GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#4 >> 「The Sword Lily.」

<――――ヴァジュラ、沈黙!!

ハウンド1、”神機激臨解放”(レイジバースト)解除!!

神機喚起率(じんきかんきりつ)、16%に下降・・・・"ペンタサーキット”、正常に稼働。

再び、神機の抑制が開始されました>

 

 

 

「・・・・あぁ~、暴れた暴れた・・・・っ」

 

 

 

掛けられた(かせ)を解き放ち、人間どころか神機使(じんきつか)いの領分すらも超えかねない域へと踏み込んだジェット。

 

激戦の疲労とも違う大きな負担を感じ、思わず首や肩を(ほぐ)しながらぼやいていた。

 

正直言(しょうじきい)えば、ジェットとて少なくない緊張感があったし、こうして呑気にしていられる事に、胸を撫で下ろしたくなる心境ではあった。

 

すると、エイミーからの報告に半ば割り込むように、クレアの上擦(うわず)った声が割り込む。

 

<ジェット、大丈夫!?

何か、身体に異変は感じてる!?>

 

「あー・・・・ま、ちょっと疲れた感じはあるな。

そっちの方が、よく分かるんじゃないか?」

 

<っ・・・・体内のオラクル細胞の状態、問題無し。

バイタルも安定範囲内・・・・大丈夫、みたい>

 

「んじゃぁ、ゲルギヤシステムの真価ってのの実験は、”想定通りの大成功”、ってわけだ」

 

「おい、マジで平気なのか、ジェット!?

なんか、お前・・・・メチャクチャだったじゃん!!」

 

「お前達も、良い突っ込みだったぜ。

お陰で、そう手こずらずに()()を倒せた」

 

ジェットは、尚も気を(ゆる)めることなく神機を構え直す。

 

実際、作戦の本命たる”灰域種アラガミ”は未だ姿を表さず、最も高い()()が残されたままだった。

 

「ちぇっ・・・・そー言うけどよぉ。

なんか、またお前だけ凄いことをやりやがってよー」

 

「そう()ねんなって。

正直、そう何度も使えるもんじゃねぇぜ、()()はよ。

とりあえず、ミッション前に旦那(アイン)の言ってた通り、もう一度使うのは控えとくか」

 

「別に、拗ねてねーしっ」

 

と、どうにも緊張感に欠ける男2人と違い、ルルは至って冷静なまま、ミッションクロックを確認する。

 

「おそらく、”ヌァザ”はもうじき巡回から戻ってくるはずだ。

先回りして待ち構えるぞ、二人とも」

 

「おう」

 

<あれ・・・・?>

 

ところがその時、ジェット達を引き止めるかのように、エイミーが(いぶか)しげな声を発した。

 

<――――おかしいんです。

灰域種アラガミが、()()()()()()()で移動し始めています。

その場所から(はな)れて、真っ直ぐに・・・・?>

 

「え、なんでだ?」

 

<分かりません。

其処から北の山岳地帯(さんがくちたい)へ向かっているようなのですが、その一帯は感応波(かんのうは)レーダーの()きが良くなくて・・・・>

 

「・・・・縄張(なわば)りを荒らす別のアラガミが現れたか。

あるいは、なにか”捕喰しがいのあるもの”を嗅ぎつけたのか」

 

「アラガミ同士のド()()いってんなら、俺達が首を突っ込む(いわ)れも無い。

だが・・・・たぶん、こういう時は、()()()()()()()ぜ」

 

ジェットがふと、今までに遭った出来事(できごと)を振り返って呟いた、その時だった。

 

全員の通信機に、ノイズにまみれた何者かの()が飛び込んでくる。

 

<――――近隣に・・・・んきつか・・・・!!

こち・・・・”ユリハ”・・・・。

灰域種を・・・・囲まれ、離脱・・・・。

・・・・救援・・・・。

・・・・はミナ・・・・ジオラ・・・・AGE(エイジ)であ・・・・。

直ちに、救援を・・・・!!>

 

「オープンチャンネルでの救難信号・・・・?」

 

通信機を抑え、訝しむルル。

 

現場にいるジェット達でも信号を拾えるということは、通信の場所はそう遠くない。

 

<き、救難信号の発信源・・・・灰域(かいいき)による探査障害(たんさしょうがい)で、特定しきれませんっ。

所属識別(しょぞくしきべつ)は・・・・”グラジオラス”?>

 

「・・・・聞いたこと()ぇミナトだが、まぁ今はいい。

ハウンドスクワッド、これから救援に向かうぜ」

 

<えぇっ!?

で、ですが――――< 待って、皆っ !?>

 

即断即決するジェット。

 

だがエイミーと、そしてクレアからの慌てた待ったが掛けられた。

 

<簡単に決めすぎだよ、ジェット!!

全員、短時間とはいえ、戦闘を行った後なんだよ!?

それに、ルルはもう昨日からずっと、灰域で行動してるのに――――>

 

「私ならば、構わない。

元を辿れば、()()()()()()()()()だ。

同じような窮状(きゅうじょう)を見捨てるわけには行かない」

 

同意を求めるようなルルの眼差しに、ジェットもまた躊躇(ためら)いなく首肯(しゅこう)した。

 

「そういうことだ。

こっちの消耗は、まだ殆ど無い。

輸送車の予備物資で体勢を整えつつ向かう」

 

<だ、だけど・・・・っ>

 

<――――こちら、イルダ。

得体の知れない事態とはいえ、救難信号の無視は灰域航行法(かいいきこうこうほう)(そむ)く行為でもあるわ。

(ただ)し、準備不足の対応であるのも事実よ。

とにかく全員無事に離脱することを最優先に、戦闘は二の次。

良いわね?>

 

「へっ・・・・りょーかい」

 

一先ず、滞りなく下されたGO(ゴー)サインへ、ジェットは静かな気迫を(みなぎ)らせる。

 

ルル、そしてジークも、頼もしい表情で頷き返すのだった。

 

「そーいや、”ハウンドスクワッド(おれら)”だって、こうやって拾われたんだったよな」

 

「懐かしいか?」

 

「まーな。

それに、もう何度目かの展開なのに、意外と飽きねぇもんだな」

 

<まったく・・・・呑気にしてんなよ、お前ら。

灰域種相手に、事前情報の無い地でのミッションだってこと、忘れるなよ?

念の為、俺達も出撃できるよう準備はしておくからな>

 

「おう。

()()って時には頼むぜ、ユウゴ。

それと、救援対象が負傷してないとも限らねぇ。

そっちの用意も頼むぜ、クレア」

 

<・・・・うん、わかった。

皆、くれぐれも気をつけて>

 

「おう」

 

<――――探索範囲、絞り込みました。

救難信号発信点は、北部の山岳地帯の裾野付近(すそのふきん)と見られます>

 

「・・・・どうやら、離脱していったアラガミの”狙い”も、読めたな。

直ぐに着ける距離でもない。

急ごう、二人共」

 

「急ぎだったら、運転は俺に任せるしかねぇよな!?」

 

「・・・・やれやれ、下手なミッションよりもしんどそうだな」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「――――はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・!!!!」

 

 

 

黒黒(くろぐろ)とした灰域(かいいき)(かぜ)が渦巻く荒野を、1つの人影(ひとかげ)が走り続けていた。

 

身に纏った黒の戦闘服は酷く傷み、首元に巻き付けるように羽織ったジャケットが、幽鬼の外套(がいとう)のようにはためいている。

 

その姿は、蝕灰(しょくかい)による薄闇(うすやみ)へ溶け込み、あるいは追い立てて来るアラガミの()までもを(まど)わせていたのかもしれない。

 

全方位から不気味な(うな)り声の木霊するこの場には、陽の光の一筋も差込(さしこ)みはしない。

 

それどころか闇の向こうからいつ、無慈悲な(あぎと)が飛び出し、牙を剥いてくるのか。

 

”彼女”は、そんな恐怖と戦い続けながら、ひた走っていた。

 

けれども、身体に伸し掛かる疲労と重圧に、心までもが(くじ)けそうになってしまう。

 

「もう・・・・限界なのかしらね・・・・」

 

希望など見えないこの状況で、それでもただ1人、立ち向かい続けねばならない。

 

だが、思わず(こぼ)れた弱音(よわね)の通り、彼女はもうとっくに知っていた。

 

この地に吹き溜まった脅威(きょうい)は、もはやただ(ひと)りで解決することなど、不可能だと。

 

だが、それでも。

 

あまりに荷が勝ちすぎているのだとしても、膝を折ることは許されない。

 

覆し難い矛盾が横たわり、逃げ場すらも無い苦悩を噛み潰し、耳元の通信機へ触れる。

 

<――――近隣に神機使(じんきつか)いがいれば、応答を願う!!

此方(こちら)は、”ユリハ・グラジオラス”!!

大型灰域種を含むアラガミに囲まれ、離脱困難!!

直ちに救援を求む!!

繰り返す、此方はミナト・グラジオラスに所属するAGEである!!

直ちに、救援を求む・・・・!!>

 

(まん)(ひと)つにも満たない、賭けるに(あたい)しない可能性にすらも、縋り付く。

 

そうまでしてでも彼女、” ユリハ ”は、全てを(おこな)い、生き延びねばならなかった。

 

(この、”渾沌(こんとん)淵崖(えんがい)”には、もう私達の力は(およ)ばない・・・・。

だけど、それなら尚更、私はここで死ぬわけにはいかないの!!)

 

 

 

だが、その決意を踏みしだこうとするかのように、闇の向こうから激しい鳴き声が轟いた。

 

ドン、と重たい足音が幾つも掻き立てられ、太い二本脚(にほんあし)に異様に大きな(あご)()を持った怪物(かいぶつ)が複数、立ち塞がる。

 

体高2m、体長は6mほどにも達する小型アラガミ、”オウガテイル”。

 

白い甲冑(かっちゅう)のような甲殻を纏った獰猛(どうもう)(けだもの)だが、種全体では低位にあたる。

 

それでも、人間では及びもつかない身体能力を持ち、まして徒党(ととう)を組んで襲い来る際の危険度は、断じて軽視できるものではない。

 

更に、その群れの中には、一回り重厚な甲殻と黒い体色を持った上位種、”ヴァジュラテイル”までも混ざっていた。

 

易々とは通れない障害の出現に、思わず(ひる)んで立ち止まるユリハ。

 

それでも、戦うものの覚悟(かくご)として、息を整え、神機を構えさす。

 

高熱の輝きを帯びた曲刀型の技構長剣(ロングブレード)が、周囲の僅かな光源(こうげん)(やいば)に写す。

 

だが、その刹那。

 

ひときわ大きな雄叫びが上がり、傍の高台から大きな影が(おど)りかかる。

 

「上っ!?」

 

名前の由来たる、巨大な尻尾(しっぽ)を使った大跳躍を行うオウガテイル。

 

ぐわ、と開いた大顎(おおあご)を受けることはもちろん、その重量に踏み潰されるだけでも、命は無い。

 

だが、ユリハは迫りくる致死の危機を前に、素早く外套を踊らせ、動いた。

 

見切(みき)りと評すべき最小限の動きで回避し、直後に(かま)えた長剣を(ひらめ)かせる。

 

「せぇぁっ!!」

 

目にも止まらぬ3連斬を受け、堪らず転倒するオウガテイル。

 

それを皮切(かわき)りに一斉に襲いかかるオウガテイルの群れだが、ユリハはこれを(よど)みない(わざ)にて迎え撃つ。

 

まるで一筋の流水(りゅうすい)のように、次々に迫る障害を(かわ)すと同時、剣を振るい斬り払う。

 

最後に、群れの中心であるヴァジュラテイルを飛び越えながらの連斬を放ち、背後から捕喰形態(プレデターフォーム)を繰り出す。

 

そして”神機解放”(バースト)を行うや、即座に銃形態(ガンフォーム)へ変形させ、大きく飛び退きながら”アサルト”銃身を連射する。

 

「・・・・っ!?」

 

瞬間、その横様(よこざま)から何か”巨大な物体”が、凄まじい轟音を立てて接近するのを察する。

 

咄嗟に、全力で離脱するユリハ。

 

その途端、オウガテイルと交戦していた付近は、”巨人(きょじん)(うで)”と言うべきものによって、一撃で薙ぎ払われていた。

 

そして、その持ち主たる小山(こやま)のように肥大した人型(ひとがた)を見上げ、ユリハは息を呑んだ。

 

「・・・・そう。

貴方もまた、この渾沌(こんとん)(ふち)へと誘われたのね」

 

 

 

――――頭頂(とうちょう)の、穏やかに微笑む観音仏像(かんのんぶつぞう)とやらが(いだ)くのは、巨人のドクロのような物体。

其処には3つの眼光(がんこう)が灯り、真っ赤に染まった無慈悲(むじひ)な眼差しが、目の前の餌食(えじき)を見つめる。

異常に張り詰めた筋肉(きんにく)の詰まった肥満体は、重厚な(あし)のただ1歩で、地面を揺るがしてみせる。

そしてその黒黒(くろぐろ)とした巨体と同じほどに長く、野太(のぶと)い左腕は、いかなる物体をも粉砕する怪力を発揮する。

一方で、反対の右腕は根本(ねもと)から千切れ、苦悶に(うめ)く人の腕のような肉片が(うごめ)く、無惨な傷跡となっていた。

その名を、壊仏(かいぶつ)・ヌァザ。

(ほとけ)、とかいう神性をその身に(あらわ)しながらも、野蛮極まりない衝動と破壊をばらまく、大型灰域種アラガミである。

 

 

 

そしてヌァザは、常軌(じょうき)(いっ)した筋肉の鳴動(めいどう)も入り混じる重々しい喊声(かんせい)を発し、暴れ回り始める。

 

巨大な左腕でオウガテイル達を薙ぎ払い、それ以上に神機(じんき)という脅威を携えたユリハへ、熾烈(しれつ)な敵意を向けていた。

 

 

 

「・・・・覚悟は、出来てるわ」

 

 

 

一言、張り詰めたつぶやきを発するや、軽盾(バックラー)を構え、突撃するユリハ。

 

見上げるほどの高所にあるヌァザの顔面(がんめん)へ激突し、空中で連斬を放つ。

 

ヌァザは咆哮を上げ、それと同時に励起(れいき)させたオラクルエネルギーの衝撃波で迎撃。

 

ユリハはこれを最大防御効果(ジャストガード)(さば)くや、空中で神機を変形させ、(ひるがえ)る。

 

軽々とヌァザの巨体を飛び越えて着地し、その背中に()った光背(こうはい)と呼ばれる部位へ、爆発弾頭(ばくはつバレット)を連射する。

 

「さあ、来なさい。

貴方は、此処に留まっていてはいけないのよ」

 

再び勇ましく言い放ち、研ぎ澄まされた(たたず)まいで剣形態(ブレードフォーム)を構える。

 

其処へ振り返り、ヌァザは振り上げた巨腕(きょわん)を足元へ叩き下ろす。

 

その膂力(りょりょく)とオラクル細胞の活性とが凄まじい地形変動を引き起こし、ユリハを粉々にしようと迫る。

 

だがユリハは”神機解放”(バースト)の能力を活かし、再び空中へと跳躍。

 

そして高空で長剣を(かか)げ、朱色(しゅいろ)のオラクルを纏わせる。

 

――スピニングフォール――

 

人外の身体能力によって、弾かれたように空中を進み、縦回転(たてかいてん)の重圧を乗せた斬撃を放つ。

 

さながら、流れ落ちる瀑布(ばくふ)のような一刀(いっとう)で、地面を打った巨腕へ唐竹割(からたけわ)りに打ち込む。

 

其処に込めたオラクルエネルギーが吹き上がり、そしてユリハは更に、連斬を繰り出しながらヌァザの懐深(ふところふか)くへと踏み込む。

 

――旋風ノ太刀(せんぷうのたち)――

 

瞬間、(あおぐろ)いオラクルの()(すさ)ぶ斬り上げが無数の閃斬(せんざん)を生み、ヌァザの後足(あとあし)を斬り刻む。

 

「やあぁっ!!!!」

 

ユリハの(けん)()まず、更に斬撃を重ねながら駆け抜け、間合いを取り戻す。

 

小さく、華奢(きゃしゃ)な身体にそぐわぬ鋭利な実力に、ヌァザは忌々しげに足を踏み鳴らした。

 

すると、ふと”神機解放”(バースト)の光が途切れるユリハの一方(いっぽう)、ヌァザの身に激しいオラクル反応の放電が(ほとばし)った。

 

「まだ、これから・・・・っ」

 

無の型(ゼロスタンス)と呼ばれる構えで対するユリハは、緊迫して呟く。

 

活性化を果たしたヌァザの、より鮮烈な(あか)に染まる眼光が向く。

 

だが、その憤怒のままに動き出そうとする、直前。

 

突如(とつじょ)、周囲に激しい破裂音と閃光が幾度も弾け、アラガミ達を牽制(けんせい)した。

 

そして直後、群がりつつあったオウガテイル達が、次々と飛び来る弾丸(バレット)に撃ち倒される。

 

それは、どんな窮地(きゅうち)をも鋭く切り抜けてきた彼女にも、全く予想外の事態だった。

 

先程、ただの()()()()として救難信号を送ったものの、実を言えば期待などしていなかった。

 

だからこそ、自分ではない()()躍動(やくどう)が力強くアラガミを蹴散らす(さま)は、ただ(ひと)りの戦いでは知り得ない、頼もしい光景だった。

 

 

 

「・・・・まさかっ、本当に・・・・っ!!??」

 

 

 

そして、驚くユリハの前に、一陣の(かぜ)のように飛び込んでくる人影があった。

 

(たずさ)えた二刀(にとう)を堂々と構える姿に、まるで黒い翼のように、首元に巻いた長布(マフラー)羽撃(はばた)く。

 

 

 

「――――よぉっ!!

あんたが、俺等を呼んだ”ユリハ”ってのか?」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

例によって、先陣(せんじん)を切って飛び込んだジェットに(いた)く驚いた風な”ユリハ”だったが、その顔は戦闘服の上衣(じょうい)(さえぎ)られて(うかが)えない。

 

名前と声からして女性のはずだが、ひとまず今は、仔細(しさい)については置いておく。

 

 

 

「あ、貴方(あなた)は!?」

 

「話は後だ!!

さぁて、()ってそうそうお(かんむり)、ってな」

 

 

 

救難信号を追うジェット達は、山と谷が複雑に入り組む地域へと到達した。

 

輸送車を飛び降り、既に明らかな戦闘音が響く場所へ着いてみれば、先の討伐対象だったヌァザと戦うAGE(エイジ)が1人。

 

(おこな)うべきは明白で、まずは怒り心頭な灰域種(かいいきしゅ)の猛攻をいなしてみせねばならない。

 

<ヌァザ、オラクル反応活性化!!

”捕喰攻撃”が来ます!!>

 

「へっ、早速かよ!!

そんじゃ――――」

 

ヌァザは激しく身悶(みもだ)え、千切れているはずの右腕から(おびただ)しい肉塊(にくかい)をひり出した。

 

禍々しい赤黒(あかぐろ)さに染まるそれは、まるで”もう1本の腕”として振る舞い、神機使いの血肉(ちにく)を喰らい取ろうと振り下ろされる。

 

ところが、対応に動こうとしたジェットより一瞬早く、ユリハが飛び出していた。

 

「どいてっ!!」

 

回避行動すらも取らず、神機を(かか)げて走る狙いとは、もはや一択。

 

即ち彼女は、ヌァザが身体(からだ)ごと叩き下ろす”捕喰攻撃”に対して、見事な最大防御効果(ジャストガード)を成功させてみせた。

 

本来、構えた装甲ごと喰らい(つぶ)大質量(だいしつりょう)が、金属音を放って弾き返される。

 

だが、その激しい余波は、彼女が外套代(がいとうが)わりにしていた上衣にも及んでしまう。

 

急速に朽ち始めるそれを、ユリハは躊躇(ためら)いなく剥ぎ取り、脱ぎ捨てた。

 

 

 

――――その途端、ツギハギだらけのタイトな戦闘服を纏う身体の、(なま)めかしい曲線美が顕にされる。

達人と呼ぶべき技量(ぎりょう)と裏腹な、女性的な魅力が(さら)け出されると同時、今まで上衣に遮られていた美貌(びぼう)の真実もまた明らかとなる。

灰域の薄暗がりの中でもはっきり(つや)めく亜麻色(あまいろ)の長い髪を、アシンメトリーな()(がみ)のポニーテールに纏め、左のこめかみには緋色(ひいろ)鳥羽(とりばね)の髪飾りが揺れる。

丸みを帯びた優しげな双眸(そうぼう)は、今は死線(しせん)の緊張に鋭く吊り上がり、紫水晶(アメジスト)色の瞳がわずかに(きら)めいた。

激しい戦闘によって土埃(つちぼこり)(かぶ)りながらも、その白い珠肌(たまはだ)と決心に満ちた端麗(たんれい)な面差しは、決して色褪(いろあ)せてはいなかった。

 

 

 

「へぇ・・・・やるねぇ」

 

 

 

そして、ジェットは彼女の(わざ)が成功すると見越し、既にヌァザの懐へ踏み込んでいた。

 

よろめいているヌァザに対し、捕喰形態(プレデターフォーム)をじっくりと呼び覚まし、食いつかせる。

 

より高威力の捕喰攻撃でアラガミの血肉を()ぎ取ることで、更に多くのエネルギーを取得したのだった。

 

「ジーク、ルル!!!!」

 

それを、後方でオウガテイルの群れを撹乱している仲間達へ、”神機連結解放”(リンクバースト)として発射する。

 

「来た来たぁ!!」

 

「突破する・・・・!!」

 

「――――で、あともう一発は、と!!」

 

続けざまにジェットは、ヌァザへ”スナイパー”を数発撃ち込み、剣形態(ブレードフォーム)での接近に移行。

 

狙いは、ヌァザを挟んだ対面(たいめん)で途切れることなく攻めかかる、()()()()()()との連携を確保するためだった。

 

「ユリハ、だったな!?

気前よく戦ってるトコ悪いが、ここに長居は出来ねぇ!!

適当にあしらって、この群れを振り切るとしようぜ!!」

 

行き掛けの駄賃にヌァザの脚部を斬り刻み、同じく一旦下がったユリハへ声を掛ける。

 

ところが、彼女は厳しくもなお美しい面差しで、ヌァザを果敢に睨む。

 

「 ()()っ !!

それは、出来ないわ!!」

 

「なに?」

 

瞬間、身を屈めての高速突進を仕掛けるヌァザを、2人は大きく回避。

 

それからユリハは、尚も剣呑な表情で叫んだ。

 

「逃げてしまったら、アラガミは”私達のミナト”まで来てしまう!!

せめて、灰域種だけはこの谷の奥へ追い返さないと!!」

 

「・・・・なるほどな。

そんじゃ、速攻で済ませるか!!」

 

即決したジェットは、再び銃形態(ガンフォーム)で、ユリハへ”神機連結解放”(リンクバースト)を放つ。

 

「ありがとう・・・・やるわっ!!」

 

<っ・・・・ハウンド1!!

アラガミの反応が、どんどん集まっています!!

時間はありませんよ!?>

 

 

 

ジェットも、()()()()()()()とは感じていた。

 

かなり高濃度の灰域の中だと言うのに、やたらに集まるアラガミ達。

 

そして、前人未到と言われた限界灰域(げんかいかいいき)で戦う、聞いたことのないミナトに属するAGE(エイジ)

 

彼女はただ1人きりのまま、”最終防衛線”を(にな)うつもりらしい。

 

 

 

「・・・・なぁに、やることは変わらねぇ。

こいつらを叩きのめして、全員で生き延びる、だけだっ!!」

 

 

 

ジェットは闘志を放ち、狙撃弾をヌァザの顔面へ叩き込む。

 

強大な戦闘力を持つ灰域種アラガミであっても、捕喰攻撃を繰り出すのは相応の負担であり、連発はできない。

 

体勢の整わない今の内に、全力を叩き込むのみ。

 

すると、遠距離戦を仕掛ける敵に対し、ヌァザは不気味な口腔(こうこう)から多数の(どく)(かたまり)を吐き出した。

 

前方広範囲へランダムに飛ぶ弾幕(だんまく)を、ジェットはその僅かな前動作で見切り、ダイブで突き抜けつつ、薙刃形態(ていじんけいたい)を構える。

 

――龍飛鳳舞(りゅうひほうぶ)――

 

螺旋(らせん)を描く降下攻撃(こうかこうげき)から繰り出し、ヌァザの左肩口を斬り裂き、突き抜ける。

 

長剣《ロングブレード》を掲げて走るユリハと十字(じゅうじ)の立ち位置を取るや、続けざまに神機を二刀(にとう)へ戻し、接近。

 

対して、ヌァザは大袈裟に身体を(ちぢ)めるや、巨大な左腕を振り回して暴れ回る。

 

――双刃衝破(そうじんしょうは)――

 

だが、ジェットは凄まじい瞬発力でその隙間に飛び込み、輝く二刀を振り下ろし、走り抜けた。

 

「遅ぇな!!」

 

続けざま、ジェットは(きびす)を返して飛翔し、ヌァザの光背へ斬りかかる。

 

二刀での連続斬りで、神機へオラクルエネルギーを回収し、空中変形。

 

突きつけた銃口からゼロ距離で撃ち放った瞬間、甲高い音を立てて、光背(こうはい)が結合崩壊を引き起こしていた。

 

「此処だぜっ!!」

 

その快哉(かいさい)よりも前に、ユリハは動いていた。

 

「今・・・・っ!!」

 

鋭い踏み込み(ステップ)で剣の間合いへ飛び入り、無の型《ゼロスタンス》で構える。

 

其処から一拍(いっぱく)(おもむ)ろに神機を背後へと(なが)し、呼吸を深く(ととの)えた、その刹那。

 

――闢式(びゃくしき)撃火咆刃(げっかほうじん)――

 

一転して、ユリハは怒涛の気迫を放ち、剣を降り出す。

 

同時に、収納状態(しゅうのうじょうたい)の銃身からオラクルの衝撃波が放たれ、振り被った神機(じんき)太刀筋(たちすじ)へ、絶大な輝きと加速を与える。

 

轟音と共に、オラクルエネルギーを纏う全身全霊の袈裟斬(けさぎ)りが解き放たれ、その(まばゆ)い威力はヌァザの巨腕から(おびただ)しい血肉を爆ぜ飛ばさせる。

 

そして、必殺の一刀(いっとう)を振り抜いたユリハは、結合崩壊の散華(さんげ)を前に、残心(ざんしん)の構えで佇むのだった。

 

「なんだ、ありゃ!?」

 

「凄まじい(バーストアーツ)、だな・・・・」

 

「頼もしいねぇ。

これは、いっただろ」

 

息を整え、再び神機を掲げるユリハ。

 

その横に立ち、二刀を突きつけるジェット。

 

そして、2人の(ゆう)を前に重たげに立ち上がったヌァザは、ふと()()()と踵を返していた。

 

 

 

<あ、アラガミ逃走を開始っ。

渓谷の奥へ向かっていきます>

 

「ま、今回はこれで勘弁してやる、ってな」

 

「・・・・あの――――」

 

ひとまずの目標達成に軽口(かるくち)を叩くジェットへ、徐ろに歩み寄るユリハ。

 

峻烈(しゅんれつ)に剣を振るっていた覇気はもう抜けて、その美しさを引き立てる可憐な微笑(ほほえ)みを浮かばせていた。

 

「ありがとう。

凄いのね、貴方」

 

「ま、お互い様だ。

それより、もう此処で戦う理由も無いんだ。

さっさと安全な場所に――――」

 

< 皆さん、直ぐに其処から離れてっ !!!!

 逃げてくださいっ !!!!>

 

瞬間、なりふり構わないエイミーの叫び声が、通信越しに飛び込んで来る。

 

その直後、青白(あおじろ)く光る破壊的な光弾(こうだん)が、無数に飛来(ひらい)した。

 

咄嗟に装甲を構え、防御(ぼうぎょ)するジェットとユリハ。

 

「――――おいおいおい、こんなところでなにやってんだ?」

 

「そんなっ、新手(あらて)・・・・!?」

 

まさに、灰域の暗がりから重々しく進み出、そして豪壮(ごうそう)に吼える巨躯があった。

 

青く駆動(くどう)する鉄甲(てっこう)の身体を持った、白い獅子。

 

つい先日、ジェットが相手をした黒獅子(くろじし)の原種とされる大型灰域種アラガミ・バルムンクであった。

 

だがしかし、これほどのアラガミが前触れもなく襲来するだなどと、尋常な事態ではない。

 

<高出力の”偏食場(へんしょくば)パルス”が発生し、遠距離レーダーが妨害されてました!!!!

既にその近辺に、多数の大型(おおがた)アラガミの反応が集結しつつあります!!!!>

 

「・・・・なら、ついて来い、ユリハっ!!」

 

一声叫んだジェットは、困惑するユリハを尻目(しりめ)に、後方で戦う仲間達の(もと)へ猛然と走り出す。

 

「お、おいジェット!!

どうすんだよこのじょーきょー!?」

 

「決まってんだろ!?

今更あんなの、相手できるか!!」

 

言うや否や、ジェットは神機を小脇(こわき)(かか)え、手持ちのスタングレネードを纏めて放り投げた。

 

「ハウンドスクワッド、撤退(てったい)する!!

全員、輸送車まで走りまくれ!!!!」

 

 

 

――――本来、輸送業務(ゆそうぎょうむ)を主とする灰域踏破船(かいいきとうはせん)・クリサンセマムは、武装(ぶそう)こそ最低限のものしか(ほどこ)していないものの、優れた探査能力を誇る”感応波(かんのうは)レーダーシステム”を搭載していた。

 

その優位性に、何処かで胡座(あぐら)をかいていたのか。

 

(くだん)の山岳地帯に発生している”偏食場パルス”が探査(たんさ)を妨害しているとようやく気付くも、時すでに遅し。

 

完全に不意を突かれてしまい、その混乱は現場(げんば)のハウンドスクワッドはもちろん、クリサンセマムのブリッジにまでも伝播(でんぱ)していた。

 

<ハウンドスクワッドへ、退避(たいひ)ルートを送信しますっ!!

っ、大型アラガミの反応、更に3!!

急いでっ!!!!>

 

「そんな・・・・数が多すぎる・・・・っ!?」

 

「なんてこと・・・・っ。

・・・・ユウゴ、クレア、リカルドも、出撃準備を!!

彼らの撤退を援護(えんご)して!!」

 

「・・・・いいや、待て、イルダっ!!」

 

ジェット達どころか、クリサンセマムまでもが退路を()たれかねない窮状に応じようとするイルダだったが、ユウゴが鋭く()()()をかけていた。

 

珍しく(あせ)りを顔に出す彼だったが、ハウンドスクワッドの参謀役(さんぼうやく)として、冷静に戦況を見極めようとしていた。

 

「こうなったら、ただ寄り集まったところでどうにもならない。

・・・・あいつらだったら、ある程度(ていど)は自分で切り抜けられるはずだ。

クリサンセマムは、ルートを合わせて一帯(いったい)から退避しつつ、()になって群れの分断(ぶんだん)を図るんだ。

俺が、”感応波レーダー”を起動する。

ジェットほどじゃないが、近場の反応くらいなら(ひろ)えるっ・・・・どうだ!?」

 

「・・・・いいわ!!

エイミー、クリサンセマム、全速発進よ!!

リカルド、撹乱用武装(かくらんようぶそう)の管制は、任せるわ!!」

 

「やってみせましょう!!」」

 

「なら、エンジンをオーバードライブさせて、出力を上げよう!!

アインさん、手伝ってもらえますか!!??」

 

「良いだろう。

急ぐぞ、キース」

 

 

 

「・・・・おとさん・・・・っ」

 

 

 

にわかに(おちい)った危機に、フィムは不安そうにクレアへとしがみつく。

 

その震える肩を抱くクレアもまた、同じように体を強張(こわば)らせていた。

 

「大丈夫だよ。

おとさんは・・・・ジェットは、必ず生きて帰ってくるんだから・・・・っ!!」

 

 

 

「――――ジーク、右だっ!!」

 

「うぉわぁ!!??」

 

”スピード自慢”を豪語するジークの運転で、輸送車両は峡谷(きょうこく)(みち)を疾駆する。

 

ルルの指示に思い切りハンドルを切ると、エンジンとタイヤが唸りを上げ、岩陰から飛び出してきたヴァジュラを辛うじて(かわ)してみせる。

 

荷台に乗ったジェットは激しい荷重に耐えつつ、また1つスタングレネードを投げ放った。

 

「くそっ!!

ヴァジュラにサリエル、カリギュラ、マルドゥークまで見えやがった!!

マジで、どうなってんだ!!??」

 

「奴らにも、縄張(なわば)りがある。

本来、此処まで寄り集まる前に、競い合って(なら)される筈だが・・・・っ」

 

「それだったら、均された()()に来たかったよなぁ!!!!

こういうのっ、えっとっ、”蜂の巣にされたよう”、ってやつか!!??」

 

「それを言うなら()()()()()()、だっ」

 

「・・・・私を助けに来たばかりに、ごめんなさい。

これが、今の”渾沌(こんとん)淵崖(えんがい)”の現状。

私達が、この状況を()()()()()()()()()の」

 

「なにっ?

っ、うおっ!?」

 

「きゃ・・・・っ」

 

ジェットは、またもアラガミを躱した拍子の衝撃から、ユリハを(かば)った。

 

こちらを見詰(みつ)め、不可思議な事を言う彼女へ、改めて問い質せる(ひま)はなかった。

 

アラガミは刻一刻と増え続け、このままでは逃げ切れる()五分(ごぶ)も無い。

 

戦場を生き抜いてきた感覚で、追い詰められる()()を感じ取ったジェットは、(すみ)に追いやっていた神機を引っ掴んだ。

 

「エイミーっ!!

GELGYA(ゲルギヤ)システム、行けるかっ!?」

 

<む、無茶です!?

使えたところで、アラガミが多すぎます!!>

 

「こうなったら、()()じゃ逃げ切れねぇんだ!!

船に乗り込む時間くらい、誰かが稼がなきゃならねぇ!!」

 

苛烈な覚悟で殿(しんがり)を受け持つ(むね)を叫ぶジェット。

 

ところがその時。

 

その言葉を聞いていたユリハが、唐突に身を乗り出させた。

 

「ねぇ、聞いて。

・・・・(ひと)つだけ、この状況から脱出できる方法があるわ。

全員で私のミナト、”グラジオラス”へ向かってください。

逃げ場は、そこだけです」

 

ユリハは、ジェットの通信機へと顔を寄せ、はっきりと言い放っていた。

 

その揺るぎのない確信を持った姿に、ジェットはこの状況に於いて()けるに(あたい)する光明を見出していた。

 

「――――だ、そうだぜ!!

場所は分かるか!?」

 

<た、確かに、近隣に巨大構造物反応(きょだいこうぞうぶつはんのう)!!

でも、こんなミナトの存在、聞いたことも・・・・――――>

 

「迷ってるヒマは無ぇ!!

こうなったら信じるぜ、ユリハ!!」

 

「・・・・(こた)えて、みせるわ」

 

そして、ジェットは最後のスタングレネードを使い、追い縋ってくるアラガミ達を怯ませる。

 

ギリギリで追跡をいなしながら、輸送車は遂に峡谷を抜け、見通しの効く平原(へいげん)へ飛び出していた。

 

「見えたぜ、クリサンセマムだっ!!」

 

ジークの言う通り、左前方から灰域(かいいき)を突っ切り、城砦(じょうさい)のように巨大な車両が疾走してくる。

 

「だが、アラガミも更に増えている!!

7時方向、多いぞ!!」

 

ルルが叫んで報せる通り、迫り来るアラガミの群れはもはや、黒々(くろぐろ)として視界一杯に広がる程だった。

 

「マジで、このままなら袋の鼠、ってか・・・・っ!?」

 

()()()()()()()()

あれが、”グラジオラス”よ」

 

絶体絶命と言って過言でない、アラガミの大群に(かこ)われつつある状況で、ユリハは尚も取り乱すことのないまま、右手(みぎて)を指し示す。

 

すると、その先には確かに、クリサンセマムよりも更に巨大な建物が存在していた。

 

「限界灰域のど真ん中に、”ミナト”、か!?

だが、ユリハはあそこにアラガミを近づけさせたくないんじゃなかったのか!?」

 

「ええ、そうよ。

・・・・出来れば、これだけは使いたくはなかったわ。

でも、もう・・・・」

 

 

 

ユリハは、この切迫した状況とはまた別の()()に、大いに躊躇い、言い淀んだ。

 

やがて、徐ろに自身の通信機へ手を添えて、すぅと息を吸う。

 

今、この危難から長らえる為の決断。

 

されど、その引き換えに(おも)()を犯すのを()いるかのように、(おごそ)かに唇を開く。

 

 

 

「 ”我がローレライ、福音(ふくいん)を奏でよ” 」

 

 

 

その瞬間だった。

 

行く手のミナト・グラジオラスの遠景(えんけい)()()が現れる。

 

周囲を防壁(ぼうへき)に囲われた敷地の中心(ちゅうしん)、ドーム型の屋根を持つ建物に(とな)り合う(とう)が、大きく伸長しだす。

 

やがて、数10mも伸び切った塔の、何らかの装置らしき先端部(せんたんぶ)に緑色の灯火が宿る。

 

そしてその光量は次第に増し、やがて目を(すが)めずにはいられない眩さへとなっていく。

 

 

 

「なんだ、ありゃ・・・・っ!?」

 

 

 

思わず、呟いたジェットの言葉に答えるかのように、緑の光は臨界(りんかい)へと達していた。

 

そしてその瞬間、ひときわ強い閃光(せんこう)が起こり、塔の先端から強大で、()()()()()()()()が放たれていた。

 

それは、風よりも早い波動(はどう)となって全方位へ(はな)たれ、地面や大気、その場の全てを通り抜け、広がっていく。

 

すると、その()()が通り過ぎていったと同時、突然に輸送車がふらふらと蛇行(だこう)し、それから急激に停止する。

 

原因を確かめる暇は無かった。

 

何故なら、ほぼ同時にジェットは、突如として凄まじい苦痛(くつう)に襲われ、絶叫していたからだ。

 

「 ぐぅっぉああああっ !!??」

 

全身、身体中(からだじゅう)の細胞が激痛を叫び、目が(くら)んだ。

 

既にジェットは平衡感覚までも失い、荷台に倒れ込んで動けなくなっていた。

 

灰域種(かいいきしゅ)アラガミの捕喰攻撃(ほしょくこうげき)を食らった時でも、ここまでにはならない。

 

AGEの身体能力どころか、苦痛を噛み殺す戦士(せんし)心構(こころがま)えすら意味を成さない、未知なる弛緩(しかん)と恐怖に苛まれていた。

 

「うっ、がぁ、っぅああああっ!!??」

 

「ぐぅっ!!??

じ、ジェットっ、ジーク・・・・っ!!!!

これは一体、なんなんだ・・・・っ!!??」

 

同じように絶叫するジークと、苦しげなルルの声が聞こえるも、ジェットにはどうにも出来なかった。

 

<は、ハウンド1っ!!??

ジェットさん!!??>

 

< ジェット、ジェットっ !!??

そっちで、何が起こってるの!!??

ねぇ答えてっ!!!!

 ジェットっ !!!!」

 

< おとさん !!!!

 おとさんっ !!!!>

 

ひっきりなしに仲間達の呼びかけが聞こえようとも、ジェットの身体は悪寒に(すく)()がり、まるで力が入らない。

 

久しくなかった、()予感(よかん)を覚えるほどだった。

 

だが、その恐ろしい寒々しさから引き戻し、温かく包み込む抱擁(ほうよう)が、其処へ与えられていた。

 

 

 

「――――もう、大丈夫。

もういいわ。

だから、泣かないで・・・・っ」

 

 

 

果たして、ユリハは、ジェットやルル達ほどの影響を受けてはいなかった。

 

彼女は倒れ込んだジェットを抱き起こし、そして再び自身の通信機を起動する。

 

 

 

――――・・・・~♪・・・・――――

 

 

 

悲鳴を上げるでも、苦痛に呻くでもなく、ユリハは歌声(うたごえ)を発していた。

 

それは恐らく、子守唄とされるものだった。

 

暗い夜に、眠れずにぐずつく幼子(おさなご)()やすための調(しらべ)

 

そして、その旋律に乗せられたユリハの想いは、まるで本当に泣く子を(なだ)めさすかのように、この未知なる事態を(ゆる)ませていった。

 

 

 

「――――・・・・ごめんなさい、”シャロン”・・・・」

 

 

 

やがて、子守唄を終えたユリハが呟いた時、周囲の荒野は静寂(せいじゃく)に包まれていた。

 

ジェット達を(さいな)ませた苦しみは失せ、それどころか先程まで猛り狂っていたアラガミ達や、蝕灰(しょくかい)(かげ)すらも無い。

 

「っ・・・・なんだ・・・・って・・・・だ・・・・?」

 

果たして、連戦の疲労と、異常な事態に見舞われ、ジェットの意識は遠くなりかけていた。

 

「――――さぁ、今の内だわ。

皆、私のミナト・・・・グラジオラスへ。

誰もまだ、此処で死んではいけないわ」

 

 

 

――――果たして、クリサンセマムの面々は、まるでこの世ならぬ(かみ)の寝入った(すき)()うように、存在しないミナト・グラジオラスへと入港(にゅうこう)するのだった。

 

そして、彼らは未だ、知る由も無かった。

 

この隔絶された地に潜む、邪悪な陰謀。

 

その(かげ)が生み出したる”魔性の力”と、それに翻弄される者達の(こえ)を。

 

さりとて、知ったところで恐れはしなかったろう。

 

無慈悲に欲望を振り翳すものを許さず、そして(これ)に虐げられる(いのち)を守り、明日(あす)へと(つな)ぐ。

 

その決意こそは、彼らが(むご)く鎖に(つな)がれ、地に()そうとも、決して屈することなく目指(めざ)すと誓ったものだからだ。

 

何時、如何なる時であろうとも、その戦いは終わらない。

 

彼らこそは、解き放たれた猟犬達。

 

その誇り高き結束にて、いかなる絶望をも駆け抜ける者達。

 

その研ぎ澄まされた牙にて(かみ)をも喰らう、不撓の戦士達なのだから。

 

 

 

――――Next to 「GODEATER3>>Remember Chains. Vol2」....

 

 

 

 




・Tips.5

「ユリハ・グラジオラス」

年齢 20
ボイスタイプ #09

神機タイプ
ロングブレード 「幻影刃」
アサルト 「アメミト強襲型 弐式」
バックラー 「重装ティンベー 弐式」

バーストアーツ
GROUND 「闢式(びゃくしき)撃火咆刃(げっかほうじん)」 インパルスエッジが進化。 OP100を使用し、ゆったりとした構えからの袈裟斬りと共に絶大なオラクルを解放する。
STEP 「旋風ノ太刀」 ステップ□攻撃が進化。神機出力を上昇させ、OP吸収率の高い回転斬りを繰り出す。
JUMP 「スピニングフォール」空中△攻撃が進化。空中回転の勢いを乗せて斬り下ろし、強力な縦一閃を放つ。

衣装
※今回は、「F製支給戦闘服」

上衣 「ピュアカジュアル〔装飾〕」
下衣 「アーミーサバイバー」



ミナト・グラジオラスに於いて、ただ1人の神機使(じんきつか)い。
亜麻色(あまいろ)の髪、紫の瞳を持つ美女で、(たたか)いの道具(どうぐ)と見倣されるAGE(エイジ)には似つかわしくない程に優しく、情の深い性格。
落ち着いた母性(ぼせい)を漂わせ、他者の世話を(この)んで焼きたがる。
自身もまたそんな役回(やくまわ)りを望む(ふし)があるも、その表情にはどこか陰があり、言動も悲観的なものが多い。
そんな控えめな人柄と裏腹に、その戦闘技術は天才的であり、最も得意とする長剣(ロングブレード)を扱う剣技は、若くして達人の粋に到っている。
まだ幼いAGE候補生しかいないグラジオラスをたった独りで守り続け、人間関係においても母親のように慕われているも、その心労はかなりのものであるようだ。
育ってきた環境ゆえか、あまり物を捨てないタイプで、使える限りは使い続ける主義。
また、身に着けている緋色(ひいろ)鳥羽(とりばね)の髪飾りは、面倒を見る子供達から(おく)られた手作りの品で、本人も大切に手入れをしているようだ。
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