GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#10 >> 「Remember Chains.」

 

 

 

接触禁忌種(せっしょくきんきしゅ)アラガミ・”スサノオ”に似た謎の怪物は、捕喰攻撃(ほしょくこうげき)による”バースト”化を果たし、未曾有の”魔神”と化した。

 

その豪腕を振るい、絶大な極光纏う剣の一撃に、ジェットとユリハは一溜まりもなく消し飛ばされる。

 

 

 

――――そう思われた、刹那。

 

2人を照らした激しい音と光は、しかし逆に”魔神”の方を仰け反らせ、絶体絶命の攻撃を阻止してみせていた。

 

「これは・・・・”スタングレネード”の!!??」

 

「 此方(こっち)だよ、二人とも !!!!」

 

其処に、凛として響く声があった。

 

驚き、振り返ったユリハは、傍の岸壁の上に立つ人影に目を見開く。

 

青と白の純潔な衣装に映える金色の髪を靡かせ、雄々しく神機を構える姿。

 

灰域の薄暗さに於いてもなお勇ましく輝くような、神機使い(クレア)の姿だった。

 

「3時方向!!!!

全力で走ってっ!!!!」

 

「っ!!」

 

窮地に現れたクレアの援護を頼みに、ユリハは脇目もふらずに走り出した。

 

瀕死のジェットを抱えて逃げる背中へ、魔神が咆哮を上げて襲いかかろうとする。

 

<パアァンッ・・・・!!!!>

 

その瞬間、2発目のスタングレネードが強引に黙らせた。

 

「ジェットに・・・・仲間に、手出しはさせないんだから!!!!」

 

雄々しく吠え、更に激しく”アサルト”銃身を連射するクレア。

 

彼女の渾身の時間稼ぎで、ユリハ達は辛くも谷間(たにあい)の道にまで辿り着く。

 

この複雑な狭路を行けば、強大さと引き換えに機敏さを失った”スサノオ”は、易々とは追いつけないだろう。

 

 

 

< グゥウウウウオ”オ”オ”オ”ォォォォッッッッ !!!!>

 

 

 

――――果たして、憤怒に(たぎ)った咆哮が鳴りめく中、3人は辛くも離脱を果たす。

 

その為にスタングレネード、麻痺罠(ホールドトラップ)、隠蔽フェロモン、使える道具は全て使い尽くしていた。

 

ユリハとジェットは、自分の神機すらも投げ捨てて、あまりに無惨な敗走であった。

 

だが、しかし。

 

まだ誰一人として、喪われてはいなかった。

 

此処で、このまま終わること無く、生きて、堪えて、逃げ延びて見せたのだった。

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

合流した3人は、小さな洞窟に辿り着いていた。

 

未だに意識の戻らないジェットを床に横たえて、ユリハも疲労困憊の様子で壁にもたれかかる。

 

「ユリハはそのまま、安静にしてて!!

ジェット・・・・っ・・・・酷い・・・・!!」

 

クレアは、ジェットの容態を診て、悲痛に息を呑む。

 

ジェットの身体は発汗と共に震え、しかし裏腹にその呼吸は刻一刻と細くなっている。

 

そして、その原因であろう捕喰攻撃(ほしょくこうげき)を受けた脇腹の傷は不気味に黒ずみ、未だに出血が止まっていなかった。

 

「彼の傷は・・・・まさか、もう・・・・」

 

酷く息苦しそうに問うユリハ。

 

目立った傷こそ残っていないが、彼女にもあまり()()は残されていなかった。

 

ユリハの衰弱が、戦闘の疲労とはまた”別の要因”である事を、クレアは既に見抜いていた。

 

「ジェットの偏食因子(へんしょくいんし)が、侵蝕状態(しんしょくじょうたい)になったことで弱ってる。

そのせいで蝕灰(しょくかい)からの捕喰を抑えきれなくて、AGE(エイジ)の治癒能力が機能してないの。

・・・・そもそも、今回はこんなにも濃い灰域(かいいき)へ潜航するのを想定してなかったから、ただ息をするだけでもダメージが蓄積してる。

ユリハ、今の貴方の身体も。

でも、安心して――――」

 

クレアは背負っていた(ランドセル)を下ろし、中からその”安心”の根拠たる様々な物資を取り出す。

 

「――――侵蝕状態への中和薬剤、それに神機使(じんきつか)い用の回復輸液で、応急処置になる筈。

それに活性化灰域用(かっせいかかいいきよう)の偏食因子さえ投与すれば、しばらくは戦闘行動も可能だよ。

・・・・大丈夫、道具は全部、揃ってる・・・・っ」

 

(なか)ば自分に言い聞かせるようだったが、それでもクレアは多くの医療具を的確に扱い、ジェットとユリハに処置を施し始める。

 

「まさか、予めここまで用意していたの?

緊急用のビバークキットまで・・・・凄いわ」

 

治療器具だけでなく、特殊な偏食場(へんしょくば)パルスを発して、短時間ながら灰域の影響とアラガミとを遠ざける退避フィールド発振器までも持ち込んでいたクレアに、ユリハは驚嘆する。

 

「・・・・今回は、不確定要素の多い作戦って、分かってたから。

だから、もしも何か起こったとしても、時間稼ぎくらいは出来るように、って。

・・・・何が起きてるのか、どうすれば良いのか、分からない。

そんなの、もう絶対に嫌だから」

 

――――クレアは、自分なりに万全の備えを以て、今回の作戦に立ち向かっていたのだった。

 

そもそも、普通の”神機使い(ゴッドイーター)”であるクレアがこれほどの灰域濃度(かいいきのうど)へ立ち入るためには、事前に効果を強めた偏食因子を、()()()()()を推して投与する必要があった。

 

その強い覚悟が在ればこそ、孤立無援となったジェット達の下に駆けつけ、適切な援護と、治療を行うことが出来た。

 

クレアの宣言した通り、完全に追い詰められ切っていたこの状況に、まだなにか1つ、足掻ける時間を生み出せたのだった。

 

やがて、偏食因子を投与したユリハは見るからに顔色が良くなり、呼吸も落ち着いていく。

 

そして、虫の息だったジェットも、侵蝕状態が解除されたことで傷が止血され、冷や汗と痙攣も収まっていく。

 

呼吸こそまだ荒いが、回復輸液の効能で血色も良くなり、見るからに活力が戻ってきていた。

 

治療が実り、ジェットは遂に、痛みに呻きながらも(おもむ)ろに目を開く。

 

「「ジェットっ」」

 

声を揃えて呼びかける2人へ、ジェットは弱々しく言葉を発していた。

 

「・・・・ユリハ・・・・クレアも、なんで此処に・・・・?」

 

「・・・・決まってるでしょ。

助けに、来たんだよ」

 

未だに冷たいその手を優しく取り上げ、クレアは慈しみに溢れた笑顔と共に、囁きかけた。

 

 

 

「――――ジェット、まだ寝てないと・・・・!!」

 

「づぅっ・・・・いや、いいんだ。

・・・・このまま寝転がってたって、そのまま夢で済むはずも()ぇ。

なら、これからの事を考えないとな・・・・っ」

 

どうにか動けるようになるまで回復したジェットは、宣言通りに身を起こして洞窟の壁へもたれかかっていた。

 

とにかくこれ以上体力を落とさないためにも、レーションブロックの食事を苦心して呑み下し、歯を食いしばる。

 

渋面(じゅうめん)の理由は、何も痛みだけではなかった。

 

(・・・・今までは、どれだけ深傷を負おうが、神機(じんき)だけは手放したことはなかったのにな。

それに、何より――――)

 

心配そうにこちらを見詰める、クレアとユリハを見やる。

 

自分1人ならいざ知らず、彼女達までもがこんな窮地にまで追い込まれてしまった。

 

戦う仲間が増えた、と無邪気に喜べるはずもなく、ジェットは疲弊した息を吐く。

 

「とりあえず、サンキューな、クレア。

お陰で、どうやらまだ動けそうだ。

だが、お前も灰嵐に入っちまったとして、ユウゴはどうしたんだ?」

 

「それに、シャロンはいったい、どうなったの!?

・・・・まさか、クリサンセマムごと・・・・」

 

ユリハも、最も気遣いな人を置いたままこんな所にまで追い遣られ、酷く沈んだ様子でいる。

 

クレアは、そんな2人の動揺に、冷静さを保ちながら首肯(しゅこう)して応えた。

 

「順を追って説明するね。

ひとまず、クリサンセマムとホイールチームは無事だよ。

灰嵐は上手く(かわ)せて、アラガミの追跡も有耶無耶(うやむや)になったみたい。

それからシャロンも、一旦は落ち着いたって。

無事、かどうかはまだ断言できないけど・・・・」

 

「・・・・シャロン・・・・」

 

「それに、ユウゴの方も無事だよ。

輸送車ごと、灰嵐の余波で飛ばされたけど、怪我はしてないみたいだから、そのまま船へ帰還したの。

もうクリサンセマムの皆も、2人が灰嵐の中に取り残されてることは把握してる。

今も、救助の為に準備しているはずだよ」

 

――――高濃度灰域(こうのうどかいいき)の中は、絶対不可侵という訳ではない。

 

個々人の素質にも因るが、効力を調整した偏食因子を投与することで短時間の活動はできる。

 

一方で、今のように活性化した喰灰に囲まれた場所では、放出される強力な”偏食場パルス”の干渉で、通信を行うのが難しくなる。

 

以前、ジェットが参加した強襲討伐任務(きょうしゅうとうばつにんむ)のように、あらかじめ専用の回線を準備していない限り、直ぐ側の仲間はともかく、後方の拠点との連絡は絶望的と言って良い。

 

それはつまり、このままではクリサンセマムが何かアクションを起こしたとして、ジェット達から応じることは難しいだろうということであった。

 

「・・・・なぁ、クレア。

短距離通信も怪しい中で、どうやって連絡を取れたんだ?

それに今、”2人が取り残されて”、って言ったよな?」

 

ところが、現状を把握していく内にジェットはふと、クレアの話に()()()()()を感じていた。

 

先述のように、ろくに通信も覚束(おぼつか)ない状況なのにも関わらず、クリサンセマム側の動向にも詳しいこと。

 

そして今、灰嵐の中に取り残された状況を()()()()()()()ような言い方が、大きな違和感になっていたのだ。

 

対して、クレアは至極簡単そうに、淡々と答えてみせる。

 

「私も、あの地滑りに巻き込まれて、一人で離れた所に落ちたの。

あのアラガミが連れてきた、()()()()にね。

だから通信も出来たし、2人の救助に向かうって、言っておいたってだけ」

 

「っ!?」

 

「ならっ、クレア・・・・貴方は、この灰嵐に()()()()()の!?」

 

「うん。

ジェットとユリハが内部にいるのは確信してたし、それならきっと時間が無い、って思ってたから」

 

「貴方・・・・でも・・・・」

 

「―――― お前、なんてバカなことをしたんだ !!??」

 

その途端だった。

 

目を見開いたジェットは、次いでクレアへ怒号を発していた。

 

見たことがないほどに怒り、そして焦ったその姿に、ユリハは言葉を失う。

 

しかし、クレアは驚きつつも、気圧されること無く顔を向けていた。

 

「ただでさえ、活性化灰域の中はAGE(おれたち)ですら長居できない場所なんだぞ!?

まして、普通の”神機使い《ゴッドイーター》”のお前なら、救助だなんだの前に野垂れ死にしかねない!!

それもたった一人で・・・・!!」

 

「ねぇ、ジェット」

 

クレアは、興奮するジェットへ身を乗り出し、その気勢を押し留めようとする。

 

彼女は決して取り乱すこと無く、言うなれば覚悟が決まった様子だった。

 

「分かってる。

無茶な行動だったろうけど、でもどうしても、そうしなきゃいけなかったんだ。

偶然、灰嵐を潜り抜けられる路が目の前にあって、でもいつ閉じてもおかしくなかった。

そして二人は、この灰域に耐えられる準備はしてなかった。

だけど、私は用意していた。

()()()()()()()()、間に合ったんだよ」

 

「んなもん、たまたま上手く行っただけだろっ!!

だが、俺達を見つけられなかったら!!

俺達が、もう死んでたら!!

そもそも、お前が耐えきれなかったら!!」

 

結果論だけを見て、呑気に喜ぶことなど出来なかった。

 

いつもの任務とはケタが違う、目に見えた死の危険をクレアが冒した事が、ジェットにとっては問題だった。

 

しかし、クレアは迷いなく首を横に振り、答えてみせる。

 

「何度も、何度も想定はしてたよ。

それに二人の強さなら、この中でも絶対に生きてると思ってた。

・・・・ううん、たとえそうでなくても、行ってた。

ジェットだって、逆の立場ならきっとそうだよね?」

 

「それとこれとは違うだろ!!

俺は・・・・」

 

いくら仲間の為と言えど、しかしそれで彼女自身に何かあれば意味が無い。

 

頭を抱え、そう伝える言葉を探すジェット。

 

「”同じ”、じゃないかしら?」

 

ところが、今度は其処に今度はユリハが、はっきりと言葉を挟んでいた。

 

「ユリハ・・・・!?」

 

「やっぱり、クレアは強い人だわ。

自分が(つちか)ってきたものを信じて、痛みや怖さと、戦える人。

・・・・それはきっと、傍にいる人達の、”同じ強さ”を見てきたからなのだと思うわ。

私が今、此処に生きていられる理由と、同じように」

 

混乱しているジェットへ、穏やかに諭すユリハ。

 

彼女の言葉通り、気付いてみれば、少なくとも()()()()()()()言えた義理など無かった。

 

そして、そもそもハウンドスクワッドとは、ジェットの信じる仲間達とは、全員が全員そういう()()だった。

 

今まで、それ故に困難を引き受けてしまうこともあって、それでも一丸となって乗り越え、零れ落ちそうだったものを幾つも救ってきた。

 

だからこそ、此処で今、どれだけジェットが釈然としなかろうと、此度はその”反対の図”でしか無い。

 

「――――だったら、尚更だろうが。

戦場(ここ)は、お前の居るべき場所じゃねぇんだ」

 

だとしても、それでも。

 

どれだけ心底から頼もしく思っていようと。

 

”神機使い”としては、それで正しいのだとしても。

 

その為に、大きな危険を冒さねばならないのなら、やはりジェットとクレアでは、話はまるで”違う”のだった。

 

「クレアが死んだら、クリサンセマムの医務室はどうなる?

徹夜したがりなユウゴやキースとか、すぐに生傷を作るジークやフィムは、誰が診る?

延々と仕事しっぱなしな、エイミーやイルダ。

なにかと一人で動きたがるリカルドやルルを心配してやる奴が、いなくなったら」

 

「ジェット・・・・だけど、それは、貴方だって・・・・!!」

 

「お前は、AGE(エイジ)じゃないんだ。

戦って、勝つか負けるか()()じゃない。

もっと色んな奴を助けてやれる。

()()()()()()()()()()()

・・・・AGE(おれたち)とは”違う”だろ」

 

ジェットがそう口走った、その時。

 

クレアは初めて大きく狼狽えたように、肩を震わせていた。

 

だが憮然として頭を抱えるジェットは、それに気付かなかった。

 

「・・・・ジェット、聞いて」

 

「・・・・とにかく、お前のお陰でまだ戦える。

だから、安心しろ。

こういう時こそ、俺が道を開く。

厳しいが・・・・もう時間も無ぇ。

いざとなりゃ、あのアラガミと刺し違えてでも、二人は逃がしてやる――――」

 

 

 

「いい加減にしてよ」

 

 

 

――――クレアは、出撃前にジェットと交わした会話を思い出していた。

 

そsて、あの時感じた、熱い”(いきどお)り”の正体が、分かった気がしていた。

 

 

 

「私を頼りなく思うのは、いいよ。

でも、違うよね。

ジェットは、私の事を勝手に決めつけてるだけ。

私の、”私達”の気持ちを考えないで、勝手に心配してるつもりでいるだけ。

()()()()()()なんだって、分かってないだけ!!」

 

「なっ・・・・!?」

 

本気の怒りを(あらわ)なクレアは、ジェットを真っ直ぐに睨み据えていた。

 

クレアがこうも激しく楯突くことも、そこまで気を張る事にも、ジェットは驚き、戸惑う。

 

「俺は、”部隊長(リーダー)”なんだ!!

少なくとも、戦いの事じゃ先頭に立って決めるべきなのは、当たり前だ!!

アラガミを倒すのも、俺が一番(いちばん)だってなら、その分を引き受けるのもだ!!

”誰も死なせない”ってのは、飾りでフカしてる訳じゃ()ぇ!!

お前や、皆がどうのじゃない、ただ役割が違う!!」

 

「”同じ”だよ!!

ジェットは、会った時からずっとそう!!

自分は強いから、()()()()()()()を守らなきゃって思ってる。

死んでしまうのが怖くないみたいに、自分より皆を守れれば良いって思ってる。

それが”リーダー”だって、()()()してる!!」

 

激しく、ジェットの言葉を否定するクレア。

 

それはジェットの考え方、生き方までもを否定するようだったが、同時に頑ななまでに向き合おうともしていた。

 

クレアが決して退こうとせず、身体ごとぶつかるように伝えようとしている、()()

 

その正体は、ジェットには未だ見当もつかなかった。

 

「勘違いも何も無ぇだろ!?

仲間を預かるってのは、そういうもんだ!!

俺は・・・・もう何人も仲間を、”家族”を(うしな)ってきた。

ビビってる暇なんざ無いし、生き残れるのかギリギリだって、押し通さなきゃならない。

だが、別に死んでも良いだのと、甘えてもいねぇよ!!

死んだら、そこで”終わり”なんだ。

もう、戦えない・・・・それなら、俺は絶対に死んだりしな――――!!」

 

「 ()()よっ !!

そうだけど、()()()()()()!!」

 

互いに譲れない意地を張り合う以上、クレアもジェットも感情を熱くさせる。

 

本当なら、こんな口論などしている場合では無い筈なのに、しかし横のユリハがどうしてか黙り込んだまま、止めようともしていなかった。

 

まるで、()()()()()()と信じているかのように、静かに。

 

そして、ようやく形に()った想いを言い表そうとするクレアを見守り、応援するかのように。

 

「それで、()()()()()()()()()()()、どうするの!?

ジェットが、死んでしまっても・・・・なにも()()()()()()()んだから!!」

 

「・・・・何を、言ってるんだよ・・・・?」

 

「もしも自分がいなくなっても、私達は強いから平気だ、って思ってる!?

そうかもしれない・・・・でも、そうじゃない!!」

 

剥き出しにした強い想いに、クレアは(まなじり)に涙までも滲ませていた。

 

その姿、その言葉に、ジェットはふと、フィムの泣き顔を思い出していた。

 

 

 

―――― おとさんは、()()()()()()!!

だから、ぜったい・・・・げんきでただいま、しなきゃ、だめ!!!! ――――

 

 

 

「・・・・絶対に、生きなきゃダメなんだよ・・・・!!

死ぬって・・・・いなくなるって、本当に怖いことなんだから!!

ジェットが死んでしまっても、私達は()()()()()()()()()()()んだから。

大切な貴方(あなた)を・・・・”家族”の貴方を喪ったら、その傷は二度と消えないっ!!

例え立ち直れたって、それに追いやってしまった自分を、絶対に許せない!!!!」

 

ジェットは、返す言葉も見つけられず、ただ息を呑んでいた。

 

自分の、奥の奥へと押し込んでいた記憶の引き出しが、ガタンと転げ落ちたような衝撃。

 

そして、そんなにも明白な事を忘れていたのかと、引っ叩かれたような気分。

 

ジェットは、よく知っている筈だった。

 

大切な人を喪っても、この世界は止まったりはしない。

 

何事も無かったように動き続けて、だけど”奪われた”という大きな空白は残る。

 

何も無い場所に、なのに記憶や想いは、消えない痕として遺り続ける。

 

そんな当たり前な事を思い出して、ジェットは大きく動揺していた。

 

「・・・・皆、”同じ”だよ。

大切な人に、いなくなって欲しくない。

リーダーだからとか、AGE(エイジ)だからとかなんて、関係無い。

かけがえのない”家族(ジェット)”を助ける為に、全力を尽くすの。

そんな人が、私達の為に無茶して、死ぬなんて。

・・・・まして、()()()()()()()()()()()と思われたまま死なれたなんてっ、絶対に嫌っ!!!!」

 

「・・・・クレア」

 

 

 

――――ジェットのやり方が間違っていたとは、言わない。

 

だが、考えるのを止めていたのは事実だと、気付かされていた。

 

”もしも死んだら”。

 

この世界は、あまりに残酷で、死が身近にありふれて、考えたところでキリが無い。

 

ただ、全力で挑んでいくしかない。

 

けれど、そうして戦うことに慣れすぎて、いざ突きつけられる瞬間の苦痛すら、都合よく忘れていた。

 

クレア、ユリハ。

 

そして、クリサンセマムの皆。

 

”とっくに一蓮托生”、と見做(みな)している、ジェットにとって血の繋がらない”家族”。

 

手に手を取り合い、心を通わせた、己の一部を喪うということ。

 

ジェットが、その痛みと哀しみに堪え難いように、皆だって平気な筈がない。

 

きっと、同じように激しく悔いて、涙する。

 

今のクレアのように。

 

 

 

「――――ジェット・・・・勝手に()を引かないで。

()()()()()()()()()

 

 

 

クレアには、全部お見通しなのかもしれない。

 

そう思うほど、彼女の言葉はジェットの核心を突いていた。

 

作戦前に感じていた、”恐れ”。

 

だが、”クリサンセマムの鬼神”とまで称された今の自分なら、大事な全てを背負いきれると信じていた。

 

それでも、心の奥ではずっと疑っていた。

 

恐がっていたのだろう。

 

そんな(いびつ)な心根が、この本当の瀬戸際に追い詰められて、顕になった。

 

もう二度と、信じる人を、家族を亡くしたくない。

 

ならば、独りきりなら、戦うのが自分だけなら、恐くはない。

 

そうやって、いつしかジェットは、大切な人達を信じるどころか遠ざけたがり、そして(ないがし)ろにもしていたのだった。

 

「私達は、貴方の重荷じゃない!!

にこにこと、ただ笑って、安心させる為だけにいるわけでもない!!

ジェットと”同じ”・・・・大事なものを、守りたいから。

大切な人といられる未来を、信じてるから。

だから、私は・・・・ハウンドスクワッド(わたしたち)は、一緒に戦って来たんでしょう?」

 

「・・・・俺は――――」

 

 

 

――――ジェットは、深く自分の過去にまで沈み込んだ。

 

その人生は、自分と、仲間達の生命を(おとし)める鎖に繋がれ、理不尽に虐げられたのが大半だった。

 

(かせ)()められ、逃げることも許されず、毎日のように恐怖と哀しみを強いられた。

 

今、ジェットは昔よりも遥かに強くなった。

 

だが、そんな()()()()など及びもつかないほど、この世界はどこまでも過酷で、無慈悲だ。

 

そして、その中から()ち上がる為には、独りの力ではとても足りないこと。

 

それらと戦い、進む為には、仲間達との(つな)がりが無くてはならないこと。

 

とっくに知っているはずだった”大事なもの”が、ようやくしっかり腑に落ちた感覚があった。

 

 

 

「・・・・もう、分かったよ。

分かったから、もう(はん)ベソかかないでくれって。

腹の傷が痛ぇより、よっぽど()みる、ってな」

 

「は、半ベソ・・・・っ!?」

 

そして、ジェットの振る舞いから、気付けば困惑と焦りが消えていた。

 

そのついでに、目の前のクレアの涙顔を、いつもの調子でからかう。

 

途端、慌てふためく少女の顔に、悪いとは思いつつもつい笑っていた。

 

「ああ・・・・今回は俺が分からず屋だったよ。

・・・・仲間を、家族を、助けられなかった。

どんな事よりそれが悔しいって事を、()()()()()()()()()はずなのにな」

 

「ジェット・・・・」

 

「――――良かったわ。

仲直り、出来たみたい」

 

「なんだよ、ユリハ。

もしかしてそれで黙って見てたのか?」

 

「ええ。

二人なら、ケンカしてもきちんと仲直りできるって思ったから」

 

「まるでガキ扱いだな・・・・」

 

実際、子供の喧嘩を見守ったかのように、ユリハは微笑ましげだった。

 

一応、これまでにないくらい大喧嘩だったというのに、とジェットは肩を竦めさせる。

 

ジェットもクレアも、これほどに感情を剥き出し、戦わせたのは始めてだった。

 

「ふふふふ」

 

「なんだよ」

 

すると、どうやらユリハが微笑んでいたのは、ジェット達の仲直りだけが理由で無かったらしい。

 

彼女は、ふとこめかみに着けた緋色の羽飾りを弄りながら、言葉を続ける。

 

「少し意外だったの。

ジェットのこと、私は、とてつもなく強い”英雄”のように思ってたわ。

けど・・・・うふふふ。

なんだか、実は”カミル”に似てるんだ、って思って」

 

「なんでそこで、アイツが出てくるんだ?」

 

「あら、気付いてないの?

・・・・勇敢で、豪胆そうで、でも実は凄く心配性で、不器用で。

周りの皆を、そんなにも大事にしてるのね」

 

「・・・・そうだよ。

困っちゃう。

すぐに、俺がやる、って突っ走って、全然言うこと聞いてくれないで。

自分のことは全然気にしないで、皆のことばかりを見て、無茶をして」

 

随分と主観的なユリハに、クレアまでもがにこやかに乗っかる有り様だった。

 

俺はあんなにチビじゃねぇぞ、と言いかけたジェットだったが、止めておいた。

 

言っても言わなくても、なんだかきまりが悪くて、ジェットは居心地悪そうに唸って、壁へもたれ直す。

 

途端、一転して心配そうに寄り添うクレアに、彼女とてとことん他人の為に動こうとする人物なのだと腑に落ちる。

 

「――――ったく、難しいこと言うよな。

”絶対に死なない、誰も死なせない”。

それだけじゃなく、”絶対に生きなきゃダメ”、と来た」

 

”ハウンド1”を背負ってジェットが戦う時、その最後の言葉が加わる事は、今までと同じようで、全く違う。

 

これまでは、何処か()()()()()余地があったからだ。

 

リーダーとして、敵を倒し、仲間達を助けることこそが至上命題であって、そこへ疑問も持っていなかった。

 

昔の自分は、それを見てきたから。

 

でも現在(いま)、クリサンセマムの仲間達が求めているのは、より困難な判断の方なのだと思うと、つい溜め息の漏れるジェット。

 

「そう?

たったの3つだけじゃない」

 

ところが、ユリハはあくまでも朗らかに、パンと手を打ってそう言ってのける。

 

「”絶対に死なない、誰も死なせない”。

但し、”皆で力を合わせて、絶対に生きて帰る”。

きっと単純なことだわ」

 

そうなのか、とクレアを見ると、可憐に笑って首肯する。

 

きっと、クレアはその”正解”をとっくに分かっていたのだろう。

 

だから、ジェット達を助けに灰嵐(かいらん)の内側へ向かう時、其処に仲間達が続いてくれると信じて、飛び込んできた。

 

それは確かに、ただの無謀とは同じようで、全く違うことだろう。

 

「・・・・でも、ユリハ?

それじゃ()()じゃない?」

 

「そう、かしら?

とにかく、大事なことだわ。

私には、()()()()()()と思ってたこと」

 

ふと寂しそうな声音(こわね)を覗かせた通り、ユリハもまた遺されてしまった者だった。

 

グラジオラスのAGE(なかま)達は、既に全滅している。

 

そしておそらく彼女の実の家族もまた、生きてはいない。

 

「だが、今はもう”違う”、だろ?」

 

「ええ、そういうことね」

 

しかしそんな天涯孤独など振り切って、ユリハは凛然と答えていた。

 

「大切な人を喪っても、生き続けた。

それでも、守りたいものがあったから。

その先で、貴方達に出会えた。

・・・・だから、私はもう、起こってしまった過去に泣くより、こうして繋がったこの現在(いま)に、懸けるわ」

 

 

 

――――そして、その繋がりとはまた、この未来(さき)に新たな絆になる。

 

生きている者の行く先と同じように、喪われた者の遺す想いも、決して無為などではない。

 

人の意志とは、生命とは、そういうものなのだろう。

 

独り善がりに搾取と荒廃だけしか与えない、()()()()達とは違う。

 

そして、AGE(じぶん)達はそういう(みち)を行くべきのだろうと、ジェットが噛み締めた、その時。

 

ドン、という重底な衝撃が辺りを突き抜け、洞窟が崩れんばかりに軋んだ。

 

そして同時、穴蔵(あなぐら)の奥にまで響き渡るほどの、恐るべき怒号が響き渡っていた。

 

 

 

<――――オオオオヲヲヲヲォォォォッッッッ――――!!!!>

 

 

 

「・・・・なんだ、って聞くまでもなかったな。

追いかけてきやがったのかよ、アイツ」

 

「そんな・・・・退避装置は機能しているはずなのに」

 

クレアは狼狽(ろうばい)して、ジェットを見やる。

 

分かっている。

 

手負いな上、神機すら持ってないジェットは、最も足手纏だ。

 

少なくとも、()()()()()()

 

「休憩時間は終わり、ってな。

そんじゃ行こうぜ、二人共」

 

何でもなさそうな言い草で立ち上がって見せるジェットに当然、困惑の視線が向けられる。

 

「安心しなって。

おかげで、もういつも通りに走れそうだ」

 

「でも、勝算はあるの?

私と貴方の神機は、もう・・・・」

 

改めて現実に立ち返れば、立ちはだかる”スサノオ”の強大さに加え、ジェットとユリハは武器すら失い、()()までもが差し迫る。

 

勝ち目は、まあ無いだろう。

 

だが、ジェットはもう不安に呑まれることなどなく、その向こうの希望を思い、不敵に笑ってみせた。

 

「おう。

だいぶ行き当たりばったりですまないが、一応考えはある」

 

「ジェット、一体、何を――――」

 

さっきまで説教をされていた身の上の所為か、クレアはなんとも心配そうだった。

 

しかし、ジェットは精一杯に頼もしく笑い、応えて見せる。

 

もう、湿気た有り様を見せて、彼女を曇らせるつもりはなかった。

 

「決まってるだろ?

ハウンド1(エース)”は、先陣を切るもんだ。

アイツを出し抜いて、皆で生きて帰る。

その為には、ちゃんと話して詰めるべきなんだろうが、生憎(あいにく)ともう時間も無ぇ。

細かいところは、走りながら決めようぜ!!」

 

 

 

颯爽とそう言い放つや、踵を返す。

 

戦場から吹く風に、漆黒の長布(マフラー)が、羽撃(はばた)く翼のように翻った。

 

 

 

――――そして、その雄々しい、見慣れた背姿(せすがた)に、クレアはふと呟いてしまっていた。

 

 

 

「・・・・そうこなくっちゃ・・・・!!」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

< グウゥオ”オ”オ”オ””ァァァァ !!!!>

 

 

 

――――洞窟から飛び出したジェット達の前に、未曾有の”魔神(スサノオ)”が姿を表した。

 

狭路を避け、わざわざ崖上を回り込んでまで、取り逃がした獲物を追ってきたらしい。

 

しかも、どういうわけか”バースト”状態が解除されていない。

 

その傍には、絶命したネヴァンやガルムが()()しているのを見るに、手当たり次第に食い荒らし、力を得続けているのか。

 

「それで、一体どうするのかしら!?」

 

「まずは、さっきの場所に戻って、神機を取り返す!!

ダメなら、傍にあった岩場に逃げ込む!!

それでとにかく、()()()()()んだ!!」

 

ジェット達は、谷間から崖を駆け上がり、広い岩棚(いわだな)へと躍り出た。

 

あの化け物の追跡を(かわ)すのに間道は狭すぎるし、そもそも簡単に見逃してもらえる相手でもない。

 

「時間って、一体いつまで!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()だ!!

援護の到着はともかく、皆なら必ずやってくれるだろ!!」

 

ズザッ、と、ジェットは手負いなのを感じさせない俊敏さで進行方向を変えた。

 

唯一、神機を持っているクレアを差し置いて、殿(しんがり)として魔神と真っ向から身構える。

 

「ジェット!?

此処は私が・・・・!!」

 

「いいや、先に行ってな!!

安心しな、速攻で喰われるようなダサい真似はしねぇよ!!」

 

半人半竜のような魔神の威圧感に、ジェットの身体はビリビリと痺れるようだった。

 

あのパワーをまともに受けようとするのは勿論、固まって動くのを纏めて薙ぎ払われたら最期だ。

 

勝機は、この起伏のある地形で、己の身一つでいなし切って、初めて見えてくる。

 

神機も無い今、ジェットが鍛え抜いてきた天性の(はや)さと、勝負感が頼みだった。

 

<ヲ”ヲ”ヲ”ヲ”オオオオォォォォ!!!!>

 

バサリ、と翻る黒の長布を目掛け、魔神は雄叫びと共に身構える。

 

上半身の隻腕(せきわん)人型(ひとがた)が、巨大な腕と極大剣を前へと突き付ける。

 

その(きっさき)がジェットへ狙いを据えるや、極大剣の刀身が、中心から真っ二つに割れて開く。

 

(光線・・・・(いや)――――)

 

ジェットは、刹那の判断で似たものを想起していた。

 

途端、極大剣の後ろから激しい推進炎が放たれ、開いた刀身の間から、稲妻のような光の(きっさき)が延びる。

 

( ”開咆長槍”(チャージスピア) !?)

 

刹那、魔神の巨体が急速に飛行し、ジェットを目掛けて吶喊する。

 

光の巨大槍が空気を突き破り、超重量が猛然と駆ける衝撃波までもを巻き起こすほど。

 

対して、ジェットもまた放たれた矢のように跳び、壁側ではなく岩棚から飛び出していた。

 

直後、魔神の突撃で岸壁が打ち砕かれ、(おびただ)しい岩塊が飛び散った。

 

だが、その飛散とて岩棚の下にまでは届かない。

 

「へっ・・・・流石、”神機使い殺し(ゴッドイーターキラー)”は物真似も上手、ってな!!」

 

崖を滑り降りたジェットは、そのまま峡谷を疾駆する。

 

その影を、魔神の巨大な竜頭が崖上から見下ろし、するとその大顎が開かれ、凄まじい光が収束しだした。

 

対して、ジェットは敢えて目立つように壁走り(ウォールラン)で駆け抜ける。

 

瞬間、雷鳴が如き轟きと共に、竜頭が恐るべき破壊光線を放つ。

 

周囲が、目の(くら)む明暗に埋め尽くされる。

 

だが、神機を持たない身軽さの全力疾走で、ギリギリでこれを振り切るジェット。

 

「よ、とぉっ!!」

 

限界まで引き付けたその瞬間、壁走りから飛び出す。

 

光線はそのまま駆け上がり、一気に灰嵐の空までも斬り裂いていった。

 

「そら、外れだ!!

だが、まだ終わりじゃないだろ!?」

 

そう叫び、ジェットは再び岩棚の上に駆け上がる。

 

飽きられて、クレア達の方へ行かれては意味が無い。

 

矮小な獲物に挑発され、魔神は再び猛り、極大剣を振り被らせた。

 

大振りな横薙ぎ。

 

但し、横の岸壁を巻き込み、斬り崩すように。

 

「っ!!!!」

 

瞬間、ジェットはしゃにむに()退(しさ)った。

 

冗談のように弾け飛んでくる瓦礫の雨から、とにかく致死的な大きさの物を見極め、その軌道だけは避ける。

 

しかし、その回避行動を更に追い詰めるべく、魔神の極大剣が光を放つ。

 

「うぅおぉっ!!??」

 

極彩色の拡散光線が、ジェットを粉々にしようと殺到する。

 

だが、それでも。

 

瓦礫と拡散光線が錯綜(さくそう)し、複雑に脅威範囲が変化する中でも、ジェットは辛うじて駆け抜ける。

 

暴風となって吹き荒れる破壊の余波に、身体が(よじ)れる。

 

込み上げる血反吐と悲鳴を、しかしジェットは噛み殺す。

 

だとしても、何としても、脚は止めない。

 

「ジェット!!!!」

 

なぜならば、目的地を前に、ジェットが追いつくと信じていたクレアが、待ち構えているからだ。

 

放たれた回復弾の光が、ジェットを癒やし、痛みの奥から力を漲らせる。

 

――――独りでなく、仲間と共に支え合い、戦える。

 

それこそが、GOD EATER(ゴッドイーター)だ。

 

<ジェット、神機は無事だわ!!

後もう少し、急いで!!>

 

ユリハの通信と同時、2人分の火線が交差していく。

 

十字射撃を背にし、ジェットは遂に先程戦っていた荒野へと飛び込んでいく。

 

そして、その疾走の真っ直ぐ先に、二振りの剣が突き立っていた。

 

猛然と其処(そこ)へ辿り着き、さんざん手に馴染んだ()を握り掴んだ瞬間、両者は強く共鳴する。

 

足を突っ張り、強引に疾走を止め、俊転二刀(バイティングエッジ)を構えさすジェット。

 

己の身体に根付く偏食因子(へんしょくいんし)、そしてその半身たる神機。

 

人間の武器へと身をやつす、アラガミ。

 

その凶暴な鼓動は、どうやら耐え難い焦燥感にも似た、狂おしい疼きに感じられた。

 

「お前も、そろそろ我慢の限界、ってか?

なら、此処(こっ)から反撃開始、だなっ!!」

 

迫りくる敵を睨み上げるジェットの傍に、クレアとユリハが駆け寄る。

 

二刀、長槍、長剣、3種の(きっさき)が呼応するように閃いた。

 

「両手に花、ってな。

・・・・行こうぜ。

アイツを多少は弱らせれば、灰嵐の活性もマシになるかもしれねぇ」

 

「そうすれば、クリサンセマム(みんな)からの援護だって届くかもしれない。

でも・・・・」

 

「戦うどころか、生き延びることすら、簡単じゃない。

・・・・覚悟は、出来てるわ」

 

 

 

< ウゥオ”オ”オ”オ”ヲヲヲヲォォォォ !!!!>

 

 

 

地響きを立て、遂に決戦の荒野へ降り立つ”魔神(スサノオ)”。

 

あんな未知なる化け物と、退路の保証なく斬り結ぶなど、自殺行為だ。

 

戦力は、たったの3人きり。

 

それも、万全の状態とは程遠い上、あまりにも時間が残されていない。

 

勝率、生存率、小難しい理屈をつけようとしても、きっとただ頭が痛くなるだけだろう。

 

ジェットは、皮肉げに鼻を鳴らし、そして小さく呟いていた。

 

「――――無い無い()くしのこの()()で、”鬼神(デモン)”、ってか。

背負っちまったもんだ」

 

神様呼ばわり、人外の強さ、最強のAGEだのと言われたところで、とんだ無様さだった。

 

だが、どんな敵をも討ち倒す、などと大層なモノでない事は、とっくに分かってるはず。

 

ただ、出来る事へ挑み、譲れぬものを守リ続けて、昔よりは強くなった。

 

たったそれだけの存在でしか無かった。

 

「・・・・俺の知ってる()()()()共は、仲間を守ったり、喪って泣いたりはしねぇ。

なら、俺は、”ジェット(オレ)”だ。

鬼神(きしん)でもなんでもない、ただのAGE(エイジ)らしく、仲間と一緒に足掻くまでだ・・・・!!」

 

 

 

――――すると、その刹那。

 

ジェットの不惑の覚悟に応えるかのように、通信機にノイズが入る。

 

<・・・・ちら、クリサンセマ・・・・!!

聞こえ・・・・か!?

ジェット・・・・クレアさ・・・・ユリハ・・・・!?

返事をしてください!!>

 

それは、待ち望んでいた起死回生の兆し。

 

だが、3人共、喜びに顔を見合わせる暇も無い。

 

「来るぞ!!」

 

魔神の左側面、女神の(むくろ)のような部位が無数の触手にバラけ、地面に突き刺さる。

 

同時に、極大剣の(きっさき)も天へと掲げられ、強力な光弾を連射する。

 

それらの攻撃は、地面を引き裂いて突き上げる触手の槍と、空中から大量の破壊光が降り注ぐ同時攻撃となった。

 

周辺一帯を丸ごと吹き飛ばさんとする飽和攻撃に、ジェット達は大きく散らばり、回避する。

 

されど狼狽は無く、にわかに闘志が燃え上がり出していた。

 

<これほどの灰域濃度に、もう対応をしたの!?>

 

<皆、頑張ってくれたんだ!!

そうだよ、ハウンドスクワッドは皆が優秀なんだから!!>

 

そしてジェットは、(あやま)たず期待に応えてみせた仲間達へ、頼もしげな笑みを浮かべていた。

 

通信機の向こうに、勇気を取り戻した力強い声で、告げる。

 

「こちら、”ハウンド1”!!

クレアもユリハも、まだどうにか生きてるぜ!!

だが、まずは今、この状況を覆さなきゃならねぇ!!

此処から生きて帰るには、”GELGYA(ゲルギヤ)システム”が必要だ!!」

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 




・Tips.14

「”ペニーウォート”」

かつて、ジェット達”猟犬部隊(ハウンドスクワッド)”が所属していた、中規模のミナト。
主としてAGE(エイジ)技術の研究を行っていたが、その実態は極めて悪辣(あくらつ)であり、人命軽視も(はなは)だしいものであった。
AGの()()に使用する為、身寄りの無い孤児達を掻き集めていたものの、自由を奪った上で不衛生な監獄へ収監し、食事すらも満足に与えず。
実験内容に関しても、費用対効果を重視した無茶な工程を重ね、施設自体に被害が及ぶことも珍しくなかったという。
ミナト自体も常に赤貧状態(せきひんじょうたい)で、職員の士気も低く、()()()()へのハラスメントは日常的だった。
この杜撰(ずさん)な体制と、慢性的な栄養失調、そして任務による消耗により、夥しい数の少年少女達が命を落としたという。
現在では、ペニーウォート自体は大型の灰嵐に呑まれ、消失。
しかしその直前に潜入調査を行っていたリカルド・スフォルツァの情報によって、当時の稼働実態は明るみに出されている。
”幼く無力な少年達へ、(いちじる)しい犠牲を強いる行い。
そして組織ぐるみでこれを黙認してきた卑怯さは、世界を包む蝕灰(しょくかい)の脅威の中だろうと、断じて許されるべきものではない”。
この告発によって、今も生き残った職員達も、激しい糾弾の的になっている。
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