宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第7話】
地球時間に換算して、西暦2205年4月29日0430時。
ガミラス星消滅からおよそ2時間ほど経過した頃。
地球連邦防衛宇宙海軍・第六十五任務部隊の先発隊は、
イスカンダル救援への参加を快諾したデスラー総統の座乗艦から座標送信・管制を受け、
サレザー恒星系外縁部から同第四惑星軌道圏へとワープアウトする。
仮泊地としていた演習基地星系から、出航準備を早期に整え発進した先発艦が
サレザー星系周辺(危険宙域と想定される系内への直接進出は避けた)宙域へと
到着したのはガミラス星消滅と相前後しており、消滅を確認した地球艦隊の艦長らは
混乱防止のため大使館経由でのイスカンダル救援活動参加の可否を
現地にいるガミラス艦隊に確認してから、イスカンダル沖に展開することにしたためだ。
そうして、かつてガミラス星があった空間へ転移してきた地球艦隊は、
戦艦クラスの大型艦4隻、巡洋艦クラスの中型艦3隻、駆逐艦クラスの小型艦9隻。
その中には、デスラー総統をはじめガミラス人が最も見知った地球軍艦、
宇宙戦艦『ヤマト』の姿も認められた____
「ガミラス星が、本当に消滅している………」
『ヤマト』艦長席で、同艦を預かる古代進中佐が目を見開き唸った。
艦橋の正面窓には、星の残骸と思われる岩塊群を浮遊するばかりで、
穴が開いた二重殻が特徴的な緑の星はどこにも存在していなかった。
既に住民の星外避難が行われていたため、犠牲者が出なかったのが救いか……
そんな思いが古代の脳裏をよぎると、『ヤマト』新通信長・市川純中尉が報告した。
「旗艦『ワシントン』より入電です!
ガミラス艦隊と合流後、戦闘空母『デウスーラⅢ世』艦内にて
地ガ両軍の合同会議を実施するため、
古代艦長は曽根川使節団長と共に出席せよ、との事です!」
「……!」
命令を受けた古代は、一言も発せないまま窓から見える任務部隊の僚艦、
TF65司令官ルーベン・ワード少将が将旗を掲げるD級宇宙戦艦へ視線を向ける。
そんな古代を現実に引き戻すため、副長を兼任する島大介航海長が告げた。
「艦長、ガミラス艦隊はアステロイド密度の高い宙域に展開中です。
迂回せず直進するにせよ、艦の安全確保のためには速度を落とさざるを得ません。
よって、会合時刻は一時間後……0530時以降になると思われます」
「……そうか、了解した。」
どうにか動揺から戻った古代は心中で島やクルーに詫びつつ、考える。
(曽根川次官はともかく、俺を会議に呼ぶとはな。……まさか)
答えを提示されない思考は、古代を"嫌な予感"へと導いた。
スターシャ女王とユリーシャ皇女、それにメルダ・ディッツ侍従武官を
イスカンダル星から連れ出してしまえば終わり、到着する頃にはガミラス側が
救助を完了させていることすら古代含め地球軍将兵は考えていたが、
ガミラス星崩壊後も、未だにイスカンダル王室が星に残留している状況は、
彼が感じた"予感"の裏付けとなり、上述の楽観が大間違いであることの証左だった。
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『ヤマト』副長・島少佐の推測通り、第六十五任務部隊とデスラー艦隊の会合は
地球艦隊のサレザー系内進出から約一時間後、0534時のことであった。
そこから、地ガ艦隊各艦からは内火艇が発進し、合同会議出席者を
アベルト・デスラー総統座乗の戦闘空母『デウスーラ』に送り届けていく。
古代と曽根川も、『ヤマト』を発った五号型標準内火艇でデスラーの旗艦へ向かう。
会議のために内火艇にただ二人乗せられた古代と曽根川は、
何とも言えない気まずさを誤魔化すために、適当な話題を持ち出した。
「……デスラー総統の旗艦は青い塗装が通例でしたが、
あの戦闘空母は赤い塗装なんですね。」
「えぇ、私も在ガミラス大使館から聞いた話ですが、これまでの青い塗装、
所謂"高貴なる蒼"は、多様な人種をガミラス市民として統合していく
共和政ガミラスの立場上都合が悪い上、悪名高いデスラー親衛隊を想起させるため
新時代の総統座乗艦に相応しくないということで廃止されたそうです。」
「そのため、赤になったと?」
「ガミラスの国章の色は赤ですから、そこから採ったのでしょうね。
……ああそうだ、デスラー総統のマントの裏地も赤だそうですから、
案外かのお方の趣味で決められたのかもしれません。
私は実際に会ったことはありませんが、古代中佐はご存知でしょう?」
「はぁ………」
古代は何と返していいのかわからず、困惑する。
曽根川が言う『古代とデスラーが会った』例は、
恐らく2203年のテレザート星での遭遇を指すのだろうが、
古代としてはどうしてもデスラー総統との最初の遭遇、
2199年の亜空間ゲートにおける白兵戦の際の事を思い出してしまう。
だが、あれは公式にはデスラー総統の
彼の前で口に出すわけにはいかない。
しかし古代進は、テレザートにおけるデスラー総統との面会により、
あの時遭遇した
(……曽根川次官は連邦外務局の発足当時から、
ヴェルニー現外務長官の腹心として働いていたと聞くが……)
古代はテレザートにおけるデスラーとの面会後、あの場にいた真田副長と
斎藤空間騎兵隊長、キーマン中尉ともども土方艦長に面会時の対話内容___
即ち、キーマン中尉の正体を含めたデスラー総統の秘密・行動目的などを報告。
土方の判断により、古代・真田・斎藤、そしてキーマンはこれらの事実を
口外しないことを誓うこととなった(斎藤については土方が念入りに説得)が、
古代は地球への帰路において真田やキーマンと、
議論を交わしており、そこでその首謀者が地ガ両国の外交部門と結論付けた。
ひょっとしたら、曽根川は『デスラー偽物説』の立案に携わっていたのではないか……
そんな疑念が、古代の心中に頭をもたげる。
彼に質問を重ねようとした古代だったが、それは内火艇がデスラー戦闘空母への
着艦態勢に入ったことに伴う振動によって遮られたのだった。
「古代くん! ……じゃなかった、古代艦長」
「雪! ……いや、森少佐」
合同会議の場であるデスラー戦闘空母艦内で古代進中佐は、
補給・整備と休養のため銀河間航路の航海中に入泊した新バラン鎮守府で会って以来
ビデオ画面越しでしか顔を合わせられていなかった妻・古代雪、
軍務上は旧姓の森雪を名乗る彼女と、久々に直接対面を果たした。
本来、防衛軍司令部付きで国防局出向の連絡幕僚として地球で勤務する森少佐は、
今回の友好使節団及び親善艦隊の派遣に伴い、友好使節団の一員として
改D級特設補給母艦『アスカ』に乗艦することとなったのだ。
「やはり君も呼ばれたか、古代」
「真田さん!」
旧『ヤマト』船務長だった森雪だけではない。
同艦の副長兼技術長だった真田志郎大佐もまた、『デウスーラ』へ招集されている。
真田もまた、『アスカ』に乗る友好使節団に技術顧問として参加していたのだ。
元より使節団はガミラス・イスカンダルに向かう予定だったため、
元ヤマトクルーで現地について知る雪や真田から艦内でレクチャーを受けていた。
古代を含め、彼ら三人は特にイスカンダル王族と
艦隊司令官ワード少将や曽根川使節団長らと共に会議に招かれたことは明白で、
彼ら自身もそれを薄っすらと理解していた。
「……美雪は?」
「外交団の人に預けてきたから、心配いらないわ。」
古代は、伴侶・雪と共に『アスカ』に乗艦する愛娘・美雪について尋ねた。
………なぜ、赤子である古代美雪までもが『アスカ』に乗艦していたのだろうか。
その理由として、『両親が共に派遣艦隊/使節団の一員として長期間留守にするが
地球に残した場合、面倒を見てくれる人間が少ないため、親子三人の精神的な
安定のためには、使節団に同行させるのが最適解』とされたことが挙がる。
とはいえ、いくら地球を救った英雄たる『ヤマト』乗組員でも
特別扱いはいかがなものか……という意見は上がった。
また、生まれて間もない赤子を宇宙船に乗せるのは危険が伴うのではないか、と
危惧する声も存在したため、地球連邦の国防局・外務局など部局を跨いだ
使節団派遣特設司令部は、防衛軍および科学局から使節団に出向する真田大佐に
『乳幼児の地球製波動機関宇宙船乗船の実例観察』の任務を与えることで
ある程度の"言い訳"の材料を整え、渋る声を抑え込んだ。
そういう訳で、進・雪・美雪の古代一家は全員が共和政ガミラス派遣艦隊に乗り
遥か大マゼラン銀河までやってきていたのである。
「地球の皆様、会場準備ができました。総統がお待ちになっておられます」
古代らが会話するうちに青肌の従兵がやってきて、旧『ヤマト』クルー三名と
任務部隊司令官ワード少将、同幕僚長ワイナカパック中佐、曽根川ら使節団幹部を
ガミラス側の合同会議出席者が待つ『デウスーラⅢ世』の会議室へ案内する。
そこで待ち受けていたのは、共和政ガミラス総統アベルト・デスラーと、
その侍従武官ガルヒ・ダークナス少将、総統座乗艦『デウスーラ』を守護する
近衛艦隊の司令官フォムト・バーガー少将とその幕僚たちだった。
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「デスラー総統閣下、会議にお招きいただき恐悦至極であります!」
入室一番、見事なガミラス式敬礼と共に挨拶を行ったのは曽根川恒夫使節団長。
異質。
母星を失ったガミラス側と、それを察した地球側の面々が漂わせる重い雰囲気の中、
彼は微笑さえ浮かべてみせる。
「……地球連邦の配慮と、艦隊の来援に感謝する。
イスカンダル王族の救出のため、力を貸してほしい」
目前の異常な
外交使節団員としてはどうも不審だ……デスラーの直感が、そう告げていた。
とはいえ、彼を退出させるわけにもいかないので曽根川を含めた面々で会議が始まる。
「……現在の状況を説明させていただきます。」
会議の進行役となったのは、デスラーの副官役を務めるダークナス将軍だった。
彼の合図の下、会議室に置かれた天板が立体投影モニターとなった大型の机が
従兵によって操作され、艦隊が位置する空間とイスカンダル星が映し出される。
「我が艦隊と地球艦隊は、ガミラス星の崩壊によって生じた、
無数の岩塊が漂うアステロイド帯となった宙域に展開しています。」
机上のモニターに略図として投影された片割れが失われた双子星の重力圏は、
ガミラスの成れの果てたるアステロイド群に埋め尽くされたような状況となっている。
実際には、爆発時のエネルギーで微塵にまで砕かれたものが多く、
岩塊同士の密度も一部を除きそれほどではないが、やはり多いものは多い。
「幸い、イスカンダルの貴人お二方と侍従武官ディッツ中尉は無事でおられます。
しかしイスカンダルの王都上空に展開中の戦艦『ワルドルギス』や我が艦隊から、
またディッツ中尉からスターシャ女王猊下、ユリーシャ皇女殿下に
何度も脱出・避難を申し上げましたが、お二人の星に残られる御意志は固く、
現在まで同意を頂けておりません。」
説明される中で、古代は(やはり)と悪い予感が的中したことを知る。
デスラー総統へ顔を向けると、彼は俯き気味に憂悶の表情を浮かべていた。
ダークナスの説明が続く。
「そして、問題の惑星イスカンダルには今後、ガミラス星の破片が隕石として
落下することが危惧されています。事実、ガミラスの爆発崩壊時にも
一部の岩塊がイスカンダルに突入し、同地に甚大な被害をもたらしています。」
モニターにはイスカンダル星の王都の裏側___
ガミラスの爆発時に同星へ面していた側の画像が映し出される。
宇宙空間からでもわかるほどのクレーターが島嶼や海底に生じたことが認められ、
隕石により生じた大津波に飲み込まれた島、蒸発した海水と巻き上がった土砂で
巨大な雲が星の裏側を覆いつつある壮絶な様が、会議参加者の目に焼き付き、
今後イスカンダル星が居住に適さない星になることを予感させた。
「それで、我々は何をすればよろしいのでしょうか?」
次に発言したのは地球側、TF65司令官・ワード提督だった。
彼は、同期で任務部隊構成各艦の艦長の中で最高階級・最先任である
D級戦艦『サウスダコタ』艦長ジン・ブラックウェル大佐に艦隊指揮権を預け、
自身と同じく地球連邦宇宙海軍の第六艦隊司令部から出向してきた参謀、
アレン・ワイナカパック中佐ともども会議に参加している。
返答したのは、『狼の後継者』と名高い、若き指揮官バーガー少将。
「……地球艦隊には、我々第六空間機甲旅団艦隊と共に
イスカンダルへの落下が予想される破片岩塊の軌道変更を行ってほしい。
貴艦隊が到着するまでに、既に数個の岩塊を排除し終えている。」
「成程……」
モニターに映るのは、
陽電子ビームやミサイルで大型アステロイドを破砕し、曳航用の牽引ビームで
アステロイドをイスカンダルへの
デスラー近衛艦隊こと第六空間機甲旅団艦隊に属するガミラス艦の映像だ。
かつて地球に遊星爆弾を落としていたガミラス軍が、
それと似た存在を防がんとしている様に皮肉を感じたワードだったが、
固い自制心を以てそれを口や表情に出すことはなかった。
「加えて___」
続いて口を開いたのはデスラー総統だった。
彼は2199年以来の旧ヤマト幹部乗組員の三人を見渡してながら告げる。
「コダイ中佐、モリ少佐、サナダ大佐には、
イスカンダル王族に対する説得を手伝ってもらう。」
デスラーからの要請を半ば確信していた三人は、それぞれが承諾の意を示す。
古代は少々、波動砲問題の件で思う所がある素振りを見せたが____
「感謝する。
___諸君らはユリーシャ皇女と共に航海をしていたと聞いた。
スターシャ女王とも親交があるとディッツ中尉から報告も受けている。」
外交上仕方ないとはいえ、白々しいことを言うのに抵抗があるのか、
はたまた他の理由か、複雑な感情を滲ませながらデスラーは言った。
「そんな君たちからの説得もあれば、皇女も、ひいては女王も避難を___」
「残念ながら、その見込みは甘いと言わざるを得ません、総統閣下」
「「「!?」」」
デスラーの言葉を遮ったのは、どこか芝居がかった調子の声。
青肌の総統が声の方角へ振り向くと、その男・曽根川恒夫はいた。
「質問させていただきます、デスラー総統。
貴方も、ワルトハイム大佐も、イスカンダル王族の方々を説得する際、
艦上からの通信で避難を促されておりますね?」
「当然でしょう、現在のイスカンダルは不安定で危険な環境な上、
隕石が降り注いでいる。直接進入するには危険が大きすぎる!」
デスラーに代わって答えたのは、ダークナス将軍。
曽根川はその答えに対し指を立て、チッチッチ、とでも言わんばかりにして返す。
「それではダメです、総統閣下。
……2190年代の地ガ戦争においてイスカンダルは地球人類の"誠意"を試すため
直接
地球人類がイスカンダルまで自力で辿り着かせるようにさせました。
……同様に、救出側も"誠意"を見せねばなりません。
危険地帯に乗り込み、フェイス・トゥ・フェイス、膝詰めで説得して、
"義理"ではない、"本気"で救おうとしているところを見せなければ!!」
「では、説得役がイスカンダルに直接降下する必要がある、と?」
「その通りでございます」
デスラーの問いに、曽根川は慇懃な肯定で応答した。
「良かろう、説得はイスカンダルに降下して行うものとする。
危険だが構わんかね、地球の諸君」
「総統!?」
"具体例"を挙げて言ったことが功を奏したのだろうか、
意外なことに、デスラーは曽根川の進言を容れることとした。
侍従武官ダークナスは必死に思い留まるよう説得するが、最終的に折れた。
その後も続いた合同会議により、地球時間4月29日0900時には方針が固まる。
宇宙戦艦『ヤマト』を除く第六十五任務部隊は、
バーガー少将率いるガミラス第六空間機甲旅団艦隊と協同して
イスカンダルへの落下が危惧されるアステロイドの除去・軌道変更に従事。
戦闘空母『デウスーラⅢ世』と『ヤマト』はイスカンダル星に降下し、
スターシャ女王、ユリーシャ皇女、メルダ・ディッツ侍従武官の救出にあたる。
説得役としては、ガミラス側代表としてアベルト・デスラー総統が、
地球側は古代進中佐、森(古代)雪少佐、真田志郎大佐が選ばれたが、
曽根川の強硬な主張で使節団長の曽根川自身と任務部隊司令ワード少将、
総統付き侍従武官ダークナス少将が立会人として加わることになった。
任務部隊の指揮は引き続きブラックウェル艦長が、
地ガ艦隊の統一指揮はバーガー少将が、使節団の取りまとめは副団長が、
『ヤマト』は島副長が、『デウスーラⅢ世』は同艦艦長に託された。
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果たして、4月29日1500時。
任務部隊艦列から離脱した宇宙戦艦『ヤマト』と、
近衛艦隊に危険岩塊排除を任せた戦闘空母『デウスーラⅢ世』は、
先行したガイデロール級戦艦『ワルドルギス』とデータリンクし支援を受けつつ
危険惑星と化した海の星イスカンダルへ突入。
二隻から内火艇で説得役の地球人・ガミラス人が発進する。
事前通告を受けたイスカンダル側が配慮して
避難所と化した地下への入口は開かれており、救出部隊は進んでいく。
「……お待ちしておりました。 ……来てしまったのね、アベルト」
「スターシャ……」
広い地下空間を進んだところに待ち受けていたのは、
救出すべきイスカンダルの貴人・スターシャ女王だった___
感想、お待ちしております!