GODEATER3>>Remember Chains. 作:志乃木千進
照らし出される、死闘の幕切れ。
”
未曾有のアラガミといえど、間違いなく致命傷の筈だった。
巨体が、地響きを立ててその場に崩折れ、もはや僅かに痙攣して倒れ臥すのみとなる。
だが、それを見届けたジェットも、糸が切れたようにその場に膝をついていた。
同時に、魔獣の姿だった
「へっ・・・・もう暴れんな、って――――っグ、ハぁ・・・・ぁっ」
「「 ジェットっ !!??」」
突如、ジェットは尋常ではない量の血を吐き、前のめりに倒れ込んでいた。
神機すらも手放して力尽きてしまったような姿へ、クレアとユリハは悲鳴を上げて駆け寄る。
「彼はどうなのっ!?」
「そんなのっ・・・・あんな物凄い力で戦って、平気なはず無いよっ!!!!
応急処置じゃ、もうどうにもならないっ!!!!
でも、身体中が、ずたずたで・・・・船の設備だけじゃ・・・・っ!!」
「そんな・・・・っ!?」
それどころか、医務室へと運び込むほんの僅かな時間すら、ジェットは保たないかもしれない。
とにかく、一刻も早く安全な場所へ退避させなければならない。
しかし、クレア達が駆け出そうとしたその時、エイミーが激しい警告を発していた。
<皆さん、
気を抜かないでくださいっ!!!!>
その意図は、もはや言うまでもない。
斃れた筈だったスサノオは、再び動き出していた。
瀕死にまで追い込まれているのは間違いない。
しかし、未だ執念深く
<ギッ、シィャァァァァ・・・・ッ!!>
「・・・・っ!!」
もはや虫の息の有り様だったが、それはクレア達とて似たようなものだ。
このまま此処で襲われ、足を止められるだけで、そのまま”時間切れ”に終わってしまう。
此処までの戦いの全てが、無に帰してしまう。
「――――クレアは、彼を連れて行って。
私が、アラガミの相手をするわ」
果たして、死の淵までも道連れを図るようなスサノオに対し、ユリハは神機を構え、決然と立ちはだかっていた。
「ユリハ・・・・!?」
<<ユリハっ!!>>
殆ど
疲労と負傷も極限に達し、まして立ちはだかるスサノオとて、大幅に弱っていようと、1人で相手取れる容易い相手ではない筈。
そんな
差し込む陽射しの下にかざす
「私も、諦めないわっ!!
必ず、皆で生き延びる!!
もう、それが目前なのなら、覚悟を決めて戦い抜くまでだわ!!!!」
――――その時だった。
ガリ、と言うノイズが通信を乱した直後、そこから
<”ハウンドスクワッド”、聞こえるか!?
こちらダスティミラー
助けて欲しけりゃ返事しな!!!!>
「え・・・・!?」
驚愕するクレアとユリハ。
その目の前で、絶望的だった戦局に、極彩色の光が差し込んでいた。
そして、揺らぐ灰域の空気を突き破り、何人ものAGEが、疾風怒濤に現れたのだ。
「ハウンド1!!
”ジェットさん”!!!!
大丈夫ですかっ!?
まだ、生きてますよねっ!?」
「貴方は・・・・!?」
目を見開くクレアの前で、駆け寄って来た小柄な少女は、”
栗色の髪で、随分と童顔な彼女は、明らかにジェットを知っている様子で呼びかけている。
次いで、クレア達の通信回線に、冷徹なまでに落ち着いた男性の声が加わる。
<”
”レミ”、ハウンドスクワッドの撤退を支援しろ。
”パース”、未確認のアラガミだが、速攻で仕留めるぞ>
<おぅよっ!!
たくっ、あんだけ大口叩いて、派手にやられやがって、ジェットの野郎!!!!
仕方ねぇから、代わりに俺が
飛ばしていくぜ、ケイっ!!!!>
尚も戦闘態勢を取るスサノオを前に、黒髪の青年と、茶髪の少年が並び立つ。
彼らは、厳しい物言いと裏腹な闘志を燃え上がらせ、猛攻撃を開始。
更には、彼らを含めた”グリズリー”と”フォーゲル”
――――そして、クレア達は知る由も無い。
数時間前、”ハウンドスレッド作戦”開始の直前。
クリサンセマムの窮状がようやく伝わり、ダスティミラーの
<だ、ダスティミラーからの、救援・・・・!!
・・・・良かった・・・・っ、間に、合った・・・・ぁ・・・・>
<3人共、そちらの位置は確認している!!
もうすぐ迎えに行くぞ!!>
涙声のエイミーの通信と、リカルドの頼もしい声。
更には、ルル、ユウゴ、ジークの激励が、次々に飛び込んでくる。
<ユリハも、すぐに下がるんだ。
後は、私達に任せてもらおう!!>
<
お前達は、ジェットを頼む!!!!>
<ジェットが意地を見せたんだ!!!!
負けちゃいらんねぇんだよなぁ!!!!>
頼もしい仲間達が、後を任されてくれる。
その安心感に、クレアは涙が込み上げ、泣き崩れてしまいそうになる。
だが、
ジェットから任されたのは、彼らだけではないのだから。
「――――クリサンセマム、ダスティミラーへ連絡して、医師と機材の支援要請をっ!!!!
すぐに、ジェットへの治療を行います!!
絶対・・・・絶対に、ジェットは死なせないんだから!!!!」
――――・・・・ジェット・・・・――――
・・・・また、誰かの声か。
どうにも俺は、そうして流されっぱなしだな。
あの
だが、さっさと起きねぇといけないのは分かるのに、どうにも身体が重いし、寒いし、眠い。
しかも、周りは薄ぼんやりと暗くて、何処に行けば良いか、いまいち分からない。
・・・・となれば、ここは素直に、皆がなんとかしてくれるのを、待つしかないのかもな。
自分じゃどうにも出来ない気がするし、何となく、それしか無い気もしていた。
―――― ジェット ――――
それでも呼びかけてくる声に、俺は顔を上げた。
そこには、長い銀髪を揺らして、見慣れた笑顔を浮かべる、リノンがいた。
昔、ずっと見上げていた姿と、何も変わらない。
「お前は、幸せだったか?」
そんな訳は無いと、聞いてから気付く。
AGEとして、首輪を繋がれたまま戦い、死んだんだから。
案の定、リノンは困ったように笑みになる。
・・・・だけど、いつもそうやって笑ってたっけな。
鎖に繋がれた牢獄の中でも、アラガミに追い詰められた時も。
戦う時も、傷付いた時も、悲しい時も。
俺の前では、いつも。
――――私はね。
皆に・・・・君に会えて、良かった。
だから・・・・ばいばい――――
その答えだけで、十分なのかもしれない。
リノンが、リノンだったように、俺は、俺だ。
今も、昔も、皆と一緒に出来る事をやるだけだ。
それでリノンが・・・・”家族”が笑えているのなら。
俺は、俺の戦いを信じて行ける。
「――――答え合わせは
・・・・またな、リノン」
・・・・
・・・
・・
・
――――”ハウンドスレッド作戦”から、既に一週間が経っていた。
柔らかな照明が灯るクリサンセマムの医務室にて、携帯端末のアラーム機能が鳴り響いていた。
そのけたたましい音に叩き起こされ、奥のベッドの上で、1つの人影がムクリと動き出した。
「っう、ぐっ・・・・ぅっ、あ~・・・・。
・・・・もうそろそろ、
やれやれ・・・・身体が重てぇなぁ・・・・」
言わずもがな、
甚大なダメージと、限界を超えた”力”の解放に、一時は手遅れかと思われる程だったのだが、幸いにも搬送中に力尽きることは避けられた。
迅速な対応と、なにより本人の気力の賜物か。
とにかく、クリサンセマムとダスティミラーの緊急治療はどうにか間に合い、こうして今、生き延びているのだった。
実は、目覚めたのもつい昨日の事なのだが、しかし本人は多少寝ぼけた様子な以外は、ケロリとした顔をしていた。
そして、その物音を聞き、横のベッドでウトウトとしていたフィムが目を覚まし、輝くような笑顔で飛び起きる。
「おとさん、おきたっ!!」
「おう、おはようさん。
そしたら早速、
まずは、着替えねぇと、っと・・・・」
まだ
すると、ややあって、医務室の自動扉が音を立てて開き、金髪の美少女が入ってくる。
「ジェットっ、って・・・・っ!?
ちょっと、何してるの!?」
クレアは、上裸のジェットに対して頬を染め、顔を背けさせていた。
何を今更、メディカルチェックの時とかにも見るだろ。
と、つい言わんとしたジェットだったが、
「そ、そっちもだけどっ、まだ動いちゃ・・・・!!」
「それは、もう平気だ・・・・”たぶん”な。
だが、あいつらの見送りに立ち会わないわけには行かないだろ?
それに、お前こそ――――」
最後に、黒い
彼女の頬は、まだ少し紅潮していた。
「今日は泣いてないんだな?」
「なっ・・・・!!??」
――――と、明らかにからかう調子で言ったのは、昨日の目覚めた直後の出来事。
危篤状態をどうにか越え、それでも眠り続けていたジェットがようやく目覚めると、傍にはフィムとクレアがいた。
おそらく、片時も離れずに容態を見守ってくれていたらしい。
ところが――――
――――お、とさんっ・・・・!!
おきた・・・・ぁ・・・・!!
・・・・っふ、ぐぃ・・・・っぅぇぁああああ・・・・ぁぁぁぁん・・・・っ!!――――
――――ジェットっ!!
・・・・良か、った・・・・本当、に・・・・っ、良・・・・!!
ぅ・・・・あ、れ・・・・っ、ぐすッ・・・・・ぅ、っ?
・・・・ぁあぁ~・・・・っ!!
ぇあぁ~っ・・・・ぁっ・・・・っ!!――――
と、横で大泣きするフィムに釣られてしまったのか、クレアまでも一緒に泣き出してしまったのだった。
そして、2人揃って延々と泣いているところへ、ルルとエイミーが駆けつけ、ジェットの目覚めを喜ぶのもそこそこに連れて行ってしまう。
結局、その後もジェットが再び眠るまで戻ってこなかったのを見るに、昂った感情を抑えきれなかったのだろうか。
なんだかんだで気遣える余裕も無くて、気にかかっていたジェットだったが、此処でようやく一安心したのだった。
そんなついでの軽口だったのだが、しかしクレアは今までにないくらい狼狽え、明らかに機嫌を損ねてそっぽを向いてしまう。
「も、もう、バカっ!!
知らないっ!!」
「ああ、待てって!!
悪かったって、クレア!!
な!?」
流石に不手際を察したジェットは、踵を返そうとするクレアの腕を、慌てて引き止める。
幸い、クレアはそのまま立ち去ろうとはしないまでも、しかし頑なに振り向こうとしない。
チューブトップから見える肩までも赤いし、その色白な顔はもっと真っ赤になっているに違いない。
「おとさん、ケンカ、ダメ!!」
「ああ、悪かったって。
それにクレアも、からかって悪かったよ。
これでも、感謝しようと思ったんだって」
平謝りに徹するジェットへ、クレアは
真っ直ぐにジッ、
「あん時の礼を、まだちゃんと言ってなかったろ?
生き延びれたのは、お前のお陰だ。
ありがとうな」
――――それは勿論、灰嵐の中に投げ出され、重傷を負った時のことだ。
クレアの的確な準備が無かったら、ジェットはあそこで野垂れ死んでいた。
そして、その巻き添えにユリハも、クレアまでもを
加えて、焦りと気負いに囚われていたジェットを、厳しく叱ってくれたこともだった。
つい口論めいたことになって
「・・・・でも、最初は私のことに賛成はしてくれなかった
頼りない、と思ってて。
お礼よりも先に、怒鳴ってましたよね」
ところが、
優しさの欠片もない態度と、他人行儀な話しぶりが、今は
「それは、そうなんだが・・・・でも、ちゃんと考え直したろ?」
しかし、クレアはそれでも気が済まないと言わんばかりに、再びジェットを真っ直ぐに見据えた。
なんだか、何処か
「・・・・それに、
私が傷付いたら、自分を許せない、って。
帰ってくる自分を、迎えてくれたら、良いって。
だから・・・・」
「あ、あぁ~・・・・それは、まぁな・・・・」
いきなりに話が
一大作戦に臨む直前、傷付いているようだったクレアに打ち明けた、己の内心。
勿論、嘘を言ったつもりは無い。
だからこそ、
どんなアラガミにも真っ向から向かっていくジェットが、少女の眼差しにたじたじとなってしまう。
ところが、言い
「おとさん、
クレアにちゃんと、ごめんなさい、なさい!!」
「あっ、ああ。
この場合は、ごめんなさいよりもだな・・・・」
「・・・・ふふふっ、良いよ、フィム。
今回は、許してあげる。
だって、きちんと反省してるからこそ、ジェットは此処に居られるんだもんね」
さっきの仕返し、とばかりにいたずらっぽく笑うクレアに、ジェットは返す言葉も無い。
押されっぱなしなこの
ところが、今度は逆にクレアが、離れようとしたその腕を、両手で握っていた。
「ねぇ、ジェット?
あのね・・・・私、あの時にジェットが言ってくれたことが、凄く嬉しくて、でも、
「クレア・・・・」
驚くジェットを、クレアは柔らかく見詰め、それからはにかんだ笑みを見せた。
「あの時に言いたかった事・・・・少しは整理できたんだ。
きっと、ジェットは私を・・・・皆を、大事にしてくれる。
けれど、だからこそただ寄りかかって、その重荷になりたくない。
だって――――」
――――そうやって大好きな
あの時の痛みを、無為には出来ないから。
自分を好いてくれる人。
そして、自分がいつまでも一緒にいたい人を、もう二度と喪いたくないから。
「――――だって私は、私の大切な人達と、並び立って居たい。
クリサンセマムは、私の居場所でもあるから。
真面目なだけが、取り柄で。
それにしがみつくしかなかった私が、決心して、隣り合いたいって思った場所。
そんな大事な場所で、ただ
クレアの思いの丈を聞き、ジェットは
振り返ってみれば、彼女はいつだって、クリサンセマムの皆の為に力を尽くしている。
それに助けられたのも一度や二度ではないと言うのに、ジェットはいつのまにか、目の前のことしか考えられなくなってしまっていた。
「結局・・・・イルダにも
俺の勘違いも、クレアの居場所のこともな」
――――勝手に背負い込んだままに作戦に臨もうとした、あの時。
焦るジェットへ、
彼女らのような頼りがいなどまだまだ持ち得ぬ自分の未熟に、ジェットは口惜しそうに笑う。
しかし、そんな後悔へと寄り添おうとするように、クレアが一歩、歩み寄っていた。
「私、ね。
皆のために、誰よりも前で、戦う。
それが、ジェットの居場所なんだと思うよ。
だからこそ、そっちばかり見て、気付いてくれない時もあるけど。
でも、それは貴方にしか務まらない、強い
「・・・・それなら、
「え?」
「昼も夜も無く、いつも勉強して、頑張って。
俺達の
それが、クレアの居場所なんだろうな」
得心が行ったように、ジェットは笑った。
クレアも、同じようにゆったりと微笑み返していた。
――――そして、この時。
ジェットは、クレアの笑顔に、久方ぶりな安心感を覚えた気がしていた。
ここの所の、とにかく
穏やかで、心安らぐ気持ちのままで、クレアと向き合えている気がしていた。
クレアも、きっと同じような想いで、ジェットを見詰めていた。
その一方で、色白な頬にまた
「――――あのね、ジェット。
前に、グラジオラスの図書館で言ったこと、なんだけど・・・・取り消させてもらって、良い?」
「・・・・なんか、言ってたか?」
「もう、覚えてないの?
・・・・やっぱりジェットは、兄さんとは似てないな。
やっぱり、ジェットは、ジェットなんだ」
「なんだよ、やたら嬉しそうに?
そんなの当たり前だろ」
すると、クレアは可憐に笑い、それからもう一度ジェットを見詰めた。
何でもなさそうな言い方と裏腹に、ずっと考えあぐねていた悩み事を振り切ったと言わんばかりな、嬉しそうな笑顔だった。
「ふふふふっ・・・・そうだよね。
・・・・ねぇ、ジェット?」
「ん?」
「いつか、ジェットの
どんな子供だったのか。
ユウゴやジークや、他にもどんな人と出会って、過ごしたのか・・・・」
「・・・・また、妙な事を聞きたがるな。
別に特別なことなんて無いぜ?
むしろ、長い割にはダサくて、楽しい話でもないしな」
「それでもいいよ。
それでも、知りたくて」
「フィムも!!
ききたい、です!!」
「なら、まぁ・・・・そのうちな」
クレアとフィムの無邪気な要求に、ジェットは戸惑いつつも、気負うことなく答える。
目の前で愛らしく笑い合う少女達に応えようと、自然体に思えればこその言葉だった。
「――――・・・・なぁ、もうそろそろ良いか?」
すると、そんなゆったりとして温かな空気を揺さぶる冷めた声が、唐突に聞こえてきていた。
振り返ってみれば、いつの間に来たのか、医務室の扉前にユウゴとジークが立ち尽くしているではないか。
「やれやれ、心配して起こしに来てやったら、元気そうじゃないか相棒。
それだけ立ち話が出来るなら、動くのも問題なさそうか?」
「おう。
お前達にも心配かけちまったな」
「ああ、全くだぜ。
・・・・だが、まぁ”終わり良ければ”、ってな。
しかも、お前も
「なんだよ、ご挨拶だな。
しかもそれ、俺の”真似”か?」
「バカ言うな、ただの教養だよ。
・・・・ところで・・・・」
と、ジェットの前に立ったユウゴは、さっきまで此処にいた少女の後を追って、顔を横に向けた。
その先は医務室の隅で、ジェットが使っていたベッドと、間仕切りのカーテンしか無い。
だというのに、ユウゴとジークが現れた途端、クレアは
「・・・・おとさんとクレア。
いま、なかなおりしたのに・・・・またケンカ?」
と言われても、ジェットには全く身に覚えが無い。
心配して声を掛けるも、クレアは間仕切りのカーテンにすっぽりと
プルプルと震える布の
「なぁ、クレア~。
マジで、俺らが悪かったからさぁ。
そんなカーテンに包まってないで、出てこいって」
物珍しさ半分のフィムと、なんだか
結局、ジークの辛抱強い説得に、ようやくクレアがカーテンから抜け出てくるまで、それから10分ほども要したのだった。
ちなみに、おそらく決まり手となった
「俺らにとっちゃ
なんなら、むしろあれで気付かない方がバカなんだよ」
但し、それを言われたクレアは、かつて見たことのないような物凄い
・・・・
・・・
・・
・
<――――ジェットさん、おはようございますっ。
ふふふ、すっかり元気そう。
けど、本当にもう動かれて大丈夫なんですか?>
<止めたって聞く男じゃぁないだろうさ。
とはいえ、流石のガッツだな。
普通なら調子が戻るまで動けないもんだが>
<やっぱ先輩は凄いよね!!
昔から、神機より早く元気になってたもんね!!>
<まったく・・・・それでこその、”ハウンド1”なのかしらね。
・・・・ええ、”彼女達”はアインさんと一緒に、外で最後のチェックをしているわ。
貴方が目覚めるまで、ギリギリまで作業を待たせていたのよ。
早く行ってあげなさいな>
「おう、分かった。
ありがとな、皆」
ジェットがブリッジへと通信を繋ぐと、其処にはエイミー、キース、リカルド、イルダが居合わせていたようだ。
急ぐジェットは、挨拶もそこそこに船外活動の許可を取り付けるが、其処へイルダが、改まって声を掛けていた。
<待って、ジェット。
礼を言うのは、
・・・・改めて、今回の作戦における、貴方の規格外の活躍に、賛辞と感謝を。
よく、戻ってきてくれたわ>
「そいつはお互い様、ってな。
流石は、ハウンドスクワッドの
それに、エイミー、キース、リカルド。
ずっと後ろから支援をこなしてくれてて、ありがとうな」
――――言うべきことを言い終えるや、ジェットは慌ただしく通信を切っていた。
走り出したら止まらない、いつもの突っ走り
「えへへへ・・・・頑張った甲斐がありましたね」
「あんな怪我をした後だって言うのに、相変わらずパワフルだなー、先輩は」
「それでいて、よくいる腕自慢だけじゃない、
・・・・大したリーダーだよ、彼は」
「・・・・これで、後はもう少し、
と、イルダの意味深な呟きに、ブリッジの面々は苦笑したり、肩を竦めたり、目を瞬かせたり、思い思いに反応する。
賛成2の、無効票1、と言ったところのようだった。
「・・・・まだまだ、苦労は続きそうね、クレア・・・・?」
・・・・
・・・
・・
・
――――灰域踏破船・クリサンセマムとダスティミラーの
灰嵐の影響でダメージを受けた船体の応急修理と、物資の補給。
そして、疲弊したクルー達に、束の間の休息を取らせる為である。
とはいえ、費やせる時間にも限りがある。
クリサンセマムと、そして他の船団にとっての本懐たる、”フェンリル本部奪還作戦”は、これからが本番なのだから。
そして、ジェットはクレア、フィム、ユウゴ、ジークを伴い、その作業現場に降り立っていた。
補給船の作業員達が行き交う
すると、同じく物資コンテナを運んでいる人員の中に、見知った長い黒髪の美女が混ざっていた。
「起きたか、ジェット。
皆も、おはよう」
「ルル、こっちを手伝ってたのか
だが、戦闘員は免除されてるんだろ?」
「此度の作戦で、私は大したことが出来なかったからな。
・・・・居ても立っても居られなかったんだ」
「おいおい、別に
それに、俺もルルも、戦うってなったら、ずっと前に出ずっぱりだったんだしよ・・・・」
身を乗り出させたジークの話にも、ルルはどうにも曇った様子でいる。
普段から表情の薄いルルだが、悩みを噛み締めている時は案外分かりやすいと、ジェットも知っていた。
「真面目、と言うか、謙虚だな」
「きっと、お前が豪胆過ぎるのさ。
・・・・仲間の為に、限界の
やはり、敵わないと思わされるよ」
「とはいえ、それで死にかけてりゃ世話ないだろ?
それに、1人でやれる、って勘違いするのもだ。
それはもう、こっぴどく怒られるからな」
「・・・・ああ、そうだな」
微笑んで答えたルルに安心し、ジェットは皆と共に、辺りの作業風景を物珍しく見回しだす。
――――
ルルは、誰にも悟らせたがらないように顔を背け、自身の腕輪を
「それが、皆の助けになるなら・・・・私は・・・・――――」
すると、その時。
ジェット達の元へと真っ直ぐ、重い足音が向かって来ていた。
「よくぞ戻ったな、ジェット」
「お、旦那」
賛辞の言葉を掛けてくれたアインは、相変わらずの無愛想に見えて、しかし実は普段ならぬ明るい表情であるように見えた。
「旦那の配った”
その分、だいぶ無茶な使い方をしちまったとは思ってるよ」
「・・・・その事だが、改めて済まなかったな、ジェット。
そしてハウンドスクワッドの諸君」
アインは、そう言うや
彼ほどの人物に謝られる心当たりなど無く、ジェットは思わず狼狽える。
「おいおい、どうしたんだよ旦那?
元々、旦那は巻き込まれちまった形だし、むしろ頭を下げるのは俺達の方じゃないか?」
「そ、そうですよ!!
それに、作戦中も、船の方で起きたトラブルへその都度、対処してくださったし・・・・!!」
揃ってあたふたと取りなそうとするジェットとクレアに、アインは頭を上げつつも、厳格に首を横に振っていた。
「無茶な突破作戦を提起したのは俺であるし、ましてジェットに降り掛かった苦難には、我々が制作した”
優れた道具とは、どんな状況であろうと、想定通りの性能を発揮するものだ。
だが今回、想定を超越した限界稼働は、研究の意義すらも失わせるものだった。
様々な要因が重ならなければ、お前は確実に、活性化した神機に喰われ、命を落としていただろう」
「・・・・やっぱ、旦那も真面目と言うか、謙虚だよな・・・・」
システム開発者としての自覚の
助け舟を求めて皆の方を見やると、ユウゴが一歩、進み出る。
「確かに、GELGYAシステムがジェットに生命の危機をもたらしたのは事実だ。
だが、引き金になったのは、忠告を無視した俺達の判断だし、そもそも使わなければ確実に死んでいただろう。
故に俺達としては、アインさんやダスティミラーを非難するつもりは
しかし、やはりこれから先、システムの使用には、極めて慎重にならざるを得ないだろう」
流石と言うか、ジェットの
ただし、最後の言葉に関しては、未だ大いに迷っている所だった。
これから先、
されど、そんな抜きん出た効能と天秤にかけても尚、アインは迷い無く首肯で応じていた。
「それは、俺からも希望する。
我々の作った
システムの再設計は勿論、計画自体の見直しも含めて、再検討する必要がある」
「・・・・旦那がそこまで言うなら、ジョーカーは返すしかない、ってか。
ちょいと・・・・いや、だいぶ惜しいけどな。
・・・・でもよ。
やっぱり俺は、GELGYAシステムは、
不思議な言い回しに皆の視線が集中するが、ジェットは自分の感想に確信を持っていた。
「だって、そうだろ?
あれが俺を殺そうとしてたなら、俺は今頃、此処に居ない。
だったらあれは、俺を・・・・俺達を守ってくれた、ってことだ。
それなら、無茶な使い方で死にかけたことより、皆を守れる”力”をくれた事へ、礼を言わせてくれよ」
「・・・・もう、単純なんだから」
呆れたように笑うクレアが、釘を刺す。
敵でないなら味方、という楽観的な考えではあったが、それでも
”魔神を縛る枷”は、最後までその役目を果たし、ジェット達の活路を切り拓いてくれたのだ。
(それに・・・・もしかしたら、あの” チビ助 ”と話が出来たのも、な・・・・)
果たして、真偽は分からない。
全ては、ジェットの見てきた出来事が繋ぎ合わさった、この結果としてあるのみ。
そんな結論に、アインは今度こそ、明らかな微笑みを浮かべて見せた。
「試用者からの意見として、真摯に受け止めておこう。
・・・・そして、安心しろ。
俺は、未来を拓くための研究を諦める気は無い」
そう言って、アインはふと、大きく空を見上げる。
その先の雲一つない空には、真昼の月が浮かんでいた。
「成功だろうが、失敗だろうが、この世界は続いていく。
ならば、まだ命の続く限り、例えまたゼロからでもやり直せば良い。
そうして試行錯誤を続けたなら・・・・いつかは、あの”青い月”にでも辿り着ける。
それくらいの覚悟はしているつもりだ」
「――――あ、いた!!
ジェットさーん!!」
アインが、決意表明と共にクールに踵を返していった、その直後だった。
素っ頓狂な少女の声が聞こえると共に、3人の人物が駆け寄って来る。
そしてジェットも、忘れもしない彼女達の姿へ、驚くとともに
「レミ、ケイ、パース!!」
「って、おい!!
気安く呼ぶなよてめぇ!?」
「ちょっ、もうったら!?
頭も撫でないでくださいってば!!」
「・・・・学習しない
栗色の髪を揺らす、
ブロンドの短髪と緑の瞳の、尖った少年。
黒髪と鋭い目つきの、冷静な青年。
共に困難な任務を達成した彼女達が、今回は本当に頼もしいタイミングで現れてくれた事に、ジェットは喜色満面に笑った。
「聞いたぜ。
最後はお前達の援護のお陰で、あの化け物を仕留められたらしいな」
「だって、あたし達だって”仲間”、ですもん!!
”やばいことになったら、必ず駆けつける”、ですよね?」
別れ際に交わした言葉を引き合いに、無邪気に笑い返すレミ。
そんな彼女へ、クレアが進み出て一礼をする。
「それについては、改めてお礼を言わせてください。
ジェットが・・・・ううん、私達が無事にあの状況を脱出できたのは、皆さんのお陰です」
「まぁ、”クリサンセマムの鬼神”様には、余計なお世話だったかもしれねぇけどな?
わざわざ俺達が来たからには、チョチョイと済ませてやった、ってワケよ」
「よく言うよなぁ、パーシヴァルさんよぉ。
最後、アラガミにぶっ飛ばされて、クレアのお世話になったくせによ」
「見苦しい見栄を張るな、パース。
・・・・強力な”
あくまで偶然、その行き先が重なったまでだ」
「何もそれだけじゃないさ。
彼らはその後、
「ダメージを負ったクリサンセマムに、アラガミを寄せ付けずに済んだのは、彼らのお陰だ。
そうでなければ、私達全員、どうなっていたか分からないだろうな」
どうやら全員、既に
「やっぱり、俺達の道は
マジで助かったぜ、ありがとうな」
「へっ・・・・ま、これで1つ貸しだからな」
「最初に助けてもらったのはあたし達なのに、パーシヴァルさんったら、
「なぁ・・・・っ!?」
意外にも強力な毒を吐くレミに、絶句するパーシヴァル。
同郷の仲間の
「助けになれて、何よりですよ。
それに、ジェットさんの仲間さん達にも会いたかったですし。
色んな人達がいるんですね。
フィムちゃんみたいな子、あたし始めてみましたし♪」
「レミはね、いいこ!!
「お、同じなのは身長だよねっ!?
ね、フィムちゃんっ!?」
「・・・・ジェット」
すると、言葉少ななケイが、珍しくも自分からジェットに声を掛けていた。
「この補給作業も、直に終わるだろう。
しかし、お前はただ此処で騒いでいるだけで、良いのか?」
彼の問いの、
そしてレミも、無邪気に懐くフィムから一歩離れて、ふと寂しそうに笑う。
「あたし達も、聞きました。
ジェットさんが・・・・ハウンドスクワッドの皆さんが、どうして戦ったのか。
それにあたし達、もうそれぞれのミナトに戻らないとなんです。
その為のご挨拶も今、終わりましたから」
「・・・・そうか」
改めて、ジェット達と、レミ、ケイ達は、それぞれ別のミナトに
2度に渡る
しかし、そんな過酷さに滞りかけた空気へ、パーシヴァルが真っ先に
「勘違いすんなよ、ジェット。
俺達だって、戻れば”頼れる仲間”が待ってるんだよ。
だから、もしもお前がまたしくじっても、助けに来てやるよ!!」
不安も、心残りも無いとばかりなパーシヴァルの不敵さに、ジェットも、
「おう。
・・・・確かに、それなら安心、だな」
「はい。
だからジェットさんも、きちんと挨拶と、”約束”を、あの人達にしてあげてください」
レミも、いつかのような心細さを少しも見せずに、むしろジェットが行くべき場所を指し示して見せる。
その先で待つ”彼女達”も、もうじき出発してしまうと言うなら、急がねばならないだろう。
「じゃ、悪いな、皆。
ちょっと先に行ってるぜ!!」
「あ、おとさん!!
フィムもいく!!
だっこ、だっこ~!!」
「ん、ああ、やれやれ。
じゃあ、しっかり捕まってな!!」
「ちょっと、ジェット!!
まだ、激しく動いたら――――」
――――フィムを抱きかかえたジェットは、黒い
駆け出したその先では、ダスティミラーの灰域踏破船への積み込み作業が行われている。
ジェットの探し人は、その
陽光の下、人々の働く姿を興味深そうに見詰める、真っ白な肌の少女。
そして、その彼女と手を繋ぎ合う、
2人は、やがて駆け寄ってくるジェットに気付き、対象的な表情を浮かべる。
一方は、
そして一方は、
「ジェットっ!!
もう、そんなに元気に動けるのね!!
フィムも、こんにちわ」
ずいと、ユリハが身を乗り出し、その笑顔が思った以上に近づいたことで、ついたじろぐジェット。
だが、今はそれよりも
「ユリハ。
シャロンの、その装置は・・・・」
シャロンは、背後に二本の棒が飛び出した、大きな首輪を着けていた。
それはかつて、研究材料として扱われていた頃のフィムが着けさせられていた、感情と思考を奪う抑制装置だったのだ。
されど、ユリハは冷静に、首を横に振って答える。
「安心して。
これは、クリサンセマムの皆さんが知るのとは、別物よ。
シャロンの感応波のみを抑制するだけで、彼女は彼女のままだから」
「そうか・・・・」
「・・・・それだけなの?」
「ん?」
「私達に、会いに来てくれたのでしょう?」
ユリハは、そう言って小首を傾げつつ、どこか
熱心にジェットを見詰める眼差しには、なんとなく計り知れない意図が秘められているように思えた。
「あ、あぁ・・・・」
すると、つい視線を
「・・・・・・・・・・」
「・・・・な、なんだよ」
「なんかよぉ・・・・チョロくね?」
「弱腰、だな」
「・・・・ふふふ、ちょっと、からかっちゃった。
ごめんなさい、クレア」
「な、わ、私は、別に・・・・!?」
何故だかユリハに名指しで謝られ、クレアは狼狽える。
初めて会った頃とは違い、すっかり
一方、その足元では、正反対の色合いをした少女達が、とうとうじっくりと対面しようとしていた。
「あの、こんにちわ。
フィムは、フィムですっ」
「・・・・うん・・・・」
しかしながら、よく似た2人の会話は残念ながら、あまり弾みそうにないようだった。
シャロンは、周りの景色が物珍しくて仕方ない、という風に、あちこちを眺め回してばかりいた。
「・・・・う~・・・・っ」
「少し、タイミングが悪かったな、フィム。
きっと、他の人や船が、珍しいのだろう」
不満そうに身体を揺らすフィムを構う、ルルとクレア。
ジェットは、すぐそこに見える灰域踏破船への荷物の流れを見ながら、ユリハへ問いかける。
「それで、グラジオラスのメンツはもうじき出発する、って聞いたぜ?」
「ええ。
私達は全員、ダスティミラーに身を寄せることになったわ。
”ヒト型アラガミ”であるシャロンを受け入れてくれる場所。
それも、
それだけでなくて、残された子供達の養護。
それに、シャロンへの処置を行う際には、必ず私達の意思を尊重すると、約束してくれたわ」
「流石は旦那、だな」
「・・・・シャロンがこれから、昔のように戻れるかは分からない。
けど、きっと希望はあると思うわ。
現にあれ以来、シャロンの状態はとても落ち着いていて、それに女性や子供以外のヒトを怖がることも減ったのよ。
ね、シャロン?」
今までのような、敵意や混乱に曇ってなどいない、純真な眼差しだった。
「ワタシ、わかった。
オマエたちの”コエ”は、こわくない」
「
「おおきいヒトは・・・・ううん、”アイツ”は、
でも、オマエたちはちがった。
ユリハと、みんなといっしょの、コエだった。
よばれて、うれしくなって、あたたかくなる。
・・・・そう、きづいた」
辿々しいシャロンの言葉でも、言わんとすることは伝わって来る。
自分の欲を満たすため、牙を剥いて喚き散らすもの。
そして、大切な人を助けたいと、心から想い、叫ぶもの。
その違いは、ジェットもまた、身を以て知ったばかりだったのだから。
「・・・・トレイズの野郎は、グレイプニル本部へ護送されるらしいな。
中央の
ジェットの言葉に、しかしユリハは笑みを
今だ、その状況に自信を持ちきれていないようだった。
すると、そこにユウゴが更に見解を述べる。
「ニウロフ・トレイズは、ミナトの私物化や、膨大な人体実験など、複数の罪状に問われている。
特に、物資横領の件に関しては、奴の活動に見合う量を横流せる程の
今の世界事情で、そこまで大規模な支援を行えるのは、”
となれば、グレイプニルはその”プライド”に懸けて、徹底的な捜査を行うだろう。
その結果がどうなったとして、二度と
これはイルダや、アインさんも併せての見解だ」
「・・・・この手でぶっ飛ばせなかったけど、それなら少しは清々する、ってもんかね」
どこか腑に落ちない様子のジークの言葉に、しかしユリハはゆるゆると首を横に振っていた。
「私は・・・・この形で良かったのだと思うわ。
きっと、これでトレイズこそが”悪”だったと、断じることが出来たのだから」
ユリハの不思議な理屈に、皆の視線が集まる。
無言の問い掛けに、ユリハはゆっくりと言葉を探し出すようにしながら、答え始める。
「私の、仲間は・・・・家族は、理不尽に奪われたわ。
けれど、決して
皆の命が、その
そういう”報い”が、この世界に残されるのなら。
・・・・きっと、長い私達の苦悩も、無駄にはならない、と、思うの」
「・・・・成程な。
あの場で、誰も知らないまま手を下すよりも、あの野郎には似合いの裁きだったのかも、ってな」
――――ユリハにとって、トレイズとは、大切な人達を長年に渡って
されど、いざ対峙したあの男は、既に狂いきっていた。
そして、この世界の
なによりも、トレイズが奪ったものの無念を知ら示そうとしたその判断は、結果的にこれ以上ないやり方だったのかも知れない。
ジェットは、得心が行って頷いていた。
「・・・・おい」
するとその時、一行の横合いから現れた1人の少年が、ぶっきらぼうにジェットへ呼び掛けていた。
「よぉ、カミル。
何で、
ジェットは、ブロンドの髪の少年が胸に抱えた、年季の入った本の束へ目を丸くした。
一体何処から持ってきたのか、読書にしては量が多すぎるし、内容も小難しそうだった。
そのやり取りを見て、ユリハが小さく笑い、説明を挟んだ。
「これは、”売り物”よ。
元は博物館だったグラジオラスの所蔵品は、今となっては貴重な代物ばかりみたい。
結構、こういうのを欲しがる人は多いみたいだから、私達の生活に先立つものにしようと、前から考えていたのよ」
「ちなみに、この取引にはクリサンセマムも
今回の”依頼料”としては、十二分の見返りになる計算だ」
抜け目のないユウゴは、ハウンドスクワッドの経営面についても、予め備えていたらしい。
ユリハもユウゴも、いつの間にそこまで考えていたのかと、感心するジェット。
そして、カミルは持ってきた荷物を近くのコンテナの上に降ろし、それからじっとジェットを
「おいおい、相変わらずふてぶてしい面だな」
「うるせぇ。
・・・・お前、もう動けるのか。
あれだけ戦った後なのに・・・・」
カミルの質問に、ジェットは
彼の様子には、興味と戸惑い、不安と、そして”羨望”が見え隠れしていたからだった。
「こう見えて、まだ結構しんどいんだぜ?
流石に、今回ばかりはやばかった」
「・・・・オレは・・・・絶対、もう無理なんだと思った」
「・・・・そうか」
「怖くないのかよ、お前は。
・・・・失敗したら、
怖くて・・・・悔しくて、でも何も出来なかった。
だけど、お前達は・・・・ハウンドスクワッドは、誰もそう思ってないみたいだった」
「そりゃそうだ。
その”皆”を守る為に、ギリギリまで出来る事をする。
それをしなかった自分が許せない。
少なくとも、俺の仲間はそういう意地っ張りばっかりだからな。
・・・・だから、
「え?」
顔を上げたカミルに、ハウンドスクワッドの面々が、頼もしい笑みで応えていた。
その誰もが堂々たる勇士達であり、そしてその先頭であるジェットは、少年の
「カミルが一丁前になって、”一緒に戦えるまで”、だよ。
今回はお前だって、仲間の為に最後まで逃げやしなかったんだろ?
それでもまだ納得が行ってねぇんなら、さっさと其処を越えてみろ。
それで、その強さを俺達に見せに来な」
「・・・・!!」
「言っとくが、
まずは、そのヒョロガリと根性をどうにかしないとな」
「その上で、確かな実力が絶対条件だ。
・・・・まぁ、
焦らず、万全に準備をしてから挑んで来い」
創設メンバーたるジェット、ジーク、ユウゴの激励に、カミルは目の色を変え、頷いていた。
両者には、今は歴然とした差があろうと、その道行きは似通っている筈だった。
そして、目指すべきものを見定めたカミルの
「良かったわね、カミル・・・・」
彼の苦心をずっと見てきたろうユリハは、慈しみながらカミルを抱き寄せ、囁きかけていた。
ちなみに、その瞬間、カミルは顔を真赤に染めて、その様子を見たジェット達は視線と手振りで
「皆さん・・・・本当に、ありがとう。
私一人じゃ、こんな結果どころか、きっと動き出せすらしなかったわ。
・・・・私達の現実は、閉じてしまっていたから。
グラジオラスの暗がりが全てで、その先に未来があると、どうしても信じきれなかったわ」
「ユリハさん・・・・」
「――――だけど、あなた達はずっと、戦いの向こうに”希望”がある事を、信じていたわ。
そして、お互いが、お互いの力になれると想い合って、諦めなかった。
きっとそれが、絶望の
ジェットと、それからハウンドスクワッドの面々を見渡し、見違えるように明るい表情を見せるユリハ。
背負い込んだものの重さと
「おう。
俺には、仲間がいる。
どこまで言っても
だから、やがては”自分達の
そんな無茶な夢だって、追えるのさ」
おいおい、とユウゴが苦笑した。
仲間内以外には未だ言ったことの無い、ハウンドスクワッドの遠大な目標だったが、ユリハ達ならば構わないだろう。
そして、ユリハは一瞬、驚いたものの、直ぐに納得したように頷いていた。
「素敵で、力強い夢、だわ。
私は・・・・なんとしてでも生き延びようとする内に、いつしか忘れてしまってた。
どうして皆いなくなってしまったのって、
その裏では少し、恨めしくて。
・・・・けど、大切な事を思い出せたわ。
こうしてまた家族を、未来を、純粋に
・・・・貴方達に出会えて、本当に良かった!!」
心からの喜びに、輝くような可憐な笑顔を浮かべるユリハ。
そして、ジェットは、悲惨な運命から解き放たれた彼女にふと、自分の胸の奥の
(・・・・ユリハは、ユリハだ。
こんなもんは所詮、
だが・・・・一応はこれも、俺達がまた1つ、望んでたものを手に入れられた、証・・・・なのかも、ってな――――)
「――――ねぇ、ジェット?
唐突にユリハが差し出した掌の上には、黒い
そして、よく見るとそれは、ユリハがこめかみに提げている髪飾りと同じ造りであるようだ。
「そいつは?」
「剥製の羽から作った、私達なりの精一杯のオシャレよ。
でも、
私達は、この飾りを渡し合う時、願いを込めていたわ。
無事に帰ってきて。
また会おうね。
離れていても一緒だよ、って・・・・」
ユリハは、自分の髪飾りに手をやり、其処へ込められた願いと絆とを、ゆっくりとした手つきで
「――――貴方は、とても強いわ。
けれど、心配なところもあるから。
・・・・貴方は、諦めないでいてね。
どんなに苦しい時でも、”生きること”から逃げてはダメ。
貴方が大切に想うものは、貴方を欠いた瞬間、大きく傷付き、
託されたユリハの願いは、例によって難儀なものだった。
この世界は過酷であり、その中で戦うのに、理屈など通じない。
だが、
そして、ジェットの
そんな時、勝手に気負って、彼らと心を1つに出来ないで、どうして絶望の只中を駆け抜けられようか。
「・・・・やれやれ、ユリハには、その言い訳はできないな。
ああ、分かった。
その忠告ごと、ありがたく貰っとく」
此度の出来事と、其処から教わった教訓と共に、ジェットは漆黒の羽飾りを受け取ろうとする。
ところが、その手が伸ばされた途端、ユリハは何故か、腕を
きょとんとするジェットを前に、またもいたずらっぽく笑ってみせた。
「・・・・その前に、もう一つだけ、良い?
実は、私にもあったわ。
小さいけれど、叶えたい”夢”が。
・・・・聞いて、くれるかしら?」
「へぇ、そいつは景気の良い話だな。
差支えなければ、知りたいねぇ」
「ふふふ・・・・なら、言わさせてもらうわね。
・・・・あのね――――」
すると、ユリハはそこで、
気が付くと、彼女は仄かに頬を赤く染め、はにかんだ表情になっていた。
その様子に、ついジェットが気を取られてしまったのも、
次の瞬間、ユリハの姿が、不意に
そして、情けなくもジェットは、それに全く反応できなかった。
<ギュゥッ>
そんな感じに、ユリハの香りと温もりとが押し付けられていた。
それも、がっちりと抱きつかれていることで、繊細な力加減やその柔らかさなどが、全身で余すことなく感じられる。
全く
あるいは単に、ジェットが浮ついていた所為なのか。
ともかく、あまりにも普段ならぬ体勢に持ち込まれ、硬直するジェット。
そして、ユリハはその耳元に唇を寄せ、
「――――素敵な人の、”お
「・・・・ぬぇぁ・・・・っ!?」
まさに驚愕、とは、本当に開いた口が塞がらなくなるものらしかった。
未だかつてないほどに間抜けな声を出して、思考停止に陥るジェット。
その間にも、ユリハの息遣いは耳をくすぐり、それに次いで、その反対の耳元を撫ぜられる感触。
<パチリッ>
直後、そんな軽い音がした途端に、ユリハはパッ、と身体を離していた。
「その羽飾り、とっても似合ってるわ!!
・・・・それじゃあ、ね。
必ずまた、会いましょうね・・・・っ!!」
色白な顔を紅潮させ、なんとも
嬉しそうにポニーテールを揺らしながらシャロンの手を引いて、そして何故か、かなり険しい顔のカミルを伴い、行ってしまう。
ジェットは、そんな
――――だが、しかし。
やがて、ハッと我に返って、気付く。
勇猛果敢で鳴らした”クリサンセマムの鬼神”の見る
当然、そこには何とも言えない
「・・・・や、やられたぜ・・・・」
「おとさん・・・・ユリハと、
今しがたの行為の意図が分からぬ故、あまりにも無垢なる
どこでそんな言葉を、と思うジェットだったが、しかしそんなリアクションを押し潰して、
「 はあぁーっ !!??
ジェットっ・・・・もう、信じられないっ!!!!
なんて
「はぁっ!?
く、クレア!?」
先程、生温い視線と評したのを、一部撤回せねばならなかった。
なぜなら、
「
そんな鼻の下伸ばしちゃって、何よっ!!??」
「
今のお前なら、3秒で
「お、おいおいなんだよ、二人して!?
次は、ちゃんと対処するって・・・・!!」
「
次も、あんな事をするつもりなの!?
・・・・み、見損ないましたっ!!
フィム、ダメ!!!!
おとさんから離れなさい!!!!」
「
クレアも、いっしょやる?」
「――――っ!!??(息を呑む音)」
「まぁ、落ち着けって、お前ら。
ユリハ達が今後、ダスティミラーに属するなら、そういう”個人的な感情”も足しになるだろうよ」
「 だっーはははははっ !!!!
ユウゴもたまには
てか、ジェットもキョドりすぎだろダッセっー!!」
「うっせぇぞジークっ!!!!
だ、だいたい、次に会うとしたらユリハだけじゃなく、シャロンとかチビ達も一緒だろうがよっ」
「はははっ、まぁそうだったな。
なら、袋一杯の
またクリサンセマムへ大口注文、だな」
「ついでに、レミとかパーシヴァルん所のチビ共にも、会いに行く約束してんだろ?
その時にも、土産を持ってってやろうぜ。
いいよな、ユーゴ?」
「俺に聞くまでもないだろ。
それとも、ハウンドスクワッドの資金まで使い込むつもりか?」
「そこのチビ達も、フィムみたいな食いしん坊ばっかだったら困るじゃんか」
「むーっ!!
フィム、くいしんぼじゃないもん!!」
「お、じゃあ明日のおやつはお菓子1個だけにして、残りは俺が食っちまうかな~?」
「そ、それは・・・・やぁ~っ!!」
「こら、ジーク。
フィムに意地悪をするな」
「そうだよ。
フィムはちゃんと、決まった分のおやつで、我慢できるもんね?」
「おう、そういえば、最近は料理も少し出来るようになったよな。
この前、クレアと一緒に作ってくれた朝飯、冷めても美味かったぞ」
「いひひ~、おとさんにほめられた!!
フィム、クレアとがんばった!!
・・・・でも、リカルドも、てつだった、です」
「あ・・・・おう。
どうりでなぁ・・・・」
「な、何、その目!?
どうせ、私は料理下手ですっ!!
だいたい、まだ私、さっきデレデレしてたの許してないですから!!
聞いてるんですか、ジェット!!」
「いや、もう蒸し返すなってクレア!!
だいたい、
「なっ・・・・な、なぁ――――っ!!??」
「・・・・全く・・・・鈍感、だな・・・・」
――――高く、青い、晴れ空から注ぐ、陽光。
その下にさんざめく、笑い合う声。
搾取と喪失を
しかし、その勝利も一時のもの。
”フェンリル本部奪還作戦”はこれからが佳境であり、ハウンドスクワッドの行く先には、まだ幾つもの暗闇が待ち受けるだろう。
されど、
彼らが掲げる”夢”への進撃は止まず、また他者から与えられた栄誉で足りる筈もない。
自らの願いは、自らの意志で定め、その未来への道も確かに、己で切り拓く。
自由に、勇敢に、そしてその果てに、誰も予想だにしない勇名を轟かせるのは、そう遠い未来ではない。
ハウンドスクワッドの戦いは、続いていく。
立ちはだかる絶望を駆け抜け、その先の未来を求め続けて。
進み続ける彼らの
―――― GOD EATER 3>>Remember Chains.Fin...