GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

10 / 19
()くして、灰域踏破船・クリサンセマムとハウンドスクワッドは、ニウロフ・トレイズ博士から提案された協力案を拒絶。

更に、非道な実験兵器を(もち)いようとする彼を拘束し、”グラジオラス”に残されていた非戦闘員達の身柄までをも引き受けてみせる。

周囲には、依然として異常なアラガミの群れが顕在であり、目の前の”餌”(ミナト)へ襲い掛かる時を、虎視眈々(こしたんたん)と見計らっている。

窮地は、改善どころか深まる一方だった。

だが、彼らは真っ向からこれに(いど)まんと、覚悟を(もっ)て対抗策を築き上げる。

その名を、”ハウンドスレッド作戦”。

そして、この大勝負(おおしょうぶ)は遂に、最終段階へ至ろうとしていた。






#7 >> 「Kick their asses !!」 Part.1

 

 

 

 

<――――アインさん、ダスティミラーの灰域踏破船団(キャラバン)より、緊急回線にて返答有(へんとうあ)り。

現状把握と作戦支援の(むね)、承知したとのことです>

 

諦めることなく行っていた手筈(てはず)が遂に(みの)ったとエイミーから伝えられ、ブリッジに(のぼ)ったアインは頷いた。

 

「俺の定時連絡が途絶(とだ)えていたことで、ダスティミラーは複数の偵察隊を以て近隣を探索していた筈だ。

それらと連絡が取れたならば、あわよくば作戦の一翼(いちよく)(にな)わせる事が出来る。

作戦開始と同時、区域外(くいきがい)からもダスティミラーや、他のミナトと連携した陽動を仕掛けさせる。

そして、更にこちら側でも()()()()、アラガミを引き付ける手を打つ」

 

アインに続き、機関エリアで作業中のキースが、通信映像の中で得意げに説明を始める。

 

<先輩達がローレライに頼らないとしても、その筐体(きょうたい)と動力系は最大限、利用させてもらうよ。

グラジオラスのコアジェネレーターをオーバーロードさせて、ミナトごと吹っ飛ばす!!

大量の資材と触媒(しょくばい)ごと爆発、炎上する激しい反応に、アラガミ達は間違いなく食い付いてくる筈だよ!!>

 

「我々は、これらと同時に離脱を図ることで、アラガミに追撃されるリスクを最大限に減らすことが出来ますね」

 

「ローレライを用いないという、私達の決断。

その代わりとなり得る、大きな一手だわ」

 

ブリッジのモニターを見上げ、作戦に頷くリカルドとイルダ。

 

しかしながら、この作戦の肝心要(かんじんかなめ)(にな)う、ハウンドスクワッドのメンバーは、どうしてか此処に1人も居なかった。

 

だが、それは首脳陣も承知の上だった。

 

彼らは今、”旅立ち”にあたって欠かすことの出来ない、ある儀式(ぎしき)を済ませている最中だったのだ。

 

 

 

――――”作戦決行(ゼロ・アワー)”まで、残りあと2時間。

 

 

 

其処(そこ)は、ミナト・グラジオラスの、外部施設の一角(いっかく)

 

ここがかつて居住区だった頃、公園として使われていたという広場は、今は高いドーム天井に覆われ、そこに幾つもある天窓から空を(あお)ぐことが出来る空間だった

 

見えるのは灰域(かいいき)の空とは言え、開放的で穏やかな広場の片隅には今、多くの若者達が集っていた。

 

ハウンドスクワッドの面々にユリハ、カミル。

 

そして、牢獄の子供達。

 

本来、作戦に備えていなければならない筈の彼らだが、衣服や手足をすっかり汚させ、廃材で組み上げた十字架(じゅうじか)のようなモニュメントを見つめている。

 

果たしてその理由は、グラジオラスの面々にとってこの場所は”墓場”であり、そして故人(こじん)埋葬(まいそう)を行っているからに他ならなかった。

 

「手伝ってくれてありがとう、皆さん」

 

振り向いたユリハの言葉に、気にするな、とばかりに首を振るジェット。

 

むしろ、本当に心配なのは、グラジオラスの人々の筈だった。

 

「これで、良かったのか?

このミナトは、完全に吹っ飛んじまう。

やっとこうして仲間達を(とむら)ってやれても、もう二度と戻って来れないんだぜ」

 

 

 

――――ニウロフ・トレイズ博士を拘束し、シャロンを救出した後。

 

作戦準備の為に研究エリアを探索していたハウンドスクワッドは、近傍(きんぼう)に牢屋のような区画を見つける。

 

だが、其処に放り込まれていたのは、遺体の山だった。

 

今まで、ローレライの触媒にさせられただろう何人ものAGE達が、何の敬意(けいい)も払われることなく野晒(のざらし)にされていたのだ。

 

とうの昔に腐敗し、中には白骨化して散らばった者までもが横たわっている。

 

だが、彼ら、彼女らは間違いなく、このグラジオラスに生きていた、ユリハの大切な仲間達だった。

 

「――――あぁっ・・・・そんな、っ・・・・っ!!!!

あ・・・・っぅ・・・・ああ、ああああぁぁぁぁ・・・・っ!!!!

 

それを見たユリハは、崩折(くずお)れて慟哭(どうこく)した。

 

(たま)らなそうに抱擁(ほうよう)するクレアに(すが)りつき、彼女は止め処なく泣き続けた。

 

あまりにも(むご)い再会に、誰もが言葉を詰まらせる(ほか)なかった。

 

されど、やがてユリハはその長く、哀しい涙を、自分の意志で断ち切っていた。

 

自分の足で、再び立ち上がり、歩き出してみせた。

 

それは(ひとえ)に、深く、深く眠る仲間達を、相応(ふさわ)しい場所に(かえ)してやる為。

 

そして同時に、今もまだ生きて、待っている仲間達の元へ(かえ)してやる為に。

 

 

 

「――――此処(ここ)は、このグラジオラスの人々が、最期(さいご)に行き着く場所。

他の皆も、此処にいるわ。

だから、あの子達もきっと・・・・安心できる筈、っ・・・・」

 

どんなに相応(ふさわ)しい判断でも、感情までもを従わせることは出来なくて、言葉の途中でまたユリハの(まなじり)から涙が溢れ出ていた。

 

「ユリハさん」

 

「・・・・もうっ。

貴方達には、泣いているとこばかり見られてるわね」

 

「・・・・かもな」

 

彼女だけではない。

 

牢獄の子供達も皆、大切な人達との(わか)れに(すす)り泣き、その手には様々な形見(かたみ)(しな)を握り締めていた。

 

するとそんな時、ふとユウゴがため息を吐いていた。

 

「こんな事を言うのも何だろうが、俺には少し、お前達が()()()()よ」

 

同郷(どうきょう)古馴染(ふるなじ)みであるジェットとジークには、その真意にすぐに気付けていた。

 

「そうだな。

俺達の時は、()身着(みき)のままでペニーウォートを追い出されて・・・・こうして、眠ってる奴らに挨拶する暇も無かったな」

 

「けど、俺らだって絶対に忘れねぇ。

あの場所で、皆、生きるために必死でもがいてたことも、一緒に戦ったことも。

いつまでだってよ」

 

「ええ、その通りよ。

私達が今、この大きな好機(こうき)に巡り会えたのは、此処に居る皆が(いのち)()したから。

だから、私達は彼らの記憶を、想いを、いつまでも(とも)にして、(いど)むわ。

必ず・・・・これから未来(さき)が、どうなろうとも」

 

大切な記憶を恐れずに背負い、その心を明日へと進ませようとするユリハ。

 

その姿に、ジェットもまた思い出していた。

 

自分達を捕らえていた(かせ)が、音を立てて砕け散った、あの日。

 

故郷、と言うには(にが)きに過ぎる穴蔵(アナグラ)を焼け出され、期待と不安、大いなる闘志を胸に見上げた、青い空を。

 

気炎万丈(きえんばんじょう)、ってな。

俺達は、俺達を踏みつける奴らの(くさり)を引き千切って、何も知らない場所へ駆け出していくんだ。

其処で何を見て、何を選ぶのか、決めつけてくる奴は居ない。

決めてくれる奴も、居ないけどな」

 

「・・・・だからこそ、きっと貴方達(ハウンドスクワッド)は強くて、勇敢で、何も諦めないのね」

 

「それはあんたも一緒だろう、ユリハ。

あんたが此処で、最後の一線を張り続けた。

望んだものに手が届くかどうかは、案外そういう僅かな踏ん張りで決まるもんさ」

 

と、謙遜(けんそん)を重ねるユリハへ、意外にもユウゴが声を掛けていた。

 

「そうだね。

ユリハさん達は、()()()()()だよ。

これまでも・・・・そして、これから先も」

 

自分を肯定する言葉に慣れてないようなユリハへ、すっかり距離の近付いたクレアとルルが励ましていた。

 

こうして肩を並べた今、ユリハの(ちから)も、想いも、自分達(ハウンドスクワッド)が紡ぎ、高めてきたものと遜色ないのだと、もう皆が知っていた。

 

一人(ひとり)きりで、戦う。

それは、思えばなんて過酷で、恐ろしいことだったのだろうと思う。

でも、私達には(いま)まで出会(であ)えた仲間達との(つな)がりがある。

忘れかけていた(むかし)現在(いま)とを繋いで・・・・大切なものを守りたいと、立ち上がらせてくれる」

 

 

 

――――新しい景色と出会いに、変わっていく自分。

 

それでも、歩んできた道、(つむ)いできた(きずな)は変わらない。

 

だから、遠く離れようとも、例え命が尽きたとしても、分かち合えた記憶と思い出は途切れない。

 

忘れぬ限り、想い合う限り、今生の別れすらも(じつ)は一瞬にも満たず、永遠ではない。

 

その想う心をこそ、本当の絆、と言うのかも知れない。

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

――――”作戦決行(ゼロ・アワー)”まで、残りあと1時間。

 

 

 

ブリッジのオペレーションブースにて、エイミーは作戦の最終確認を行っていた。

 

「クリサンセマム、船体機能効率97%。

感応波レーダー、問題無し。

グラジオラス、メインシステムの掌握(しょうあく)、完了。

想定作戦ルート、算出。

ハウンド1より、部隊表の提出――――」

 

作戦完遂に必要な要素は、着々と整いつつあった。

 

すると、傍らに立っていたイルダが、ミッションに参加する()()()()()の人員表に目を通す。

 

其処へ、ジェットを先頭にハウンドスクワッドの面々も集まる。

 

「準備は、整ったのかしら?」

 

「・・・・あぁ」

 

「・・・・ジェット、(まよ)ってる?」

 

突然のクレアの言葉に、図星を突かれたジェットは目を見開いていた。

 

「分かりやすいんだから・・・・」

 

意外そうな皆の視線に、言い(よど)むジェット。

 

決断力の(かたまり)のような彼にしては珍しい様子を余所(よそ)に、クレアはひっそりと嘆息(たんそく)する。

 

「らしくないな、ジェット。

今回は、文字通りの”総力戦”なんだ。

不安や懸念点(けねんてん)は命取りになりかねない。

吐き出せ」

 

ユウゴの言った通り、このハウンドスレッド作戦・最終段階は、クリサンセマムの()()()()()が参加するものだった。

 

何処の持ち場にも余剰人員(よじょうじんいん)は存在せず、誰か1人でも欠けば、そのまま全てが瓦解(がかい)しかねない。

 

「・・・・そりゃな。

こうまで孤立無援の時に、分散行動をするとなれば、どうしたって不安はあるさ。

もしも、どちらかになんかあったとしても、互いに援護も出来やしないからな」

 

軽口を叩ける余裕すらもなく、ジェットには珍しい弱音は真実だった。

 

今回、クリサンセマムの神機使(じんきつか)い達は、フォーマンセル2隊に分けての同時行動(どうじこうどう)の必要があった。

 

脱出行の先頭を担う主部隊として、ジェット、ユリハ、ユウゴ、ジークという、現状最大攻撃力を集めた、”リードチーム”。

 

補助として殿(しんがり)に展開し、追いかけてくるだろう敵群を阻む、リカルド、ルル、クレア、フィムの、”ホイールチーム”。

 

そして、防衛対象であるクリサンセマムは、一度走り出せばもう止まる事は出来ない。

 

即ち、迫り来るアラガミを突破するまで、全軍一丸となって転戦(てんせん)し続ける。

 

歴戦のハウンドスクワッドであっても、いまだかつて体験したことのない危険な任務だった。

 

その過酷さを(うれ)うジェットに、()()()()から別動隊長(べつどうたいちょう)に抜擢されたリカルドが、声を上げる。

 

「その点は、俺を信じてもらうしか無いなァ。

これでも、撤退戦(てったいせん)の心得はあるんだ。

戦力としてはお前さんには及ばないだろうが、課された役割はこなすつもりさ」

 

 

 

――――この時、リカルドの言葉の()()を知っているイルダは、あえて其処へ口を挟みはしなかった。

 

確かに、彼はそういった戦場を戦い抜いてきた猛者ではあるが、同時にその時、”大きな傷”を受けてしまってもいた。

 

しかしながら、今は言い訳も通じねば、代役の務まる者も存在しない。

 

そして、何よりもリカルドならば、過去の無念から学び、やり遂げられると信じればこその沈黙だった。

 

 

 

「・・・・悪い。

こいつは、皆の力を疑ってるわけじゃなくて、ただの俺の我侭(ワガママ)だったな。

その分、(まえ)の方は任せな。

この船の進路は、俺が絶対に切り拓くぜ」

 

乾坤一擲(けんこんいってき)、全てを振り絞る気迫を(あらわ)に、拳を打ち付けるジェット。

 

ハウンドスクワッド最強の戦力として、クリサンセマムに乗る数十名の命運(めいうん)を預かる”リーダー”として、自負(じふ)はあれど恐れはない。

 

仲間達もまた、”No.1”(エースナンバー)である彼を疑う余地は無かった。

 

「及ばずながら、私も。

グラジオラスの皆を助けてもらった恩は、必ず働きで返してみせるわ」

 

そして、グラジオラス唯一のAGEであるユリハもまた、同郷の仲間達の未来の為、雄々しく名乗りを上げる。

 

「おう。

期待してるぜ、ユリハ」

 

”現状最大攻撃力”という評価は伊達ではなく、リードチームの戦力も、士気も、この極めて過酷な任務を遂行(すいこう)するに足るものだと言えた。

 

「――――少し、いいかしら?」

 

ところが、そこへ不意に()()()が掛けられていた。

 

しかも彼女にしては珍しく、歯切れ悪く、戸惑(とまど)った言い方だった。

 

イルダ(オーナー)?」

 

「・・・・私には、正直に言って戦術(せんじゅつ)の面までは(はか)り知れないわ。

けれど、なにか大きな課題(かだい)にぶつかった、その時。

理屈だけでなく、自分の直感も信じるようにしているのよ。

・・・・ジェット。

極めて過酷な貴方のチームだからこそ、”クレア”を同行させてくれないかしら?」

 

イルダの提案に、ハウンドスクワッドは皆、意表を突かれ、反応に(きゅう)してしまう。

 

ジェットも、本当にイルダの意図を計りかね、(しば)し思考を巡らせたが、やはり最初の結論の通りに首を横に振った。

 

「・・・・いや、悪いがそれは出来ないな。

此方(こっち)は、どんな相手だろうが迅速に押し除けて進まなきゃならない。

”普通の神機使い”のクレアじゃ荷が重い、と俺は見る」

 

「・・・・っ」

 

「ならば、俺も元”普通の神機使い”としての意見を言おう。

リードチームにはクレアを加えるべきと、俺も同意する」

 

否定の意を示すジェットへ、またしても意外な人物、アインが意見を述べていた。

 

「突破力、というだけを見れば、”バーストアーツ”の使えるAGE達で固めることに、確かに理はある。

だが、この作戦の本懐(ほんかい)は”目標地点への到達”だ。

まして長距離を行く連戦ともなれば、治療と支援に長けた彼女のスタンスは、戦力以上の(おも)きを発揮するだろう」

 

「・・・・確かに、その選択肢も考え続けてたよな、ジェット。

俺達は、絶えず前線を作り続けなければならない以上、体勢を整える為に下がることも出来ない。

治療の得意なクレアが加われば、攻撃力以外の強みも見出(みい)だせる」

 

「それは・・・・」

 

「今回は時間制限(じかんせいげん)がある以上、焦るのも分かるさ。

しかし、忘れちゃならんのは、もしもどちらかがリタイヤすれば、その時点で作戦失敗なんだ。

実際、最も危険なお前さん方ほど、安定を取るのも大事なんじゃないか?」

 

ユウゴとリカルドまでもが、そこに助言を加えていた。

 

ジェットとて、これが甲乙(こうおつ)つけがたい二択だとは分かっていたし、さっき言われたように、何か釈然(しゃくぜん)としないものを抱え続けているのも事実だった。

 

今一度、深くその重大さを並べ比べる。

 

そして、それでもやはり、首を横に振っていた。

 

「旦那達には悪いが、それでも無理だ。

戦力配分は、もう決めたんだ。

クレアには、ホイールの皆のフォローをしてもらう。

今回、最も重視するのは突破力だ」

 

 

 

――――そう、ジェットが改めて決定づけた、直後だった。

 

自分の話だと言うのに、(うつむ)き加減に黙り込んでいたクレアは、(たま)りかねたようにジェットへと詰め寄っていた。

 

「ジェットはっ!!

・・・・私のこと、信じられない?」

 

「・・・・そういうんじゃないんだ。

第一、そんなことを言ってる場合でもないだろ。

リードは・・・・俺は、おそらくどこまでも突っ込んでかなきゃならないからな」

 

どうしてか感情を高ぶらせているクレアは、冷静に()こうとするジェットを(さえぎ)るように、更に身を乗り出させた。

 

「私じゃ、ついていけないとでも?

今まで、そんなこと・・・・弱音(よわね)だって吐いたことある!?

確かに実力不足だとしても、私に出来るのはそれだけじゃないっ。

皆に(おく)れを取ったことなんて無い!!

違う!?」

 

ああ、とジェットは(わずら)わしそうに唸ってしまうも、そのまま退こうとはしなかった。

 

これが自分なりに考え抜いての回答だと言うならば、そう簡単に曲げたり、引っ込めたりしてはならない筈だ。

 

「そういうことでもねぇんだよ。

こっちの戦い、俺は全力で動き続けなきゃならないんだ。

過酷さから言って、お前のフォローも出来ないかもしれない・・・・」

 

「そんなの必要ないよ!!

頼んでだってない!!

私だって”神機使い(ゴッドイーター)”だよっ?

戦場で、誰かに頼り切る気なんて無い!!

()()は、いつだって出来てるっ!!」

 

「バカ言ってんじゃねぇって!!

俺は、ハウンドスクワッドから誰一人、死人なんぞ出させやしねぇ。

これは、お前がどうこうじゃなく、リーダーとしての判断だっ!!」

 

「お、おいジェット?

何を熱くなってんだよ!?」

 

「クレアも、落ち着くんだ」

 

白熱する2人へ、ジークとルルが割って入る。

 

一先(ひとま)ずそれで言い合いは止むも、同時に気まずそうに会話も止んでしまう。

 

クレアは、まだ何かを言いたげに(うつむ)いている。

 

其処へ、何かかける言葉があるはずなのに思いつかない。

 

そんなジェット(じぶん)が、モヤモヤとして気持ち悪かった。

 

 

 

「――――今更、混乱させるようなことを言って、ごめんなさい。

だけど、ジェット。

今の貴方は、戦うこと、突き進むことに意識を囚われ過ぎている。

私には、そう感じられて、ならないのよ」

 

「イルダ・・・・」

 

「この作戦に、失敗は許されない。

だからこそ、一人で背負い切ろうとするのでなく、仲間達から目を離さないで。

貴方にとって、作戦の成功と、誰一人欠(だれひとりか)けることない結果は、常に同義(どうぎ)であり、(ともな)っていなければならない。

それがジェット(リーダー)の役目、ジェット(あなた)の戦いの筈よ」

 

「・・・・・簡単に言ってくれるぜ」

 

「だが、お前は今までそうしてきたはずだ。

ハウンドスクワッドのNo.1(エース)、”クリサンセマムの鬼神”」

 

戸惑い、頭を抱えるジェットへ、更にアインが言葉をかけていた。

 

「お前は、言っていたな。

どのような苦境だろうが、信頼できる仲間と共に戦うことに変わりはないと。

(おのれ)はただ戦士であり、仲間に()かされてこその己であると。

そして、お前達の大義(たいぎ)が、もしも(はば)まれたのなら。

その時こそ、お前という(きっさき)が、”チーム”の突破口をこじ開けてみせろ。

その為の、GELGYA(ゲルギヤ)システムだ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

アイン達は、いつの間にか入れ込みすぎていたジェットを見切り、戒めてくれているのかも知れなかった。

 

そしてジェットは、この作戦も、今までの実績も、ただ1人では成し得ないものだとは、知っているつもりだ。

 

全軍一丸に、互いを補い合って来たのがハウンドスクワッドだと、よく分かっているつもりだった。

 

ならば、ジェットがすべきなのは、()()()()()に仲間達を信じること、なのだろう。

 

「――――分かった。

ジーク、”ホイール4”へ変更。

クレアは”リード4”に移動させる」

 

「・・・・ありがとう。

私達のこの判断が、より良い結果に繋がることを、心から祈るわ」

 

最後に、イルダが真摯(しんし)にそう告げる。

 

そしてジェットも、この判断が正しく果たされることを思いながら1人、佇立(ちょりつ)していた。

 

そんな背中を心配して、そこへフィムとユリハが歩み寄ろうとする。

 

「おとさん・・・・」

 

「あの、ジェット・・・・」

 

しかし、進み出たルルとユウゴがそれを、制していた。

 

「戦いのことなら、心配は要らない。

ジェットなら、直ぐに自分を研ぎ澄まさせる。

だから、問題は――――」

 

 

 

――――(しばら)くして、ジェットはため息を1つ吐き、(おもむ)ろに口を開く。

 

「なぁ、クレア。

・・・・さっきは悪かったな」

 

「・・・・聞いていい、()()()

私は・・・・ジェットにとっては、やっぱり足手纏(あしでまとい)、なの?」

 

だから、反対し続けるのかと、クレアは不安にかられていた。

 

クレアが一緒では、失敗の可能性が高まるから。

 

()()()だから、謝って、気遣(きづか)って、遠ざけようとする。

 

どれだけ気丈(きじょう)に振る舞おうと、事実として自分の力量が劣ることを、クレアは知っている。

 

ジェットは、それに戸惑いつつも、慎重に言葉を選び出そうとする。

 

「それは、(ちげ)ぇって。

ただ、俺はお前が――――」

 

言い淀んだジェットの、露骨な逡巡(しゅんじゅん)の後を拒否するように、クレアは言葉を急がせた。

 

「変に突っかかって、ごめんなさい。

それなら、いいんです。

今からでも、変更してくれていいから。

大事な作戦の(かなめ)には、()()は出来ないですし。

ただ・・・・そうならそうと、言って欲しい・・・・っ」

 

一刻も早く距離(きょり)を置きたいという風に、クレアは(きびす)を返す。

 

だが、ジェットはその腕をしっかりと(にぎ)り、引き止めていた。

 

壊れ物を扱うように。

 

しかし決して離さないように。

 

「聞いてくれって。

違うんだ、マジで」

 

それきり、また黙ったジェットへ、クレアは身体半分だけを振り返らせる。

 

恐る恐るに、目を伏せたままな彼女の横顔に、ジェットはどうにも思考が(わだかま)り、言葉をもつれさせてしまう。

 

「俺は、ハウンドスクワッドのリーダーだ。

絶対に死なないし、誰も死なせやしない。

俺が戦うんなら、絶対に。

だが、()()()()()()()()()(なに)かがあれば・・・・どうしようもねぇ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「さっき、クレアの言った通りだ。

俺は迷ってるし・・・・ビビってる。

1人で()()っるだけじゃどうしようもないもんを、久々に味わってる。

だが、だから俺は、ハウンドスクワッドを、クレアを信頼するんだ。

全員、頼もしい力と根性があって、助けることもあれば、助けられることだってある。

俺達はそういうチームだと思ってる・・・・”筈”なんだ」

 

歯切れの悪い言い方に、クレアは今度こそジェットへ振り返った。

 

クレアは、どうしても他の皆に追いつけない自分に思い悩んでいる。

 

生真面目な彼女らしい態度ではあるし、彼女らしい(おも)()め方でもあった。

 

だが、そんな(この)ましい真っ直ぐさへ、しかしジェットは何故か曖昧(あいまい)な答え方しか出来そうになかった。

 

「たぶん・・・・俺の、この弱気は、作戦のことなんかじゃねぇんだ」

 

「なら・・・・」

 

「・・・・俺は、お前には・・・・お前にだけは、危険な場所に行って欲しくないと、思っちまう。

此処で待ってて、帰って来る俺達を迎えに来てくれる。

AGEとか神機使いとかも関係なく、()()()()()、って思っちまう」

 

「・・・・っ・・・・!!」

 

ジェットの身勝手な言い草に、クレアは大きく目を見開く。

 

ジェットも、自分の醜態(しゅうたい)は分かっていた。

 

一人前の”神機使い(ゴッドイーター)”である彼女の意志を(かろ)んじて、勝手に危険から遠ざけようとするなど、恥ずべき事だ。

 

だから、この言葉は所詮、理由も分からず(ひと)りでに狼狽(うろた)えている自分の、気の迷い、なのだろう。

 

「・・・・散々、似たようなことで叱られといて、どの(くち)が、って感じだけどな。

だが・・・・もしも、俺の届かないところで、お前に何かあったら。

お前を、守りきれなかったら。

俺は・・・・絶対に、俺自身を(ゆる)せねぇ気がする」

 

ジェットはその戸惑(とまど)い、躊躇(ためら)いに構わず、クレアを引き止める手を離した。

 

彼女の問いたげな眼差(まなざ)しにも背を向けて、答えになりきらない熱情を発したのを恥じるように、歩き去っていく。

 

そして――――

 

 

 

「――――っ、待っ・・・・っ」

 

待って欲しい、というクレアの呼びかけも、言葉になりきらなかった。

 

胸の高鳴(たかな)りが収まらない。

 

(たま)らずに手で触れれば、驚くほどに強く、熱い。

 

其処からの大きな震えが広がってしまい、伝えたい想いを遮ってしまっていた。

 

(これは、何?

不安や緊張、じゃなくて。

”嬉しい”?

・・・・ううん、それだけじゃない。

もっと、もっと強くて・・・・熱い。

なのに、(おぼ)えのある、(わだかま)り・・・・っ)

 

ジェットが、自分へ向けた感情。

 

初めてくらいに、()()()()()向けた(おも)いに、クレアの心はひどくかき乱される。

 

大きな得難(えがた)い歓喜のようで、それと()()ぜになって()()のような薄ら寒さが(つの)る。

 

離れていくジェットへ、自分にとってかけがえの無い感情が(うった)えかけるも、しかし結局は正体(しょうたい)を得られないまま戸惑うばかりだった。

 

 

 

――――果たして、激しくも未熟な執着心(しゅうちゃくしん)に翻弄される2人。

 

だが、大切な仲間達と”試練”へ(いど)まんとする今、そのもどかしさに決着を与える暇もない。

 

あるいは、それが(おとず)れる時があるとするなら、それはきっと誰一人欠けることなく生き延びた、その先に。

 

改めて、ハウンドスクワッドの描く未来は、まだ道半(みちなか)ば。

 

これから向かう苛烈な任務とても、乗り越えるべき(きざはし)の1つでしかない。

 

現在(いま)から未来(さき)へ、求める(ゆめ)と、繋ぐべき生命(いのち)の為。

 

彼らは決然として(のぞ)む。

 

 

 

>> COURSE CLEAR(ただ活路を見据え)...SYSTEM ALL GREEN(覚悟を、胸に定め)

 

 

 

―――― LAUNCH.(いざ、出撃) ――――

 

 

 




・Tips.10

渾沌(こんとん)淵崖(えんがい)

ミナト・"グラジオラス”近辺にある広大な山岳地帯。
上から見ると、ちょうど三日月(みかづき)のような形でグラジオラスを取り囲んでおり、大きな高低差と断崖、峡谷(きょうこく)が複雑に交錯(こうさく)する地形が広がっている。
かつては雪深く、その溶け出した水が川となって流れ、大きな湖と、発電施設が存在していた。
しかし、”ローレライ”の感応波誘導実験(かんのうはゆうどうじっけん)が行われだしてからは、その環境は一変。
複雑な地形へと追い込まれた蝕灰(しょくかい)とアラガミが群れ集まり、激しい捕喰行動によって自然は()え、岩肌だけがむき出しとなった魔の山と化してしまった。
そして、その深奥部(しんおうぶ)は常に高濃度の灰域が(うず)を巻いて流動している。
アラガミすらも避けて通るこの一帯は、かつて一度だけ”極めて大きな反応”が観測されたというが、当時の記録は不明瞭(ふめいりょう)であり、未だその真偽は不明である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。