宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第四十話  夜半の宙より昏き影

 

【第40話】

 

 

スカラゲック海峡星団海戦の終結後、地球連邦防衛宇宙海軍の宇宙戦艦『アリゾナ』と

生き延びた6隻の随伴無人戦闘艦は、救援に駆け付けたボラー体制軍の間接護衛部隊・

第三戦闘艦隊主力による厳重な護衛の下で海峡星団から移動。

そして先んじて海峡星団外へ脱出してボラー第三戦闘艦隊と無事の会合に成功し、

同艦隊から直掩に付けられた分遣部隊と共に安全と思われる宙域へ避退していた

護衛戦艦『ペンシルバニア』以下の援ボ船団「TB-16」本隊との合流を果たす。

 

「ボラー叛乱軍と思しき無人艦隊による襲撃」という非常事態に直面した

地球軍TB-16船団とボラー軍第三戦闘艦隊は協議の末に、船団の当初の目的地であり

周辺宙域の中で最も防備と宇宙艦艇の修復・整備設備が整っている、

ネリン軍管区中枢の惑星ネリンへ向かう決断を下した。

地球船団はボラー艦隊約二百隻からの厳重な直接警護を受け、元来迂回ルートだった

スカラゲック海峡星団をもさらに迂回する遠回りな航路の利用を強いられながらも、

『アリゾナ』隊が身を挺して守り抜いた船団、その大量の積荷を

ネリン星のボラー市民へ届けるため、休むことなく前へ前へと進み続けたのである。

 

――そんな地球人たちの姿を、ボラー軍人たちが傍らから見つめていた。

ボラー軍護衛艦隊の旗艦、アーコフ級戦艦『ボルボガフ』の艦橋に佇んでいる

司令官テヴァン・マガロク中将と、艦長のキョードル・ガンプキン大佐も例外ではない。

 

「――それにしても、大した艦(フネ)だな。あの宇宙戦艦『アリゾナ』は」

 

「えぇ……。相手が無人艦だったにせよ、我が軍の増強編制打撃艦隊を相手に

 あれだけの数で救援到着まで持ち堪えたのですからな。

 『アリゾナ』以外の随伴艦は外部制御の無人艦であるのを鑑みれば、

 事実上『アリゾナ』一隻で渡り合っていたようなものです。」

 

「しかも、星団γ星宙域での前哨戦においては一隻の損失艦も無しに

 来襲した中隊、大隊規模の部隊を一方的に殲滅している。

 この上あの艦は、本来は我がボラー砲(アンネ・ランティル)をも上回る大威力砲を備えている。

 協定による封印措置がなければ、星団β星宙域に現れた百五十隻の敵主力も

 我々が救援するまでもなく『アリゾナ』が全滅させていたかもしれん。」

 

「いやはや、万が一にも無いことを願うばかりですが、

 我々が彼の艦と全力で戦うことになった日には……背筋が凍りますな」

 

「同感だ。」

 

延べ二百隻超に上る敵無人艦隊の襲撃に対し、僅かな手勢を率いて立ち向かい

これに大打撃を与えた地球の戦艦『アリゾナ』を、マガロクらは高く評価していた。

 

その一方で、彼らは地球艦隊が受けた襲撃についての事実確認、分析を急いでいる。

結果如何では、再度の襲撃がある可能性も否定できないためだ……。

その一環となる情報について、ガンプキン艦長がマガロク提督に尋ねた。

 

「……して、その『アリゾナ』が追跡防止措置を徹底したにも拘らず、

 星団β星宙域で敵の主力に追いつかれた理由は判明したのですか?」

 

「うむ。……これを見たまえ」

 

マガロクは自席である司令官シートの操作盤(コンソール)を操作し、投影式モニターに画像を表示させる。

画像に映るのは、大きな円筒形の両側にアンテナらしき突起が幾つも生えている

二つの直方体が組み合わされた、ボラー連邦らしい無機質な意匠をした何らかの装置だった。

マガロクは腕組みして、説明を始める。

 

「これは、連邦の管区管理委員会が星団β星の第五惑星軌道に配置した、

 航路保安を目的とした広域監視装置だ。

 相応の耐久性と観測性能を備えたもので、星間物質が濃いあの辺りの宙域でも

 軍艦の観測機器より広範囲かつ精度の高い宙域観測が可能な代物だ。」

 

「はぁ……。――いや、まさか……」

 

「ああ。この装置の情報送受信システムを検査させた所、

 正規の航路管理部局以外にもデータを転送できるようなシステムの穴(バグ)があった。

 『アリゾナ』は、γ星からの空間跳躍(ワープ)追跡防止に失敗したのではない。

 β星宙域に移動してから、乗っ取られたこの装置を介して敵無人艦隊に発見され、

 追跡されることになったのだ。」

 

「なるほど……これは対策のしようがありませんな。

 多分、『アリゾナ』は観測装置の存在は兎も角、位置は把握していなかったでしょう。

 自艦の観測範囲外から、敵に知らぬ間に見つかっていたとあっては……」

 

観測装置が映ったスクリーンを凝視し、納得したとばかりにガンプキンは頷く。

マガロクも、続けて語った。

 

「現在、我が艦隊と地球船団が航行中の迂回航路にもこれと同じ装置は存在するが、

 情報が抜き取られていないか、先行させた艦に全て確認させている。

 敵襲撃部隊がまだ残っていたとしても、探知を頼っていた装置を無効化されてしまえば

 追跡することは出来まい。――とはいえ、気は抜けんがな」

 

「無論、警戒は厳とします。

 それで……地球側には、あ(・)の(・)無(・)人(・)艦(・)隊(・)の(・)正(・)体(・)については、まだ?」

 

「ウム……」

 

続いて、ガンプキンが遠慮がちに口にした質問に、マガロクは渋面を作って黙り込んでしまう。

二人とも、地球船団を襲った無人艦隊の正体については察しがついており、

マガロクに至っては、撃滅した敵無人艦の残骸から得られたボラー軍艦船コードなどを

当局に報告・照会したため、正式に上層部から"敵"の正体を明かされていた。

だがその事実は、公的に認めるには極めて政治的な問題が存在していたのである。

 

(今のところ、口が裂けても言えまいな。

 連邦体制側援助のための地球船団を襲撃していたのが、その体制側の艦隊だったなどとは……)

 

マガロクやガンプキンは既に、ボラー体制側に残った正規軍高級将校間の情報網から

「ネリン軍管区へ増援に向かった無人艦隊が遭難・行方不明」という極秘情報を得ている。

そこから無人艦隊が叛乱軍の手に落ち、地球船団襲撃に投入されたという推理を

導き出すのはそう難しいことではなかった。

 

(叛乱軍め、どんな手段を使ったかは知らんが賢しく厭らしい真似をする。

 いかにもドゥハデス大将あたりがやりそうなことだ)

 

マガロク提督の脳裏には、凛とした姿の裏に猛々しさを秘めた若き叛乱軍首魁の顔が現れる。

軍の裏に流れる情報と自身の洞察力から、マガロクはドゥハデス将軍の本性を掴んでいたのだ。

 

(……それにしても、今はまだ「調査中」の一点張りができているが、一段落ついたら

 最高管理委員会や軍首脳部も地球側に一定の回答をせねばならなくなるだろう。

 下手にはぐらかし続ければ、それこそ叛乱軍の思う壺だからな)

 

ボラー連邦の属国である惑星バースに生まれ、青年期にその国軍に入り

軍の最高司令官を兼ねるバース星国家元首"大公"ラム・ラ=ジェンドラ将軍の下で

バース国防軍総旗艦『ラジェンドラ』号の艦長を務めた経験もあるテヴァン・マガロク提督。

彼には長年の軍務で培われた広い視野で、不得手なれど政治についても多少の理解があった。

問題である「無人艦隊の正体」の公表の仕方と影響について複数のパターンが

マガロクの頭の中に思い描かれていく。

 

(地球側は襲撃してきた無人艦隊が、戦時急造型の廉価製品(やすもの)であることを既に知っている。

 内戦中のボラー連邦(わがくに)でそんなものをわざわざ作っているのは

 追い詰められている体制側ということはすぐに分かる筈だ。

 破竹の勢いにあるとはいえ生産能力では劣っているであろう叛乱軍なら、

 無人艦隊を送り込むにしても新造するより自動制御にした普通の艦を使う方が自然だからな)

 

どのみち地球側は遅かれ早かれ襲撃してきた無人艦の出所を体制側と判断するだろう――

そう結論づけたマガロクは、続いてその後の展開をシミュレーションする。

 

(ムルマン星の件を考慮すれば、体制側が採れる選択肢は「不明として黙っておく」、

 「無人艦隊の正体を地球側に正直に白状する」、「叛乱軍のものとして伝える」の三つだ。

 だが叛乱軍はまぁ――大っぴらに関与を認めれば当然地球・ガミラス側との関係を損なうから

 知らん顔を決め込むに違いない。後で「体制側の陰謀」と主張してくる可能性も高い。)

 

大国ボラー連邦を二つに割った内戦の勢力双方の動き方のパターンを頭に並べ、

マガロク提督は選択肢によりもたらされる影響を簡易的に検証していった。

 

(体制側の最初の選択肢、これはまぁ「ない」だろう。

 先述の通り地球側は襲撃艦隊をどこが作ったかは察するだろうから、濁しても仕方ない。

 同じ理由で三番目「叛乱軍への全面的責任転嫁」もやりはすまい。

 下手をすれば、「地球を体制側として参戦させるために現体制が仕組んだ、

 体制側無人艦隊を叛乱軍に偽装して用いた偽旗作戦」と受け取られる恐れもある。

 何より、こちら側の勢力圏、しかも比較的安全とされていた戦線から離れた後方宙域に

 敵方の侵入を許し、あまつさえ中立国の船団を襲撃された上に

 敵の正体が分かりませんでした、などとほざいたら現体制の威信は無に帰す。

 地球やガミラスから二度と援助船団を送って貰えんだろう。)

 

(では、二番目の選択肢……「無人艦隊が体制側の作ったもの」だと正体を明かす。

 一番妥当な選択肢だが、これもこれで体制の威信は粉々だな。

 無人艦隊が叛乱軍に奪われて偽旗作戦目的に使われたにしろ――

 或いはもっと単純に敵味方識別システムや作戦用人工知能の不備・暴走だったにしろ、

 内戦中とはいえ自軍兵力の統制管理ができていないと外国に知られるのは

 永久管理機構や軍が最も嫌がりそうなことだ。

 ただ、「再発防止の徹底」を言い張れば船団再開の目は残るから、選ぶとすればこれだ)

 

(一方の叛乱軍。今後連中も地球やガミラスに船団派遣を求める必要が出てくる

 可能性がゼロではないし、ひいては地球やガミラスを体制側で参戦するのを防ぐには

 関係悪化回避のため完全黙秘か体制側への責任転嫁、あるいはその両方をする筈だ。

 質の悪いことに今回の襲撃は無人艦隊、しかも体制側が作ったものを使っているだけあって

 叛乱軍が関与した証拠が全くと言っていいほどない。残骸からも艦隊自動運用プログラムほか

 各艦のソフトウェアへの量子ウイルスなどによるハッキングの形跡は巧妙に消し去られていた。

 このまま黙っていれば「暴走した体制軍無人艦隊の地球船団襲撃事件」が完成するだろう。

 

 連邦市民や軍の風見鶏勢を扇動したように地球・ガミラスを叛乱軍側に引き込みたいなら

 さっき出たような「体制側が叛乱軍を装って行った偽旗作戦」とのたまってくるな。

 まぁこれは体制側や地球による発表や動きがあってから「反論」として行われるだろうが)

 

かくしてマガロクは思考を結論へと向かわせ、脳の廃熱を棄てるべく溜息をついた。

 

(結局、我が第三戦闘艦隊が"敵"を撃滅してしまった以上

 体制側謹製の無人艦隊が何故地球船団を襲ってきたのか、真相を掴む手掛かりは消えた。

 順当に叛乱軍の工作による援助妨害作戦なのか、単なるシステムエラーでの暴走なのか――

 どうにせよ影響は大きい。しばらく地球やガミラスも援助船団は出せぬだろうから

 我々も船団間接護衛任務が空いて、叛乱軍との戦闘に投入されるかもしれん)

 

思索からの解放に伴い、開かれたマガロクの双眸は再び旗艦『ボルボガフ』艦橋窓の外、

自身が率いるボラー艦隊の僚艦と、故郷から遥か彼方の地で戦火に晒されたにも拘らず

怯むことなく罪なきボラー人民のために援助物資を運んでくれる地球(テローナ)の船団がいる宇宙を捉える。

その船たちが舳先を向けている目的地・惑星ネリンは未だ遠く、姿を見せなかった………

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そして、地球時間にして九日後・西暦2207年1月7日。

地球政府・軍の高官たちは、慶賀すべき年明けを重苦しい雰囲気の中で迎える羽目になっていた。

 

地球首都にある巨大な連邦庁舎ビルの地下会議室にて緊急で開催された防衛会議の席上にて

隈が濃い・疲労に窶れた顔で、対ボラー援助船団計画本部に参加している防衛軍将校――

本職は連邦防衛軍参謀本部兵站部長である、下村光二郎少将が報告している。

 

「……以上が、現在目的地の『惑星ネリン』地表、ネリンラグート宇宙港にて

 船団が運んだ援助物資を荷揚げ中であるTB-16船団司令部からの報告となります。」

 

報告内容を言い終えると、再度椅子に腰を下ろす下村少将。

その様からは、重荷を長時間背負い続けているかの如き彼の疲労感が見て取れる。

無理もない。

 

「援ボ船団が正体不明のボラー無人艦隊による直接襲撃を受けた」という信じ難い報告は、

先のムルマン星宇宙港潰滅事件を遥かに上回る衝撃を地球連邦政府・地球連邦防衛軍に齎した。

黒幕と目されるボラー叛乱軍との開戦すらもあり得る急報を受け、地球政府・軍の実務者たちは

各組織やボラー大使館などを往復し、事件の情報収集と実態把握のため徹夜で働いたのである。

その最前線に立ったのが、問題の「援ボ船団」の運営組織・船団計画本部の所属者にして

軍人でもある下村少将だったのだ。同時期の彼は、過大なストレスに苛まれる憂き目を見ている。

 

「『船団はその後再度の襲撃を受けることなく目的地に入港、明後日には荷下ろし完了』か。

 ―――問題はその後、船団の帰路だな。襲撃が一過性のものであるならまだしも、

 継続的に生起するとなれば、今後の援ボ船団の派遣は非現実的となりうる。」

 

下村の報告を聞き終え、重々しく口を開いたのは

地球連邦防衛軍の第四代統括司令長官、ウォルター・I(アイザック)・キンメル大将である。

援ボ船団襲撃に伴って緊急で開かれた防衛会議には軍令のトップである彼のほか、

通信越しながら、名目上の防衛軍最高司令官エイブラハム・ダグラス地球連邦大統領と

民主主義の軍隊として防衛軍の文民統制を体現する地球連邦国防局長官・藤堂平九郎が出席。

他にも地下会議場には防衛軍参謀本部次長ジャン・M(マイカン)・ダニガン中将、

防衛軍情報局局長ポール・ドラコール少将、宇宙海軍艦隊参謀長ヨハネス・W・ワッケーン中将、

艦政本部長・谷鋼三中将、第七艦隊参謀アレン・ワイナカパック中佐らが軍から参加。

さらに連邦政府省庁からは外務局から曾根川恒夫外務次官などが顔を出していた……。

 

「ボラー連邦体制側からは謝罪と共に、船団を襲撃したボラー無人艦隊の正体について

 「先日行方不明になった体制側のものである」とする回答を大使館経由で得ました。

 行方不明になった原因は不明ながら、信号が途絶えた宙域付近の暗黒星雲の干渉波によって

 システムに不具合を生じさせ制御不能となり、遭難した公算があるとしています。」

 

「遭難・漂流していた無人艦隊をボラー叛乱軍が鹵獲し、正体を隠しての襲撃に利用したか、

 あるいは制御不能になった艦隊がそのまま敵味方識別不能となり船団を襲ったか……

 我が援助船団襲撃に至った経緯についてはこれらの可能性がありますが、判然としていません」

 

「叛乱軍による工作だった場合、そもそも無人艦隊の遭難も叛乱軍の企てだったかもしれんな。

 システムのバグを衝かれたか、コンピュータウイルスに感染したか……。

 他の戦線のボラー無人艦隊からそうした痕跡が発見されれば、図式もハッキリするのだが」

 

『ボラー大使館からは現在、叛乱軍との全ての戦線で無人艦隊は運用を一時停止しており

 運用システムの検査を徹底させているとのことだ。

 これも含めて、援助船団航路の安全確保と護衛を万全とするゆえ、

 くれぐれも援助船団の継続を要請したいとするメッセージを伝えてきている。』

 

これまで地球側が得られている情報を基にして、高官たちの活発な議論が交わされる。

 

双方に利を成すと表明した中立国ゆえ攻撃はあり得ないと高を括っていたところで

正体不明なボラー艦隊による船団襲撃を受け、しかも無人の護衛艦とは言え

撃沈艦を出したことによって地球の連邦政府と防衛軍は大いに震えあがることになったが、

彼らは地球人類存続のためにそこで停滞する・停滞を許される組織ではなく、

この状況に対処・適応・克服すべく地球当局は極めて素早い計画修正を行っていた……。

 

『ボラー側に言われずとも、地球が援助船団を打ち切る選択肢はあり得ない。

 地球の将来的な立場と威信を慮り戦ってくれた宇宙戦艦『アリゾナ』の乗組員に

 報いるためにも、断固としてボラー体制側への援助は継続する。

 現在情報統制は厳としているから、世論による船団実施への影響は考えずともよい。』

 

『それに伴い、表立ってではないにしろ、

 ボラー叛乱軍による妨害工作が激化する危険性がある。

 船団実施部隊には負担をかけてしまう形になるが、我々連邦政府と軍の上部が

 一丸となって船団の、何よりも将兵たちの生命を守る万全の準備を実現しなければならん。

 先ほど報告されたネリン星在泊中のTB-16船団含め、全援助船団の位置・状態を

 改めて把握し、現状況に対する追加の備えを講じたい。』

 

大統領府から極秘回線通信で参加しているダグラス大統領が口火を切り、

同じく首都中央行政庁舎ビル地上部の国防局区画から遠隔参加する藤堂長官が続く。

これに応じて、援ボ船団実施部隊(第七艦隊)が属する防衛軍宇宙海軍からの代表、

宇宙艦隊参謀長ヨハネス・W(ウォルフガング)・ワッケーン中将が淀みない口調で報告した。

 

「本日2207年1月7日現在、活動中の対ボラー連邦援助船団は3つ存在しています。

 1つは先述の帰路船団「BT-16」で、目的地ネリン星で荷揚げ中であると共に

 ボラー側の協力の下、戦闘に参加した『アリゾナ』及び無人護衛艦の整備・応急修理を

 惑星ネリン現地のドックにて実施中。次に、宇宙戦艦『ムサシ』を旗艦とし、

 襲撃事件を受けてサルタ基地からの出航を見合わせている往路船団「TB-17」。

 最後に、整備のためドック入りした宇宙戦艦『ヤマト』に代わって

 船団護衛艦隊に配備された、欧州軍の新造護衛戦艦『ウェールズ』を旗艦とする

 「TB-18」船団、これは現在バーナード星で援助物資積載の途上にあります。」

 

ワッケーン参謀長の言に、参謀本部次長ダニガン中将の発言が続く。

内容は地球の同盟国ガミラスが独自に編成した、彼の国最初の援助船団についての情報だ。

 

「グアムのガミラス大使館及びアルファ・ケンタウリのガミラス銀河駐留軍からの

 伝達によりますと、ガミラス側も事件を受けて援助船団拠点のバラン星と

 ボラー勢力圏の中間位置で船団を停止させているとの事。船団護衛艦隊の司令官

 フォムト・バーガー少将は、念のため護衛艦隊への増援を要請したそうです。」

 

これらの報告を聞き、傍聴に回っていた統括司令長官キンメル大将が言った。

 

「BT-16船団に対してはボラー側による帰路の護衛・安全確保の徹底と

 彼ら自身の判断に任せる他ないが、停止中のBT-17、18船団については

 今からでも手の施しようがある筈だ。

 特に後者についてはこの際、出発時期を大きく延期する選択肢もあると考える。」

 

キンメルの提案に、ワッケーン宇宙艦隊参謀長と谷艦政本部長が賛同する。

 

「確かに、TB-18船団の護衛戦艦『ウェールズ』は就役して間もない艦です。

 同艦を筆頭とする時間断層で新造された各管区軍籍の護衛戦艦群は、

 乗組員は各艦隊に配備されていた2201年改設計型艦艇部隊のクルーを転属させており

 将兵の練度は決して低くはありませんが、ヤマト型やアリゾナ型の乗員たちほど

 艦に習熟しているとまでは言い難い、と評せざるを得ません。」

 

「……何しろ、「ヤマト型の対ガミラス外交特務艦任務への復帰」と

 「援ボ船団護衛戦艦のローテーション」の両立のために急遽追加建造され

 詰めに詰めたスケジュールで半ば無理矢理戦列に加えたようなものです。

 『ウェールズ』などの慣熟訓練は、これまでの技術的蓄積による自動化や

 共通マニュアル化が進められているとはいえ3カ月程度に過ぎず、

 ヤマト型は言うまでもなく、訓練期間が半年弱は確保できたアリゾナ型にも劣ります。

 そうした事情を抱えていては、また船団が襲撃を受けることになった場合、

 今度こそ犠牲者を出しかねませんな……。」

 

連邦外務局からの参加者・曾根川外務次官もボラー側の事情を汲む形でこれを後押しした。

 

「仮に、第十八回以降の船団が遅延することになっても、

 ボラー体制側から苦情が入ることはないでしょう。

 これまでの船団が運んだ物資は相当量に上りますから、暫く船団の運航が滞っても

 援助物資提供に急を要する彼の地の惑星は多くはない筈です。

 それに元々、ボラー側も船団受け入れに際して必要となる、監視を兼ねた

 間接護衛艦隊のローテーションに苦労しているという情報を掴んでいます。

 ガミラス側も援助船団を派遣している現状、むしろ地球船団の不在は好都合かもしれません。

 何より、ボラー側の都合で船団派遣を要請し、ボラー側の都合で船団が危険に晒された以上

 我々に対して強く言うことなど出来ないでしょうからね。」

 

曽根川の発言に頷きつつ、キンメル司令長官は改めて上司の藤堂や大統領などに提案する。

 

「――大統領、国防長官。

 今後の援助船団派遣にあたり、実施部隊将兵の生存率を高めるためには、

 敢えて一時的に船団派遣のペースを落とすことが必要になると考えます。

 そうして稼いだ時間で、今後の船団ローテーションに必要となるであろう

 新造護衛戦艦への乗組員たちの追加慣熟訓練を実施し、再度の有事が起きた際に対処し

 生還できる確率を高めるようにすべきであると、具申させていただきます。」

 

『ウム。』

 

『いいだろう。その提案に賛成する。』

 

ダグラスと藤堂も、理路整然としたキンメルらの提言を受け入れる。

これで当座の「援ボ船団」継続のための方針は決まった――そう思われた矢先のことだった。

 

防衛会議参加者の一人、防衛軍情報局局長ポール・ドラコール中将が持つ秘匿通信端末が、

着信があることを主人に伝えるバイブレーションを発した。

 

「……む、失礼します。」

 

上の階級が多く、しかも地球連邦の最高権力者をも含めた他の会議列席者に対して

臆することなく断りを入れ、ドラコールは通信端末を取り出して通話を開始する。

すると、通話先が放った言葉に驚いたのか、バイザー型サングラスの向こうにある

彼の目は見開かれ、ドラコールは短く呼吸を整えてから「間違いないのか」と確認した。

会議場中の目が注がれながらの情報局長の通話は、暫くのちに終了する。

 

そして彼は、会議場の一同を見渡し、一拍置いてから言い放った。

 

「――皆さん、どうも情勢が変わったようです。

 只今の連絡は、我が軍がオリオン腕共同開発宙域の外縁に設置した観測装置群が

 ボラー叛乱勢力「統治再建機構」による我が地球連邦に対する

 外交メッセージを受信したとの報告です。その内容は……

 『ボラー連邦統治再建機構も地球連邦及び共和政ガミラスに対し

  人道援助物資船団の派遣を要請する』――とのことです。」

 

「「「「「!?」」」」」

 

通信越しの大統領から、各将軍付きの秘書官まで、

会議場内にいる殆どの人間の表情が驚愕に固まる。

統括司令長官キンメルなどごく一部の例外も、ピクリ、と表情筋を引き攣らせていた。

それから、主に先ほどキンメル大将の提案を支持した宇宙海軍の高官たちが頭を抱える。

 

「なんたることだ……

 これでは船団派遣のローテーションペースを落とすどころではないぞ!

 援助物資や輸送艦艇、それに無人の護衛艦艇は時間断層の工場で

 いくらでもアテはつくだろうが、それを率いる有人の護衛戦艦はそうはいかんのだ!」

 

「当初、対ボラー援助船団の有人護衛艦に割り当てられる予定だった艦は

 アリゾナ型2隻、ウェールズ型2隻、ビスマルク型2隻、ノーウィック型2隻の計8隻……

 習熟問題が解決してこれらが全て使えるようになった上、

 これにヤマト型2隻の対ガミラス外交特務艦復帰を白紙に戻したとしても……

 二勢力への船団派遣は厳しいローテーションになる……増備は不可欠ですな」

 

彼らの頭にある「護衛戦艦」リストによると、

極東管区軍籍のヤマト型『ヤマト』『ムサシ』は就役中だが対ガ外交艦任務へ復帰予定、

北米管区軍籍のアリゾナ型『アリゾナ』『ペンシルバニア』は就役中(戦闘後で要整備)、

欧州管区軍籍のウェールズ型『ウェールズ』『ド・ゴール』は就役中(習熟に不安あり)、

欧州管区軍籍のビスマルク型『ビスマルク』、東亜管区軍籍の同型艦『北京(ベイジン)』及び

北ユーラシア管区軍籍のノーウィック型護衛巡洋艦『ノーウィック』、

欧州管区軍籍の同型艦『ゴトランド』は一応の慣熟訓練終了間近(習熟に不安あり)という

状況にあり、これではボラー体制側・叛乱側両方への人道物資援助船団派遣はとても無理だ。

 

既存のA級・D級は地球およびその周辺勢力圏防衛の要であるから容易には動かせない上

内戦中のボラー側を不用意に刺激しかねず護衛戦艦任務への投入は不適当。

かといってE級などの艦艇では無人艦隊統率運用は困難であると考えられる。

先のキンメルの提案通りに新造護衛戦艦群に追加の慣熟訓練を行わせて

練度上の不安を一定程度解消し、ヤマト型を再度護衛戦艦任務に回したとしても

極めてギリギリのローテーション運用になることは間違いない―――。

 

 

突如として降りかかった新たな難題に会議場の防衛軍人の多くが頭を痛める中、

キンメルは半ば自らに言い聞かせるかのように落ち着いた声色で告げる。

 

「……落ち着け、諸君。 確かに、この一連の情勢の急変によって

 我々はボラー援助船団派遣計画を大きく見直さねばならなくなるだろう。

 だが、同時に次のような可能性も考えられるのではないか?

 ―――勿論、私個人の憶測であることは断っておくが。

 

 ……ボラー連邦叛乱勢力『統治再建機構』は、我が地球・ガミラスによる

 人道物資援助船団の派遣による現体制の延命という事態を好ましからざるものと捉えた。

 そのため、援助物資の荷揚げ基地を焼き払ったり、素性を隠して船団自体の襲撃を図った。

 だがそれにも拘らず、我が地球連邦は「援助の継続」という確固たる意志を示している。

 事ここに至って、ボラー叛乱軍は悟ったのだろう。

 「地球側の意志を武力によって変更することは不可能」……と。

 

 だからこそ、我が地球の双方の求めに応じる中立的姿勢を利用し

 自分たちも援助を要請することで、体制側に注がれるばかりの我々のリソースを

 少しでも奪い取ろうとする外交的手段へと方針を転換したと推察できる。

 この仮説が正しければ、今後の船団に対する襲撃の危険性は著しく低下するだろう。

 『アリゾナ』の勝利が、この変化を呼び込んだと言えるかもしれん。

 

 尤も、これはあくまで仮説にすぎず、仮にこの通りだったとしても、

 援助船団派遣における備えを疎かにすべきではないとも主張しておく。」

 

 

……動揺した防衛会議参加者に対し、統括司令長官キンメルがぶった演説。

彼がここで示した見解はどうやら説得力があるものと受け止められたらしく、

大統領以下参加者から拍手を以て迎えられる。

ひとまず、援助船団派遣については「何があっても続行」という方向性で固められ、

会議が暗礁に乗り上げることは避けられたようである。

その後も防衛会議は日付を跨いで続き、各事項の仔細へと論点は移っていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、天ノ川銀河系の何処か――凍てつくほどの闇の中で。

 

座した人影が、ぼぅ、と赤い光を点滅させながら、口を開くこともなく告げる。

 

『件の工作についてはタイムライン通りに進行しているが、

 あちらの状況もなかなか、目まぐるしく推移しているな。』

 

これを受けて別の人影が、同じく赤い光を灯しながら応答する。声が空気を振動させる事はない。

 

『では、そろそろ介入を始めますか?』

 

『そうだな。いつでも主導権を握り得るとはいえ……頃合いを誤れば厄介だ。』

 

人影はそう返すと、すくりと立ち上がった。

彼らが立つところは、本来その時空間には存在してはならないものだ。

 

夜半の宙よりなお昏い巨大な星影が、動乱只中にある銀河の闇で密かに蠢いている―――

時に、西暦2207年のことであった。

 

 

 






〈第三章:巨雄動乱〉 完


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