宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第25話】
火星・木星軌道間空間、アステロイドベルトの近傍(内側)。
既に、宇宙戦艦『ヤマト』がこの空間に阻害装置による強制ワープアウトで
転移してから、一時間近くが経過しようとしていた。
「―――最大船速! 何とかして小惑星帯に逃げ込むぞ!」
後方にアンドロメダ(A)級戦艦三隻から成る重戦艦戦隊が出現したことを受け、
『ヤマト』艦長・島大介中佐は前進・敵射程外への退避を命じる。
「了解、最大船速!」
命令を受けた市瀬美奈航海長の操艦で、
『ヤマト』は遥か前方のアステロイドベルトへ向けて増速した。
その中で、艦橋詰めの幹部乗組員らの意見が飛び交う。
「一度、火星方面に戻る手は考えられませんか?
この場を切り抜ければ、演習内容的には勝利になるんじゃないですか?」
待ち伏せがあったことから、前途にも何か罠が仕組まれている可能性を考え
一度引き返す考えを提示したのは『ヤマト』通信長・市川純中尉。
だが、その意見を砲雷長である坂巻浪郎大尉が退けた。
「流石にそいつは無理だ。火星に戻る航路をとるには、どうやっても
あの三隻のアンドロメダ級を振り切るか、足止めしなくちゃならない。
だが、火力はもちろん、速力も防御力も向こうが格上、
真正面からやり合った日にゃ、あっという間に蜂の巣だぜ」
「せめて"一重戦"なら良かったんですが、木星演習に参加してるのは"三重戦"。
あのアンドロメダ級は全艦が50.8cmショックカノンを積んでます。
投射力はもちろん、一発の威力でも『ヤマト』を上回ってる。
しかもそれが、三隻!」
坂巻砲雷長に続いて見解を述べたのは、『ヤマト』技術長・桐生美影中尉。
彼女は職務の都合と自身の趣味で、防衛軍宇宙軍艦のスペックを知悉していた。
「それだけじゃない。"三重戦"旗艦の『アンドロメダ』現艦長は
『エド』の"サチベエ"、
防衛大学教官を務めていたこともある。厳しい相手だぞ……」
さらに、北野戦術長によると、
第三重戦艦戦隊を最先任艦長(事実上の戦隊司令)として率いているのは
ガトランティス戦争やガミラスとの合同演習などで名の知れた指揮官だという。
だが、島艦長の見立ては違った。
「いや……相手の指揮官は多分、
『ヤマト』にとって一番重要なレーダーと波動防壁を狙った最初の空襲、
あれは直接『ヤマト』を知ってる相手の動きと見ていい。
……相手を率いているのは恐らく、山南長官だ……!」
山南修。
かつての第二代『ヤマト』艦長にして、現第一(方面)艦隊司令長官。
土星沖決戦において、白色彗星こと『滅びの方舟』にトドメを刺した指揮官。
木星合同演習にも参加しているため、この場に来ていてもおかしくない。
島が予想した相手の指揮官に、幹部クルーたちの一部が小さく唸る。
かつての上官で、手の内を知り尽くしている人間が相手となれば……
少なくとも、先述の幸『アンドロメダ』艦長より厄介な相手になろうことは
想像に難くなかった。
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かくして、島艦長の推測は的中していた。
その男・山南修は、
"『ヤマト』襲撃任務部隊"旗艦『アンドロメダ』司令席に、堂々と腰を下ろしている。
「迷いのない、悪くない動きですな」
「ああ、島中佐は航海科出身だからな。その割には、戦闘指揮も中々だ。」
傍らの艦長席で『アンドロメダ』を指揮する、
一期下の幸艦長と『ヤマト』の動きについて評論する山南。
「それだけに、第三艦橋への被弾が悔やまれるな。
波動防壁の出力も、相当削られている筈だ」
「レーダーを狙う上方の機体は全て囮。本命は艦底の波動防壁。
ガミラスさんの先例(バラン星沖海戦)とガミロニアⅧ海戦の戦訓を組み合わせた
奇襲戦術です、効果は覿面でしょう」
『ヤマト』後方への出現に先立つ、重戦艦戦隊の艦載機で行った空襲を振り返り
山南と幸は不敵で獰猛な笑みを見せる。この戦果を突破口として『ヤマト』を
撃沈判定まで追い詰める目論見のようだ。
「まず波動防壁を削り切る。全艦、重力子スプレッド発射用意!」
「了解!」
山南の命令の下、
『アンドロメダ』『アルフェラッツ』『アークトゥルス』の三艦の艦首部にある
重力子スプレッド弾発射機がせり上がり、砲口に光を灯し始めた……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
演習出力で放たれたとはいえ重力子スプレッド弾は、
『ヤマト』の波動防壁を消失判定に持ち込むには十分な威力を有していた。
実際には展開されているが、システム上は波動防壁を失った宇宙戦艦『ヤマト』。
凡そあらゆる攻撃を防ぐ絶対の盾を奪われた同艦だが、
高い速射性を持つアンドロメダ級の砲撃からは、まだ距離の防壁に守られている。
とは言えそれも、時限的なものだった。
「敵戦艦群、接近しつつあり! 『ヤマト』が射程に入るまで、およそ500秒!」
「
西条大尉の緊迫した声色の報告と、
それを受けた市瀬航海長の冷静さの中に焦燥が見え隠れした報告を受け取る島艦長。
彼は、艦長席の画面に映された針路上のアステロイド分布情報を凝視してから、
新たな命令を下した。
「航海長、小惑星の密集度が高いコースを採れ。 戦術長、対空戦闘用意!」
「え……? りょ、了解!」
「……! 主砲、三式弾装填。パルスレーザー、VLS、対空戦闘用意!」
市瀬航海長は、艦長が敵の砲撃からの盾にするのであろう小惑星が多いコースを
選んだのはともかく、何故"対空戦闘"の備えをするのかが分からず、一瞬硬直する。
一方、北野戦術長は島の意図を早くも把握し、命令を復唱した。
かくして宇宙戦艦『ヤマト』は、辛うじてA級戦艦戦隊に追いつかれぬまま
当座の到達目標とした火星・木星軌道間アステロイドベルトへと進入する。
「間もなく、
波動防壁を失った『ヤマト』にとり、アンドロメダ級の強力な砲撃から
艦を守るのに有効となりうる宇宙の岩礁・アステロイド帯。
だがそれは、航行ルート・回避行動が限定されるというデメリットも伴った。
アステロイドベルトを構成する小惑星自体も動いているため、
航行には小惑星と衝突しないよう慎重な操艦が求められるのである。
小惑星密集エリアに入るにあたり、『ヤマト』はその常道に従い減速する。
そこで、事態が動いた。
「小惑星帯より敵機出現! 小惑星表面に張り付いていた模様!」
ジャミングで精度が落ちてはいるが、中・近距離ではまだどうにか作動する
『ヤマト』のレーダーが、針路上の密集小惑星帯から現れた敵機―――
どうやら敵将・山南は、『ヤマト』の進路を予測していたようだった。
「
「VLS・各部発射管、対空ミサイル発射! 主砲三式弾、撃ちー方ー始め!」
だが、『ヤマト』側もこの襲撃を予測しており、機敏に対応する。
流石の高機動機コスモレイヴンも、小惑星帯が舞台では速力に制限がかかり
『ヤマト』が展開したミサイル網と対空榴散弾に絡めとられ、
目標へミサイルを撃ち放つ前に撃墜判定を受け、戦列を離れていく。
「敵編隊、全機撃墜!」
「よし。だが警戒を怠るな!さっきのように第二波が居る可能性がある!」
アステロイドベルトに潜んでいた伏兵を排除した『ヤマト』。
先の下方からの奇襲を反省し新手を警戒するが、幸いその兆候は無かった。
ただし―――
「敵戦艦群、
「……もうそこまで来たのか……!」
目下最大の脅威である敵・A級宇宙戦艦三隻は、
『ヤマト』に手が届くところまで接近しつつあった……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「『ヤマト』微増速。アステロイド密集エリア深部へ向かっています」
旗艦『アンドロメダ』の索敵オペレーターが、撃沈目標たる敵艦の動向を伝える。
「島艦長、やりますな。あの奇襲を躱すとは……」
小惑星帯に潜んでいた無人機部隊を手早く迎撃し、損害を受ける前に叩いてみせた
『ヤマト』の活躍を見て、
ジャミングにより『ヤマト』のレーダー索敵範囲は狭まっているため、
あそこまで早く対応できたのは艦の司令部が、アステロイド密集エリアに入る前に
こうした伏撃を予め想定し、迎撃準備を整えさせていたからとしか考えられない。
幸艦長はそう考え、五代目『ヤマト』艦長の手腕を評価し、山南もそれに頷く。
(……島中佐たちは
恐らく、相手が俺であることにも勘づいているだろう。)
その一方で、山南は脳裏に5年前の出来事――
忘れもしないワルゴニア沖海戦で、小惑星帯から現れた敵宙雷艇の奇襲により
自身が指揮していた『ヤマト』が撃沈されかけた苦い記憶をよぎらせていた。
ワルゴニアでの一件は箝口令が敷かれ幸艦長には知る由もない事だが、
あの時同じく『ヤマト』に乗っていた島中佐や乗組員たちはあの経験から、
山南が小惑星帯で伏撃を仕掛けることを読み、対処できたに違いない。
山南は、静かに口の両端を釣り上げた。
「だが、ここからだ。 『ヤマト』を二方向から挟撃する!
『アンドロメダ』『アークトゥルス』はこのまま追撃、敵左側面に付く。
『アルフェラッツ』は右方からアステロイド密集エリアを迂回し、
『ヤマト』の右舷に回り込め!」
山南はアステロイドベルトの、『ヤマト』と三重戦周辺の小惑星密度を計算し
『ヤマト』が辿るであろう今後のルートを推測。
それを左右から挟み込むべく三隻のA級に指令を下す。
旗艦右方に占位していたアポロ(改アンドロメダ)級三番艦『アルフェラッツ』が
大きく右へ転舵し、横陣を組んでいた戦隊隊列から離れていく。
山南は、A級宇宙戦艦が誇る『ヤマト』以上の推進力・速力性能の優位を以て、
かつての乗艦を挟撃せんとしていた―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
妨害電波の発信源たる敵艦が接近し、レーダーが青息吐息となっている『ヤマト』でも
辛うじて敵・第三重戦艦戦隊の動きを探知し、その意図を掴むことが出来ていた。
「挟み撃つつもりだな……だが、そうはさせない!」
敵を率いる山南1F長官の思惑を看破した島は、『ヤマト』とっておきの
「システム《ARGO》を使用する。マグネトロンプローブ、投射!」
「後部爆雷投射機、プローブ撃ち方始め!」
島艦長の号令の下、北野戦術長と坂巻砲雷長の操作により、
『ヤマト』煙突型VLS構造物後方・マスト直下に装備された94式爆雷投射機から
次々に多弾頭ミサイル式の操作端末が撃ち放たれ、周辺の小惑星岩塊に打ち込まれた。
「マグネトロンウェーブ、照射開始!」
「マグネトロンウェーブ、照射します!」
続く命令で桐生技術長が、マストから岩塊に打ち込んだ
マグネトロンウェーブを照射。電磁力で周辺岩塊のコントロールを開始する。
岩塊を利用した防御システム《アステロイドシップ》である。
「敵戦艦群、両舷後方より接近! 200秒後に有効射程に入ります!」
岩塊を船体に張り付けて守りを固めた『ヤマト』に対し、
防衛軍最強のA級宇宙戦艦三隻が左右後方から迫りつつあった。
「――掌帆長、波動防壁の回復まであと何分要するか?」
『20分、いや10分! ですが、回復したとしても出力は70%となる判定です』
『ヤマト』が有効射程に入れば、敵戦艦からの猛射撃が始まることは確実で、
流石に《アステロイドシップ》では数分も持ちこたえられないと考えた島は、
第三艦橋で
波動防壁の復旧状況を尋ねるが、榎本の厳しい答えに島の表情は硬くなる。
(……今、『ヤマト』は敵砲撃からの盾ともなる小惑星の密集空間を
航行しているが、アステロイドベルトそのものを渡り切りつつあるから、
その密集度合いは刻一刻と減じている。このまま敵艦ともども小惑星帯を
脱したら、敵に袋叩きにされるのは火を見るよりも明らかだ。
幸い、この空域から脱出する小ワープのためのエネルギーは
溜まりつつあるから、小惑星帯を脱して少ししたらワープで逃げ切れる。
さっき敵艦はワープしてきたから、別の阻害装置の存在は考えにくい。
もし小惑星帯の外に敵がいても、復旧した波動防壁でワープまでは保つ。
何とかしてあの敵戦艦隊を足止めできれば―――)
艦長としてこの局面を乗り切るべく、島大介中佐の頭脳はフル回転。
そして『敵戦艦群を足止めできれば勝機がある』と結論を出し、
今度は勝機を掴むための一手を模索しだすが……
「敵艦、砲撃開始!」
それよりも早く、恐れていたA級三隻による集中射撃が始まった……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「『アークトゥルス』、撃ち方始めました」
「『アルフェラッツ』も、砲撃開始の模様」
一方の追撃側、『ヤマト』を仕留めんと小惑星帯で猛追する第三重戦艦戦隊は
演習出力ながら、砲門から盛んに陽電子の光条を射ち出している。
「まだ『ヤマト』周辺のアステロイド密度は高い。よく狙え!」
陣頭をゆく『アンドロメダ』の艦長・幸兵衛大佐が檄を飛ばす。
システム《ARGO》の岩塊による鎧と併せて、短時間での撃破は困難になる。
そして、小ワープで逃げられてしまえば敗北となるため、時間との戦いだった。
幸艦長の傍らで戦闘の推移を見守る山南の顔にも、緊張の汗がにじむ。
―――そして。
「『ヤマト』に直撃弾!本艦の射撃です! 岩塊の一部、剥離!」
「よし、主砲斉射開始! これで仕留める!」
ついに『アンドロメダ』の射弾が『ヤマト』を捉える。
演習出力のショックカノンではあったが、
岩塊を制御していた
『ヤマト』艦首近くを覆っていた一部の岩塊が力なく崩れ、落伍していく。
勝利を確信した幸艦長は、闘志を満面に出した声でトドメを刺すよう命じるが……
「や、『ヤマト』転舵! 右舷方向――『アルフェラッツ』に向かいます!」
「「!!」」
レーダーオペレーターの上ずった声での報告と共に、
天井メインスクリーンには、『アンドロメダ』『アークトゥルス』に艦尾を向け
遠ざかりつつある『ヤマト』の姿が映し出される。
小惑星密集地帯を挟んだ彼方へ遠ざかる『ヤマト』への主砲命中精度は期待できず、
『アンドロメダ』と『アークトゥルス』の『ヤマト』砲撃はこれで不可能となる。
にも拘らず。
幸艦長と山南は顔を見合わせ、互いにニヤリと攻撃的な笑みを浮かべた―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「一時方向に『アルフェラッツ』! 砲撃止まりました!」
「今だ! 岩塊を『アルフェラッツ』に向け放出しろ!」
一方、左右後方から集中砲火を浴びつつあった所で面舵を切り、
障害物の密度が下がったのを幸いに増速し、『アルフェラッツ』との距離を詰める。
対する『アルフェラッツ』は、『ヤマト』が先程までと動きを大きく変えたことで
照準を切り替えるため、砲撃を一時中止していた。
それを好機とした『ヤマト』は、マグネトロンプローブで船体防御に回していた
全ての岩塊を『ヤマト』から分離させ、『アルフェラッツ』へ散弾として投射する。
これにより『アルフェラッツ』は回避・迎撃行動を強制され、
こちらも『ヤマト』への追撃が不可能となった。
「
島艦長は『ヤマト』に訪れた最初で最後の勝機を掴むべく、声を張り上げる。
宇宙戦艦『ヤマト』も、それに応えるように機関を目一杯に吹かし、
小惑星の間を縫うように翔ける。
そして、アステロイドベルトの向こう側がようやく見えてきた。
「小惑星帯外に敵艦隊! F級駆逐艦10隻以上、宙雷戦隊です!」
敵A級戦艦群から遠ざかって妨害電波の効力が薄れたためか、
ジャミングから復活したコスモレーダーの画面に敵影が出現した。
どうやら、あれが演習相手側の最後の砦のようである。
「波動防壁はまだ使えない! 取舵一杯、右砲雷戦用意!
小惑星帯を抜けて、エネルギーの都合がつき次第小ワープするぞ!」
島艦長は、針路上に展開する敵駆逐艦隊に正面から突入するのを危険と判断し
少し距離をとってから小惑星帯を抜け、砲撃とミサイルで牽制した後
小ワープで現宙域を脱出する算段を立てた。
その方針に従い、宇宙戦艦『ヤマト』は左へ回頭。
ようやく『ヤマト』が、宇宙の岩礁・
「正面より雷跡多数! これは―――!」
「駄目、近すぎる! 躱しきれない!」
『ヤマト』前方から突如として現れた多数の宇宙魚雷が、高速で襲い掛かる。
市瀬航海長のほとんど悲鳴と化した報告が通信機越しに島艦長の耳に入るが、
やがてそれは、被弾したことを意味するアラート音にかき消されるのだった。