GODEATER3>>Remember Chains. 作:志乃木千進
その豪腕を振るい、絶大な極光纏う剣の一撃に、ジェットとユリハは一溜まりもなく消し飛ばされる。
――――そう思われた、刹那。
2人を照らした激しい音と光は、しかし逆に”魔神”の方を仰け反らせ、絶体絶命の攻撃を阻止してみせていた。
「これは・・・・”スタングレネード”の!!??」
「
其処に、凛として響く声があった。
驚き、振り返ったユリハは、傍の岸壁の上に立つ人影に目を見開く。
青と白の純潔な衣装に映える金色の髪を靡かせ、雄々しく神機を構える姿。
灰域の薄暗さに於いてもなお勇ましく輝くような、
「3時方向!!!!
全力で走ってっ!!!!」
「っ!!」
窮地に現れたクレアの援護を頼みに、ユリハは脇目もふらずに走り出した。
瀕死のジェットを抱えて逃げる背中へ、魔神が咆哮を上げて襲いかかろうとする。
<パアァンッ・・・・!!!!>
その瞬間、2発目のスタングレネードが強引に黙らせた。
「ジェットに・・・・仲間に、手出しはさせないんだから!!!!」
雄々しく吠え、更に激しく”アサルト”銃身を連射するクレア。
彼女の渾身の時間稼ぎで、ユリハ達は辛くも
この複雑な狭路を行けば、強大さと引き換えに機敏さを失った”スサノオ”は、易々とは追いつけないだろう。
< グゥウウウウオ”オ”オ”オ”ォォォォッッッッ !!!!>
――――果たして、憤怒に
その為にスタングレネード、
ユリハとジェットは、自分の神機すらも投げ捨てて、あまりに無惨な敗走であった。
だが、しかし。
まだ誰一人として、喪われてはいなかった。
此処で、このまま終わること無く、生きて、堪えて、逃げ延びて見せたのだった。
・・・・
・・・
・・
・
合流した3人は、小さな洞窟に辿り着いていた。
未だに意識の戻らないジェットを床に横たえて、ユリハも疲労困憊の様子で壁にもたれかかる。
「ユリハはそのまま、安静にしてて!!
ジェット・・・・っ・・・・酷い・・・・!!」
クレアは、ジェットの容態を診て、悲痛に息を呑む。
ジェットの身体は発汗と共に震え、しかし裏腹にその呼吸は刻一刻と細くなっている。
そして、その原因であろう
「彼の傷は・・・・まさか、もう・・・・」
酷く息苦しそうに問うユリハ。
目立った傷こそ残っていないが、彼女にもあまり
ユリハの衰弱が、戦闘の疲労とはまた”別の要因”である事を、クレアは既に見抜いていた。
「ジェットの
そのせいで
・・・・そもそも、今回はこんなにも濃い
ユリハ、今の貴方の身体も。
でも、安心して――――」
クレアは背負っていた
「――――侵蝕状態への中和薬剤、それに
それに
・・・・大丈夫、道具は全部、揃ってる・・・・っ」
「まさか、予めここまで用意していたの?
緊急用のビバークキットまで・・・・凄いわ」
治療器具だけでなく、特殊な
「・・・・今回は、不確定要素の多い作戦って、分かってたから。
だから、もしも何か起こったとしても、時間稼ぎくらいは出来るように、って。
・・・・何が起きてるのか、どうすれば良いのか、分からない。
そんなの、もう絶対に嫌だから」
――――クレアは、自分なりに万全の備えを以て、今回の作戦に立ち向かっていたのだった。
そもそも、普通の”
その強い覚悟が在ればこそ、孤立無援となったジェット達の下に駆けつけ、適切な援護と、治療を行うことが出来た。
クレアの宣言した通り、完全に追い詰められ切っていたこの状況に、まだなにか1つ、足掻ける時間を生み出せたのだった。
やがて、偏食因子を投与したユリハは見るからに顔色が良くなり、呼吸も落ち着いていく。
そして、虫の息だったジェットも、侵蝕状態が解除されたことで傷が止血され、冷や汗と痙攣も収まっていく。
呼吸こそまだ荒いが、回復輸液の効能で血色も良くなり、見るからに活力が戻ってきていた。
治療が実り、ジェットは遂に、痛みに呻きながらも
「「ジェットっ」」
声を揃えて呼びかける2人へ、ジェットは弱々しく言葉を発していた。
「・・・・ユリハ・・・・クレアも、なんで此処に・・・・?」
「・・・・決まってるでしょ。
助けに、来たんだよ」
未だに冷たいその手を優しく取り上げ、クレアは慈しみに溢れた笑顔と共に、囁きかけた。
「――――ジェット、まだ寝てないと・・・・!!」
「づぅっ・・・・いや、いいんだ。
・・・・このまま寝転がってたって、そのまま夢で済むはずも
なら、これからの事を考えないとな・・・・っ」
どうにか動けるようになるまで回復したジェットは、宣言通りに身を起こして洞窟の壁へもたれかかっていた。
とにかくこれ以上体力を落とさないためにも、レーションブロックの食事を苦心して呑み下し、歯を食いしばる。
(・・・・今までは、どれだけ深傷を負おうが、
それに、何より――――)
心配そうにこちらを見詰める、クレアとユリハを見やる。
自分1人ならいざ知らず、彼女達までもがこんな窮地にまで追い込まれてしまった。
戦う仲間が増えた、と無邪気に喜べるはずもなく、ジェットは疲弊した息を吐く。
「とりあえず、サンキューな、クレア。
お陰で、どうやらまだ動けそうだ。
だが、お前も灰嵐に入っちまったとして、ユウゴはどうしたんだ?」
「それに、シャロンはいったい、どうなったの!?
・・・・まさか、クリサンセマムごと・・・・」
ユリハも、最も気遣いな人を置いたままこんな所にまで追い遣られ、酷く沈んだ様子でいる。
クレアは、そんな2人の動揺に、冷静さを保ちながら
「順を追って説明するね。
ひとまず、クリサンセマムとホイールチームは無事だよ。
灰嵐は上手く
それからシャロンも、一旦は落ち着いたって。
無事、かどうかはまだ断言できないけど・・・・」
「・・・・シャロン・・・・」
「それに、ユウゴの方も無事だよ。
輸送車ごと、灰嵐の余波で飛ばされたけど、怪我はしてないみたいだから、そのまま船へ帰還したの。
もうクリサンセマムの皆も、2人が灰嵐の中に取り残されてることは把握してる。
今も、救助の為に準備しているはずだよ」
――――
個々人の素質にも因るが、効力を調整した偏食因子を投与することで短時間の活動はできる。
一方で、今のように活性化した喰灰に囲まれた場所では、放出される強力な”偏食場パルス”の干渉で、通信を行うのが難しくなる。
以前、ジェットが参加した
それはつまり、このままではクリサンセマムが何かアクションを起こしたとして、ジェット達から応じることは難しいだろうということであった。
「・・・・なぁ、クレア。
短距離通信も怪しい中で、どうやって連絡を取れたんだ?
それに今、”2人が取り残されて”、って言ったよな?」
ところが、現状を把握していく内にジェットはふと、クレアの話に
先述のように、ろくに通信も
そして今、灰嵐の中に取り残された状況を
対して、クレアは至極簡単そうに、淡々と答えてみせる。
「私も、あの地滑りに巻き込まれて、一人で離れた所に落ちたの。
あのアラガミが連れてきた、
だから通信も出来たし、2人の救助に向かうって、言っておいたってだけ」
「っ!?」
「ならっ、クレア・・・・貴方は、この灰嵐に
「うん。
ジェットとユリハが内部にいるのは確信してたし、それならきっと時間が無い、って思ってたから」
「貴方・・・・でも・・・・」
「―――― お前、なんてバカなことをしたんだ !!??」
その途端だった。
目を見開いたジェットは、次いでクレアへ怒号を発していた。
見たことがないほどに怒り、そして焦ったその姿に、ユリハは言葉を失う。
しかし、クレアは驚きつつも、気圧されること無く顔を向けていた。
「ただでさえ、活性化灰域の中は
まして、普通の”神機使い《ゴッドイーター》”のお前なら、救助だなんだの前に野垂れ死にしかねない!!
それもたった一人で・・・・!!」
「ねぇ、ジェット」
クレアは、興奮するジェットへ身を乗り出し、その気勢を押し留めようとする。
彼女は決して取り乱すこと無く、言うなれば覚悟が決まった様子だった。
「分かってる。
無茶な行動だったろうけど、でもどうしても、そうしなきゃいけなかったんだ。
偶然、灰嵐を潜り抜けられる路が目の前にあって、でもいつ閉じてもおかしくなかった。
そして二人は、この灰域に耐えられる準備はしてなかった。
だけど、私は用意していた。
「んなもん、たまたま上手く行っただけだろっ!!
だが、俺達を見つけられなかったら!!
俺達が、もう死んでたら!!
そもそも、お前が耐えきれなかったら!!」
結果論だけを見て、呑気に喜ぶことなど出来なかった。
いつもの任務とはケタが違う、目に見えた死の危険をクレアが冒した事が、ジェットにとっては問題だった。
しかし、クレアは迷いなく首を横に振り、答えてみせる。
「何度も、何度も想定はしてたよ。
それに二人の強さなら、この中でも絶対に生きてると思ってた。
・・・・ううん、たとえそうでなくても、行ってた。
ジェットだって、逆の立場ならきっとそうだよね?」
「それとこれとは違うだろ!!
俺は・・・・」
いくら仲間の為と言えど、しかしそれで彼女自身に何かあれば意味が無い。
頭を抱え、そう伝える言葉を探すジェット。
「”同じ”、じゃないかしら?」
ところが、今度は其処に今度はユリハが、はっきりと言葉を挟んでいた。
「ユリハ・・・・!?」
「やっぱり、クレアは強い人だわ。
自分が
・・・・それはきっと、傍にいる人達の、”同じ強さ”を見てきたからなのだと思うわ。
私が今、此処に生きていられる理由と、同じように」
混乱しているジェットへ、穏やかに諭すユリハ。
彼女の言葉通り、気付いてみれば、少なくとも
そして、そもそもハウンドスクワッドとは、ジェットの信じる仲間達とは、全員が全員そういう
今まで、それ故に困難を引き受けてしまうこともあって、それでも一丸となって乗り越え、零れ落ちそうだったものを幾つも救ってきた。
だからこそ、此処で今、どれだけジェットが釈然としなかろうと、此度はその”反対の図”でしか無い。
「――――だったら、尚更だろうが。
だとしても、それでも。
どれだけ心底から頼もしく思っていようと。
”神機使い”としては、それで正しいのだとしても。
その為に、大きな危険を冒さねばならないのなら、やはりジェットとクレアでは、話はまるで”違う”のだった。
「クレアが死んだら、クリサンセマムの医務室はどうなる?
徹夜したがりなユウゴやキースとか、すぐに生傷を作るジークやフィムは、誰が診る?
延々と仕事しっぱなしな、エイミーやイルダ。
なにかと一人で動きたがるリカルドやルルを心配してやる奴が、いなくなったら」
「ジェット・・・・だけど、それは、貴方だって・・・・!!」
「お前は、
戦って、勝つか負けるか
もっと色んな奴を助けてやれる。
・・・・
ジェットがそう口走った、その時。
クレアは初めて大きく狼狽えたように、肩を震わせていた。
だが憮然として頭を抱えるジェットは、それに気付かなかった。
「・・・・ジェット、聞いて」
「・・・・とにかく、お前のお陰でまだ戦える。
だから、安心しろ。
こういう時こそ、俺が道を開く。
厳しいが・・・・もう時間も無ぇ。
いざとなりゃ、あのアラガミと刺し違えてでも、二人は逃がしてやる――――」
「いい加減にしてよ」
――――クレアは、出撃前にジェットと交わした会話を思い出していた。
そsて、あの時感じた、熱い”
「私を頼りなく思うのは、いいよ。
でも、違うよね。
ジェットは、私の事を勝手に決めつけてるだけ。
私の、”私達”の気持ちを考えないで、勝手に心配してるつもりでいるだけ。
「なっ・・・・!?」
本気の怒りを
クレアがこうも激しく楯突くことも、そこまで気を張る事にも、ジェットは驚き、戸惑う。
「俺は、”
少なくとも、戦いの事じゃ先頭に立って決めるべきなのは、当たり前だ!!
アラガミを倒すのも、俺が
”誰も死なせない”ってのは、飾りでフカしてる訳じゃ
お前や、皆がどうのじゃない、ただ役割が違う!!」
「”同じ”だよ!!
ジェットは、会った時からずっとそう!!
自分は強いから、
死んでしまうのが怖くないみたいに、自分より皆を守れれば良いって思ってる。
それが”リーダー”だって、
激しく、ジェットの言葉を否定するクレア。
それはジェットの考え方、生き方までもを否定するようだったが、同時に頑ななまでに向き合おうともしていた。
クレアが決して退こうとせず、身体ごとぶつかるように伝えようとしている、
その正体は、ジェットには未だ見当もつかなかった。
「勘違いも何も無ぇだろ!?
仲間を預かるってのは、そういうもんだ!!
俺は・・・・もう何人も仲間を、”家族”を
ビビってる暇なんざ無いし、生き残れるのかギリギリだって、押し通さなきゃならない。
だが、別に死んでも良いだのと、甘えてもいねぇよ!!
死んだら、そこで”終わり”なんだ。
もう、戦えない・・・・それなら、俺は絶対に死んだりしな――――!!」
「
そうだけど、
互いに譲れない意地を張り合う以上、クレアもジェットも感情を熱くさせる。
本当なら、こんな口論などしている場合では無い筈なのに、しかし横のユリハがどうしてか黙り込んだまま、止めようともしていなかった。
まるで、
そして、ようやく形に
「それで、
ジェットが、死んでしまっても・・・・なにも
「・・・・何を、言ってるんだよ・・・・?」
「もしも自分がいなくなっても、私達は強いから平気だ、って思ってる!?
そうかもしれない・・・・でも、そうじゃない!!」
剥き出しにした強い想いに、クレアは
その姿、その言葉に、ジェットはふと、フィムの泣き顔を思い出していた。
―――― おとさんは、
だから、ぜったい・・・・げんきでただいま、しなきゃ、だめ!!!! ――――
「・・・・絶対に、生きなきゃダメなんだよ・・・・!!
死ぬって・・・・いなくなるって、本当に怖いことなんだから!!
ジェットが死んでしまっても、私達は
大切な
例え立ち直れたって、それに追いやってしまった自分を、絶対に許せない!!!!」
ジェットは、返す言葉も見つけられず、ただ息を呑んでいた。
自分の、奥の奥へと押し込んでいた記憶の引き出しが、ガタンと転げ落ちたような衝撃。
そして、そんなにも明白な事を忘れていたのかと、引っ叩かれたような気分。
ジェットは、よく知っている筈だった。
大切な人を喪っても、この世界は止まったりはしない。
何事も無かったように動き続けて、だけど”奪われた”という大きな空白は残る。
何も無い場所に、なのに記憶や想いは、消えない痕として遺り続ける。
そんな当たり前な事を思い出して、ジェットは大きく動揺していた。
「・・・・皆、”同じ”だよ。
大切な人に、いなくなって欲しくない。
リーダーだからとか、
かけがえのない”家族
そんな人が、私達の為に無茶して、死ぬなんて。
・・・・まして、
「・・・・クレア」
――――ジェットのやり方が間違っていたとは、言わない。
だが、考えるのを止めていたのは事実だと、気付かされていた。
”もしも死んだら”。
この世界は、あまりに残酷で、死が身近にありふれて、考えたところでキリが無い。
ただ、全力で挑んでいくしかない。
けれど、そうして戦うことに慣れすぎて、いざ突きつけられる瞬間の苦痛すら、都合よく忘れていた。
クレア、ユリハ。
そして、クリサンセマムの皆。
”とっくに一蓮托生”、と
手に手を取り合い、心を通わせた、己の一部を喪うということ。
ジェットが、その痛みと哀しみに堪え難いように、皆だって平気な筈がない。
きっと、同じように激しく悔いて、涙する。
今のクレアのように。
「――――ジェット・・・・勝手に
クレアには、全部お見通しなのかもしれない。
そう思うほど、彼女の言葉はジェットの核心を突いていた。
作戦前に感じていた、”恐れ”。
だが、”クリサンセマムの鬼神”とまで称された今の自分なら、大事な全てを背負いきれると信じていた。
それでも、心の奥ではずっと疑っていた。
恐がっていたのだろう。
そんな
もう二度と、信じる人を、家族を亡くしたくない。
ならば、独りきりなら、戦うのが自分だけなら、恐くはない。
そうやって、いつしかジェットは、大切な人達を信じるどころか遠ざけたがり、そして
「私達は、貴方の重荷じゃない!!
にこにこと、ただ笑って、安心させる為だけにいるわけでもない!!
ジェットと”同じ”・・・・大事なものを、守りたいから。
大切な人といられる未来を、信じてるから。
だから、私は・・・・
「・・・・俺は――――」
――――ジェットは、深く自分の過去にまで沈み込んだ。
その人生は、自分と、仲間達の生命を
今、ジェットは昔よりも遥かに強くなった。
だが、そんな
そして、その中から
それらと戦い、進む為には、仲間達との
とっくに知っているはずだった”大事なもの”が、ようやくしっかり腑に落ちた感覚があった。
「・・・・もう、分かったよ。
分かったから、もう
腹の傷が痛ぇより、よっぽど
「は、半ベソ・・・・っ!?」
そして、ジェットの振る舞いから、気付けば困惑と焦りが消えていた。
そのついでに、目の前のクレアの涙顔を、いつもの調子でからかう。
途端、慌てふためく少女の顔に、悪いとは思いつつもつい笑っていた。
「ああ・・・・今回は俺が分からず屋だったよ。
・・・・仲間を、家族を、助けられなかった。
どんな事よりそれが悔しいって事を、
「ジェット・・・・」
「――――良かったわ。
仲直り、出来たみたい」
「なんだよ、ユリハ。
もしかしてそれで黙って見てたのか?」
「ええ。
二人なら、ケンカしてもきちんと仲直りできるって思ったから」
「まるでガキ扱いだな・・・・」
実際、子供の喧嘩を見守ったかのように、ユリハは微笑ましげだった。
一応、これまでにないくらい大喧嘩だったというのに、とジェットは肩を竦めさせる。
ジェットもクレアも、これほどに感情を剥き出し、戦わせたのは始めてだった。
「ふふふふ」
「なんだよ」
すると、どうやらユリハが微笑んでいたのは、ジェット達の仲直りだけが理由で無かったらしい。
彼女は、ふとこめかみに着けた緋色の羽飾りを弄りながら、言葉を続ける。
「少し意外だったの。
ジェットのこと、私は、とてつもなく強い”英雄”のように思ってたわ。
けど・・・・うふふふ。
なんだか、実は”カミル”に似てるんだ、って思って」
「なんでそこで、アイツが出てくるんだ?」
「あら、気付いてないの?
・・・・勇敢で、豪胆そうで、でも実は凄く心配性で、不器用で。
周りの皆を、そんなにも大事にしてるのね」
「・・・・そうだよ。
困っちゃう。
すぐに、俺がやる、って突っ走って、全然言うこと聞いてくれないで。
自分のことは全然気にしないで、皆のことばかりを見て、無茶をして」
随分と主観的なユリハに、クレアまでもがにこやかに乗っかる有り様だった。
俺はあんなにチビじゃねぇぞ、と言いかけたジェットだったが、止めておいた。
言っても言わなくても、なんだかきまりが悪くて、ジェットは居心地悪そうに唸って、壁へもたれ直す。
途端、一転して心配そうに寄り添うクレアに、彼女とてとことん他人の為に動こうとする人物なのだと腑に落ちる。
「――――ったく、難しいこと言うよな。
”絶対に死なない、誰も死なせない”。
それだけじゃなく、”絶対に生きなきゃダメ”、と来た」
”ハウンド1”を背負ってジェットが戦う時、その最後の言葉が加わる事は、今までと同じようで、全く違う。
これまでは、何処か
リーダーとして、敵を倒し、仲間達を助けることこそが至上命題であって、そこへ疑問も持っていなかった。
昔の自分は、それを見てきたから。
でも
「そう?
たったの3つだけじゃない」
ところが、ユリハはあくまでも朗らかに、パンと手を打ってそう言ってのける。
「”絶対に死なない、誰も死なせない”。
但し、”皆で力を合わせて、絶対に生きて帰る”。
きっと単純なことだわ」
そうなのか、とクレアを見ると、可憐に笑って首肯する。
きっと、クレアはその”正解”をとっくに分かっていたのだろう。
だから、ジェット達を助けに
それは確かに、ただの無謀とは同じようで、全く違うことだろう。
「・・・・でも、ユリハ?
それじゃ
「そう、かしら?
とにかく、大事なことだわ。
私には、
ふと寂しそうな
グラジオラスの
そしておそらく彼女の実の家族もまた、生きてはいない。
「だが、今はもう”違う”、だろ?」
「ええ、そういうことね」
しかしそんな天涯孤独など振り切って、ユリハは凛然と答えていた。
「大切な人を喪っても、生き続けた。
それでも、守りたいものがあったから。
その先で、貴方達に出会えた。
・・・・だから、私はもう、起こってしまった過去に泣くより、こうして繋がったこの
――――そして、その繋がりとはまた、この
生きている者の行く先と同じように、喪われた者の遺す想いも、決して無為などではない。
人の意志とは、生命とは、そういうものなのだろう。
独り善がりに搾取と荒廃だけしか与えない、
そして、
ドン、という重底な衝撃が辺りを突き抜け、洞窟が崩れんばかりに軋んだ。
そして同時、
<――――オオオオヲヲヲヲォォォォッッッッ――――!!!!>
「・・・・なんだ、って聞くまでもなかったな。
追いかけてきやがったのかよ、アイツ」
「そんな・・・・退避装置は機能しているはずなのに」
クレアは
分かっている。
手負いな上、神機すら持ってないジェットは、最も足手纏だ。
少なくとも、
「休憩時間は終わり、ってな。
そんじゃ行こうぜ、二人共」
何でもなさそうな言い草で立ち上がって見せるジェットに当然、困惑の視線が向けられる。
「安心しなって。
おかげで、もういつも通りに走れそうだ」
「でも、勝算はあるの?
私と貴方の神機は、もう・・・・」
改めて現実に立ち返れば、立ちはだかる”スサノオ”の強大さに加え、ジェットとユリハは武器すら失い、
勝ち目は、まあ無いだろう。
だが、ジェットはもう不安に呑まれることなどなく、その向こうの希望を思い、不敵に笑ってみせた。
「おう。
だいぶ行き当たりばったりですまないが、一応考えはある」
「ジェット、一体、何を――――」
さっきまで説教をされていた身の上の所為か、クレアはなんとも心配そうだった。
しかし、ジェットは精一杯に頼もしく笑い、応えて見せる。
もう、湿気た有り様を見せて、彼女を曇らせるつもりはなかった。
「決まってるだろ?
”
アイツを出し抜いて、皆で生きて帰る。
その為には、ちゃんと話して詰めるべきなんだろうが、
細かいところは、走りながら決めようぜ!!」
颯爽とそう言い放つや、踵を返す。
戦場から吹く風に、漆黒の
――――そして、その雄々しい、見慣れた
「・・・・そうこなくっちゃ・・・・!!」
・・・・
・・・
・・
・
< グウゥオ”オ”オ”オ””ァァァァ !!!!>
――――洞窟から飛び出したジェット達の前に、未曾有の”
狭路を避け、わざわざ崖上を回り込んでまで、取り逃がした獲物を追ってきたらしい。
しかも、どういうわけか”バースト”状態が解除されていない。
その傍には、絶命したネヴァンやガルムが
「それで、一体どうするのかしら!?」
「まずは、さっきの場所に戻って、神機を取り返す!!
ダメなら、傍にあった岩場に逃げ込む!!
それでとにかく、
ジェット達は、谷間から崖を駆け上がり、広い
あの化け物の追跡を
「時間って、一体いつまで!?」
「
援護の到着はともかく、皆なら必ずやってくれるだろ!!」
ズザッ、と、ジェットは手負いなのを感じさせない俊敏さで進行方向を変えた。
唯一、神機を持っているクレアを差し置いて、
「ジェット!?
此処は私が・・・・!!」
「いいや、先に行ってな!!
安心しな、速攻で喰われるようなダサい真似はしねぇよ!!」
半人半竜のような魔神の威圧感に、ジェットの身体はビリビリと痺れるようだった。
あのパワーをまともに受けようとするのは勿論、固まって動くのを纏めて薙ぎ払われたら最期だ。
勝機は、この起伏のある地形で、己の身一つでいなし切って、初めて見えてくる。
神機も無い今、ジェットが鍛え抜いてきた天性の
<ヲ”ヲ”ヲ”ヲ”オオオオォォォォ!!!!>
バサリ、と翻る黒の長布を目掛け、魔神は雄叫びと共に身構える。
上半身の
その
(光線・・・・
ジェットは、刹那の判断で似たものを想起していた。
途端、極大剣の後ろから激しい推進炎が放たれ、開いた刀身の間から、稲妻のような光の
(
刹那、魔神の巨体が急速に飛行し、ジェットを目掛けて吶喊する。
光の巨大槍が空気を突き破り、超重量が猛然と駆ける衝撃波までもを巻き起こすほど。
対して、ジェットもまた放たれた矢のように跳び、壁側ではなく岩棚から飛び出していた。
直後、魔神の突撃で岸壁が打ち砕かれ、
だが、その飛散とて岩棚の下にまでは届かない。
「へっ・・・・流石、”
崖を滑り降りたジェットは、そのまま峡谷を疾駆する。
その影を、魔神の巨大な竜頭が崖上から見下ろし、するとその大顎が開かれ、凄まじい光が収束しだした。
対して、ジェットは敢えて目立つように
瞬間、雷鳴が如き轟きと共に、竜頭が恐るべき破壊光線を放つ。
周囲が、目の
だが、神機を持たない身軽さの全力疾走で、ギリギリでこれを振り切るジェット。
「よ、とぉっ!!」
限界まで引き付けたその瞬間、壁走りから飛び出す。
光線はそのまま駆け上がり、一気に灰嵐の空までも斬り裂いていった。
「そら、外れだ!!
だが、まだ終わりじゃないだろ!?」
そう叫び、ジェットは再び岩棚の上に駆け上がる。
飽きられて、クレア達の方へ行かれては意味が無い。
矮小な獲物に挑発され、魔神は再び猛り、極大剣を振り被らせた。
大振りな横薙ぎ。
但し、横の岸壁を巻き込み、斬り崩すように。
「っ!!!!」
瞬間、ジェットはしゃにむに
冗談のように弾け飛んでくる瓦礫の雨から、とにかく致死的な大きさの物を見極め、その軌道だけは避ける。
しかし、その回避行動を更に追い詰めるべく、魔神の極大剣が光を放つ。
「うぅおぉっ!!??」
極彩色の拡散光線が、ジェットを粉々にしようと殺到する。
だが、それでも。
瓦礫と拡散光線が
暴風となって吹き荒れる破壊の余波に、身体が
込み上げる血反吐と悲鳴を、しかしジェットは噛み殺す。
だとしても、何としても、脚は止めない。
「ジェット!!!!」
なぜならば、目的地を前に、ジェットが追いつくと信じていたクレアが、待ち構えているからだ。
放たれた回復弾の光が、ジェットを癒やし、痛みの奥から力を漲らせる。
――――独りでなく、仲間と共に支え合い、戦える。
それこそが、
<ジェット、神機は無事だわ!!
後もう少し、急いで!!>
ユリハの通信と同時、2人分の火線が交差していく。
十字射撃を背にし、ジェットは遂に先程戦っていた荒野へと飛び込んでいく。
そして、その疾走の真っ直ぐ先に、二振りの剣が突き立っていた。
猛然と
足を突っ張り、強引に疾走を止め、
己の身体に根付く
人間の武器へと身をやつす、アラガミ。
その凶暴な鼓動は、どうやら耐え難い焦燥感にも似た、狂おしい疼きに感じられた。
「お前も、そろそろ我慢の限界、ってか?
なら、
迫りくる敵を睨み上げるジェットの傍に、クレアとユリハが駆け寄る。
二刀、長槍、長剣、3種の
「両手に花、ってな。
・・・・行こうぜ。
アイツを多少は弱らせれば、灰嵐の活性もマシになるかもしれねぇ」
「そうすれば、
でも・・・・」
「戦うどころか、生き延びることすら、簡単じゃない。
・・・・覚悟は、出来てるわ」
< ウゥオ”オ”オ”オ”ヲヲヲヲォォォォ !!!!>
地響きを立て、遂に決戦の荒野へ降り立つ”
あんな未知なる化け物と、退路の保証なく斬り結ぶなど、自殺行為だ。
戦力は、たったの3人きり。
それも、万全の状態とは程遠い上、あまりにも時間が残されていない。
勝率、生存率、小難しい理屈をつけようとしても、きっとただ頭が痛くなるだけだろう。
ジェットは、皮肉げに鼻を鳴らし、そして小さく呟いていた。
「――――無い無い
背負っちまったもんだ」
神様呼ばわり、人外の強さ、最強のAGEだのと言われたところで、とんだ無様さだった。
だが、どんな敵をも討ち倒す、などと大層なモノでない事は、とっくに分かってるはず。
ただ、出来る事へ挑み、譲れぬものを守リ続けて、昔よりは強くなった。
たったそれだけの存在でしか無かった。
「・・・・俺の知ってる
なら、俺は、”
――――すると、その刹那。
ジェットの不惑の覚悟に応えるかのように、通信機にノイズが入る。
<・・・・ちら、クリサンセマ・・・・!!
聞こえ・・・・か!?
ジェット・・・・クレアさ・・・・ユリハ・・・・!?
返事をしてください!!>
それは、待ち望んでいた起死回生の兆し。
だが、3人共、喜びに顔を見合わせる暇も無い。
「来るぞ!!」
魔神の左側面、女神の
同時に、極大剣の
それらの攻撃は、地面を引き裂いて突き上げる触手の槍と、空中から大量の破壊光が降り注ぐ同時攻撃となった。
周辺一帯を丸ごと吹き飛ばさんとする飽和攻撃に、ジェット達は大きく散らばり、回避する。
されど狼狽は無く、にわかに闘志が燃え上がり出していた。
<これほどの灰域濃度に、もう対応をしたの!?>
<皆、頑張ってくれたんだ!!
そうだよ、ハウンドスクワッドは皆が優秀なんだから!!>
そしてジェットは、
通信機の向こうに、勇気を取り戻した力強い声で、告げる。
「こちら、”ハウンド1”!!
クレアもユリハも、まだどうにか生きてるぜ!!
だが、まずは今、この状況を覆さなきゃならねぇ!!
此処から生きて帰るには、”
>> To be Continued....
・Tips.14
「”ペニーウォート”」
かつて、ジェット達”
主として
AGの
実験内容に関しても、費用対効果を重視した無茶な工程を重ね、施設自体に被害が及ぶことも珍しくなかったという。
ミナト自体も常に
この
現在では、ペニーウォート自体は大型の灰嵐に呑まれ、消失。
しかしその直前に潜入調査を行っていたリカルド・スフォルツァの情報によって、当時の稼働実態は明るみに出されている。
”幼く無力な少年達へ、
そして組織ぐるみでこれを黙認してきた卑怯さは、世界を包む
この告発によって、今も生き残った職員達も、激しい糾弾の的になっている。