には、ボラー連邦との国交開設交渉にガミラス代表として臨んだ

前外務相のコスタン・ノエンラートが着任する予定である。

 

大統領府催事ホールには、地球各管区から派遣された報道陣が集まっており、

地球とガミラスの終戦後、安保を始め各種の条約締結など両国関係の構築に努めてきた

「地球人に最も名を知られたガミラス人」が、

地球を離れるにあたって何を語るのかを聞き逃すまいとしていると同時に、

離任式典の光景は地球全土にて生中継されている。

 

 

そんな中継映像を、ミューラー直属の部下である二人―――

ガミラス駐地球大使館付武官長であるクライクァルス・ノルティオ大佐と、

同大使館付参事官であるローレン・バレルは、大統領府内の別室にて見守っていた。

 

「この地に赴任して足掛け四周期、

 一惑星の大使としてはなかなか長い部類に入りますな。」

 

地球(テロン)は極めて重要なパートナーとなる惑星です、

 さしておかしい話でもないと思いますがね」

 

「……しかも、ガミラス民族の存亡を左右する鍵となる星でもありましたからな。

 本国がミューラー大使と貴方を地球に送り、長く留め続けたのは、

 そんな星との結びつきを維持し、移民計画へ協力させるのを円滑にするために、

 貴方がたの組織が裏で手を回したのもあったのでしょう?」

 

バレルが、離任式が映されるモニターからノルティオ武官長の顔へ、視線を転じた。

対してノルティオはモニターを見つめたままだが、バレルの言葉に応えるかのように

口の端をわずかに吊り上げ、薄い笑みを見せる。

 

「……そのお陰で、自分は地球大使になり損ねた、と?」

 

「別にそんなことは思っていませんが……」

 

バレルも、ノルティオも、

地球大使館に着任した当初は、両者とも腹に一物秘めていた身であった。

それも、片やデスラー体制復活を目論む反動分子を追う内務省保安情報局の捜査官、

片や追われる側・水面下で進むガミラス人滅亡の危機を回避するため暗躍した

極秘組織『救国軍事会議』の潜入工作員という、互いに宿敵ともいえる立場で、

グアム島の大使館を主な舞台として、暗闘を繰り広げたのである。

 

結果はノルティオら救国軍事会議が勝利し、

彼らが目論んだ通りに事は進み、滅びゆくガミラス星からの移民計画は

地球連邦の援助を得て、成功裏に終わった。

救国軍事会議の指令を受けたノルティオと、彼に協力したミューラーによる

対地球外交工作が果たした役割は、決して小さなものではなかったと言えるだろう。

 

それを踏まえノルティオは、当初ガミラス内務省__バレルの古巣が計画していた

バレルを地球大使に据えて、強力な諜報網を天ノ川銀河系に構築する構想が、

デスラー派の意を受けたガミラス外務省の反対で頓挫したことを蒸し返し、

バレルを皮肉ったのだ。___もっとも、すぐに訂正を入れたが。

 

「ふふっ、冗談ですよ。」

 

「………」

 

人を食ったノルティオの態度に、さしものバレルも閉口する。

そんな相手の心中を慮ったのだろうか、ノルティオは神妙な口調で語り出す。

 

「……つい先日辞令が下ったのですがね、私も地球を離れることになりました。

 後任は、サレザー警備艦隊を指揮していたワルトハイム大佐になります。」

 

「!」

 

思いがけないノルティオの告白に、バレルは目を丸くする。

眼前の軍人の性格なら、そうしたことをこんな場面で言いそうにはないものだが―――

意外の感がバレルの胸中に沸き立つ。

 

「ミューラー閣下と共に、地球を出立せよとのことです。

 まぁ、彼とは長い付き合いです。予想通りではありましたがね」

 

そんなバレルを他所に、深々とソファに体を預け、ノルティオは語り続ける。

その意図を測りかね、バレルはつい怪訝な表情を浮かべてしまった。

ノルティオはそれを見て取ったのか、苦笑を交えて胸の裡を明かす___

 

「らしくない、とお思いでしょう?

 しかしこれでも一応、地球(テロン)との友好関係のために働いた身ですから、

 この先の両国関係については思う所があるんですよ」

 

「……と、申されると?」

 

バレルが問いを重ねると、この会話で初めてノルティオがバレルに顔を向けた。

 

「私も、ミューラー閣下も地球を去る以上、

 これまでの大使館が交友を持った相手と共有した情報、話題、

 そして関係を直接、肌感覚で知っているのは貴方だけになる訳です。

 我々からも後任の大使や武官長に、そうした情報は出来る限り共有するよう

 努力しますが、頼みになるのは地球に残るバレル参事官、貴方なんです」

 

「……!」

 

バレルにとり驚くべきことに、ノルティオは言外に「後を頼む」と言ってきたのだ。

前歴が前歴ゆえに、どこまでが彼の真意なのか、という疑いは拭えなかったが、

情報機関に属した経験のあるバレルから見ても、

今のノルティオが心にもない事を言っているようには思えなかった。

 

そうしてノルティオは、ニヒルな笑みを浮かべて続けた。

 

「―――色々とありましたが、

 ミューラー大使や貴方と共にあの島で働くのは、中々楽しかったですよ」

 

「……それは、どうも」

 

これまでノルティオが口にするとは思えなかった台詞を聞いて面食らいながら、

バレルは何とか応答する。

そんな中、ノルティオが持っていたタブレット型デバイスの画面が光り、

通信が入ってきたことを報せた。

 

「……では、私は一旦失礼します。」

 

待機室では通信に差し障りのある相手だったのか、ノルティオはそう言うと

デバイスを手に取って立ち上がり、足早に部屋を後にしていく。

 

そんな武官長の背中を見送ったバレルが再びモニターに目を転じると、

丁度ミューラーの挨拶が終わるところであった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ミューラー大使の離任式典の中継映像は、

当のガミラス駐地球大使館が置かれているグアム島でも見ることができた。

 

ある人は街頭の大型モニターで、ある人は手持ちの個人デバイスの小さな画面で。

グアムの"ガミラス租界"に居住するガミラス人・地球人のうち少なからぬ人数が、

島内で最も権威ある地位に就く男が、地球で最後に臨む公的行事の様を目にしている。

 

グアムのガミラス大使館から少し距離を置き、島の平野部に建設された

ガミラス租界都市の一角にある、地球に駐留する共和政ガミラス国防軍将兵の

慰安を目的に建てられたラウンジホールもその例外ではなかった。

 

高級将校向けとして、周囲と隔離され殆ど別室と化している特等席では、

その席に相応しい将官であることを示す緑色の軍服に身を包んだ二人の紳士が、

シートに腰かけて上等な料理を楽しむ傍ら、

テーブルの横に設えられたモニターで大使離任式の映像を見ている。

彼らは昼食を食べながら、面会を希望する"とある客人"の到着を待っているのだ。

 

 

彼らがメインディッシュを食べ終わってから少しすると、

給仕役の機械人形(ガミロイド)が現れ、彼らにデザートを供した。

 

「『"元帥の実"の氷菓』デ ゴザイマス」

 

テーブルに置かれたのは、赤紫色の外皮・山吹色の果肉の果物があしらわれたソルベ。

紳士の一方、"中将"の階級章を持つ壮年が、感嘆の声を漏らした。

 

「ほう、"ゼルグーデンフルーツ"ではないかね。

 ―――まさか地球(テロン)でお目にかかれるとは。」

 

「閣下がお好みだと伺いましたので、こちらで手配させていただきました」

 

対して、もう一方の紳士___

"少将"の階級章を持つ口髭の男が、優和な口調で語った。

 

"中将"は微笑を浮かべて頷き、皿のデザートを金属製の匙で掬い、口へ運ぶ。

すると、その相貌には満足げな表情が浮かび上がった。

 

 

「―――うむ、美味い。

 国家元帥閣下とは色々とソリが合わなかったが……

 食の嗜好に関してはその限りではなかったのでな。

 気遣いに感謝する、()()()()()()()。」

 

「いえ、お喜び頂けたなら何よりです、()()()()()()()()。」

 

二人は、第一四空間機甲軍団参謀長ギュンテル・クライツェ少将と、

ヘルム・ゼーリック空間機甲師団艦隊司令官ゲラーフ・ヴァム=シュパー中将。

他ならぬ共和政ガミラス国防軍・銀河駐屯軍団の大幹部たる上級指揮官である。

 

前者は、2203年の白色彗星戦役に艦隊指揮官として参加した猛者で、

最近ではバーナード星で行われた対ボラー交渉でガミラス側外交団の

軍事面でのアドバイザーを務めたことが記憶に新しい。

 

後者は、今年の2月に天ノ川銀河系に到着したガミラス国防軍の中でも

貴族階層出身者が多くを占める『中央軍』の主力部隊と言える、

ヘルム・ゼーリック(以下HZ)空間機甲師団艦隊の指揮官であり、

貴族私兵の集まりという面が強い中央軍の中では数少ない実戦派の軍人で、

国防軍航宙艦隊総司令部からも一目置かれるほどの手腕を有している。

 

もっともシュパー将軍は、実力に伴うその声望を他の貴族軍人に妬まれたことと、

宙雷戦隊を軸とする空間機動戦術を信奉しており大艦巨砲主義を掲げていた

故ゼーリック元帥と折り合いが悪かったことから、(偽)デスラー独裁体制下での

中央軍内では孤立気味で、重要ではあるが辺境に置かれた航路防衛拠点基地という

僻地の司令官に飛ばされてしまい、手腕を発揮する機会に恵まれなかった。

 

だが、2199年の宇宙戦艦『ヤマト』の出現に伴う動乱によって

ゼーリック国家元帥が横死し、シュパーを敵視していた国家元帥(ゼーリック)派閥の貴族が

デスラー親衛隊に粛清されたこと、その()()()独裁体制も崩壊したことで

シュパーは民主政府から残された中央軍戦力の統制を任された貴族軍人の一人となり

中央軍の基幹戦力であるHZ空間機甲師団を再編、指揮下に置いた。

 

その後は、白色彗星戦役の激化に伴い、

天ノ川銀河での天体利権を狙うガミラス貴族層の要請を受けたこともあって

同師団を率いて銀河間空間航路の要衝であるバラン星へ赴き、

戦中・戦後にかけて、決して練度が高いと言えない師団艦隊の練成に努めていた。

 

そして2206年現在、新たに浮上した仮想敵・ボラー連邦への抑えの一翼として

HZ空間機甲師団艦隊は銀河系オリオン腕へと進出。

シュパー将軍は師団艦隊の練成・補給・運用など各種の課題を

アクション将軍ら銀河駐留軍団司令部と協議するため、同盟国惑星(テロン)に訪れていた。

 

 

「サルマー茸といい、ロクロック鶏の肉といい、ニバダの乳といい、

 ゼルグーデンフルーツといい、メランの茶まで―――。

 本当に、嬉しい食材が多い。重ねて礼を言わせて貰いたい」

 

二人の将官はデザートを食べ終え、控えていたガミロイド給仕が手早く皿を下げて

惑星メラン産の茶葉で淹れたガミラス紅茶のカップを供する中で、再び口を開いた。

 

「いえいえ。

 ――こうして上等な食材が手に入りやすくなったのは、彼らのお陰です。」

 

シュパーの礼を受けたクライツェは、

給仕ではない"誰か"がやって来たのに気付いたように、視線をシュパーの背後、

特等席をラウンジの他のスペースと隔てている長い屋内プランターに空けられた

特等席への出入り口の方向へと向けながら語る。

 

やってきた人物―――若い女性の声が、クライツェの言葉を補足する形で応答した。

 

「―――ひいては、そうした通商が行える安全な航路を保障してくださる、

 お二方のような国防軍の皆様のお陰ですわ。」

 

シュパー将軍はその声と、植栽の合間から現れた姿から、来訪者の正体を察した。

 

「おお、ユノール嬢か!久しいな!」

 

「お久しぶりです、シュパーのおじさま。」

 

来訪者、ユノール・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵令嬢は華やかな笑顔で挨拶する。

彼女の叔父・養父であるセグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵と

ゲラーフ・ヴァム=シュパー中将(伯爵)は、同じ爵位ゆえ顔を合わせる機会も多く、

深い親交を持ったため、自然と令嬢ユノールも彼と顔見知りの関係になっていた。

 

クライツェ少将が語った通り、先ほどの料理に使用されていた

マゼラン銀河産の食材の数々は、彼女が経営する星間宙運企業によって

銀河系・地球(テロン)へともたらされており、彼らに地ガ交易の隆盛を窺い知らせる。

 

「なるほど、"会いたい人間"というのは君のことだったか。

 それならもっと早く教えてくれても良かったのだぞ?」

 

「ふふふ、申し訳ありません。おじさまのことを驚かせたくて。」

 

こうして旧知の二人は思い出話やツァインフェルテ伯爵の近況についてなど、

積もる話に花を咲かせ出し、クライツェは「ごゆっくり」と席を外した。

 

クライツェが特等席を仕切る植え込みの外へ出ると、

そこには伯爵令嬢の従者の姿がある。___金髪をした、若いガミラス人の男だ。

 

「クラウス・キーマン元少佐だね?」

 

「は……」

 

クライツェが彼に声をかけると、その男は軽く会釈を返す。

 

「すまないが、聞きたいことがある。中将とご令嬢が話している間、いいかね?」

 

「……私は構いませんが……」

 

唐突な提案に身構えながらも、その男、クラウス・キーマンは了承。

二人のガミラス人は特等席近くの空いた一般席に腰を下ろした。

 

 

 

「―――それで、話というのは何でしょうか?少将閣下」

 

「あぁ、そう畏まらなくてもいい。」

 

銀河駐留軍団の参謀長に呼び止められる理由が分からず、

すわ保安情報局の密偵をしていた頃の因縁か、と警戒するキーマン。

 

本来はガミラスの上院議員であるセグドル伯爵の議員秘書を務めている彼だが、

この時は叔父・セグドル伯爵からの助言で伯爵家が営む天体開発事業において

天ノ川銀河への進出強化を決め、その陣頭指揮のため地球にやって来た

伯爵令嬢ユノールに付き従い、地球へやって来ていた。

(元々ユノールの補佐役を務める伯爵家軍事顧問のデーツァー・ヴァタルは

所用で伯爵に付いており、議員秘書としては休暇を与えられた格好になる。)

 

 

「聞きたいのは、地球時間で去年の半ば、

 地球の駐ガミラス大使館の武官に任じられた君の"戦友"、コダイ中佐のことだ。」

 

クライツェ少将は、単刀直入に本題を切り出した。

彼が口にした人名に、キーマンもピクリ、と反応する。

 

「彼はそれまで、宇宙戦艦『ヤマト』の艦長を務めていたそうだが、

 サレザーでの"例の事件"の後、乗艦の航海の半ばで船を降り、

 大使館付になっている。―――それがどうにも気になってね。」

 

「それで、コダイと面識のある私に、彼の為人を訊こう、と。」

 

キーマンとしても話を掴めたのか、落ち着きを取り戻してクライツェに答えた。

クライツェは小さく頷き、話を進める。

 

「二日前に君から、伯爵令嬢と中将閣下が面会できる席を整えてほしい、と

 連絡を貰った時から、君に尋ねようと思っていた。

 『ヤマト』のテレザートへの派遣航海の際に、君とコダイ中佐が

 親交を持っていたという話は、バレル参事官からも聞いていたからな。

 そしてそれは、間違いなかったようだ。

 ―――"コダイ"と、呼び捨てにするくらいだからな」

 

「……!」

 

キーマンは、密偵時代はしなかったであろう、

思わず自分の口をついて出た言葉を反省するとともに、眼前の相手が

そんな言動一つを見逃さない油断ならない相手であることを悟り、緊張する。

 

「君の所感で構わない。彼がどのような人物か、簡単に教えてほしい」

 

銀河駐留軍団の参謀長は重ねて、現在は新ガミラス星の地球大使館に籍を置く

若き地球軍人の情報を、かつての戦友に求めた。

対するキーマンは、クライツェがコダイに対して何らかの疑いを持っていることは

口ぶりから察したが、他に答えようもないため、率直な私見を述べることにした。

 

「コダイ中佐は、あくまで2203年頃の、私の所感ではありますが―――

 実直で有能な、同盟国軍の軍人でした。

 地球軍の教育総監ヒジカタ大将が、将来を嘱望するような男です。

 感情を表に出してしまうような点もありますが、好感の持てる人間です」

 

「……そうか」

 

クライツェの反応を窺い、キーマンの顔には冷や汗が滲む。

だが、相手の口から続いて出たのは、意外なものだった。

 

「……地球軍の未来を担わせても良いような男、か。

 そんな雄敵を相手に斃れたというなら、弟も浮かばれているだろう―――」

 

「!!」

 

ここに至りキーマンは、対面している参謀長についての情報を思い出し、

自分の配慮の至らなさを恥じた。

ギュンテル・クライツェ少将の弟、カリス・クライツェ大佐(死後特進)は

七色星団海戦において戦死しており、直接彼の乗機を撃墜したのは

当時の『ヤマト』戦術長ススム・コダイであることは、

両軍内で極秘裏に公刊された戦史で明らかになっている。

そんな相手に自分は――と、事情を察したらしいキーマンの様子を見て取り、

クライツェは急いでフォローを入れた。

 

「あぁ、すまんすまん。気を使う必要はないのだよ。

 弟は軍務を全うして立派に死んだ、その点については何の遺恨もない。

 ただ、機会があったからその相手のことを知ってみたいと思っただけでね。

 まぁ、バーガー少将に聞くのはさすがに憚られたからというのもあるが……」

 

「そう、ですか……」

 

クライツェの真意を知り、キーマンは胸の裡で安堵の溜息を漏らした。

対して当のクライツェは満足したとばかりに微笑を浮かべて立ち上がり、

見事なガミラス式敬礼をキーマンに捧げた。

 

「ありがとう。これで私は失礼させてもらう。

 まだ彼らの話は続くようだから、君も何か頼んでいくといい。私の奢りだ。」

 

「――は、ハッ。ありがたく頂戴します」

 

釣られて思わず、キーマンも立ち上がって敬礼を返す。

クライツェはニッと笑って踵を返し、ラウンジの外へ向けて歩き去っていく。

 

それからキーマンが特等席の方へ振り向くと、クライツェが言い残した通り、

ユノール令嬢とシュパー将軍はまだまだ話に花を咲かせているようだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

同じ頃、大マゼラン銀河中枢に位置するラドン=エジラ恒星系に置かれた

共和政ガミラスの首都惑星・(ノエン)ガミラス星の地球大使館でも、

外交大使の交代がなされようとしている。

既に諸々の式典や事務手続きは完了されており、後は新大使が席に着くのみ。

新旧二人の駐ガミラス大使は今、大使館の大使執務室で相対していた。

 

 

「……しかし、まさかイスカンダルの正体があんな恐ろしいものだったとは……」

 

その新任の駐ガミラス大使、レイモンド・J・マイネッティ前外務次官は

前任者と極秘事項である「イスカンダルとガミラスの真実」について談義している。

救星の恩人と信じていたイスカンダルの過去の非道と欺瞞を知って胸を痛める

マイネッティだが、前任の大使である壮年の男は冷淡に切り捨てた。

 

「―――建前に使うのでもなければ、外交に幻想は無用ということさね。

 着目するのは、我が地球にとり『どのような利用価値があるか』の一点で良い。」

 

もうすぐマイネッティに大使の席を明け渡し、

彼が乗ってきた外交特務艦『ムサシ』で地球へ戻ることになっている

東亜管区出身の前大使の装いは、既に出立に備えたものだ。

卸し立てのように綺麗で清潔な意外に特筆すべきことのないスーツ姿だが、

一点だけ、丸みを帯びたレンズのサングラスがチャームポイントのように目立つ。

 

その奥から、長らくガミラスとの()()()外交を支えてきた切れ者の鋭い視線が、

三つほど年下の後釜・マイネッティへと向けられる。

 

「だが、それでも……と言えるなら、キミは()()とウマが合うかもしれない。

 私の場合は、コダイ中佐たちとは考えの相違が際立って仕方なかったがね。」

 

「………」

 

冷気を帯びたかのような剣呑な雰囲気に、思わず息を呑むマイネッティ。

今後自身が担う職責の重大さを理解させるものであった。

 

だが次の瞬間、前任者から向けられるプレッシャーは急に消え失せ、

代わりに狐面を思わせる、張り付けたような笑みが前大使の相貌に現れた。

 

「あぁ、そういえばマイネッティ氏も、地球の北米アラスカ州に建設される

 ボラー連邦の大使館の話は聞き及んでいると思いますが……」

 

「あ……はい。

 大使はマージヤ・トロンジョワ政治局員、参事官にヴィルキ・ボローズ氏、

 メンバーの大半は例の国交開設交渉に出席した人間のようで……。」

 

唐突な話題の切り替えに、面食らいながらも反応する新任大使。

マイネッティの即応力を試すテストのつもりで、合格だったのか、

前任者はくつくつと笑い出しながら後任の大使に語って見せた。

 

「ガミラスの新任大使も、例の交渉に参加した前外務相だそうじゃないですか。

 これではまるで、この先の対ボラー外交はバーナード星での交渉の延長戦だ。

 参加しなかった私がついていけるか、不安で仕方ありませんよ、フフフ……」

 

その言葉とは裏腹に、彼の顔には全く気後れの色がない不敵な笑みが浮かんでいる。

 

 

強大な二つの星間国家・ガミラスとボラーの間にありながら

不気味な程の平穏を保つ星・地球で、今後繰り広げられる予定の熾烈な外交戦線に

この男・黄潤李(ホワン・ユンリー)は喜び勇んで飛び込まんとしていた___

 

 

 





オリジナル設定紹介

・サルマー(たけ)
 傘の形が戦車(ガミラス語:サルマー)の砲の先端の形に似ていたことから命名。
 決してパンツ(サルマタ)に生えるからという理由ではない。
 コリコリとした食感に、ニンニクにも似た独特の風味が特徴。

・"元帥"の実
 ゼルグーデンフルーツとも。地球では『ベリーメロン』の名で少数が流通。
 国家元帥ヘルム・ゼーリックの領地であるジャングル惑星で発見された。
 生育に適した環境の維持など、栽培が難しいため高価である。
 ベリーのような爽快な酸味に、メロンのような芳醇な甘味を併せ持つ。
 故ゼーリック元帥曰く「吾輩の心を掴んだ良いメロン」とのこと。

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