GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#8 >> 「Zealot for Ruin.」

――――ハウンドスレッド作戦遂行中(さくせんすいこうちゅう)のクリサンセマム船内に、突如として()()()()(しら)せる警報が、けたたましく鳴り響いていた。

 

「なにごと、エイミー!?」

 

<き、機関エリア・D船倉(せんそう)に問題発生!!

ドアが破壊され、内部にトレイズ博士の姿がありません!!>

 

「まさか、脱走!?」

 

イルダが驚くのも無理はなく、その船倉にはニウロフ・トレイズが手枷付(てかせつ)きで監禁されていた筈だったのだ。

 

精神錯乱(せいしんさくらん)の兆候までもみられた人物が船内を徘徊(はいかい)する状況に、ブリッジは浮足立った。

 

しかし、アインだけはただ一人、冷静なまま申し出る。

 

「俺が確認に向かう。

お前達は作戦に集中しろ。

こちらのゴタゴタは、前線に伝えてはならん」

 

ハウンドスクワッドは、今や全員総出で、命がけの作戦の最中。

 

そして、この艦に残っている人員でこのような事態に対処できるのも、アインだけだった。

 

「ですが、1人では・・・・っ」

 

「いざとなれば、機関エリアを閉鎖して時間を稼げ。

最も、しくじるつもりは無いがな。

――――キース、話は聞いていたな?

お前も、自分の職務に集中していろ」

 

<り、了解っす!!>

 

通信機越しに指示を送り、アインは速やかにエレベーターへと乗り込んだ。

 

(急がなければならない。

”あの男”が動く理由など、他でもない自分の研究(ローレライ)の為のみだろう。

となれば、この船で真っ先に狙うのは、その”(かく)”が居る場所・・・・)

 

 

 

<―――― アアアアァァァァッ !!!!>

 

 

 

機関エリアに到着した途端、甲高(かんだか)く、けたたましい悲鳴が木霊する。

 

更に、続けてエリア(じゅう)に反響するほど激しい()()()が轟く。

 

<アインさん、医務室です!!

トレイズ博士はシャロンを狙っています!!>

 

果たして、アインの予想はそこで裏付けられていた。

 

そして、どうやら相手は無手(むて)というわけではないらしい。

 

アインは警戒を張り詰めさせ、医務室へと駆け込む。

 

「そこまでだ、シャロンを離せ」

 

「・・・・なんだ、貴様は。

貴様は・・・・貴様も、私のローレライを奪おうとする、愚物(ぐぶつ)かぁっ!!??」

 

医務室内にはやはり、ぐったりとしたシャロンを捕まえているニウロフ・トレイズの姿があった。

 

そして、トレイズは何処に隠し持っていたのか、先端から放電する(むち)らしき物を持っている。

 

(ただ)し、面妖なことにそれは、血が(したた)る脇腹から()()()()()()()

 

「大した執念だな。

己の血肉を機械へ置き換えるに留まらず、その(はらわた)を引き千切ってでも、研究を追い求めるか」

 

「それは貴様らが(うば)うからだ!!!!

この世界に福音(ふくいん)(もたら)す、唯一無二なる”私のローレライ”を、またしてもっ!!!!」

 

完全に錯乱して叫び散らすトレイズは、気絶したシャロンの頭髪を掴み、盾にするように立っている。

 

加えて、何の動力かは知らないが、あの鞭の放電に当たれば昏倒(こんとう)は避けられないだろう。

 

アインは慎重に出方(でかた)(うかが)いつつ、言葉を続ける。

 

「その少女は、シャロンだ。

”ローレライ”などではない。

お前こそ、よくもそこまで他者を(さげす)める。

研究者ならば、己の理屈だけで(こと)が立ち行かないとは、百も承知だろう」

 

「愚物が(さえず)るなと言っている!!

わざわざ()いて聞かせてやった上、それでも理解の及ばぬ無脳共めが!!

この私を裏切り、あまつさえ・・・・あまつさえ、ローレライを破壊しおってぇっ!!!!

あれほどの条件をもう一度整えるのに、どれだけの時間と労力を要するか、お前達に分かるか!!??

人類の未来を否定し放棄した、その罪は万死(ばんし)に値するぞぉっ!!!!」

 

果たして、狂乱しているトレイズだったが、その意識はおそらく、アインを()()()()()()()

 

自分にしか見えていない”誰か”に向かって、凄まじい憎悪と罵詈雑言(ばりぞうごん)とを迸らせているようだった。

 

「――――()()貴様らだ!!!!

世界の盟主気取(めいしゅきど)りの、”フェンリル”の飼い犬如きが、私を(さまた)げる!!!!

無能、無力、無知蒙昧(むちもうまい)の愚物が、その(あさ)ましさから私を認めず私の研究に、人生に泥を塗り付けた!!!!

ああ、言ってみろ!!??

”あの日”、お前達が何をした!!??

何が出来たっ、えぇっ!!??」

 

「・・・・生憎と、何を言っているのか分からんな。

そして、今の我々がお前に求めるのは、言い訳めいた恨み言などでなく、”釈明(しゃくめい)”だ。

まずは、自ずから認めろ。

お前のローレライには”重大な欠陥”があり、この窮状(きゅうじょう)()こるべくして起こったものだと。

その結論は過去、()()()()()()()()()()()()()()、示されたはずだろう」

 

ヒクリと、トレイズは歪んだ顔面を更に引きつらせる。

 

おそらく、核心(かくしん)を突かれた怒りのあまり、言葉の代わりに口角(こうかく)から泡を吹きだしていた。

 

また、アインとて、今更この男に交渉が通じるとは思っていない。

 

重要なのは、どうにかして隙を作り、シャロンの(そば)から引き剥がすことだった。

 

「――――かつて、” エイジス計画 ”というプロジェクトがあった。

極東地域(きょくとうちいき)日本近海(にっぽんきんかい)に、あらゆる脅威から隔絶(かくぜつ)された聖域、”エイジス島”を作るという()()の元に行われた、巨大な陰謀だ。

・・・・だが、問題はそれが頓挫(とんざ)した後だった。

遺された大量の機材、物資を目当てに、エイジス島には膨大なアラガミが密集した。

その過度な密集状況は、奴らに異常な強力化(きょうりょくか)突然変異(とつぜんへんい)をもたらし、結果として其処(そこ)は予測不能な危険が跋扈(ばっこ)する地と化した」

 

神機使(じんきつか)い如きが、(さえず)るなと言っている!!!!

借りてきた言葉で、私に説教をするつもりか!!??」

 

「・・・・ならば、改めて言おう、Prof.(プロフェッサー)ニウロフ・トレイズ。

()()の”ローレライ”は、確かに素晴らしい。

だが、その影響によって追いやられ、不自然に一箇所へ集中したアラガミ達は、予想の付かない”イレギュラー”を発生させるでしょう。

今回のようなスタンピードや、異常進化種(いじょうしんかしゅ)の発生など、かのエイジス(とう)で観測された重大インシデントを、あらゆる場所で繰り返し()るのです」

 

――――もしもこの時、この場に普段のアインを知る者がいたなら、彼の雰囲気が明らかに変化したのに気付いたろう。

 

この荒廃した時代を立ち回る統領(オーナー)としての凄みでなく、敬虔(けいけん)(ことわり)を見詰める慇懃(いんぎん)さを(かも)し出していたのだ。

 

「だからどうした!?

あのような害悪共など、(むし)のように共食いさせておけば良い!!

ローレライが、歌う限り!!!!

人類は、オラクル細胞の悲劇から開放されるのだ!!!!」

 

「・・・・その為に、ただ一つの命に、全ての(ごう)を背負わせて、か」

 

アインは、残された右眼を(すが)め、低く(うな)るように呟いた。

 

慇懃な物腰は崩さないまま、その青褪(あおざ)めた眼光に”神機使い(ゴッドイーター)”としての生き様で(つちか)った気迫を垣間見(かいまみ)せていた。

 

懸念点(けねんてん)は、幾つもある。

だが、なによりも。

貴方の提唱(ていしょう)するローレライシステムは、高い感応能力(かんのうのうりょく)を持った個人に依存(いぞん)する。

欠けがえのない生命(いのち)を、機械の奴隷(どれい)として繋ぎ、生物としての()(かた)を歪ませてまで、世界を()()()()

そして、もしも、何者かに犠牲を押し付けて()された、仮初(かりそめ)安寧(あんねい)が失われたなら。

後には、過酷な世界に立ち向かう事を忘れた、愚物達(ぐぶつたち)だけが残るのだろう」

 

トレイズは全身を不気味に震わせ、怒りに支配されていた。

 

それもそのはず、彼にとってこの言葉は、()()()()()だろうからだ。

 

「我々、研究者など、所詮は同じ。

滅亡を先延ばすため、足掻(あが)いているだけに過ぎない。

だが、Prof.トレイズ。

”ローレライの歌”に(おぼ)れた人類は、未来を拓く意志すらも奪われる。

安寧の対価に、失われるもの。

それらから目を背け、利己的な現状維持に走り、よりよい世界を導く責任を放棄する。

それこそが、本当の”(しゅ)の限界”・・・・滅亡を招くのだろう」

 

「・・・・貴様は、何者だ。

なぜ、その言葉を知っている・・・・!!??」

 

初めて、トレイズは明確にアインを見据えていた。

 

(わず)かに理性の戻った眼差しには、怒りと共に畏怖(いふ)が混じっていた。

 

「・・・・いつの時代も、科学など”手段の一つ”でしかない。

だが、それを忘れた”救世主(メシア)気取(きど)りの盲信(もうしん)が、”厄災(やくさい)”を招く。

今の()()や、先の愚か者達のようにな」

 

「・・・・ふざけるな。

一緒にするな、あの”罪人共(つみびとども)”と。

” 厄災(やくさい)三賢者(さんけんじゃ) ”・・・・あの者共さえ、いなければ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

その名称とは、今、世界に生き残った全ての人類が知るところだろう。

 

かつての世界は、アラガミという脅威に晒されながらも、”希望(きぼう)”があった。

 

十数年の長きに渡る犠牲と尽力の果てに、未来は少しずつ(ひら)かれていると、信じることが出来ていた。

 

――――その、大罪人達(たいざいにんたち)が、二度(にど)とは(すす)げぬ”(あやま)ち”を犯す、その時までは。

 

「”あの日”。

ローレライが起動できていれば、あのような惨事(さんじ)は起こらなかったのだ。

ローレライが、凍結などされていなくば。

フェンリル本部(ほんぶ)壊滅(かいめつ)し、人類の”希望”となる幾つもの成果(せいか)が、永久に失われることはなかった!!

誰一人(だれひとり)っ!!!!

優秀な研究者達も、あの場に暮らす人々もっ、喪われることなどなかったのだ!!!!

それを、”()()()”がっ!!!!

貴様のような戯言(ざれごと)(ろう)し、私を否定した”あの男”のせいで!!!!

全ては喪失(そうしつ)し、人類は致命的(ちめいてき)な技術的後退を()いられたのだっ!!!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「”エイジス計画”を繰り返したのは貴様(キサマ)だ!!!!

()()()()()()()をしたのは貴様だっ!!!!

楽園(らくえん)を作ると(うそぶ)き、この世に”厄災”だけを(もたら)して無責任に消え失せた!!!!

どこに逃げたっ!!!!

” ソーマ・シックザール ”っっっっ!!!!」

 

「――――っ!!」

 

瞬間、激昂(げきこう)したトレイズが、鞭から手を離した。

 

その絶好の機会を見逃さず、アインは一気に飛びかかる。

 

所詮はひ(よわ)な研究者であるトレイズが、数々の荒事(あらごと)(くぐ)ってきた彼に敵うはずもなく、悲鳴を上げながら取り押さえられる。

 

「おのれっ、おのれぇっ!!!!

私の研究が、ローレライさえあれば、私は!!!!

私はああああっ!!!!」

 

「・・・・確かに、ソーマ・シックザールは、(おの)罪業(ざいごう)(さば)きを待たず、姿を(くら)ました。

だが、ヤツが、母なるこの地球(ほし)に背負わせた(いた)みと(あやま)ちから逃げ出す、真の愚物でないのならば。

己の責任・・・・罪を(つぐな)うため、足掻き続けているだろう。

この世の何処かで、命尽(いのちつ)きるまで、な」

 

 

 

――――怒りと哀しみ、塊根(かいこん)のような暗い感情が、アインの言葉に深い影を帯びさせていた。

 

そしていつも沈着冷静に現実を見据える彼の眼差しはこの時、今を通り過ぎた場所へ、(うつ)ろに(すが)められていた。

 

「・・・・こちら、アイン。

医務室にて、トレイズを確保した。

だが、シャロンの容態(ようだい)が思わしくないようだ。

おそらく高圧電流を受けたショックだろう」

 

再びトレイズを厳重に縛った後、アインは気絶するシャロンの(そば)に屈み込んだ。

 

ただでさえ弱っていた彼女へ、トレイズの仕業(しわざ)がどれほどの負担となったのかは(はか)り知れない。

 

ブリッジのイルダへ通信しながら容態を()るも、さしものアインも医療は門外漢(もんがいかん)だった。

 

<彼女は無事なのですか、アインさん!?>

 

「・・・・なんとも言えん。

一先ず、こちらで応急処置を試みる。

あとは彼女の、”ヒト型アラガミ”としての生命力に賭けるしか――――」

 

 

 

その刹那(せつな)

 

突然、シャロンの双眸(そうぼう)見開(みひら)かれていた。

 

(こぼ)れ落ちそうな大きな眼は焦点が合っておらず、明らかに異常なまでに、真っ赤に光り輝いている。

 

そして、アインはぞわり、という不吉な波動(はどう)を感じ取った。

 

目の前のシャロンの小さな身体が激しく痙攣し、その奥底からなにか()()()()()()()()がせり上がってくるのが分かった。

 

 

 

< キィアアアアァァァァッッッッ―――― !!!!>

 

 

 

シャロンは、大きく開かせた口から、耳を(つんざ)く絶叫を上げていた。

 

凄絶(せいぜつ)なまでの悲憤(ひふん)、混乱、恐怖、全ての入り交じった波動が広がり、アインは自身の細胞の全てが戦慄(せんりつ)するのを感じていた。

 

それと同時に、クリサンセマムの電灯や機能も乱れ、船体が激しく揺れ動いた。

 

そしてアインは(いちじる)しい不調に襲われ、横ざまに崩折れてしまう。

 

「ぐぅっ、っ!?

これは、感応波(かんのうは)・・・・っ!!??

生身で、なんという強度だ・・・・!!!!

っ、落ち着け・・・・落ち着くんだっ、シャロン・・・・!!!!」

 

 

 

シャロンは、断末魔のような狂おしい叫びを上げ続ける。

 

彼女の絶望は、底無しだった。

 

己を苦しめる、何もかもを糾弾(きゅうだん)するように。

 

そして、それらを(あまね)(ばっ)する、強大な()()()い願うかのように。

 

シャロンの悲鳴は、決して()もうとしなかった。

 

 

 

「――――くくくくっ、ひ、っひひ、 ぃははははっ !!!!

ああ、そうだ、歌え!!!!

(うた)え、私の”ローレライ”!!!!

愛しき(むすめ)よっ!!

古い時代、全ての悲劇を終わらせ、お前の願いを見せてくれ!!!!」

 

その時、縛り上げられているトレイズが、突如として狂ったように笑い出し、身悶(みもだ)え始めていた。

 

跳ね回る芋虫のような滑稽(こっけい)な有り様だと言うのに、彼は熱に浮かされ、陶酔(とうすい)とした様相だった。

 

「トレイズ・・・・っ!!」

 

「”重大な欠陥”、だと?

イレギュラーの可能性?

()()()()()()

この私が、その程度を予想していないとでも思ったか?

” (ぎゃく) ”なのだよ、小賢(こざか)しき神機使(じんきつか)いクン。

先延(さきの)ばそうなどするまでもなく、こんな地球(せかい)などとっくに滅んでいるっ!!

そして、貴様らはっ!!!!

人間は、最後(さいご)(さば)きを(まぬが)れ続けているっ!!!!

荒ぶる神々の結審(けっしん)、” 終末捕喰(しゅうまつほしょく) ”をぉっ!!!!」

 

トレイズは、間違えようなく本気だった。

 

自分を含めた、なにもかもが滅亡する未来。

 

そこへと()してきた己を、快哉(かいさい)のように語ってみせる。

 

懺悔(ざんげ)などである筈もない。

 

本気で、正気を失った思想に心酔(しんすい)していたのだ。

 

「馬鹿な・・・・っ!!」

 

「新たな時代を謳えよ、ローレライっ!!!!

お前の導きによって、”全てを()らうもの”が生じるのなら、それも一興!!!!

(まった)き命は、お前次第なのだっ!!!!」

 

 

 

――――”終末捕喰”。

 

あらゆる物を捕喰(ほしょく)するオラクル細胞、その集合体たるアラガミが、増強と拡大を続けていった、()て。

 

この地球(ホシ)ごと(むさぼ)り尽くすほどに肥大した災い、”ノヴァ”と化し、世界は()()する。

 

今、この世界で生きる生命、しがらみの全ては”リセット”され、歴史は再び(ゼロ)から歩みだす。

 

その実例は空の向こうに、瑞々(みずみず)しい緑に溢れた衛星(えいせい)、” 月 ”に現されていた。

 

しかし、地球までもが同じ結果を辿るかは、定かではない。

 

もしもその結果が示されたとして、その時、それを確かめられる者はこの世に()い。

 

だが、トレイズはそんな絵空事に取り憑かれ、全てを投げ打ってみせたのだ。

 

アイン達は、この男を見誤っていた。

 

奴の望みとは、ローレライの完成ではなく、その果ての虚無。

 

己の研究の狂信者(きょうしんしゃ)を装った、破滅願望の塊だったのだ。

 

 

 

<ヴィイイイイィィィィッ!!!!>

 

 

 

その時、全艦緊急警報(ぜんかんきんきゅうけいほう)が鳴り響いていた。

 

船の機能不全どころではない甚大な危険の発生に、オペレーターのエイミーが金切り声で放送を叫んだ。

 

<全員、衝撃に備えてください!!!!

か、” 灰嵐(かいらん) ”が・・・・真っ直ぐ、こちらへ迫ってきます!!!!>

 

「来るぞぉ、新たなる時代がぁっ!!!!

全てを喰らえっ!!!!

この汚らわしい世界を喰らい尽くし、私を連れて行ってくれぇっ!!!!

ヒャアァッハハハハアアアア !!!!」

 

狂気のままに叫び散らすトレイズ。

 

そしてアインは、のしかかってくる苦悶や弱音など噛み潰すように、無様に震える身体で、それでも立ち上がろうともがき続けていた。

 

「――――”因果応報”、と()うか・・・・っ。

だが、俺は・・・・人類は、まだ足掻ける、筈だ・・・・。

・・・・例え、あの(つき)へ、生き恥を晒し続けてでも・・・・!!――――」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

――――改めて、灰嵐(かいらん)とは、高濃度の灰域が何らかの要因によって更に活性化し、超高密度で流動し始める現象である。

 

その威力がただの嵐と同じなはずはなく、吹き(すさ)喰灰(しょくかい)によって物体は一瞬にして瓦解(がかい)し、生命体は骨身も残さず消失する。

 

そんなものが迫り来るというエイミーの警告と、それを呼び込んだと思われる感応波は、ハウンドスクワッド達にも届いていた。

 

「ぐ、ぅっ・・・・!!??

どういうことだよ、エイミー・・・・っ!?

灰嵐って、そんなに()()と出て来るもんじゃないはずだろ!?」

 

身体に急激に襲い掛かる負荷(ふか)(あらが)いながら、叫ぶジーク。

 

だが、その問いへ的確に答えられるものは居はしなかった。

 

<わ、分かりません!!

小規模ながら強大な反応が、突然に出現っ。

アラガミの群れを()()きながら、クリサンセマムへ急速に向かっているんです!!>

 

ホイールチームを率いて戦闘中のリカルドも、ローレライの影響下のような不調に見舞われていた。

 

しかし今は、迫り来る灰嵐へ迅速に対処せねば、生身の自分達どころか、灰域踏破船(クリサンセマム)ごと粉々にされかねない。

 

「どうしますか、オーナー・・・・っ!?

まさか、無防備に食らう訳には行かないでしょう!?」

 

<全員、即時撤退よ!!

各自、ここから南西にある峡谷地帯(きょうこくちたい)へ移動し、これをやり過ごすわ!!>

 

「それしかないだろうな。

だが、今はタイミングが悪い・・・・っ」

 

眉を(しか)めるルルが身構える先には、(いわお)のように(たくま)しい巨躯と、白銀(しろがね)の甲殻を持った(おおかみ)のようなアラガミが立ちはだかっていた。

 

――――いっそ精悍(せいかん)とまで言える、(たてがみ)をなびかす狼の鼻面(はなづら)を持つが、その首元からは(あか)く異様に光る複数の(おび)のような器官が、背後へ怪しく揺らぐ。

漆黒の身体は筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)として、特に極めて大きく発達した前脚(まえあし)は”ガントレット”と呼ばれる装甲が()され、激しい炎熱を(つかさど)る最大の武器だった。

そして、神蝕狼(しんしょくろう)・”マルドゥーク”は、古代の英雄の名を(かん)するに恥じない、勇壮な遠吠(とおぼ)えを上げた。

途端、紅色の帯や、白銀の身体や尻尾(しっぽ)に交じる(くれない)(たてがみ)が共鳴し、周囲に強力な感応波を発生させる。

その身体を中心に”真紅の渦”が巻き起こり、そしてローレライのように広範囲へ拡散していった。

 

果たして、感応種(かんのうしゅ)と呼ばれるこの特殊なアラガミは、自身の感応波を号令として周囲のアラガミへ呼び掛け、1つの軍勢に纏め上げる、という厄介極まりない特殊能力を有していた。

 

「ふぃむも、わかるよっ。

なかま、よんでる!!」

 

周囲から、次々に野太い遠吠えが(つら)なり始める。

 

それに続き、マルドゥークによく似た、しかし()びた鉄塊のような鬣を持った巨大な狼達が現れる。

 

そのアラガミ・”ガルム”は、マルドゥークに明確に従属(じゅうぞく)しており、その号令に応じて大きな群れを形成する事で知られていた。

 

しかも今回、他にあらゆるアラガミに取り囲まれているこの状況では、感応種の能力は()()()()()だった。

 

このままでは別種のアラガミ達までもが呼応し、群れの規模は無尽蔵に増していくだろう。

 

勘弁してくれよ、と思わずぼやくリカルド。

 

「だが、なんにせよ・・・・此処は踏ん張り切るしか無いな!!」

 

「おうよっ!!

それに、やるといったらやるのが、俺ら”ハウンドスクワッド”だってんだよっ!!」

 

 

 

 

――――そして、前方に展開するリードチームにも、緊急事態の報は伝わっていた。

 

「これは、ローレライ・・・・いいえ、シャロンの声・・・・っ?

この灰嵐は・・・・あの子が呼んでしまったの!?」

 

生身(なまみ)の感応波で、だと・・・・!?

だが、これほど離れていても影響があるのなら、もしかしたら・・・・!?」

 

ユリハの荒唐無稽(こうとうむけい)な予想に驚くユウゴだったが、その証明はまさに今、この事態が(にな)っているのかも知れなかった。

 

元より”ヒト型アラガミ”は高い感応能力を持ち、更にシャロンの場合は、長らく人為的な強化処置までも施されていた。

 

そうなれば、もはやローレライを介さずともオラクル細胞に干渉し、周囲の環境までも激しく乱す事すら、有り得るのかも知れない。

 

「こちら、ユリハ!!

お願い、誰か、シャロンに声を届けさせて!!!!

このままだと、あの子は本当に自分を失ってしまう・・・・!!!!」

 

「・・・・悪いが、そんな暇は無さそうだ!!

リード1より、全員撤退だ!!

ユウゴ、装甲車を回せ!!

時間は、俺が(かせ)ぐ!!」

 

兎にも角にも、イルダの避難指示を実行せねば、即死。

 

ジェットは神機を構え、活路を拓くべく飛び出した。

 

「そんな、ジェット!?」

 

「さっさと行け、クレアっ!!」

 

「っ――――!!」

 

 

ジェット達だけでなく、周辺のアラガミ達もまた、波動の影響に混乱した様子でいた。

 

先程から戦闘に突入した、直立(ちょくりつ)した巨大鳥の戦士、という(ふう)な、剣のように鋭い爪腕(つめうで)を持つ中型アラガミ、”ネヴァン”。

 

そして(いかめ)しい甲殻や頑強(がんきょう)な棘、角で、とかく突撃に特化した(いのしし)のような小型アラガミ、”アックスレイダー”。

 

それら複数体が()れなしているが、いずれも普段と違ってふらついている様子だった。

 

とはいえ、放っておいてそのままやり過ごせるような状況でもない。

 

「おら、腰抜かしてんなよ!!!!

()るなら、俺がやってやる!!!!」

 

ジェットは堂々と言い放ち、アラガミを誘引(ゆういん)する”挑発フェロモン”のアンプルを胸に叩きつけ、割り開く。

 

<は、ハウンド1、神機喚起率200%!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム、第ニ段階発動(セカンドドライヴ)!!>

 

 

 

>> ・制御ユニット 攻撃力+30%・バーストアーツ攻撃力+20%・”神機解放(バースト)”時間+20%

 

 

 

引き出される”力”に手応えを感じるジェットだが、それでも状況は危急(ききゅう)も良いところだった。

 

とにかく、時間が無い。

 

窮地へと追いやられて行く()()を、ビリビリと肌で感じられた。

 

薙刃形態(ていじんけいたい)の連撃で、1匹のアックスレイダーを仕留め、相手は断末魔を上げて倒れ伏す。

 

その振動とは明らかに異なる、激しい地震が断続的に起こっている。

 

迫り来る灰嵐の威力が、大地を引き裂き、揺るがしていた。

 

だが、此処(ここ)でアラガミ達を引き付けるか追い返すかしない限り、クリサンセマムの進路を妨げてしまう。

 

<クレア、ユリハ!!

こっちにもアラガミが流れて来ている!!

車両の進路を開いてくれ!!>

 

「っ・・・・了解したわ」

 

「は、はいっ!!

っ、・・・・ジェット・・・・っ」

 

そして仲間達の殿(しんがり)に立ち塞がるジェットは、相対するネヴァンに捕喰形態(プレデターフォーム)で食いつき、”神機解放(バースト)”。

 

対して、ネヴァンは腰部(ようぶ)の翼を大きく開かせる。

 

舞い散った羽がエネルギーの槍へ変じ、前方を広く刺し貫いて制圧するも、ジェットはそれより速く間合いを詰め、二刀で乱れ斬る。

 

かと思えば、周囲に(たむろ)するアックスレイダー達へも手は緩めず、飛びかかりざまに強烈に斬り裂き、すれ違う。

 

その()を狙われれば、それすら見えているかのように飛び退(しさ)り、銃形態(ガンフォーム)で反撃を図った。

 

そして、後退したユリハとクレアも、小型アラガミが群れ集まる中を、剣と槍、銃火(じゅうか)の重なりで打ち払っていく。

 

もはや進む以外に無い覚悟の奮戦で、ユウゴの操る装甲車が割り込めるには十分な空間をこじ開ける。

 

<戻れ、ジェット!!

これ以上は、灰嵐に吹っ飛ばされるぞ!!>

 

「おう、待ちわびてた、ってな!!」

 

<――――っ!?

ジェット、()()()っ!!>

 

刹那、通信機からのクレアの叫び声に、ジェットは思い切り飛び退()いていた。

 

凍てつく鎌鼬(かまいたち)のような激しい(ひらめ)きが、アラガミの群れを斬り裂き、ジェットまでもを両断しようと迫っていた。

 

それを辛うじて察したジェットは軌道から逃れ、唸りを上げる莫大(ばくだい)凍気(とうき)の渦を振り仰いだ。

 

「カリギュラ・・・・っ!!」

 

(しか)り、轟々(ごうごう)逆巻(さかま)く凍気を従え、一度は退(しりぞ)けた筈の蒼き竜帝が、再び飛翔していた。

 

鬼気の(みなぎ)る咆哮と共に、その左腕に常軌(じょうき)(いっ)した電光が絡み、轟く。

 

活性化したカリギュラ、最大の技の構え。

 

己に土を付けた、漆黒の双刃と決着(けっちゃく)をつけるまでは止まらない、と言わんばかりだった。

 

「こっちは時間が無いってのによ。

・・・・使うしかねぇか、”神機激臨解放(レイジバースト)”・・・・!!」

 

もはやジェットも腹を(くく)るしか無かった。

 

その効果や()()すら未知数な”切り札”に頼るリスクは大きい。

 

しかし今、此処(ここ)をおいて(ほか)()(どき)は無いのも確かだった。

 

「ジェット、助太刀するわ」

 

ところが、ただ1人の勝負を覚悟していたジェットの(そば)に、退()がった筈のユリハが現れる。

 

「ユリハっ!?

だが――――」

 

2分(にふん)もあれば十分。

そうよね?」

 

何処かで聞いたような大口(おおぐち)をも疑わせない実力が、彼女には確かにある。

 

勝負の結果を、1人で背負うか、分かち合うか。

 

少なくとも、さっきよりも()が良くなったことは間違いなかった。

 

「へっ・・・・そうこなくちゃな」

 

こうなってはもはや、速攻をかけて押し通る以外に活路は無い。

 

ジェットは、(たぎ)る闘志によって笑みの(かたち)を見せ、二刀を構えさせた。

 

――――ところが、2人が前のめりに踏み出したその時、ふと辺りが急速に暗くなっていた。

 

陽が傾いた暗さではない。

 

切れ切れの雲が差し掛かった時のように、周りには()()()明暗(めいあん)が入り乱れていた。

 

果たして、その現象の正体(しょうたい)は、空を見上げれば一目瞭然だった。

 

「・・・・嘘・・・・っ」

 

唖然(あぜん)としてユリハが呟く。

 

そうして、思考が固まりかけてしまうほどに異常な光景が、もはや間近に迫る灰嵐(かいらん)の方向に見えてしまう。

 

巨大な、真っ赤に燃える岩塊(がんかい)が、喰灰(しょくかい)大渦(おおうず)からまろび出て来る、瞬間だった。

 

距離感(きょりかん)や、時間の(すす)みも見紛(みまが)うほどに大きな()()は、灰嵐に呑まれた地形がその威力に削り取られた、成れの果てか。

 

激しい捕喰(ほしょく)によって火山岩のように燃え盛り、そして今度は地響きを立てて、空から滑り落ち始めた。

 

その落下軌道にある小さな岩山、崖壁を幾つも巻き込み、打ち崩しながら。

 

次第に姿は小さくなれど、その(かず)と危険性とを際限(さいげん)なく増やして、ジェット達が(たたか)う場所へ雪崩(なだ)れ来る。

 

 

 

「 二人共、逃げてっ !!!!

 こっちに、早くっ !!!!」

 

 

 

其処(そこ)に響き渡ったクレアの悲鳴が、硬直しかけた思考を()(ぱた)いた。

 

考える余裕も余地(よち)も無く、未曾有の危機感のまま逃げる以外、出来ることなど無かった。

 

 

 

 ――――ッッッッ―――― !!!!

 

 

 

誰かの叫びか、迫り来る土石流の轟音か、まるで判別などつかなかった。

 

先程までと比較にならない激震(げきしん)飽和(ほうわ)し、神機使(じんきつか)いの身体能力であっても足がもつれかける。

 

そして弾け飛んでくる落石の雨は、直撃すればアラガミすらも暴力的に薙ぎ倒す。

 

身体の大小、効果の有無に関わらない絶大な質量衝撃は、人間ならば骨ごと()(つぶ)されかねない。

 

ましてその威力は、地形すらも激しく破壊しようとしていた。

 

噴煙(ふんえん)を上げて土石流が到達するや、(みみ)(ろう)する破壊音と共に、地面に真っ黒な亀裂が入る。

 

そしてそれは、落石の度に急激に深さ、長さを増していき、ジェット達がいる場所全体へと広がっていく。

 

「おいおい、マジかよ!!??」

 

「く、崩れる・・・・ あぁっ !!??」

 

刹那、悲鳴と共にユリハの姿が地面へ引きずり込まれた。

 

崩壊によって地面が急激に沈み、その落差に呑まれたのだ。

 

「 ユリハっ !!!!」

 

「だ、ダメっ!!??

戻って、ジェットっ!!!!」

 

もはや周囲一帯が粉々に砕かれ、巨大な地滑りが引き起こされつつあった。

 

震動と落石は止まず、一度始まった崩壊は止め処なく、加速度的に進行していく。

 

そんなものに巻き込まれれば、AGE(エイジ)とは言えひとたまりもない。

 

ジェットは、ユリハを助ける(ため)に走り出す。

 

クレアも、咄嗟にそれを止めようと駆け出す。

 

「 来るな、クレアっ !!!!」

 

だが、ジェットはそれを、声も()れんばかりの怒号で止めていた。

 

驚愕するクレアを見つめ返し、悲壮なまでの決意で、彼女へ伝えていた。

 

 

 

「 逃げろ !!!!

 ()()()()()()()() !!!!」

 

 

 

――――クレアは、拒絶と躊躇(ちゅうちょ)に立ち止まってしまう。

 

その一瞬の内にすらも、事態は急激に進行し続ける。

 

目に見えない、しかし吹き飛ばされそうに分厚い大音圧(だいおんあつ)氾濫(はんらん)し、身体中が粟立(あわだ)ち、臓腑(ぞうふ)までも(すく)み上がる。

 

此処にいたら間違いなく死ぬと、クレアの生存本能が叫び散らしている。

 

土石流の向こうへ、大切な人が消えていく。

 

なのに、このままただ(あと)を追えば、何もかもを見失う。

 

恐怖と切望の間で、クレアが理解できたのはただそれだけだった。

 

 

 

「そんな・・・・ユリハ、ジェットっ!!

 ジェットぉっ !!!!」

 

 

 

――――恐るべき灰嵐の轟き。

 

クレアの慟哭(どうこく)

 

ジェット達と、作戦の行方。

 

土石流の唸りは、全てを呑み込み、押し流していく。

 

深く、暗い、危難(きなん)(いた)り。

 

この烈しき戦いの本領。

 

待ち受ける、本当の”試練”の許へと。

 

 

 

Next to 「GODEATER3>>Remember Chains. Vol3」....

 

 

 




・Tips.12

「”制御性(せいぎょせい)増幅感応波(ぞうふくかんのうは)誘導装置(ゆうどうそうち)・ローレライ”」

(もと)”フェンリル”所属の科学者、ニウロフ・トレイズ博士が独自に構想、主導していた実験兵器。
原理としては、オラクル細胞由来(さいぼうゆらい)活動体(かつどうたい)が放つ”強力な偏食波(へんしょくば)”=”感応波”を強化・増幅して発信し、戦闘を介することなくアラガミを追い払う、というもの。
その着想は、かつて極東地域(きょくとうちいき)にて発生した、オラクル細胞の不活性化地帯(ふかっせいかちたい)、”聖域”の環境とその経緯から得られたという。
しかし、その実情は数多くの問題点を(よう)し、実用化の目処(めど)は立っていなかった。
(さい)たる問題とされた点は、強力な感応波を発生させるべく素養(そよう)ある被験者へ(ほどこ)す”処置”が、主に脳の自律神経系(じりつしんけいけい)に過大な負荷をかけること。
特殊な薬剤・インプラント装置などで無理矢理に増幅された被験者の”苦痛”は、アラガミにも本能的な忌避(きひ)を引き起こさせるものの、その()に深刻な障害・精神疾患(せいしんしっかん)が残る結果を解決できずにいた。
このような悲惨な失敗が繰り返された為に、ローレライ計画は当時のフェンリル本部の研究員だった、”ソーマ・シックザール博士”からの非難を受ける。
同氏(どうし)は、かつての”エイジス計画”の顛末(てんまつ)を引き合いに、「その効果や影響は全てにおいて()()()()()()でしかなく、また人道的にも看過(かんか)できるものではない」等として、強硬に反対。
この(つる)一声(ひとこえ)があり、”ローレライ”は凍結、破棄された――――かに見えた。
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