宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

30 / 36
第二十八話 ボラー艦隊の奇襲

 

【第28話】

 

 

―――時に、西暦2206年8月……。

 

太陽系が在する天ノ川銀河オリオン腕・地ガ共同開発宙域からは数万光年離れた、

ボラー連邦勢力圏でも辺境に相当する、天ノ川銀河サジタリウス腕外縁部の宙域。

 

その一角にある、黄白色に輝くF型主系列星を中心に据えたナホガⅩⅣ恒星系。

同星系は小惑星帯(アステロイドベルト)の他に2つの岩石惑星を有しており、

外側を周回する第二惑星は、支配勢力であるボラー連邦の永久管理機構から

『ナホガⅩⅣB』なる味気ない命名を受けたが、同時に重要な役目も任されている。

それは、同連邦が誇る宇宙艦隊の根拠地という、大抵の星には代え難い栄誉だ。

 

一応人間が生存可能なレベルには環境改造された同惑星の地表には

宇宙軍艦用の整備ドック・係留桟橋などを始めとした施設が整備されており、

周辺宙域の警備を任務に帯びている《第三戦闘艦隊》の諸艦艇が在泊していた。

 

かつて、不明勢力(バルメーダ)の動向調査のため動員され、進出した未開宙域において

宇宙文明『地球』『ガミラス』とボラー連邦の中で初接触を果たした同艦隊は、

上記の二勢力と交流する中で捜索していた不明勢力(バルメーダ)が既に無力化されて

天ノ川銀河を去ったことが明らかになり、調査部隊としての任を解かれ、

旧来の任地であるナホガⅩⅣBの宇宙軍港へと戻ってきていたのだった。

 

 

申し訳程度の薄い(高山の頂上程度)の大気を纏わされ、

荒涼とした大地が広がる惑星ナホガⅩⅣBに設けられた宇宙軍港基地を、

ほぼ一望できる岩の丘陵の頂上から斜面にかけては基地司令部が立地しており、

施設内は流石にボラー人にとり快適な環境が整えられている。

 

当然それは、基地に在する将校がほとんど唯一の慰めとする士官クラブも同様で、

宇宙船用と同じものが用いられたクラブの厚い窓からは、

殺風景な星にポツンと置かれた人工物の群れ――宇宙軍港を見渡すことが出来、

それを酒の肴の一つに加えることが可能であった。

 

この日も基地の将校――それも、軍港基地に配置された中で最も階級の高い

第三戦闘艦隊の司令官テヴァン・マガロクが、彼の旗艦『ボルボガフ』号の艦長

キョードル・ガンプキン大佐を相伴とし、士官クラブの一角で酒杯を交わしている。

 

 

「……時間が経つのは早いもんですなぁ。

 地球やガミラスとの初接触なぞ、つい昨日のことのように思いますが、

 実際はそこそこの月日が経っているようで………」

 

「―――同感だな。……こんな何もない星に居ると、一層そう思える」

 

樹脂製パック式の保存食――魚の身を塩辛く味付けしたものをアテにして、

背の高い酒瓶から杯に注いだ液体をちびりちびりと口に運ぶ二人。

変わり映えしない、忙しない日々の中、僅かでも心を落ち着けられる時間を

嚙み締める二人の瞳は、どこか懐かしむような色を浮かべていた。

 

「……ボローズ氏は今、どうしていますかな」

 

「地球大使館付の参事官に転じたとは聞いているが……

 トロンジョワ大使の部下とあっては、気の抜けない生活だろうな」

 

マガロク提督とガンプキン艦長は、不明勢力調査艦隊を編制していた時、

同艦隊司令部付きの政治将校で、ある意味彼らを地球・ガミラスと引き合わせた

"立役者"と言えなくもない男、ヴィルキ・ボローズのことを思い出す。

 

接触後の一連の外交ルート構築にあたって、

ボローズが地球大使館へ配属されたことをマガロクらは知らされていたが、

現地における彼の新上司は最高管理委員会の政治委員上がりで

連邦中枢に伝手があり、不興を買えばあっという間に粛清されることが

想像に難くない女傑マージヤ・トロンジョワであることから、

ボローズが新天地で過ごしているであろう気苦労の多い日々を思い描き、

それをまた肴にして二人は酒を飲んだ。

 

「―――だが、今の連邦の状況を思えば、案外幸運と言えるのかもしれん」

 

マガロクは、おもむろに口を開く。その表情は険しく、眼光は鋭い。

それを受け取ったガンプキンもまた、固い面持ちで頷く。

二人が顔色を変えた原因は、現在のボラー連邦内に渦巻く根深い"問題"と

それに伴って燻っているきな臭い情勢にあった―――

 

 

事の直接的な発端は、地球時間にして西暦2205年10月末に

ボラー連邦領射手座矮小銀河にて生起した、『ガルマン星転移事件』に遡る。

 

ガルマン星(及びその双子星)の"大マゼラン銀河への転移"こそ外交上の事情で

公式見解では隠蔽・上書きされているが、その際のガミラスとの情報交換によって

転移に巻き込まれなかったものの行方をくらませたガルマン星元総督

ラウジム・ネガテボフらによる不正・暴政が発覚した上、

ネガテボフ失踪の影響で各種の取引が滞ったことで起きた混乱により

官給物資や横領資源を裏で流通させる巨大な腐敗役人ネットワークの尻尾が

とうとうボラー連邦当局に掴まれ、大規模な摘発が始まろうとしていたのである。

 

摘発の開始時期や実施方法などの詳細は永久管理機構上層部のみが知り得る

トップシークレットとなっているが、末端の将兵やボラー連邦市民らにも

ぴりついた雰囲気や諸々の動きから、大まかな情勢は窺い知ることが出来た。

マガロクもまた、彼を艦隊指揮官たらしめた一因である天性の勘の良さや

中枢にいる士官学校時代の友人から聞かされた世間話を介して、

現在のボラー連邦を蝕む"癌"に、いよいよメスが入ることを察したのだ。

 

 

「……これからしばらく、連邦は荒れるだろうな」

 

「えぇ……軍の中でも、粛清の嵐が吹きそうです。

 とばっちりだけは御免被りたいものですが……」

 

一介の艦長であるガンプキンはもちろん、提督の役職にあるマガロクも

連邦内部を揺るがすような"汚職"には全く関わっていない。

だが、国家の裏側いっぱいに巨大な闇市場が築かれている以上は、

相当数のボラー連邦軍人もこの件に関わっているに違いない。

 

永久管理機構で、連邦軍内で、組織の存続を左右するレベルの粛清劇が

裏ネットワーク摘発と並行して行われるであろうことを想像するのも容易で、

彼らは無実の自分たちがそれに巻き込まれるのを何よりも恐れ、懸念する。

 

だからこそ二人は、一見銀河の辺境にある惑星国家・地球に飛ばされたボローズは

こうした動乱に巻き込まれる確率が低いと見て、その立場を羨んだのだった………

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ほぼ同時刻、ナホガⅩⅣ恒星系からは遠く離れたボラー連邦勢力圏内のとある宙域。

そこでは、多数のボラー連邦軍宇宙艦艇が見事な隊列を組んで進撃の途に就いている。

 

隊列の中心には、第三戦闘艦隊の旗艦である指揮戦艦『ボルボガフ』をも上回り

地球のA級宇宙戦艦やガミラスのゼルグート級航宙戦艦に匹敵すると思われる大きさで、

赤く塗られた船体を有する、艦隊旗艦であろう大型宇宙戦艦の姿があった。

 

 

「間もなく、会合予定宙域に到達します」

 

「よろしい。周囲への警戒は怠るな」

 

その旗艦戦艦の艦橋では壮年の艦長が、

神経質そうな細面をした、艦隊司令の中年男性に報告し指示を仰いでいる。

 

―――この艦隊は、《第四"親衛"打撃艦隊》。

通常のボラー連邦軍艦隊とは指揮系統が異なり、

ボラー連邦永久管理機構・最高管理委員会直属の軍組織『親衛軍』に属する。

連邦の中では警務・憲兵的立ち位置にあり、時には粛軍にも動員されるため

将兵は体制への忠誠心や能力をテストにかけられ選抜されたエリートで、

艦艇などの装備も新品が優先配備されるなど、優遇を受けていた。

 

そんな同艦隊を指揮・統率するのは、ヤゾフ・コルツェート親衛軍少将

(通常のボラー連邦軍階級に対し一階級優位となるため事実上中将)。

彼は旗艦艦橋に設けられた専用の指揮官シートに身を預けながら

艦橋の窓越しに、自身の指揮下にある艦隊の威容を満足げに見やっている。

 

 

ボラー軍の規定通り、艦体を赤一色にした艦隊旗艦である

バイオン級重指揮戦艦『クトゥゾコフ』の周囲には、

クロトガ級標準戦艦・アマンガ級投射(ミサイル)戦艦各24隻で成る艦隊主力たる戦艦部隊が

旗艦を守り固めるように配置され、その外周にはガノンダ級航宙母艦を軸に

アールヴァ級装甲艦、バルツイル級装甲艦、カルチヤ級投射(ミサイル)艦で構成された

快速の打撃艦戦隊が六隊、中枢部隊の前後左右上下で艦列を組んでいる。

艦隊の総数はボラー連邦軍の通常の打撃艦隊を大きく上回り、

同戦闘艦隊に匹敵する二百五十隻を数えた。

 

エリート部隊に相応しく通常艦隊を上回る戦力を誇る第四親衛打撃艦隊は現在、

物資横領・裏取引に加担した汚職軍人の摘発・粛清の命を最高管理委員会から受け、

不正ネットワークの一端が延びている、連邦内で(銀河中心部を北として)東に位置する

『ジベリヤル軍管区』に進出しようとしていた………

 

(年貢の納め時だ、青二才)

 

コルツェート提督は、指揮シートの情報モニター画面に

ある人物の写真を表示させながら、心中で毒づいた。

映し出されているのは、癖のある黒髪が特徴的な、端正な顔立ちの若い軍人の男。

ボラー式軍服の階級章は、「大将」という彼の年齢に似つかわしくない高位を示す。

 

この獅子を思わせるような鋭い眼光を宿す青年軍人は、ミハール・ドゥハデス。

ベムラーゼと共に革命闘争に身を投じた軍人を父に持つこの男は

父親を凌駕する軍事的・政治的才覚を有しており、30代前半で大将位に昇格し

『ジベリヤル軍管区』の司令官に任じられている。

連邦軍内ではコルツェートのように彼の急激な出世を妬む声も多い。

 

だがドゥハデス将軍はまた、先般発覚した不正物資ネットワークに関与していた――

――どころか、そのかなりの部分を運営・統括している《元締め》であった。

彼への個人的な嫉妬から、あるいは正式な粛軍任務により、

少なからぬ人間が彼を失脚させるべく裏家業を営んでいる証拠を掴もうと

ドゥハデスの身辺に探りを入れていたが、若くして大将の座に就いただけあって

ドゥハデスの警戒心は高く、証拠になり得る物品やデータ、証人を例外なく抹消し

長い間尻尾を掴ませることはなかった。

 

それが、昨年のアクシデント―――『ガルマン星転移事件』により覆され、

その後一年間かけて執念深く捜査が行われたことで、ついに闇のネットワークの

全貌が明るみに出、当局はドゥハデス含むボラー連邦軍辺境軍管区の司令官たちが

不正裏市場の元締めである確証を掴み、この日から一斉摘発が始められるのだ。

 

 

コルツェートは、目障りなドゥハデスを自らの手で排除できることに

暗い喜びを覚えており、一層この任務に力が入っている。

 

「……そろそろ時間だな。『ゴマンガス』は確認できたか?」

 

旗艦のレーダーオペレーターに確認するコルツェート。

ドゥハデスを逮捕するにあたって、ボラー連邦上層部は入念な計画を立てていた。

捕縛対象である軍管区司令官たちを、

『任地における裏市場ネットワークの摘発にあたり、

 現地管区軍の協力を得るための事前協議を行う』という名目で呼び出し、

そこで対象を急襲し逮捕するのである。

 

ドゥハデス将軍は、コルツェートの元へ訪れるのにあたって、

ドック入りしている将軍の旗艦に代わりクロトガ級戦艦『ゴマンガス』号に乗艦し

第四親衛打撃艦隊旗艦『クトゥゾコフ』にやってくることになっている。

そこで、彼を捕らえるための陸戦隊が待ち構えていることなど知らずに……。

 

(さぁ来い、ドゥハデス。

 この『クトゥゾコフ』に足を踏み入れた時が、貴様の最期だ……!)

 

艦隊司令官コルツェートは、ドゥハデスが自分の目の前で吠え面をかく姿を想像し、

部下たちに囲まれている中であっても(いびつ)な笑みを禁じえなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

かくして、その十分ほど後、戦艦『ゴマンガス』は第四親衛打撃艦隊の前に姿を現す。

 

同艦はコルツェート艦隊に対し、通信艤装が不調を来したため電文でのみ交信可能と告げ、

そのまま親衛軍艦隊側の管制・誘導に従って旗艦『クトゥゾコフ』と接舷するため

艦列の中心へと向かっていく。

 

ドゥハデスが乗る戦艦が、何も知らずノコノコと接近している様を

コルツェート少将は心底愉快そうに眺めていた。

 

既に、『ゴマンガス』号は第四親衛打撃艦隊に包囲されており、

万が一陸戦隊が『クトゥゾコフ』艦内からドゥハデスを取り逃がしたとしても、

抵抗したとして艦隊による集中砲火を浴びせてドゥハデスの戦艦ごと沈めてしまえばよい。

むしろ、そうなってしまえ―――

コルツェートはにっくきドゥハデスの命運が自分の掌中にあると考え、悦に浸る。

 

そして、標的を乗せたクロトガ級戦艦がコルツェートの旗艦にまさに並ばんとするその時。

突如として戦艦『ゴマンガス』は爆発し、強烈な光と衝撃波を親衛軍艦隊に撒き散らす。

 

 

「「「!?」」」

 

「うわあああっ! 目が、目がぁっ!!」

 

「な、なんだ!? 自爆したのか!?」

 

間近で宇宙戦艦クラスの物体が爆発したことで、衝撃波が『クトゥゾコフ』を揺るがす。

さしものバイオン級重指揮戦艦という、親衛軍艦隊専用の巨大戦艦と言えど、

近距離での爆発の衝撃波を相殺しきることはできず、

乗員たちの相当数が床に転げるほどの振動を受けた。

中には窓から、爆発の閃光をまともに見て視覚に異常を来した者もいるようだ。

それでも、爆発や破片による艦体によるダメージは少なかった。だが………

 

「各部レーダー、センサー、機能停止! 艦外への通信も不能!」

 

「機関部より報告、次元展開が急速に抑制、阻害されているとのこと!」

 

「提督、これは艦隊全体に次元波動共鳴波パルスが拡散したものと思われます!」

 

「な、なんだと!?」

 

コルツェートの元には、『ゴマンガス』の爆発が"波動共鳴"を発生させ、

座乗する『クトゥゾコフ』が旗艦、さらには宇宙戦艦としての機能をほぼ失ったこと、

第四親衛打撃艦隊を構成する全艦艇も恐らく同様の状態に陥った旨の報告を受ける。

 

状況を把握したコルツェートは震えあがった。

とどのつまり、第四親衛打撃艦隊は現在、全く無防備の死に体となっている訳だ。

一刻も早く復旧させる必要がある。

そのさなか、コルツェートの副官は誰ともなしに呟いた。

 

「……ドゥハデス将軍は、この召喚を罠だと勘付いていたのでしょうか?

 逃げきれないと踏んで、せめて連邦に一太刀浴びせようと自爆を………」

 

「バカモン、そんな訳あるか! 私が奴の立場なら……」

 

「艦前部の光学観測より報告! 前方に跳躍解除反応多数!」

 

コルツェートは、戦艦『ゴマンガス』の突然の爆発が自爆であることには頷きつつも

ドゥハデス将軍の思惑が、副官が考え付いたような生易しいものではないと結論付け

私見を話そうとするが、旗艦オペレーターの報告がそれを遮る。

 

辛うじて波動共鳴パルスによる被害が軽微だったらしい『クトゥゾコフ』艦首の

前方索敵システムから、コルツェートが恐れていた内容の報告が届けられた―――。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

宇宙空間に光のヒビが入り、ガラスが割れ砕けるようなボラー艦特有の空間波紋が

いくつも生じ、亜空間から二百を優に超す数のボラー軍宇宙戦艦が出現する。

 

その先頭を行くのは、マガロク艦隊旗艦『ボルボガフ』同様、

ボラー正規軍艦隊の旗艦として通常は配備されるアーコフ級指揮戦艦。

艦体が赤く塗られているのは多くの同型艦と共通しているが、

この艦はその上から、"炎"や"獅子のタテガミ"のようなギザギザの模様が

船体中部を一周する環のように橙色で描かれており、その特異性を誇示している。

 

その艦―――艦名に『大いなる獅子の星』を意味する古語を冠した

アーコフ級指揮戦艦『アシュラーン』の艦橋にて、軍服を若干着崩した青年が笑った。

 

 

「ハッ、いいザマだ。―――全艦、ボラー砲発射用意!」

 

遥か前方に、自分を捕らえようとして、逆に自身が仕組んだ罠―――

無人運航で突入し機関を暴走させ自爆する戦艦『ゴマンガス』によって

混乱の極に陥っている"永久管理機構の狗"を見て、

獰猛な獣を想起させる凄絶な笑みを浮かべたこの男こそ、

ボラー連邦軍ジベリヤル軍管区司令官にして、不正物資流通網を運営していた黒幕、

ミハール・ドゥハデス大将である。

 

彼はワープ直後にも拘らず、自分が背信した国家の名を冠する決戦兵器の準備を命じた。

本来、ワープアウトからしばらくは大エネルギーを要する兵器など使える筈もないが、

この時、旗艦『アシュラーン』はじめ、彼が率いる艦隊の戦艦部隊は

両舷にアールヴァ級もしくはバルツイル級装甲艦を接舷させ、外接式ブースターとし

トランスワープさせることでワープによる機関への負荷を肩代わりさせており、

そのため、50隻近いドゥハデス艦隊の宇宙戦艦は何ら問題なく

艦首に設えられた決戦兵器たる重粒子砲へエネルギーの充填を始めることが出来た。

 

当然、砲口を兼ねる舳先が向けられる方向は、第四親衛打撃艦隊―――。

ミハール・ドゥハデス将軍が率いるこの"ボラー艦隊"は

同じ国家・軍に属し、同じ民族が運用している筈の"ボラー艦隊"に向けて、

何ら躊躇うことなく砲を向け、撃ち放とうとしているのだ。

 

 

 

その意図は当然、砲を向けられている第四親衛打撃艦隊側でも測り知ることができた。

 

しかし、いくら波動機関搭載艦運用の障害が多い国家で活動する都合上

波動共鳴やパルス攻撃への機関や艤装の耐性が高いボラー艦隊とはいえ、

ここまでの短時間のうちで完全に混乱状態から艦を復旧させ、

艦隊として統制し、応戦可能な態勢まで引き戻すことは全く不可能であった。

 

従って、コルツェート提督を始めとした親衛軍艦隊側の将兵は、

敵―――一応は同胞であった筈のドゥハデス艦隊が自分たちに向けて

黄色がかった重粒子の光の砲撃を発射する光景を見ていることしかできなかった。

 

コルツェートは、先ほどとは一転して嵌められる立場に回った悔しさからか、

ここに至って唐突に人生を終わらせられる理不尽への怒りからか、

かねてから目障りに思っていた敵将へ向け、憎悪と怨嗟の絶叫を上げた。

 

「おのれェッ……ドゥハデスゥゥゥ!!」

 

その直後、コルツェートが人生で体験したことのない程の高熱と激痛が

彼の思考を暗転させ、永久に途絶えさせる。

ドゥハデス艦隊旗艦『アシュラーン』が放った重粒子の奔流が

『クトゥゾコフ』の艦上を薙ぎ払い、艦橋部を撃ち抜いて、

ボラー連邦軍・第四親衛打撃艦隊司令部の全員を抹殺した瞬間であった。

 

 

 

敵旗艦を含め、敵陣中央の敵主力戦艦部隊が前後にあった軽快部隊もろとも

自軍のボラー砲攻撃で一斉に火球に変じたのを確認し、

ドゥハデスは満足げに口元を吊り上げつつ、油断なく追撃を命じた。

 

「投射艦隊、ミサイル攻撃開始。 敵に指揮系統再編の余裕を与えるな!」

 

彼の号令一下、トランスワープで戦場に到着した戦艦・装甲艦と共に

通常のワープで親衛軍艦隊への奇襲に参じたカルチヤ級ミサイル投射艦が

一斉に未だ混乱状態にあるボラー軍第四親衛打撃艦隊との距離を詰め、

艦上部VLSからミサイル多数を発射する。

 

これに、ボラー砲発射後でエネルギー回復中ながら

実弾兵装は使える状態にあったドゥハデス艦隊のアマンガ級投射戦艦群が続き、

ミサイルの噴煙が二つのボラー艦隊の間に無数の弧を描き、

その終端に大破壊をもたらした。

 

主に狙われたのは、親衛艦隊戦艦群の左右上下に展開していた打撃戦隊を統率しており、

撃沈された旗艦に代わって艦隊指揮系統の再編に動くであろうガノンダ級航宙母艦。

連邦正規軍の打撃艦隊では艦隊旗艦を務めることもあるため、

指揮通信機能のリソースについては申し分ないことから、優先目標となったのだ。

 

その甲斐もあってか敵残存艦隊のガノンダ級は全艦が撃沈され、

容赦ない攻撃を受けた第四親衛打撃艦隊の指揮系統再編は絶望的となる。

 

 

「よォし―――敵の指揮系統を潰し、主力艦も叩いた。

 残るは雑魚の烏合の衆だけ………一気に仕留めるぞ、全艦前進!」

 

敵を壊乱状態に追い込んだと判断したドゥハデスは艦隊に進撃を命じ、

それ従いボラー親衛軍艦隊にトドメを刺すべく、ボラー艦隊は動き出す。

戦闘宙域はもはや戦場ではなく、一方的な狩りの場と変じていた……。

 

 

 

艦隊旗艦『アシュラーン』艦橋で、自軍による残敵掃討を見つめる若き将軍。

そんな彼に、これまた若い、小柄な副官が尋ねた。

 

「……そう言えば将軍、どうして自爆させる戦艦を『ゴマンガス』にしたんです?

 老朽艦だからってのは分かりますが、あれより古い奴も何隻かありましたよね。」

 

「あぁ、そいつはな……」

 

副官の質問にドゥハデスは、気を悪くするでもなく鷹揚に応える。

 

「……『壊れない(ゴマンガス)』。

 誰もが()()だと信じてる、この国(ボラー連邦)をぶっ壊す戦いを始める狼煙を上げるのに、

 これ以上に適した艦名は無ェだろう?」

 

だが返答の際に見せた貌は、

戦闘を指揮している時にも見せなかった、とびきり獰悪で攻撃的な笑顔。

 

「なるほど……将軍らしいお考えで。」

 

答えを受けた副官もまた、それに怯えも慄きもせず、皮肉げな笑みで応じる。

そうして二人は、再び視線を外へ――光と焔に彩られた、闘争の世界へと戻すのだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ドゥハデス将軍によるボラー親衛軍艦隊襲撃と時を同じくして

ジベリヤル軍管区以外の複数のボラー連邦辺境管区宙域でも、

不正ネットワークを運営する軍管区司令官たちを逮捕すべく派遣された

ボラー親衛軍の艦隊が同軍管区に属するボラー連邦軍艦隊の奇襲を受け壊滅。

親衛軍艦隊を撃破した"叛乱艦隊"は、軍管区外部へと進撃し周辺惑星の制圧を開始。

 

ここに、星間大国ボラー連邦を二つに割る一大戦争、『ボラー内戦』が勃発した………。

 

 

 

 





オリジナル設定紹介

・ミハール・ドゥハデス(イメージcv.梅原裕一郎)
 ボラー連邦軍 ジベリヤル軍管区司令官、大将。35歳相当。
 ボラーの裏側・横領物資流通ネットワークを支配していた黒幕の一人。
 帝政以前から存在する軍人一家の出であり、戦略・戦術に秀でている。
 軍事以外にも政略や策謀にも優れる他、洞察力・推理力・警戒心も高い。
 能力を危険視され、何度も暗殺されかけたものの生き延びており、
 左目には暗殺未遂の際に生じた傷跡が残っている。
 基本的に慎重に事を進めるが、いざ行動を起こす時は迅速果敢で容赦なく、
 "残忍"と評されるまでの獰猛さ・積極性を見せる。
 容姿イメージは『ツイステッドワンダーランド』のレオナ・キングスカラー、
 獣耳と三つ編みを取り、肌は緑色にしてご想像願い〼。


・ボラー連邦軍艦艇設定は12月8日投稿の閑話に移動しました。
 追加設定もあるのでお楽しみに!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。