宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第三十一話 義眼の妖光

 

【第31話】

 

 

地球時間にして、西暦2206年8月29日。

 

太陽系から数万光年隔てた、ボラー連邦勢力圏内のとある宙域。

そこには、先史超高度宇宙文明アケーリアスが遺した超空間転送ネットワークを

構成する遺跡・亜空間ゲートとその制御ステーションが建設されている。

ガミラス同様にボラー連邦も、これら星間交通に極めて有益な遺跡は

発見次第接収し、解析すると共に軍民の通行の便として運用しているのである。

 

中でも特に、その宙域にある亜空間ゲートは、ボラー連邦領内に多く点在する

波動機関を不活性化させる天体現象を引き起こす『魔女の棲処』こと暗黒星雲を

回避しながら、連邦国家の中枢宙域と辺境宙域を速やかに結ぶ航路に不可欠な

"要衝"として位置し、連邦軍一個打撃艦隊が常時守備の任に当たっている。

 

それは、ミハール・ドゥハデス大将が主導して引き起こした

『統治再建機構』による叛乱・ボラー内戦で、多数の艦隊が

叛乱軍の拠点たる辺境宙域へ鎮圧のため動かされてもなお、変わらなかった……

 

 

そんなボラー連邦軍ゲート守備艦隊の旗艦たるガノンダ級航宙母艦の艦橋では、

艦隊司令官である緑肌の中年軍人が、険しい顔で腕組みしている。

 

「……参謀長も、政治将校も、

 兵站周りで話があると言って出ていったきり帰って来ん。

 こんな状況だというのに、何をしておるのだ……」

 

生粋のボラー主義者で、ベムラーゼ委員長に傾倒しているらしい司令官は、

連邦史上稀に見る大叛乱が起きた緊急事態だというのに、

彼を補佐すべき幕僚らが長々と任務を外れているという状況に腹を立てていた。

 

彼の艦隊の任務は亜空間ゲートの守備で、比較的叛乱軍との前線から離れている

この亜空間ゲートの位置を考えれば敵襲の可能性は低いが、

それでも連邦が内戦下にある事実、しかも艦隊が編成された惑星―――

即ち司令官や参謀長、政治将校を含め艦隊将兵の共通の母星が叛乱軍に

制圧されたという情報を聞いたことが、司令官の精神を苛立たせているようだ。

 

そこへ、ようやく艦隊の参謀長が戻って来る。

 

「ただいま戻りました、同志司令官」

 

「長かったな。……同志政治将校はどうした?」

 

参謀長と共に別室へ向かったはずの政治将校の姿が無い事を不審に思い、

司令官は尋ねるが、参謀長は何事もなかったとばかりに伝えた。

 

「気分が悪くなったそうで、医務室へ。

 この状況下にあっては、無理もないことかと思われます」

 

「………。」

 

参謀長である眼鏡をかけた長身の壮年の発言に一応は納得したのか、

鼻を鳴らしながらも司令官は追及をやめる。

そこに、旗艦オペレーターからの報告が入った。

 

「亜空間ゲートより、出現する艦艇があります。友軍艦の模様!」

 

「「!」」

 

旗艦艦橋の正面窓越しに見える亜空間ゲートの巨大なリングの中心に、

青白い泡のような光が灯り、そこからボラー軍の主力装甲艦・バルツイル級が

単艦でゲート守備艦隊の前に現れる。

敵味方識別信号では、"前線側ゲート"の守備艦隊に属する艦とのことだ。

 

「友軍艦より入電、

 『本艦には前線より後退する艦隊が後続中。針路を空けられたし』との事!」

 

「前線では激戦が展開されているようですな」

 

「うむ……いいだろう、全艦ゲートから距離を取れ。」

 

叛乱に伴う破壊工作により、この方面におけるボラー連邦軍の通信は不安定だ。

そのため、通信での事前通告の代わりに前線側のゲート守備艦隊に属する

味方艦が通行する部隊に先んじて連絡役として現れることはここ最近で

何度もあったため、今回もそのうちの一つだろうと艦隊司令官は判断し、

ゲート前面で守備に当たっていた艦隊には後退が命じられる。

 

やがて、前線側ゲートの守備艦隊の艦が告げていた通り、

前線で損害を受けて後退・再編を命じられた艦隊であろう複数の光が、

ゲートの通常空間と亜空間を隔てる境界面に生じ、ボラー軍艦を次々に出現させた。

 

旗艦であろうアーコフ級を筆頭に、クロトガ級、アマンガ級といった主力戦艦、

アールヴァ級やバルツイル級、カルチヤ級など数的主力の軽快艦艇が後続する。

その数、およそ"200隻"。

 

 

「……前線で撃ち減らされておるだろうに、数が多いな……。

 それに、戦ってきたにしてはそれらしい損傷もない……まさか!」

 

亜空間ゲートから出現した"友軍"ボラー艦隊の姿を見て、司令官は奇妙な点に気付く。

戦場帰りにしては、あまりにも綺麗すぎる。まるで戦いなどなかったかのように――

 

バシュッ

 

「―――ウッ!」

 

だが、その疑念が確信へと変わる前に、守備艦隊司令官の意識は暗転する。

直前には彼の背後から、小さく銃声が響いていた。

……丁度、ボラー守備艦隊参謀長が立っている辺りからである。

 

 

「……ご安心を、()()()。ただの麻酔弾です。

 意見は異なるとはいえ、貴方も政治将校もこの艦隊の一員ですからね。

 血を流す真似はしたくありませんでしたので、失礼ながら。

 ……もう聞こえてはおりますまいがね。」

 

薄い笑みを浮かべている参謀長の手には、消音機付きのピストルが握られていた。

突然の彼の凶行にも拘らず、艦橋の中に動揺する者は居ない。

どうも、全員が内々に承諾済みの、予定調和の出来事らしかった。

そのまま司令官は拘束され、既に政治将校が放り込まれている営倉へ運ばれる。

 

「……守備艦隊全艦に回線を開いてくれ。最終確認といこう」

 

首尾よく体制派に属していた艦隊司令官と政治将校を眠らせた参謀長は、

"共犯"の一人である旗艦艦長に指示を下す。

それに応じて、艦隊旗艦のガノンダ級からゲート守備艦隊全体に

通信回線が開かれ、参謀長の演説が始まる。

 

『……諸君!

 既に我々の故郷である星は、統治再建機構軍によって"解放"され、

 同地の人々も統治再建機構を支持する動きを見せている!

 かくなる上は、我々も統治再建機構に参加し、その一翼を担うことが

 真に故郷に、ボラー連邦に貢献する道であると艦隊司令部は判断した!

 

 だが、司令部と見解を異にする艦や将兵がいる可能性を考え、

 艦隊司令部はそうした者たちにここでの離脱の機会を与えることとする。

 艦隊全艦の火器管制は現在、旗艦からの量子ウイルスによって

 ロックされているため、もし離脱を表明する艦があっても

 我が艦隊の中で骨肉相食むことはない。

 統治再建機構側にもこの旨は諒解させており、ゲートから来た艦隊が

 離脱する艦を撃つことはないことを確約させている―――』

 

守備艦隊将兵の信任も厚い参謀長が主導した正規軍からの離反劇ゆえか、

"故郷"の単語に心動かされたのか、演説の後に艦隊を離脱する艦はなく、

そのままゲートをくぐって現れた叛乱艦隊と合同・ゲート守備の任を交代。

 

こうして、ボラー連邦の中枢と外縁を結ぶ"要衝"にある亜空間ゲートは

"前線側"にあったゲートと同じく、守備艦隊ごと叛乱軍側の手に落ちた。

 

 

ボラー連邦正規軍部隊の離反の動きは、

体制側が叛乱した軍管区に差し向けた討伐艦隊を中心に続出し、拡大しつつある。

 

中にはこうした要地守備隊も任地まで差し出す形で叛乱軍へ参加する例も

決して少数ではなく、叛乱軍こと『統治再建機構』は武力制圧以外にも

これらを受け入る形で、急速にその勢力圏を広げていたのだった………

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「………このように、正規軍艦隊の中でも特に、叛乱軍制圧下に置かれた天体の

 出身者で構成された艦隊の離反率が高くなっていることは認めざるを得ません。

 前回会議で申し上げた参謀本部の予測通り、初期に離反した軍管区と

 付和雷同して離反した隊を合わせ、離反した部隊は正規軍全軍の四割に及びます。

 しかも、叛乱側に転向しなかった敵制圧下惑星出身部隊で潜在的危険分子として

 重要性の低い宙域に配置替えとなり、正面兵力に数えられなくなったものは

 これに含まれないことを申し上げておきます………」

 

ボラー連邦首都惑星「ラスカウ」某所における最高軍事指導会議の場で、

連邦正規軍を代表して参加する参謀本部次長ジノディ・ロジェストフ大将が

憂悶に歪んだ顔と沈んだ声で告げた。

それを聞くボラー連邦高官の面々も押し黙り、重い雰囲気が漂っている。

 

「――……何とか、こう、どうにかできんのかね?

 あちらは四割、こちらは六割と『親衛軍』がある。

 数の上では有利な筈だ……!」

 

絞り出すような声を発したのは、連邦中央政府・永久管理機構事実上のNo.3、

シキータ・ツルシチャフ最高管理委員会副委員長。

それにかぶりを振って答えたのは、イリアン・ドロポフスギー秘密警察長官。

彼は、正規軍の中に放った密偵からの報告を伝える。

 

「お言葉ではありますが、ロジェストフ大将が仰った叛乱軍四割を引いて

 残る正規軍全体の六割のうち、先述の"潜在的危険分子"も含む三割は

 日和見的な兆候を見せており、戦力として信用のおけるものではありません。

 正規軍全体のうち永久管理機構に与するのは三割と見るべきでしょう。」

 

「……!」

 

返答を聞き、希望が断たれたとばかりにがっくりと項垂れるツルシチャフ。

最高管理委員会直属の『親衛軍』の代表者として列席する

アレゼイ・グロバトチン親衛軍中将がドロポフスギーの発言に付け加えた。

 

「そこに、我が『親衛軍』――正規軍に対し約一割の兵力でありますから、

 これを加えて叛乱軍と同数の四割が"こちら側"の戦力となるため、

 現状では連邦中央部外周に設定した防衛ラインを維持するので精一杯で、

 叛乱軍管区側への逆侵攻は不可能と申し上げざるを得ません……」

 

ボラー連邦体制側にとり厳しい戦況が明確に示されていくにつれ、

高官たちの険しい顔が一層皺深く引き攣っていく。

 

「……正規軍戦力の実に三割が日和見的とは、嘆かわしい……。

 現状、叛乱軍に流れがある以上は、これらさえ敵に回る恐れもあるとは。

 流れをこちら側に引き戻す策は何かありませんかな?

 『地球』や『ガミラス』に、こちら側での参戦を呼び掛けるなどは……」

 

「それは不可能だ。

 両国との国交は、相互に『国内問題へは不干渉』という条件で結んでいる。

 今更、連邦の内乱に首を突っ込もうとは考えまい。

 それに、もし我々が外国勢力を引き入れたとなれば、

 それこそ残る三割を敵に回す可能性が高くなるだろう……」

 

「親衛軍の艦隊を新造、新編するにせよ、黙って見ている叛乱軍ではあるまい。

 サボタージュの扇動や破壊工作などをしてくるだろうな……」

 

 

閉塞した状況に、悲観的な色が会議の場を支配していくが

これにしびれを切らしたのか、最高管理委員会一等書記官、

即ちボラー連邦の実質的なNo.2である眼帯の女性、リュドミ・ダーリヤが

重い雰囲気を跳ね除けるように鋭い声で発言した。

 

「……同志諸君は、敵がこれだけの戦力を手に入れて、

 最終的に何をしようとしているかどのように考えている?」

 

議題の転換で一先ず空気の入れ替えを図ったダーリヤ書記官。

それを受け、列席者たちは自分たちがベムラーゼ最高官位委員長の前で

敗北主義に陥りかけていたことに気付き、慌てて態度を改め、答えた。

 

「叛乱軍側の主張を鑑みるに現体制の転覆と支配権の奪取、

 つまるところは連邦全域の征服であると考えられますが……」

 

「最高管理委員長閣下や一等書記官閣下の見解は、異なられるのですか?」

 

高官たちの答えを聞き、ダーリヤは傍らにて座るベムラーゼをちらと見る。

ようやく、ボラー連邦の最高権力者はつぐんでいた口を開いた。

 

「……敵の主張はあくまで大義名分、狙いは別のところにある。

 連中の最終目標は恐らく、各司令官が担当する軍管区を連邦から分離させ、

 独立国家―――奴らのための『王国』にすることだろう。」

 

「「「―――!!」」」

 

「そもそもの不正物資流通網の発覚から叛乱の生起まで

 一周期(=一年)には満たないが、それなりの期間があった訳だが、

 この間に辺境軍管区の司令官どもが叛乱を起こせる程度に

 不正流通物資を蓄えていたとしても、連邦全域を制圧するだけの作戦を

 行うには足りるまい。後追いで離反した艦隊まで養うには準備不足だろう。

 ………それに、ドゥハデスの小倅めはともかく、

 他の軍管区司令の連中にそこまでする気概も器量もありはせんだろうからな。」

 

最高管理委員長の推理に息を呑む会議参加者たちを尻目に、

ベムラーゼは叛乱軍「統治再建機構」の事情を挙げ、自身の推論を補強。

その上で、宣言した。

 

「連邦全域を奪い取る気がないからと言って、連中の好きにはさせん。

 辺境軍管区の分離独立を許すことは、連邦国家の崩壊に直結するのだ!!」

 

そう断じたベムラーゼに同意し、頷く列席者たち。

仮に敵の狙いが達成された場合、他の軍管区や属国惑星なども独立へ走り、

ボラー連邦という国家そのものが四分五裂し、雲散霧消するのは想像に難くない。

同国における既得権益層(エスタブリッシュメント)である永久管理機構上層部の彼らからすれば、

『統治再建機構』による体制転覆と同等以上に防がねばならない事態だと言えよう。

 

「……とすると、当面における敵の戦略的な目標は、

 最高管理委員長閣下が前回の会議で仰られた『体制側支配宙域への包囲』に加え、

 我ら体制側の軍が容易に敵本土領域、即ち叛乱した軍管区宙域に進入できぬよう

 要塞化が可能な、暗黒星雲などが存在する航行困難宙域まで前線を押し上げ

 軍管区の独立を既成事実化する点、ということになりましょうか」

 

ベムラーゼの結論を受け、ロジェストフ参謀次長が敵の狙いを推し量る。

最高管理委員長も渋面を作りながら、彼の見解に頷くのだった。

 

「―――事ここに至れば、最早躊躇は無用です。

 最高管理委員長閣下、『ブロル・ボラーナ』を使用するべきかと!」

 

ここで、敵の目的に危機感を募らせたのか、

会議参加者の一人である最高管理委員会のロニド・ブレゼニフ筆頭政治委員が

ベムラーゼにブロル・ボラーナ――即ち、『惑星破壊ミサイル』の使用を提案する。

目標は言うまでもなく各叛乱軍管区の中枢惑星、敵将たちの本拠地だ。

 

宇宙艦隊による敵の打破が望めない現在の状況にあっては、

最も合理的に戦況をひっくり返すことができる軍事的選択肢であると思われるが、

その案はツルシチャフ副委員長によって遮られた。

 

「それはいかがなものかと、最高管理委員長閣下。

 ……そも此度の叛乱、その劈頭の軍管区司令官の一斉逮捕計画の失敗は

 事前に計画の情報が漏洩していたためであると結論付けられましたが、

 敵があれほど手早く逮捕を回避し、捕縛部隊を殲滅するためには

 準備期間も含めれば極めて早期のうちに情報を取得しておく必要があります。

 

 そのため情報の漏洩はやはり、実施部隊からではなく計画段階―――

 最高管理委員会と『親衛軍』上層部しか知らないうちに起きたものと思われます。

 そして、恐らく漏洩元の内通者は『親衛軍』上層部の誰か……。

 それを考えれば、『親衛軍』が運用する惑星破壊ミサイルの使用は危険です。

 『親衛軍』にいる内通者の工作を受け、この首都星『ラスカウ』など

 我ら体制側にある重要惑星に向けて射ち込まれる恐れがあります。」

 

ツルシチャフは、惑星破壊ミサイルを実際に運用する『親衛軍』内に

『統治再建機構』に内通する工作員がいる可能性を根拠と共に挙げ、

ベムラーゼに対し同兵器の使用は慎重を期すべきである、と述べる。

だがこれを、当の『親衛軍』代表者グロバトチンが聞き咎め、噛みついた。

 

「聞き捨てなりませんな、ツルシチャフ閣下。

 我が『親衛軍』に裏切者、内通者がいるとは、憶測にも甚だしい。

 内通者がいる可能性があるのは最高管理委員会にしても同じことでしょう!」

 

「『統治再建機構』は、我々最高管理委員会を排除の対象にしている。

 そんな連中にわざわざ協力するような愚か者がいると思うかね?

 それよりもだ、"親衛"の名を冠するのであれば

 内部統制をしっかり行う必要があると思うだが、グロバトチン将軍!?」

 

売り言葉に買い言葉とばかりに、『親衛軍』に裏切者がいると確信している

副委員長ツルシチャフはグロバトチン親衛軍中将と口論になり、

会議場の空気を険悪なものへと変えてしまう。

見かねたダーリヤ書記官が再び議題を変え、ようやく論争は水入りとなった。

 

 

「惑星破壊ミサイル使用の是非についての議論は、別の機会を設ける。

 叛乱軍の進撃も重大な脅威ではあるが、一層見過ごせない問題は、

 辺境軍管区の離反に伴う資源調達計画の修正の必要性だ、諸君。

 

 ……資源惑星の相当数、特に食料生産基地である穀倉惑星は

 国家外縁宙域、つまり離反した軍管区内に多く位置しており、

 現在体制側に属する連邦国家中央部各惑星における食糧供給予測量は

 目下半減しておりますが、体制側に残っている資源惑星に対し

 資源供出量を増やさせた場合、永久管理機構体制への反発が高まり、

 更なる惑星の離反に繋がる可能性があります、最高管理委員長閣下。」

 

ダーリヤ書記官の口から、

叛乱の発生に伴い資源・特に人間の生存に欠かせない食料の調達において

ボラー連邦の現体制側は大きな問題を抱え込むことになったことが説明される。

これには現連邦の父・革命の英雄でもあるベムラーゼも頷かざるを得ず、

先程まで叛乱軍の進撃をどう食い止めるかしか頭になかった高官たちも、

今度は"足元の危機"に頭を悩ませることになった。

 

「状況が状況ゆえ、現有の食料は軍優先で回しているが、

 銃後への食糧供給量が減少し、飢餓が発生した場合

 いよいよ現体制に統治能力がないと連邦人民から見做される恐れがある……」

 

「それが軍部隊に波及してしまえば、いよいよ現体制が危うくなるからな……」

 

外にも内にも懸案を抱えた状況に、列席者たちは一様に顔を顰めて唸る。

そんな中でベムラーゼは、愛飲している煙草に火をつけて一服すると、

右腕たる赤肌の側近、ダーリヤに視線を向けた。

 

「―――何か一案ないか、一等書記官。」

 

「―――ハッ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『……と言う訳で、貴官には地球・ガミラス両政府に対し、

 食糧を始めとする物資供与を要請し、交渉してもらうことになった。

 ベムラーゼ最高管理委員長閣下も期待しておられる。

 ―――できるな、同志地球大使?』

 

「はい、一命に代えましても必ずや!」

 

 

ボラー首都星における最高指導会議から暫らく後、

太陽系第三惑星『地球』北米管区アラスカに建設された、ボラー大使館通信室にて。

 

大使館の主、マージヤ・トロンジョワ駐地球ボラー連邦大使は

永久管理機構中央政府時代に腹心として接していたダーリヤ書記官から

会議のあらましを伝えられると共に、そこで決まった自分の新たな任務を報された。

 

『とは言え、地球もガミラスも、我が連邦との国交樹立時に

 「相互不干渉」の原則を取り決めていることもある。

 そう簡単には首を縦には振らぬことは、最高管理委員会も理解している。』

 

「は、ありがたきお言葉……。」

 

ダーリヤの現地側のことを慮る言葉に畏まるトロンジョワ。

それを認めつつ、一等書記官は大使館に与える任務の意義を説明する。

 

『……それでも貴官に交渉を命じるのは、

 この物資供与要請を介して、地球とガミラスの出方を窺い、

 我が連邦との関係を継続するか、あるいは叛乱軍に与するか、

 今後の動向を予測する判断材料にするためでもあるのだ。

 同志地球大使が負う使命は極めて重大なものであると言えよう……』

 

「必ずや最高管理委員長閣下、

 一等書記官閣下のご期待に添う働きをして御覧に入れます!」

 

『うむ、よろしい。』

 

 

通信によるボラー大使館への訓令はこれで終わりとなるが、

何故か一等書記官は通信を切ることなく、トロンジョワを留めた。

 

『……話は変わるが、()()()()

 君が地球へ向かったあと、私は秘密裏に手術を受けた。

 ―――君には、それを見せたいと思うが、どうだ』

 

「……光栄であります、()()()()()。」

 

そして通信画面の先のダーリヤは、かつて最高管理委員長を暗殺から庇って

喪った右目を覆う眼帯を取り、その下に隠されていた機械式義眼を見せる。

 

『……眼帯を透過して見ることのできる優れものだ。

 これで、隻眼がために後れを取ることはない。

 どうだろう、変ではないか?マージヤ』

 

「とてもお似合いです、リュドミ様。瞳の色もお綺麗で……」

 

『そうか、それならいい……』

 

ダーリヤが、信頼できる医師によって埋め込んだ機械式義眼。

その瞳の奥底からは、ほんのかすかながら赤い光が妖しく瞬いていることに、

通信越しのトロンジョワは気付いていなかった……。

 

 

 

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