宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第35話】
―――時に、西暦2206年9月23日。
体制側のボラー艦隊による先導を受け、宇宙戦艦『ヤマト』率いる第一回援ボ船団は
ボラー連邦勢力圏でも最外縁に位置する「惑星ムルマン」へと無事に到着した。
内戦下にあるボラー連邦において、地球・ガミラスからの援助物資の受け入れ地として
指定された体制側支配宙域内の有人惑星ムルマンは、恒星活動が活発な星系にあるため
ボラー側基準では温暖(地球やガミラスからすれば少々冷涼、ステップ気候程度)な星だ。
同惑星の市街地・民間宇宙港から大きく離れた北半球の荒野には、ボラー連邦の現体制、
永久管理機構の上部組織・最高管理委員会が直轄する軍事組織「親衛軍」の工兵部隊が
地球の船団を秘密裏に受け入れるための仮設宇宙港を建設していた……。
「ボラー体制軍・ムルマン仮設軍港からの誘導ビーコンをキャッチしました。」
「よろしい、輸送船の降下・入港を開始する。」
「『ヤマト』以下護衛艦隊は現位置での警戒態勢を維持。
この宙域がボラー叛乱軍の制圧宙域からもそう離れていないことに留意せよ。」
西条未来『ヤマト』船務長からの報告を受け、
島大介艦長と援ボ船団「TB-01」司令官ルーベン・ワード少将がそれぞれ指示を発する。
ボラー連邦(体制側)市民向けの人道援助物資を満載したガミラス製無人輸送船16隻は
『ヤマト』からの管制の下、仮設宇宙港を向首しムルマン星の大気圏へと降下を開始、
船団旗艦『ヤマト』と九隻の僚艦――大型・小型の二種の無人戦闘艦はそれを見送り
輸送船団の上方を守る傘になる形で護衛の任を続けていた。
ワード少将が言う通りムルマン星系は、ボラー連邦の辺境軍管区群が変じた叛乱軍
「統治再建機構」が実効支配する宙域から決して遠からぬ距離に位置しており、
彼らによる襲撃計画の存在もまたあり得ない話ではなかった。
そのため護衛戦艦『ヤマト』以下10隻の地球艦隊は航海中、常に神経を尖らせている。
万一叛乱軍の動きがあった場合は、ムルマン星系近傍に存在し、
宇宙軍港を有する「惑星アルヴァン」から同地に常時展開している体制側ボラー軍艦隊が
駆けつけてくる手筈にはなっているのだが――気が抜けないことに変わりはないのだ。
「ワード司令、艦長、ムルマン星仮設基地の責任者から通信が入ってきています」
「分かった。天井モニターに出します、司令」
「うむ。」
島はワードの諒解を得て、市川純通信長に命じて
ボラー軍の船団受け入れ部隊指揮官との通信回線を開かせる。
程なくして『ヤマト』第一艦橋天井モニターに映し出されたのは、緑肌の壮年軍人だった。
『――こちら、ムルマン星特設宇宙軍港基地。
小官はボラー連邦親衛軍のピオニロフ大佐である。地球軍護衛艦隊、応答願う』
「こちら、地球連邦防衛軍、TB-01船団護衛艦隊旗艦『ヤマト』。
船団司令官のルーベン・ワード少将です、どうぞ」
地球側の責任者であるワードは、ボラー連邦の正規軍とは異なる軍事組織である親衛軍が、
「実際の階級で言うと名目上のそれより一段階上」という特異な点――
つまり眼前の大佐が実質は自分と同階級であると念頭に置き、務めて丁寧に応対する。
『……遠路はるばる、我が連邦への援助のため御足労頂き、感謝申し上げる。
貴艦隊の在泊中の警備は我々ボラー親衛軍が責任をもって保障する。
安心して物資の荷揚げに注力していただきたい』
先方・ボラー側でも、上から地球側とトラブルを起こさないよう厳命されているらしく
ピオニロフと名乗ったエリートであろうボラー軍人は硬い表情ながらも丁重に挨拶した。
「了解しました。間もなく輸送船はそちらに着陸します。受け入れの方、どうぞよろしく」
『了解。ではまた、後程』
斯くして通信は短く、形式的なものに終わった。
だが、応対を担当したワードは大過なく、瑕疵なく接触を終えられたことに安堵する。
外交の蓄積が決して多くない、しかも内戦中の星間大国を相手に外交問題を起こしたり
今後地球が不利になるような振る舞いをすることは許されない。
ワードは『ヤマト』乗員たちに見咎められないように小さく、溜め息をついた……。
「無人輸送艦群、ムルマン星仮設宇宙港へ入港アプローチ開始。
……1号船、着陸します!」
十分後、ムルマン星へ降下した
地球(管制)・ガミラス(船籍)の艦艇が初めてボラー連邦の地に錨を降ろす歴史的瞬間である。
輸送艦を管制・間接操舵する『ヤマト』乗員らは極限の緊張下で最終工程に臨み、そして……
「1号船、指定エリアに着陸成功! 2号船以下、続きます!」
「「「おおっ!!」」」
事前の入念なシミュレーションが功を奏し、間接操船のガミラス無人輸送艦は無事着陸。
その後も事故を起こすことなく船団全16隻は仮設宇宙港へと入港を成功させた。
今度は安堵を表情に浮かべ、ワードは次なるフェーズへ作業を移行させるよう命じる。
「よし、ボラー側との協定通り、荷下ろしを開始する! 先方にも打電しろ!」
「はっ!」
『ヤマト』から信号が送られると共に、ムルマン星仮設宇宙貨物港では
ツァインフェルテ社から傭船したガミラス製輸送船に荷役クレーンや荷役車輛が群がり、
TB-01船団が地球から運んできた食糧・医薬品・医療機器・衣料品・インフラ設備など、
膨大な量の市民向け人道支援物資の荷下ろしが始められたのだった……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
荷役作業は一昼夜に及び、地球時間9月25日未明にようやくその全てが完了した。
『ヤマト』からは一部乗員がボラー側との確認事務のため連絡機でムルマン星へ降り立ち、
地球人類で初めてボラーの地を踏んだ者となったりもしたが、
ピオニロフ以下ムルマン仮設基地のボラー親衛軍人たちが終始協力的だったのが幸いして
事務自体は滞りなく済み、懸念していた反乱勢力の襲撃も一切なかった。
無事に荷下ろしを済ませた以上、『ヤマト』以下TB-01船団はムルマン星に用はない。
これからはムルマン仮設貨物港から無人輸送艦を離陸させ護衛下に収容し、
「BT-01」船団として地球・ガミラス共同開発宙域への帰路につくのである。
ボラー勢力圏内での案内役は、往路と同じくユーゲニ・ゴノレフ大尉指揮下の投射艦小隊、
『ヴォルシュティ63号』以下カルチヤ級ミサイル投射艦四隻が担うこととなっており、
その先導を受けながら地球の船団はムルマン星系を脱し、オリオン腕方面へ向かった―――。
「……ワード司令、一応我々の役割は果たしましたが、本当にこれで良かったのでしょうか?」
帰路道中の船団旗艦『ヤマト』士官室にて。
艦と船団の指揮を一時的に北野副長に任せ、島艦長とワード司令はカップを片手に談義中だった。
「うむ……言いたいことは分かるさ、
サルタ基地で君が言っていたように、現状では物資が市民の元に届くまで無駄な手間と
余計な時間がかかりすぎるため、直接我々がボラー市民の下に物資を運ぶべきである――
正直なところ、私も同意見ではある。」
島とワードの脳は、ムルマン星貨物港基地でのボラー親衛軍による作業光景を思い起こしている。
ガミラス製輸送船から荷揚げされた各種の人道援助物資は、宇宙港隣接の貨物集積ヤードに
一度積み上げられて保管され、地球の船団が発進した後にボラー体制側勢力圏中枢から来た
ボラー貨物船に積載されて、改めて援助物資を必要とする市民の下に向かうことになっていた。
島が言う通り、援助物資を届けるのにあたり実に無駄な工程が挟まっていると言わざるを得ないが
これがボラー体制側が地球側に提示した援助受け入れ時の条件であった。
彼らの立場では、他国に自国の内情――反体制側に圧されているという窮状を知られたくない
切実な事情があってのことで、長期的な視点では止むを得ざる判断と言う他なかったが、
山のようにうず高く積まれた援助物資の姿は、地球軍人たちの目に焼き付いて離れなかった。
「――物資をボラー側に引き渡した以上は最早我々にできることはないのだが、
願わくば、あの物資の山がしっかりとボラーの市民の手へ渡って欲しいものだ」
「……ワード司令は、ボラー親衛軍が物資を着服する可能性を考えておられるのですか?」
「まぁ……それもあるのだがな……」
島に訊かれ、ワードは言葉を濁す。
彼の頭の中には、当たって欲しくない二つの可能性についての予測が巣くっていた……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
幸いなことに、ワードが予想した悪い想定のうちの前者、すなわち島が指摘した、
「ボラー親衛軍が人道援助物資を着服・横領し、自らのものとする」可能性は杞憂であった。
地球時間9月26日、地球の船団と護衛艦隊がボラー連邦勢力圏外へ向け航海を続けている頃、
ムルマン星にはボラー連邦中央政府・永久管理機構が派遣した輸送艦隊が到着していた。
荒野の仮設軍港に次々と着陸した輸送船には、集積されていた人道支援物資が載せられていく。
ボラー体制側は地球・ガミラスと結んだ協定を忠実に履行せんとしていたのである。
『同志ピオニロフ、物資の積載完了までまだ少し時間がかかる。』
「了解した。くれぐれも事故を起こさぬようにな。最高管理委員会はこの物資に期待している」
軍港基地司令部でも、輸送艦隊側や荷役現場などと盛んに連絡を取り、
地球からもたらされた物資の積載、そして連邦体制側の市民の下への輸送を成功させるべく
親衛軍将兵たちが勤勉に働いていた。
「同志司令官、やりましたね!」
「ああ。こんな辺鄙な土地にせっせと荷受けの基地を造った甲斐があったというものだ」
物資受け入れ港の責任者ピオニロフは、部下からの言葉に表情を緩めて返す。
ボラー親衛軍大佐(=正規軍少将級に相当)である彼の本来の役職は工兵部隊指揮官で、
ムルマン星の仮設宇宙港も彼が指揮する工作隊によって建設されていた。
手ずから造った施設がその役割を十全に果たそうとしている事実……
それも眼前でのことであるため、感慨もひとしおであろう。
その傍らでなお、ボラー輸送艦隊への地球産援助物資の再積載作業は順調に進み、
しばらくして漸く最終段階に達する……。
事態が動いたのは、その時であった。
「周辺軌道上に無通告の艦影3!」
「なに!?」
突如、基地の対宙警備レーダーが上空遥かに正体不明の反応を捉えた旨が報告され、
ピオニロフ以下基地司令部の面々は身構えた。
ところが……
「この動力反応は……民間の貨物船の模様です。戦闘艦ではありません」
「民間船だと?」
ピオニロフは怪訝な顔をして訊き返す。
探知装置には確かに、軍用艦艇ほど高い動力反応値ではないと表示されていたが……。
「……この仮設軍港は極秘扱いだ。 ムルマン星自治政府にも詳しい情報を明かしていない。
それでも当局に航路規制はさせた筈だが、すり抜けた民間船がいたということか?」
顎に手を当てピオニロフは思案する。
そもそもムルマン星仮設貨物宇宙港基地は、最高管理委員会肝入りで
極秘裏に設営されており、万に一つでも情報が洩れている確率は極めて低く、
その上であり得る状況を考えてみれば、探知された相手は本当に民間船である公算が高い。
元より、ムルマン星は商港惑星で民間船の往来も少なくない。
基地は発見されることを避けるため、上空の宇宙空間には警備艦艇を置いておらず、
知らず知らずのうちに、接近してしまう船舶が現れてもおかしくはなかった。
「同志司令官、いかがいたしましょう。警告放送を行いますか?」
「いや、それではこの秘密宇宙港の存在が露見してしまう。」
「ではいっそのこと、対宙砲で……」
「冗談はよせ。情勢が情勢だ、穏当に済ませねばなるまい」
基地要員たちは対応に苦慮する。
仮に民間船相手に親衛軍が「無警告での撃沈」など強硬な手段を採った場合、
遅かれ早かれ基地の情報が洩れてしまう可能性が否定できないばかりか、
ムルマン星のボラー市民からの親衛軍や永久管理機構に対する心象を損ね
彼らを叛乱軍・統治再建機構の側へ追いやってしまう恐れすらある。
よって、慎重かつ穏健な対処が求められていた。
だが……
「民間船群、軌道上より高度を落とし、此方へ向かってきています!」
「まずい、基地の存在に気付いたのか!」
どうにも、上空の惑星軌道上にいた3隻のボラー民間船は
何もない筈のムルマン星の荒野に出現した秘密宇宙港の存在に気付いたらしく
それを確認しようとしているのか、大気圏内に侵入しつつあった。
可能性を低く見積もっていたアクシデントの発生に、ピオニロフらは狼狽を禁じえない。
「……かくなる上は、あの民間船群を拿捕・拘留せざるを得ん。
対宙砲台、警告射撃用意。警告放送後に発射しろ、絶対に当てるなよ!!」
事態の推移を見て腹を括ったのか、ピオニロフは苦り切った表情で命令を発した。
内戦前線での芳しからぬ戦況のせいか、永久管理機構が寄越した輸送艦隊には
護衛艦が付いていなかったため、宇宙港基地とボラー船団が有する唯一の自衛手段となる
宇宙港に配された移動式の対宙砲と高射ミサイル発射機が起動される。
そして、ピオニロフがマイクを取り
極秘宇宙港へ接近中の民間船に対し警告を行おうとした、まさにその時だ。
「――民間船からロックオン反応!?」
「はぁっ!?」
基地司令部内にアラートが鳴り響く。
接近中の艦船から基地へ、照準レーザーが向けられたことの証左である。
続いて、レーダーオペレーターが絶叫した。
「不明船からミサイル多数の発射反応!!」
「―――!!」
当初のレーダーの反応通り、ムルマン秘密宇宙港へ接近していた艦船は確かに、
クロトガ級やバルツイル級に似て角ばっていて胴が太い、
ボラー連邦で一般的な型式の宇宙貨物船の姿をしている。
しかし、その船倉はミサイル発射機という明白な害意で満たされていたのだった。
「輸送艦隊への積載作業中止! 乗員にも退避を命じろ!」
「至急、アルヴァン星に事態を報せよ!」
「対宙砲台、対空ミサイル、迎撃急げ!!」
完全に後手に回った親衛軍将兵らは半ば恐慌状態に陥りながらも打てる最善手を打つ。
今や将兵らにとり不明船は明確な敵艦――叛乱軍の偽装襲撃艦という認識へ移っていた。
彼らの耳には陽電子ビーム砲の発射音や、迎撃ミサイルの飛翔音が響く。
レーダースクリーンに映る敵ミサイルを示す光点が、ぽつぽつと消えていくが……
「駄目だ、多すぎる!!」
「敵ミサイル、4割を撃墜! ……残りが来ます!」
親衛軍基地防空部隊の奮闘も空しく、
敵がアーセナル・シップ化した偽装貨物船の放った大量のミサイルのうち、大半が
仮設宇宙港と停泊する輸送艦に向けての飛翔を続け、基地要員らの視界にも現れる。
「伏せろーーっ!!」
「ぐわっ!」
「うわああああ!!」
そして、秘密宇宙港のあちこちで爆炎が花開き、
基地施設を、船団を、異国の船が折角運んできた支援物資を、等しく残骸に変えていく。
荒野の仮設基地は盛りに炎上し、幾筋もの黒煙が立ち昇り始めた。
「うう……被害を報告しろ! それから、敵艦はどうした!?」
辛くもミサイルの直撃を免れ、
爆風による硝子窓の損壊程度の軽微な損傷で済んだ宇宙港基地司令部で
傷ついた身体を無理矢理引き起こした指揮官ピオニロフが状況把握に努める。
それに応えたのは、部下の悲痛な声だった。
「宇宙港全域に敵ミサイル着弾、基地のレーダー及び対空陣地半壊!!」
「通信システム全損! アルヴァン星に一報は入れましたが……」
「輸送艦隊も全艦が撃沈破された模様です!」
「……!!」
破滅的と言える被害にピオニロフは二の句が継げなかった。
一方で管制士官は、残るレーダーを用い基地に惨禍をもたらした元凶の動きを報じる。
「敵艦、増速してさらに接近中! ……それに、これは……!」
その士官の顔は報告するうちに恐怖に固まり、声を荒げて続きを告げた。
「敵艦、コグダール機関を暴走させている模様! 基地到達と同時に爆発させる気です!」
「なっ―――!?」
報告内容を聞き、ピオニロフは絶句し、その場にいた全員の顔が凍り付いた。
その爆発・エネルギー放出は原子融合兵器と同等以上の威力になる。
いかに軍艦より低出力である民間船の機関でも、
三隻分の自爆ともなればムルマン秘密宇宙港基地など微塵も残るまい。
それを瞬時に理解したピオニロフは絶叫と形容できる声で指示を飛ばした。
「墜とせ!! 絶対に墜とせ!! でなきゃ全員死ぬぞ!!!」
比喩抜きで生きるか死ぬかの状況に追い詰められ、宇宙港にいた親衛軍は
先にも増しての猛攻撃を、恐らく無人制御であろう敵偽装貨物船に浴びせつけた。
艦砲用より若干威力のある赤い陽電子ビームが、先の攻撃で誘爆しなかったミサイルが、
次々に空へと打ち上げられていく。
(頼む、来させるな―――!)
ピオニロフは祈る気持ちでその光景を見つめている。彼の表情は最早泣く寸前のそれだ。
「敵艦一隻、撃沈!!」
「やった……!」
その祈りが天に通じたのか、宇宙港からの必死の迎撃砲火はついに襲撃者の一角を斃す。
兵器を隠し積んでいたとしても所詮は貨物船、防御力は大したことはない――
そんな希望が宇宙港司令部の面々の胸の中に沸き上がった。
しかし、残る二隻の偽装貨物船は着々と宇宙港へ迫り、既に光学観測できる距離だ。
司令部でも望遠カメラで捉えた敵艦の姿が、半壊したスクリーンに映される。
「これは……!」
「まさか!?」
映し出された映像を見て、司令部要員の一部に"あること"に気付いた者がいた。
ピオニロフもそのうちの一人だった。
「
映像に移る偽装貨物船には数発、ミサイルやビームが命中する。
しかし、敵艦の表面は光を帯びたかのように淡く輝いており、船体には損傷が見えない。
それこそは、敵艦がボラー連邦版「波動防壁」を使用している証であった。
かなりの命中弾を得ているのに、敵艦が中々沈まない理由は紛れもなくこれである。
その上どうも、敵はわざわざ戦艦・装甲艦用の強力な代物を
偽装貨物船に装備させたらしい。明らかにこの特攻を成功させるためだ。
絶対にムルマンの秘密宇宙港を潰す――敵がそう宣言しているかのような周到さだった。
(万事休す――)
既に敵艦は、割れた宇宙港司令部の窓から肉眼で見えるほどに接近しており、
ここから敵を撃沈できるという「奇跡」を期待するのは分が悪すぎる。
形を持って現れた避けがたい「死」に震える司令部要員らの中でピオニロフは
現実逃避のためか、どこか観念したかのような茫然とした表情で、思考を別のことに向けた。
(………それにしても、どうやって叛乱軍はこの基地の存在を突き止めたのだ?
地球船団の受け入れ港については極秘中の極秘、我が隊から漏れたとも思えん……)
怒号と悲鳴が満ちる司令部室内で、ただ一人別世界にいるかのように彼の思索は続く。
(地球やガミラス側が叛乱軍に情報を流す利点もさしてあるまい……。
――まさか、親衛軍上部や最高管理委員会から……?)
ピオニロフの脳内には様々な可能性が浮かんでは消え、
やがて「外部からの物資援助」という話を最初に持ち出した体制側上層部に疑いが向かう。
だが、その問いに応える、答えられる者はなく、
次の瞬間、秘密宇宙港司令ピオニロフ大佐の思考は肉体もろとも蒸発したのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
帰路にあるBT-01船団を率いる宇宙戦艦『ヤマト』に、ボラーの先導艦経由で
「ムルマン星秘密宇宙港で大爆発が発生、同基地が潰滅した」との一報がもたらされたのは
道程においてボラー連邦勢力圏の境界が見えてきた頃、9月28日未明のことであった。
船団の責任者であるワードはその時、事実上の司令官室と化していた応接室におり、
そこで旗艦と各艦の制御を任されている島艦長と同日の打ち合わせを行っていた。
急報を聞いたワードは事情を察したのか、「やはり……」と言わんばかりに顔を曇らせ、
表情筋を強張らせた島と顔を見合わせた。
そこへ「失礼します」と若々しくハリのある声が響き、次いでドアが開く音が二人の耳に届く。
「貴官は確か、戦術科の……」
「土門か……」
ドアの向こう側から現れたのは、赤いラインが入った防衛軍士官服を着た若い男性軍人。
宇宙戦艦『ヤマト』戦術科の期待のホープ、土門竜介少尉であった。
「司令、艦長、意見具申致します!
――ただちに反転し、ムルマン星基地の救援に赴くべきです!!
司令部からの『可及的速やかにサルタ基地へ帰投せよ』という命令からは逸脱しますが、
人道的見地から救援に赴くことはボラー援助船団の趣旨に反しないと考えます!
第一次サレザー事変の時のように、政府も防衛軍も追認するのではないでしょうか!?」
土門は気後れすることなく、上官たちに向けて熱弁を振るう。
直属の上司である戦術長(兼副長)・北野哲也大尉を介していないことから、
戦術科員の総意ではないことが伺えたが、『ヤマト』には土門と同期の防大38期生出身者が
多く配置されており、同期首席の土門がその連帯の中心にいることは島たちも知っている。
恐らく彼ら若い乗組員たちで共有した具申を、リーダー格の土門が持ってきたのだろう……。
「土門、それは…… …ッ、司令?」
ひとしきり語り終えた土門に対し口を開こうとした島艦長だが、それをワード少将が制する。
そして船団司令官は土門の前に立ち、冷静に言い放った。
「……貴官の具申は理解した、ドモン少尉。
だが、その意見は複数の観点から見て、却下せざるを得ない。」
「……! ――理由をお教えいただけませんか?」
ワードが示したのは、明確な具申の却下。
対する土門は一瞬固まったものの、怯むことなく船団司令にその訳を問い、ワードは答える。
「まず、ボラー現体制側からの伝達内容によれば、
ムルマン星宇宙港で起きた大爆発の原因は『不明』とされている。
尤も、『ボラー軍輸送艦の機関暴走による可能性がある』という但し書きがあるがな。」
「原因不明ということは、ボラー反体制派による攻撃の可能性がある、ということですか?」
土門が返す言葉にワードは頷き、つらつらと自身の見解を述べた。
「その通りだ。仮に反体制派による攻撃だったことが明白であっても、
馬鹿正直にこちらに伝えられる訳がない。
数日前まで我が船団は、その基地に寄港していたのだからな……。
いつでも敵の攻撃を受ける可能性がありましたなどと知られては、彼らの威信に関わる。
――ともかく、問題の大爆発が反体制派の攻撃の可能性がある以上、
ムルマン星へ救援に戻るのは反体制派と遭遇する公算が高い。
むしろ、反体制派の襲撃部隊が本船団を追尾している可能性さえある。
ボラー側も、我々にムルマン星が襲撃を受けたと看破されるのを承知の上で、
危険を報せるため、敢えて『原因不明』と濁して暗示する形で伝えてきたのかもしれん。
船団に、この宇宙戦艦『ヤマト』とその乗員の生命に責任を持つ身としては
回避可能でありながら、危険性の高い宙域へ船団を向かわせることには同意できない。」
「しかし……!」
理路整然としたワードの説明を聞いてなお、土門は食い下がる。
土門は、ムルマン星現地でボラー側と直接折衝に当たったうちの一人であり
現地将兵らと見知っていたため、救援に向かいたい心境であることは容易に想像できた。
ワードは土門への説得を続ける。
「……貴官は先ほど第一次サレザー事変を例に出したが、あの時とは相手が違う。
ガミラスとはそれなりに外交関係を構築してきたが、ボラー連邦に対する交流は
まだ端緒についたばかりで、救援が地ボ国交条約で行わないと定めた
「内政干渉」にあたって外交問題化しないと言い切ることはできない。
向こうとしても付き合いが短く、しかも有益な異星からの客である我々を
不用意に危険に晒したくはあるまいし、救援を申し出ても却下するに決まっている。
また、さっき言った通り宇宙港の潰滅が反体制派による攻撃だった場合、
地球全体が現体制派に与した、中立違反だと受け取られる可能性がある。
我々の一存で、ボラーを二分する勢力の一方を丸ごと地球の敵に回すことは許されん。」
「「……!!」」
ワードの言葉に土門、そして島の心身が引き締められる。
本来『ヤマト』は外交特務艦であり、こうした事情には一層気を遣わねばならない。
その艦長を務めるうえ、艦長としての判断の結果ガミラスとの星間戦争の口火を切った
故・島大吾一等宙佐を父親に持つ島大介大佐は、特に。
ムルマン星への救援は、地球(及びガミラス)を新たな星間戦争に導きかねない。
そのためワード船団司令官は、何としてでも救援実施の意見を退けねばならなかったが、
ここで彼は、峻拒一辺倒の硬い態度を緩め、諭すような柔らかい口ぶりで語った。
「――それにだ、船団を先導するゴノレフ大尉たちのことも考えてみたまえ。
軍組織の違いはあれど、同じボラー人である以上、
一番任務を放棄してムルマンへ救援に行きたいのは彼らの方であるはずだ。
それを堪え、我々を無事に帰すために先導艦の任を続けてくれている。
……彼らの想いも、汲んでやれないか――?」
「……確かに。」
「………。」
硬軟織り交ぜて攻めたワードの説得に折れたらしく、土門は先ほどまでの熱気を失っていた。
それから若干の間を置き、彼は威儀を正し、ワードと島に向け敬礼する。
「――浅慮でした、司令、艦長。 同意見の者は、私が責任を持って説得します。」
土門はそう言い残し、応接室から退出していった。
後に残されたワードと島の間には、どこか気まずい雰囲気が漂う。
「……申し訳ありません、司令。 本来は艦長の私が説得すべきでした……」
「いやいや、私が出過ぎた真似をしたのだ。
ただ、"便乗者"である私と違い、君と彼のような乗組員は今後とも同じ船で任務に当たる。
その際に不都合になるようなわだかまりができては困るだろう……。」
「はっ、お気遣い痛み入ります……。」
ワードの配慮に頭を下げる島。一方のワードは言葉を継いだ。
「今回は急を要するため君から機会を奪い先送りにさせてしまったが、
いずれ君も正面から乗組員と意見をぶつけねばならない時が来る。
そうして相互理解した上でなければ、いざという時に結束しきれんからな……」
「……肝に銘じておきます。」
第五代『ヤマト』艦長・島は、先達の指揮官としてワードが口にしたことを胸に刻み込む。
古代に
その不足たる「真の結束」に不可欠なのはワードの言う通り、乗組員たちとの衝突と和解。
それに向き合うことになるのはこの先必定だが、いつになるのかは判然としなかった。
対して、ワードはエネルギーを消耗し、くたびれたとばかりにソファへと腰掛ける。
白手袋に包まれた両手を目に当て、大きな溜息を吐く姿は、
上に立つ者、そして組織人の哀愁を感じさせるものだった………
感想、お待ちしております!