宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第23話】
木星演習空域に程近い衛星ガニメデの、地表と重力圏に
補給・係留諸設備が配された地球・ガミラス共同管理下にある『ガニメデ泊地』に
ガミラス艦隊が到着したのは、地球時間にして5月3日0500時の事である。
入泊した艦隊の中で最大の巨躯を誇るガミラス銀河駐留軍団の総旗艦、
改ゼルグート級航宙重戦艦『ツェルベロク』の艦内には、
演習に参加する地ガ両軍部隊の指揮官や幕僚らが集まりつつあった。
『ツェルベロク』で木星圏に訪れたバレルド・アクション銀河駐留軍団長を筆頭に、
同軍団首席参謀ノルム・ベール大佐、第一八空間機甲師団長ユーリク・ダゴン少将、
ヘルム・ゼーリック空間機甲師団など銀河駐留軍団隷下の各部隊の参謀たち、
地球防衛軍側の参加者は、宇宙海軍艦隊参謀長ヨハネス・W・ワッケーン中将、
演習に一部部隊が参加している第一(方面)艦隊の司令長官山南修中将と
同艦隊首席参謀永田雄司大佐の他に、各方面艦隊の参謀クラスの士官たち。
彼らが一堂に会したのは、『ツェルベロク』艦内の広い作戦会議室。
地球・ガミラス両軍の上級指揮官・幕僚たちは、明日の合同演習に先立って、
自軍が今後どのような戦術を採り、演習に反映していくべきかについて議論すべく
図上演習を開くことにしており、得られた戦訓を地ガ軍全体で共有すべく、
演習に参加しない部隊からも代表者が送られてきていたのである。
最初に想定されたシナリオとしては、
『共同開発宙域の防衛ラインに数十~二百隻規模の敵艦隊が来襲。
敵艦隊は地ガ安保同盟軍の設置したワープ阻害装置により
予め設定されたポイントに出現。これを如何に早急に撃滅するか』というもの。
明言こそされないものの、ここで挙げられた"仮想敵"が
ボラー連邦軍を指しているということは誰の目にも明白であった。
「――対ガトランティス戦争における戦訓を顧みますと、
こうした状況においては敵艦隊がワープ直後、態勢を整えないうちに
飽和攻撃を実施し、反撃の機会を与えることなく撃滅するのが上策かと」
ガミラス軍の参謀が発言する。同時に作戦会議室の中央に置かれた、
ガミラス式テーブル型立体投影モニターに映し出された想定シナリオの概念図上へ
発言にあったような各種軍事オプションの画像が現れる。
「第一に、事前に敵艦隊の出現宙域に機雷原を展開しておく策が挙げられます。
只の宇宙機雷を敷設するよりは、昨年我が防衛軍が実用化した、
『波動共鳴機雷』を用いる方が効果的でしょう。」
「『波動共鳴機雷』を使用する上では、阻害装置と干渉する可能性が
否定できないため、不活性状態の簡易波動コア群を敷設しておき、
敵艦隊が出現した後に共鳴波を発振するべきだと考えられます。」
今度は地球側参謀たちが発言し、それと共に画像の一つがクローズアップされた。
それは、地球連邦防衛軍の技術本部がイスカンダル製の
完成させた、敵艦の波動機関を強制停止させることが可能な機雷だった。
「敵艦隊の機関停止後は降伏を勧告し、
応じない場合は拡散波動砲やミサイル投射を以て確実に殲滅する……
というのが、まず一案ですな。」
参謀たちの意見を引き取り、纏めたのは山南1F長官である。
続いて、その部下である永田首席参謀が補足の形で別の策を挙げた。
「仮に諸要因で機雷原構築が困難である場合は、従来通りの飽和攻撃、
特に我が軍であれば波動融合弾を積載した三式亜光速重誘導弾や
四式跳躍誘導弾によるアウトレンジ攻撃が最適解になるかと思われます。」
永田大佐は、モニターに拡大投影された画像を見やりながら語る。
そこには、土星沖海戦で万単位の敵艦隊に猛威を振るった三式重誘導弾や、
テレザート沖海戦で『ヤマト』が利用した、波動融合弾を小ワープ可能な
宇宙舟艇に積み代用ワープミサイルに仕立て上げたものを戦後に制式化した、
『四式跳躍誘導弾』の姿が映し出されていた。
続いて発言したのは、連邦防衛宇宙海軍司令部を代表して参加している、
同参謀長ワッケーン中将。彼はガミラス軍側出席者に視線を向けながら言う。
「――奇襲効果を重視する場合、貴軍が実用化されたという
『波動共鳴パルス爆弾』を四式誘導弾などで敵陣内に投入・炸裂させ、
敵の機関やレーダー、それに通信と指令系統を機能不全にさせてから
飽和攻撃を実施するのが効果的ですかな」
ワッケーン参謀長の眼が鋭く光り、撃滅作戦の案を確実なものとしていく。
だが、ここでガミラス側から思わぬ反論が入る。
銀河駐留軍団こと第一四空間機甲軍団の司令官、アクション中将が口を開いた。
「……確かに、そちらの仰られる通り、波動共鳴を利用して
敵艦隊全体を一挙に行動不能に陥れようという策は魅力的です。
しかし、
少々問題があるかもしれません。」
「と、仰られると?」
含みのあるアクション提督の発言に、顎髭を撫でながら山南中将が真意を問う。
銀河駐留軍団長の代わりに答えたのは、彼の部下であるベール大佐だった。
「――皆さん、こちらをご覧いただきたい。」
ベールが手持ちのデバイスを操作すると同時に、テーブル型投影モニターには
ガミラス語と地球言語が併記された、別の情報ウィンドウが現れる。
「これは、我が兵器開発局が『波動共鳴パルス爆弾』についてまとめた
データの一部です。……これによると、仮想敵A___
この際なので言ってしまいますが、ボラー軍の艦艇に対して使用した場合、
先述されたような効果は見込めますが、その持続時間は当初の想定より
かなり短くなると考えられる、となっています」
ベールは地ガ両軍が申し訳として使っていた"仮想敵"が何者かを明かしつつ、
来寇する敵への有力なカードとして期待されていた新兵器が、
予想よりも有効ではない可能性が示唆された原因について述べた。
「その根拠として、白色彗星戦役後にガトランティスから得られた
同国によるボラー連邦及び同連邦軍に対する調査データが挙げられています……」
かつての敵・白色彗星帝国は、ボラー連邦を次なる攻撃目標として
斥候部隊を派遣し事前調査を行っていたことは既に広く知られている。
その調査により地ガ側に明らかになった、"ボラー連邦特有の事情"が、
『波動共鳴による攻撃の効果が想定より低い』とする予想に深く根差していた。
ボラー連邦勢力圏宙域内では、俗に『魔女の吐息』と呼ばれる
暗黒星雲内の天体から放たれる特殊な干渉波によるエネルギーの減衰現象が
普遍的に生じているとのことで、暗黒星雲周辺宙域では
宇宙艦艇が搭載する波動機関の余剰次元展開なども阻害され、
機関が停止・航行不能になり難破する危険が高いのだという。
暗黒星雲内からの干渉波の放射は不定期的に活発化し、
恒星活動や惑星地表プレートの活動を低下させ、
天体に寒冷化を引き起こすことすらあり、
暗黒星雲宙域は『魔女の棲家』と呼ばれ恐れられているとのことだ。
ボラー軍艦艇はこうしたエネルギー減衰などへの対策として
機関周りが強靭化されているため、「波動共鳴」技術を用いた
機関・エネルギー伝導部への攻撃が効きにくく、
さらにガス宙域やアステロイド帯、不安定な恒星などの航行困難宙域も
多いため、外装・艤装への電磁パルス攻撃にもある程度の耐性があった―――
「――こうした理由から、ボラー軍艦艇は我々安保同盟軍の艦艇より
波動共鳴を用いた兵器の効力時間が短くなると考えられるとのことです」
こうしてベールは解説を締め括るが、地球側軍人たちは難しい顔で唸る。
ある意味で切り札の一つとし、頼みにしていた技術の効果を
下方修正せざるを得ないとなれば、無理もない事だったが……。
「ガミラス国防軍としては、来襲する敵艦隊に対しては
指令系統の破壊に着目すべきである、と考えています。」
対して、ガミラス軍側はこちらの番だとばかりに、戦術案を提示してきた。
一番手を務めるのは、ダゴン将軍である。
「
ゼランダル級など次元潜航艦も考えられますが、如何せん数が少ないため、
空母打撃群の活用を主張させていただきたい。」
彼が主張する所では、銀河駐留軍団に新配備された"改ゲルバデス級"と、
銀河系在来の各師団航空戦隊の航宙母艦を基幹とする空母打撃群から
物質転送機によって敵艦隊至近に
送り込み、敵旗艦や次席指揮官の座乗艦と考えられる艦を集中攻撃・破壊。
無人攻撃隊は母艦への帰還に見せかけて敵が出した直掩機を誘い出して
引き離し、混乱した上にエアカバーが無くなった敵艦隊を
第二波として転送した有人機攻撃隊と艦隊により撃破する、とのことだ。
「……では、まずはダゴン将軍の案を採用し、シミュレーションしますか」
「ええ。始めましょう」
場の議長役を共同で務めるアクション将軍とワッケーン参謀長が合意し、
いよいよ図上演習が動き出す。地ガ両軍の将校たちは、威儀を正した。
その一手一策に、実際に戦場に立つ将兵らの命を担う彼らの長い一日は、
まだまだ始まったばかりであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、ガニメデ泊地の一角、衛星重力圏に設営された空間錨地にて。
錨地にはガミラス艦隊の多くが係留されているが、中でも将兵らの目を引くのは
同艦隊が来泊時に伴ってきた、全長500mクラスの宇宙浮きドックであった。
元々アルファ=ケンタウリ系に築かれたガミラス軍の『シュルツ基地』で
宇宙艦艇の整備・修理のために運用されており、同軍の駆逐艦・巡洋艦はもちろん
戦艦クラスであっても容易に収容・作業を行うことができる代物だが、
今回ガニメデ泊地に移送されてきた理由は、本来の用途とはいささか異なる。
現在ガニメデ重力圏に留め置かれた浮きドックの中には、
ガミラスの最新鋭次元潜航艦・ゼランダル級のネームシップ『ゼランダル』が
息を潜めており、演習参加の時を静かに待っていた―――。
「しかし、わざわざ
「如何に同盟国とは言え、新鋭艦の情報はなるだけ渡したくはない――
――というのが、お偉方の意向らしい。」
艦後部の発令所(艦橋)では、『ゼランダル』艦長ゴル・ハイニ中佐と
次元潜航艦戦隊司令ヴォルフ・フラーケン大佐が語らっている。
ハイニは昨年、地球側に実物技術資料として供与された次元潜航艦『UX-13』を
宇宙輸送艦『レッドワン』に積載して地球まで回航、到着後は現地で
同盟国軍人に次元潜航艦の運用の術を伝授する技術交流官としての任務を
半年間こなし、地球時間11月に本国へ帰還、『ゼランダル』艦長に任じられた。
次元潜航艦の艦長・佐官となった彼だが、その装いは『UX-01』副長の頃から
変わらないガミラス軍制式空間戦闘服に、佐官用軍服の上着を羽織ったものだ。
「まぁ、今後の相手が相手ですからねぇ。
用心のしすぎはないって訳ですかい、キャプテン」
「ボラーはガミラスより広い領域を持ち、星間国家としての歴史も長いと聞く。
いつ我々や
気の抜ける相手ではないさ、ハイニ」
規律についてはともかく、これまでの経験を評価され
新鋭艦を任されたハイニであるが、フラーケンと二人だけの時は
副長時代と変わらず彼を「
フラーケンも軍務時は自らを「司令」と呼ばせ、ハイニを「
こうした時は彼もハイニを名前で呼んでいた。
「折角だ、あれを開けるとしよう」
「いいんですかい。じゃ、喜んで……」
彼らは密かに手に入れた
それぞれのグラスに注ぎ入れると、明日の活躍を期して互いにグラスを当て
小さく乾杯の音を鳴らすのだった。
一方、『ゼランダル』艦内の一角、兵員の居住区画に隣接する食堂では。
「じゃ、俺は先に戻ってるぜ。ヤーブ」
「あぁ、また向こうで。」
朝食を摂り終えた同艦の機関科員二人――
ヤーブ・スケルジ機関兵曹長とヨーヘン・ガイスト機関兵曹長が挨拶を交わし、
ガイストはヤーブより先に任地である機関室へと向かっていった。
残されたヤーブは、懐からあるデバイスを取り出す。写真や映像の記録媒体だ。
「……食堂の飯も美味いけどさ、やっぱり母ちゃんの飯には敵わねぇなぁ」
デバイスを起動すると、そこにはヤーブの家族・スケルジ一家の集合写真が現れる。
未亡人であったところを伴侶としたバルナ。
彼女の連れ子であったオッド、リーザ、レーザ。
そして、ヤーブとバルナの間に生まれた子、ボトム――。
現在は新ガミラス星の宇宙軍港近くで大衆食堂を営んでおり、時折許可される
本国への通信でも、いつもヤーブの無事を願っていてくれている、愛すべき家族だ。
「………」
そんな家族の顔を一人一人、じっと見ていたヤーブだったが、思う所があり、
デバイスが映す写真を別のものへと切り替えた。
「あっ、その方は確か、
そこで突然、背後から誰かに声をかけられ、ヤーブは驚愕の表情で振り返る。
「うわっ!……レダールか。」
「すいません、スケルジ先輩。覗き見るような真似をしてしまい……」
「いや、いいよ。……でも、よく覚えてたな」
そこに居たのは、ヤーブと同じく同盟国への『UX-13』回航・技術交流任務に従事し
『ゼランダル』航海科へと配属された、レダール・グロツバワ少尉。
だが、ハイニやヤーブと共に任務完了に伴い本国へ帰還した際に結婚したらしく、
現在はレダール・アウサーに姓が変わっている。婿入りしたようだった。
レダールは、ヤーブや憧れの上官ハイニと共に同盟国
次元潜航艦運用についてレクチャーしていた頃のことをよく覚えており、
ヤーブの記録デバイスに映っている、白髪の後ろ髪をした盟邦の老士官のことを
淀みなく口にした。
「はい、トクガワ大佐はあの『ヤマト』の機関長を務めていた方だそうで、
私にも気兼ねなく話しかけてきて頂きました。
……そうだ、あの時確か、スケルジ先輩の事についても尋ねられていたな……」
「……!」
その時のことをふと思い出したレダールの一言に、ヤーブの表情が変わった。
謎が解けた、と言わんばかりに。
(―――そうか、だから……)
彼の脳裏には、一年前の回航した供与潜宙艦が地球に到着し、
技術交流が始まった当初のことが思い浮かんでくる。
その交流の場には、ヤーブ・スケルジ、否、藪助治のかつての上官である
元『ヤマト』機関長にして機関学校教官となっていた徳川彦左衛門大佐が居た。
もし、彼が藪の事に気付いてしまえば、自分は脱走兵として地球に引き渡され
新たに得た居場所も、家族も、全てを失うことになる―――
徳川の存在に気付いた当初は絶望・恐怖した藪だったが、その徳川は藪に対し……
『――スケルジ兵曹。貴官は、儂の昔の部下によく似とる。
もしも、その部下が生きていたら……伝えておいてくれんか。
"家族と、自分の身体を大切にして、達者で暮らせ"と。
色々と言いたいことはあるが、良い"罐焚き"だ。
ガミラスでも通用するのなら、儂の誇りと言ってもいい―――』
徳川が、ヤーブの正体に気付いていない訳が無い。にも拘らず、
彼のことをあくまでも、藪助治に似たガミラスの軍人として扱い、
秘密を守ってくれたのだ。
なぜ徳川が藪の事情を知っていたかは謎だったが、その理由が今、分かった。
「しかし、なぜトクガワ大佐の写真をお持ちに?」
「あ、あぁ。―――人柄も、技術も、尊敬できる人だったからな……」
「成程。 確かに、我が軍と長年戦って生き残られただけあり、
技術交流に参加していた
ヤーブの弁明を疑うこともなく、納得するレダール。
その傍らでヤーブは、藪は、徳川の写真に再び視線をやる。
(―――ありがとう、おやじさん)
藪助治こと、ヤーブ・スケルジは、心の底からの感謝を徳川へと投げかけた。
そして、記録デバイスを胸ポケットに仕舞うと、自らの新たな居場所―――
新型次元潜航艦『ゼランダル』の機関室へと向かうのだった。
次回は『ヤマト』の活躍回です。お楽しみに!