GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#3 >> 「Growl of Deep inside.」

ハウンドスクワッドとクリサンセマム、ダスティミラーの三者会議を終えた、執務室にて。

 

アインは既に”ゲルギヤシステム”の調整作業に向かい、イルダも船内の案内の為に同道して行った。

 

「ミッションの準備と申請は、俺がやっておく。

お前は休んどけ」

 

「ああ、頼むな」

 

いくらも経たず(ふたた)び任務へと出発するジェットは、ユウゴの言に素直に従い、休息に向かった。

 

それを見送ったユウゴは、情報端末に眼を落とし、正式に任務として発行された作戦書(さくせんしょ)を見やる。

 

 

 

>> ポイントα安全保持の要請

 

作戦の第1(だいいち)フェイズ成功に際して、グレイプニルから(ねぎら)いの言葉が届きましたよ!!

ダスティミラー旗下(きか)、後続部隊の支援を受け取る第2(だいに)フェイズは、既に進行中。

その間、我々は近隣の脅威を(げん)警戒(けいかい)せよとのことです。 >> エイミー・クリサンセマム

 

確認アラガミ

ヌァザ

ヴァジュラ

ハバキリ

 

 

 

「――――やれやれ、お前さん方と来たら、大概な怖い物知らずだな」

 

その横合いから、ふと声がかかる。

 

会議の間は、イルダの補佐としての振る舞いに徹していたリカルドだった。

 

そして今は彼もまた、受け入れる補給物資の目録整理等(もくろくせいりとう)を、手慣れた様子でこなしていた。

 

灰域種(かいいきしゅ)を含む、アラガミ3体の同時討伐。

普通なら顔面蒼白になるような内容なんだが、誰も彼も落ち着いたもんだ」

 

「普通の奴らなら、そうだろうな。

だが、”猟犬部隊”(ウチ)にはどんなピンチだろうが、構わず突き抜けちまう奴がいるもんでね」

 

「そんなハードスケジュールじゃあ、ついて()(ほう)はさぞかし大変なんじゃないか?

さっきの航路選定も、敢えてリスクには目をつぶって、メリットの多い方を選んでるだろう」

 

「そんな(なみ)AGE(エイジ)じゃ出来ない戦果こそ、俺達の強みだからな。

現状、なんら替えが効かないからこそ、高い価値で()()()()()()

何より、どんな無茶だろうと覆しちまう”クリサンセマムの鬼神(きしん)”の存在感ってのも、強い興味に繋がっている面もあるだろう。

・・・・まぁ、本人はよりによっての鬼神(デモン)呼ばわりを、あまり気に入ってはいないらしいがな」

 

思わず、ユウゴの口端(くちは)には笑みが溢れていた。

 

いつからか、界隈にてまことしやかに囁かれ出した、ジェット・ペニーウォートに纏わる逸話。

 

”クリサンセマムの鬼神”という英雄的な偶像(ぐうぞう)と、その率いる凄腕のAGE部隊、ハウンドスクワッド。

 

おそらくは、それらの要素が紐付(ひもづ)いて浸透(しんとう)し出した事も、自分達の飛躍(ひやく)の大きな要因なのだろうと、ユウゴは分析していた。

 

「――――俺達の実力は、適切に評価されだしている。

少なくとも今は、これまで皆に助けてもらった(おん)(むく)いながら、着実に”目標”へも近付けている。

その実感が在る。

回ってくる依頼を見ていると、そう思うよ」

 

「お前さんがたが、そういう()()にあるってことは、その通りだろうなァ。

・・・・しかし、だ。

おじさんとしては、そういう時にこそ無茶と無謀は、無理にでも遠ざけるべき、と思うんだよ。

今回だって、会敵予想(かいてきよそう)に反してわざわざ参加人数(さんかにんずう)を絞るほど、人員も物資も消耗(しょうもう)はしてないはずなんだがな」

 

結局、あえてリスクを背負い込んだ選択に、リカルドは憂慮(ゆうりょ)を隠さない。

 

そこに関しては、同じく実戦の過酷さを知るユウゴとて、思うところが無いではなかった。

 

「・・・・だとしても俺は、ジェットの判断を信じるさ。

アイツの実力と戦術眼は、誰よりも冴えてる。

守るもんの為に踏ん張るところ・・・・それを見失う奴じゃないんだ」

 

「それはきっと、この船の全員が信じているさ。

・・・・ただ、な――――」

 

リカルドは、思わずといった風に執務室のデスクへと視線を彷徨(さまよ)わせ、言葉を続ける。

 

「――――優秀で高潔な人というのは、どうにも出来過(できす)ぎてしまうんだよなァ。

その所為で、(おも)たすぎるものまで背負い込んで、けれどそのままでも()()()()()()

悪いことじゃァ決してない、が・・・・そうして誰かに頼るのが下手なまま、ってのは、どうにも・・・・心配なものなのさ」

 

 

 

皮肉げな調子のリカルドに、ユウゴは今度こそ答えに(きゅう)してしまう。

 

確かに、今のジェットは、この”クリサンセマム”全体の命運(めいうん)までもを背負っていると言って、過言ではない。

 

一方で、それほどの重圧があればこそ(たゆ)まず、力強く駆け抜ける。

 

その生き様を(いさ)めるべきか(いな)か、誰よりも長く、共に戦ってきたユウゴだからこそ、決めきれずにいる。

 

痛む(はら)を探られた気分だった。

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

その頃、執務室を出たジェットは、フィムとクレアに出迎えられていた。

 

「おとさ~ん!!

ごはんにする?

おふろにする?

それとも~・・・・きんトレ?」

 

「フィ、フィムったら!?

もうっ、そんな言葉どこで覚えて・・・・って、きっとエイミーね」

 

「ははっ、何だ二人揃って待ってたのか?」

 

とてとてと走り寄ってきたフィムへ目線を合わせたジェットは、しかし開口一番に(あやま)らざるを得なかった。

 

「悪いな、フィム。

すぐに次のミッションに行かなきゃならねぇんだ。

お前はちゃんと、お風呂とご飯を済ませて、良い子で寝とけな」

 

「ふぇ~・・・・!?」

 

期待に満ちた眼から一転(いってん)、あからさまに肩を落とすフィム。

 

微笑ましくも、どうにも申し訳なくもなる仕草を見守るジェットは、次いで(かたわ)らのクレアと視線を合わせる。

 

彼女もまた、心配そうに表情を曇らせ、ジェットを見詰めていた。

 

「さっき、灰域から帰ったばかりなのに、大変だね・・・・。

きっと、ルルの援護に行くのよね?

私も、いつでも行けるから」

 

「・・・・いや、同行はジークだけでいい。

クレアもリカルドも、哨戒任務(しょうかいにんむ)を終わらせたばっかだろ?」

 

「えっ?

待って、私なら別にっ――――」

 

「じゃぁ、フィムもいく!!

おとさんと、いっしょ!!」

 

通常、アラガミ討伐任務は”4名”での参加が奨励されている。

 

先にジェットが参加した”特別な場合”を除き、希少な神機使(じんきつか)いと、その運用コストとを考えた慣例だった。

 

ところが、あえてそれを下回ろうと言う判断に、クレアは目を見開く。

 

そして残る一枠(ひとわく)に名乗りを上げたフィムの事も、ジェットはきっぱりと諌めていた。

 

「いいや、此処はおとさんに任しときな」

 

「えぇ~っ・・・・!?

でも・・・・・でも~・・・・」

 

単なる子供らしい(あま)えたがりと言うだけでなく、”ヒト型アラガミ”であるフィムは、神機(じんき)を扱うことも出来る立派な戦力だった。

 

それでもジェットは、ついて来たがるフィムの頭を撫で、押し留めようとする。

 

「今日の活躍、見てただろ?

あれに比べりゃ、今度のなんざなんてことねぇ。

だから、フィムにはまた別の、重大なミッションを頼むとする」

 

「じゅーだいな、ミッションっ・・・・?」

 

「おう。

さっさと終わらせて、皆で帰って来るからよ。

フィムはちゃんと早く寝て、明日の朝の飯と風呂、用意しといてくれ。

な?」

 

大好きなおとさんからそうして()()()()とあっては、不満そうながらも(うなず)くフィム。

 

しかしその一方で、尚ももの言いたげな様子のクレアが、身を乗り出した。

 

「ねぇ、ジェット・・・・っ」

 

「お前もだぜ、クレア。

ここんところ戦闘続きだし、医務室(いむしつ)の方もしんどいだろ?

アラガミ退治くらいは、俺達に任しとけ」

 

 

 

「――――・・・・それを言うなら、リーダーだからっていつも()ずっぱりなジェットこそ、一番休むべきなんじゃないっ?

ジェットが強いのは分かってるけど、それはきちんと、万全の状態でいられればこそでしょう?

グレイプニルの要請だからって、それで焦って失敗したら、元も子もないんだよっ?」

 

「そんな心配すんな、俺なら・・・・」

 

間違えようなく真剣に訴えているクレアに、ジェットはふと、不用意さを(いさ)めるように口を(つぐ)ませ、向き直った。

 

ブリッジでの時のような、はぐらかすような物言(ものい)いでは納得はしないと、きちんと考えてくれたようだった。

 

「・・・・今は、俺らにとっての大一番(おおいちばん)、だろ。

とうとう(つか)めたデカいチャンスの為なら、多少の無茶なら通しきるしかねぇ。

だが、本当にヤバいところを間違えないよう考える、ってのは、(きも)(めい)じてるつもりだ。

だから、今度も俺なりにしっかり考えて、今ならまだ出来る、と踏んだんだ」

 

「・・・・っ」

 

 

 

 

クレアは、(かたく)なに前へ進み続けようとするジェットの理由(りゆう)に、押されてしまっていた。

 

ジェットが決して退かないのは、本人の性格に加えて、ペニーウォートで共に育った仲間達の大望(たいもう)を背負っているから。

 

何を言っても、何が待ち受けていようとも、平気だと言い張り()()かう。

 

そして、事実としてジェットの力は、そんな重圧にも十二分(じゅうにぶん)に応えうるものだった。

 

灰域種(かいいきしゅ)アラガミですら事も無げに討伐し、(こた)えた様子を見たことも無い。

 

この船どころか、クレアの今まで目にしてきた中でも、最強のAGE(エイジ)

 

そんな彼へと差し挟める理屈(りくつ)を、今のクレアには、咄嗟に見つけることは出来なかった。

 

 

 

「――――向こうで待ってるルルも、迎えに行ってやらねぇとだしな。

フィムのことは、頼むぜ」

 

「・・・・うん。

行ってらっしゃい」

 

「じゃあ、あのね!!

おとさんがかえってきたら、フィムもいっしょにおふろはいる~!!」

 

どこまでも無邪気に笑うフィム。

 

見た目通り、と言うにはどうにも甘えん坊な仕草で懐かれて、ジェットは珍しく困った顔を見せた。

 

「あー、流石に()()はな。

後で、”おかさん”と一緒に入っときな」

 

「なっ!!??」

 

ところが、唐突に振り返りながら放ったその言葉に、クレアは思わず顔を赤らめ、大袈裟に驚いてしまう。

 

「い、いきなりなんだよ?」

 

「そ、それはっ、こっちの台詞!?

私を”お母さん”だなんて・・・・そんな、急に・・・・っ!?」

 

「フィムにとっちゃ、この船の女性陣(じょせいじん)が皆”おかさん”みたいなもんだろ?」

 

「えっ・・・・。

あっ、そ・・・・それ、は・・・・」

 

「なんだか盛り上がっているわね、三人共?」

 

慌てふためくクレアと対象的に、フィムもジェットも、あっけらかんとして笑うのみ。

 

すると、そんなやりとりの横合いからイルダが現れ、声をかけながら歩んで来る。

 

「それにしても、少し無遠慮な言い草だわ、ジェット。

今ではもう、フィムの方がきちんと、一人ひとりを見ているんじゃないかしら」

 

「へ?」

 

フィムは、はいっ、と大きく胸を張って頷いた。

 

「あのね、クレアはやさしくって、やわらかくて、ぽかぽかするの!!

イルダはおっきくて、でもなんだかすごくホッとして、かっこいいんだよ!!」

 

「へぇー、なんだ、そうだったか!!

そんなに色々分かるようになって、偉いなフィムっ」

 

「まったく・・・・アインさんは、もう作業に入ったわ。

貴方もそろそろ備えないといけないのではなくて?」

 

「っと、俺が寝坊したなんてなったら格好がつかないな。

んじゃぁフィム。

クレアと一緒に、明日の用意は任せたぞ」

 

「はーいっ!!」

 

 

 

結局、ジェットはそうして言いたい放題にして、踵を返して行ってしまう。

 

そして、なんでもなく言われた()()に、思った以上にかき乱されてしまったクレア。

 

なんだか()れた気分になって、目を伏せてしまう。

 

 

 

「・・・・クレア?」

 

「ねぇ、フィム?

”おとさん”と”おかさん”は、特別な言葉なの。

だから、そう呼ぶのも、呼ばれるのも、”特別”なのよ。

そうでしょう?」

 

「うん、とくべつっ!!」

 

「・・・・イルダさん」

 

「――――彼にも、困ったものね。

誰よりも強く仲間を、家族を守ろうとしている。

そんな(つな)がりばかりを見詰めてしまって・・・・そういうところが純粋と言うか、鈍感と言うか」

 

 

 

穏やかに語り掛けるイルダから、クレアは咄嗟に目を逸らしてしまう。

 

数多くの出来事を見定(みさだ)めてきたろうその青い瞳には、きっと自分の中の(から)まり(よう)なんて、あっという間に見透かされてしまいそうだったから。

 

 

 

「ああいうタイプってね、きちんと目を見て言葉にしないと、本当に気付かないままよ?」

 

「・・・・そういうのじゃない、です。

・・・・ただ、私は・・・・」

 

 

 

弁明めいて口を開けど、そこへと()せるきちんとした意図を見つけられないクレアは、またも俯き、黙りこくってしまった。

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

――――3時間後。

 

 

 

まだ真夜中の内に出発したジェットとジークは、今回の任務地点である、放棄された市街地(しがいち)へ車両を飛ばしていた。

 

 

 

「しかし、近頃は寝起きのたびに灰域種(こいつら)の顔を見てる気がするな。

・・・・って、うぉっ!?

てめっ、ジーク!!

もうちょっと丁寧に運転しろよ!!」

 

「ようやく宣伝効果に収益が追いついてきた証だとか、ユウゴはニヤついてたぜ。

っ、へへぇ!!

ま、この俺サマのハンドル捌きに任せとけってよ!!」

 

「おいっ・・・・お(めぇ)から言い出したんなら、もっと乗員と荷物を気遣(きづか)えってんだ・・・・おぉわ!?」

 

 

 

果たして、そんな見事なドライビングの甲斐(かい)あって、ジェット達は予定時刻より先んじて行動できていた。

 

単に()()()()な2人という訳だけでもなくて、近傍(きんぼう)で待機している仲間と事前に合流する為でもあった。

 

任務地点である市街中心部から少し離れた郊外(こうがい)に辿り着くと、瓦礫が積み重なって出来た小さな窪地(くぼち)に、簡易キャンプが設置されているのを見つける。

 

其処で、既に彼女(かのじょ)焚火跡(たきびあと)を片付けつつ、ジェット達が来たのに気付いてすっくと立ち上がった。

 

しなやかな体つきと、長い黒髪を持った美女だった。

 

「・・・・来たのか、ジェット」

 

――――振り返らせた切れ長な目つきは鋭く、更には右眼に掛かるように大きな傷跡(きずあと)が走っている。

表情も薄く、ともすれば冷厳(れいげん)な迫力にまで見えるも、彼女の整った目鼻立ちと併さり、非常な美しさとなって現されていた。

抜群のスタイルを持つ細身に映える、赤色の印象的な薄手のトップスに、スキニーパンツ。

されど、その右肩には痛々しい包帯のように黒のテーピングで巻き付けてあり、長い手足には堅固な防具を装着して、戦士としての風格を漂わす。

一方で、艶のある黒髪の毛先には小粋(こいき)な巻き髪が施され、女性らしい華やかさとなって揺れていた。

 

「おーい、俺もいるんだぜー、”ルル”」

 

「分かっているさ。

ただ、珍しくそちらが、機嫌悪そうにしているからな」

 

見た目通りに落ち着いた口振りで、何やら眉間(みけん)(しわ)の寄っているジェットを見やるルル。

 

「ああ・・・・これからは運転を任せる相手はよく考えねぇと、ってな。

・・・・まぁ、んなことよりミッションの用意だ。

継続潜行用(けいぞくせんこうよう)”偏食因子”(へんしょくいんし)、持ってきたぜ」

 

 

 

アラガミや喰灰(しょくかい)、そして何よりも己の武器たる神機(じんき)捕喰(ほしょく)されない為には、偏食因子による防護が不可欠である。

 

だが、これの効果は時間を置くことで減衰(げんすい)していってしまう為、神機使(じんきつか)いは生涯(しょうがい)、定期的に投与をし続けなければならない。

 

そして、今回のように拠点外(きょてんがい)で長時間行動する場合、野外に於いても各個人用に処方された偏食因子を投与し、自身でその効果を回復させる必要がある。

 

神機使いには相応の負担を強いてしまうものの、踏破任務(とうはにんむ)と呼ばれる長距離転戦(ちょうきょりてんせん)の際に使われる手段だった。

 

 

 

「――――とはいえ、もうけっこう長いこと潜行(せんこう)してるんだろ?

無理はすんな。

俺達だけでもやれるミッションだからな」

 

「はぁ!?

流石に二人だけじゃしんどいだろ!!

・・・・でも、まぁ、ルルが出ずっぱりになるのもなんだしな」

 

と、提案してみた男2人の視線に、ルルは憮然(ぶぜん)とした風に息を吐いて答える。

 

「バカを言うな。

それこそ、長いこと待っていた意味がない」

 

言いながら、ルルは神機用キャリーケースから、自身の得物(えもの)を掴み出した。

 

赤を基調とした揃いの二刀、バイティグエッジ。

 

射程と威力に優れたスナイパーと、軽量で取り回しに優れるバックラー。

 

偶然にも、彼女の得意とする構成はジェットと全く同じだった。

 

「・・・・あまり、見くびってくれるな。

この程度で音を上げるほど、バランのAGEはヤワではない」

 

彼女の正しい名前は、”ルル・バラン”。

 

ジェット達のかつて所属していたミナト・ペニーウォートに(まさ)るとも(おと)らぬ過酷な環境を戦い抜いてきた、猛者である。

 

そして、どこか聞き覚えのある啖呵(たんか)を切ったルルへ、ジェットは肯定(こうてい)仕草(しぐさ)で応えた。

 

「そうだったな。

んじゃ、とっとと終わらせて帰るとするか」

 

 

 

<――――こちら、エイミー・クリサンセマム。

皆さん、無事に合流できたみたいですね。

・・・・ナビゲーション情報のリンク、確立。

周囲の環境情報、問題なしです>

 

装備を整え、ジェット達は進入ポイントに到着する。

 

開始予定時刻までは、ほんの数分(すうふん)

 

夜明けが近付き、白み始めてきた空の下に、放棄された市街(しがい)全容(ぜんよう)が浮かび上がる。

 

文明の(あかし)たる電灯はとうに途切れ、変わって光を放つのは、辺りの地形やビルディングに無数に見られる、大きく赤熱(せきねつ)した(あと)だった。

 

大小様々なあらゆる建造物を、溶けたバターのように抉り取るそれらの傷口(きずぐち)とは、アラガミが捕喰を行った歯型(はがた)であり、今も()えず高濃度の喰灰(しょくかい)が侵食を行っている証左でもあった。

 

「街ってのはどこも似たような景色だよなぁ。

(ひと)子一人(こひとり)いやしねぇし・・・・ってまぁ、当たり前か」

 

「ぼちぼち、そうも言ってられなくなるかもな。

向こうの空を見てみろ。

夜とは違う、限界灰域(げんかいかいいき)の薄気味悪ぃ暗さだぜ」

 

<これより先の深層(しんそう)では、探査機器も効きにくいみたいなんです。

アジャストに努めているんですが、このままではオペレーションどころか、航路(こうろ)の観測すらままならないかも知れなくって・・・・>

 

「・・・・・・・・・・」

 

会話には参加せず、物静かに(たたず)むルル。

 

普段からあまり口数の多い方ではない彼女だったが、しかしこの時のジェットは其処へ、ふとした()()()()()を覚えていた。

 

「そういや、ルル。

前に、船に挨拶に来たバランの連中(れんちゅう)、知り合いなのか?」

 

そう話しかけつつ、ジェットはふと、さっきのルルの言葉を思い返していた。

 

ルルが、何らかの必要に応じてでなく、自分からバランのことを口に出すのは、少し珍しかったからだ。

 

「・・・・ああ。

あのキャラバンの船長も、護衛のAGE(エイジ)も、見知っている」

 

「今時、”久々に会う”ってのもなかなか珍しいよな。

別々の組織の、しかもAGE同士でもう一度会うなんて、そうあることじゃねぇ」

 

かも知れないな、と答えるルルの表情は、やはりどうにも浮かない感じに見えた。

 

()()()は、変わりなかった。

バランにいた頃と、何も・・・・」

 

「・・・・その顔じゃ、会えてもそう嬉しい相手じゃ無さそうだな」

 

「ん・・・・」

 

曖昧に返事をするルルは、次いで(おもむ)ろにジェットとジークを見比(みくら)べるような、分かり易い仕草を見せる。

 

「って、なんだよ?

もしかして、俺らと会えたのは嬉しかったってか、ルル?」

 

「・・・・そう、だな。

実はさっき、ジェットとジークが来てくれて、少し安心したんだ。

以前は、こんな事は思わなかった。

一人で戦うのが、当たり前だったからな」

 

「ぬわっ・・・・なんだよ、茶化した俺が悪い感じじゃんか・・・・」

 

「――――なら、今は仲間と戦うのが当たり前、ってことかもな。

(まえ)のルルならともかく、今じゃフィム達と一緒にいないのが、珍しい感じがするくらいだ」

 

「・・・・バランは、古巣だが・・・・私にとってはただ、次のミッションまでを過ごす場所でしかなかった。

でも、今・・・・クリサンセマムの中での”時間”は、とても大事で・・・・このまま守りたいと思っている」

 

すると、ルルは一輪の野花のような小さな笑みを口端に浮かべる。

 

恐らく、今の日々に馴染(なじ)んできた頃、ようやく見せるようになったその表情を、ルルはすぐに気丈(きじょう)に張り詰めさせた。

 

 

 

「やろう、ジェット。

今、このミッションも、これから先も、一つたりとも失敗するわけにはいかない」

 

 

 

言葉少ななだけに、いざ口に出したその決意は固く、そして確かだ。

 

そんなルルの性格を知るジェットとジークなら、信頼して背を預けるには十分だった。

 

 

 

<フィムちゃんとクレアさん、明日は美味しいブランチを作るって、張り切ってましたよ。

強敵との遭遇が予想されますが、皆さんなら大丈夫!!

ミッション、開始してください!!>

 

「おう。

んじゃぁ行くぜ、皆っ!!」

 

 

 

ジェットの(とき)に応えるようにその時、東の空に曙光(しょこう)が差し込む。

 

朝陽を受けてはためく漆黒の長布(マフラー)を先頭に、ハウンドスクワッドは行動を開始した。

 

 

 

「――――今回の作戦の要点(ようてん)は、(ひと)つきりだ。

この時間、”ヌァザ”は縄張りの巡回のため、この一帯を離れる。

その間に他の二体を討伐し、最後に奴を迎え撃つ」

 

市街を疾走する3人のAGE。

 

作戦地点に入って直ぐ、大きな噴水が(のこ)る広場でまず遭遇したのは、巨大な虎のような姿のアラガミ。

 

重厚な頭蓋(ずがい)に、一対の(つるぎ)のような長い牙。

 

刺々しい黒い体毛が生え、野太(のぶと)四肢(しし)には装具のように堅牢な甲殻。

 

まさしく猛虎(もうこ)といった縞柄(しまがら)の巨体の背に、神々しさを感じさせる血色(ちいろ)反物(たんもの)のような翼を(なび)かせる。

 

”獣神・ヴァジュラ”は、確認された多様なアラガミの中でも古参(こさん)の部類で、装甲車両も踏み潰す激甚(げきじん)たる膂力(りょりょく)と、生命力とを併せ持っていた。

 

「こっちは、俺に任しときな!!

()()()()()とちょっと遊んでるくらい、ワケ無いからよ!!」

 

ジークは首のマフラーを踊らせ、ジェットに勝るとも劣らぬ俊敏(しゅんびん)さで走る。

 

物音に振り返るヴァジュラの(ふところ)に走り込み、構えた神機(じんき)を変形させる。

 

機構鉄槌(きこうてっつい)・ブーストハンマーと、防盾(シールド)が大きく稼働し、”ショットガン”と呼ばれる銃身がスライド。

 

およそ銃の距離ではない密着状態で、銃形態(ガンフォーム)の神機を激しく撃ちかける。

 

銃口からはマズルフラッシュが起こり、そして散弾(さんだん)と呼ばれるバレットの(つぶて)がヴァジュラの顔面へ叩きつけられた。

 

そうして、猛虎の目を存分に引いた後、更にジークはその鼻先へスタングレネードを投げ込み、混乱を生じさせる。

 

<じ、ジークさん!?

うちの”寝子”(ねこ)はこんなのとは――――って、違った!!

アラガミ、怯みました!!>

 

「っはは!!

んじゃ、そっちは任せたぞ、ジーク!!」

 

更に連続でスタングレネードが弾けるのを尻目(しりめ)に、ジェットとルルは一目散に広場を駆け抜けて行った。

 

それが、作戦の第一段階(だいいちだんかい)だった。

 

大型アラガミと分類されるヴァジュラは非常(ひじょう)なタフネスを持つうえ、いざ弱ればその健脚(けんきゃく)で長距離を逃げ出してしまう。

 

とかく速攻(そっこう)を重視する今回の任務では、その陽動をジークに任せ、その間にジェットとルルの別班が、残りの1体を急襲する手筈だった。

 

2人は細い間道を抜け、更に市街中心(しがいちゅうしん)へと向かう。

 

先程の広場と隣り合う区画には、遠目にも分かるほど大きい大聖堂(だいせいどう)とか()う建築物が存在する。

 

高台の上に(そび)える威容(いよう)を中心とした広大な平地。

 

其処に、ジェット達のターゲットは堂々、佇んでいた。

 

「目標発見。

さぁて、戦闘開始だな」

 

 

 

――――それこそが、女性を(かたど)った戦闘機械、とでも言うべき姿の中型アラガミ、”ハバキリ”だった。

 

古の甲冑(かっちゅう)のような青白い装甲に身を包み、そしてその両腕は不吉(ふきつ)に黒ずんだ双剣と融合していた。

 

その色合いと、上体の鎧と兜の鍬形(くわがた)から伸びる鋭角なシルエットが合わさり、(いかめ)しい武神像(ぶしんぞう)のような迫力を放っている。

 

一方、下半身は重厚に肥大しており、その正体とはどのような荒れ地も走破する機動性を持つ”ホバーブースター”。

 

そして今、その機甲の身体が音を立てて稼働し、無遠慮に現れた()へと滑らかに構えを取るのだった。

 

 

 

「同じ二刀流(にとうりゅう)、か。

”腕試し”にはちょうど良いな」

 

不敵に呟くルルに、ジェットもまた、小さく鼻を鳴らして応える。

 

彼女の言葉の通り、今回の任務は着実に上り詰めるべき()(だん)のただ1つに過ぎない。

 

そして同時に、ジェットに託された、”新たなる力”を(ため)す場でもあったのだ。

 

 

 

<――――ハウンド1.ハウンド3、目標アラガミと戦闘開始。

ハウンド2、尚も単独でヴァジュラと交戦中・・・・くれぐれも、無理はしないでくださいね>

 

「始まったか」

 

任務地点後方で控えるクリサンセマムのブリッジでは、クルー達が一同に介して作戦を見守っていた。

 

そこへ姿を現れたアインは、本来ならば部外者にあたるものの、今回の”腕試し”の中核を担う人物として、敢えてこの場へ足を踏み入れたのだった。

 

「アインさん」

 

「わっ・・・・」

 

傍にいたクレアの呟きに振り返るや、咄嗟にその陰に隠れてしまうフィム。

 

そんな様子を一瞥し、アインは再度モニターに視線を戻す。

 

すると、ややあって再び後方のエレベーターが可動し、開いた扉からはイルダとリカルド、そしてなんとも慌てた様子の少年が飛び出してきた。

 

「ちょっとっ待ってくださいって、アインさんっ!!」

 

 

 

――――彼の名は、キース・ペニーウォート。

ハウンドスクワッドのメンバーであり、ジークの(じつ)(おとうと)でもある。

しかしながら、前線で活躍している先輩方(せんぱいがた)と比べると、その身は一回りは小さい。

印象的な水色のウインドブレーカーに、動きやすいズボンに厳ついブーツ。

腰回りに様々な作業工具を突っ込んだ(かばん)をゴテゴテと捲いている。

そんな見た目の通り、彼の才と情熱は、兄と同じ神機使(じんきつか)いよりも、それを(ささ)える技術面(ぎじゅつめん)花開(はなひら)いたのだ。

実際、早熟と言ってなお(あま)りある天才肌なのだが、一方で没頭すると健全な生活や会話が(おろそ)かになりがちなのが、玉にキズであった。

 

そして、普段は自分の職場である機関エリアに(こも)りっぱなしなキースが現れたことに、意外な表情を浮かべるユウゴ。

 

「珍しいな、お前がこっちまで上がってくるのは」

 

「当ったり前だよ!!!!

異なるミナト同士の、研究と努力の結晶!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム”が想定通りに動くか、動かないのか!!

一世一代の瞬間なんだからさ!!!!」

 

「・・・・うごかないと・・・・だいじょーぶ?」

 

「・・・・あぇ」

 

「・・・・もう、キースったら。

ね、大丈夫だよ、フィム」

 

大好きな”おとさん”の為に頑張って起きてきたというのに、すっかり肩を落としてしまうフィム。

 

クレアやユウゴが(そば)で励しても、その不安な色は消えなかった。

 

「でも、ね。

おとさんの”じんき”・・・・なんだか、う~、ってなってて・・・・こわい、よ」

 

フィムは、(つたな)い言葉で違和感の存在を伝える。

 

実際、それは(まと)を射ており、その”仕掛け人”であるアインは、ふと笑っていた。

 

「確かに・・・・ゲルギヤシステムとは、簡単に言えば、”神機を怒らせる”代物だ。

だがもちろん、使用者に危険が及ばないよう、厳重に管理されている」

 

「・・・・でも・・・・あの、そんなことをして、ジェットの身体に影響(えいきょう)は無い、ですよね?」

 

「 勿論(もっちろん)っ、大丈夫だよ !!!!

その為に、俺とアインさん達で、ずっとずっと研究と調整をして来たんだ!!

これって、本当にすごい発想なんだよ!!

神機(じんき)の出力上昇に比例して表面化してしまう攻撃性(こうげきせい)を、敢えて()()()()!!

この激しい抑圧状態(よくあつじょうたい)を経た神機が解放される時、得られる途方もないフィードバックをどう制御するのか?

此処には、瞬間的に神機使(じんきつか)いの能力を大きく強化する、”アクセルトリガー”の理論も応用されているんだよ。

単に外付けのプラグインユニットでは終わらせず、神機の基幹部である”アーティフィシャルCNS”とマッチングさせることで、高度(こうど)にネットワーク化された制御(せいぎょ)ユニット(ぐん)としてのスタビライズが、同時にアブソーバーとしても機能するんだ!!

ダスティミラー・・・・いや、アインさん謹製の連動、並列、万能な演算システムを、先輩の神機特性に合わせて入念にキャリブレーションしてあるし、それによって神機の稼働効率自体だって、従来より遥かに――――」

 

 

 

よほどそのシステムに興奮しているのか、技術屋(ぎじゅつや)らしい早口で熱弁するキース。

 

もはや夢中な彼だったが、反対にフィムは段々と表情が曇り、身体までも小さく、小さく縮こまっていってしまう。

 

「おとさんのじんきも・・・・おこったら、こわくなるの?」

 

とうとうフィムは、より一層にクレアへしがみついて声を震わせる。

 

そんな小さな姿に、クレアだけでなくイルダも、優しい手つきで撫で擦った。

 

ゲルギヤ(GELGYA)とは、神話の魔物を縛り付けた(かせ)の名。

そして神機(じんき)は、元を正せば人間を捕喰(ほしょく)しないように(しば)られたアラガミ。

本来、その奥底に封じられている激しい”衝動”(しょうどう)を、あくまでも”道具”として神機使(じんきつか)いの手に委ねるシステム。

アインさんは、そう仰っていましたね?」

 

「・・・・とはいえ、現役の人間としては正直、想像のつかない話ですよ。

怒ったアラガミ・・・・あんなに恐ろしいものを手懐(てなず)けようだなんて、無茶な賭けとしか思えません」

 

モニターの向こうで暴れ回る巨大な怪物達へ、リカルドもまた(うれ)いを吐露した。

 

その時、エイミーがメインモニターにも表示されている重要なパラメータを、鋭く読み上げる。

 

<ハウンド1、神機喚起率(じんきかんきりつ)100%に到達!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム、第一段階発動(ファーストドライヴ)!!>

 

「・・・・神機に眠る潜在能力(せんざいのうりょく)を引き出そうとするアプローチは、これが初めてではない。

その基幹理論自体は、既に完成されている。

だが、結論から言えば、もはや暴走に等しい神機の超活性化状態(オーバードライブ)を扱うことは、()()()()()ではほぼ不可能(ふかのう)だ」

 

「そんな・・・・じゃあ、ジェットは・・・・」

 

「――――だからこそ。

最も初歩的な要素である、”神機との適合率(てきごうりつ)”こそが鍵となる。

詰まる所、覚醒(めざ)めた神機に(みと)められるか、(いな)か。

神機使いの誰もが行う”最初の戦い”であり、単純ながら(くつがえ)(がた)い理屈だ。

だが、ジェット・ペニーウォートが持つほどの”資質”ならば間違いなく、その不可能(ふかのう)”可能”(かのう)にする」

 

 

 

 

「――――()()()()、だろ?」

 

通信機にも乗らないほど小さく、ジェットが呟いた、途端。

 

その前方で構えるハバキリの、突きつけた(つるぎ)(きっさき)から赤いレーザーサイトが伸び、刀身に凄まじい電光が()ぜる。

 

阿吽(あうん)の呼吸で、ジェットとルルは飛び出していた。

 

黒い長布(マフラー)をなびかせる奔流(ほんりゅう)が、薙刃形態(ていじんけいたい)の突進でハバキリを斬り刻み、そのまま真後ろへ。

 

そして、飛燕(ひえん)のように翻る赤い疾風が、横合いから二刀(にとう)で斬り抜ける。

 

瞬間、凝縮された雷撃が一直線上(いっちょくせんじょう)に放たれるも、無人の街並みを焼き焦がすのみに終わる。

 

「遅いな」

 

ルルが、ハバキリへ捕喰形態(プレデターフォーム)を繰り出す。

 

”神機解放”(バースト)発動と同時に後退し、その入れ替わりに背中から斬りかかるジェット。

 

しかし次の瞬間、薙刃(ていじん)を分離させ、装甲を展開。

 

「おぃしょぉ!!」

 

ハバキリは振り返りもせず、電撃の剣の回転連斬(かいてんれんざん)を繰り出すも、ジェットは最大防御効果(ジャストガード)(さば)き切って見せる。

 

一方で、今の(すき)を突けば、ジェットもまた”神機解放”(バースト)を狙うことが出来た。

 

強大なアラガミを相手に、自身を強化しつつ戦う、という神機使いの”セオリー”を()えて無視する理由とは、ただ一つ。

 

<――――ハウンド1、神機喚起率(じんきかんきりつ)100%に到達!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム、第一段階発動(ファーストドライヴ)!!>

 

その刹那(せつな)、ジェットの神機が(うごめ)き、一瞬だけ鮮やかな光を纏う。

 

戦闘の中、敢えて捕喰(ほしょく)というオラクル細胞の”本能”(ほんのう)(ふう)じることで(たかぶ)(つづ)ける神機が、装着された制御ユニットの1つを起動させていた。

 

 

 

>> ・制御ユニット 攻撃力+30%

 

 

 

直後、両腕の剣を振り回して突進するハバキリに対し、ジェットは大きく後退。

 

そしてそのまま、背後に背負っていた建物を蹴飛ばし、重力をまるで無視した速さで、その壁面(へきめん)(はす)に駆け上がっていく。

 

「そら、こっちだ!!」

 

規格外の身体能力で間合(まあ)いを取り戻したジェットは、その先で大きく空中へ飛び上がり、神機を変形させた。

 

銃形態(ガンフォーム)を構え、持て余している銃弾(バレット)はとっとと使い切る、とばかりの空中射撃は、素早くも的確だった。

 

およそ狙撃銃(スナイパー)を使うには不安定な距離と状況で、銃弾の通りにくいハバキリの(つるぎ)へと連射。

 

オラクルエネルギーを強引に叩き込み、そしてジェットは再び接近戦へ切り替える。

 

その背中越しに、再び同じ狙撃弾(そげきだん)火線(かせん)が走り、一転してハバキリの頭部を連続で捉えた。

 

的確に弱点を撃ち抜く射撃術を見せたルルは、素早く狙いを変え、ジェットへ”神機連結解放”(リンクバースト)を飛ばす。

 

「今だ、行け!!」

 

 

 

――双刃衝破(そうじんしょうは)――

 

 

 

光を纏って加速するジェットは、輝くバーストアーツを叩きつけ、また距離を取る。

 

2方向からの痛打(つうだ)を浴びせかけられるハバキリ。

 

だが、尚も接近(せっきん)しようとするジェットに反応し、脚部のホバーブースターを起動。

 

大きく()を描く滑走(かっそう)挟撃(きょうげき)の局面を抜け出し、ジェットの背後を取った。

 

機甲の身体と、電光の剣を振るうアラガミ。

 

その動作(どうさ)は鋭く精密だったが、同時に酷く機械的(きかいてき)でもある。

 

(ゆえ)に、ジェットは敢えて明け透けに飛び出していた。

 

(その位置なら、次はさっきの飛び道具。

もしくは――――}

 

その途端、ハバキリは愚直(ぐちょく)に突っ込んでくるジェットを目掛け、凄まじい電撃一閃(でんげきいっせん)を繰り出していた。

 

目にも止まらぬ斬撃と同時、空間に稲妻が(ほとばし)る。

 

だが、()()()()()()()()()()ダイブで突破(とっぱ)することが出来る。

 

即ち、飛翔と同時に構えた軽甲(バックラー)でハバキリの剣を(さば)いたジェットは、その硬直の頭上(ずじょう)で薙刃形態を構える。

 

――龍飛鳳舞(りゅうひほうぶ)――

 

螺旋を描いて降下し、薙ぎ払い。

 

其処へ、更に赤色の颶風(ぐふう)が飛びかかる。

 

「砕けっ!!」

 

靭やかに繰り出す二刀の回転斬(かいてんざん)が、ハバキリの右腕を捉えた瞬間、甲高い音を立てて(やいば)(くだ)け散る。

 

”結合崩壊”の散華(さんげ)(またた)き、そのダメージに崩折(くずお)れるハバキリ。

 

その瞬間、踵を返して突っ込むルルの身体に、”神機解放”(バースト)とは違う、力強い光耀(こうよう)が宿る。

 

「呼吸を合わせるっ」

 

薙刃形態を掲げるルルには黄金(おうごん)(かがや)きが(まと)わり、それは同じく斬りかかっていくジェットとも同調していた。

 

そしてそれは、彼の”神機解放”(バースト)の力は勿論、神機特性による身体強化(しんたいきょうか)や、”アクセルトリガー”発動の効果までもを、高まった感応波(かんのうは)を通じて”共有”させる。

 

”エンゲージ”と呼ばれるこの感応共鳴現象(かんのうきょうめいげんしょう)とは、よりアラガミ()()()()(ちか)いとされるAGE(エイジ)の能力。

 

そして同時に、言葉や感情で他者と(つな)がる、”人としての力”が合わさることで発現した、新たな世代の光耀であるのだった。

 

ジェットとルルは互いの光を分かち合い、()(たずさ)えた4つの刃を唸らせ、吶喊(とっかん)する。

 

「おらぁっ!!!!」

 

ジェットは再び空中から突進し、ハバキリの機動力を支えるホバーブースターへ猛攻をかける。

 

ルルも軽やかに舞い上がり、先程散々に撃ち込んだハバキリの頭部を、緋色(ひいろ)の竜巻のような連撃(れんげき)のバーストアーツで斬り刻む。

 

<アラガミ、オラクル反応低下しています!!>

 

「後がつかえてるからな。

押し通すぜ!!」

 

ハバキリが、結合崩壊から体勢を整えるや否や、2人のAGEは再度、挟撃(きょうげき)を構える。

 

手負いの敵は尚も怯まず、次の狙いをルルへと向け、飛びかかる。

 

脚部の浮遊力(ふゆうりょく)を解放して素早く浮上し、高所から交差斬(こうさぎ)りを繰り出しての奇襲。

 

しかしルルはその狙いを見切り、絶妙なタイミングで大きく飛び退(しさ)って回避する。

 

そして、的《まと》を外したハバキリの着地際へ、ジェットはダイブで突っ込み、捕喰攻撃。

 

”神機解放”(バースト)の光を強まらせ、続けざまに空中跳躍と銃形態(ガンフォーム)への変形を行う。

 

「頼んだぜ!!」

 

そのまま空中でルルに照準を向け、発射。

 

ジェットからの”神機連結解放”(リンクバースト)を受け取ったルルは薙刃形態(ていじんけいたい)で疾走し、ホバー移動で逃げようとするハバキリを(とら)えきる。

 

その脚部を低く薙ぎ払うや、頑強なホバーブースターの端々(はしばし)欠損(けっそん)し、結合崩壊によってハバキリはまたも倒れ伏す。

 

「このまま仕留める!!」

 

気迫を(あらわ)に、連斬(れんざん)を繰り出すルル。

 

ジェットはその横合いから銃形態(ガンフォーム)を突きつける。

 

これほどの距離なら、もはや狙いも何もない。

 

(てん)(あお)いで動きを止めるハバキリの頭部(とうぶ)を目掛け、次々に銃弾(バレット)を叩き込む。

 

「散れっ!!」

 

ルルが身を(ひるがえ)らせて飛翔し、上空から薙刃を叩き下ろす。

 

そして、ジェットが最後の1発を撃ち込んだ瞬間、ハバキリの頭部が完全に(はじ)()ぶ。

 

身体を駆け巡っていた駆動光(くどうこう)も途切れ、機甲の剣士は黒ずんだ残骸(ざんがい)に成り果てたのだった。

 

 

 

「――――目標沈黙、ってな。

さて、次だ、ジーク!!」

 

<っと、なんだよ!?

こっちはこっちで大変なんだって!!>

 

「そりゃ楽しみだな。

今、そっち行ってやるよ!!」

 

<は、早い・・・・!!

灰域種の反応はまだ戻ってきていませんっ。

チャンスですよ!!>

 

 

 

「――――せぇーの!!」

 

ただ一人でヴァジュラを相手取るジーク。

 

彼の振り上げたブーストハンマーの先端が変形し、その名の由来たる大出力ブースターから猛炎(もうえん)が吹き上げる。

 

その加速力を借りたジークは、ヴァジュラが目前に発生させた5つの雷球(らいきゅう)の内側へ素早く飛び込み、そして渾身の力で鉄槌を振るう。

 

「フィニィーッシュ!!!!」

 

ブーストハンマーの真価(しんか)、激烈な殴打をブースターによって更に加速させた衝撃(インパクト)に、さしものヴァジュラも大きく仰け反った。

 

そして続けざま、そこへ狙撃弾(そげきだん)の火線が突き刺さる。

 

「ジーク、無事かっ?」

 

「見りゃ分かんだろ、ルル!!

そっちは終わったんだな!?」

 

「おう!!

さぁて、此処《こっ》からだぜ!!」

 

 

 

合流した3人は、数多(あまた)ハウンドスクワッドとして戦ってきた連携で、ジェットを先鋒にした陣形を組む。

 

だがそれと同時、まるでヴァジュラの巨体へ落雷(らくらい)が走ったかのように力強く輝いた。

 

天を仰いで野太い大音声《だいおんじょう》を上げ、背のマントは電光を帯び、荒ぶる呼気(こき)には稲妻(いなづま)が弾けている。

 

即ち、怒りによる活性化を引き起こした、此処からが本番。

 

その身を(たぎ)らせる雷電(らいでん)によって、桁違(けたちが)いに上昇した身体能力から繰り出す、速さと強さ。

 

まして威力を増した電撃に直接当たれば、ただ一撃で致命的なダメージを受けかねない。

 

 

 

「来るか・・・・」

 

「・・・・ああ、どうやら()()()()()()

 

 

 

唐突なジェットの(つぶや)きを誰かが聞き返すより早く、エイミーからの緊迫した通信が飛び込む。

 

 

 

<ハウンド1、神機喚起率(じんきかんきりつ)”200%”!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム、第二段階発動(セカンドドライヴ)!!>

 

頃合(ころあ)いだな。

”例のやつ”、此処でやるぜ!!」

 

 

 

ジェットがそう声を張り上げた、瞬間。

 

ルルとジーク、そして通信の向こうのエイミーも、戦闘の最中(さなか)とはまた()()()()()に、意識を張り詰めさせていた。

 

 

 

<――――了解っ!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム、感応制御(かんのうせいぎょ)シークエンス!!>

 

そしてその空気は、遠く離れたクリサンセマムのブリッジをも震わせていた。

 

「おとさん、がんばれぇ~っ!!」

 

仲間達の見守る中、モニター映像の向こうで駆け出すジェット。

 

その援護のため、素早く散開するジークとルル。

 

「キース、俺達で”PKSC”の観測を行うぞ」

 

「はいっす!!」

 

現場での動きに呼応(こおう)し、技術者組もブリッジ下部に据え置かれた大型情報端末(ターミナル)の前に控える。

 

そしてエイミーは、ジェットの要請に応じ、この”腕試し”(テスト)の本懐を果たすべく、段取(だんど)りの制御・進行に集中を向けた。

 

<各制御ユニット、動作開始!!

アーティフィシャルCNS、システムリンク!!

”ペンタサーキット”、最終セーフティ解除っ!!

神機拘束(じんきこうそく)フレーム、解放っ!!>

 

「・・・・いよいよ、ね。

お願い・・・・後悔は、させないで・・・・!!」

 

「お前ならやり遂げる・・・・だよな・・・・っ!?」

 

「・・・・ジェット・・・・っ――――」

 

 

 

そして、(いま)

 

ジェットの神機(じんき)から低く、凶暴な唸り声が放たれていた。

 

聞く者の心胆(しんたん)を震わす異様な音圧(おんあつ)と共に、掛けられた(かせ)(きし)みを上げている。

 

(たか)ぶり、輝く神機を握り締め、構えるジェット。

 

AGEとして、もはや(おのれ)半身(はんしん)とでも言うべき、唯一無二の武器。

 

その深奥に(おさ)(ひそ)まされていた、(あら)ぶる衝動が遂に覚醒(めざ)めつつあった。

 

 

 

「―――― ”神機激臨解放”(レイジバースト)・・・・行くぜっ !!!!」

 

 

 

ジェットが、鬼気迫る一喝を放った、刹那。

 

”魔神を縛る枷”(ゲルギヤ)は音を立てて引き千切られ、その核心(かくしん)から、凄まじい波動(はどう)威力(いりょく)が解き放たれる。

 

(ゴウ)、という神風(かみかぜ)が起こり、大気が震え、引き裂かれる。

 

遠くを漂う灰域も戦慄(わなな)くようにうねり、太陽すら戸惑(とまど)うように(かげ)る。

 

そして、街並みを踏みしだく”荒ぶる神”も、悲鳴を上げて(すく)()がった。

 

 

 

「 (はら)(くく)りなぁっ !!!!」

 

 

 

今までとは比較にならない”神機解放”(バースト)の光を滾らせ、怒号を放って駆けるジェット。

 

漆黒(しっこく)、そして黄金(おうごん)の絡まる奔流(ほんりゅう)へ変じ、ヴァジュラの顔面へ吶喊(とっかん)

 

紅色(くれないいろ)に脈動する神機を振り被り、双刃衝破(そうじんしょうは)を叩き込む。

 

<ハウンド1、”神機激臨解放”(レイジバースト)!!!!

神機、開放出力・・・・184%!!??>

 

「ああ、分かるぜ!!

今が攻め時だってなぁっ!!!!」

 

嵐のように二刀(にとう)を振るいながら叫び返すジェット。

 

こうして、自我(じが)は保てている。

 

()()()()()()()()()()()()

 

顕現(けんげん)するは、”神機使い”(ゴッドイーター)の到達点。

 

しかし同時に、もし()()()へと踏み入れば、(いのち)は無い。

 

絶大な憤激(ふんげき)を放って突っ込んでくる”捕食者”に対し、ヴァジュラは後方へ高々と飛び上がる、バックジャンプを行う。

 

見上げるような高度の頂点で、血色(ちいろ)の翼が稲光(いなびか)り、触れるものを一瞬で炭化させる、高圧電流の(かたまり)を幾つも放つ。

 

だが、瞬く間に降り落ちてくる雷球(らいきゅう)の下を、ジェットは凄まじい速さで駆け抜けた。

 

本来なら一瞬しか発揮できない神機使(じんきつか)い最速の踏み込み(ステップ)を連続で行い、まさしく()()()()()突っ切っていた。

 

――カオティックドライブ――

 

着地するヴァジュラへ、青いオラクル纏う連舞(れんぶ)で斬りかかる。

 

その破壊力に押され、暴れ回るヴァジュラの側面に()()()()、”捕喰形態”《プレデターフォーム》を繰り出す。

 

肉薄する恐るべき脅威へ、ヴァジュラは振り返って前足を叩きつける。

 

だが、その爪牙(そうが)をダイブで突き抜け、頭上(ずじょう)を取ったジェットは、紅と蒼のオラクルを閃かす。

 

――龍飛鳳舞(りゅうひほうぶ)――

 

凄まじい回転降下で斬り刻み、着地と同時に薙刃(ていじん)を斬り上げる。

 

自身の数倍はあるヴァジュラを()()らんばかりの、凄まじい衝撃波が吹き上がる。

 

()()着けるぞっ!!」

 

ハウンドスクワッド隊長の号令に、ルルとジークが続く。

 

「命中、させるっ!!」

 

ルルの射撃が、弱所を的確に射抜く。

 

「ブーストッ!!」

 

ジークの鉄槌が火を吹き、ヴァジュラの頭蓋を打ち叩く。

 

瞬間、頭部と前足が同時に結合崩壊(けつごうほうかい)を起こし、倒れ込むヴァジュラ。

 

「そのまま、寝てろ・・・・っ!!」

 

ジェットは薙刃を構え、流星のように吶喊する。

 

青褪(あおざ)めた極光の炸裂する向こうに、ヴァジュラの断末魔(だんまつま)が響き渡った。

 

 

 

「――――(すっげ)ぇ、な・・・・」

 

「これが・・・・ゲルギヤシステムの適合の結果、なのか」

 

 

 

(むくろ)と化し、黒ずみ朽ちていくヴァジュラ。

 

それを前に仁王立(におうだ)ちになるジェットは、徐ろに薙刃を解除し、佇立(ちょりつ)する。

 

 

 

「ふぅーっ・・・・!!」

 

 

 

その激しい昂揚を呼気と共に(しず)めていく。

 

されど、そこにはいつもの陽気さは無く、強大な”アラガミ”と見紛(みまが)う力の明滅が(なお)(たぎ)る。

 

その(さま)はまさに、AGE(エイジ)という人類を逸脱した威力を持つとも(おそ)れられる存在の、極致。

 

常に先陣を切り、また最大の戦果を発揮し続ける、”鬼神”(デモン)とも渾名(あだな)される今世の英雄、そのものであった。

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 

 




・Tips 4

感応波共鳴式(かんのうはきょうめいしき)過駆動神機(かくどうじんき)高次制御機構(こうじせいぎょきこう)GELGJA(ゲルギヤ)システム」

ミナト・ダスティミラーの主であるアインが独自に開発する神機(じんき)の複合制御ユニットで、中・大型アラガミの行う”怒りによる活性化”を再現(さいげん)させるシステム。
神機使(じんきつか)いの”感応波”を増幅させ、神機(じんき)という”制御されたアラガミ”の捕喰衝動(ほしょくしょうどう)を刺激。
これに()って引き起こされる高出力化状態を、神機の本体(フレーム)と、制御核である”アーティフィシャルCNS”。
そして、それと同調する4重の複合制御回路、|”Pentagonal Kernel Suppression Circuit”の、三つ(ともえ)の態勢で”抑圧”する。
オラクル細胞本来の習性(しゅうせい)を強引に抑え込むことで、神機には飢餓感(きがかん)のようなストレス反応(はんのう)が蓄積される。
”喚起率”(かんきりつ)という値で視覚化される反応が十分に蓄積した後、制御機構を反転させ、感応波(かんのうは)による誘導を用いて発散させることで、”神機激臨解放”(レイジバースト)と呼称される”超活性化状態”(オーバードライブ)を発現することができる。
しかしながら、神機とその使い手には多大な負担を()いる為、運用に際しては個体毎の細やかな調整が不可欠。
何よりも、極めて優秀な神機適合率(じんきてきごうりつ)が無ければ、強烈なフィードバックによる様々な”障害”を(こうむ)る事態が予想されている。
現状、最低でも”甲判定”(こうはんてい)以上の適合率が必須とされ、最大レベルでの稼働を見越すのなら、そこから更なる上澄(うわず)みの素養(そよう)があって初めて安定稼働(あんていかどう)が見込めるとされている。
あまりに厳しい使用条件ゆえに、AGE(エイジ)どころか神機使(じんきつか)い全体でも適合者はほぼ存在せず、その研究開発は遅々として進んでいないようだ。
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