宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第22話】
時にデスラー紀元110年、地球時間換算で西暦2206年5月2日。
大小両マゼラン銀河に跨る星間国家『マゼラン連邦』こと共和政ガミラスの首府、
ラドン=エジラ恒星系第三惑星・
ガミラス星に代わる国家中枢として改造されたゴア星はかつて、
サレザー大管区の食糧事情を支える農業プランテーション天体だったため、
惑星の首都たる
そんな星間国家が誇る中央都市の一等地には、崩壊したガミラス星から移設された
最高級ホテル『エーリク・ヴァム=デスラー記念パレスホテル』が存在。
都市の建造開始から一周期以上が経過して開発が一段落した新バレラスの、
かつての帝都に引けを取らぬほどの壮麗な夜景を一望することができる
同ホテルの最上層VIP向けスイートルームは、とある客によって貸切られていた……
「――シュパー伯爵は壮健、か。
……まぁ、奴が伏せっている様子など想像もできんがな」
別室で行った、姪・ユノールとの恒星間通信を終えて一息つくのは
共和政ガミラス上院議会の貴族議員であるセグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵。
彼はニバダの革が張られた高級ソファに身を沈め、天井を仰ぐ。
呟いたのは、旧くからの顔馴染みである貴族軍人・シュパー将軍についてのことだ。
「かの御仁は美食家___しかも、健啖家であらせられますからな」
伯爵の向かいのソファに座る初老の男が、同意するように言う。
その男、ツァインフェルテ伯爵家軍事顧問デーツァー・ヴァタルも、
かつてはシュパー同様に「将軍」と呼ばれていたことがある、有能な軍人であった。
「で、お嬢は
脇道にそれつつあった伯爵らを本題に引き戻しにかかったのは、
ツァインフェルテ伯爵の警護役兼運転手を務めるグレメッツ・シュロク。
彼も元来は軍人、それも国防軍情報部の大佐というそれなりに重要な立場に居た。
シュロクに促された伯爵とヴァタルは気を取り直して、
遥か16万8千光年彼方に居る姪と連絡を取った本来の目的である
『今後の地ガ共同開発宙域経済の見通し』についての議論を始める。
「現地を見たユンとクラウス曰く、
「……確かに旦那の読み通り、
前外務相やドメル未亡人ら外交団は
共同開発宙域内の『経済活動が許可された天体』は拡大されましたが……」
「あぁ、まさか『近隣星間国家の存在と国交締結の公表』とセットだとはな……」
伯爵は、嘆息交じりの口調でシュロクの発言に応じる。
情報を振り返る意味も込めて、会話を継いだのはヴァタル。
「……確か、"ボラー連邦"でしたか。
天ノ川銀河系中心部にあり、国家領域は我がガミラスの3倍以上の超大国。
平和裏に国交を結べたとはいえ、最近の国防軍の動きを改めて見てみると
決して気の抜ける相手ではないことは確実―――」
「まったく……厄介な新要素が出てきたもんだ。
折角開発宙域の投資可能天体が外側に拡大されても、いつ敵に回るか分からん
大国との国境が近いとなると、どこの会社も入植希望者も及び腰になっちまう。
……まぁ、だからこそ政府は経済活動を制限していたのだろうがな」
ツァインフェルテは「俺の勘ばたらきも鈍ったもんだぜ」と大きな溜息をつき、
地球は北米管区・キューバ島産の葉巻タバコの紙箱に手を伸ばした。
そんな主人を他所に、シュロクは先輩格にあたるヴァタルに尋ねる。
「軍事顧問は、この先のオリオン経済がどうなるとお考えで?」
「うむ……。全てはボラーの動きにかかっているから確たることは言えんが、
今の状況が続くと仮定すると、当初の予想より遥かに緩やかに
新規に経済活動が許可された天体への民間進出が進む……といったところか」
「……戦争で投資がパーになりかねないリスクがある以上、そうなりますかね」
互いにローテーブルに置かれていた蒸留酒が注がれたグラスをとり、
ちびちびと口にしながら明暗分からぬ未来図を勘案する二人。
そんな彼らに、ツァインフェルテ伯爵は煙を吸い込んだばかりの口で告げた。
「だが、見方を変えれば大きなチャンスにもなり得ると思うぞ。」
「「!?」」
主人と仰ぐ伯爵の言葉に当惑して目を丸くする二人に対し、
ツァインフェルテは噛み砕くようにゆっくり、丁寧に語った。
「以前の予想より開発宙域への民間資本の参入ペースが遅くなるということは、
利権取得の競合相手が減る、という事でもある。素早く動けば、
魅力的な開発事業の受注を一気に手中に収めることができるということだ。」
「それに、我がツァインフェルテ開発社はガミラス屈指の天体開発業者、
そんな大手が気後れせずにオリオン腕開発宙域に投資をしたとなれば、
ある意味"保証"がついたようなもんだろう。
ガミラスや
自信に満ちた伯爵の言葉に説得力を感じたのか、唸るヴァタルとシュロク。
しかし同時に、「ただし」と前置きをして、
伯爵はこの説明が楽観的予測であることを留意するように付け足した。
「ヴァタルが言った通り、この話はガミラスと
そしてボラー連邦との平和が続くという前提に基づいている。
ボラーが戦争を仕掛けてくるか、ということについてばかりは予測ができん。
しかも、俺はこの前の予想でその"ボラー連邦"という新要素が浮上するのを
読めなかった以上、どこまでこの予測がアテになるかは分からん。」
「……ま、それは仕方ありますまい。
それに我々の予測は、あくまでユノール社長に助言するためのものに過ぎません。
最終的な判断を下すのは、お嬢様ご自身ですから。」
「現地の状況を肌で知っているお嬢が、旦那と同じ考えとは限りませんしね」
「そうだなァ……」
そうして、三人は再び煙草や酒で一息入れ、新たな話題へと移った。
口火を切ったのは、やはりシュロクである。
「宙運事業についてはどう考えます? 開発事業と同様ですかね?」
「大方はそうだろうが……伯爵の予測を反映した場合、
開発に伴う資材輸送や、産出される鉱物などの資源搬出輸送の受注は
我が社による開発天体のものだけではなくなるだろう。
相応の利益は見込めるように思える」
「もしも、ボラー連邦との通商が開始された場合、
オリオン腕宙域での事業の成果次第じゃ、
我が社が相応の部分を持っていける可能性もありますね」
「その伝手で、ボラーの辺境天体開発にお呼びがかかる可能性もあるかもな」
三人は明るい未来予想図を思い描く一方、その正反対の可能性に対し
どのような備えを講じるかについても考えを巡らせていた。
「万一ボラーと戦争になった場合は、購入した天体の各種利権を
おとなしく軍に明け渡す。下手にゴネるよりは心証がいいだろう。
補償してもらうにも、勝ってもらわにゃあ困るからな。」
「機械や資材などは、ガミラス星の惑星解体と同様に
失ってもそこまで痛くないものを優先して投入する、ということで」
一周期前、第一次サレザー事変であったような"天災"とはまた異なる、
戦争という"人災"のリスクを想定し、損害回避・補填の策を練る男たち。
その中で、伯爵は琥珀色の蒸留酒が入ったグラスを傾けて呟いた。
「―――とは言え、戦争など起こらんのが一番なのだがな」
「そのためにも、現地の軍には頑張って貰いたいものです。
侵略を防ぐのは何よりも、抑止力の存在ですから」
「元軍人らしい意見だな、デーツ」
「は……」
目を細めながら、信頼する懐刀である伯爵家軍事顧問を見るツァインフェルテ。
彼のアルコールとニコチンが回りつつある脳裏には、取引先や視察先で
よく目にする深緑色の艦体色をした宇宙戦艦の群れが浮かび上がっていく。
「……そういやぁ、辺境での
大マゼランでの艦隊演習に使う軍需物資を運ぶ船は、儲かったな。」
「―――今後の情勢次第ではありますが、
銀河方面軍の演習回数は増えると見えます。商機ですかな」
「参謀本部と航宙艦隊司令部への軍需傭船の売り込み、検討しますか」
「ああ……。」
こうしてまた一つ、ツァインフェルテ社の新たな商売の方針が定まっていく。
同社を裏から操る男、セグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵は
蒸留酒のグラスをローテーブルに置くと、徐にソファから立ち上がり、
一面が丸々窓になっているスイートルームの壁際へ歩み寄る。
そこからは眩いばかりの光の世界を望むことができた。
が、酔いが回った伯爵の眼には、その光が
あるいは天から降る星の輝きか、判然としなかった―――
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伯爵が見たであろう、闇に輝きを散りばめた虚ろな海の彼方。
彼が語っていた、天ノ川銀河系・オリオン腕宙域、ある種その中心と言える星系。
その名も
『木星』あるいは『ズピスト』と呼ばれるガス惑星の重力圏には、
ツァインフェルテ社の黒幕三人組が脳裏に描いていたような光景が広がっていた……
「戦隊旗艦より斉動発令、左回頭」
「宜候。とぉーりかぁーじ、一杯!」
誇らしげに『地球連邦防衛宇宙海軍』のマークを掲げた軍用宇宙艦が隊列を成し、
木星近海に設けられた演習空域にて、艦隊運動の訓練を行っている。
それだけではない。
「亜空間ソナーに感。11時方向に敵潜宙艦!」
「対潜戦闘。対潜魚雷に
実際の戦闘において、地球艦隊の外郭を固めることになる軽快艦艇は、
相対が予期される敵勢力の航宙機や次元潜航艦を念頭に置いた迎撃戦訓練を実施。
「敵艦隊、実体弾の最大射程内に入ります」
「主砲、三式弾。対艦ミサイル、予想敵未来位置に照準。―――撃ち方始め!」
それら護衛艦艇群の支援を受けた主力たる宇宙戦艦部隊は、
敵艦隊との砲雷戦を主眼に置いた戦闘訓練をこなす。
戦術機動、対艦・対空目標への砲雷撃、被弾時の
あらゆる状況を想定し、同じ訓練でも様々な条件付けがされ、柔軟性を高めていく。
そして訓練は、宇宙艦艇だけが行うものではない。
宇宙空母や大型宇宙戦艦に搭載される有人航空間機もまた、発着艦や空対空戦闘、
対艦攻撃、偵察など、実戦さながらの緊張感ある訓練に従事している……。
「パイソン2・鶴見機、着艦しました。
続いてパイソン3・勝俣機、着艦アプローチに入ります」
改ドレッドノート級宇宙空母『ヒリュウ』の艦橋構造物後部にある航空管制室では、
演習に際して『ヒリュウ』を臨時母艦とした実験飛行隊の着艦を管制している。
その様と、管制室の窓から見える飛行甲板に停止した"実験機"の姿を、
部屋の後方、管制の邪魔にならない場所から一組の男女が見守っていた。
「―――"コスモパイソン"。毒蛇の名の通り、精悍ですな。椎名博士」
「えぇ。技術実証機として設計しましたが、望外の出来です。」
彼らは、宇宙空母『ヒリュウ』艦長・富山繁大佐と、
『ヒリュウ』に搭載された実験機――
試製空間戦闘攻撃機『コスモパイソン』の主任設計者である、椎名冥博士。
彼女は対ガトランティス戦争で活躍した無人機の設計を主導したことで知られる。
無人戦闘機『コスモレイヴン』『コスモクロウ』の技術を下敷きに開発した
試製戦闘機『コスモパイソン』は、新世代の空間戦闘機に用いる予定の
新たな技術を盛り込んだ技術実証機で、演習への参加はデータ収集を兼ねていた。
だがその動きから、富山『ヒリュウ』艦長の目には、コスモパイソンが
実証機に留まらない完成度を誇っているように映ったようである。
「……でも、艦長が仰ったような"精悍さ"は、乗り手の腕もあると思います。」
「確かに。何しろ、防衛軍トップクラスのエースパイロットと、
その薫陶を受けた搭乗員が機体を操っていますからな。」
椎名博士が付け足した言葉に富山艦長は頷きながらも、
視線を彼女から外し、管制室に出入りするためのドアへと転じる。
誰かが来たのを、察知したようだった。
「―――失礼します。椎名博士は此方と伺いましたので……」
ドアの向こうから現れたのは、コスモパイソンのテストパイロットであり
同技術実証機四機で構成された実験飛行隊を率いる、加藤三郎少佐。
2203年に宇宙戦艦『ヤマト』から降りた後、航空間機搭乗員の指導教官として
地上勤務を拝命していたが、椎名博士たっての希望で、再び彼女が設計した
技術実証機に上質なデータを提供するための"モルモット"に任じられたのだ。
そして試験飛行隊の僚機には、鶴見次郎を始め、かつて自身が指揮した
『ヤマト』航空隊の元隊員(各地へ転属)の中から選りすぐりを引き抜き、
地球や月面の基地でコスモパイソンへの慣熟と地上運用のデータを取った後
艦上運用でのデータ収集のため宇宙空母『ヒリュウ』に乗り込んだのである。
「では小官は艦橋へ戻りますので、これで」
「分かりました、後ほどまた」
加藤少佐が椎名博士に飛行体感の報告に訪れたのと入れ違いになる形で、
富山艦長は退散とばかりに航空管制室を辞し、『ヒリュウ』艦橋へと向かう。
その道中で富山は、自身のタブレット型デバイスの電源を入れ、
今後の演習スケジュールを確認した。
「―――明日は休息、明後日はガミラスさんとの合同演習、
物質転送機を用いた航空機による奇襲的対艦攻撃とそれへの対処、か。」
富山は、間もなく演習空域に到着する予定のガミラス艦隊―――
かつての仇敵にして、共に
富山が聞くところでは、彼らは艦載機隊を小ワープさせる『物質転送機』の
運用に特化した艦を空母部隊に組み込み、この演習に派遣したらしい。
「我が軍にも欲しいものだが…‥‥無い物ねだりは禁物だな」
富山艦長はかつてのガミラス大戦時を回顧、
その頃から艦も航空機も飛躍的に強化されたことを鑑みれば、
あまりにも贅沢だ――と思い直しながら艦橋へ入り、艦長席に腰を下ろす。
『ヒリュウ』艦橋正面窓からは、演習に参加する僚艦―――
第一・第二艦隊を中心に、各艦隊から派遣された防衛軍の艨艟の姿が望める。
一際目立つのは、やはり地球最強の戦艦・A級三隻から成る重戦艦戦隊。
だが、ドレッドノート級の戦艦・空母も負けない存在感を放っているし、
エディンバラ級・フォークナー級ら補助艦艇も数が居る分、頼もしく映る。
そしてこれに、ガミラス艦隊が加わるとなれば、
演習とは言え絶大な火力が極低温の虚空を焦がし、
木星近海を地獄の窯の如く煮え滾らせることになるだろう――
そんな確信が富山の胸に在り、脳ではその様を克明に思い描くことができた。