宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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新年、明けましておめでとうございます!
2026年も拙作をよろしくお願いいたします。


第三十三話 鋼鉄の牧羊犬(シェパード)

 

【第33話】

 

 

時に、西暦2206年9月15日。

 

天ノ川銀河オリオン腕に地球連邦と共和政ガミラスが設定した共同開発宙域、

その外縁部近くに位置する連星系・射手座ガンマⅠ(又は射手座W)恒星系にて。

 

主星であるケフェイド型変光星による影響が比較的少ない星系外周部に、

青や赤を帯びた白光の波紋を発しながら、一群の宇宙船団がワープアウトする。

 

民間船であろう、緑色や茶褐色に塗られた曲線的なシルエットの非武装船を、

紺色や橙色の船体色を持ち、直線を主体とするデザインの宇宙軍艦が守るように

囲み・付き添い・先導している、二つの宇宙文明の混成艦隊だ。

 

そしてその中心には、他の軍艦とは異なる艦容、即ち20世紀頃の地球に存在した

水上戦闘艦を思わせる姿をした宇宙戦艦、『ヤマト』が占位している。

 

 

この日、『ヤマト』が率いる『援ボ船団』の第一陣―――

地球製の対ボラー連邦人道支援供与物資を満載したガミラスの宇宙貨物船16隻と、

その護衛艦艇(『ヤマト』含む)10隻は、射手座ガンマⅠ星系に設けられた

地球連邦防衛軍の銀河中心方面への前進拠点・『サルタ基地(ベース)』に到着した。

 

太陽系から約1400光年の距離を隔てた同恒星系の外周に存在するアステロイドや

ガスの帯の中に、O級重量物輸送艦複数隻を動員して廃鉱山小惑星や

円筒形宇宙島(スペースコロニー)などを運び入れて設営された『サルタ基地』。

 

『ヤマト』ほか船団は、サルタ基地における事実上の軍港となっている、

シリンダーの大半が宇宙船収容区画に改造された円筒形コロニーに入泊し、

乗組員たちに一時休息を与えることとしている。

 

その一方、島大介『ヤマト』艦長を始めとする船団の責任者たちは

今後の航海について調整を行うため、廃鉱小惑星を改装した基地中枢要塞の

内部に置かれる地球連邦防衛軍 第七(方面)艦隊 司令部へ出頭したのだった―――。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「予定していた面子は揃ったようだな。……では、『援ボ船団』周りの状況再確認を兼ね、

 最初の船団をボラー連邦勢力圏内へ送り出すにあたっての最終確認会議を始めたい。」

 

基地司令部の一角に位置する作戦会議室にて、集められた軍人たちを前に、

地球連邦の対ボラー連邦抑止部隊である『第七艦隊』を率いる提督・山南修中将が告げた。

 

会議室には山南長官の他、第七艦隊参謀長ダニエル・カーバー大佐と数名の幕僚、

地球連邦外務局からの連絡要員や共和政ガミラス国防軍からの連絡士官に加え、

最初の援ボ船団の指揮官に任じられた第七艦隊巡洋艦群指揮官ルーベン・ワード少将、

島『ヤマト』艦長、同副長(兼戦術長)北野大尉、航海長の市瀬中尉、技術長の桐生中尉の姿が

室内に存在するが、参加者自体はそれだけに留まらない。

 

「『ヤマト』以外の"護衛戦艦"艦長諸君、通信に問題は無いか?」

 

『「ムサシ」、感度良好です。』

 

『「アリゾナ」、問題ありません。』

 

『「ペンシルバニア」も同じく。』

 

作戦会議室の壁の一面を埋めるサイズのモニターには、三カ所からの映像通信が入っている。

それは、『ヤマト』同様に援ボ船団の旗艦及び護衛艦の任に就くこととなり、

防衛軍司令部直轄から第七艦隊の指揮下に移された"外交特務艦"群の艦長たちであった。

 

『ムサシ』艦長・北野誠也中佐、『アリゾナ』艦長のチャンス・P・オニール中佐、

『ペンシルバニア』艦長のラルフ・O・A・ドイル中佐の三名は、

第二次以降の船団の運航に深く携わるため、今回の重要な会議にも顔を出している。

実際彼らは、既に後続船団への物資積載作業の監督などを行っており、

北野中佐に至っては『ムサシ』艦上にて第二次船団を率い

サルタ基地へ向かっている最中にオンラインで会議に参加しているのだ―――。

 

そして、会議が始まる。

 

 

「現時刻より約70時間後、9月18日1800時。

 宇宙戦艦『ヤマト』以下、第一次援ボ船団・符丁名『TB-01』はサルタ基地を抜錨し、

 射手座ガンマⅠ星系外縁からワープ航法で共同開発宙域最外周部へ進出します。」

 

一同が、『ヤマト』のものと大差ない床面表示式の巨大モニターに映されている、

ボラー連邦が提供した体制側・反体制側支配領域で色分けされた宇宙地図に視線を落とす中、

進行役を任されたカーバー大佐が、手持ちのデバイスに表示された

『ヤマト』が率いる援ボ船団のタイムスケジュールをすらすらと読み上げていく。

 

「19日1500時、予定ポイントαにてボラー連邦体制側の先導艦と合流(ランデヴー)

 その後は同艦のナビゲーションに従い、入港目的地の『惑星ムルマン』へ向かいます」

 

「……!」

 

その中で耳聡く、ピクリと反応を見せたのは島中佐だった。

それに呼応するかの如く、カーバー大佐も以降のスケジュールを読む前に、注釈を入れる。

 

「……目的地に関してですが、当初はボラー連邦勢力圏においてオリオン腕に最寄で

 体制側ボラー軍宇宙艦隊の軍港基地が置かれている『惑星アルヴァン』でした。

 しかしボラー内戦の激化に伴って、ボラー体制側から入港予定地をアルヴァン星近傍の

 ムルマン星に代えて貰いたいという要請が後から届き、変更となりました。」

 

「彼らの言い分としては、

 『アルヴァン星は軍事基地であるため、反体制側による攻撃目標にされる可能性があり

  地球船団の安全確保上懸念が残るので、あえて民間の商港都市惑星であるムルマン星に

  仮設した荷揚げ・物資集積基地へ目的地を変更し、反体制側の攻撃の可能性を下げる』

 ―――との事だ。」

 

参謀長による解説を引き取り、さらに続ける山南。 ここで島も挙手し、発言を許された。

 

「……ならば、船団の行き先を反体制側の宙域からさして離れてもいない

 辺境の惑星ではなく、もっとボラー体制側の中枢にある星を入港予定地に

 変更した方が良かったのではないでしょうか?

 そうすれば、こんな『民間人』を盾にするような真似をしなくても……。

 それに、こんな最果ての星では、我々が援助物資を運んできたとて、

 それを受け取るボラー側が物資を必要とする惑星へ送るのに時間もかかりすぎるかと。」

 

それを聞いて、地球連邦外務局から派遣された連絡役が落胆気味に小さく息を吐き、答えた。

 

「……本来、地球・ガミラス側としては最初からボラー側へそう伝えていたのです。

 ところが、当のボラー体制側が峻拒しまして……。」

 

「恐らく、我々のような外国勢力に自国の実情を無暗に明かしたくないのでしょう。

 こちらの入港地を辺境に留めておけば、我々が得られる情報も自然と限られる――

 そう計算しての、目的地の指定だと思われます。」

 

外務局員の言葉に返したのは、カーバー参謀長。

会議に通信で遠隔参加するオニール『アリゾナ』艦長、ドイル『ペンシルバニア』艦長共々

『北米軍の当たり年』の同期生であり、中でも最速で大佐に任じられた"出世頭"の彼は、

それに相応しい鋭い思考を見せるのだった。

 

『……入港地を民間惑星に変えたところで、

 ボラー反体制側が攻撃を行わない保証はあるのでしょうか?

 彼らが「国家の正当な体制を回復する」という建前で動いているのは理解していますが、

 ボラーの民間人ごと我が船団を攻撃してきたとしても、

 何とでも言い訳を付けそうに思えるのですが……』

 

「その辺りの懸念が残るのは否定できん。

 だが、反体制側とて積極的に地球やガミラスと事を構えようとはするまい。

 体制側への援助は()()()()「人道的な非軍事物資援助」であり、

 反体制側からも要請があれば援助を行うことになっている。

 敵ではないと公言している相手を、わざわざ攻撃して敵に回す必要性もあるまい」

 

今度は、映像通信越しの戦艦『ペンシルバニア』艦長・ドイル中佐の発言に山南が返す。

目的地をボラー軍の基地からボラー連邦の都市惑星へ変えるのは、

「基地を狙った反体制側の攻撃に巻き込まれるのを防ぐ」ためであり、

「積極的に船団を狙いに来る」のを想定したものではないのだ。

ボラー体制側としても、認識は同じだろう―――山南はそう結ぶ。

 

「ただし、防衛軍参謀本部や宇宙艦隊司令部では、この目的地の変更が

 『船団が物資を荷下ろしして去った後、基地惑星の現地部隊が物資を秘密裏に

  反体制側へ流すのを阻止するため』と見る向きがあります。

 事実、ムルマン星の船団受け入れ基地はボラー現体制『永久管理機構』最上層部の

 直轄軍組織である『親衛軍』によって、極秘裏に建設されたようですから……」

 

山南もカーバーが発した地球防衛軍の推測に頷きつつ、断固とした声で告げた。

 

「……この際、ボラー体制側の思惑についてはこれ以上追求しない。

 我々が考えるべきは、『船団を無事に運航するためどうするか』の一点に尽きる。

 良いかな、諸君」

 

「『「ハッ!!」』」

 

斯くして会議は第二幕へと移るのだった。

 

 

 

「―――肝心の『TB-01』船団ですが、

 同船団は旗艦『ヤマト』を除き、全艦が無人艦艇で構成されることになります。」

 

口火を切ったのは、ガミラス軍側からの連絡士官だった。

それと同時に、床面モニターには第一回援ボ船団を構成するガミラス宇宙貨物船群、

共和政ガミラス政府並びに国防軍が、民間企業・ツァインフェルテ星間宙運社と

傭船契約を結んで借り受けた同社保有商船である――の画像が出現する。

 

「今回を含め『国家予備商船隊』の艦が到着するまでは、船こそ民間のものですが、

 派遣予定宙域の危険性を鑑みて、その運用は自動操船プログラムと機械人形(ガミロイド)に行わせ、

 民間の船員は用いません。」

 

その言葉を受けて、今度は山南が口を開いた。

 

「これら無人輸送船団の上級コントロールは、引き続き『ヤマト』に担ってもらう。

 太陽系からサルタ基地までの航海で、既にある程度の習熟は出来た筈だ。」

 

「はっ。無人艦制御インターフェースは地球はガミラスのものを参考に開発したため、

 両国のものは基本的に共通しており、護衛の我が『無人艦隊』と並行して

 『ヤマト』から制御を行っても問題はありませんでした。」

 

司令長官の言葉に、島中佐が応じた。

長く『ヤマト』の舵を握ってきた者として操船周りに一家言ある彼は、

現『ヤマト』航海長の市瀬美奈中尉ら航海科を始めとする乗組員たちと共に

自艦が引率する無人船団の円滑なコントロールに心を砕いていたのだ。

島艦長に次いで、『ヤマト』副長と戦術長を兼ねる北野大尉も発言する。

 

「船団の編成前に行った、『ヤマト』が制御する無人戦闘艦による

 護衛艦隊の編成は、実動演習においても良好な結果を出しています。

 万が一の事態が生じても、充分に対処し得ると考えております。」

 

「ウム」

 

山南たちが北野(弟)の言葉に頷くと共に、床面メインモニターの画像が切り替わった。

それは、数時間前に『ヤマト』やガミラス無人輸送艦と共に、サルタ基地がある

射手座ガンマⅠ星系にワープアウトした紺色と橙色の艦体色を持つ宇宙軍艦のもの。

地球軍の駆逐艦に近い鋭いフォルムを持つものと、それより二回りほど大型で

地球軍の巡洋艦や戦艦に通じるマッシブな艦容をしたものの二種類―――

 

地球連邦防衛軍が策定した『H計画』に基づき開発・建造された無人宇宙戦闘艦、

『ハンドラー級大型無人戦闘艦』と『ハウンド級無人戦闘艦』である。

 

 

「元来各方面艦隊に配備予定だった艦を回したのに加えて、

 時間断層工廠での増産も順調に進められている。

 現状、船団の中核となる『護衛戦艦』一隻につき

 『ハンドラー』級一隻、『ハウンド』級八隻での編成を定数としているが、

 いずれはこの倍、三倍も現実的になるだろう。」

 

「ガミラスの地球製無人船団が到着すれば、大規模な船団の編成も可能になります。

 その際の護衛艦隊には相当数の艦が必要になりますから、心強いことです。」

 

山南長官の言葉にガミラス連絡士官が相好を崩して返答した。

彼らが言うように、元々上記二種類の無人宇宙艦は、地球連邦防衛軍宇宙海軍の

第三~第六(方面)艦隊を主な配備先として地表の工廠で建造計画が進められていた。

 

目的は、これらの艦隊に属する旧式艦群――2201年頃に建造された、

旧国連時代の在来宇宙艦をベースに波動機関搭載型に仕立て直した

いわゆる『改設計型艦』を代替するためである。

ボラー連邦との接触により、オリオン腕の地ガ共同開発宙域内の航路防備を担い、

対ボラー有事の際は来攻するボラー艦隊への迎撃に真っ先に参加する一番槍となる

第三~第六艦隊の強化は喫緊の課題となり、その一環として『H計画』が策定されたのだ。

 

元の計画で完成した無人艦群は、各航路防衛艦隊隷下にある装甲戦隊の改コンゴウ級や

護衛戦隊の改ムラサメ級、改イソカゼ級を置き換える形で順次配備される予定であり

置き換えられた旧式艦はただ廃棄されるのではなく、

バーナード星のような共同開発宙域内の植民星を警備する地ガ合同部隊へと送られ、

元デスラー親衛隊に属したクローン(下士官兵は罪を減免されオリオン腕開拓団として

多数が公共事業に服務している)や機械兵士を乗員として宛がわれ、

有事における後備兵力としてプールされることになっていた。

 

だが、『ボラー内戦』の勃発と『援ボ船団』実施の決定によって計画が変更、

第七艦隊の指揮下に新設された援ボ船団護衛艦隊が優先配備先となったため

急遽時間断層による無人艦隊の増産が決定された末、漸く援ボ船団護衛艦隊への配備と

各方面艦隊旧式艦艇置き換えが一応並行可能となったのだった………

 

 

「無人護衛艦ですが、あくまで船団と有人艦である"護衛戦艦"、

 今回の場合は『ヤマト』を死守することを最優先作戦目標として

 自律操艦プログラムに設定し、武装もそれに基づくものを採用しています」

 

援ボ船団への無人艦配備に中央が苦労していたことを知ってか知らずかは

定かではないが、現場側は大小二種の無人戦闘艦の装備について注目する。

カーバー参謀長は、無人艦隊大型艦・『ハンドラー級』の画像を拡大して言った。

 

「特に、ハンドラー級の艦首部換装型武装ユニットは今次任務においては

 『波動共鳴波発振装置』が搭載されており、『ヤマト』やハウンド級に搭載した

 『波動防壁弾』と併用することで、有事の船団防御に高い効果を発揮可能かと。」

 

『――我が「アリゾナ」も、同様の状況を想定した際の演習において、

 「波動共鳴波発振装置」と「重力子スプレッド発射機」をそれぞれ搭載した

 ハンドラー級のどちらが対象防衛率が高いかの試験を実施しましたが、

 その際に「発振装置」を積んだハンドラー級が若干、防衛率に勝りました。

 第一回船団に帯同するハンドラー級が、護衛の重点になるのは明白でしょう』

 

カーバー大佐の話を受けたオニール『アリゾナ』艦長も、

自艦が携わった事例を挙げて同期生の言葉に太鼓判を押す。

それを聞いた山南は、感心したように話し出した。

 

「……先ほど話した『今後の無人艦隊増勢』にも関わるが、

 『波動防壁発振装置』と『重力子スプレッド発射機』を

 それぞれ積んだハンドラー級を両方配備した艦隊を編制するのも一案かもしれん。

 鉄壁の波動防壁弾と攻守両用の重力子スプレッド弾を併用できれば、

 戦術的選択肢は広がり、一層船団の防御は厚くなる筈だ。」

 

山南の考えを耳にした出席者たちからは、感嘆の声も聞こえてくる。

その中で、『ヤマト』戦術長・北野哲也大尉の実兄でもある『ムサシ』艦長、

北野誠也中佐がふと、告げる。

 

『……こうして有効な護衛の手立てが講じられるのも、

 島中佐の「ヤマト」が行った"抜き打ち演習"で有用なデータが取れたこと、

 島中佐が演習後に「波動防壁弾」の配備推進を提言したことが大きいでしょう。

 それを思えば、本年5月の演習は実りあるものだったのではありませんか?』

 

「確かに。 そのデータを反映して、無人艦隊整備にも一役買った訳だからな。

 それが今回島中佐の『ヤマト』の任務を助けるというのだから、

 やはり世の中は予測が難しい。」

 

「は……そのような評価をしていただければ、小官としても恐縮です」

 

北野の言を受けた山南も唸り、突然名前を出された島も慌てて会釈する。

その中で内心、一人の人間・島大介として声には出さず独り言ちた。

 

(―――これも、"縁"という奴なのかもな)

 

それから島は、視線を改めて床の巨大モニターへ、そこに映る二種の無人艦へ向けた。

ハンドラー級は実のところ、それ自体がハウンド級無人艦の指揮・制御艦として

運用することもできるが、第一次ボラー船団ではハンドラー級もハウンド級と同じく

無人艦として『ヤマト』が一括制御することになっている。

 

(……『猟犬(ハウンド)』か。船団護衛という任務上、どちらかと言えば『牧羊犬(シェパード)』だな。

 とすれば、『ヤマト』は『羊飼い』と言った所か……)

 

そんな考えを巡らせた島の表情は難しく強張り、皺が影を作った。

 

(『良き羊飼いは羊のために命を捨てる』なんて言葉があるが……

 そうならないように努めるのが、俺の仕事だ。)

 

そう思い直して、瞑目し、息を吐く島。

 

先程話題に挙げられた5月の演習直後に島は、

急場に『無人艦隊』が間に合わない場合を懸念していたが、

それが現実のものとならずに済んだことに、大きな安堵を覚えているのだった―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

時をほぼ同じくして、

天ノ川銀河系とその伴銀河・射手座矮小楕円銀河との合間の銀河間空間……

ボラー連邦勢力圏に属すか・属さないかも怪しい、忘れ去られた辺境の恒星系。

 

そこには、かつての帝政ボラー時代、辺境警備の拠点として作られたものの

革命と連邦体制への移行に伴う混乱で放棄され、記録からも記憶からも抹消されてしまい

今や幽霊のように胡乱な存在と化した、帝政ボラー軍基地の跡が遺されていた。

 

しかし、誰もいる筈のないその跡地は今、

確かに人間が活動している傍証となる人工の光が幾つも灯っている。

その跡地には本来、エネルギー供給源は既になく、残置された機器のエラーではなさそうだ。

では、誰が………。

 

 

 

「ネガテボフ様、ご報告があります。」

 

「ん~?」

 

基地跡の一角にて、その()()の名が呼ばれ、()()の気の抜けた返事が響いた。

 

その男、ラウジム・ネガテボフ。

かつてボラー支配下にあった惑星ガルマンで圧政と暴虐の限りを尽くした上、

ガルマンの産出資源に加えて中央政府からの宣撫・開発用資金や資材をも横領して

不正物資ネットワークへと流し、私腹を肥やしてきた悪代官である。

 

彼は地球時間にして西暦2205年11月、

突如として支配していたガルマン星(と双子星)が消えたことによる

永久管理機構からの責任追及を逃れるため逃走・雲隠れし、

その結果、裏市場に混乱が生じて芋づる式に当局に不正物資ネットワークが露見したため、

現在推移中の『ボラー内戦』における全ての元凶であるとも言えた。

 

そのネガテボフ、実は以前から、変事があった際の保険として

偶然発見していた帝政ボラーの基地遺構を自分の隠れ家にできるように

不正物資と横領金を使って修繕と物資の備蓄を行って逃げ込める態勢を整えており、

ガルマン星系脱走後は秘書官ゴヤチェクを始め、ガルマン星に駐屯していた手下たち共々

この政府も誰も知らない『隠れ家』である基地跡に身を寄せていたのだった………。

 

 

そんな彼の下に、報告を届けに来たのは

古くからのネガテボフの秘書官或いは副官、ヴァルヨノ・ゴヤチェク。

ネガテボフの私兵たちの事実上のまとめ役でもある。

 

「……そろそろ備蓄物資が心許なくなってきた、ってのは昨日聞いたばかりだが、

 何か他に問題が起きたか?」

 

流石に一年近く潜伏生活を続けたことで、

ネガテボフが秘密基地に貯め込んだ各種物資も危うくなり始めているらしく、

彼はガルマン星消失前に基地に送っていたものの残りで、これまた数が少なくなり

ちびちびと飲まざるを得なくなったお気に入りの酒である『ガルマンの猿酒』を

呷りながら、自分と手下を今後も食わせるために、内戦を利用して

宇宙海賊にでも転身するか――といったことを勘案していた。

 

その折にゴヤチェクはどんな報告を持ってきたのか――

彼は硬い面持ちを崩さなかったが、これは生来のもので、事態逼迫故ではないようだ。

 

「いえ、そうではなく……こちらをご覧下さい」

 

そう言うと、彼はデバイスをネガテボフに差し出す。

受け取った()ガルマン星総督は、そこに映されていたものに目を凝らした。

 

「ン? これは確か、裏市場で使っていた連絡受信ページじゃないか。

 ここに遁走した後、全く使わなくなって連絡や取引を寄越してくる奴は

 いなくなった筈だが………」

 

「ハッ、しかし……」

 

ネガテボフの言う通り、裏市場の取引相手などからの秘密メール受信欄はほぼ空だ。

だが一件だけ、ついさっき受信されたばかりのメッセージが表示されている。

ゴヤチェクは画面の通知アイコンを叩き、メールを表示させた。そこには――――

 

 

「―――如何でしょう、ネガテボフ様」

 

「……でかしたぞ、ゴヤチェク。

 こいつは大魚だ、絶対に逃してはならん類いのな。

 とうとう、このネガテボフ様にも運が向いてきやがったらしい!」

 

メッセージを読んだネガテボフは相貌を愉悦の色に染め、ゴヤチェクを労った。

それから、拳を握り力説する。

 

「今や我々は、永久管理機構からは勿論、

 同じ不正役人どもからも裏ネットワーク露見の元凶扱いで敵視されている。

 だが、この"大魚"を釣り上げることができれば、

 内戦で永久管理機構を圧倒しているドゥハデス将軍への良い手土産になるぞ!

 これなら、『統治再建機構』に参画し、立場を保証されることも夢ではない!」

 

「では……!」

 

「兵士たちを集めろ、ゴヤチェク!

 状況を伝えた後、艦隊の出撃準備にかかるぞ!

 この基地は引き払うから、残りの物資の積み込みも忘れるな!」

 

「ハッ!!」

 

 

突如としてネガテボフの元に吹き込んだ、幸運の追い風。

 

雌伏の時を過ごしていたガルマン星()総督は瞳を爛々と輝かせ、息巻いた。

 

「隠れ家でドブネズミのように逼塞する日々には、そろそろウンザリしていたからな。

 ガルマンの件から始まった転落生活ともオサラバだ!!

 ガハハハハハハハ!!」

 

 

やがて、ネガテボフの根城だった帝政ボラーの基地遺構からは

ガノンダ級航宙母艦『ヌルポガ』を始めとした旧ガルマン星駐留艦隊、

即ちネガテボフの私兵艦隊が出撃していく。

 

その先にどんな運命が待ち受けているかは、まだ何人も知らなかった…………

 

 

 

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