GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#1 >> 「Jet Black Stream.」

・強襲討伐ミッション 「烙黒(らくこく)

対抗適応型(たいこうてきおうがた)アラガミの一種、”ニゲル・バルムンク”討伐要請を発令する。

数多の戦闘機械を融合(ゆうごう)させた黒い猛獣は、その鉄甲(てっこう)の身体に凄まじい高熱を内包している。

並外れた凶暴性と攻撃力に注意を払いつつ、確実に討伐せよ。

 

 

 

「作戦時間は5分・・・・一気呵成(いっきかせい)、ってか。

まぁ、性には合ってるな」

 

 

 

<――――作戦ポイントに、AGE2小隊、8名の到達を確認――――>

 

 

 

対抗適応型アラガミと分類される特殊な個体により、渓谷の地は活性化した高濃度灰域(こうのうどかいいき)に包まれている。

 

”オラクル細胞”と呼ばれる、この世のあらゆる物体を捕喰《ほしょく》する微小生命体の舞い上がる様が、この黒い風を現していた。

 

吹き抜けるただ一陣の空気にすら、死の灰は無数に入り混じり、生物どころか鋼鉄(こうてつ)の車両や、地形すらも餌食とされてしまう。

 

AGEこと、”Adaptive God Eater”(アダプティブゴッドイーター)程の抵抗力がなければ近付くことも出来ない、この世界の地獄の核心である。

 

 

 

<――――ミッションエリア内に、討伐目標を確認。

事前観測情報との相違、無し――――>

 

 

 

それほどの極地の深奥で待ち受けるは、人間をはるかに超える巨体に、数多(あまた)機甲(きこう)を取り込んだ黒い獅子。

 

唸る鋼鉄の身体は、裏腹(うらはら)に極めて生物的(せいぶつてき)に動作し、凄まじい凶暴性とスピードを発揮する。

 

近年になって発生した大型灰域種アラガミ・”バルムンク”の進化種と見られ、数多いアラガミの中でも破格の戦闘力を持つと認知されていた。

 

 

 

<――――全AGE、拘束解除。

神機(じんき)着装(ちゃくそう)せよ――――>

 

 

 

その討伐を果たすべく灰域の只中(ただなか)に結集する、何れも年若い少年少女達。

 

体内に埋め込んだ”偏食因子”の作用により、オラクル細胞の捕喰に対して著しく強く、また常人を遥かに超えた身体能力を持つ。

 

しかしながら、彼らAGEがアラガミを討つ”切り札”と見なされる真価は、それではない。

 

司令部より命令が下った瞬間、両腕の大きな手枷(てかせ)が音を立てて分離する。

 

即ち、普段は拘束具となっている一対(いっつい)腕輪(うでわ)が解かれるや、AGE達は皆、それぞれ持ち込んだ大仰なケースから、巨大な武器を取り出した。

 

それは、身の丈を超える(ブレード)や、あまりにも長大な(スピア)

 

あるいは寒気のするように鋭利な大鎌(サイス)や、重厚な(ハンマー)と、種類は様々。

 

だが、それらこそはあらゆるものを捕喰するオラクル細胞の脅威(きょうい)を飼い慣らした成果であり、AGE達の持つ、真の牙。

 

危うい均衡の上で人の手の中へと身をやつすアラガミ――――生体兵器・神機だった。

 

 

 

<――――此方オペレーター、ナビゲーションを開始します。

”ハウンドスクワッド”、聞こえますか?>

 

 

 

いざ作戦開始点に着くや否や、この修羅場に似つかわしくない、可憐な少女の声が聞こえる。

 

通信機に触れ、少し困惑した様子を見せるレミ、パーシヴァル、ケイ。

 

しかし、ジェットにとっては馴染(なじみ)の声であり、朗々と応えていた。

 

「ああ、通信良好だ、エイミー」

 

<無事に到着されたようで、何よりです。

ですが、どうか気をつけてくださいね。

なにせ、()()()()()()()()から名指しであてがわれたミッションですから>

 

「その割には、あんまり歓迎されてなかったけどな。

うるさい、って怒られたのも久々だ」

 

エイミーと呼ばれた少女は、通信機の向こうで(すず)の鳴るように笑う。

 

作戦地域を見下ろす位置で、尚も軽口の絶えない”リーダー”の背中へ、背後のパーシヴァルが聞えよがしに呟いた。

 

「ちっ・・・・此処まできても緊張感のない()()だぜ」

 

<あ、す、すみません・・・・コホンっ。

部隊の皆さんのバイタル、及びミッションの状況は随時、私からお伝えします。

簡単なミッションとは言えないでしょうが、皆さんならきっと大丈夫!!

一緒に頑張りましょうね!!!!>

 

「あ、えと・・・・ありがとう、エイミー・・・・さん」

 

親身な言葉を掛けられ、驚いた様子のレミ。

 

(そういや、俺達も最初は戸惑ってたっけな・・・・)

 

ふと懐かしい頃を思い出しながら、ジェットは担いできたケースを、些か(ざつ)に地面へ横たえる。

 

「さぁてと」

 

そして、解放スイッチを足蹴(あしげ)にしてケースを開き、己の神機(じんき)を掴み出す。

 

ジェットのそれは、身の丈を超える長さの一振(ひとふ)りではなく、揃いの刀刃(とうじん)を両手に携える二刀流(にとうりゅう)であった。

 

その武器の銘は、噛み合わす刃(バイティングエッジ)

 

分厚い曲刀状の(ブレード)部は、取り回しと速さを重視して比較的小型であるが、それでも人の胴体を優に越える刃渡(はわた)りである。

 

生体兵器・神機の構成部品を2つに分割した状態で使用する、最も新しい世代の制御形態でもあった。

 

「ハウンド1より各員。

さっきも言ったように、ポイントマンは俺だ。

ハウンド2(レミ)(ケイ)は後方からの援護。

ハウンド3(パーシヴァル)には、中間での陽動を任せる。

得意分野、見せてもらうぜ」

 

 

 

臨時の部隊長となったジェットの言葉を受け、部下の3人はめいめいに神機を構える。

 

 

 

「――――時間だ」

 

 

 

そして、ケイが呟くや否や、ミッションクロックが動き出す。

 

同時、高台からAGE達が次々に飛び出していく。

 

中でも、誰よりも早く、そして力強く飛翔するジェット。

 

激しい灰嵐を突っ切って行く風圧に、首に巻いた漆黒のマフラーが音を立て、大袈裟に羽撃(はばた)いた。

 

 

 

”猟犬部隊”(ハウンドスクワッド)、行動開始するぜ!!」

 

 

 

<――――”ハウンドスクワッド”、”フォーゲルスクワッド”、2隊の作戦区域への潜行(せんこう)を確認。

ミッション時間、残り0434。

撤退限界時間までに、ミッションを遂行してください!!>

 

 

 

(フォー)マンセルを組み、2小隊形で渓谷を進むAGE達。

 

その前方に、遂に対抗適応型アラガミ、”ニゲル・バルムンク”が立ちはだかり、耳を(ろう)する雄叫びを上げた。

 

近くにいれば吹き飛ばされるような音圧で、俊敏に近寄ってくる矮小(わいしょう)人型達(ひとがたたち)を脅かす。

 

その最先鋒に、誰よりも早く、果敢に斬り込む姿があった。

 

「おぉらっ!!」

 

人間1人よりも大きな黒獅子(くろじし)の頭へ、突進ざまに二刀流(バイティングエッジ)を叩きつけ、走り抜ける。

 

黒い長布をその背にたなびかせるのは無論、ジェットだ。

 

「凄い・・・・なんて速さ・・・・!?」

 

「速すぎだ。

自分で言った援護射撃(えんごしゃげき)を振り切る勢いだぞ」

 

ジェットという嚆矢(こうし)に続き、次々と他のAGE達も飛びかかった。

 

各々の神機が唸りを上げ、黒獅子の鉄甲を打ち叩く。

 

その一方で、黒獅子を囲い込むように動き出す者達もいた。

 

レミとケイも、対象の側方に陣取り、神機を構えさす。

 

すると、それぞれの(スピア)(サイス)が、唐突に大きく形を崩した。

 

重厚な穂先が折り畳まれて収縮(しゅうしゅく)し、剣形態(ブレードフォーム)が崩れる。

 

変わって、その背後にあった別のパーツが拡大(かくだい)、展開しながらせり出す事で、銃形態(ガンフォーム)を完成。

 

プロセスは瞬く間に完了され、神機は長柄武器(ポールウェポン)から、脇構(わきがま)えに敵を睨む大砲(たいほう)めいた姿へと変形したのだ。

 

そして、2人がその先端を黒獅子へ差し向けるや、マズルフラッシュが発生。

 

同じく、十字砲火の位置取りを行った他のAGE達も合わせ、たちまちに轟々という援護射撃が開始される。

 

狙い澄まして放たれる、オラクルエネルギーの弾丸(バレット)が、次々に黒獅子を打ち叩いた。

 

「くそっ、びくともしてねぇぞっ!!

あんな灰域種を、あと3分くらいで倒せってか!?」

 

「大丈夫!!

皆、いるんだもん!!

・・・・巻き込まれないで、くださいね!!」

 

激しい銃声と閃光が入り乱れる弾幕に、青白く野太い光条が異彩を放つ。

 

レミと、他に2名が使う”レイガン”という銃身パーツの特性であり、充填されたオラクルエネルギーを継続的に照射する射撃攻撃だ。

 

ケイの使う”スナイパー”銃身と比べると使い勝手や即応性に劣るも、こと足を止めての火力供与に関しては随一を誇っていた。

 

「おー、いい感じだな。

んじゃぁ、こっちも派手にやるぜ、パース!!」

 

淀みなく役割をこなす仲間達へ一声かけたジェットは、剣形態(ブレードフォーム)の神機を構えて更に距離を詰める。

 

他のAGE達と共に、黒獅子の懐へ飛び込み、揃いの大きさの二刀で前脚を連続で斬りつける。

 

これもまた、実際に損害を与えるのはその刃ではなく、攻撃の瞬間に表面(ひょうめん)励起(れいき)されるオラクル細胞の効果が大きかった。

 

即ち、近接攻撃と同時にその接触面を捕喰《ほしょく》することで、サイボーグめいて強靭な黒獅子を”()()いている”のであった。

 

「っち!!

気安く呼ぶんじゃ――――」

 

ジェットに続き、神機を銃形態(ガンフォーム)へ変形させて駆け出すパーシヴァル。

 

小癪そうながら(ねら)いは淀みなく、側面からの銃火に劣らぬ激しい連射を始める。

 

「――――無ぇってんだよぉ!!!!」

 

装備する”アサルト”銃身の特性である連射弾(れんしゃだん)で、黒獅子の顔周りを撃ちまくる。

 

そうして注意を引き、持ち前の動作の軽さで翻弄できればしめたものだ。

 

黒獅子は痛みか、それとも煩わしさにか激しく咆哮する。

 

滞りなく注意を引けたらしいが、代償としてこの怪物から本気で追い回される羽目になる。

 

黒獅子が身を低くするや否や、背中のブースターと呼ばれる部位が展開し、煌々と炎を吹き始める。

 

「やっべぇ・・・・!?」

 

パーシヴァルは銃撃を中断し、逃げの一手。

 

同時に、黒獅子が凄まじい速さで飛び掛かった。

 

「っ、パースさん!!」

 

レミとケイの援護射撃が飛ぶ。

 

その着弾の甲斐もあってか、横っ飛びに避けきるパーシヴァル。

 

だが、黒獅子は素早く向き直り、体勢を崩す獲物を執拗(しつよう)に追い立てる。

 

ブースターから吐き出す大推力に飽かせた連続突進に、遂に捉えられるパーシヴァル。

 

ガゴンッ、と音を立て、痛々しく撥ね飛ばされたように見えたが、その損傷は軽微だった。

 

仲間達が稼いだ時間で神機を変形(へんけい)させ、両側面に分割して装着された防盾(シールド)を構えたお陰だった。

 

展開させて構えることで、装甲表面にオラクル細胞を励起(れいき)し、アラガミの攻撃と、其処からの捕喰(ほしょく)を抑える事が出来るのだ。

 

「ぐ、くそっ、どいつもこいつも・・・・!!」

 

しかし、AGEの身体能力であっても減じきれない甚大な衝撃に呻くパーシヴァル。

 

黒獅子は更に獰猛に、爪を振り立てて襲いかかる。

 

顎を開き、牙を剥き出す獅子頭に、その時。

 

重い銃声を伴い、眼にも止まらぬ高速弾(こうそくだん)が突き刺さった。

 

「バーンっ、ってな」

 

その射手とは、茶化した調子で長大な”スナイパー”銃身を構えるジェット。

 

黒獅子は、燃える篝火(かがりび)のように鮮烈な朱色の眼光を向ける。

 

だが、その凶暴さにジェットは僅かに鼻を鳴らすのみで応え、再び神機を切り離し、二刀流へと変えて突進する。

 

<敵アラガミより、高熱反応!!

注意してください!!>

 

やにわにエイミーが警告を発した、瞬間。

 

まさにその通り、黒獅子は僅かに身構えた後、長い尻尾の先端(せんたん)に強烈な赤い光を纏わせ、飛び退(しさ)る。

 

体長8mを超える巨躯が高々と宙返りを行えば、その動作に付随して振り回される()からの高熱放射が、広範囲を薙ぎ払う。

 

まるで炎の剣を斬り払ったかのように、近接戦を仕掛けていたAGEの2人が悲鳴を上げて吹き飛ばされる。

 

その光景こそが黒獅子の、”アラガミ”の真の脅威の一端だった。

 

人間を遥かに凌駕する巨体での格闘以上に、捕喰(ほしょく)した物体の形質を取り込んだ種々の異能を扱いこなす。

 

黒獅子の場合、内包する超高熱を利用した熱線放射や火炎攻撃を繰り出し、掠るだけでも致命打に成り得る。

 

「ああっ!?」

 

「狼狽えるな、ハウンド2。

あれで終わるほど、AGEはやわじゃない」

 

ケイの言う通り、偏食因子によって(もたら)される体力、回復力は目覚ましく、適切な治療が間に合えば回復は見込める。

 

其の為にも、このまま黒獅子と戦い続け、体勢を立て直す時間を稼ぐ必要があった。

 

「――――まだまだこれから、ってな!!」

 

高熱と塵埃(じんあい)の中を突っ切り、黒い長布を羽撃かす姿が(はし)る。

 

ジェットは、構えた軽盾(バックラー)で炎の剣を捌き、果敢に肉薄した。

 

すると直後、振りかぶった右手の神機が、急激に膨張(ぼうちょう)を始める。

 

刀刃と装甲の片割れで(おさ)え込まれていた”黒く生々しい物体”が込み上げ、しかもそれは直ぐさま巨大なハサミのように二股に開き、恐ろしい(うな)(ごえ)を発する。

 

 

 

――――振り返って、神機とは制御されたアラガミであり、剣、銃、盾という3形態を使い分ける、生きた兵器である。

 

そして、神機にはもう一つ、凶暴な本性(ほんしょう)が隠されている。

 

ジェットは、直前の大袈裟な動作で足を止めた黒獅子を見切り、呼び覚まさせた”神機本来(じんきほんらい)衝動(しょうどう)”を繰り出した。

 

 

 

()らっとけ!!!!」

 

 

 

姿を表した真っ黒な大顎(おおあご)が、黒獅子の鉄甲を食い千切った。

 

神機の本体、捕喰形態(プレデターフォーム)を露出させての直接攻撃を行い、活動しているオラクル細胞を捕喰。

 

収奪したエネルギーは、神機だけでなく使い手側にも即座に反映される。

 

その一連のプロセスこそ、ジェットたち神機使(じんきつか)いが、”神を喰らうもの”――――ゴッドイーター(GODEATER)という別称を以て畏怖(いふ)される、所以(ゆえん)

 

 

 

<――――ハウンド1、”神機解放”(バースト)!!

皆さん、此処から反撃を!!>

 

 

 

神機を構え直すジェットは、異様な輝きを身に纏っていた。

 

読んで字の如く、”荒ぶる神”を喰らうことで活性化した神機からのエネルギーが、その使い手の能力をも限界以上に発揮させる。

 

更なる強さと速さを得て、尚も有り余る力を誇示するように、制御デバイスである両の腕輪からは金色の光が漏れ出ている。

 

”神機使い”(ゴッドイーター)の戦いには欠かせぬ、好機を呼び込む(たかぶ)りに、ジェットは不敵に笑った。

 

 

 

「よっ、とぉ!!」

 

 

 

ジェットは弾丸のように飛び込み、黒獅子の顔面へ装甲をぶち当てた。

 

”ダイブ”と呼ばれ、展開させた盾の防御力をそのまま突進打撃に転用する戦闘術である。

 

更に、そこから常識外れの身体能力での二段跳躍(にだんジャンプ)を行い、離脱。

 

この打撃と、たなびく黒布(マフラー)に目を引かれた黒獅子は、狙い通りにジェットを追い、両前脚の爪を振り翳す。

 

「そこだろっ!!」

 

その背後を突き、パーシヴァルを含めたAGE達も捕喰攻撃を敢行。

 

同じく”神機解放”(バースト)による強化状態に移行した。

 

だが、そうしてやられっぱなしでいるほど、敵も甘くはない。

 

<対象、オラクル反応増大(はんのうぞうだい)!!

活性化しています!!>

 

絶え間なく攻撃を受け続ける黒獅子は、遂に激憤(げきふん)に達した。

 

ただ威嚇の為の大声ではない、憤怒を込めた咆哮(ほうこう)は、更に激烈な熱波を周囲へ放ち、灰域の空気を揺るがさせた。

 

「へっ、そんなに怖い顔すんなよ。

ってなると、次は――――」

 

この期に及んで未だ呑気なまでのジェットを遮り、通信機の向こうでエイミーが激しく叫ぶ。

 

 

 

<敵、”捕喰攻撃”(ほしょくこうげき)来ます!!!!

警戒してくださいっ!!!!>

 

 

 

一段と切羽詰まった叫び声に見合う、この戦闘における最大のリスクが起ころうとしていた。

 

灰域という極限環境に適応し、強力に進化した灰域種(かいいきしゅ)アラガミの能力は、正に規格外。

 

神機使いと同じく特殊な”捕食攻撃”を行うことで、戦闘中に急激に、かつ絶大な強力化を果たすのである。

 

黒獅子は低く、力強く四肢を突っ張り、大仰なまでに力を溜め込み始めた。

 

高まる膂力(りょりょく)に身体が小刻みに張り詰め、背部のブースターからは禍々しい黒い波動がひっきりなしに放たれている。

 

「っ、下がれ!!!!

アレは防げないぞ!!!!」

 

「絶対に避けて!!!!

当たったらただじゃ済まないわよ!!!!」

 

 

 

――――だが、しかし。

 

一斉に他のAGE達が引き下がるのに逆らい、ひたすらに前へと∣奔《はし》る、漆黒(しっこく)があった。

 

 

 

「はっ、あいつっ!!??」

 

「バカな・・・・!?」

 

「ジェットさんっ!!??」

 

 

 

――双刃衝破(そうじんしょうは)――

 

 

 

三度、ジェットは躊躇いなく吶喊(とっかん)し、黒獅子の鼻先へ、鮮やかな翠緑に光る二刀を叩き下ろす。

 

”バーストアーツ”と呼ばれ、”神機解放”(バースト)中のオラクルエネルギーの高まりを神機(じんき)に纏わせて繰り出す、AGE特有の戦闘術。

 

それは、アラガミの超自然的能力(ちょうしぜんてきのうりょく)にも匹敵する異能だったが、その程度で止まる灰域種ではない。

 

黒獅子の隻眼(せきがん)が、一際に強く光る。

 

その前方に赤い探査光(たんさこう)が伸び行き、直線上の全てが破滅的な威力に晒されることを予告する。

 

それでも尚、真っ向構えるジェットは、不敵に笑ってみせた。

 

 

 

()るか()るか、ってな。

さあ・・・・ヤろうぜっ!!」

 

 

 

瞬間、横っ飛びに身を(かわ)したジェットの傍を、赤黒い雷光(らいこう)が奔り抜けた。

 

そう錯覚する程の、甲高いソニックブームを伴う黒獅子の”捕喰攻撃”だ。

 

凄まじいブースターの推力と身体能力で、先の突進より倍以上(ばいいじょう)も早い。

 

しかも1度は避けようと、その先で極めて鋭角に折り返し、逃げる獲物へ瞬時に追い縋る。

 

2度、3度と、矢継ぎ早の超高速突進を、高々と飛んで躱すジェット。

 

だが、黒獅子は更に折り返し、無防備な着地点へ4度目の突進を狙い定める。

 

 

 

「「「 ジェット っ!!!!」」」

 

 

 

絶対の死地(しち)と、誰もが息を呑む。

 

その刹那、しかしジェットは確信(かくしん)を以て()けた。

 

無防備な空中で、瞬時に装甲を構え、激しく加速する。

 

空を斬り裂く鋭さで、他でもない(まえ)へ。

 

一直線に襲い来る猛獣(もうじゅう)息吹(いぶき)を貫く、黒い奔流となって。

 

 

 

<ガゴォンッ・・・・!!!!>

 

 

 

重々しい()()()が響き渡った。

 

そして、必殺の牙を弾かれ、悲鳴を上げてたじろいだのは黒獅子の方だった。

 

 

 

「――――”最大防御効果”(ジャストガード)・・・・!!??」

 

 

 

近距離にいたパーシヴァルが、その激突の()()()()に気付いて声を上げていた。

 

本来、灰域種アラガミの捕食攻撃は、神機での防御すらも貫く。

 

だが、装甲パーツを構えるその瞬間(しゅんかん)

 

オラクル細胞が励起する()()()()()()は、正しくあらゆる攻撃を弾き返す。

 

またその理屈は、装甲を構えて突進するダイブにも当然、当てはまる。

 

 

 

「だからって、どんなクソ度胸だよ・・・・っ!?」

 

 

 

失敗すれば自陣が壊滅(かいめつ)しかねない程の脅威に、瞬く間ほどの”一瞬”を叩きつけ、捻じ伏せてみせたジェット。

 

続けざま、その衝撃を利用して黒獅子の頭上へ跳び上がる。

 

装甲展開(そうこうてんかい)を解除した二刀(にとう)を、次いで素早く柄尻同士(つかじりどうし)を繋ぎ合わすや、その柄が一気に長く伸びる。

 

それは、”噛み合わす刃”(バイティングエッジ)の真の姿。

 

二刀を”合体”させ、両端に刃を備えた長柄武器へと変形させて振るう、全力攻撃形態。

 

「覚悟は良いか?」

 

ジェットは、見出した勝機へ一喝し、二刀こと”薙刃形態”(ていじんけいたい)ごと激しく回転し、突撃する。

 

紅と蒼、オラクルエネルギーの二重螺旋を纏う(やいば)がバーストアーツの(ひらめ)きを現し、黒獅子を斬り裂き続けながら降下(こうか)

 

 

 

――龍飛鳳舞(りゅうひほうぶ)――

 

 

 

そして、着地と同時に昂揚(こうよう)は極限に高まり、これを渾身の斬り払いを以て、解放。

 

 

 

「うおぉらぁ!!!!」

 

 

 

轟音をたてて爆裂した奔流が、黒獅子の前足を深々と(えぐ)る。

 

その瞬間、度重なった激しい攻撃に耐えかねた部位(ぶい)が、オラクル細胞の散華(さんげ)に因って大きく欠損する。

 

結合崩壊(けつごうほうかい)と呼ばれるこの現象は、如何なるアラガミでも、著しい負荷によって倒れ込む程である。

 

「攻め時だぜ、皆っ!!!!」

 

遂に訪れた好機、そしてジェットの(げき)に、仲間達が一斉に動き出す。

 

各々の神機の刃を振り、引き金を引き、動けない黒獅子へ更に痛打(つうだ)を重ねる。

 

<敵、昏倒!!

オラクル反応、弱まっています!!>

 

「だぁりゃぁ!!」

 

腹の底から気合を張り上げ、パーシヴァルが大剣(バスターブレード)を叩きつける。

 

(やいば)に精神集中を以て練り上げたオラクルエネルギーを纏わす、渾身のチャージクラッシュが(うな)り、黒獅子のブースターを叩き壊す。

 

「ジェットさん!!

これ、使ってください!!」

 

捕喰攻撃を仕掛けたレミは、そのまま引き下がって()()()()()()()()()銃形態(ガンフォーム)を向ける。

 

それは銃撃ではなく、アラガミから奪取したエネルギーを濃縮変換し、仲間へ”神機連結解放”(リンクバースト)を譲渡するためだ。

 

「ははっ、良いねぇっ!!

んじゃぁ、ケリ着けるかっ!!」

 

 

 

――カオティックドライブ――

 

 

 

更なる能力強化を得たジェットは、青白いオラクルエネルギーを纏った薙刃(ていじん)の連撃で、絶え間なく黒獅子を斬り刻む。

 

舞い踊るような身体捌(からださば)きに、両端の刃を風車(ふうしゃ)のように振り回す(わざ)が合わされば、他の神機とは一線を画す、嵐の如き連続攻撃を顕現させる。

 

だがしかし、AGE達の一気呵成の攻撃を受けても(なお)、黒獅子は獰猛さを滾らせ、立ち上がった。

 

渾身の捕喰攻撃を封じられ、結合崩壊を起こされても、まだ沈黙するには早い。

 

しかしその時、怒れる橙色(だいだいいろ)の眼光の直ぐ前で、激しい白光が炸裂する。

 

一歩下がった位置で射撃に徹していたケイが、黒獅子の鼻先へ一握(ひとにぎ)りほどの物体を投げ込んだ。

 

スタングレネードという装備で、強力な音と閃光とでアラガミの鋭い感覚を一時的に麻痺させる代物である。

 

「逃がすな、ハウンド1!!」

 

おう、という(とき)で応えたジェットの神機に、一際強い(ひらめ)きが起こった。

 

 

 

”長薙刃形態”(ちょうていじんけいたい)に、”アクセルトリガー”もバッチリだ。

そんでもって――――)

 

 

 

<――――ハウンド1,神機喚起率(じんきかんきりつ)100%!!

" GELGYA(ゲルギヤ)システム "、第一段階発動(ファーストドライヴ)!!>

 

 

 

更に∣延伸《えんしん》する薙刃へ、止めどない活性化の光が宿る。

 

(たかぶ)りの(きわ)みに至った神機を掲げ、黒い疾風が吹き荒れる。

 

勝機は今。

 

此処に、()ける。

 

 

 

「――――終わってみれば、呆気ないな」

 

 

 

果たして、一度傾いた優劣は、そのまま覆されることなく決着へ至る。

 

AGE達の猛攻により、アラガミという(かたち)で活動できなくなるほどの損傷を受けた黒獅子(くろじし)は、遂に断末魔を上げ、どうと崩折れたのだった。

 

 

 

<討伐対象の沈黙を確認っ!!

この作戦を、此処まで鮮やかに成功させるなんて・・・・凄いですよ、皆さん!!>

 

「何だ、一安心したのかよ、ケイ?」

 

「・・・・そうだな。

正直、こうも簡単に済むとは思っていなかった」

 

「だから言ったろ?

俺達なら仕留められるってよ」

 

「怪我した皆も、そこまで酷くないって!!

大勝利、ですね!!」

 

<はいっ!!

”ハウンドスクワッド”の名前に恥じない、大戦果ですよ!!>

 

 

 

激闘を制したAGE達は、皆どこか気が抜けた様子で後始末に取り掛かろうとしていた。

 

ニゲル・バルムンクほどのアラガミから得られる資源は希少であり、その骸に捕喰形態(プレデターフォーム)を食いつかせ、身体組織や”コア”と呼ばれる心臓部を回収する。

 

その後は、達成感を顕に仲間達と語らったり、静かに気分を落ち着かせようとしていたりと、思い思いにして帰投作業開始(きとうさぎょうかいし)を待つのだった。

 

 

 

「――――即席のチームだったが、みんな大した動きだったぜ。

このまま、ハウンドスクワッドに加わって欲しいくらいだ」

 

いつでも自信に満ちたジェットの顔が、皮肉(ひにく)そうな笑みに変わっていた。

 

どんなに実績を詰み、価値を示しても、ままならないのがAGEの身の上である。

 

本来なら、名前ですらなく通し番号(ロットナンバー)で管理される”所有物”であり、その関係性を覆すのは容易ではない。

 

かく言うジェット自身も、様々な数奇な巡り合わせが無ければ、かつての∣拠点《ミナト》であるペニーウォートの支配を脱することは難しかったろう。

 

「・・・・此処でお別れ、なんですね」

 

今までの天真爛漫さを萎ませて、俯いてしまうレミ。

 

そんな彼女を慰めようと、ジェットは気弱そうな頭を軽く撫でていた。

 

「しみったれる必要なんざねぇさ。

俺達は皆、今日もきっちり生き延びて、仲間のところへ帰る。

ついでに、こうして勝ち取ったものを持って、その先にもまだまだ俺達の(みち)(つな)がってる。

だろ?」

 

てらいなく仲間達へ声を掛けるジェット。

 

パーシヴァルだけはそんな言い分に、落ち着かなさそうにしながら反発した。

 

「余計なお世話だってんだよっ。

いちいち説教臭いのは、ケイだけで十分だぜ」

 

「・・・・全く、心外だな」

 

「はっはぁ、仲間にそんなツレないこと言うなよ」

 

「はぁっ!?

誰が仲間だ、誰がっ!?」

 

「俺達のことに決まってんだろ、パース♪」

 

「おま、気安く呼ぶなってんだよ!!」

 

「・・・・あたし達も、仲間、ですか?」

 

「おう。

この場限(ばかぎ)り、なんてケチなことは言わねぇ。

またなんかやばいことになったら、いつでも呼びな。

ハウンドスクワッドが必ず駆けつけて、なんとかするからよ」

 

鼻息を荒くするパーシヴァルと、少し不思議そうに見上げてくるレミ。

 

ジェットは、虚勢や嘘など無い、頼もしい笑みで応えた。

 

此処にいる少年少女達は皆、AGEとして明日をも知れない厳しい境遇にいる。

 

隣人ですら、いついなくなるか分からないこの時代に、離れ離れになる他人の言葉を、果たしてアテにできようか?

 

けれど、レミも、パーシヴァルも、ケイも、ジェットが語る”仲間”(なかま)という繋がりを否定しようとはしなかった。

 

それくらいに、彼の示した強さと温かさは、頼もしいと思わせるものだった。

 

 

「――――それが、余計なお世話なんだよ。

でも、まぁ・・・・お前なら足手纏いにはならなそうだって・・・・覚えといとやるよ、ジェット」

 

「また、会えたなら・・・・ヨウやジュノ達にも会ってみてください。

貴方みたいな人もいるんだって、教えてあげたいんです」

 

「そいつは楽しみだな。

そん時は俺の仲間達も連れて行くぜ。

それまで、元気でやれよ」

 

「・・・・っ、んぅ、もう!!

それはともかく、子どもみたいに頭、ずっと撫でないでください!!」

 

「あぁ、悪い悪いっ。

レミを見てると、どうも心配になっちまって」

 

「ああっ、またそんなこと言ってるっ!?

あたし、これでも19なんですよっ!!」

 

 

 

本人がなんと言おうと、やはりこの中では最も幼く見えるレミに、謝りつつも面白がっているジェット。

 

バレバレな態度にレミは猛然と食って掛かるも、結局は2人楽(ふたりたの)しそうに騒ぎ合っていた。

 

一方、そんなじゃれあいぶりを眺める他の面々は、輪の外で静かに声を交わしていた。

 

 

 

―――― 凄い、戦い方だったな

 

あんなキレた突っ込み方・・・・命知らず、っていうか・・・・

 

あれが・・・・”クリサンセマムの鬼神(きしん)”、なのね ――――

 

 

 

「・・・・"オニ"、か」

 

 

 

珍しく胡乱(うろん)な独り言を漏らした相棒に、パーシヴァルは振り返った。

 

ケイは、ジェットを一瞥し、徐ろに言葉を続ける。

 

 

 

「俺の産まれた極東(きょくとう)では、鬼神(デモン)は、(おに)とも言われる。

大体は邪悪な化け物扱いだが、()()()()()()もある」

 

「なんだそれ?」

 

「向こうの地域でのイディオムだよ。

大きく、強いものを表す冠詞(かんし)

または、襲いかかる敵をなぎ倒す、"(ちから)"の化身。

そんな意味合いで使われたりもする」

 

「・・・・()()が、その”鬼”(オニ)だってのか?」

 

 

 

とうとうからかい過ぎたのか、目が潤み始めたレミに捕まり、ぽかぽかと胸ぐらを叩かれて困り顔になっているジェット。

 

強さもへったくれもない有り様に、ケイは呆れたように肩を竦めた。

 

 

 

「・・・・音に聞こえた異名の持ち主、どんなものなのかとは思っていたが・・・・まぁ、思っていたのとは随分、違っていたな」

 

「・・・・ま、確かにな」

 

 

 

<ふふふふ・・・・AGE各員の健闘により、ミッション完了を確認。

各自、速やかにエリアより撤退、帰投してください。

・・・・名残惜しいですが、皆さんどうかお元気で!!>

 

 

 

―――― MISSION CLEAR ――――

 

 

 

>> To be Continued,,,,

 

 

 

 




・Tips.2

「俊転二刀・バイティングエッジ」

”噛み合わす刃”の意を持つ、神機用ブレードパーツ。
収納の際に変形する神機の特性を、より積極的に攻撃へ転用する意図で開発された、最新型神機パーツの一種。
通常時は揃いの大きさの二刀(にとう)を用いた鋭い攻撃を得意とするが、これを合体変形(がったいへんけい)させる事により、その性質は一変。
両端(りょうたん)に刃を備えた長柄武器、”薙刃形態(ていじんけいたい)”となり、他の刀身とは一線を画する怒涛の猛攻を可能にする。
また、この形態で攻撃を重ね続けることで、神機がより活性化。
長薙刃形態(ちょうていじんけいたい)”となり、更なる攻撃力増大効果を得る。
この2つの姿を使いこなすセンスはもとより、装甲や銃身の展開といった基本機能も合体を介して使用しなければならず、扱い切るには高い技量が求められる。


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