GODEATER3>>Remember Chains. 作:志乃木千進
#5 >> 「Hound's another sailings.」 Part.1
地面も空も、右も左も、遠くも近くもない。
そんな暗がりにジェットは
そしてその空間には、ひどく懐かしい声がひっきりなしに響き渡っていた。
――――安心しろ、ジェット。
お前達、チビ達は、俺が守って見せる。――――
――――ねぇ、ジェット?
あなたが大きくなったらその時はきっと、後に続くあの子達を守ってあげてね――――
「・・・・イアン・・・・リノン・・・・」
――――兄貴とだったらやれるよな!!
怖い、けど・・・・大丈夫・・・・!!
あぁ、あっ、嫌だっ、助け・・・・ああああぁぁぁぁっ!!!!
泣かないで・・・・私、皆と一緒にいれて、良かった・・・・――――
「・・・・ダリル、フィリア、カリス、ルカ・・・・」
暗闇に、見覚えのある背中が幾つも浮かび上がる。
それら1つ1つの姿を、
だが、その色鮮やかな仲間達は、止め処なく暗闇の向こうへと遠ざかっていってしまう。
――――・・・・くれぐれも無茶はしないで、っていつも言ってるのに。
そのまま
暗がりとは正反対の、
ジェットを想い、
「仕方ねぇんだ。
今度は俺が、”守る番”になったんだ。
あいつらがそうしたように、俺も退かねぇ。
無茶でもなんでも、やってやるさ」
・・・・
・・・
・・
・
――――閉じた
ジェットは、横たえている身体に走る不快感に
眩しさにぼやける視界。
するとそこに、2つの人影が覗き込む。
「おとさん!!」
「ジェット!!
起きれるっ?
此処がどこか、分かるっ?」
返事のような、重たい身体を動かす
その
「身体は平気・・・・?」
「おう。
なんていうか、相変わらず身体はダルいが・・・・まぁ、頭はスッキリしてるな」
おそらく、睡眠は取れたが疲労が取れきっていない、という状態だろう。
思えば昨日から
すると、そんな寝起きの悪そうなジェットを見て、急にぐしぐし、と
「・・・・おとさん、もうげんき。
とてもよかった、です・・・・」
「何だ何だ、大袈裟だな。
・・・・それとも、他の皆になにか遭った、ってんじゃないよな?」
ジェットにしがみついてくるフィムの頭を撫でてやると、その肩までも小さく震えていた。
流石に不安の
「心配しないで。
皆、無事に撤退出来たよ。
今、
あの”ユリハ”さんの言った通りにね。
ジェットはあの時のこと、どれくらい覚えてる?」
――――クレアの説明によれば、直前の撤退戦で”謎の発作”を起こしたジェットは、そのまま5時間ほども眠り続けていたらしい。
しかも、その原因は
「ユリハさんなら、間違いなくなにか知っているはずだけど・・・・彼女は、グラジオラスの
結局、彼女の救難信号も本物だったのか、それとも”罠”だったのか。
それも分からないままなの」
「・・・・そうか」
「でも、ひとまずジェットはもう大丈夫みたい。
検査でも、脳波や
・・・・本当に、良かった」
「・・・・お前って、本当に嬉しそうに笑うな」
純真に喜び、
普段から明朗なクレアだが、その無垢な笑顔は、少し
ジェット達はとある
だがその後、
そんなジェットの直球な言い方に、クレアは戸惑った様子になる。
しかし、すぐにどこか
「当たり前、じゃない。
・・・・本当に、心配したんだから」
「フィムも、しんぱいした!!
おとさん、わぁー、っていって、おへんじしないから・・・・」
「おう、そうか。
悪かったな、二人共。
でもよ、ちゃんとこうして元気そうだろ?」
いつも通りに、
ところが、
「げんきそう、じゃなかった!!」
きっ、と真っ直ぐにジェットを見つめて声を張るその剣幕に、思わずたじろいでしまう。
「――――おとさんは、
おとさんが、おへんじしなきゃ・・・・ふぃむも、みんなも、とってもいやだよ!!
だから、ぜったい・・・・げんきでただいま、おかえりなさい!!
しなきゃ、だめ!!!!」
「フィム、お前・・・・」
ジェットにすら、フィムの言葉足らずな
元気でなくなる。
そして、
他の誰でもない、”その人”と
「ジェット」
すると、横合いからクレアの張り詰めた声音が聞こえる。
見覚えある
これは、彼女が本当に
「私だって、けっこう怒ってるんだから」
「・・・・クレア」
「分かってる。
何もかも、予想通りに行くわけないし、迷ってる暇も無かったって。
でも、言ったよね。
万全の状態だったら・・・・焦らず、きちんと準備をしてればって。
なのに、どんどん進んでいって、それでこんなことになって。
・・・・本当に、
とはいえ、今回はあまりにもイレギュラーが大き過ぎた。
ジェットとて、複数体の
だが所詮、”
何よりも、2人の少女が本当に
「・・・・マジで、悪かったよ、クレア。
なんつうか、俺だって少しは控えようとはしてるんだぜ。
別に、好き好んで危ないことをしたいわけでもないからな」
「・・・・そう、かな。
・・・・そうかも、ね・・・・」
「やれやれ、
あんまり言うこと聞かないからって、フィムやクレアに嫌われたくないし、これでも大真面目だぜ」
「でもね!!
ふぃむは、おとさんがだいすきだよ!!」
そう言い張って
「私も・・・・嫌ったりなんかしないよ。
それよりも私は、大事な・・・・”仲間”を、助けられたかも知れないのに、出来なかった。
その後悔で、なにもかも嫌いになってしまう、みたいな・・・・そっちの方が、
少し
2人をこれ以上心配させずに済んだという、安堵のため息だった。
「――――俺も、もっと
今回だって、もう少し上手いやり方があったろうな。
フィムも、いつの間にかマジで
俺はどうにも腕っぷしばかり立派だが・・・・やっぱそれだけじゃ、安心させてはやれねぇのかもな」
助けを求められること。
頼りにされること。
それに張り切ったところで、不甲斐ない結果で不安がらせては、
そんな自分の有り様を、ジェットが噛み締めていた、その時。
「あのね」
クレアは、
しかし
「・・・・ジェットは、私よりもずっと強いよ。
でもだからこそ、もっとずっと”大きなこと”に巻き込まれてる、とも思うの。
その大変さと、それでも皆のことを考えてるのを、分かってあげたいって、思ってる。
でも、ジェットは・・・・”皆のリーダー”で、フィムの”おとさん”なのは、一人だけだから。
だから・・・・私・・・・ジェットに何かあったら、私は・・・・っ――――」
そこまで言って、しかしクレアは
その様子とは、見る人が見れば、大切な
だが、
「うぉーい・・・・そろそろ良いか?」
一旦、会話が止んだのを見計らってか、医務室の出入り口から突然に呼び声がする。
「ジーク、ルル!!」
フィムの言葉通り、2人はなんとなく所在なさげな様子で、自動扉の所に突っ立っていたのだった。
「なんだよ、ルルならともかく、お前まですっかり静かにしやがって」
「しょうがねぇだろ。
なんか来て早々、フィムと一緒に、”
「元気そうで何よりだ、ジェット。
・・・・クレアは、済まなかったな。
立ち聞きするつもりはなかったんだが」
ひそひそと囁きかけるルルだが、クレアはこれに応じることなく、何故か思いきり撃沈していた。
「ま、いいや。
それよかクレア、
「・・・・えっ。
あっ、ま、と・・・・っ」
ジークの問に、色白な顔を真っ赤になっているのを手で隠したつつ、慌てふためくクレア。
そんな彼女の様子も、
「どの話しだ?」
「こっから
でも、動けるならもう行こうぜ。
医務室では静かに、だしよ」
そう言ってふと目配せをするジークの動きで、ジェットは初めて気付いていた。
この医務室は、
しかし、ジェットが使う
「どういうことだ?
俺以外にもぶっ倒れたやつがいたのか?」
「ああ。
それも、
次いで、その
「あの時、グラジオラスが使った”兵器”は、正体はわからないけど
ジェット以外だと、特にリカルドと、アインさんが・・・・」
「なに・・・・!?――――」
――――ジェットは、クレア達から
其処では、イルダとユウゴ、そして珍しくもキースとエイミーが、持ち場を離れて輪になっていた。
そして、姿を現したジェットを見て、まずユウゴが進み出る。
「目が覚めたか。
調子はどうだ?」
「まぁまぁ、だな。
とはいえ、
とりあえず、これは一体なんの集まりなんだ?」
「そいつを聞くのは、俺よりもエイミー達に任せたほうが良いだろう。
実は俺も、目が覚めてからそう時間が経ってなくてな」
実際、そう言うユウゴの顔には、いつもの覇気がないようだった。
そして、続いてクリサンセマムのオペレーターであるエイミーが、
「ご無事で何よりです、ジェットさん。
・・・・では、クルーがあらかた揃ったところで、改めて現状の共有を行いますね。
まず、私達は約5時間前、膨大なアラガミの
現在は、事態を打破する手がかりを得るべく、施設の内部へ侵入する許可を待っているところなのですが――――」
「うすうす聞いてはいたが、もしかして”恩を仇で”、ってやつか?
どっか他所の
言いながら、ジェットはこのグラジオラスに逃げ込むこととなった
なんとなく・・・・全くの勘なのだが、彼女がそういった策を企んでいたと、ジェットには思えないでいた。
根拠のない、気持ちばかりが
「より正確に言えば、閉じ込められている最大の要因は、グラジオラスを広く取り囲んでいるアラガミにあるわ。
それによる激しい
・・・・
「分かりました。
ジェットさん達が眠っている間、私達も出来るだけの情報を集めていたんです。
まず、このミナトから
あのユリハさんから”
直前の交戦記録や、レーダーでの観測結果からも、それは裏付けられていると思われます」
エイミーの考察に、ふとジークが
「まず、そこがおかしいんだよな。
ルルも言ってたけど、アラガミってのは普通、そこまで群れたがらないはずだろ?」
「更に言えば、それほどに集まったアラガミ達は、互いに争う様子もない。
まして、こんなに食いでのある
「その理由は分からないけれど、その”原因”についての
そしてそれは、貴方達やリカルド、アインさんを
・・・・答えは、このグラジオラスの中心部にあるらしい、なんらかの”兵器”よ」
現状に
普段は機関エリアに
「先輩達が受けた、その兵器
出力的には、
だから、モロに受けた先輩達には大きな
キースの分析は、ジェットが倒れる寸前に見た光景とも
目に見えない
そして、今もその影響が続いているからこそ、グラジオラスを取り囲む形でアラガミの群れが停止しているのだろう。
だが、と、尚も怪訝そうなユウゴが口を挟んだ。
「――――そうだとしたって、未だに
普通の人間である、イルダとエイミーに影響が無いのは良いとして、
「俺やジークはかなりしんどかったみたいだが、ルルと、あのユリハって
ジェットの言葉に、撤退の指揮を引き継いでいたルルは
ユウゴは顎に手を当て、更に悩ましげに
「最初は、
感応波、といえば
そして通常の神機使いであるクレアも影響は薄かったが、リカルドとアインさんに至っては、一時は
そこでは、リカルドとアインが未だに昏睡状態、面会謝絶で横たわっているのだった。
「だが、二人とももう
「う、うん。
発症した直後に、”フィムの能力”で治療をしたから、ひとまずもう生命の危険は無いよ。
けれど、やっぱり酷く消耗してしまったみたい」
「・・・・つまりは、”
それは、
主として、灰域種アラガミの
すると、体内のオラクル細胞の活動が
そして、フィム・・・・”ヒト型アラガミ”の身体は、その負荷に適応し、症状を
その効力たるや、他ならぬ”AGE”こと、”
「――――けれど、そもそも、ね。
オラクル細胞に作用する兵器なら、その・・・・私達の中で、フィムが一番、影響を受けるはずじゃないかな、って・・・・」
「フィム・・・・おとさんたちみたいに、わ-ってならなかった。
・・・・でも、でも。
ギュ~って、いやなきもちになった、よ」
「・・・・そうか」
俯いて、小さく震えるフィムの頭を撫でてやるジェット。
どういう訳かは知らないが、
「・・・・一寸先は闇、ってか。
そんな危険なものな上に、いつ
「んあー、もう俺にはさっぱりわかんねぇよっ!!
なんか、”
「なんだよ、そりゃ?
ならリカルドと
「知んねーよっ
・・・・でもそうだったら、すぐにでも解決しそうじゃねーか」
事態を好転させる目処を付けられず、
つい刺々しく言い合う所に、イルダがパンと手を打って、割って入る。
「ひとまず、
そういった事も含めて、我々に
長くかかるかも、とは言っていたけれど、流石に、ね・・・・」
すると、まさにそう言った直後。
エイミーの抱えていた情報端末が、丁度良く着信の
「来ましたっ、グラジオラスからの通信です!!」
「モニターに出して」
イルダの指示に応じ、ブリッジ上方のメインモニターが光量を増す。
そして、まず彼女はどこか無機質なまでに
<灰域踏破船・クリサンセマムの皆さん。
大変、長くお待たせをしてしまい、申し訳ありませんでした。
改めて、私はここ、グラジオラスに所属する――――>
生真面目な調子で挨拶を述べつつ、彼女はその
ところが、その視線はふと途中で、”1人の人物”に釘付けにされたようだった。
<貴方、はっ・・・・>
「・・・・お、おう。
ユリハ、だよな?
元気そうじゃねぇか」
そして、その矛先に立っていたジェットは、なんだか居心地の悪さを覚えつつ、挨拶を返しておく。
途端、硬い表情だったユリハは少しの戸惑いを浮かべ、やがてぱぁ、と花が咲くような笑顔へと変わっていった。
<・・・・貴方も、無事だったのね。
あぁ、良かった。
私なんかを助けに来て、もしも、貴方に何かあったのだとしたら・・・・居た堪れないもの>
「お、おう。
俺はまぁ、頑丈なのも自慢だからな。
だが、
せっかく助けに行った相手にそんなのを言わせちゃ、
<あっ・・・・ありがとう。
けど、そうよね。
せっかく貴方が、助けに来てくれたんですものね>
「・・・・おう」
ユリハの、なんだか
そして気付くと、ブリッジにいる全員の視線がなんだか自分に集中している。
「なんかよぉ・・・・
「隙だらけ、だな」
「・・・・いや、逆にどう反応するんだよ、これ・・・・」
ジト目を向けてくるジークとルルだが、ジェットにだって戦いようのない時はあるのだ。
ともかく、そんなやり取りには目もくれず、イルダが大きなため息と共に割って入る。
「悪いけれど、脱線はそこまでにしてもらいたいわ。
まず
返答をお聞かせ願えないかしら?」
明らかな
そんな顔も、
――――と、思わずそんな事を考えてしまったジェットは、ひっそりと動揺していた。
<当ミナトの
クリサンセマムの乗組員には、グラジオラスの”
ただし、”
そして当ミナトの人員への、必要以上の接触は禁じ、また当方の所有する物資、情報の
随分と
察するに、その”オーナー”は友好的どころか、協力体制を取る気すら無いようだった。
「・・・・承知致しました。
寛大な対応に、感謝を」
<いいえ、ご理解に感謝します。
そちらは誘導ビーコンに従い、
小さく礼を交わし合う、イルダとユリハ。
その後、ユリハはおそらくもう一度、ジェットの方を見詰め、ややあって映像通信は途切れたのだった。
「随分と気に入られてるみたいじゃないか、相棒」
「・・・・うるせぇよ」
珍しく露骨に面白がっているユウゴへ、機嫌悪そうな
そのまま視線を回すと、エイミーは苦笑混じりで、ジークはニヤついている。
しかも、ルルとクレアは何やら
フィムだけは、相変わらずニコニコしたままだったが。
そして、ただ1人、真面目な雰囲気を保っているイルダは、大袈裟なため息を吐いて、場の注目を引いた。
「エイミー、キース。
グラジオラスへの入港と、下船の準備を。
あちらの通信設備を利用して、グレイプニルとの連絡を図るわ。
・・・・そして、ハウンドスクワッドにも、その同行を要請します。
但し、全員”
「・・・・随分と用心するんだな」
傭兵部隊とは言え、あくまでもアラガミとの戦闘が本分であるハウンドスクワッドには、お
だが、イルダは尚も険しい表情を崩さなかった。
「・・・・皆に、話しておくわね。
この、グラジオラス・・・・”
そして
私達は、そんな中にのこのことやって来た、”招かれざる客人”ということになるわね」
途端、全員の顔は緊張感に引き締まっていた。
イルダの話は
しかも、グラジオラス側が決して友好的で無いことも分かっている以上、尚更に状況は剣呑だと言える。
「何が待ち受けるのか、全く予想がつかないわ。
皆、決して警戒を緩めず、行動は慎重に。
・・・・特に――――」
すると、唐突に言葉を切り、ある
更にはクレア、ユウゴ
そして、その矛先に立つ黒髪の青年は、
「え、俺かよ」
「・・・・ま、そうだな。
コイツの場合、良くも悪くも
「おいおい、皆、俺をなんだと思ってんだ?
俺だって、そうと分かってればヘマはしねぇって。
なぁ、クレア、フィム?」
ジェットは
「そうかもね」
ところが、クレアはなかなか見ることが無いくらいな冷たい態度で、これを切って捨てる。
隣のルルまでも、無言で視線を
目も合わせてくれないという彼女達の
その一方で、フィムはいつも通りな愛らしさで、ニコニコとしながら声を上げた。
「おとさんはね、いつもおおきくって、つよくって、かっこいい!!
どんなときでも、
「・・・・そうか・・・・」
「どんなときでもシュパーって、ねぇ・・・・?」
「・・・・うるせぇぞ、ジーク」
見事な自業自得に陥るジェット。
イルダは、そこでようやく少し表情を
「とりあえず、今は勇敢さよりも、慎重さが求められる、ということね。
・・・・それでなくても、私達は今、
皆、くれぐれも気を緩めないように」
――――かくして、ひとまずその場は解散の流れとなった。
その中で、ジェットは
(・・・・イルダの言うことは、どれも
俺達を
味方なら守る。
敵なら倒す。
だが、どちらか分からない相手だとしたら、そいつを俺はどうやって判断するのか、か・・・・)
頭を悩ますのはジェットだけではなく、勇猛さで鳴らしたハウンドスクワッドの面々も皆、浮かない顔だった。
「
「神機以外の武器を握るのも、いつぶりだろうな。
やれやれ・・・・使い物になれば良いが」
「ったくよぉ。
なんだってアラガミにすっかり囲まれてるこんな時にまで、そんなのを気にしなきゃいけねぇんだっての・・・・」
至極もっともなジークのぼやきに、ルルとユウゴは肩を
「・・・・クレア、少し良いかしら?」
「はい?」
すると、その背後で、
そのまま、ブリッジの隅へと手招きし、わざわざ場所を変えてまで小さく話し合う様子が、ジェットには少し気になった。
・・・・
・・・
・・
・
――――1時間後。
「ふぅわぁ~・・・・っ」
ミナト・”グラジオラス”の旧施設とは、
いまだかつて見たことない
「あんま離れるなよ、フィム。
さっきのイルダの話、ちゃんと守らないとな」
「あいっ」
物珍しさに興奮気味のフィムを見守りながら、
前を歩くルル。ユウゴ、キース、クレアも振り返ってその姿に微笑んだ。
グラジオラスのドッグへ入港したクリサンセマムを降りると、その先は灰域からの侵蝕を抑える為、地下施設となっていた。
安全ではあるが、同時に逃げ場の少ない環境でもある。
故に今回は、
また、クレアも未知の場所で何が
「しかし、良かったのか、クレア?
リカルドとアインさんは、まだ目を覚ましていないんだろ?」
ふと振り返ったユウゴの問いに、クレアは少し考えるような
「二人とも、もう容態自体は安定しているの。
それだと、傍に居ても出来ることはあまり無いし、こっちに同行して備えて欲しいって、イルダさんがね」
「ボロボロ・・・・くらぁい・・・・。
ちょっと、こわい・・・・」
「ははは、だがおとさん達も、それにルルも、こんなところで育ったんだぜ」
「そうなの!?
すごーいね!!」
「とはいえ、
「流石に、”バラン”はもう少しマシな見てくれだったぞ。
だが、確かに・・・・この施設は、もはや放棄されてしまったようにしか見えないな」
「見た感じ、施設の点検整備だってやっぱりロクにされてないみたいだよ、
どこもかしこも、崩壊寸前。
まだ通電されている事自体、奇跡的なくらいだよ」
「・・・・となれば、やはり此処は、”
キースの見立てを聞いたユウゴは、怪訝そうに呟く。
口に出したその名称は、ジェットにとっても
「なんだ、知らなかったのか?
まぁ、ゲリラ的な規模とは言え、寄る辺のない
”招かれざる客”が、自分らの寝床を好き勝手に歩き回るのを見過ごすとも、考えにくいが」
「・・・・ならば、あるいは見過ごしているのではなく、泳がせてい見張っているか、だな」
その瞬間、ルルの
「其処にいるのだろう?
出てきたらどうだ」
「えっ、まじで!?」
驚くキースとフィムだったが、しかしハウンドスクワッドの精鋭達は、とうにその追跡者に気づいていた。
「俺が行く。
皆は下がってな」
クレア、フィム、キースを囲んで陣を作り、
ところが、その途端だった。
<――――っ――――>
気配の主は、あからさまに慌てふためき、音を立てて逃げ出し始める。
そしてその一瞬、物陰から確かに見えた
「お、おいっ、待てっ・・・・なぁ、待ってくれよ!!」
「どうした、ジェット?」
「”子供”だった!!
ペニーウォートのチビどもみてぇな、小さい奴だ!!」
「え・・・・っ!?
なら、待って、ジェットっ。
皆、フィムをお願い!!」
クレアの動きに、駆け出そうとした足取りを緩めるジェット。
おそらく、こういう場合は女性に任せた方が、穏便に済ませられる筈だ。
「――――ねぇ、待って!!
私達は、貴方に何もしないから!!
話を聞かせて欲しいの!!」
クレアを先頭に据えた一行は、廃墟のような施設通路をひた
相手は、音からして子供の足なのだが、それだけに散乱している
「いたな!!」
それでも、
「わっ、わぁ~~~~!!??」
「やれやれ、
なぁ、俺達なら何もしないから、ちょっと落ち着けって」
とうとう悲鳴を上げて逃げ惑う子供だったが、何度目かの
ところが、それよりも一瞬早く、その子は”目的地”へと到達してしまったらしい。
「”カミル”にぃちゃん!!!!」
「早くこっちに来い!!
――――お前らは、近寄るなっ!!!!」
コーナーを抜け、広めの通路に飛び出たクレアとジェットは、その先に背の高い少年が立っているのを見つける。
彼は、
ジェットは目を見開き、咄嗟に全開の速度で動く。
「 クレアっ !!」
ジェットは、クレアの身体を抱え、元来た通路の方へと強引に飛び込んでいた。
「きゃぁっ!?」
クレアの悲鳴、そして
「ジェットっ、クレアっ!!
無事かっ!?」
3番手について来ていたルルは、その光景ににわかに緊張を強めさせる。
「――――あぁ、平気だっ。
軽く足に
それより、怪我は
「わ、私・・・・ごめんなさいっ。
私を、庇って・・・・っ」
「なら、良いんだ。
・・・・それよりも、随分と
しかし、ジェットは
「今のは、ちょいと驚いたぜ。
だが、俺達はケンカしに来たわけじゃないんだ。
色々あって
やっと人の姿を見かけたもんだから、ムキになって追いかけちまって、悪かったな」
「おとさんっ!!」
「先輩、何があったの!?」
そこへ、遅れてやって来たフィムとキース、ユウゴが続くが、再び
特に、ユウゴの
そんな気遣いのお陰か、はたまたフィムの幼い声のお陰か、ややあって通路の奥から言葉が返ってくる。
「本当、なのか?
それにお前・・・・さっき、”ジェット”って・・・・」
「――――本当だよ!!
この人は、ハウンドスクワッドのジェットで、私はクレア!!
今、私一人で、手を上げて出ていくから、撃たないで!!」
「お、おいクレア・・・・っ!?」
「大丈夫、行かせて」
クレアは強い眼差しで答え、心配するジェットを安心させたがるように、小さく微笑んで見せる。
傍らのルルも、その提案に
「・・・・大丈夫だ。
こういう場合、私達のような見た目の者より、クレアの方が穏便に済む筈だ」
「その期待は確かにしてたが、相手が武器を持ってるってのは想定外だぜ・・・・」
――――そして、ゆっくりと通路へと進み出たクレアは、そのまま少し進んだところで、また声を掛ける。
「そっちへ行っても良い?」
通路の奥は、頑強なセキュリティゲートになっていた。
その前で、先程の幼い子供を背に庇って立つ、拳銃を構えたブロンド髪の少年。
しかも彼は、その両腕に”AGE”の証である
取り乱してはいないようだが、構えた拳銃を下げる様子も無いようだった。
「アンタも、ハウンドスクワッド、なのか?」
「そうだよ。
私は、クレア・ヴィクトリアス。
・・・・聞いても、良い?
あなたの名前は?
それにどうして、ジェットのことを知っていたの?」
医療スタッフとして、その健康状態が咄嗟に目に付く。
ブロンド髪の少年は痩せぎすで、拳銃を構える腕も震えている。
全体的に
「・・・・”ユリハ”が、言ってた。
アラガミに囲まれて凄く危なかったけど、ジェット、っていうAGEと、その仲間の人に助けて貰った、って。
・・・・アンタみたいな人のことは聞いてなかったけどさ」
しかし、少年はあくまで理性的に答え、徐ろに拳銃を下げてくれる。
「・・・・もういい。
ジェットって奴、そこから出てきなよ」
「OKだ。
なら、俺も両手も上げとくから、撃たないでくれよな」
相手を刺激しないよう、ゆっくり歩いて出てくるジェット。
しかし少年はもう興奮する様子はなく、冷静そうにクレア達を眺め回した。
一先ず、問答無用に撃たれる可能性はなくなったようだった。
「・・・・”カミル・グラジオラス”だ。
アンタ達が本当にユリハを助けたんなら、確かにオレ達には”借り”がある。
でも、そっちはいきなりオレ達の仲間を追い回したんだ。
そこは譲らないぜ」
「ああ、悪かったよ。
それにお前さん、良い眼をしてるな。
”仲間”は絶対、俺が守るっていう眼だ」
「
「まさか。
こんなトコロで生きていくなら、それくらいの根性がないとな。
俺は、ジェット・ペニーウォートだ、よろしくな」
「・・・・君も、さっきはビックリさせて、ごめんね」
とりあえず、彼らとはもうこれ以上、
安心と一緒に、クレアは先程までさんざん怖がらせてしまったろう小さな男の子に微笑みかける。
臆病そうなその子は、多少は警戒を緩めた様子でおずおずと頷いた。
「――――なぁ、カミル、っていったか?
後ろに、まだ俺の仲間が4人、いるんだ。
出てきても平気か?」
無言で頷くカミル。
紛うことない肯定の仕草と解釈し、ジェットは後ろへと声をかけた。
「おとさんっ!!」
すると、やはり真っ先に駆け寄って来たのはフィムだった。
怪我をしたジェットを心配して、その足元をウロウロと動き回る。
だが、そんな彼女を見た途端、カミルは顔色を変えていた。
「
「なに・・・・っ?」
そう
刹那、まるでその瞬間を
「ジェット!!」
ルルが真っ先に気付き、声を上げる。
だが、全員が
更にその異常な
< キィアァァァァ !!!!>
異様な金切り声を上げる
その威力で組み付かれ、もつれ合うジェットだが、歴戦のAGEとして
(確かに素早い・・・・が、引き換えに
そうと分かれば、相手の肩口を
ところが、その体勢になったことで見えた
「なっ!!??
お、お前・・・・!?」
< キィアアアアッッッッ !!!!>
思わず動きを
「しまった・・・・皆、退がれっ!!!!」
襲撃者は再度、ジェットを組み敷き、その両腕の鋭い爪を振りかざした。
ナイフのように空を切る
すると、襲撃者は口をガっと開き、大きな牙を
激しい取っ組み合いに、傍にいるクレアもフィムも、手が出せなかった。
「ジェットっ!!!!」
「おとさんっ!!??」
「そいつをさっさと押し退けろ、ジェット!!」
叫んで銃を構えるユウゴだが、
ならば、とルルがナイフを抜き放ち、襲撃者に掴みかかる。
だが、その瞬間だった。
「 やめて !!!!
その子を傷付けないで!!!!」
突如、悲鳴を上げながらそこへ割って入り、襲撃者を守ろうとする女性が現れる。
「貴方はっ!?」
「ユリハっ!!」
驚くクレアとカミルの叫び声が重なる。
そして、ユリハはルルを押し退け、襲撃者を背後から
「”シャロン”っ!!
ダメ!!
落ち着いて、シャロン!!!!」
ユリハは必死に声を上げ、金切り声で暴れる襲撃者を抑え込もうとする。
するとどうしたことか、その行為を
だが、しかし。
未だに強い敵意と、獣の唸り声とを上げる”少女”の素顔を見て、クレアが大きく息を呑んだ。
「そん、な・・・・っ!?」
――――
それどころか、まるで鏡写しかのような
「・・・・あなた、は・・・”
――――まさに、ジェットを睨みつけて凶暴さを剥き出しにする襲撃者は、ショックで固まっているフィムと、
されど、その肌色は異様なまでに
大きく、真紅の眼は
ドレスを着るような白亜の甲殻に、銀髪はフィムよりも少し長い。
だが、肩にかかる長さのその先端部は、防具のように硬質化している。
未だに打ち振るわせている両手は、
ただただ獰猛な、”
「シャロン・・・・ダメよ・・・・!!」
「チカヅクナッ・・・・!!
オマエ、”コロス”ッ・・・・!!」
ユリハが辛うじて抑え込む”シャロン”と呼ばれる少女は、ジェットを睨みつけながら言葉を発した。
但し、それは憎しみと敵意に満ちて、もはや
そして、間違いなくそんな
だがそんな時、シャロンは突然に
大きく見開かれていた真紅の瞳も
「・・・・き、気絶、した?」
嘘のように鎮まったシャロンを、ユリハはギュッと抱きしめた。
「シャロン・・・・っ」
「あ・・・・あの、ユリハ、さん!?
その子は・・・・”ヒト型アラガミ”、なんでしょう!?
でも、その姿は、一体!?」
クレアの呼びかけに、顔を上げるユリハ。
しかし、その眼が傷を負ったジェットと、
「っ、動くな!!」
「・・・・ごめんなさい、ごめんなさいっ・・・・!!」
ルルの制止にも応じることなく、ユリハはシャロンを抱いたまま、
そのまま逃げ去ろうとするのを黙って見逃せず、ルルは駆け出そうとする。
「待て、ルル!!
・・・・たぶん、追いかけない方が良いだろ」
だが、ジェットはそれを
当然、ルルは困惑し、ユウゴも
「・・・・だがな、ジェット。
あのシャロン、ってのは、
このまま放っておけば、また奇襲を受けないとも限らない」
「――――おとさん、ケガしてるっ」
今度はフィムが話を
シャロンの爪が
「人体急所を目掛けて的確に、とは・・・・賢い奴みたいだな」
「い、傷んでるとはいえ、防弾・防刃性能の戦闘服が、こんなにすっぱりと・・・・!?」
ジェットの
我に返ったクレアが、傍にしゃがみ込んで
すると、ぐず、と小さくしゃくりあげる音が聞こえ、ジェットも
「・・・・フィム、わかるよ。
シャロン・・・・フィムと
なのに・・・・なんで、おとさんに、いたいことしたの?
なんで、おとさんのこと、きらいなの・・・・?」
「フィム・・・・っ」」
そしてジェットも、ふと腕を伸ばし、頭を軽く撫でていた。
「
よりによって、あの顔であんなに怒られちまうと、俺もついびっくりしちまった。
・・・・なぁ、カミル。
”さっき言ってたこと”ってのは、フィムと”あの子”が似ていたから、だな?」
騒ぎの直前、カミルが口走ったことについて、改めて問うジェット。
しかしカミルは、明らかな
その反応と、さっきのユリハの行動も併せれば、あのアラガミの少女も
「悪いが、だんまりは困るな。
こっちは、仲間が命を狙われたんだ」
「落ち着けって、ユウゴ」
不穏な気配を
彼の動揺ももっともだが、そんなやり方は逆効果だというのは、他ならぬ
だが、と、ルルも黙ってられないという風に口を開いた。
「彼女・・・・シャロンが、私達にとって脅威であるのは事実だ。
自衛の為にも、情報を得る必要があるだろう」
「けれど・・・・彼の、あの様子じゃ・・・・」
ルルと、クレアの心配も最もだった。
ジェットとて、激しく迷っていた。
再びあんな襲撃を受けて、次は仲間達が傷つけられたらと思うと、焦燥感が込み上げてくる。
だが、その危険だけを見て、直ちに周りを敵と断じてしまうには、ユリハやカミルの酷く
どうして彼女達が、こうまで追い詰められ、傷付いているのか。
その事情を、想いを知らずに結論づけてしまうのを、ジェットの感覚は
――――で、あれば、納得が行く判断を下せるよう、早々に次へと動き出すのみ。
ジェットは、そうして戸惑いを越えて、いつもの悠々とした笑みを取り戻していた。
「だったら、こうしようぜ。
俺達と”取引”しないか、カミル?」
「なんだと?」
「まず、俺達から”情報料”を出す。
で、お前達は、それに見合った範囲で情報をくれれば良い」
「ジェット、それは・・・・」
驚き、困惑した様子のユウゴ。
それもその筈、取引と言うにはジェット達に利が薄い形であった。
「お前達が、オレ達に何を渡すっていうんだ」
ひとまず、頭ごなしに拒絶はしないカミルに対し、ジェットはニヤと笑った。
「まぁ、色々あるにはあるが・・・・とりあえず、そろそろ腹が減ってきたんだよな。
な、フィム?」
「うん。
フィム、”おかし”たべたいっ」
おとさんの言葉に、素直に答えるフィム。
同時に、皆もジェットの思惑を察し始めていた。
「決まりだな。
疲れた時は、食うもん食ってしっかり休むもんだ。
それに今回は”お客さん”もいることだし、ちょいと奮発してみっか!!」
「おとさん、
「まったく・・・・それはともかく、夜のお菓子は程々にしないとダメだぞ、フィム」
「えぇっ~!?」
「・・・・随分と高くつきそうな
やれやれ・・・・お前には敵わないよ」
「はははっ!!
でも、それでこそ先輩だよね!!」
はしゃぐフィムを
想定外な
そして、にわかにはしゃぎ出した
「なんだか、そういう
良かったら、貴方達もご一緒しない?
私達の船、クリサンセマムは
こうして、困ってる人や必要な場所へ、色々な物を運んで来たんだよ」
すると、クレアの言葉を聞いた小さな男の子が、ソワソワとしてカミルの方を見上げていた。
切望、と言い表して良いかもしれないその期待の眼差しに、カミルは
>> To be Continued....
・Tips.6
「クレア・ヴィクトリアス」
年齢 18
神機タイプ
チャージスピア 「チェイストベリー」
アサルト 「プロビーメイター」
シールド 「ヨーマンウォード」
バーストアーツ 「Nome」
灰域踏破船・クリサンセマムのクルーである、”
軍人家系の名士である”ヴィクトリアス家”の息女でもあり、その名に誇りを持っている。
治安維持組織・グレイプニルの所属ではあるが、任務の為に乗り込むクリサンセマムや、その中で出会ったハウンドスクワッドの面々と意気投合し、
平時はクリサンセマムの医療担当も預かっており、特に
基本的には穏やかで心優しいが、一方で時に
そして、あまり周りからは言及されないものの、やや目の毒な薄着な上に、
仲良しのルルやエイミー曰く、そのボリュームは