宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第2話】
新都メガロポリス近郊に置かれた、地球連邦防衛軍軍人墓地『英雄の丘』。
公園化されたその一角には、催事用の広場が存在している。
西暦2205年3月30日、そこではある"式典"が厳かに、華やかに催されていた。
「地球防衛軍の指揮を、貴官にお渡しする」
「地球防衛軍の指揮を、お引き受けいたします」
それは、2203年9月から約1年半ぶりに行われた、防衛軍統括司令官の交代式だった。
広場に設えられた壇上の中央で、二人の将官が敬礼と形式的な挨拶を交わし合い
先ほどまでそれぞれが座っていた壇上の席に入れ替わりで腰を降ろす。
実務的な引継ぎは既に完了されており、式典はその締め括りとなる儀礼である。
交代式を終え、"前"防衛軍統括司令長官となったのは、パウロ・D・タナカ大将。
ガトランティス戦争後、芹沢元帥の後を引き継ぐ形で三代目統括司令長官となった
彼は、叩き上げの"船乗り"であり、当時は防衛宇宙海軍艦隊司令長官職にあった。
戦後、タナカ統括司令長官が取り組むことになったのは、
前任者がある程度まで進めていた、周辺情勢の変化に伴う軍縮と防衛軍の再編。
具体的には、彼が領袖を務めていた宇宙海軍艦隊の大規模な改組であった。
仮想敵たる帝星ガトランティスの脅威が文字通り"消滅"したため、
これへの対応を第一に編成されていた地球艦隊は、『平和通商国家・地球』という
新時代に適応した存在へと造り替えられることになったのである。
白色彗星を葬り去る働きを果たし、軍縮で解体された波動砲船団を
ガミラス星脱出計画のため輸送艦に改造して同国に供与する計画を
事実上取り仕切ったのもまた、タナカ大将であった。
タナカは、防衛軍の戦後新体制の基礎を作ったところで退場を余儀なくされた
前任者・芹沢の意向を見事に継ぎ、完遂させてみせたのである。
これまでの実績と併せて、彼を『防衛軍艦隊の父』と呼ぶ声も大きかった。
対して、この式典で"現"防衛軍統括司令長官となったのは、
すらりとした、狼を思わせる顔立ちの白人中年男性。
彼の名は、ウォルター・アイザック・キンメル大将。
ガミラス大戦期から一貫して北米管区軍務局長/駐屯軍司令官を務めてきた男だ。
歴代の防衛軍上層部も、国防局や連邦政府も、彼の堅実な手腕を評価しており、
かつて東南亜管区軍務局長から防衛地上軍司令長官を経て防衛軍統括副司令官に
就いたプラヤー・パノムヨン大将に至っては、
「自分のような若輩者より北米管区のキンメル大将の方が相応しい」と
当初は防衛軍統括副司令官への就任を固辞していたほどで、
彼が新たな上司となることを歓迎していた。
実戦部隊・教育部隊・後方など、様々な職を歴任し、
バランスの取れた知見を持つ彼ならば、平和な時代の地球連邦防衛軍の屋台骨に
最適の人事である___藤堂長官の連邦国防局はそう結論づけ、任命していた。
彼の前職・北米管区駐屯軍司令官職にはジョセフ・ボイス大将が、
宇宙艦隊司令長官職を同副司令官マーカス・J・パエッタ大将に預けて転任。
巷では、「一管区の出身者が軍の要職を独占する事態を防ぐためでは」という
憶測も存在しているが、国防局はこの見解を否定している。
兎も角、キンメル大将の第四代連邦防衛軍統括司令への就任は、
各所から好意的に受け止められていた_____。
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2205年度の人事によってトップが交代したのは、地球防衛軍だけではなかった。
地球連邦設立後以来、連邦外務局長官としてガミラスを始めとする星外勢力との折衝を
担ってきたオセアニア管区出身の老外交官チャールズ・コーネリアス・エバットが、
ついに引退を決意し、長官の座をクロード・ヴェルニー次官に譲り渡したのである。
「それで、エバット氏は今後いずこに?」
「あぁ、去年新設された"交易局"が作るらしい、
『輸出振興委員会』の理事になるんだとさ。
紅茶にはうるさかったからな、あの爺さん。らしいと言えばらしい身の振り方だ」
地球連邦首都・メガロポリスの一等地に聳え立つ大ビルディング・連邦複合主庁舎の、
外務局に与えられた区画の最深部と言える一室___長官執務室にて。
連邦外務局の新長官たるクロード・ヴェルニーは、自身の秘書官と共に一服中だった。
ヴェルニーは、自身も世話になった元上司を軽く呼びつつも、
手元にはエバットが退任時に贈った茶葉で淹れた紅茶のカップがあり、
口には出さない先達に対する敬意を示していた。
「交易局ですか……。本日退任される防衛軍のタナカ大将も、
軍事情報面でのオブザーバーとして参加されるようです」
秘書から伝えられた内容に、ヴェルニーは肩をすくめて笑う。
「やれやれ、連邦は公僕をとことん使い倒すらしいな。
それだけ人材難という訳だが……」
口の両端こそ吊り上げているヴェルニーだったが、その目は据わり、笑っていなかった。
「……死亡者に加え、精神的外傷などで職務に耐えられない方もおりますからね……」
「うむ……」
秘書の神妙な答えに頷きながら、ヴェルニーは天井を仰いだ。
その視線の先に、秘書が語ったような事例に思い当たる人物がいる、
そんな素振りであった。
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その頃。
経済協定交渉のため外交団の一員として地球に訪れていたツァインフェルテ伯爵と
その二人の従者は、昨日立てた予定の通り『新都グランドホテル』の部屋を抜け出し、
伯爵の伝手で手に入れた『肌の色を変える』擬態装置で地球人に扮して、
お忍びで地球の首都メガロポリスの市井に繰り出していた。
「我が宙運企業が
茶葉、コーヒー豆、酒に煙草、食器や工芸品……どれも富裕層や貴族に人気がある。
希少な故に上の方でステイタスになれば、大衆もそれが欲しくなり、
やがて需要は伸び、輸出量も増えるだろう」
安全性を考え移動にはレンタカーを借り、一行は
警護役を兼ねた伯爵付き運転手のグレメッツ・シュロクがハンドルを取り、
貴族院議員を兼ねる伯爵の秘書となったクラウス・キーマン元少佐は
伯爵と共に後部座席に座って彼の話相手役を務める。
「……だが、それに伴い競合他社……ガミラスのだけではない、
特に
撤廃させようと動いている節がある。この業界に彼らが参入すれば、
今、我々が取引している
想像するに容易い。」
キーマンに対し、自身の知見を伝授するように語る伯爵。
彼は、"憎いかつての敵よりは同胞に商品を預けたがるだろうからな"と、言外に告げる。
きっと、かつて彼が会社を営んでいたころに取引をした、
ガミラスが征服したマゼラン銀河内の属州惑星においてもそうだったのだろう___
そんな感慨をキーマンに抱かせた。
「……だからこそ、余力のあるうちに扱う商品の幅を広げる試みを行っておこう、と」
「その通りだクラウス。
それに関して、君の地球駐在時代の経験が役に立つという訳だ。」
我が意を得たり、という笑みで伯爵はキーマンに言った。
車は現在、キーマンが"土産ならば"と勧めた店へと向かっている。
ツァインフェルテ伯爵がキーマンを秘書に雇ったのは、ガミラスでは未だに数少ない
"地球駐在"の経験があることに注目したのも理由の一つなのだろう。
そのうち話題は、昨日キーマンが大使館員に訊いていた"知り合い"についてに変わった。
「君の戦友というと、やはり……『ヤマト』の乗組員かね?」
「えぇ、特に艦橋詰めの幹部乗員や、航空隊員たちとは親しくさせてもらいました」
キーマンは懐かしむように語る。
ガミラスに戻り、ツァインフェルテに仕えてからも、
彼は折を見て地球の、『ヤマト』乗組員たちの情報を集めていた。
「今すぐは会えずとも、彼らの動向は分かったのだろう?」
「まぁ、そうなんですが……それはごく一部で、
ほとんどの乗員が今どうしているかは、大使館員も口止めされているようです」
「なに?」
意外なキーマンの回答に、目を丸くする伯爵。
確かに、あくまで軍人なのだから情報を秘匿するのは分かるが、
かなり徹底されている___そう思わずにはいられなかったらしい。
が、キーマンはさして気にしたでもなく、所在の分かった乗員がどうしているかを語る。
「私が乗艦していた2202年当時の『ヤマト』艦長だったリュウ・ヒジカタ大将は
軍の統括教育総監に任じられ多忙だそうで、流石に会いに行くのは憚られました。」
「乗艦当時の『ヤマト』航空隊隊長のサブロウ・カトウは、
現在は地上勤務で、この首都近郊の航空基地で教官をやっているそうですが、
あいにく今は北米管区で対抗演習に参加しているとのことです。」
「当時『ヤマト』で上陸戦や艦内保安などをしていた陸戦兵部隊の隊長、
ハジメ・サイトウも、首都の警備部隊に転属しているようですが、
研修で欧州管区に出張していると知らされました。」
「そりゃ何とも間が悪い……が、他の乗員の行方について
大使館員が口止めされているというのは、どういう事だろうな?」
他の面々の行方がそこまでわかるなら、なぜ他大多数の乗員の行方が不明、否、
同盟国の大使館員まで口止めさせられているのかが謎で、
伯爵は腕を組み、首をかしげている。
そんな彼を見たのか、キーマンは薄く笑い、伯爵に思い出すよう促した。
「閣下、二か月後に
「二か月後? ……あぁ、そうか、そういうことか!」
ツァインフェルテも気付いたのか、納得したように表情を変え、笑い出す。
「我が国の『対ガトランティス戦勝二周年記念』の観艦式に、『ヤマト』も出るのか!
なるほど、それなら乗員の行方を隠すわけだ!」
「きっと、サプライズ演出なのでしょう。
それならば、大使館員にも口止めが行われていても不思議ではないかと」
補足説明する中で、キーマンはあることを思い出した。
「もし『ヤマト』が、しばらくマゼランに留まるのであれば、
ヴァタル顧問やユノール嬢の方が、先に『ヤマト』に会う可能性があります」
「デーツとユンがか?」
伯爵は、養女で家業を継がせた兄の庶子であるユノール・ヴァム=ツァインフェルテと、
伯爵家の軍事顧問として信頼しているデーツァー・ヴァタル、
これから土産を買って贈ろうとしている二人の名を出され、疑問符を浮かべた。
「『ヤマト』の最初の航海でイスカンダルに到着したのが地球歴で7月16日。
戦勝記念日からさらに二か月後です。
その日に合わせて、イスカンダルへ表敬訪問を行ってもおかしくはないかと。」
「なるほどな。 それに、あいつらが観艦式を見に行く可能性もあるしな」
ツァインフェルテ伯爵家が営み、同家令嬢が社長を務める天体開発企業は現在、
天ノ川銀河系オリオン腕の植民惑星における事業と並ぶ大事業として、
崩壊の危険性がある故に人間は立ち入り禁止の廃星に指定された旧ガミラス本星にて
同惑星の地表を星外に移送する『惑星解体』を抱えている。
ユノールとヴァタルは、サレザー星系の安全域に船を停泊させ、
ガミロイドによる大陸単位の地表掘削作業を監督しているのである。
ならば、サレザー星系に訪れるかもしれない『ヤマト』に遭遇したり、
観艦式を観に行って『ヤマト』の参加を目撃する可能性が高いのは彼らの方だ。
伯爵は再び納得の頷きを重ねる。
「そうだな……。
ユンたちの方が『ヤマト』とそのクルーに会う確率の方が高いな!!」
「……少々笑えない冗談ですかね、それは……」
伯爵の発した不謹慎な洒落に、呆れと困惑交じりにキーマンは返す。
そんな二人の会話を、浮揚車を運転中のシュロクの声が遮った。
「お、おい、キーマン? まさかあの店か、お前の"オススメ"ってのは……」
路肩に車を止め、シュロクが困惑気味に指を指した先には、一軒のショップがある。
その店先にある複数の映像看板には、可愛らしい女の子のアニメーション映像が
途切れることなく映し出されていた。映像の中では作品名だろうか、
ガミラス語で『美少女ファイター・イチゴカキゴーリ』と銘打たれている。
キーマンはその店を、地球のサブカルチャー・ストアを見て、こともなげに言った。
「ん? ……えぇ、あれで間違いありませんが、何か?」
「えぇ……マジか、お前……」
運転手シュロクは、あまり可愛げのない金髪の後輩が、
意外にも可愛らしい趣味をしていたことに驚きと困惑を隠せなかった。