GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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――――身体が、動かせない。

眠っているのとも違うし、たまにある”金縛り”、ってのとも少し違う。

頭も、さっぱり働かない。

確かに、俺は賢い方じゃないが、そういう事でも無さそうだ。

”ハウンド1”として、身体の一部に感じるぐらいに振り回してきた、神機(じんき)の感覚。

いつもは、はっきり別物(べつもの)だと思えるその存在感、ってのが、異様に騒いで、暴れ回っている感じがする。

こうして頭で考えることも、身体まで伝わらずに何処かへ消える。

このままじゃ、やばい。

いや・・・・もう、取り返しの付かない事が起こっちまってる。

だってのに、動けもしないまま、嫌な寒さや、変に痺れる身体の重さだけは、はっきり分かる。

・・・・この感じは、そう。

”リノン”が死んだ時と、似てる。

昔の事、って言っちまうには、ダサくて、未だに後悔塗れで。

吐き気がしてくるほどに真っ赤な、あの夕暮れ時に。



――――気がついたら孤児だった”オレ”は、”ペニーウォート”の奴らに拾われて、牢獄にぶち込まれた。

有無を言わさず、AGE(エイジ)()()()、そしてユウゴやジークと、一緒に育った。

其処(そこ)には当然、それよりも先や、後のAGEもいた。



――――俺はイアンだ、よろしくな。
なんだ、名前を覚えていないのか?
それなら・・・・君は、”ジェット”だ。
黒い髪に、黒い眼のチビ助、だからな――――



――――もう、素直じゃないよね、ジェットって。
それに、ちっちゃいくせに、あんまり甘えてきたりもしないし。
・・・・でもそういう所、ちょっと私の弟に、似てるかも――――



その中でも、リノンは、いつも年上風を吹かせながら、牢獄のチビ達を生き延びさせるために、体を張っていた。

オレの事も、いつだってガキ扱いで、やたらと世話を焼きたがった。

戦いも上手かったが、向いているとは思えない女だった。

だが、毎日のようにペニーウォートの官吏共(かんりども)(なじ)られたり、過酷な任務に傷つきながら、それでもオレを見て嬉しそうにしていた。



――――だって、私もそうだったんだ。
此処で、皆に助けてもらって、生かしてもらってた。
だから、君達の為に戦うんだ。
私はジェットが・・・・”家族”の皆が、大好きだからね――――



なら、オレも、そうしなきゃならねぇ。

ようやっと、神機を一丁前に振れるようになった年頃に、そう決めた。

・・・・だが、満足に出来ないまま、一番の使い手だったイアンが死んだ。

それからも、上も下も関係なく、次々に死んでいった。

遺影代わりの、仏頂面な登録名簿写真の下に、少ない遺品を集めて、皆が泣いて。

そんな毎日が、続いた。



――――そして、リノンも死んだ。

オレの目の前で、死んだ。

誰が悪いとかじゃない。

何度目かも知らないしんどい戦場で、アラガミと刺し違えた。

オレは、何も出来なかった。

やれることは、幾らでもあった筈だ。

なのに、身体が動かなかった。

疲れて、未熟で、腰抜けだったオレは、血を流して、見る見る弱っていくリノンを抱き上げてやるくらいしか出来なかった。



――――ごめ、ん・・・・ジェ、ット・・・・。
お、ねが・・・・・・・・君、と・・・・わ、た・・・・な、ぃ・・・・っ。
もう・・・・一緒、に・・・・っ――――



リノンの言葉は、(おも)いは、分からず(じま)いだ。

(のこ)された皆は、ずっと泣いていた。

そして、オレはより一層、強くなろうとした。

ミナトで一番のAGEになって、”ハウンド1”を継いだ。

此処に出来た、俺の”家族”を全員、この手で守れるように強くなった。



――――それでも、リノンは二度と帰ってこない。

あの時の顔が、目に焼き付いている。

あの(うしな)う瞬間を、未だに腕が憶えている。

ビビって、足掻いて、それでもオレは、あの涙を止めてやることも出来なかった。

・・・・所詮、オレに出来ることは、大して変わってないのかもしれない。

あの時、あの場と。

現在(いま)も、何も。



―――― おとさんっ !!!! ――――



そうやって、不貞腐(ふてくさ)れてるヒマなんて無い。

そう言わんばかりの、強い光と、声とが、いつの間にか差し込んできていた。

あの日の、灰域の夕暮れとは違う、温かい光だ。

その向こうから、たくさんの声が聞こえる。

・・・・なんだよ、皆して今にも泣きそうな声出しやがって。

ああ、分かってる。

あれは、昔の”俺”と同じ泣きべそだ、ってな。



――――めのまえを、ミて。
だいじなヒトを、なかせないで――――



――――でも、そうか。

だから、リノンはあの時、泣いてたのか。

今更、分かった気がする。

どんなにつらくても、弱音の1つも吐かないリノンが、あの時、泣いていた。

もっと生きたい、死にたくないって、叫びたがるようだった。

・・・・だが、それは、自分の為じゃない。

大切な家族を、置いていくこと。

俺達の(そば)に、居てやれないこと。

それで悲しませてしまうことが、きっとなにより悲しくて、悔しかったんだろう。

リノンは、そういう優しい奴だった。



――――やってみせろよ。
ユリハを守って、生きてみせろよ・・・・”ジェット”っ!!――――



・・・・時々、思う。

もしも、”天国”とか言う、くたばっちまった奴の行き着く場所が、()るんなら。

そして、ついでに俺も行けるもんなら。

俺は、其処で会える皆に、胸を張って言わなきゃならない。

俺も、皆と同じようにやりきったぜ、ってな。



――――だが・・・・それを誇れるようになるには、まだ早い。

今、俺が行くべきなのは、其処じゃない。

だから、あの馬鹿でかい化け物にも、俺の身体に食い込んだアラガミにも、負けるわけにはいかねぇ。

・・・・なによりも。

俺は、俺達からもう、何も奪わせねぇ。

大切な人達も、そして俺自身も、何一つ渡さねぇ。



――――ジェット!!!!
負けちゃ、駄目!!!!
・・・・生きて、ジェット!!!!――――



夜明けみたいに安心する光が、俺を照らす。

その中に、ふと()()が座っているのを見つけた。

女の子、と言うには、まだ少し幼すぎる見た目だ。

ようやく歩けるようになったばかり、ってくらいか。

だが、その子は明らかに不機嫌そうにしながら、俺にビシ、と小さい指を突きつけた。

<オマエタチ、ウルサイ!!>

「・・・・あん?」

<ソレニ、オマエ。
チイサイシ、ヨワイ>

「・・・・そりゃ悪かったな」

まったく、顔形はフィムにそっくりだってのに、とんだ口の悪さだ。

誰に似たんだかな。

<――――ダカラ、()()()()()()()()、ッテナ>

と、チビ助はそう言って、ニヤッ、とふてぶてしく笑った。

なんとも不敵で、なんとなく見覚えのある笑い方だと、俺には思えた。





#12 >> 「” God Speed × Onslaught ”」

 

 

 

「―――― ジェットぉ っ!!!!」

 

クレアは、喉も枯れんばかりに叫んだ。

 

哀れな(すす)り泣きなど振り切った、心底(しんそこ)からの呼び声だった。

 

今、彼女の体は黄金の燐光(りんこう)に包まれ、異形の荒神(アラガミ)と化した”ジェット”と、一筋の光条を通して繋ぎ合っている。

 

そして、それはクレアだけでなく、(かたわ)らのユリハも。

 

なによりも、2人の比ではない巨大な光の柱が、逆巻(さかま)灰嵐(かいらん)を突き破り、ジェットの(もと)にまで(つな)がっていたのだ。

 

<ち、超高出力の感応波っ・・・・”エンゲージ”が、クリサンセマムと灰嵐中心部とで確立!!??

ハウンドスクワッドとの交信、再開!!!!

ジェットさん、クレアさん、ユリハさんのバイタルデータ、オンラインっ!!!!

み、皆・・・・生きていますっ!!!!>

 

神話の如き戦いの最中、突如として飛び込んできた黄金の奔流。

 

その莫大な感応波は、戦い続けるジェットと、慟哭(どうこく)するクレア、ユリハ達を繋いだ。

 

そして、断絶されていたデータリンクと、クリサンセマムの皆の声までもを此処(ここ)へ導き、更には、荒れ狂っていた喰灰(しょくかい)をも退(しりぞ)かせる、光の結界を生じさせたのだった。

 

「分かるよね、ジェット!!??

これが、私達の”答え”だよ!!!!

貴方を助けたいっていう、皆の心だよ!!!!

私もっ!!

貴方を、信じてるよっ!!!!」

 

< おとさん !!!!

 がんばれ、がんばれぇーっ !!!!>

 

 

 

<――――ガッ、アァッ・・・・グゥ・・・・っ、お・・・・れ、は・・・・ッ!!!!>

 

 

 

”エンゲージ”の輝きの中、ジェットは苦しげに唸り、膝をついていた。

 

彼を追い詰めるのでなく、その身を(むさぼ)る凶暴な意思から守り、救おうとする光に満たされようとしていた。

 

この地球(せかい)を蝕む喰灰すらをも退かす、強い感応波(おもい)に、ジェットの全身を覆う神機の牙は、弱々しく縮み上がっていた。

 

<ガア、ァッ・・・・ハ、っはは・・・・!!

待って、タ、ぜ・・・・(みんな)ッ・・・・ッ!!!!>

 

<ウゥ、オ”オ”オ”オ”・・・・アァァァァ・・・・ッ!!??>

 

その現象から干渉され、”魔神(スサノオ)”もまた苦悶の声を上げていた。

 

だが、その程度でおめおめと引き下がるような相手ではない。

 

格段に動きを鈍らせながらも、しかし感応波の方向へ極大剣(ごくだいけん)を構え、凄まじいオラクルエネルギーを収束させていく。

 

全力の破壊光が放たれれば、その先のクリサンセマムはただでは済まないだろう。

 

それでも、まるでその窮地をも押し返さんとするように、”ハウンドスクワッド(なかまたち)”の一念は、尚更に強まった。

 

<俺達は、夢を追いかけるんだ!!

その先までも、どこまでも、届かせるんだっ!!

お前がいるから、出来るんだぞっ!!!!>

 

<俺は、リーダーなんてガラじゃねぇんだよ!!

バカっぽいくせに、どんなヤバい時も絶対にぶち破れる、ジェット(おまえ)と一緒に暴れてるのが、性に合ってんだって!!>

 

<私達の先導は、お前なんだ!!

私が知らなかった場所でも、ジェットがいるから、進んでいけるっ。

誰よりも勇敢で、優しい、お前だけなんだっ!!>

 

通信機から、聞こえて来る。

 

(いな)、奥底の意識にまでも直接響く、ユウゴ、ジーク、ルルの呼び声。

 

後ろで見ているしかなかったユリハとクレアの声もまた、(おと)を、距離を越えて、必ずジェットにまで届いているはずだった。

 

「きっとこれが、貴方の言った”逆転の好機”なんだわ!!

皆の心が、貴方に向かっているから!!

・・・・そう、信じて良いって!!

もう、諦めないで良いって、私に見せてっ!!!!」

 

「だから、(こた)えてっ!!

”アラガミ”なんかに負けちゃ、ダメ!!!!

―――― 生きて、ジェットぉっ !!!!」

 

 

 

風と灰の吹き荒ぶ地獄の底に、感応波(こころ)の光が煌々(こうこう)(とも)る。

 

そして、その中心に()した、(ヒト)の魂を揺るがし、呼び醒まさせる。

 

まるで、燃え尽きた灰燼(かいじん)の奥底に、熾火(おきび)がもう一度、燃え上がるように。

 

 

 

 

――――・・・・ああ、分かるぜ。

 

俺は、俺だ。

 

皆が呼んでくれるから、今、俺は此処にいる。

 

身体中が痛ぇし、凄い腹も減ってるが、俺は神機(アラガミ)に喰われないまま残っている。

 

・・・・それなら、目の前にいる真っ黒な()()()は、何だ?

 

俺達を阻み、苦しめる奴。

 

大事な人(リノン)”を、奪った奴。

 

身勝手に、誰かを喰い物にしようとする奴。

 

それが誰かを悲しませると、考えすらしない奴。

 

そして、今。

 

俺までもが()()になったら、皆はもっと泣くんだろう。

 

ユリハを、カミルを裏切って、がっかりさせるんだろう。

 

フィムも、クレアも、泣いて、怒って、悲しむだろう。

 

 

 

――――なら、俺が()ってやる――――

 

 

 

もう何も、お前には奪わせない。

 

俺は、”俺達”で、()()を超えて行く。

 

”二度目”は無い。

 

負けて、(たま)るか。

 

 

 

「―――― 俺は、”アラガミ(おまえ)”には、ならねぇ !!!!」

 

 

 

そして、刹那。

 

灰嵐の荒野を、咆哮と閃光が斬り裂いた。

 

漂う喰灰を一溜まりもなく蹴散らし、その中心からは凄まじい神風(かみかぜ)が吹き荒ぶ。

 

(おぞ)ましい巨大な魔神すら、悲鳴と共に(ふる)(おのの)かせる。

 

そして、大切な仲間達からの願いへ応えるような、強大な極光(オーロラ)が立ち上がる。

 

黄金、漆黒、そして紅蓮。

 

まるでそれは、闇を退(しりぞ)かす燃え盛る大火(たいか)、そのもの。

 

その中心に仁王立(におうだ)つ人影を(むしば)んでいた捕喰形態(プレデターフォーム)も、急速に剥がれ落ちて行く。

 

<は、ハウンド1・・・・GELGYA(ゲルギヤ)システム、”超稼働状態(オーバードライブ)”!?

神機の偏食場(へんしょくば)反転(はんてん)、・・・・・解放出力、な、” 756% ”・・・・っ!!!!

そんな・・・・こんな、事って・・・・!!??>

 

エイミーが、その未曾有の現象をどうにか伝えようとする間にも、その身を(おか)していた”アラガミ化”は瞬く間に打ち破られていく。

 

そして、黒く(ただ)れた(けがれ)が除かれた跡に見えるのは、白熱(はくねつ)血潮(ちしお)のような輝きが流れる”鎧”。

 

さながら漆黒の騎士のように変化したその勇姿とは、彼の大いなる”義憤”が、荒ぶる神をも(くだ)した証。

 

背に生えた鋭利な翼と、そこに(たか)ぶる、黄金のオラクルエネルギーの奔流。

 

気高い光耀(こうよう)と裏腹に、激憤(げきふん)(いたり)のような真紅の火花が、全身に(ほとばし)る。

 

その手に握る俊転二刀(バイティングエッジ)も、黒ずんだ牙のような甲殻の下から、研ぎ澄まされた黄金の結晶が、(やいば)と現れ出る。

 

<おいジェット、聞こえるか!!??>

 

<ユリハっ!!!!

無事なのかよ!!??>

 

<クレア!?

そちらはいったい、どうなっているのっ!?>

 

逆巻く灰嵐の中にもはっきりと見える極光に、次々と安否を尋ねる仲間達。

 

だが、間近で()()を目にするクレアやユリハですら、答える言葉を見つけられないでいた。

 

「・・・・分からない、わ。

でも・・・・でも・・・・っ」

 

「ジェットは・・・・もう・・・・っ」

 

 

 

――――降臨(こうりん)、とでも言うべき瞬間を見届け、2人は我知らず涙を流し始めていた。

 

悲嘆などでは、有り得ない。

 

全てを覆す、絶大な存在への止め処ない畏怖。

 

そして、大いなる希望となって再起した魂への、歓喜の涙だった。

 

 

 

<クレア、おとさんっ!!>

 

「もう・・・・大丈夫だよ、フィム。

ジェットは・・・・勝つから・・・・っ」

 

 

 

――――安堵と信頼に、クレアが切なく微笑んで見つめる、先。

 

涙に滲んだ視界の向こう、奇跡の光の中に立ち上がる”ジェット”。

 

その姿は、アラガミめいた魔性の甲冑(かっちゅう)に覆われながら、確かに(ヒト)として()る。

 

正しく、限界突破。

 

AGE(エイジ)を超え、”神機激臨解放(レイジバースト)”を越えて、荒ぶる神すら()()せる力を(あらわ)した”鬼神”は、勇壮に、堂々と、白熱の闘気を帯びた神機を(かか)げる。

 

 

 

<「 乾坤一擲(けんこんいってき)、ッてな !!!!

さあ・・・・ (はら)(くく)りなァッ !!!!」>

 

 

 

気炎を上げ、二刀を合体させて銃形態(ガンフォーム)へ変形させた、刹那。

 

神機が大きく(うごめ)き、黒い捕喰形態(プレデターフォーム)が同時に隆起し、全体を包み込む。

 

その(アギト)の奥に、紅の光が脈打つ”巨大砲身”が生まれ、絶大な光が収束する。

 

――カーネイジ――

 

そして、魔神(スサノオ)が今しも、”エンゲージ”の先へ破壊光を照射せんとした、その瞬間。

 

()()()()()()()()、ジェットの巨大砲が爆轟を放ち、閃光が魔神を撃ち抜く。

 

竜頭の側面を(えぐ)り飛ばされ、たたらを踏む魔神に、ジェットは飛びかかる。

 

紅蓮と黄金の(から)まる、神速(しんそく)の疾走。

 

対して、魔神は骸腕(むくろうで)からのエネルギーの翼を振り払う。

 

だが、ジェットはそれすらも稲妻のような鋭角軌道で(かわ)し、巨大砲型の捕喰形態(プレデターフォーム)を再び掲げる。

 

――シュトルム――

 

直後、それは大きく()()し、背部に生じた噴気孔から、凄まじい推進炎を噴射。

 

超加速で突進し、魔神の脚の1本へと噛みつき、引き裂いた。

 

<ヴアォォォォッ!?>

 

突撃型の捕喰形態(プレデターフォーム)を分離させ、遂に二刀を手にするジェット。

 

烈火の気迫で、結晶の刃を振るい、怒涛の連斬を叩き込む。

 

その度、斬撃の軌跡に白熱のオラクルエネルギーが炸裂し、魔神の血肉を爆ぜ飛ばす。

 

ジェットのその疾さ、強さ、そして輝きは、全てが先程までと異次元(いじげん)の領域に至っていた。

 

凄まじい猛攻に身悶える魔神だが、極大剣を構えさせ、ブーストを起動。

 

破壊的な猛突進を行い、纏わりつく”脅威”を振り払った。

 

続け様、大きく距離を取ったその場所から、身体を(ねじ)り上げ、極大剣を振り上げる。

 

その剣身は勿論、豪腕の全体に光の牙を生え揃わせた、大回転攻撃の予兆。

 

だが、もはや()()()()では、ジェットを止められもしない。

 

―― ベンディガー ――

 

ジェットが掲げた神機が、またしても異形の捕喰形態(プレデターフォーム)を繰り出す。

 

猛牛のような双角を生やした捕喰口が雄叫(おたけ)びを上げ、真っ向から魔神へ突っ込む。

 

大鎌で薙ぎ払うような回転攻撃が迫り、しかしその猛進(もうしん)はものともせずに弾き上げ、突き破る。

 

強靭極まるその顎で、魔神の胴鎧に喰らいつき、強烈に噛み砕いていた。

 

「凄まじい威力、だわ。

あれは、捕喰攻撃・・・・なの?」

 

まるでアラガミそのもののように動き、敵へ喰らいつく様に、ユリハとクレアは顔を見合わせるばかりだった。

 

――――されど、後方で、自在に変動する神機の状態を観測するアインには、その正体が分かっていた。

 

”プレデタースタイル”。

 

かつて、特別に調整された神機のみが対応していた、捕喰形態(プレデターフォーム)の追加制御機構。

 

だが、”厄災”を経て再現不可能となった今では、システムの一助(いちじょ)とするべく組み込んだ、データの残骸に過ぎない筈だった。

 

そして、(すなわ)ち。

 

今のジェットは、神機制御機構による”最適化”、”超活性化”、”戦術的な形態変化”と言う、GELGYAシステムが(よう)する性能の”()()”を同時に発揮していた。

 

 

 

<――――グオォア”ア”ア”ア”ッ!!!!>

 

未だかつてない程の連撃(れんげき)を受ける魔神は、激怒のように絶叫し、竜頭に集めた電光を解放する。

 

対するジェットが、装甲展開の構えを取った瞬間、捕喰形態(プレデターフォーム)が盾のように盛り上がって、これを防ぐ。

 

<「()()で、済むかよッ!!」>

 

瞬間、電撃を受け止めた捕喰形態(プレデターフォーム)は、上と左右へ、極めて大きく延伸(えんしん)

 

それぞれに大牙を備えたそれらが一気に(すぼ)まり、三叉(さんさ)の大顎となって魔神へと喰らいつく。

 

―― カガチ ――

 

力強く噛ませた大顎を引き込み、そのまま強引に魔神を引き倒す。

 

姿勢の崩れた魔神の上体へ、ジェットは一気に肉薄し、素早い集中から、獅子奮迅(ししふんじん)連撃(れんげき)を叩き込む。

 

<「この機は逃さねェ!!」>

 

続け様、突進ざまの強烈な二刀薙(にとうな)(はら)いから、捕喰攻撃への連携(コンボ)

 

――太刀牙(たちきば)――

 

先端から、長大な爪のような捕喰形態(プレデターフォーム)が伸び、大剣の一閃のように斬り払う。

 

<「止まんねェぞッ!!」>

 

更に、気迫と共に、捕喰形態(プレデターフォーム)が拡大。

 

――翔鷹(しょうよう)――

 

鋭く飛び上がり、猛禽(もうきん)(くちばし)のような鋭い先端で、魔神の胴鎧を抉り取る。

 

空中へ舞い上がったジェットは、それでも決して攻め手を緩ませない。

 

――霞ノ扇(かすみのおうぎ)――

 

更に身を(ひるがえ)らせての二段跳躍(にだんジャンプ)の勢いを借り、捕喰形態(プレデターフォーム)を強暴に薙ぎ払って、引き裂いた。

 

 

 

――――次々に繰り出される、千変万化な神機の本性。

 

あらゆる状況から、使い手の意のままに、アラガミを喰らう。

 

「・・・・自分のこしらえた代物と言うに、何もかもが想定外、か。

だからこそ、現実は常に困難で、事実とは奇跡的なのだろう・・・・」

 

全く規格外なジェットの戦闘データを()ながら、アインは科学者としての”敗北”を味わい、独り言として吐き出していた。

 

しかしながら、その表情は悔しがるどころか満足げなものですらあった。

 

(・・・・科学は、人類の道行きを照らし出すもの。

だが、それを掲げ、勇気を持って進むのは、どこまでも(ヒト)だ。

其処(そこ)是非(ぜひ)は無く、ただ”何を望むのか”だけが、未来を変え得る。

そして、その決断を下す時。

未曾有の障害をも覆し、人々の意志を繋ぎ、新たな可能性を切り拓く者がいる)

 

思い返すその”記憶”は、アインにとって欠けがえのない日々であり、そしてもはや取り戻せない”絆”だった。

 

されど、それでも人として足掻き、生きて来たことで、こうして再び、大いなる勇気が絶望を超える瞬間に立ち会えていた。

 

そんな、己の数奇な(えにし)に、アインはふと笑い、そして紡がれた希望(きぼう)を称賛の言葉へと乗せていた。

 

「このクソッタレな世界の黄昏を斬り裂く、(きっさき)となる者。

ジェット・・・・お前もまた、時代に名を()せる、今世の英雄なのだろう」

 

 

 

<――――超大型アラガミ、オラクル反応、弱まっています!!!!

もう少し・・・・もう少し、ですよっ!!!!>

 

<おとさん!!!!!

ふぃむ、みえないけど、みてるっ!!!!

だから、がんばれぇーっ!!!!>

 

<「おうッ!!

俺は、勝つ!!!!>

 

――龍飛鳳舞(りゅうひほうぶ)――

 

薙刃形態(ていじんけいたい)に変形させ、空中からの回転突進。

 

オラクルエネルギーの二重螺旋を纏う突撃で、魔神を貫く。

 

そして、まさしく鬼神の雄叫びをあげ、着地と同時に莫大(ばくだい)な衝撃波を吹き上げるジェット。

 

文字通りに神がかった輝きと威力は、剛強な魔神の大鎧は勿論、最大の武器たる極大剣をも激しく引き裂いてみせる。

 

追い詰められていく魔神は、豪腕を振り回し、剣圧と瓦礫を撒き散らす。

 

更に、引き剥がしたジェットの退路を断たんと、身体を打ち振り、骸腕(むくろうで)を分散させて地面から尖端(せんたん)を突き出させる。

 

同時、上空に放った拡散光線も降り注ぎ、周囲一帯への飽和攻撃となる。

 

だが、まるで逃げ場の無い破壊の只中を、しかしジェットは疾風のように容易く踏み破り、そして雷霆(らいてい)のように二刀を叩きつける。

 

――双刃衝破(そうじんしょうは)――

 

痛みと怒りに、魔神はいよいよ猛り狂う。

 

巨竜頭の大顎に光が収束し、更に人形(ひとがた)が極大剣を輝かせ、骸腕(むくろうで)の光の翼も、最大に展開される。

 

切り札たる、渾身の大回転攻撃の構えに他ならない。

 

その甚大な攻撃規模は、下がっているクレアやユリハにも被害が及んでしまう。

 

だが、振り返ったジェットへ、ユリハは今までにない大きな叫び声で、訴えかけた。

 

「貴方は行ってっ!!!!

()()()を、切り拓いて!!!!

私たち皆の、願う”未来”を!!!!」

 

――――その言葉を、ジェットは一も二もなく信じ、そして(おう)、と()えて、駆けて行く。

 

この世界に吹き溜まる数多(あまた)の絶望も、”ハウンドスクワッド(なかまたち)”と共に挑むなら、恐れる(いわ)れは無い。

 

そして、今、目の前の化物が”力”を振りかざすなら、同じくただ”力”で討ち倒せば良い。

 

()()()()()()の、ジェットに似合いの、単純な話だ。

 

大切な人達が(つな)()め、導いてくれた”最強の力(ハウンド1)”は今、過去の痛み、哀しみを超え、舞い上がる。

 

己の信じるもの、かけがえのないものの命運を、ここから未来へ(つな)ぐ為に。

 

二度と鎖に繋ぐことなど(かな)わぬ鮮烈な飛翔は、さながら”双翼(そうよく)光芒纏(こうぼうまと)わす神風(かみかぜ)”。

 

――飛燕(ひえん)――

 

遥かな高さにまで飛び上がったジェットは、先頭に捕喰形態(プレデターフォーム)を構えながら、弾かれたように空中を駆ける。

 

魔神の渾身の攻撃を(ゆう)に飛び越え、素早く喰らいついた顎が、その胴鎧を引き裂き、剥ぎ取る。

 

そして、(あらわ)になった無防備な(ふところ)を目掛け、ジェットは更に神機を振り上げた。

 

―― パニッシャー ――

 

見る見る内に肥大していく捕喰形態(プレデターフォーム)が、とてつもなく重厚な姿となって、牙を剥く。

 

その質量に、更に体重と、急降下の速度をも乗せ、叩きつける。

 

<「 ()ァ食い縛れェッ !!!!」>

 

大気を引き裂く轟音と衝撃が、魔神の竜頭を力尽(ちからづ)くに叩き伏せる。

 

それだけに留まらず、地面をもひび割らせる威力は、その巨体を横ざまに吹き飛ばし、転げ回らせた。

 

<グウオ”オ”オ”オ”――――ギジャァァァァア”ア”ア”ア”!!!!>

 

その瞬間、倒れ込んだ魔神(まじん)の極彩色の波動が色褪(いろあ)せ、更には6脚や豪腕と言った増大部位も、黒い塵となって元の形に戻っていく。

 

激しいダメージに”スサノオ”のバースト化が解除され、そしてこれに呼応して、周囲に荒れ狂っていた喰灰も、目に見えて弱まっていった。

 

その頭上から、僅かながらに昼天(ちゅうてん)の日差しが降り注ぐ程に。

 

<アラガミ、沈黙寸前っ!!!!

周囲の灰域の規模、36%減衰!!!!>

 

「行って、ジェット!!!!

勝ってぇっ!!!!」

 

クレアの声援を背に受け、ジェットは薙刃形態を構え、吶喊(とっかん)する。

 

――カオティックドライブ――

 

乱れ舞う対刃(ついじん)の嵐と、青褪(あおざ)めたオラクルエネルギーの激流が、倒れ込む”スサノオ”を八つ裂きにする。

 

<「うおォらあァッ!!!!」>

 

だが、それでも尚、スサノオは(たお)れなかった。

 

無数の傷から血飛沫を上げながら、むしろ狂暴さを剥き出しに起き上がるや、大回転攻撃で暴れ、ジェットを突き放す。

 

直後、そこで殺気が(おびただ)しく膨れ上がる。

 

天を仰ぎ、絶叫と共に禍々しい波動を放つスサノオ。

 

捕喰攻撃(ほしょくこうげき)、来ます!!!!

避けてぇっ!!!!>

 

巨大化したスサノオの”神機(じんき)”が荒れ狂い、尻尾の先の(アギト)が絶叫して迫り来る。

 

だが、その恐るべき赫怒(かくど)を前にも、ジェットはただ、真っ向から構えた。

 

<「生憎と、もう付き合うつもりは、()ェ」>

 

一度は自分を喰い殺しかけた大牙(たいが)が迫り来ようと、恐れも焦りもない。

 

必要なのは、その”一瞬”を見極め、()()()()事のみ。

 

<「―――― ”二度目”は無いと、言ッたはずだぜッ !!!!」>

 

防御の構えを取るや、捕喰形態(プレデターフォーム)が一気に隆起する。

 

そして、偏食因子(へんしょくいんし)励起(れいき)する()()()()の”最大防御効果(ジャストガード)”は健在。

 

―― ディオネア ――

 

即ち、恐るべき捕喰攻撃すら、ものともせずに弾き返した、その刹那。

 

(くじ)かれ、怯んだ敵を目掛け、強暴に(たか)ぶる三叉(さんさ)の顎が、スクリューのように激しく(ねじ)れながら喰らいついた。

 

< グギャア”ア”ア”ア”アアアアッッッッ!!?? >

 

攻防一体、凄まじい反撃の牙が、極大剣を決定的に噛み裂く。

 

結合崩壊の閃光が(ほとばし)り、そして甚大なダメージにスサノオは再び(ひざまず)かされた。

 

<「そのまま、寝てろ」>

 

低く、獰猛にジェットは呟き、両腕を開かせた構えから、捕喰形態(プレデターフォーム)を呼び醒ます。

 

だが、二刀から止め処なく溢れ出てくるその体積は、明らかに()()だった。

 

ジェットどころか、目の前に崩折(くずお)れるスサノオにも匹敵するどす黒い”本性”が、やがて背後に巨大な胸像(きょうぞう)を具現する。

 

<「もう、(しま)いにしてやる・・・・ッ――――」>

 

()()は、息を呑むほどに恐ろしい、隻腕(せきわん)の怪物の姿。

 

まるで、神話に()いて主神(しゅしん)すらをも喰らった”魔狼(フェンリル)”のようだった。

 

肥大した捕喰形態(プレデターフォーム)が描き出す、巨大な爪腕が地面を叩き、そしてその(おぞ)ましい大顎が開かれ、真紅の双眸(そうぼう)が獲物を見据える。

 

そして、顕現した超弩級の魔獣は、地獄の門が開くような咆哮を轟かせ、(あるじ)の意によって解き放たれる。

 

 

 

――天魔ノ咢(てんまのあぎと)――

 

 

 

唸りを上げる爪腕で引き裂き、そして神殺(かみごろ)しの牙が飛びかかり、噛み砕く。

 

あまりにも凄絶な暴力が、スサノオを容赦なく破壊し、貪り喰らう。

 

残虐に血肉が飛び散り、耳を(ろう)する断末魔が大気を震わせ、轟いた。

 

 

 

< ギギャアアアアア”ア”ア”ア”ァァァァッッッッォォォォ―――― !!!!>

 

 

 

――――だが、それはやがて、ドンッ、という地響きと共に、途絶えていた。

 

砕かれたスサノオの極大剣が宙を舞い、墓標のように突き立つ末路を最後に、神と(ヒト)との死闘は、厳粛に静まり返ったのだった。

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 

 




・Tips 16

”神機極昂超解放”(エックスレイジバースト)

それは、神機の超活性化(ちょうかっせいか)を制御する”GELGYA(ゲルギヤ)システム”の究極的発露であり、理論を超越(ちょうえつ)した、未知(みち)なる顕現(けんげん)である。
異常に肥大した捕喰形態(プレデターフォーム)が、漆黒の甲冑(かっちゅう)のように使用者の全身を覆い、後背部の黒い片翼(かたよく)のような器官からは”神機激臨解放(レイジバースト)”の輝きが、黄金の奔流と吹き出す。
一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)に真紅の稲妻が(ほとばし)り、神機を振るえばオラクルエネルギーが白熱光(はくねつこう)と爆ぜる。
その姿は、致命的な”アラガミ化”に酷似しているも、神機自体は完全に神機使(じんきつか)いの制御下にあり、単なる暴走とは一線(いっせん)(かく)する状態と見られている。
この形態の発現は極めて限定的であるが、”バーストアーツ”や”アクセルトリガー”といった現行の機能に加え、更に”プレデタースタイル”という戦闘力を発現。
捕喰形態(プレデターフォーム)を状況に応じた形状、挙動の変化を行わせる制御機能であり、戦闘機動の中で途切れなく、まさに意のままに敵を喰らい尽くす。
そして、余談(よだん)ながら、この状態に至った神機使いは、”ゴッドイーター(GOD EATER)”の歴史における、全世代の強化機能を同時に扱えることとなる。
だが、システム開発者のアイン氏によれば、この異次元の戦闘形態は、”イレギュラー中のイレギュラー”でしか無いと発表。
試作型を使用した、ジェット・ペニーウォートに奇跡的な偶然が重なった結果でしかなく、再現と安定化は極めて困難である、との見解を出している。
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