GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#11 >> 「Beyond the limit.」

――――時間は、少し遡る。

 

戦場に到来した灰嵐(かいらん)の威力に輸送車ごと飛ばされたユウゴだったが、どうにか無事に灰域踏破船(クリサンセマム)へと帰還していた。

 

クリサンセマムは、近傍(きんぼう)の渓谷地帯に退避して事無(ことな)きを得ていたようだった。

 

焦りを(こら)え、ユウゴは状況を確認するべく船内へと立ち戻る。

 

ところが、内部では照明や空調がほぼ停止し、最低限の基幹機能だけが動くのみ、という明らかな異常事態に陥っていた。

 

ようやく辿り着いたブリッジも、緊急照明によって仄暗(ほのぐら)く照らされているのみだった。

 

「イルダ、どうなってる!?」

 

「見ての通りよ。

灰嵐と、シャロンの感応波(かんのうは)によって、この船のメインフレーム自体が安定を失ってるわ。

船体の損傷は軽度であるようだけど、早急に復帰できねば私達も、グラジオラスの人員も、文字通りの()()()()よ」

 

<オーナー、ホイールチームは退避完了した。

チームは全員無事だ、指示を求む>

 

「ひとまず、そのまま待機よ。

とにかく”感応波レーダー”を復帰させて、周囲を確かめないことには・・・・」

 

携帯端末のデータを見ながら、復旧の指揮を取るイルダ。

 

オペレーションブースではエイミーが、機関エリアではキースが、必死に作業を進めていることだろう。

 

しかしユウゴは、そうして呑気に体勢を整える余裕は無いと、外で待機するホイールチームへ通信を繋いでいた。

 

「いや、待ってくれ。

まず俺達AGE(エイジ)のみで、ジェット達の救出部隊を組むぞ。

ジーク、ルル、活性化灰域(かっせいかかいいき)への突入準備をしろ」

 

「ダメよ、ユウゴ。

危険過ぎるわ」

 

「既にクレアは向かったんだろう?

彼女の使ったルートを辿って、ジェット達をピックアップする。

見捨てられるわけがない!!」

 

「落ち着いて考えなさいっ!!

すぐそこで、アラガミすら逃げ出すような灰嵐が吹き荒れているのよ!?

たとえ偏食因子(へんしょくいんし)を調整しても、もはや生身での突入は無謀だわ!!」

 

ユウゴもイルダも、この状況が正しく”崖っぷち”である事は分かりきっていた。

 

迂闊に動けば、足を踏み外すようにして、即座に取り返しのつかない事態へ陥る。

 

かといって、そんな危険をいつまでも伺ってはいられない焦りに、2人は意見を激しく戦わせた。

 

するとその時、船内照明が一気に光量を増した。

 

<こちらキース!!

メインフレームは復旧完了だけど、エンジンの出力が上がりきらない!!

引き続き、復旧にかかるよ!!>

 

<おそらく、高濃度の喰灰(しょくかい)に晒されている事で、対灰域装甲板(たいかいいきそうこうばん)を抜けてダメージが浸透(しんとう)しだしている。

出力は、平時の6割と言ったところだろう>

 

「アインさん!!

トレイズ博士達は!?」

 

<ニウロフ・トレイズは、再び厳重に拘禁した。

シャロンも、ひとまずはまた眠りについている。

俺は、このまま機関部の修理へ取り掛かるが・・・・おそらく、劇的な改善は見込めんだろう>

 

「くっ・・・・!!」

 

「っ!!

感応波レーダー、オンライン!!

周囲の探索、開始っ・・・・クリサンセマム、コンディションチェック――――!!」

 

クリサンセマムの主機(しゅき)が復帰したことで、とにかく航行に必要不可欠なシステムを再確認するエイミー。

 

だが、その表情はやにわに引き()り、上擦(うわず)った声で叫んでいた。

 

「た、対灰域装甲板、損耗率38%!!??

駆動系にもダメージ・・・・コンディション・イエロー!!」

 

(すなわ)ち、それはクリサンセマムの残り時間(タイムリミット)を暗示する報告だった。

 

既に半分ほど沈みかけている船では、仲間を救う策を講じる猶予すら無い。

 

更には、ブリッジの外部映像モニターに映る灰嵐は、激しくうねり、稲妻を(ほとばし)らせていた。

 

「灰嵐の活性化、更に進行しています!!

もはや、《《それ》自体から強大な偏食場パルスが発生され、通常装備での侵入は困難です!!

規模も、巨大化を続けて・・・・このままでは、この船まで・・・・!!」

 

「なんだとっ・・・・!?

ジェット達との通信は出来ないのかエイミー!?

あいつらは、どこに居るんだっ!?

・・・・カミル!!」

 

飛び込んでくる情報を悲壮に読み上げるエイミーへ、血相を変えるユウゴ。

 

とにかく、迅速に状況を把握し、次の行動を見定めねばならなかった。

 

その鍵を握る、感応波レーダーを扱うカミルが、制御席から叫び返していた。

 

「言われなくても、分かってる!!

どこだ、ユリハ・・・・!!??」

 

歯を食いしばって集中するカミルに応じ、感応波レーダーが強く光る。

 

この場で今、彼以上に情報を収集できる人物はいない。

 

ユウゴ、そしてイルダも、気付けば祈るようにその模様を見守っていた。

 

 

 

――――果たして、”ハウンドスレッド作戦”は既に頓挫(とんざ)したと、認めるしかなかった。

 

幸か不幸か、灰嵐がアラガミを蹴散らしたお陰で、退路はある。

 

地図によれば、近傍の”ルートビーコン”にもかなり近付いているはずで、今すぐに此処(ココ)を離れれば、高い確率でクリサンセマムは生還できるだろう。

 

だが、言うまでもなくこの場へ取り残される3人の仲間は、間違いなく喪失(ロスト)する。

 

それでも、まだ足掻く時間はある筈だった。

 

そして、そんな各員の奮起は、遂に()を結ぶ。

 

しかし、観測情報を読み取ったエイミーは、愕然として声を震わせていた。

 

「か、灰嵐の中心部に、ジェットさん達3名と(おぼ)しき反応を確認!!

ですが・・・・その(そば)に、超巨大なオラクル反応!?

この反応は、灰域種(かいいきしゅ)・・・・いえ、それ以上の・・・・”対抗適応型(たいこうてきおうがた)アラガミ”を()()()()()()ですっ!!」

 

「エイミー、キース、通信機の出力を調整っ!!

彼らと回線を繋ぐのよっ!!」

 

<イルダ>

 

その時、イルダの通信機に、アインからの張り詰めた呼び掛けが届いていた。

 

<――――現状ならば、この船が()つのは精々(せいぜい)、”15分”といったところだろう。

”決断”が要求されるぞ>

 

「っ・・・・!!」

 

みなまで言うまでもなく、イルダ達はもはやとっくに”限界”にまで至っていた。

 

大切な仲間を救うか、大勢の命との共斃(ともだお)れか。

 

誰を生かし、誰を()()()()か。

 

そして、イルダは、このクリサンセマムの船長《オーナー》として、重大な()を引かざるを得なかった。

 

<応答してください!!

こちら、クリサンセマム!!

聞こえますか!?

ジェットさん、クレアさん、ユリハさん!!

返事をしてください!!>

 

高濃度灰域(こうのうどかいいき)をも越えるよう調整した通信回線へ、必死に呼びかけるエイミー。

 

そして、やがてその呼び掛けに、かろうじてノイズ塗れの反応が返ってくる。

 

<――――こちら、”ハウンド1”!!

クレアもユリハも、まだどうにか生きてるぜ!!

だが、まずは今、この状況を覆さなきゃならねぇ!!

此処から生きて帰るには、”GELGYA(ゲルギヤ)システム”が必要だ!!>

 

息を荒げ、切羽詰まった調子のジェットは、待った無しに要求を叫ぶ。

 

瀬戸際にあっても尚、怯むことなく、力強い声だった。

 

「おとさん!!」

 

その時、ブリッジにフィムの叫び声が響いていた。

 

振り返ると、待機命令下だと言うのに、ジークとルルを伴って走り寄ってくるところだった。

 

<こっちが見えてるなら、分かるだろ!?

この化け物をなんとかしなけりゃ、俺達は生きて帰れねぇ!!

神機激臨解放(レイジバースト)”で、一気に押し返すしかねぇんだ――――うぉおっ!!??>

 

 

 

――――通信機へ叫ぶジェットに、猛り狂う”魔神(スサノオ)”が飛びかかった。

 

<ウゥオ”オ”オ”オ”ォォォォッッッッ!!!!>

 

燃え(たぎ)る猛火のような雄叫びを上げ、長大な豪腕(ごうわん)極大剣(ごくだいけん)を振りかぶり、叩きつける。

 

凄まじい爆風が吹き上がり、地鳴りと共に周囲を薙ぎ払った。

 

<おい、ジェット!?>

 

<おとさんっ!!??>

 

ユウゴ達や、フィムの呼びかけに応える余裕も無い。

 

避け切った筈のジェットだったが、その余波にすら軽々と吹き飛ばされる。

 

苦痛を噛み殺し、とにかく起き上がろうとする、その隙をカバーすべく、クレアとユリハが走る。

 

「やぁああああっ!!」

 

クレアが開咆長槍(チャージスピア)を構え、穂先を展開させた”チャージグライド”で突っ込む。

 

更に、側方からはユリハが”アサルト”銃身の連射弾(れんしゃだん)で援護する。

 

だが、半人半竜の魔神はその身を揺るがしもせず、そして巨竜(きょりゅう)の首を激しく打ち振らせ、帯電させ始めていた。

 

「防げ!!」

 

ジェットが叫んだ、その瞬間。

 

竜頭から落雷のような発光が起こり、全方位に電撃が解き放たれる。

 

辛うじて防御する3人だったが、その装甲越しにも、体が痺れるようなダメージが浸透してしまう。

 

<な、何、この反応っ!!??

そのアラガミは、危険過ぎます!!!!

皆さん、直ぐに撤退を――――!!!!>

 

生憎(あいにく)と・・・・コイツが暴れてちゃ、俺達は灰域(ここ)を抜けられないんだ。

おまけに、もしもこんな化物に追いつかれたら、クリサンセマムごと一巻の終わり、ってな!!

かと言って、腰を据えて戦ってられる時間も無いんだよ!!」

 

ジェット達は今、クレアが用意した偏食因子(へんしょくいんし)のお陰で、どうにかこの灰域濃度に耐えられているに過ぎない。

 

まして、全力で戦っていられる時間は、もはや5分と残っていないだろう。

 

更に、これほど高濃度の灰域の近くでは、クリサンセマムの方とて長くは持たないはずだった。

 

「てやあぁっ!!」

 

技構長剣(ロングブレード)(かか)げ、斬りかかるユリハ。

 

6脚、上体、豪腕と、次々に斬り裂くが、致命傷には程遠い。

 

直ぐ様、邪竜の下半身が足を踏み鳴らし、大きく距離を取らされる。

 

ジェットは銃形態(ガンフォーム)へ変形し、”スナイパー”銃身で援護する。

 

剣も銃も、先程までよりは(とお)りが良い。

 

狙撃弾(そげきだん)も、通常弾頭より爆発衝撃の方がよく効くようだが、なんにせよ”焼け石に水”でしか無かった。

 

「神機でチマチマやるには、アイツはデカ過ぎる!!

あんなもん、並の手段じゃどうしようも無ぇんだ!!」

 

<で、ですが・・・・それでは、ジェットさんが・・・・っ!!>

 

この期に及んで、エイミーが酷く躊躇(ためら)うのも分かる。

 

何故なら、ジェットが要求するその”手段”は、()()()()()()()()()()()()()を軽々と踏み越える、最悪の一手であろうからだ。

 

<――――神機喚起率(じんきかんきりつ)・”400%”、臨界稼働状態(フルドライブ)・・・・っ。

GELGYA(ゲルギヤ)システムの最大解放は、アインさん自ら、”禁止”にしたはず・・・・!!>

 

<なんですって!?>

 

「ジェット!?

そんな・・・・」

 

自ら禁忌を冒そうとするジェットに、イルダとクレアは狼狽(うろた)え、声を上げる。

 

それでも、もはやとことんまで追い詰められたこの場を生き延びるには、それだけの()()が必要だった。

 

「わざわざ数字を聞くまでもねぇさ。

こうして握ってるだけで、神機が()()まで来てるって、分かるからな・・・・!!」

 

 

 

>> 制御ユニット・”ERROR” 過負荷状態(オーバーロード)により各ユニット機能不全。直ちにシステムへの負荷を軽減してください。

 

 

 

その時、魔神が雄叫びと共に豪腕を振りかぶる。

 

まるで灰嵐(あらし)そのものかのように極大剣を振り回しながら急速に走り出し、手当たり次第に周囲を薙ぎ払った。

 

「くぅうっ!!」

 

近くまで踏み込んでいたユリハは、避けようのない密度の暴力に、やむなく防御する。

 

ところが、その上から打ち砕かれかねない破壊力に吹き飛ばされ、転げ回る。

 

「退がれ、ユリハっ!!

クレアっ!!」

 

「はい!!」

 

距離を取って回避した2人は、ユリハをフォローすべく、左右から魔神を挟むように走った。

 

だが、魔神はその程度の思惑など踏み潰さんと、咆哮と共に力を示す。

 

竜頭の(あご)へ瞬時にエネルギーが収束し、破壊光を一直線に放つ。

 

同時、上半身が豪腕を振り上げると、(たか)ぶる赤光が構えた極大剣までもを覆い尽くし、まるで”咬刃展開状態(こうじんてんかいじょうたい)”のような凶器を形成する。

 

更には、女神の(むくろ)までも(おびただ)しく輝き、激しく放電する光の翼が開かれ、触れるものを焼き切る。

 

即ち、破滅的な威力の攻撃が()()()()()展開され、そしてそのまま魔神は巨体を回転させ、周囲の全てを薙ぎ払う。

 

「うおぉあっ!!!!」

 

「くっぅぁあっ!!??」

 

「嫌あぁっ!!??」

 

ジェット達は悲鳴を上げ、吹き飛ばされた。

 

直撃すれば、塵1つも残らない。

 

こうして辛うじて防いだとて、()()()()()()()()()のが精一杯だった。

 

<ああっ!!??

み、皆さん、バイタル危険域です!!!!

ダメ、すぐに下がって!!!!>

 

ジェットは、どうにか倒れることなく構え、敵を睨み上げる。

 

その先には、絶望的な戦力差までもが横たわっている。

 

針で突くような此方(こちら)の攻撃と違い、魔神の撒き散らす破壊力は、全て致命的だ。

 

どんなに上手く戦おうと、いずれ必ずジェット達の方が先に力尽きるだろう。

 

<待ってろ、ジェット!!!!

今、どうにかして援護に向かう!!!!

それまで耐えてくれ!!!!>

 

<早まるな、ジェット!!

お前だけが”犠牲”を払う必要はないんだ!!>

 

<お前らだけで無理なら、俺らがいるだろがっ!!>

 

仲間達の必死な呼び掛けに、おう、と答える。

 

頼もしいその声だけで、十分だった。

 

されど、この絶対の死地(しち)に望みを繋ぐ為には、今この瞬間に、()()をしなければならない。

 

「・・・・時間が()ぇんだ。

せっかくの”切り札”を使いそびれて、そのまま腐るのもゴメンだ。

だから、()()()()()

 

「ジェット・・・・そんな、覚悟は・・・・!!」

 

「・・・・ダ、メ・・・・っ。

諦めないって、言ったのに・・・・!!」

 

絶大な破壊力の前に膝を折り、声を詰まらせるユリハと、悲痛に叫ぶクレア。

 

分かっている。

 

彼女達が言った、絶対に生きて帰る”約束”に、反してると思われるだろうことは。

 

だが、今、この仲間達を背負って立つ”ハウンド1”として、ジェットは立っている。

 

残った挑発フェロモンを叩き割り、決して(くじ)けぬ闘志の(もと)に、二刀を(たずさ)え、(はし)る。

 

目の前の”死”と、戦う為に。

 

<ジェット、聞け>

 

魔神が振りかぶった稲妻の翼を、横っ飛びに(かわ)す。

 

その時、通信機にアインの声が低く響く。

 

<今のGELGYA(ゲルギヤ)システムは、最大稼働を想定していない。

設計上は出力にも耐えられるが、、あくまでそれは外的要因を除いた理論値に過ぎん。

十分な効力を発揮するどころか、そこから戻れる保証すら無い>

 

「・・・・だから、こうして()()()するのさ、旦那。

なんせ、実はまた、さっきもしこたま怒られたばっかりなんだよ。

”リーダーは、皆を背負ってこそ”、ってな」

 

魔神と、正面から向き合うジェット。

 

目障りの小兵(こひょう)へ、竜頭が身悶えながら喰らいつく。

 

しかしジェットは、その衝撃をダイブで(わき)へと突き抜け、逆に横合いから捕喰形態(プレデターフォーム)で喰らい返す。

 

「――――”絶対に死なないし、誰も死なせない”。

だがそれは、自分勝手にやってりゃ良いものなんかじゃない!!

()()()()で出来る、軽いモンじゃなかったんだ!!

()()()()()()、全員の活路(みち)()じ開ける!!

その覚悟が無けりゃ、ただバカの(いさ)(あし)でしか無ぇんだ!!!!」

 

<おとさん・・・・!!>

 

フィムの涙声が聞こえる。

 

それ以上、大事な家族を悲しませはしない。

 

そんな(なさけ)と、(きずな)とが、ジェットを意地でも戦いへと駆り立てる。

 

「リーダーは、こうして誰より前で戦う。

けど、俺はそのまま、()()()()()()()()()()()

相変わらず、バカな奴だったさ。

俺の()()には、いつも皆がいたんだ!!

ずっと同じ方を見て、一緒に進んで来た、ってのにな!!!!」

 

終わらせて(たま)るかと、荒ぶる魂に突き動かされ、こうして独りででも駆ける時。

 

されど、その()()った(みな)とは、その行く先も、情熱も、”同じ”ままだ。

 

クレア達に教わったように、”ハウンドスクワッド”の心は1つ。

 

欠けて良い人物など、1人もいない。

 

「もしも俺がしくじったら、皆きっとぼろぼろ泣くんだろうな。

(いや)・・・・”家族”の誰がいなくなっても、傷は消えないんだ。

だから、”自己犠牲”だなんて()()やしねぇ!!

俺達は、()()()先に進むんだ!!

無茶でもなんでも、ただ”やってみせる”しか無ぇんだ!!!!」

 

魔神は、再び極大剣を振り回しながら走り抜けた。

 

もしも、その無慈悲な(きっさき)に、大切な人を奪われたなら。

 

止め処なく哀しみ、泣いて、それでも(うしな)われたままに日々は続く。

 

どんなに決意し、再び立ち上がれても、(のこ)されたという痛みは消えない。

 

然り、結論はジェットの”原点”にあった。

 

そして、ハウンドスクワッドの戦う理由も、今も昔も変わらない。

 

かけがえのない”家族”を守り、助け、共に幸せを分かち合える未来を、勝ち取る為に他ならない。

 

「だから、今、コイツに()った()()()の為に、()()()()んだ。

俺が、突破口を開く。

その後は、皆が上手くやってくれる。

そうやって支えて来てくれたから、俺は此処まで来れたと、信じてるからだ!!

それが”ハウンド1(おれ)”で、その形が”ハウンドスクワッド(おれたち)”だ!!」

 

 

 

「――――っ・・・・ジェット・・・・っ!!」

 

 

 

痛みを食い縛り、立ち上がるクレア。

 

彼女もまた、立ちはだかる試練に、諦めることなく食らいつく。

 

ジェットは、その強さを信じ、背中越しに語りかける。

 

 

 

「お前の根性を、信じてるぜ。

だから・・・・俺を、信じろ」

 

 

 

クレアは、ジェットの決意に(うつむ)いた。

 

あまりに()の悪い賭けに、しかしジェットは生きる事を(つらぬ)こうとしている。

 

捨て身などでなく、自分の未来は、家族と共にあることを知っている。

 

喪失の悲嘆と、恐怖を知っている。

 

()()()()、逆境を越えて行く勇気に()ける。

 

ならば、クレアに出来るのは、戦いの()へと辿り着く、その想いと、(ちから)を信じ、(たく)されること。

 

「イルダさんっ!!」

 

<・・・・ジェット、貴方の申し出を許可します。

でも、それは今、その手段こそが最も生き残る確率が高いと、私が判断するから。

貴方ならばやり遂げると、信じてよ!!>

 

クレアの声に、イルダの決意に、異を唱える声は無かった。

 

沈黙を(もっ)て認めるしか無い。

 

そして、彼しかいない。

 

皆の信頼を、願いを託されるに足る、”最強の戦士(ハウンド1)”を背負う、ジェットにしか。

 

<エイミー!!!!>

 

<・・・・了解っ!!

ハウンド1、GELGYA(ゲルギヤ)システム、感応制御(かんのうせいぎょ)シークエンス!!>

 

イルダの命令に、遂にエイミーが禁忌の(くさり)手繰(たぐ)り始める。

 

それに繋がる扉の先には、”神機喚起率400%”という未曾有(みぞう)の領域が広がる。

 

予測不能の、強大なるその”力”が無くては、極光(きょっこう)(まと)(おそ)れるべき魔神を越えていく事は叶わない。

 

<各制御ユニット、動作開始!!

アーティフィシャルCNS、システムリンク!!

”PKSC”(ペンタサーキット)、フルドライブ!!

最終セーフティ解除っ!!

神機拘束(じんきこうそく)フレーム・・・・解放っ!!>

 

ジェットの神機(じんき)(くれない)に輝き、獰猛(どうもう)(うな)るように振動している。

 

禍々しいまでのその猛りに、ジェットは戦いの緊張とは別の冷たさが背筋を震わすのを、抑えきれなかった。

 

<おとさんっ・・・・がんばれぇ~っ!!!!>

 

そして、万感の想いを込めたフィムの呼び声が響き、今再(いまふたた)び、神機を縛る(かせ)が解き放たれる。

 

 

 

「 ”神機激臨解放(レイジバースト)”・・・・行くぜっ !!!!」

 

 

 

――――だが、その刹那。

 

黄金に彩られた、絶大な”力”の奥から、真っ黒い激流が押し寄せた。

 

同時、紅蓮の炎をも凌駕する、激怒のような昂りまでもが込み上げ、爆ぜる。

 

そしてジェットは、声すらも出せないまま、その混濁(こんだく)に呑み込まれる。

 

 

 

―――― なんだ、こいつは ――――

 

 

 

荒神(アラガミ)の怒号めいた、凶暴な振動が轟き、全てを戦慄(わなな)かせた。

 

灰嵐の猛りすらも(うち)から突き崩すような、神風(かみかぜ)が吹き荒れる。

 

(ほとばし)(まばゆ)い電光が、直近の地面を(えぐ)り、喰灰(しょくかい)ごと焼き払う。

 

<グゥオオオオ・・・・ッ!?>

 

破滅の”魔神(スサノオ)”ですらも怯み、困惑に(うめ)いたようだった。

 

だが、解放された衝撃はそれだけに留まらず、守るべき仲間達すらをも弾き飛ばしてしまう。

 

「きゃああああ・・・・っ!!??」

 

まして、その中心にあるジェットは逃れる術も無く、破滅的な奔流(ほんりゅう)に晒され続ける。

 

なにもかもバラバラにされそうな(なが)れの中で、押し寄せる化外(けがい)の”力”に身体が呑み込まれる。

 

もはや自分のものでないような肉体から、更に”自分”が引き剥がされ、吹き飛ばされる。

 

 

 

――――ぶつかり合う大気(たいき)と閃光が、滅茶苦茶な明滅(めいめつ)を生じさせていた。

 

輝く嵐の中心は、陽炎(かげろう)がかって(にじ)み、そしてその向こうには1つの”人影”が()る。

 

その正体は判然としない。

 

ただ、そこから放たれている波動は、人の域を越えた強大な()()()のものだった。

 

< ゥウオオオオォォォォ !!!!>

 

立ち直った魔神(スサノオ)が、巨竜頭から光線を放つ。

 

だが、謎の人影は黒い翼をたなびかせ、真っ向から向かっていく。

 

戦慄(わなな)く”力”の嵐を突き破り、稲妻の化身のような輝きと速さを以て、魔神の破壊光の中を(ひるがえ)って駆ける。

 

 

 

「・・・・あ・・・・ぁっ・・・・嗚呼(ああ)・・・・っ!!??」

 

 

 

その雄々しい(さま)を見るクレアは、しかし怖気(おぞけ)が止まなかった。

 

あれは、ジェットと入れ替わった()()()だった。

 

大切な人は今、()()()()へと成り果てていた。

 

黄金に輝く影は、瞬く間に魔神へと肉薄する。

 

その腕で振りかぶった二刀流の神機は、黒い牙の集合体のような(おぞ)ましい凶器と化していた。

 

だが、叩き込まれる(きっさき)に対して、魔神も俊敏(しゅんびん)に応じ、上半身の人形(ひとがた)が、極大剣(ごくだいけん)を防御にかざす。

 

その堅牢さには、変貌した神機とて文字通りに()が立たず、激しい火花を散らさせる。

 

だが、黒い人影は、更に身を(ひるがえ)す。

 

その背に生えた、黄金に輝く黒翼が(うごめ)いた。

 

「 グゥラア”ア”ア”ア”ッ !!!!>

 

人間では有りえない、獰猛な咆哮を上げる”ジェット”。

 

黒翼が大きく(しな)るや、神機と同じく無数の牙が隆起(りゅうき)し、極大剣を抉る。

 

神機使(じんきつか)いの、(ヒト)の領域を遥かに越えた破壊力が、初めて(おお)きな傷を其処(そこ)へ刻んでいた。

 

更に、”ジェット”は残光(ざんこう)を引くほどの高速移動で着地し、巨竜頭へ(おど)りかかる。

 

竜巻のように躍動(やくどう)し、黒い牙が次々に獲物を削ぎ取る。

 

悲鳴を上げた魔神が仰け反り、しかしすぐさま左側の骸腕(むくろうで)からエネルギーの翼を放ち、回転する。

 

避けようのない攻撃規模に、()ね飛ばされる”ジェット”。

 

だが、神機使いでも致命的な雷撃をすぐさま振り切り、痛みなど感じていないかのように飛びかかった。

 

 

 

< ヴゥア”ア”ア”ア”ォォォォッ !!!!」

 

 

 

「ジェット、無理しないで!!!!

聞いてっ!!!!

答えて、ジェットっ!!??」

 

クレアは、金切り声で、”ジェット”を呼ぶ。

 

だが、返答はただ獣の雄叫びのみ。

 

彼の姿は、まるで全身が捕喰形態(プレデターフォーム)に呑まれたようだった。

 

黒く(ただ)れた姿で、魔神の骸腕へ組み付き、神機を突き刺し、抉る。

 

振り払われ、斬り払われようと、(エサ)への猛攻は止まない。

 

限界を遥かに超えた(はや)さで、魔神の脚、上半身、豪腕と、次々に駆け上がる”ジェット”。

 

悶え狂う蛇のようにその身が(おど)り、神機(じんき)と背の翼が、手当たり次第に敵を捕喰する。

 

もはや、(ヒト)の範疇などとっくに踏み越えてしまった、手負いの荒神(アラガミ)の獰猛さ、そのものだった。

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「――――なんだっ!?

どうなったんだ、エイミー!?」

 

後方のクリサンセマムでは、通信回線が絶たれてしまえば、前線の様子を知る術は失なわれてしまう。

 

動揺して問い詰めるユウゴに、エイミーは顔を青褪(あおざ)めさせて叫び返す。

 

「は、激しい偏食場(へんしょくば)の乱れにより、灰嵐(かいらん)の規模、21%増大!!

データリンクも途絶・・・・ハウンド1の、直前のバイタルデータに異常値が・・・・っ!!

神機解放出力(じんきかいほうしゅつりょく)も・・・・ご、”584%”・・・・!!??」

 

「バカな・・・・!?

そんな数値は、AGE(エイジ)だろうと不可能だっ!!

・・・・なら、まさか・・・・」

 

「・・・・” アラガミ化 ”、したのか・・・・?」

 

恐る恐るに、認めることすら拒むように、ルルが呟く。

 

――――それは、”神機使い(ゴッドイーター)”の、最悪の末路。

制御を失った神機が、偏食因子を越えて、神機使いを”捕喰”する。

更には、使い手と神機の支配関係も失われ、肥大したオラクル細胞の(かたまり)・・・・即ち、”アラガミ”と化す。

今、クリサンセマムのクルー達を脅かす存在と、()()()()へと()ちるのである。

そして、通常の6倍近い”力”を暴走させる神機の偏食場パルスが、通信回線どころか灰嵐にまで影響を与えている現状も、容易に予測が着けられた。

 

「・・・・冗談じゃ、ねぇぞ!!??

なら、ジェットはどうなるんだよっ!!!!

なぁ、アインさん!?

こういう時の為の、ゲルギヤシステムじゃないのかよ!!??」

 

焦るジークは、通信機へと怒鳴りつけた。

 

しかし、その向こうのアインは、ただ重苦しい沈黙を返すのみだった。

 

アインだけではなかった。

 

誰しもが、沈黙を以てその答えを(しめ)さざるを得なかった。

 

「 おとさんは、だいじょぶですっ !!」

 

「フィム・・・・っ」

 

「おとさん、ゆったから!!

みんな、なかないっ!!

だから、おとさんは・・・・だから――――」

 

逆巻(さかま)く灰嵐を見上げ、必死に叫ぶフィムを、ルルは切なく抱き締めた。

 

そうして、せめて目の前の現実から、無垢な願いを遮り、守りたかった。

 

「・・・・何も出来ないのか。

”私達”(ハウンドスクワッド)は・・・・ここで、終わりなのか・・・・」

 

映像に映る灰嵐の活性化は、助けに向かうどころか、もはや何者も寄せ付けないほどだった。

 

仲間の命運を喰い尽くし、それを救いたいという想いをも(はば)む邪悪な境界線へ、ルルは苦渋(くじゅう)の眼差しを投げつけた。

 

「・・・・1つ、あるとするならば・・・・それは、”決断”することだわ」

 

押し殺したようなイルダの声が、絶望に沈んだブリッジにふと、呟かれていた。

 

「――――あと、”5分”。

あと5分以内に、何かしらの”突破口”が見出(みいだ)せない場合。

我々は・・・・この場を直ちに離脱するわ」

 

淡々とそう言い放ったイルダに、ユウゴが信じ難いように息を呑み、そして荒々しく詰め寄る。

 

「イルダ、お前っ!!

ジェット達を見捨てるのかよ!!??

出来るはずがないっ!!!!

アイツなら出来ると信じると、お前もっ――――」

 

そんな、()()()()()()のユウゴの憤慨(ふんがい)を、イルダは力一杯(ちからいっぱい)にコンソールを叩き、黙らせていた。

 

「・・・・信じればこそ、ギリギリまで待つのよ。

けれど、同時に・・・・私達までもが共斃(ともだお)れに終わる事を、彼は望まないわ。

だから、これは、感情論()()で踏み留まれる・・・・その、”限界”なのよ・・・・っ!!!!」

 

同じ故郷(ペニーウォート)の仲間であるユウゴとジークは、打ちのめされたように、よろめいた。

 

フィムの咽び泣く声以外、ブリッジは静まり返っていた。

 

すると、やがて其処(そこ)へ、リカルドからの通信が(さしはさ)まれた。

 

<俺は、オーナーの決断に従うまでです。

クリサンセマムの航海を、其処へ集った人々を、失わせる訳には行かない。

先頭だろうと、殿(しんがり)だろうと、いつでも飛び込んでみせますよ>

 

誤魔化しようなど無く、今この場が、最後の一線だった。

 

此処を越えれば、全てが終わる。

 

何もかもを喪失してしまう。

 

「・・・・ただ、信じるしか無い、ってのか。

・・・・クソ、ったれ・・・・。

俺は・・・・まだ、何か、可能性を・・・・っ!!」

 

ユウゴは、苦悶と共に頭を抱える。

 

無策では、留まれすらしない。

 

だが、クリサンセマムにはもう、何の手段も残っていない。

 

完全な手詰まりに陥った苦悩と絶望の中、ブリッジ下方のカミルは、血が滲むほどに拳を握り締め、灰嵐を睨みあげていた。

 

「・・・・ふざけんな。

オレ達に、さんざん偉そうに言って・・・・そのザマなのかよ・・・・っ」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

――――もはや、人間の割って入る域を越えた荒神(アラガミ)同士の死闘を前に、ユリハは悄然(しょうぜん)として神機を下ろし、呟く他なかった。

 

 

 

「これが、限界なの・・・・!?

現実は・・・・彼ですら・・・・っ!!」

 

「 まだっ !!!!」

 

クレアは、悲鳴のような声で拒んでいた。

 

アラガミに触発された灰域濃度(かいいきのうど)の上昇は、普通の神機使い(ゴッドイーター)である彼女にとって、猛毒に浸かるようなものである。

 

顔を歪め、咳き込みながら、しかしそれでもクレアは一心に、”ジェット”の戦いから目を離そうとしない。

 

「”信じろ”って、言ったからっ!!

”後は頼む”、って言ったからっ!!

だから、戦いが終わったらすぐに治療しないと!!!!

私達が、ジェットを助けてあげないとっ!!!!」

 

「・・・・無理を言わないで、クレア!!

”アラガミ化”した神機使いは、何をするか分からない!!

次は、私達へ襲いかかるかもしれないのよっ!?

そうすれば・・・・彼の”犠牲”が無駄になってしまうわっ!!」

 

ユリハは、藻掻(もが)くクレアを羽交い締めにしようとする。

 

しかしクレアは強く抗い、決して退こうとはしなかった。

 

「犠牲なんかじゃないっ!!!!

ジェットは、まだ戦ってるっ!!

だから、私も退かない!!

・・・・生きて、皆で帰るって、信じるよっ!!!!」

 

 

 

<――――(ツブ)ス!!!!

テメェッ、は・・・・っ・・・・ ぐウゥオぁぁぁぁ !!!!!>

 

 

 

一途(いちず)に、(かたく)なに信じる少女が、どれほど声を上げようと、答えるのはただ(あら)ぶる神々(かみがみ)の怒号のみ。

 

”ジェット”の振るう神機が、”魔神(スサノオ)”を抉る。

 

魔神(スサノオ)”の放つ極光が、”ジェット”を地形ごと吹き飛ばす。

 

恐ろしい咆哮をも掻き消して、凄絶(せいぜつ)な破壊音が()ぜり、轟く。

 

もはや、(ヒト)の手の届きよう無い場所で、運命は()()なく転げ始めていた。

 

その光景を前にしては、限界の向こう側への呼びかけなど、ただの幼稚(ようち)我儘(わがまま)でしか無かった。

 

血に飢えた獣に、言葉など通じないように。

 

荒ぶる神は、人の心など一顧(いっこ)だにしないように。

 

 

 

「・・・・私は・・・・未来は・・・・誰かの犠牲が無ければ、開かれない。

・・・・そういうことなの・・・・っ?」

 

 

 

もう、数え切れないほどに大切なものを喪ってきたユリハは、今また遺されようとしていた。

 

(ひと)りでも、なにがなんでも生き延びると決めていた。

 

けれど、何度と無く救ってくれた彼を、見捨てたくなど無かった。

 

そんな想いも、突きつけられる矛盾によって再び砕かれ、消えない(きず)と刻まれようとしていると、哀しく悟っていた。

 

 

 

―――― ユリハ ――――

 

 

 

されど、その時だった。

 

その痛みへと優しく、温かく触れる”懐かしい声”を()()()、ユリハは遠く背後へと振り向いていた。

 

 

 

「・・・・シャロン・・・・?」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「――――おとさん、クレア!!!!

かえってこないと、ぃやぁっ!!!!」

 

 

 

そして、遠く離れた戦場で、ユリハが何かを感じ取った、その瞬間。

 

フィムが泣き叫び、絶望に埋め尽くされるクリサンセマムのブリッジに、聞き覚えのない少女の声が響いたのは、全く同時だった。

 

「ダメ。

それじゃ、とどかない」

 

振り返る皆の前に、幼く、異様な少女が立っていた。

 

無機質なまでに白い肌と、感情の薄い声と、表情。

 

(ほの)かに赤く光る瞳で、同じ顔立ちのフィムを真っ直ぐに見て、明確な言葉を発してみせた。

 

(すなわ)ち、一連の事態の最大の”被害者”であり、言ってしまえば”元凶”でもある、ヒト型アラガミの少女だったのだ。

 

<まさか、シャロンだと!?

拘束を抜け出したのか・・・・!?>

 

ブリッジからの声を聞き、珍しく焦りの色を表すアイン。

 

すると、そんな彼への返答は、その耳朶(じだ)ではなく”脳裏(のうり)”へと届けられていた。

 

―――― ワタシをしばったのは、オマエだろ?

 あれじゃ、すぐにはずせる。

 ・・・・イタくはなかったけど ――――

 

アインは目を見開き、言葉を詰まらせていた。

 

ブリッジにいるシャロンの声が、機関室にいるアインの()()へと、即時に語りかけられていた。

 

それは即ち、”感応波(かんのうは)による交信”に他ならなかった。

 

やがて、誰もが困惑して硬直しているのを余所に、シャロンは静かにフィムへと歩み寄った。

 

「あなたは・・・・おとさんに、ガーってした、ヒト」

 

「・・・・ユリハが、あそこにいる。

それに、あのヒトも」

 

「・・・・でも、でもねっ。

おとさん、へんじしてくれない・・・・っ。

ずっと、うわー、って・・・・!!

おとさんなのに、おとさんじゃない、みたい・・・・!!」

 

「アラガミが、じゃましてるから。

なら、()()でよべばいい」

 

対象的な色合いの少女が、静かに声を交わす。

 

しゃくりあげながら訴えるフィムへ、シャロンは事も無げに答え、自身の(あたま)を指差していた。

 

「ワタシ・・・・ローレライにつながれてるとき、ユリハをかんがえてた。

ユリハは、それにこたえれた。

だから、オマエも”(ココ)”で、だいじなヒトをよべばいい」

 

「・・・・フィム、やる!!!!

()()で、おとさんに、かえってきて、って、いうっ!!!!」

 

「ワタシも、()()()()

・・・・あのヒトも、ユリハといっしょによんでくれたから。

ここにいるヒトたちは、()()()とはちがうから。

なにがちがうか、よくわからない。

・・・・けど、しりたい。

だから、いっしょに”(ココ)”で、よぶ」

 

ひとしきり、2人の不思議な会話が続いた。

 

それがどうやら結論に至った後、フィムはルルの抱擁(ほうよう)から飛び出し、ジェットのいる方を見やる。

 

そしてシャロンも、穏やかにその隣に並び立ち、2人は揃って灰嵐のある方角を向いた。

 

「――――なぁ、シャロン。

聞かせてくれないか。

お前が言うのは、感応波(かんのうは)による共鳴現象(きょうめいげんしょう)・・・・”エンゲージ”に近いこと、じゃないのか?

それなら、俺達にも手伝わせて欲しい」

 

そして、そんな背中へと突如、ユウゴが(おもむ)ろに歩み寄り、(ひざまず)いていた。

 

振り返り、獰猛なまでにそれを睨みつけるシャロン。

 

敵意も(あらわ)なその姿へ、身構えもせずに向き合うユウゴに、視線が集まる。

 

「皆も、聞いてくれないか。

・・・・シャロンが言っているのは、おそらく感応波による交信、らしい。

そして、彼女の()()は、まるで”ローレライ”の効果のように強力だ。

だったら、もしかしたら、灰嵐を越えて、ジェット達を支援できるかもしれない」

 

誰もが驚き、戸惑い、強大な灰嵐を見上げていた。

 

簡素な通信波すらも断絶させる恐ろしい障害を、”(ヒト)(おも)い”が越えられるなどと、にわかには信じがたかった。

 

「そんな、こと・・・・出来るとは思えないわ。

そもそも、今の私達では、状況も設備もまるで異なっているのよ」

 

()()()()、なんだろ?

試す価値はある。

それに・・・・もしも今、ジェットの神機が制御し切れなくなっているのだとしたら。

俺達の感応波の干渉で、抑制させられるかもしれない。

それこそ、()()()()()()()()()()()

 

あまりに飛躍したユウゴの論理だったが、ややあって通信機から、興奮した声が返ってくる。

 

機関室のキースだった。

 

<それ・・・・出来るかもしれないよ、先輩っ!!!!

感応波レーダーの指向性を応用して、皆の感応波を高出力化して照射すれば、エンゲージの非接触共鳴現象(ひせっしょくきょうめいげんしょう)に近い状態を作り出せるかもしれない!!!!>

 

「・・・・失敗すれば、それまでだ。

だが、可能性があるのなら、俺はやりたい。

仲間が開いた活路(みち)を、支えてやる為にだ。

出来る出来ないじゃない、()()()()()()()()()()んだ!!」

 

(はなは)だ馬鹿げた試みとしか、言えないのかも知れない。

 

此処から(はる)か先の、生死すらも不明な仲間の為、ただただ祈ってみようと()うのだから。

 

だが、それでも、大切な人を救えるかも知れない可能性へ、すかさず声を上げ、続く者がいる。

 

「何、勝手に始めようとしてんだよ!!

当然、俺らだってやるに決まってんだろ!?」

 

「私でも、多少の足しにはなるだろう。

あの向こうにいるのは、此処に無くてはならない、私達の・・・・”家族”、なのだから」

 

<”エンゲージ”のことなら、AGE(エイジ)の面々に任せよう。

上手く行ったなら、現場への送迎を任せろ。

構いませんよね、オーナー?>

 

ジーク、ルル、リカルドが、勇ましく答える。

 

彼らもまた、迷うこと無く同じ気持ちであり、そして同じように戦う事をまだ諦めていなかった。

 

「リカルド・・・・」

 

<まだ、何も(うしな)われてはいないんです。

限界ギリギリの、瀬戸際だろうと、まだ足掻けるんです。

それは、貴方の束ねてきた、”人の意志の力”ですよ>

 

「・・・・!!」

 

イルダへと優しく、しかし確信を以て語りかけるリカルド。

 

今、此処で、大切な人の為に挑もうとする人々とは、確かに、この混迷の時代にイルダが信じた者達だった。

 

<ソフト面の調整は、俺がやろう。

”昔取った杵柄(きねづか)”で、似たような技術を知っている>

 

「たぶん、狭域探査(きょういきたんさ)と勝手は同じ筈ですよね!!

座標設定と誘導は、任せて下さい!!」

 

「・・・・オレも、やるよ」

 

アイン、エイミー、そしてカミルまでもが名乗り出る。

 

彼も、彼なりの覚悟を秘めた様子で、シャロンへ躊躇(ちゅうちょ)なく歩み寄った。

 

「”アイツ”だけじゃない。

オレも、オレに出来る事でユリハを守るんだ。

怖気づいたりなんか、しない。

だから、教えてくれ、シャロン」

 

「俺からも頼む、シャロン!!

ジェットは、こんなところでくたばる男じゃない。

だが、そう信じてるだけでは駄目なんだ。

俺達の未来は、俺達で掴み取る。

アイツがそう信じるなら、俺達も(こた)えるんだ!!

だから、頼むっ!!」

 

必死に訴えかけるユウゴへ、シャロンは張り詰めた態度を向け続けていた。

 

だが、やがて彼女は、その眼をふと正面へと戻し、呟いていた。

 

「・・・・アイツとおなじ、おおきいヒト。

でも、()()()()ぜんぜんちがう。

・・・・なら、だいじょうぶ。

また、あえる・・・・ユリハと・・・・」

 

徐ろに目を閉じ、深く、大きく呼吸するシャロン。

 

その途端、その身体が黄金の燐光(りんこう)を纏い、直後にそれは激しい発光へと移り変わっていく。

 

そして、輝きに呼応し、フィムの身体にもまた、エンゲージのような(うらら)らかな光耀(こうよう)を帯びていった。

 

「おとさん、クレア!!!!

フィム、がんばるよっ!!!!

みんなも、シャロンも!!!!

いっぱい、がんばってっ、よぶからぁ~!!!!」

 

 

 

――――黄金の輝きは、ブリッジを埋め尽くす程に強まる。

 

目も(くら)む、何もかもを焼き焦がす熱ではなく、暖かく身体を包む陽光のようだった。

 

その優しさは、一般人であるイルダにも分かるほどだった。

 

 

 

「・・・・温かい。

これが、皆の心。

・・・・想う、力・・・・――――」

 

 

 

今、皆の感応波(こころ)は、1つ。

 

生まれも、育ちも、種族すらも違う人々(ヒトびと)が、同じ未来を望む、という小さな奇跡。

 

それは、立ちはだかる絶望を越え、悲痛と犠牲の結末を覆せるのか。

 

 

 

――――果たして、その答えは、逆巻く魔境を越えた先の、”神”のみぞ知るのだった。

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 

 




・Tips.15

「リノン・ペニーウォート」

享年 17
ボイスタイプ #01

神機タイプ
ショートソード 「ベナンダンテ」
アサルト 「レシェフ強襲型 弐」
バックラー 「エリプス甲」

衣装
上衣・下衣 「F製支給戦闘服」

かつて、ミナト・”ペニーウォート”の猟犬部隊(ハウンドスクワッド)に所属していたAGE。
長い銀髪と青い目が特徴の可憐(かれん)な少女で、牢獄に監禁された過酷極まりない暮らしにあっても、明朗快活(めいろうかいかつ)で温和な性格。
神機適合率こそ平凡だが、戦闘技能に優れ、人望も(あつ)い、部隊の中核戦力であった。
また、年少のAGE候補生達を特に世話し、自分の食料を分け与えたりは日常茶飯事だったという。
本人の言では、AGEになる前に実の弟を喪っており、その無念が行動の原動力であったようだ。
最期の任務にて、想定外の大型アラガミから仲間を逃がすべく、単独で戦闘し、これと相打ちになる。
その遺骸と神機とを回収したのは、当時AGEとして活動し始めたばかりの、ジェット・ペニーウォートである。
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