――――グラジオラス、そして”渾沌の淵崖”に、夜明けが訪れた。
稜線を破って現れた朝陽が、一帯を照らし出す。
同時に、周辺の広大な灰域が、地響きを立てて一斉に動き出す。
それは、先日の”ローレライ”の効果が完全に途絶えたという事を意味していた。
感応波によって萎縮させられていたアラガミ達も再び活性化し、前方に聳え立つ喰いでのある建造物へ殺到し始める。
だが、その黒々とした雪崩がグラジオラスを呑み込もうとした、刹那。
その中心にて突如、激甚たる爆轟と発光とが連鎖的に巻き起こり、そんな様相を一挙に塗り替えてしまう。
激しい熱風と瓦礫の飛散が、荒野に噴煙を巻き上げる。
もうもうたるその帳を、猛然と蹴散らして走る、漆黒の城塞がある。
灰域踏破船・クリサンセマムに他ならない。
背後で起こった爆発の余波に激しく揺れるブリッジにて、イルダが声を張り上げた。
「っ!!!!
エイミー、状況は!?」
<グラジオラス、動力部オーバーロードによって爆発しました!!
クリサンセマム、損傷無し!!
接近中のアラガミ、約70%がグラジオラス方面に向かった模様!!>
「上出来ね。
フェーズ1を継続!!
キース、ポイントαへ全速前進よ!!」
<合点!!!!
ついでに各種撹乱装備、全部バラ撒きだぁ!!!!>
イルダはブリッジのモニターを見上げ、並み居るアラガミの光点を縫って進む、綱渡りの航路に鼻を鳴らす。
「感応波レーダーの感度は良好。
嬉しい誤算、ね」
そう言いながら一瞥した、ブリッジ中央の制御席にはなんと、静かに集中するカミル・グラジオラスが座っていた。
――――「カミルの感応能力は、私と同じ”甲判定”。
けれど、実際にはもうあの歳で私より優秀なんですよ」――――
と、事前にユリハが述べていた通り、カミルは本来、専用の準備と訓練とが必要な感応波レーダーを苦も無く動かせるほどの逸材だったのである。
流石に専属航海士が使用した時ほどの性能までには至らずだったが、足りない分はあらゆる装備を用い、多少の積み荷を囮にしてでも補う、採算度外視の覚悟だった。
<右舷下部装甲に損傷!!
左舷後部、アラガミの遠距離攻撃を受けています!!>
「大型に取り付かれなければ構わないわ!!
突破するのよ!!」
クリサンセマムは自慢の俊足で、アラガミの群れとの最初の衝突を、強引に回避。
やがて、グラジオラス周辺の平野から少し離れた丘陵地帯に到達する。
そこは、目をつけていた”チェックポイント”の1つだった。
複数の険しい丘陵が連なる中、一箇所だけ低く、狭い切り通しが関所のようにあり、アラガミの追跡を遅滞させる。
その僅かな猶予の間に、イルダは通信機へ叫んだ。
「”フェーズ2”に移行!!
クリサンセマム、速度緩め!!
ハウンドスクワッド、出撃よ!!」
<了解!!
後部格納庫、ハッチ開放!!
”リード”、”ホイール”、両チーム発進してください!!>
「・・・・本番は、ここからね」
イルダは、およそ味わったことのない緊張感に、声音を張り詰めさせた。
いかに才媛である彼女とて、指揮官としてのノウハウまでも持ち合わせているわけではない。
すると、身を強張らせているイルダへ、その補助として居合わせているアインが助言を行う。
「肝要なのは、逃げ延びることだ。
其の為には、戦況を俯瞰する”マッシャー”が、チームの連携の要を担う。
あくまでも、それがこちらの役目と覚えおけば良い」
冷静さを崩さない彼の言葉に、イルダは改めて大きく頷いた。
(・・・・戦うのは、彼らの役目。
結局、最後には信じるしか出来ない。
けれど、だからこそ、彼らならばやり遂げる。
必ず・・・・――――)
<――――こちら”ホイールチーム”。
これより、”マッシャー”の撤退を支援する>
速度を緩めたクリサンセマムから飛び出した装甲車両は、そのまま進路後方の平野に陣取った。
停車すると同時、神機を掲げた4人の人影が躍り出る。
「仕事、始めようぜ。
まずは5分。
敵を引き付け、時間を稼ぐ!!」
「っし、始めるかぁ!!」
「いってきまーす!!」
居並んだリカルド、ジーク、ルル、フィム達の、ホイールチーム。
その姿を遠方から見つけ、急速に飛翔してくる異様な姿があった。
端的に言い現すなら、意思を持った黒い風船が群れを成し、意外にも素早く飛来しつつあった。
およそ効果があるとは思えない一対の小さな翼に、正面に巨大な目玉と裸婦像のような部位を持つ飛翔体の名は、ザイゴートと呼ばれる小型アラガミである。
「来たな、でっかい卵ヤロー」
「まずは、露払い、だな」
俊転二刀・バイティングエッジを携え、疾風となって走り出すルル。
その後に、巨大な神機を引っ提げた、小さな背丈が続いた。
「たぁ~!!」
なんとそれは、自分の神機で出撃したフィムであった。
そして彼女の装備は、自身よりも大きく、重厚な巨大円輪、としか言えない、奇抜な武器であった。
――――その名は激月輪斧・ヘヴィムーン。
専用の熟練を必要とするも、独特な形状による途切れのない操作性と、重量武器の破壊力を併せて発揮する。
更に、バイティングエッジと同世代の神機パーツであり、大規模な変形による武器特性変化にも対応。
重厚な刃を集中させた大斧、斧月展開状態を構成し、防御を捨てた猛攻をかけることも可能だった。
そして、ザイゴートの鼻先へと飛び上がったフィムは、見た目にそぐわぬ膂力で、身体ごと円輪を振り回す。
黒い球体の甲殻へ、重刃が連続で食い込み、一息に叩き落としてみせる。
「一本取ったな、フィム」
「あいっ!!
おとさんはあっちだけど、がんばっておとさん、たすける!!」
ルルとフィムが声を交わした、刹那。
突如、霧笛のような大音声が響き渡り、そして遠方から多数の火の玉が飛来する。
しかし、実はその正体は、噴射炎を吐いて進む、いわゆる”ミサイル”の連射だった。
突然の遠距離攻撃は、着弾と同時に爆炎を巻き起こすも、神機使い達は素早く散開して対処する。
無論、これらは人類からの誤射などではなく、その手段だけを模倣したアラガミの仕業だった。
――――遠方から、履帯を模した4脚で踏み鳴らし、赤みを帯びた重機甲の怪物が進撃し、迫り来る。
古式ゆかしい”戦車”の名を冠するのと裏腹に、見上げるようなその身体には、”かつての世界”に氾濫していた銃火器類を満載していた。
重厚な胴体の上には、レーダーや機銃と融合した、人骨を模した上半身が、船首像かのように屹立している。
まるで、人の手を離れた軍船の末路。
あるいは相対した者の行く末を暗示させるような不吉な巨体へ、リカルドは神機を銃形態へと変えて構えた。
「相変わらず、キャタピラもなにも無い動きだなぁ。
ともかく、俺が牽制するから行ってくれ、皆!!」
リカルドの”レイガン”銃身から、青白いエネルギー照射が始まる。
対して、クアドリガは再び霧笛のような鳴動を放ち、射撃体勢を取る。
背部のミサイルポッドを展開し、銃撃するリカルドへと斉射。
更に身体の機銃をも起動し、自身の周囲から相手の退路までを掃射する。
だが、濃密ながらも規則的な弾幕は、横合いからならば突け入る隙があった。
足を止めたクアドリガの側面から、ジークが一気に突進する。
敵の装甲は、まさしく戦車の鉄鋼であり、銃弾や刃物は通りにくい。
その一方で、温度変化や強い衝撃、即ち属性攻撃や、神機による打撃はよく通る。
「土手っ腹、カマしてやらぁっ!!!!」
ジークは、機銃の雨と履帯の4脚を見事に掻い潜り、胴体部の装甲へ、噴火鉄槌を叩き込む。
しかし、鉄鋼の巨体はその程度では揺らがず、むしろ纏わりつく相手を引き剥がしにかかった。
直後、クアドリガはその重量級の身体を沈み込ませ、その見た目を裏切る、凄まじい大ジャンプを行う。
動きを見失いかける程の速さと高さで飛び上がり、そして地震のような着地の衝撃と、ミサイルの雨をばら撒いたのだ。
「無事か、ジーク!?」
堪らずに吹き飛ばされたジークへ、リカルドは回復弾を飛ばす。
「――――全く、でかい図体であまり暴れないでくれよ」
「ならば、攻め手を変えよう。
フィム、そちらは任せる!!」
「あいっ」
ルルは端的な言葉でチームへ役割を告げるや、その俊足でクアドリガの側方へと距離を取る。
そして変形させた”スナイパー”銃身で、相手の弱点部を狙い撃つ。
この陽動に乗じて、リカルドは十字の位置取りへ走ると、何故か神機を変形させ、数mも離れたクアドリガへ近接形態を振りかぶる。
「ぶん回すぜっ!!」
――――瞬間、彼の神機である伸撃鋭鎌・ヴァリアントサイズが”真価”を発揮した。
長柄型と分類される持手の先端部から、突如として黒い鋸のような刀刃が伸び上がり、元の鎌刃と合わせて5倍近くにまで伸長。
”咬刃展開状態”と呼ばれる長大な斬撃武器を形作り、そこに並んだ牙が、クアドリガの装甲を叩き、削り取る。
他に類を見ない、この異様な武器特性は、神機の本体部を著しく変形させる事で実現される。
捕喰形態の大顎のように、直接オラクル細胞を喰み削ぎつつ、近接武器として破格の間合いからの連続攻撃を可能とするのである。
「よっ、とっ、それ!!」
フィムの援護へジークが下がったのに応じ、リカルドは咬刃展開状態を縦横無尽に振るい、クアドリガの人骨部へ連撃を繰り出す。
比較的もろい感覚器官類へ集中攻撃と同時、ルルの銃撃もミサイルポッドを捉え、痛打を与えていく。
その連携に押されたクアドリガは大音声を発し、その身体から周囲を赤熱させる程の排熱を行い、胴体前方のハッチを開く。
すると、その内部には”生体ミサイル砲座”とでも言うべき巨大弾頭が格納されており、前方のリカルドを目掛け、急速に射出された。
装甲車並みに大きなミサイルは、当たれば地形ごと粉々に吹き飛ばされることだろう。
だが、相手のその切り札は、同時に最大の”弱点”を晒す行動でもあった。
「それを待ってたぜ、とぉ!!」
「とぉーっ!!」
空気ごと焼き焦がす排熱行動をダイブで突っ切り、ジークとフィムが殴りかかる。
2人の重量武器が急所を打ち抜き、鉄鋼の巨体も堪らず大きく仰け反り、悶え苦しむ。
「へっ、タイミングバッチリじゃねーかよ、フィム」
「おとさんのまね〜っ」
そして、打ち出された巨大ミサイルは、対象を目掛けて高速で飛翔する。
だが、リカルドにとっては、何度も凌いできた攻撃手段でしかない。
「これでも、まだ現役なんでな。
引き付けて、振り切る!!」
絶妙な間合いで、鋭い踏み込みを行い、直撃と爆風とを躱しきってみせる。
更に、その先で再び咬刃展開状態を振り回し、容赦なくクアドリガの装甲を斬り裂き続ける。
「やぁっ!!」
一方、ルルは持ち前の身軽さで動き回り、ザイゴートの群れとクアドリガへの牽制を同時にこなす。
しかし、その動きへと突然、今度こそ本物の火炎弾が複数、襲来する。
ルルの速さには追いつけずに的を外したが、しかしこれを放ったアラガミ達は、敵意を顕に猛然と走り寄って来ていた。
厳しく大型化した甲殻に、赤黒い体色と炎熱を放つ能力を得た、オウガテイルの上位種だった。
「ヴァジュラテイル、か」
「まったく、カミサマは空気読まないからなぁ。
だが、こっちは逃げるのは得意だぜ・・・・なんてな」
相手は、小型アラガミにしてはタフで強力な集団ではあったが、しかしリカルド達はもう、それに付き合うつもりは無かったのだ。
言うが早いか、持ち込んでいたスタングレネードを連続で投げ、相手取っていたアラガミ達を一斉に混乱させていた。
「時間一杯だ!!
総員、次のポイントまで移動開始!!」
「あ、て、てったい、わわっわ・・・・!?」
リカルドだけでなく、ジーク、ルルも間断なくスタングレネードを投げ放つ。
そうして作り出した隙に、ホイールチームは鮮やかな引き際を見せる。
まっしぐらに装甲車へ辿り着くや、”スピード自慢”たるジークは神機を簡易ラックに突っ込み、再び運転席へと着く。
「撤退を支援する」
ルルは銃形態を携え、装甲車の屋根に飛び乗った。
続けてリカルドも、レイガンを背後に差し向け、ルルと共にアラガミ達への弾幕を張る。
それと同時に、装甲車は急発進していた。
「しゅっぱつ、しんこー!!」
「ま、最後までアラガミをぶっ飛ばさないで逃げちまうのは、なんかモヤッとすっけどよ!!」
「まだまだ先は長いし、元気は取っておかないとな。
それに、徹底的にやるのは、向こうの若さに任せるとしよう」
「・・・・リカルドも、そう変わらないだろうに」
――――そして、一方。
<感応波レーダー、クリサンセマム前方にアラガミの群れを確認!!>
「避けては通れないわ。
”リードチーム”、対応を!!」
「オッケーだ。
そんじゃぁ行くぜ、皆」
”リーダー”からの号令を受け、灰域の荒野へ猛然と繰り出していく装甲車。
その運転席のユウゴは、更にアクセルを踏み締め、疾駆に鞭を打たせた。
「皆、いいか?
クリサンセマムの足を止めないためには、10分以内にターゲット全てを退けるしかない」
「そんな贅沢は言わねぇ。
5分もあれば十分、ってな」
言うが早いか、黒い長布がたなびき、神機を手にその身を装甲車の屋根へと飛び上がらせていた。
「・・・・ねぇ?
やっぱり彼って、いつもあんなにワイルドなの?」
「え、う、うん。
・・・・今日は、特に激しい、かな」
些か空気にそぐわぬ上機嫌ぶりで、ユリハはクレアに問いかける。
そんなやり取りには構わず、ユウゴは前方に待ち構える脅威を大声で報せた。
「いたぞ、ターゲットだ!!」
――――灰混じりの黒い視界に、その凶暴性を表すかのように、”バルバルス”の双眸が青白く光っている。
その様相は、装飾の施された戦鎧をまとう、豪壮なトカゲ人間といった塩梅か。
随所に青白い怪光の瞬く身体を前傾姿勢に構え、頭部には雄々しい鬣と双角、背部に重厚な尻尾が延びている。
中型アラガミと分類されてはいるも、その身体から繰り出すパワーは並外れた威力であるのは言わずもがな。
そして、その最大の特徴として、左腕に三連装の”ドリル”が融合しており、他に類を見ない破壊的な武器と構えられていた。
だが、避けては通れぬ脅威を目の前にしても、装甲車は怯むことなく突き進む。
そのまま激突する腹積もりかと思いきや、否。
バルバルスがこれに気付いて威嚇を始めたと同時、装甲車の屋根上から、猛々しい”黒い弾丸”が飛び出していた。
「 うぉらあぁ !!!!」
素早く空中で身を捻り、勢いのまま俊転二刀で斬り抜ける。
吹き荒ぶ風に、血飛沫と漆黒の長布が踊り、バルバルスの目を引き付ける。
突如、己へ歯向かって来た敵に、バルバルスは雄叫びを上げた。
左腕のドリルが火花を散らして高速回転し、鉾が真正面を向く。
それを掲げての突進は、生物どころか、岩をも微塵に砕くだろう。
しかし、黒い風は怯むことなく前へと走った。
軽盾を構え、”最大防御効果”で一切の無駄なくバルバルスの突進を捌き切る。
間髪入れずに二刀を奔らせ、バルバルスの尾を斬り刻む。
されど、相手も黙ってはいない。
連装ドリルが更に回転数を上げ、そこへ強烈な冷気が纏わされる。
そのまま全身を躍動させ、振り返りざまに殴り抜くことで、巨大な氷塊を隆起させる攻撃。
ところが、黒い風は、それよりも前には剣を引き、静かに”構え”を取っていた。
腰を落とし、精神を集中させ、バルバルスの殴打を待ち構え、そして動く。
「――――ぶちのめすぜ!!」
瞬間、鋭く風を切る二刀の突き上げで、打撃を完全にいなしての連斬が奔る。
振り返ったバルバルスの頭部目掛け、続け様に竜巻のような回転斬りから、薙刃形態での猛攻。
嵐の如き乱れ刃を叩き込み、締めに変形解除を経た渾身の交差斬りを刻む。
獅子奮迅の猛攻撃は、バルバルスの兜に橙色の閃光と、”結合崩壊”の甲高い音とを引き起こしてみせた。
「 ジェット !!」
ユウゴ達の喊声が追い付き、崩折れたバルバルスを目掛けて、激しい弾幕が降り掛かる。
大量の弾丸は着弾と同時に爆発・放電を巻き起こし、更に連装ドリルを結合崩壊させた。
そしてジェットは止むことなく、駆けつけた仲間達へ指示を下す。
「ユウゴ、こいつを抑えてろ!!
2人は――――」
「ならば、あちらの”グウゾウ”に当たるわ。
クレアも、いいかしら?」
駆けつけたユリハは、そのまま神機の銃形態を他方へ向けていた。
その照準の先には、まさしく偶像と呼ばれるに相応しいような、異様極まりない構造体が浮遊していた。
――――丸みを帯びた全身のシルエットは、金属質の重甲殻を一対備え、何らかの祭器のような本体を防御していることによるものだった。
異質な神の啓示のままに造り出したような、絡まる蛇と女神を模した巨像は、信仰を煽る”美”と共に、””死”と”毒”を連想させる禍々しさをも併せ持つ。
その前面に据えられた、デスマスクめいた白い人面像からは、確かにジェット達への敵意が放たれ、周囲に赤紫色のエネルギー力場を張っての戦闘態勢を取っていた。
然り、およそ戦闘向きとは思えぬ前衛的な姿ではあるが、この”グウゾウ”はオラクルエネルギーによる間接攻撃を得意とする、れっきとしたアラガミである。
加えてその重甲殻は、神機による近接攻撃に高い耐性を持っていた。
遠近両用という神機の利点を半減させ、射撃戦を強いられるという特異性に、いつ、どのようにして対処するか。
それに対するジェットとユリハの判断は、奇しくも一致を見ていた。
「おう。
それで正解、だな」
部隊長たるジェットはともかく、長年ソロで任務をこなしてきたユリハもまた、一瞬でアラガミの優先順位を見極めてみせる。
振り返って、開幕の奇襲に成功したバルバルスは、押し返すのにそう時間はかからない。
対処法が限られ、放置のリスクも高いグウゾウは、絶え間ない射撃攻撃を得意とする”アサルト”銃身のユリハとクレアが当たる。
そして、単独で最上級の戦闘力を持つジェットの相手すべきは、更に別にいた。
次の瞬間、ジェット達の方に何か、激しい音を立てて迫る巨影があった。
青褪めて輝く乱気流を纏わせ、巨大な刃物の閃きが突撃と共に掲げられている。
目にも止まらぬ急襲に、それに劣らぬ瞬発力で離脱するジェット達。
そして、凄まじい威力を漲らせる襲撃者は、地響きを立てて着地し、凄絶な咆哮を上げていた。
――――その巨体に纏う豪壮な大甲冑は、目の覚めるような蒼に金縁の重装甲が燦然と輝いていた。
人型に近いが、腕を地につけて前傾に構えた状態でも尚、見上げるほどの体躯。
そしてこれに匹敵するほど長い尾を翻らせ、兜を被った頭部には、人間など一噛みで粉砕する獣の大顎が備わる。
深い口腔を開き、眼の前に屯す獲物達へ覇気を咆えれば、背部に背負う”ブースター”からブリザードのような凍気が放たれ、真紅の眼光が鬼火と輝いた。
その御名は、竜帝・”カリギュラ”。
真竜と称されるアラガミ・”ハンニバル”の上位種であり、圧倒的な暴力性を以て”帝”の字を負うに相応しい、強敵であった。
「やる気満々、ってか。
だが、こっちはてめぇを呼んでもなければ、用も無ぇんだ」
「くっ・・・・3体同時、だなんて」
「クレア、そっちに集中してろ。
こいつは、俺がやる」
ジェットは、勇ましく銃形態へ変形させるや、狙撃爆発弾を連射する。
矮小な抵抗に激したように、カリギュラは凍気を手に凝集させた巨大な氷槍を形作り、跳躍。
その頂点から、放たれた矢のような速さでジェットへ突撃する。
むざむざと食らう訳もなく、ジェットは鋭いジャンプと空中変形を組み合わせて離脱。
直後、地に突き立った氷槍から凍気が炸裂し、両者はその地点を挟んで睨み合う。
そして、今度はカリギュラが先んじ、振り被らせた腕から金属音と共に刃を展開させる。
肉厚の曲剣を重ね合わせた、必殺の威力を発揮するその武器で、カリギュラは咆哮と共に踏み込む。
「見え透いてるぜ」
だが、瞬間移動めいた突進斬撃だろうと、ジェットは過たず最大防御効果で捌いてみせる。
続けて横っ飛びし、カリギュラのもう片腕での二太刀をも躱しきる。
「やってみろ、ジェット!!」
ユウゴから”神機連結解放”が飛ばされる。
相手と互角に渡り合える身体能力が発揮され、ジェットは薙刃形態を構え、突撃。
――カオティックドライブ――
青い衝撃波を纏う連舞で、カリギュラの腕の篭手へ猛攻を掛ける。
しかし、カリギュラは素早く身体を捻らせ、溜め込ませた力を、解放。
同時、周囲を尻尾で薙ぎ払いながら離脱する。
「いちいちデカいが、それで逃げれるかよっ!!」
”神機解放”中の身体能力と、ジェットの天性の瞬発力なら、その程度の間合いは一瞬で踏み込める。
――双刃衝破――
迅速に剣の間合いを取り戻し、竜帝とただ1人、立ち合い続ける。
「――――くっ、ジェット・・・・っ」
「よそ見はダメよ、クレア。
此方の手を緩めれば、余計に二人が危険になるわ!!」
その時、グウゾウの前面の顔を起点に、光輝くオラクルエネルギーの束が次々に放たれる。
低速ながら、弾数と追尾力に優れた誘導光弾攻撃だった。
対するクレアとユリハは十字の位置取りで、素早い動きであしらいつつ、連射弾を撃ちまくる。
そうして、適度な間合いで撃ち合い、互いに決定打の無い膠着状態、と思われた、その時。
「そこよっ!!」
誘導弾の間隙を見切ったユリハが、ダイブを用いて一気に飛び込んだ。
グウゾウの人面へ空中連斬を刻み、更に捕喰形態を繰り出す。
”神機解放”を果たし、続けて技構長剣を高く掲げ、力強く飛び込む。
――スピニングフォール――
飛び降りながら、燃え上がるようなオラクルエネルギーの斬撃をグウゾウの装甲へ叩き込む。
そしてその後方では、怒りに猛るバルバルスを、ユウゴが翻弄していた。
彼もまたロングブレードを巧みに操り、技と構えの緩急を駆使して、戦いのペースを譲らない。
すると、バルバルスがドリルを地面に突き立て、強引に掘り返す。
捲り上げられた岩石が多量に降り掛かるも、既にユウゴは手薄な右腕側へ入り、捕喰形態を繰り出していた。
”神機解放”、そして長剣を連続で振るい、斬り下がる。
バルバルスは、積み重なる連撃に業を煮やしたように、ドリルの回転数を上げ、振りかぶる。
その瞬間。
「 ぅおおおおぉぉぉぉっ !!!!」
そこに、ユウゴはありったけの身体能力を解放し、光を放つ程の突進斬撃で斬り抜ける。
――ゼロ・ディバイド――
研ぎ澄まされたバーストアーツに、バルバルスは遂に堪りかねたように大きくたたらを踏んでいた。
そして、頭部や右腕へ負傷を重ねるばかりの状況に、もはやそれ以上は構えようとせず、踵を返す。
<バルバルス、オラクル反応低下!!
捕喰行動のために離脱します!!>
「仕事が早いな、ユウゴ」
エイミーとジェットの賛辞を聞くや否や、直ぐ様にユウゴは銃形態を構え、グウゾウへの射撃地点へ駆け込む。
「援護する!!」
「決めな、ユリハ!!」
これに合わせ、ジェットもまたカリギュラとの戦闘を縫って、銃形態を連射。
一気に全員の火力がグウゾウへ集中し、仮面のような頭部が結合崩壊を起こす。
そして、ダメージでダウンしたグウゾウは、全身の防御力が著しく低下する。
この好機を見逃すユリハではなく、長剣を振り上げ、連続で斬り裂く。
――――そして、この時。
肩を並べて戦っていたユリハとクレアの間に一瞬、互いの意識が交差し、一つの方向へ向き合ったような感覚が走っていた。
すかさず、エイミーからの好機を告げる通信が挟まれる。
<リード2、感応同期率、最大!!
エンゲージ・申請可能です!!>
「今だよ、ユリハさんっ!!」
クレアからの呼び声に、ユリハも躊躇うこと無く意識を向けていた。
途端、2人の間を一直線に、眩く麗らかな黄金の輝きが繋いだ。
この感応共鳴現象による”力”を受け入れたユリハは、連続で剣を振るった残心に一拍、静止する。
「集中・・・・っ!!」
クレアからの援護射撃を受けながら、ユリハは気を整えさせる。
そうして意識を、その刃と同じく研ぎ澄ませた、直後。
己が剣心一如の技量を、一気に解き放つ。
気迫漲る、閃光の回転連斬が迸り、その勢いのまま更に剣を舞わせ、2連続の十字斬りを刻む。
そして、止。
――闢式・撃火砲刃――
後ろ手に構えた直後、銃身から放ったオラクルエネルギーの爆風に乗り、その威力と技を束ね合わせたバーストアーツが繰り出される。
莫大な光量の爆ぜる極限の転身斬は、グウゾウの重装甲すら一撃必殺に吹き飛ばす猛威を巻き起こしてみせる。
こと純粋な剣技としての粋を魅せるユリハに、ユウゴは舌を巻かざるを得ない。
(同じ武器でも、やはり俺じゃ及びもつかないな。
もしかすれば、ジェット並の・・・・?――――)
<――――ハウンド1、神機喚起率100%!!
GELGYAシステム、第一段階発動!!>
ジェットの神機が一瞬、紅の光と共に昂ぶる。
敵が力をいや増したのを察したように、目の前のカリギュラもまた大咆哮を上げ、活性化状態に移行した。
背中のブースターは最高出力に達し、その巨躯を宙に浮かばせ、回り込む高速飛行からの斬撃を行わせた。
「ちぃっ!!」
咄嗟にガードで凌ぐも、大きく押されるジェット。
それでも、カリギュラが晒した着地の隙へ、素早く斬りかかる。
だが、これにカリギュラは腕を支点にした跳躍で先んじ、しかも着地の衝撃と凍気とを撒き散らし、ジェットを牽制。
更には両腕のブレードを展開させ、恐ろしい勢いで2連続に振り回す。
ジェットは間合いを見切るも、また大きく飛び上がって退がらざるを得なかった。
すると、その時。
「援護するね、ジェット!!
動きの鈍ったグウゾウの相手から、クレアが駆けつける。
彼女はまず回復弾と”神機連結解放”でジェットを支援し、援護射撃へ進み出た。
ならば、と、ジェットはそれを斜に見つつ、回り込む動きで機を伺う。
「頼むぜ、クレア!!」
そのまま激しく射撃を仕掛けるクレアの呼吸を、ジェットはよく知っている。
(まず、連射弾で間合いを測る。
それから爆発弾で仕掛けて、その混合で抑え込む――――)
そして、前方で対象的に動く2人に対し、カリギュラは先に、目障りな弾幕の方に焦れた。
上体を起こして両腕に凍気を集中させ、そこから凍てつく竜巻を時間差で起こす行動を、引き出される。
(そこに、飛び込む!!)
まさしくその瞬間に、ジェットはダイブで一気に奔り、カリギュラの頭上を取る。
「その腕、もらうぜっ!!」
――龍飛鳳舞――
薙刃形態を掲げ、熾烈な蒼紅の竜巻となって突撃する。
狙いは、地面に突っ張ったカリギュラの腕。
ブレードの起点でもある篭手を、オラクルエネルギーの炸裂する斬上げで捻斬れば、結合崩壊の散華が閃き、ジェットは不敵に笑った。
「やっぱり、見事な手前だわ、ジェット」
「そっちも流石だな、ユリハ」
――――過酷な脱出行を戦い抜くため、現状最大戦力を集めたリードチーム。
その中でも、最たる鋭利な鉾として戦う2人のAGEは、もはや異次元と言うべき力量を発揮していた。
かたや、双刃吹き荒ばす黒風。
かたや、鋭剣舞い閃かす燐華。
その磨き上げられた武勇と、これを信じた仲間達の進撃は、強大なアラガミの群れをも物ともしない。
恐れも敗北も知らず、もはや留まることなく活路を切り拓き続ける。
――――かに見えた。
だがしかし、彼らの預かり知らぬ場所で今、確かに脱出行の歯車は軋み始めていたのだ。
>> To be Continued....