GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#Interlude >> 「An Blood for an Blood.」

 

 

 

――――ハウンドスクワッドが、”ローレライ”を巡る事件に遭遇してから、2週間が経っていた。

 

 

 

フェンリル本部奪還作戦の盟主たる、”グレイプニル”本部施設・”アローヘッド”にて。

 

その総統を預かる男、エイブラハム・ガドリンは、自身の執務室で、とある報告書に目を通していた。

 

――――軍事組織の中にあって、その頂点に位置することを物語る、絢爛(けんらん)略綬(りゃくじゅ)を胸に配した黒の軍服姿。

まだ齢は56ながら、総白髪をオールバックに撫でつけ、右眼は眼帯によって覆われている。

整えられた口髭と顎髭に、(いかめ)しい顔貌(がんぼう)には深い(しわ)が刻まれている。

しかし、それは老いてしまった弱さでなく、数えることすらおこがましい修羅場を長年くぐり抜けて来た、胆力を証すものであるようだった。

 

片方の眼窩(がんか)にはまった鍛鉄(たんてつ)の刃のような眼で、ガドリンは灰域踏破船・”クリサンセマム”が遭遇したトラブルの顛末を読み(ふけ)っている。

 

豪奢(ごうしゃ)な椅子に腰掛け、険しい表情のまま、小一時間程もそうしていたろうか。

 

ふと、ガドリンは細く長い溜息と共に、天を仰いでいた。

 

歴戦の勇士たる迫力を(かも)していた表情は、その途端、大きな落胆によって弛緩(しかん)していた。

 

そして、その理由とは、このトラブルによって奪還作戦へ17%の遅延が生じたことでも、非合法とはいえ貴重なミナトが1つ、失われたことについてでもない。

 

「・・・・残念だ、ニウロフ・トレイズ博士。

貴殿の”ローレライ”は、確かにこの世界を救い得る可能性であった。

平和と安寧とは、無償で手に入るものではない。

だが、極少数の挺身(ていしん)でそれが為せるのであればと、便()()を図っていたが・・・・彼もまた天命に無かった、という事なのだろう」

 

どのような形であれ、人生を賭した(こころざし)の末路を(しの)び、ガドリンは厳かに呟いていた。

 

酷く疲弊し、哀しみをも伺わせる深い声が、執務室に消えて行く。

 

ややあって、部屋の隅に控えていた、機械人形めいて冷たい眼差しの秘書官が、慇懃(いんぎん)に進み出ていた。

 

「博士の処遇は、如何しますか?」

 

彼の問いに、ガドリンは、まるでそれまでの憂いが幻だったかのように、即座に、そして冷徹に答える。

 

「”処分”せよ。

過程は後から(あつら)え、()()()()()を漏らさせてはならない。

そして――――」

 

言葉を切り、ガドリンは情報端末へ手を伸ばし、別のデータを呼び出させた。

 

画面に表示されたのは、ミナト・”グラジオラス”における騒動において、驚嘆すべき活躍を見せたAGE部隊。

 

”ローレライ”を否定し、群らがる夥しい灰域とアラガミを独力で突破し、そして”未確認の巨大アラガミ”を少数精鋭で討伐せしめた。

 

即ち、クリサンセマムの保有する、唯一無二の戦闘集団――――”ハウンドスクワッド”である。

 

ガドリンは、その一人ひとりの顔を目に焼き付けるように見詰めた後、瞑目(めいもく)していた。

 

「作戦の最終フェイズは、必ずや遂げられることだろう。

彼らは間違いなく、この北欧一帯において最強の戦力だ。

・・・・そして、いざ、本部奪還が叶ったなら。

グレイプニルは・・・・否、”私”は、全力で邁進(まいしん)する。

”赤の女王”の足取りは、掴めているか?」

 

限界灰域内部(げんかいかいいきないぶ)に、拠点を構えているのは間違いありません。

また、ハウンドスクワッドに対して、何度か接触を図った痕跡も見られます。

釣り上げる用意も、整っていますが・・・・」

 

「・・・・今は、捨て置け。

”その時”が来れば、彼らにも()()してもらわねばならぬからな。

・・・・下り給え」

 

敬礼で応じた秘書官が退室し、執務室は再び静寂に包まれる。

 

やがて、その中にまた、か細い息遣いが揺らめいた。

 

”グレイプニル総督”から、1人の人間へと戻ったガドリンの、憂鬱と後悔、悲嘆。

 

されど、それらを噛み潰し、不要なものとして吐き出すかのような、深い溜息だった。

 

「平和の為には、犠牲が・・・・()するものが、必要なのだ。

そして、焼け(ただ)れたこの星の救世主となる、とは・・・・やはり、”血の海”に沈む他には無いのだろうな」

 

先程までの厳格さとはまた違った、平坦な声だった。

 

疲れ果てて、感情までも麻痺させたままに呻く声は、ガドリンの心底から溢れ出す告悔(こくかい)であった。

 

「――――全ては、この母星(ははぼし)を救う為。

友を(たばか)り、愛する者を裏切り、不浄と罪過(ざいか)(まみ)れてもなお、世界は堕ちてゆくばかり。

・・・・何も、戻らぬ。

”血”は、既に流された。

地獄すらも、(おぼ)れる程に。

その痛みに比べたなら・・・・私は、どのような汚名も恥辱も、甘んじて受け入れよう」

 

ガドリンは、その左腕を胸に当て、幾つもの華々しい略綬を覆った。

 

その右腕に嵌めた、封じられた腕輪と、義足に変えた左下腿(ひだりかたい)もまた、疼くようだった。

 

それら全てが、数多の苦難を生き抜いてきた勲章であり、かつて”神機使い(ゴッドイーター)”として戦い、身を尽くしてきた日々を物語る。

 

――――だと云うのに。

 

そんな高潔な(こころざし)がどれほど集おうとも、この世界を覆う”厄災”を拭う事は出来なかった。

 

謀り、奪い、()()()()()()()()人間の卑小さは、ただ時間と犠牲とを積み重ねるばかりであった。

 

そのような(ごう)を思い知らされてきたガドリンは、やがて気付いていた。

 

この、神話の如き巨大な破滅を越えるには、その残酷さに見合う”決断”が要ると。

 

かつて、方舟(アーク)に乗せた生命(せいめい)を残し、全てを滅亡へと追い()った”神の裁き”のように。

 

そして、ただの(ヒト)がその行いを(かた)るなら、あまりにも傲慢(ごうまん)凄惨(せいさん)なる大罪となるだろうという事も。

 

 

 

「――――ならば、私は”神”と()ろう。

絶大であり、残酷なるもの。

人の願い、一つの命など一顧(いっこ)だにせず、大いなる破滅と再生を司るもの。

恐るべき犠牲の先に、尊き未来を繋ぐものに」

 

 

 

――――1人の男の意志が、世界に波紋を生じさせる。

 

やがて、それは大きな波乱となって伝播し、激しい衝突を呼ぶ。

 

それは救世の決断か、虐殺の肯定か。

 

立てられた十字架に従うのが善で、背くのは悪なのか。

 

この地球(ほし)に満ちる血と痛みを、如何(いか)にして(あがな)うのか。

 

審判の時は、砂時計の粒が落ちるように、ゆっくりと、しかし確実に迫るのであった。

 







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