GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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Vol.2
#5 >> 「Hound's another sailings.」 Part.1


 

地面も空も、右も左も、遠くも近くもない。

 

そんな暗がりにジェットは在(あ)った。

 

そしてその空間には、ひどく懐かしい声がひっきりなしに響き渡っていた。

 

 

 

――――安心しろ、ジェット。

お前達、チビ達は、俺が守って見せる。――――

 

 

 

――――ねぇ、ジェット?

あなたが大きくなったらその時はきっと、後に続くあの子達を守ってあげてね――――

 

 

 

「・・・・イアン・・・・リノン・・・・」

 

 

 

――――兄貴とだったらやれるよな!!

 

怖い、けど・・・・大丈夫・・・・!!

 

あぁ、あっ、嫌だっ、助け・・・・ああああぁぁぁぁっ!!!!

 

泣かないで・・・・私、皆と一緒にいれて、良かった・・・・――――

 

 

 

 

「・・・・ダリル、フィリア、カリス、ルカ・・・・」

 

 

 

暗闇に、見覚えのある背中が幾つも浮かび上がる。

 

それら1つ1つの姿を、声音(こわね)を、昨日の事のように覚えている。

 

だが、その色鮮やかな仲間達は、止め処なく暗闇の向こうへと遠ざかっていってしまう。

 

 

 

――――・・・・くれぐれも無茶はしないで、っていつも言ってるのに。

そのまま取(と)り返(かえ)しのつかない事になる場合だって・・・・――――

 

 

 

暗がりとは正反対の、眩(まばゆ)い光の方向からは、馴染み深い少女の声が響く。

 

ジェットを想い、諌(いさ)めてみせる彼女へ、気付けば口を開いて答えていた。

 

 

 

「仕方ねぇんだ。

今度は俺が、”守る番”になったんだ。

あいつらがそうしたように、俺も退かねぇ。

無茶でもなんでも、やってやるさ」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

――――閉じた瞼(まぶた)の上から注ぐ光量(こうりょう)が、途絶えていた意識を再開させる。

 

ジェットは、横たえている身体に走る不快感に呻(うめ)きながら、眼を開く。

 

眩しさにぼやける視界。

 

するとそこに、2つの人影が覗き込む。

 

「おとさん!!」

 

「ジェット!!

起きれるっ?

此処がどこか、分かるっ?」

 

返事のような、重たい身体を動かす苦悶(くもん)のような声を上げつつ、起き上がるジェット。

 

その傍(そば)にはフィムとクレアがいて、気遣わしげな表情でこちらを見詰めていた。

 

「身体は平気・・・・?」

 

「おう。

なんていうか、相変わらず身体はダルいが・・・・まぁ、頭はスッキリしてるな」

 

おそらく、睡眠は取れたが疲労が取れきっていない、という状態だろう。

 

思えば昨日から戦(たたか)い通(どお)しだったのだし、単純に寝不足もあったのだろう。

 

すると、そんな寝起きの悪そうなジェットを見て、急にぐしぐし、とべ(・)そ(・)をかき始めるフィム。

 

「・・・・おとさん、もうげんき。

とてもよかった、です・・・・」

 

「何だ何だ、大袈裟だな。

・・・・それとも、他の皆になにか遭った、ってんじゃないよな?」

 

ジェットにしがみついてくるフィムの頭を撫でてやると、その肩までも小さく震えていた。

 

流石に不安の過(よぎ)ったジェットだったが、質問と共に目を向けたクレアは、冷静に首を横(よこ)に振(ふ)る。

 

「心配しないで。

皆、無事に撤退出来たよ。

今、クリサンセマム(わたしたち)はアラガミの群れを振り切って、”グラジオラス”へと踏み入ったの。

あの”ユリハ”さんの言った通りにね。

ジェットはあの時のこと、どれくらい覚えてる?」

 

 

 

――――クレアの説明によれば、直前の撤退戦で”謎の発作”を起こしたジェットは、そのまま5時間ほども眠り続けていたらしい。

 

しかも、その原因は今以(いまもっ)て明らかになっておらず、ただただあの時、グラジオラスの中心部から立ち上がった、”謎の兵器”の影響とだけしか分かっていないという。

 

「ユリハさんなら、間違いなくなにか知っているはずだけど・・・・彼女は、グラジオラスの”統領”(オーナー)に呼び出されて、施設内へ行ってしまって、それきり。

結局、彼女の救難信号も本物だったのか、それとも”罠”だったのか。

それも分からないままなの」

 

「・・・・そうか」

 

「でも、ひとまずジェットはもう大丈夫みたい。

検査でも、脳波や偏食因子(へんしょくいんし)に、異常は無かったよ。

・・・・本当に、良かった」

 

「・・・・お前って、本当に嬉しそうに笑うな」

 

純真に喜び、可憐(かれん)に笑ってみせるクレアに、ジェットはふと呟いていた。

 

普段から明朗なクレアだが、その無垢な笑顔は、少し前(まえ)の”ある事件”を思い出させた。

 

ジェット達はとある陰謀(いんぼう)に巻き込まれ、フィムを連れ去られてしまう。

 

だがその後、全員一丸(ぜんいんいちがん)の作戦の末、無事に救出成功を果たした時以来(ときいらい)の笑顔だった。

 

そんなジェットの直球な言い方に、クレアは戸惑った様子になる。

 

しかし、すぐにどこか強張(こわば)った態度と、心なしか憮然(ぶぜん)とした表情(ひょうじょう)とを見せた。

 

「当たり前、じゃない。

・・・・本当に、心配したんだから」

 

「フィムも、しんぱいした!!

おとさん、わぁー、っていって、おへんじしないから・・・・」

 

「おう、そうか。

悪かったな、二人共。

でもよ、ちゃんとこうして元気そうだろ?」

 

いつも通りに、朗(ほが)らかに言うジェット。

 

ところが、些(いささ)か能天気なその言葉を聞いて、フィムは笑うどころか、その丸い目を吊り上げてみせた。

 

「げんきそう、じゃなかった!!」

 

きっ、と真っ直ぐにジェットを見つめて声を張るその剣幕に、思わずたじろいでしまう。

 

「――――おとさんは、お(・)と(・)さ(・)ん(・)だ(・)け(・)!!

おとさんが、おへんじしなきゃ・・・・ふぃむも、みんなも、とってもいやだよ!!

だから、ぜったい・・・・げんきでただいま、おかえりなさい!!

しなきゃ、だめ!!!!」

 

「フィム、お前・・・・」

 

ジェットにすら、フィムの言葉足らずな訴(うった)えの意味は分かった。

 

元気でなくなる。

 

そして、い(・)な(・)く(・)な(・)る(・)。

 

他の誰でもない、”その人”と二度(にど)と会えなくなる事を理解しているフィムに、不意打ちを受けた気分になったのだった。

 

「ジェット」

 

すると、横合いからクレアの張り詰めた声音が聞こえる。

 

見覚えある目力(めぢから)と、少しの無言。

 

これは、彼女が本当に腹(はら)に据(す)えかね、どうすればいいか迷っている時だと、ジェットは知っていた。

 

「私だって、けっこう怒ってるんだから」

 

「・・・・クレア」

 

「分かってる。

何もかも、予想通りに行くわけないし、迷ってる暇も無かったって。

でも、言ったよね。

万全の状態だったら・・・・焦らず、きちんと準備をしてればって。

なのに、どんどん進んでいって、それでこんなことになって。

・・・・本当に、な(・)に(・)か(・)があったなら、どうしようって・・・・」

 

とはいえ、今回はあまりにもイレギュラーが大き過ぎた。

 

ジェットとて、複数体の灰域種(かいいきしゅ)に、あの異常なアラガミの群れが分かっていれば、出来うる限りの慎重さで臨(のぞ)んでいただろう。

 

だが所詮、”後悔先(こうかいさき)に立たず”。

 

何よりも、2人の少女が本当に悲痛(ひつう)そうに縮(ちぢ)こまる様子を前には、そんな言い訳に用は無いだろう。

 

「・・・・マジで、悪かったよ、クレア。

なんつうか、俺だって少しは控えようとはしてるんだぜ。

別に、好き好んで危ないことをしたいわけでもないからな」

 

「・・・・そう、かな。

・・・・そうかも、ね・・・・」

 

「やれやれ、狼少年(おおかみしょうねん)、ってか?

あんまり言うこと聞かないからって、フィムやクレアに嫌われたくないし、これでも大真面目だぜ」

 

「でもね!!

ふぃむは、おとさんがだいすきだよ!!」

 

そう言い張って懐(なつ)くフィムを撫でてやり、ひとしきり笑い合う。

 

「私も・・・・嫌ったりなんかしないよ。

それよりも私は、大事な・・・・”仲間”を、助けられたかも知れないのに、出来なかった。

その後悔で、なにもかも嫌いになってしまう、みたいな・・・・そっちの方が、嫌(いや)、かな」

 

少し気(き)の解(ほぐ)れた様子のフィムとクレアに、ジェットは息を吐く。

 

2人をこれ以上心配させずに済んだという、安堵のため息だった。

 

「――――俺も、もっと頭(あたま)、使わないとな。

今回だって、もう少し上手いやり方があったろうな。

フィムも、いつの間にかマジで色(いろ)んなことに気付けてるし、クレアにも余計な心配かけちまった。

俺はどうにも腕っぷしばかり立派だが・・・・やっぱそれだけじゃ、安心させてはやれねぇのかもな」

 

助けを求められること。

 

頼りにされること。

 

それに張り切ったところで、不甲斐ない結果で不安がらせては、世話無(せわな)いというものだ。

 

そんな自分の有り様を、ジェットが噛み締めていた、その時。

 

「あのね」

 

クレアは、意(い)を決(けっ)したように。

 

しかし尚(なお)も言葉に迷い、探すようにしながら、ジェットを見詰めていた。

 

「・・・・ジェットは、私よりもずっと強いよ。

でもだからこそ、もっとずっと”大きなこと”に巻き込まれてる、とも思うの。

その大変さと、それでも皆のことを考えてるのを、分かってあげたいって、思ってる。

でも、ジェットは・・・・”皆のリーダー”で、フィムの”おとさん”なのは、一人だけだから。

だから・・・・私・・・・ジェットに何かあったら、私は・・・・っ――――」

 

そこまで言って、しかしクレアは仄(ほの)かに顔を赤らめ、言(い)い淀(よど)んでしまう。

 

その様子とは、見る人が見れば、大切な想(おも)いを打ち明けようする少女の様子だと、判断できたろう。

 

だが、生憎(あいにく)とジェットには、そこまでに考え至る時間の与えられないまま、しかもその続きを聞く機会も逸(いっ)することになる。

 

「うぉーい・・・・そろそろ良いか?」

 

一旦、会話が止んだのを見計らってか、医務室の出入り口から突然に呼び声がする。

 

「ジーク、ルル!!」

 

フィムの言葉通り、2人はなんとなく所在なさげな様子で、自動扉の所に突っ立っていたのだった。

 

「なんだよ、ルルならともかく、お前まですっかり静かにしやがって」

 

「しょうがねぇだろ。

なんか来て早々、フィムと一緒に、”家族仲良(かぞくなかよ)く”みてぇな雰囲気でよぉ」

 

「元気そうで何よりだ、ジェット。

・・・・クレアは、済まなかったな。

立ち聞きするつもりはなかったんだが」

 

ひそひそと囁きかけるルルだが、クレアはこれに応じることなく、何故か思いきり撃沈していた。

 

俯(うつむ)いていた表情は伺(うかが)えなかったが、チューブトップから覗(のぞ)ける首元や肩までもすっかり赤らんでいる。

 

「ま、いいや。

それよかクレア、あ(・)の(・)話(・)はしたか?」

 

「・・・・えっ。

あっ、ま、と・・・・っ」

 

ジークの問に、色白な顔を真っ赤になっているのを手で隠したつつ、慌てふためくクレア。

 

そんな彼女の様子も、話(はなし)とやらについても、ジェットには見当(けんとう)がつきかねた。

 

「どの話しだ?」

 

「こっから先(さき)の話しだよ。

でも、動けるならもう行こうぜ。

医務室では静かに、だしよ」

 

そう言ってふと目配せをするジークの動きで、ジェットは初めて気付いていた。

 

この医務室は、平時(へいじ)は3基のベッドが出されている。

 

しかし、ジェットが使う一番手前(いちばんてまえ)のベッドより奥は、ビニルカーテンまでもを持ち出して、完全に隔離(かくり)がなされていた。

 

「どういうことだ?

俺以外にもぶっ倒れたやつがいたのか?」

 

「ああ。

それも、少(・)し(・)奇(・)妙(・)な(・)状(・)況(・)で、な」

 

咄嗟(とっさ)にベッドを仕切るビニルカーテンに手を伸ばそうとするジェットを諌(いさ)めるルル。

 

次いで、その意味深(いみしん)な言葉の続(つづ)きを委(ゆだ)ねるように、クレアの方へ目を遣(や)った。

 

「あの時、グラジオラスが使った”兵器”は、正体はわからないけど個(・)人(・)差(・)が大きかったようなの。

ジェット以外だと、特にリカルドと、アインさんが・・・・」

 

「なに・・・・!?――――」

 

 

 

 

――――ジェットは、クレア達から諸々(もろもろ)の説明を受けつつ、医務室を出てブリッジへと向かった。

 

其処では、イルダとユウゴ、そして珍しくもキースとエイミーが、持ち場を離れて輪になっていた。

 

そして、姿を現したジェットを見て、まずユウゴが進み出る。

 

「目が覚めたか。

調子はどうだ?」

 

「まぁまぁ、だな。

とはいえ、暫(しばら)くはいつも通りには動けないかもしれなさそうだ。

とりあえず、これは一体なんの集まりなんだ?」

 

「そいつを聞くのは、俺よりもエイミー達に任せたほうが良いだろう。

実は俺も、目が覚めてからそう時間が経ってなくてな」

 

実際、そう言うユウゴの顔には、いつもの覇気がないようだった。

 

そして、続いてクリサンセマムのオペレーターであるエイミーが、気遣(きづか)わしそうに一礼を見せた。

 

「ご無事で何よりです、ジェットさん。

・・・・では、クルーがあらかた揃ったところで、改めて現状の共有を行いますね。

まず、私達は約5時間前、膨大なアラガミの群(む)れを振り切ったものの、この未承認(みしょうにん)のミナト・”グラジオラス”に閉じ込められる形となってしまいました。

現在は、事態を打破する手がかりを得るべく、施設の内部へ侵入する許可を待っているところなのですが――――」

 

「うすうす聞いてはいたが、もしかして”恩を仇で”、ってやつか?

どっか他所の灰域踏破船団(キャラバン)に、救援を呼べたりはしないのか?」

 

言いながら、ジェットはこのグラジオラスに逃げ込むこととなった発端(ほったん)、”ユリハ・グラジオラス”の顔を思い浮かべていた。

 

なんとなく・・・・全くの勘なのだが、彼女がそういった策を企んでいたと、ジェットには思えないでいた。

 

根拠のない、気持ちばかりが蟠(わだかま)る煩(わずら)わしさに閉口しているのを他所に、イルダが先の質問へと答えた。

 

「より正確に言えば、閉じ込められている最大の要因は、グラジオラスを広く取り囲んでいるアラガミにあるわ。

それによる激しい偏食場(へんしょくば)パルスの乱れと、辺りの高濃度灰域(こうのうどかいいき)のせいで、通信も途絶してしまっているのよ。

・・・・一先(ひとま)ず、順を追って説明をしていきましょうか」

 

「分かりました。

ジェットさん達が眠っている間、私達も出来るだけの情報を集めていたんです。

まず、このミナトから北東(ほくとう)。

あのユリハさんから”渾沌(こんとん)の淵崖(えんがい)”と呼ばれていた山岳地帯ですが、そこには相当数のアラガミが潜んでいるようです。

直前の交戦記録や、レーダーでの観測結果からも、それは裏付けられていると思われます」

 

エイミーの考察に、ふとジークが怪訝(けげん)そうに唸った。

 

「まず、そこがおかしいんだよな。

ルルも言ってたけど、アラガミってのは普通、そこまで群れたがらないはずだろ?」

 

「更に言えば、それほどに集まったアラガミ達は、互いに争う様子もない。

まして、こんなに食いでのある人工物(ミナト)までもがあるというのに、じっと動かないままでいるのも、奇妙だ」

 

「その理由は分からないけれど、その”原因”についての目星(めぼし)は、既についているわ。

そしてそれは、貴方達やリカルド、アインさんを昏倒(こんとう)させ、またこのグラジオラスが襲われない要因とも、おそらくは一致している。

・・・・答えは、このグラジオラスの中心部にあるらしい、なんらかの”兵器”よ」

 

現状に陥(おちい)ってしまったその核心(かくしん)に踏み込んだイルダは、次いでキースに呼びかける。

 

普段は機関エリアに篭(こも)っているキースがわざわざ出張(でば)ってきたのは、この時の為だったのだろう。

 

「先輩達が受けた、その兵器ら(・)し(・)き(・)なんだけど、分析(ぶんせき)によるとこれは”異常な感応波(かんのうは)パルス”を発(はっ)して、オラクル細胞の働きを極端に萎縮(いしゅく)させるものみたいなんだ。

出力的には、近場(ちかば)で喰らえば、大型アラガミでも強力な状態異常に陥るくらいのものだよ。

だから、モロに受けた先輩達には大きな負荷(ふか)がかかったし、クリサンセマムの分厚い装甲越しにも被害を受けたんだ」

 

キースの分析は、ジェットが倒れる寸前に見た光景とも合致(がっち)する。

 

目に見えない何(・)か(・)が一気に走り抜け、ジェット達に被害を与え、アラガミを退(しりぞ)けさせた。

 

そして、今もその影響が続いているからこそ、グラジオラスを取り囲む形でアラガミの群れが停止しているのだろう。

 

だが、と、尚も怪訝そうなユウゴが口を挟んだ。

 

「――――そうだとしたって、未だに不(・)自(・)然(・)な(・)点(・)が残っちまうんだ。

普通の人間である、イルダとエイミーに影響が無いのは良いとして、神機使(じんきつか)いの中で、随分とダメージに”差(さ)”があるのはなぜだ?」

 

「俺やジークはかなりしんどかったみたいだが、ルルと、あのユリハって娘(こ)は余裕がありそうだったな?」

 

ジェットの言葉に、撤退の指揮を引き継いでいたルルは首肯(しゅこう)する。

 

ユウゴは顎に手を当て、更に悩ましげに唸(うな)る。

 

「最初は、性別(せいべつ)の差(さ)かとも思ったが、それでも筋(すじ)が通らない。

感応波、といえばAGE(おれたち)だが、俺の症状は重かった反面、キースは軽症だった。

そして通常の神機使いであるクレアも影響は薄かったが、リカルドとアインさんに至っては、一時は重体(じゅうたい)に陥るほどだった」

 

然(しか)り、ジェットが医務室で見た、隔離されたベッド。

 

そこでは、リカルドとアインが未だに昏睡状態、面会謝絶で横たわっているのだった。

 

「だが、二人とももう峠(とうげ)は越(こ)したんだよな、クレア?」

 

「う、うん。

発症した直後に、”フィムの能力”で治療をしたから、ひとまずもう生命の危険は無いよ。

けれど、やっぱり酷く消耗してしまったみたい」

 

「・・・・つまりは、”侵食状態(しんしょくじょうたい)”並の危険だった、ってか」

 

それは、神機使(じんきつか)いが陥る状態異常に於(お)いて、最も危険なものと言って過言では無かった。

 

主として、灰域種アラガミの捕喰攻撃(ほしょくこうげき)を受ける事で発症し、神機使いの命綱(いのちづな)である”偏食因子(へんしょくいんし)”の効力が、極端に弱まってしまう。

 

すると、体内のオラクル細胞の活動が鈍化(どんか)し、身体機能や治癒能力の低下までもを引き起こしてしまう。

 

そして、フィム・・・・”ヒト型アラガミ”の身体は、その負荷に適応し、症状を和(やわ)らげる能力を有している。

 

その効力たるや、他ならぬ”AGE”こと、”喰灰とその脅威に対抗・適応する神機使い(Adaptive God Eater)”誕生の発端であり、またジェット達も過去に、生命を救われたことがあった。

 

「――――けれど、そもそも、ね。

オラクル細胞に作用する兵器なら、その・・・・私達の中で、フィムが一番、影響を受けるはずじゃないかな、って・・・・」

 

「フィム・・・・おとさんたちみたいに、わ-ってならなかった。

・・・・でも、でも。

ギュ~って、いやなきもちになった、よ」

 

「・・・・そうか」

 

俯いて、小さく震えるフィムの頭を撫でてやるジェット。

 

どういう訳かは知らないが、幸(さいわ)いにもフィムの体調は問題無さそうではある。

 

だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)不安が拭(ぬぐ)えない、という側面もあるのだが。

 

「・・・・一寸先は闇、ってか。

そんな危険なものな上に、いつ次(・)があるかも分からないときた」

 

「んあー、もう俺にはさっぱりわかんねぇよっ!!

なんか、”属性(ぞくせい)”みたいなもんでも、あるんじゃねぇの?」

 

「なんだよ、そりゃ?

ならリカルドと旦那(だんな)は、弱(・)点(・)を(・)突(・)か(・)れ(・)た(・)、ってのかよ?」

 

「知んねーよっ

・・・・でもそうだったら、すぐにでも解決しそうじゃねーか」

 

事態を好転させる目処を付けられず、焦(じ)れるジークとジェット。

 

つい刺々しく言い合う所に、イルダがパンと手を打って、割って入る。

 

「ひとまず、推論(すいろん)を並べるのは此処までにしましょう。

そういった事も含めて、我々に救援要請(きゅうえんようせい)を出した”ユリハ・グラジオラス”に話を聞きたいのだけれど、彼女はミナトへ帰還した後、そ(・)れ(・)き(・)り(・)よ。

長くかかるかも、とは言っていたけれど、流石に、ね・・・・」

 

すると、まさにそう言った直後。

 

エイミーの抱えていた情報端末が、丁度良く着信の報(ほう)を鳴らしていた。

 

「来ましたっ、グラジオラスからの通信です!!」

 

「モニターに出して」

 

イルダの指示に応じ、ブリッジ上方のメインモニターが光量を増す。

 

其処(そこ)へ投影される映像通信には、戦闘服を纏(まと)う亜麻色(あまいろ)の髪を結(ゆ)わった女性が、緊張した表情で佇(たたず)んでいる。

 

そして、まず彼女はどこか無機質なまでに恭(うやうや)しく、深く頭を下げてみせた。

 

<灰域踏破船・クリサンセマムの皆さん。

大変、長くお待たせをしてしまい、申し訳ありませんでした。

改めて、私はここ、グラジオラスに所属する――――>

 

生真面目な調子で挨拶を述べつつ、彼女はその紫水晶(アメジスト)色の瞳でクリサンセマムのクルー達を見回す。

 

ところが、その視線はふと途中で、”1人の人物”に釘付けにされたようだった。

 

<貴方、はっ・・・・>

 

「・・・・お、おう。

ユリハ、だよな?

元気そうじゃねぇか」

 

そして、その矛先に立っていたジェットは、なんだか居心地の悪さを覚えつつ、挨拶を返しておく。

 

途端、硬い表情だったユリハは少しの戸惑いを浮かべ、やがてぱぁ、と花が咲くような笑顔へと変わっていった。

 

<・・・・貴方も、無事だったのね。

あぁ、良かった。

私なんかを助けに来て、もしも、貴方に何かあったのだとしたら・・・・居た堪れないもの>

 

「お、おう。

俺はまぁ、頑丈なのも自慢だからな。

だが、自(・)分(・)な(・)ん(・)か(・)、なんて言うのは無しだ。

せっかく助けに行った相手にそんなのを言わせちゃ、格好(カッコ)がつかないからな」

 

<あっ・・・・ありがとう。

けど、そうよね。

せっかく貴方が、助けに来てくれたんですものね>

 

「・・・・おう」

 

ユリハの、なんだか熱(ねつ)っぽい態度に当てられたのか、妙に落ち着かない気分で視線を逸らすジェット。

 

そして気付くと、ブリッジにいる全員の視線がなんだか自分に集中している。

 

「なんかよぉ・・・・違(ちが)くね?」

 

「隙だらけ、だな」

 

「・・・・いや、逆にどう反応するんだよ、これ・・・・」

 

ジト目を向けてくるジークとルルだが、ジェットにだって戦いようのない時はあるのだ。

 

ともかく、そんなやり取りには目もくれず、イルダが大きなため息と共に割って入る。

 

「悪いけれど、脱線はそこまでにしてもらいたいわ。

まず此方(こちら)としては、先に要望した援助を引き受けてもらえるのか、否(いな)か。

返答をお聞かせ願えないかしら?」

 

明らかな棘(トゲ)を含ませたイルダの問いに、ユリハは再度、表情を引き締めてみせる。

 

そんな顔も、絵(え)になる。

 

――――と、思わずそんな事を考えてしまったジェットは、ひっそりと動揺していた。

 

<当ミナトの統領(オーナー)の決定に基づき、そちらの要求の一(・)部(・)を承諾します。

クリサンセマムの乗組員には、グラジオラスの”旧施設(きゅうしせつ)”への立ち入りと、その設備使用を許可します。

ただし、”中央施設(ちゅうおうしせつ)”への侵入、及び接近。

そして当ミナトの人員への、必要以上の接触は禁じ、また当方の所有する物資、情報の供与(きょうよ)には応じられません>

 

随分と強気(つよき)な出方(でかた)に、イルダやユウゴはひっそりと眉を顰(しか)めていた。

 

察するに、その”オーナー”は友好的どころか、協力体制を取る気すら無いようだった。

 

「・・・・承知致しました。

寛大な対応に、感謝を」

 

<いいえ、ご理解に感謝します。

貴船(きせん)のセキュリティ認証は、既に行なっています。

そちらは誘導ビーコンに従い、入港(にゅうこう)してください>

 

小さく礼を交わし合う、イルダとユリハ。

 

その後、ユリハはおそらくもう一度、ジェットの方を見詰め、ややあって映像通信は途切れたのだった。

 

「随分と気に入られてるみたいじゃないか、相棒」

 

「・・・・うるせぇよ」

 

珍しく露骨に面白がっているユウゴへ、機嫌悪そうな一睨(ひとにら)みでカ(・)マ(・)す(・)ジェット。

 

そのまま視線を回すと、エイミーは苦笑混じりで、ジークはニヤついている。

 

しかも、ルルとクレアは何やら妙(みょう)な迫力(はくりょく)を感じる真顔で、じっと見詰めて来ている。

 

フィムだけは、相変わらずニコニコしたままだったが。

 

そして、ただ1人、真面目な雰囲気を保っているイルダは、大袈裟なため息を吐いて、場の注目を引いた。

 

「エイミー、キース。

グラジオラスへの入港と、下船の準備を。

あちらの通信設備を利用して、グレイプニルとの連絡を図るわ。

・・・・そして、ハウンドスクワッドにも、その同行を要請します。

但し、全員”対人用装備(たいじんようそうび)”を整え、クリサンセマムの警護班との2班体制(にはんたいせい)で行動してちょうだい」

 

「・・・・随分と用心するんだな」

 

傭兵部隊とは言え、あくまでもアラガミとの戦闘が本分であるハウンドスクワッドには、お門違(かどちが)いとも言える指示に、驚くユウゴ。

 

だが、イルダは尚も険しい表情を崩さなかった。

 

「・・・・皆に、話しておくわね。

この、グラジオラス・・・・”未承認(みしょうにん)のミナト”というのは、つまりは非(・)合(・)法(・)の(・)施(・)設(・)ということよ。

そして経験上(けいけんじょう)、そのような場所には必(かなら)ずと言って良い程、なにか後暗(うしろぐら)い目的が付き纏っているわ。

私達は、そんな中にのこのことやって来た、”招かれざる客人”ということになるわね」

 

途端、全員の顔は緊張感に引き締まっていた。

 

イルダの話は元(もと)よりだが、何より”つい最近”にも、そのような悪意(あくい)に翻弄された記憶があるからに他ならなかった。

 

しかも、グラジオラス側が決して友好的で無いことも分かっている以上、尚更に状況は剣呑だと言える。

 

「何が待ち受けるのか、全く予想がつかないわ。

皆、決して警戒を緩めず、行動は慎重に。

・・・・特に――――」

 

すると、唐突に言葉を切り、ある方向(ほうこう)を見やるイルダ。

 

更にはクレア、ユウゴ達(たち)といった順(じゅん)に、ただ1人へと視線が集中した。

 

そして、その矛先に立つ黒髪の青年は、甚(はなは)だ意外だと言わんばかりに目を見開いていた。

 

「え、俺かよ」

 

「・・・・ま、そうだな。

コイツの場合、良くも悪くも勢(いきお)いありきだしな」

 

「おいおい、皆、俺をなんだと思ってんだ?

俺だって、そうと分かってればヘマはしねぇって。

なぁ、クレア、フィム?」

 

ジェットは咄嗟(とっさ)に先ほどの医務室でのやり取りを思い出し、助け舟を求めてクレアの方を見やる。

 

「そうかもね」

 

ところが、クレアはなかなか見ることが無いくらいな冷たい態度で、これを切って捨てる。

 

隣のルルまでも、無言で視線をす(・)い(・)と逸らしてしまう。

 

目も合わせてくれないという彼女達の塩対応(しおたいおう)に、まぁまぁショックを受けるジェット。

 

その一方で、フィムはいつも通りな愛らしさで、ニコニコとしながら声を上げた。

 

「おとさんはね、いつもおおきくって、つよくって、かっこいい!!

どんなときでも、シ(・)ュ(・)パ(・)ー(・)ってひとりでいっちゃって、すごぉいっ!!」

 

「・・・・そうか・・・・」

 

「どんなときでもシュパーって、ねぇ・・・・?」

 

「・・・・うるせぇぞ、ジーク」

 

見事な自業自得に陥るジェット。

 

イルダは、そこでようやく少し表情を解(ほぐ)れさせた。

 

「とりあえず、今は勇敢さよりも、慎重さが求められる、ということね。

・・・・それでなくても、私達は今、未踏(みとう)の地(ち)の奥で孤立してしまっている。

皆、くれぐれも気を緩めないように」

 

 

 

――――かくして、ひとまずその場は解散の流れとなった。

 

その中で、ジェットは色々(いろいろ)な憂(うれ)いを含んだため息を吐く。

 

(・・・・イルダの言うことは、どれも最(もっと)もだ。

俺達を害(がい)そうとするのは、何もアラガミだけじゃない。

味方なら守る。

敵なら倒す。

だが、どちらか分からない相手だとしたら、そいつを俺はどうやって判断するのか、か・・・・)

 

頭を悩ますのはジェットだけではなく、勇猛さで鳴らしたハウンドスクワッドの面々も皆、浮かない顔だった。

 

「対人想定(たいじんそうてい)など、随分と久しぶりだな・・・・」

 

「神機以外の武器を握るのも、いつぶりだろうな。

やれやれ・・・・使い物になれば良いが」

 

「ったくよぉ。

なんだってアラガミにすっかり囲まれてるこんな時にまで、そんなのを気にしなきゃいけねぇんだっての・・・・」

 

至極もっともなジークのぼやきに、ルルとユウゴは肩を竦(すく)めさせて応える。

 

「・・・・クレア、少し良いかしら?」

 

「はい?」

 

すると、その背後で、物憂(ものう)げに俯(うつむ)いていたクレアを呼び止めるイルダ。

 

そのまま、ブリッジの隅へと手招きし、わざわざ場所を変えてまで小さく話し合う様子が、ジェットには少し気になった。

 

 

 

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

――――1時間後。

 

「ふぅわぁ~・・・・っ」

 

ミナト・”グラジオラス”の旧施設とは、殆(ほとん)ど廃墟(はいきょ)と言って差し障(さわ)りないような状態であった。

 

いまだかつて見たことない退廃的(たいはいてき)な光景に、フィムは素(す)っ頓狂(とんきょう)な声で驚いた。

 

「あんま離れるなよ、フィム。

さっきのイルダの話、ちゃんと守らないとな」

 

「あいっ」

 

物珍しさに興奮気味のフィムを見守りながら、殿(しんがり)を歩くジェット。

 

前を歩くルル。ユウゴ、キース、クレアも振り返ってその姿に微笑んだ。

 

一塊(ひとかたまり)になって進むこの一行は、グラジオラスの通信設備を扱うために組まれたメンバーである。

 

グラジオラスのドッグへ入港したクリサンセマムを降りると、その先は灰域からの侵蝕を抑える為、地下施設となっていた。

 

安全ではあるが、同時に逃げ場の少ない環境でもある。

 

故に今回は、機敏(きびん)で対人戦闘経験(たいじんせんとうけいけん)に長じているルルが先鋒(せんぽう)を努める。

 

また、クレアも未知の場所で何が遭(あ)っても良いよう、トレードマークの頑丈な”鞄”(ランドセル)に医療具を詰めて同道(どうどう)していた。

 

「しかし、良かったのか、クレア?

リカルドとアインさんは、まだ目を覚ましていないんだろ?」

 

ふと振り返ったユウゴの問いに、クレアは少し考えるような素振(そぶ)りの後(あと)、徐(おもむ)ろに答える。

 

「二人とも、もう容態自体は安定しているの。

それだと、傍に居ても出来ることはあまり無いし、こっちに同行して備えて欲しいって、イルダさんがね」

 

先刻(せんこく)、ジェットが見たクレア達の立ち話はその事だったのかもしれない。

 

「ボロボロ・・・・くらぁい・・・・。

ちょっと、こわい・・・・」

 

「ははは、だがおとさん達も、それにルルも、こんなところで育ったんだぜ」

 

「そうなの!?

すごーいね!!」

 

「とはいえ、貧乏性(びんぼうしょう)の”ペニーウォート”だって歩哨(ほしょう)くらい何人か立たせていたもんだが、此処はそういうのも無いようだ」

 

「流石に、”バラン”はもう少しマシな見てくれだったぞ。

だが、確かに・・・・この施設は、もはや放棄されてしまったようにしか見えないな」

 

「見た感じ、施設の点検整備だってやっぱりロクにされてないみたいだよ、先輩(せんぱい)。

どこもかしこも、崩壊寸前。

まだ通電されている事自体、奇跡的なくらいだよ」

 

「・・・・となれば、やはり此処は、”赤(あか)の女王(じょおう)”と関係のない場所なのかもな」

 

キースの見立てを聞いたユウゴは、怪訝そうに呟く。

 

口に出したその名称は、ジェットにとっても馴(・)染(・)み(・)はあったが、意外な言葉でもあった。

 

「なんだ、知らなかったのか?

反(はん)グレイプニルを掲げる”赤の女王(やつら)”は、この限界灰域(げんかいかいいき)に拠点を持っていると噂されているんだ。

まぁ、ゲリラ的な規模とは言え、寄る辺のないAGE(エイジ)が集(つど)った武闘集団だ。

”招かれざる客”が、自分らの寝床を好き勝手に歩き回るのを見過ごすとも、考えにくいが」

 

「・・・・ならば、あるいは見過ごしているのではなく、泳がせてい見張っているか、だな」

 

その瞬間、ルルの声音(こわね)が剣(つるぎ)の鋭さを帯びていた。

 

「其処にいるのだろう?

出てきたらどうだ」

 

「えっ、まじで!?」

 

驚くキースとフィムだったが、しかしハウンドスクワッドの精鋭達は、とうにその追跡者に気づいていた。

 

敢(あ)えてこれまで触れずにいたのは、その気配というのが、あまりにも分(・)か(・)り(・)易(・)す(・)ぎ(・)た(・)からだった。

 

此処(ここ)を訪れてから今まで、物音すらろくに消さずに後ろをついて来ていたのだが、今回の指揮役たるルルが見切りをつけた以上、待っている謂(いわ)れは無い。

 

「俺が行く。

皆は下がってな」

 

クレア、フィム、キースを囲んで陣を作り、殿(しんがり)だったジェットが進み出る。

 

ところが、その途端だった。

 

<――――っ――――>

 

気配の主は、あからさまに慌てふためき、音を立てて逃げ出し始める。

 

そしてその一瞬、物陰から確かに見えた姿(・)に、ジェットも驚かされてしまう。

 

「お、おいっ、待てっ・・・・なぁ、待ってくれよ!!」

 

「どうした、ジェット?」

 

「”子供”だった!!

ペニーウォートのチビどもみてぇな、小さい奴だ!!」

 

「え・・・・っ!?

なら、待って、ジェットっ。

皆、フィムをお願い!!」

 

クレアの動きに、駆け出そうとした足取りを緩めるジェット。

 

おそらく、こういう場合は女性に任せた方が、穏便に済ませられる筈だ。

 

 

 

「――――ねぇ、待って!!

私達は、貴方に何もしないから!!

話を聞かせて欲しいの!!」

 

クレアを先頭に据えた一行は、廃墟のような施設通路をひた走(はし)った。

 

相手は、音からして子供の足なのだが、それだけに散乱している瓦礫(がれき)を上手く避けて行けるようで、なかなか距離が縮まらない。

 

「いたな!!」

 

それでも、神機使(じんきつか)い達の俊足(しゅんそく)を振り切れはせず、その後ろ姿をはっきりと捉(とら)える。

 

「わっ、わぁ~~~~!!??」

 

「やれやれ、人攫(ひとさら)いの気分だぜ・・・・っ。

なぁ、俺達なら何もしないから、ちょっと落ち着けって」

 

とうとう悲鳴を上げて逃げ惑う子供だったが、何度目かの曲がり角(コーナー)を経て、ようやく上手く先(さき)んじられそうな距離にまで詰め寄る。

 

ところが、それよりも一瞬早く、その子は”目的地”へと到達してしまったらしい。

 

「”カミル”にぃちゃん!!!!」

 

「早くこっちに来い!!

――――お前らは、近寄るなっ!!!!」

 

コーナーを抜け、広めの通路に飛び出たクレアとジェットは、その先に背の高い少年が立っているのを見つける。

 

彼は、仲間(なかま)を追い回す連中へ激しく叫び、その両手で握った”拳銃”を真っ直ぐ、先頭のクレアへ向けていた。

 

ジェットは目を見開き、咄嗟に全開の速度で動く。

 

「 クレアっ !!」

 

ジェットは、クレアの身体を抱え、元来た通路の方へと強引に飛び込んでいた。

 

「きゃぁっ!?」

 

クレアの悲鳴、そして銃声(じゅうせい)が同時に響き、足に鋭い痛みが走る。

 

「ジェットっ、クレアっ!!

無事かっ!?」

 

3番手について来ていたルルは、その光景ににわかに緊張を強めさせる。

 

「――――あぁ、平気だっ。

軽く足に掠(かす)ったぐらいだ。

それより、怪我は無(ね)ぇか、クレア?」

 

「わ、私・・・・ごめんなさいっ。

私を、庇って・・・・っ」

 

「なら、良いんだ。

・・・・それよりも、随分とゴ(・)ア(・)イ(・)サ(・)ツ(・)じゃないかっ?」

 

しかし、ジェットは狼狽(うろた)える2人を制(せい)し、そして努(つと)めて友(・)好(・)的(・)に(・)声を張り上げる。

 

「今のは、ちょいと驚いたぜ。

だが、俺達はケンカしに来たわけじゃないんだ。

色々あって此処(ここ)に逃げ込んできたんだが、周りが今どうなってるのか、まだよく分かんなくてな。

やっと人の姿を見かけたもんだから、ムキになって追いかけちまって、悪かったな」

 

「おとさんっ!!」

 

「先輩、何があったの!?」

 

そこへ、遅れてやって来たフィムとキース、ユウゴが続くが、再び手振(てぶ)りで制しておく。

 

特に、ユウゴのド(・)ス(・)の利いた声は、逆効果になりかねない。

 

そんな気遣いのお陰か、はたまたフィムの幼い声のお陰か、ややあって通路の奥から言葉が返ってくる。

 

「本当、なのか?

それにお前・・・・さっき、”ジェット”って・・・・」

 

「――――本当だよ!!

この人は、ハウンドスクワッドのジェットで、私はクレア!!

今、私一人で、手を上げて出ていくから、撃たないで!!」

 

「お、おいクレア・・・・っ!?」

 

「大丈夫、行かせて」

 

クレアは強い眼差しで答え、心配するジェットを安心させたがるように、小さく微笑んで見せる。

 

傍らのルルも、その提案に首肯(しゅこう)した。

 

「・・・・大丈夫だ。

こういう場合、私達のような見た目の者より、クレアの方が穏便に済む筈だ」

 

「その期待は確かにしてたが、相手が武器を持ってるってのは想定外だぜ・・・・」

 

 

 

――――そして、ゆっくりと通路へと進み出たクレアは、そのまま少し進んだところで、また声を掛ける。

 

「そっちへ行っても良い?」

 

通路の奥は、頑強なセキュリティゲートになっていた。

 

その前で、先程の幼い子供を背に庇って立つ、拳銃を構えたブロンド髪の少年。

 

しかも彼は、その両腕に”AGE”の証である一対(いっつい)の腕輪(うでわ)を嵌めていた。

 

取り乱してはいないようだが、構えた拳銃を下げる様子も無いようだった。

 

「アンタも、ハウンドスクワッド、なのか?」

 

「そうだよ。

私は、クレア・ヴィクトリアス。

・・・・聞いても、良い?

あなたの名前は?

それにどうして、ジェットのことを知っていたの?」

 

医療スタッフとして、その健康状態が咄嗟に目に付く。

 

ブロンド髪の少年は痩せぎすで、拳銃を構える腕も震えている。

 

全体的に血色(けっしょく)も悪く、栄養と筋力不足なのだろう。

 

「・・・・”ユリハ”が、言ってた。

アラガミに囲まれて凄く危なかったけど、ジェット、っていうAGEと、その仲間の人に助けて貰った、って。

・・・・アンタみたいな人のことは聞いてなかったけどさ」

 

しかし、少年はあくまで理性的に答え、徐ろに拳銃を下げてくれる。

 

「・・・・もういい。

ジェットって奴、そこから出てきなよ」

 

「OKだ。

なら、俺も両手も上げとくから、撃たないでくれよな」

 

相手を刺激しないよう、ゆっくり歩いて出てくるジェット。

 

しかし少年はもう興奮する様子はなく、冷静そうにクレア達を眺め回した。

 

一先ず、問答無用に撃たれる可能性はなくなったようだった。

 

「・・・・”カミル・グラジオラス”だ。

アンタ達が本当にユリハを助けたんなら、確かにオレ達には”借り”がある。

でも、そっちはいきなりオレ達の仲間を追い回したんだ。

そこは譲らないぜ」

 

「ああ、悪かったよ。

それにお前さん、良い眼をしてるな。

”仲間”は絶対、俺が守るっていう眼だ」

 

「悪(わる)いかよ」

 

「まさか。

こんなトコロで生きていくなら、それくらいの根性がないとな。

俺は、ジェット・ペニーウォートだ、よろしくな」

 

「・・・・君も、さっきはビックリさせて、ごめんね」

 

とりあえず、彼らとはもうこれ以上、揉(も)めなくて良さそうだった。

 

安心と一緒に、クレアは先程までさんざん怖がらせてしまったろう小さな男の子に微笑みかける。

 

臆病そうなその子は、多少は警戒を緩めた様子でおずおずと頷いた。

 

 

 

「――――なぁ、カミル、っていったか?

後ろに、まだ俺の仲間が4人、いるんだ。

出てきても平気か?」

 

無言で頷くカミル。

 

紛うことない肯定の仕草と解釈し、ジェットは後ろへと声をかけた。

 

「おとさんっ!!」

 

すると、やはり真っ先に駆け寄って来たのはフィムだった。

 

怪我をしたジェットを心配して、その足元をウロウロと動き回る。

 

だが、そんな彼女を見た途端、カミルは顔色を変えていた。

 

「そ(・)い(・)つ(・)も(・)、ヒト型アラガミ・・・・っ!?」

 

「なに・・・・っ?」

 

そう知名度(ちめいど)の高くない存在な上、なによりも別(・)の(・)個(・)体(・)を知っている口振りに、ジェット達が思わず意識を向ける。

 

刹那、まるでその瞬間を狙(ねら)い澄(す)ましていたかのように、傍(そば)の暗がりから飛び出す”何か”があった。

 

「ジェット!!」

 

ルルが真っ先に気付き、声を上げる。

 

だが、全員が完全(かんぜん)に虚(きょ)を突かれた上に、その”何か”は子供程(こどもほど)の大きさしかなかった。

 

更にその異常な俊敏(しゅんびん)さもあり、ジェットは不意打ちの体当たりをもらってしまう。

 

< キィアァァァァ !!!!>

 

異様な金切り声を上げる襲撃者(しゅうげきしゃ)は、爛々(らんらん)と赤く光る双眸(そうぼう)を見開き、獣(けもの)そのものの獰猛(どうもう)さで襲い掛かってくる。

 

その威力で組み付かれ、もつれ合うジェットだが、歴戦のAGEとして直(す)ぐ様(さま)にその動きを見極めていた。

 

(確かに素早い・・・・が、引き換えに軽(かる)すぎだ!!)

 

そうと分かれば、相手の肩口を掴(つか)まえて力任せに押し返し、逆に組み伏せる。

 

ところが、その体勢になったことで見えた襲撃者(しゅうげきしゃ)の素顔に、ジェットは愕然としていた。

 

「なっ!!??

お、お前・・・・!?」

 

< キィアアアアッッッッ !!!!>

 

思わず動きを止(と)めてしまったその瞬間、襲撃者は激しく身(み)を捩(よじ)って抜け出す。

 

「しまった・・・・皆、退がれっ!!!!」

 

襲撃者は再度、ジェットを組み敷き、その両腕の鋭い爪を振りかざした。

 

ナイフのように空を切る鉾(きっさき)を封じるべく、咄嗟にその両手首を掴むジェット。

 

すると、襲撃者は口をガっと開き、大きな牙を剥(む)き立(た)てて食らいつこうとする。

 

敵(・)の喉笛を喰い裂こうと、目の前でガチガチと顎(あご)が打ち合わされた。

 

激しい取っ組み合いに、傍にいるクレアもフィムも、手が出せなかった。

 

「ジェットっ!!!!」

 

「おとさんっ!!??」

 

「そいつをさっさと押し退けろ、ジェット!!」

 

叫んで銃を構えるユウゴだが、迂闊(うかつ)に打てば誤射しかねない。

 

ならば、とルルがナイフを抜き放ち、襲撃者に掴みかかる。

 

だが、その瞬間だった。

 

「 やめて !!!!

その子を傷付けないで!!!!」

 

突如、悲鳴を上げながらそこへ割って入り、襲撃者を守ろうとする女性が現れる。

 

「貴方はっ!?」

 

「ユリハっ!!」

 

驚くクレアとカミルの叫び声が重なる。

 

そして、ユリハはルルを押し退け、襲撃者を背後から抱(だ)き竦(すく)める。

 

「”シャロン”っ!!

ダメ!!

落ち着いて、シャロン!!!!」

 

ユリハは必死に声を上げ、金切り声で暴れる襲撃者を抑え込もうとする。

 

するとどうしたことか、その行為を煩(わずら)わしそうにしながらも、明らかに襲撃者の力が弱まっていく。

 

だが、しかし。

 

未だに強い敵意と、獣の唸り声とを上げる”少女”の素顔を見て、クレアが大きく息を呑んだ。

 

「そん、な・・・・っ!?」

 

――――否(いな)や、その見(・)覚(・)え(・)の(・)あ(・)る(・)顔(・)に、全員が驚愕し、言葉を失っていた。

 

それどころか、まるで鏡写しかのような自(・)分(・)と(・)同(・)じ(・)顔(・)に、フィムは眼をまん丸く見開き、呆然と呟く。

 

「・・・・あなた、は・・・”フィム(じぶん)”・・・・?」

 

 

 

――――まさに、ジェットを睨みつけて凶暴さを剥き出しにする襲撃者は、ショックで固まっているフィムと、顔(・)立(・)ち(・)だ(・)け(・)は(・)瓜二つだった。

されど、その肌色は異様なまでに真(ま)っ白(しろ)い。

褐色肌(かっしょくはだ)のフィムとは違う、生気のない、無機質な白さだった。

大きく、真紅の眼は薄(うっす)らと光(ひか)り、敵意にギラついている。

ドレスを着るような白亜の甲殻に、銀髪はフィムよりも少し長い。

だが、肩にかかる長さのその先端部は、防具のように硬質化している。

未だに打ち振るわせている両手は、五指(ごし)に鋭い爪を備え、短刀のように鋭利な凶器となっている。

然(しか)り、その顔立ちは同じだとしても、目を剥き、牙を打ち鳴らす様(さま)は、無垢で愛らしいフィムとは似ても似つかない。

ただただ獰猛な、”ヒ(・)ト(・)型(・)の(・)ア(・)ラ(・)ガ(・)ミ(・)”でしか無かった。

 

 

 

「シャロン・・・・ダメよ・・・・!!」

 

「チカヅクナッ・・・・!!

オマエ、”コロス”ッ・・・・!!」

 

ユリハが辛うじて抑え込む”シャロン”と呼ばれる少女は、ジェットを睨みつけながら言葉を発した。

 

但し、それは憎しみと敵意に満ちて、もはや呪詛(じゅそ)と言ってもいいものだった。

 

そして、間違いなくそんな危険(きけん)を目の前にしている筈のハウンドスクワッドは、しかし誰もが呆然としてしまっていた。

 

だがそんな時、シャロンは突然に身震(みぶる)いをするや、がくんと全身を弛緩(しかん)させる。

 

大きく見開かれていた真紅の瞳も唐突(とうとつ)に閉ざされ、ユリハの腕の中で身動きを止めたのだった。

 

「・・・・き、気絶、した?」

 

恐々(きょうきょう)とするキースの言う通り、シャロンは突然に眠ってしまったようだった。

 

嘘のように鎮まったシャロンを、ユリハはギュッと抱きしめた。

 

「シャロン・・・・っ」

 

「あ・・・・あの、ユリハ、さん!?

その子は・・・・”ヒト型アラガミ”、なんでしょう!?

でも、その姿は、一体!?」

 

クレアの呼びかけに、顔を上げるユリハ。

 

紫水晶色(アメジスト)の瞳を涙(なみだ)に潤(うる)ませ、集まっている面々(めんめん)を呆然として見渡す。

 

しかし、その眼が傷を負ったジェットと、縋(すが)り付くフィムを見た途端、彼女は悲痛に息を呑んで立ち上がる。

 

「っ、動くな!!」

 

「・・・・ごめんなさい、ごめんなさいっ・・・・!!」

 

ルルの制止にも応じることなく、ユリハはシャロンを抱いたまま、踵(きび)を返す。

 

そのまま逃げ去ろうとするのを黙って見逃せず、ルルは駆け出そうとする。

 

「待て、ルル!!

・・・・たぶん、追いかけない方が良いだろ」

 

だが、ジェットはそれを咄嗟(とっさ)に呼び止めていた。

 

当然、ルルは困惑し、ユウゴも険(けわ)しい表情で口を挟(さしはさ)む。

 

「・・・・だがな、ジェット。

あのシャロン、ってのは、明確(めいかく)な敵意(てきい)を持って襲いかかってきた。

このまま放っておけば、また奇襲を受けないとも限らない」

 

「――――おとさん、ケガしてるっ」

 

今度はフィムが話を遮(さえぎ)って、ジェットへと縋(すが)った。

 

シャロンの爪が掠(かす)め、その胸や脇腹、首筋に傷を受けていた。

 

「人体急所を目掛けて的確に、とは・・・・賢い奴みたいだな」

 

「い、傷んでるとはいえ、防弾・防刃性能の戦闘服が、こんなにすっぱりと・・・・!?」

 

ジェットの上衣(じょうい)のあまりに鋭い切り口に、顔を青くするキース。

 

我に返ったクレアが、傍にしゃがみ込んで応急処置具(ファーストエイドキット)を取り出す。

 

すると、ぐず、と小さくしゃくりあげる音が聞こえ、ジェットも思考(しこう)から引き戻された。

 

「・・・・フィム、わかるよ。

シャロン・・・・フィムとお(・)ん(・)な(・)じ(・)だった。

なのに・・・・なんで、おとさんに、いたいことしたの?

なんで、おとさんのこと、きらいなの・・・・?」

 

「フィム・・・・っ」」

 

辿々(たどたど)しく呟いて気落ちする姿に、クレアとルルがそっと寄り添う。

 

そしてジェットも、ふと腕を伸ばし、頭を軽く撫でていた。

 

「全(まった)くだな。

よりによって、あの顔であんなに怒られちまうと、俺もついびっくりしちまった。

・・・・なぁ、カミル。

”さっき言ってたこと”ってのは、フィムと”あの子”が似ていたから、だな?」

 

騒ぎの直前、カミルが口走ったことについて、改めて問うジェット。

 

しかしカミルは、明らかな逡巡(しゅんじゅん)を顕(あらわ)にして、口(くち)を噤(つぐ)んだ。

 

その反応と、さっきのユリハの行動も併せれば、あのアラガミの少女も身内(みうち)であるとは明白だった。

 

「悪いが、だんまりは困るな。

こっちは、仲間が命を狙われたんだ」

 

「落ち着けって、ユウゴ」

 

不穏な気配を滲(にじ)ませるユウゴを、ジェットは諌(いさ)める。

 

彼の動揺ももっともだが、そんなやり方は逆効果だというのは、他ならぬハウンドスクワッド(じぶんたち)がよく知っている筈だ。

 

だが、と、ルルも黙ってられないという風に口を開いた。

 

「彼女・・・・シャロンが、私達にとって脅威であるのは事実だ。

自衛の為にも、情報を得る必要があるだろう」

 

「けれど・・・・彼の、あの様子じゃ・・・・」

 

ルルと、クレアの心配も最もだった。

 

ジェットとて、激しく迷っていた。

 

再びあんな襲撃を受けて、次は仲間達が傷つけられたらと思うと、焦燥感が込み上げてくる。

 

だが、その危険だけを見て、直ちに周りを敵と断じてしまうには、ユリハやカミルの酷く切羽詰(せっぱつ)まった態度が、気にかかってしまう。

 

どうして彼女達が、こうまで追い詰められ、傷付いているのか。

 

その事情を、想いを知らずに結論づけてしまうのを、ジェットの感覚は否(いな)と言って聞かなかった。

 

 

 

――――で、あれば、納得が行く判断を下せるよう、早々に次へと動き出すのみ。

 

ジェットは、そうして戸惑いを越えて、いつもの悠々とした笑みを取り戻していた。

 

「だったら、こうしようぜ。

俺達と”取引”しないか、カミル?」

 

「なんだと?」

 

「まず、俺達から”情報料”を出す。

で、お前達は、それに見合った範囲で情報をくれれば良い」

 

「ジェット、それは・・・・」

 

驚き、困惑した様子のユウゴ。

 

それもその筈、取引と言うにはジェット達に利が薄い形であった。

 

「お前達が、オレ達に何を渡すっていうんだ」

 

ひとまず、頭ごなしに拒絶はしないカミルに対し、ジェットはニヤと笑った。

 

「まぁ、色々あるにはあるが・・・・とりあえず、そろそろ腹が減ってきたんだよな。

な、フィム?」

 

「うん。

フィム、”おかし”たべたいっ」

 

おとさんの言葉に、素直に答えるフィム。

 

同時に、皆もジェットの思惑を察し始めていた。

 

「決まりだな。

疲れた時は、食うもん食ってしっかり休むもんだ。

それに今回は”お客さん”もいることだし、ちょいと奮発してみっか!!」

 

「おとさん、ぱ(・)ー(・)ち(・)、するっ?」

 

「まったく・・・・それはともかく、夜のお菓子は程々にしないとダメだぞ、フィム」

 

「えぇっ~!?」

 

「・・・・随分と高くつきそうな情(・)報(・)量(・)、だな。

やれやれ・・・・お前には敵わないよ」

 

「はははっ!!

でも、それでこそ先輩だよね!!」

 

はしゃぐフィムを嗜(たしな)めるルル。

 

想定外な大出費(だいしゅっぴ)の気配に肩を竦(すく)めるユウゴに、一方で痛快(つうかい)そうに笑うキース。

 

そして、にわかにはしゃぎ出した他所者達(よそものたち)に戸惑うカミル達へ、クレアは柔らかく笑いかけた。

 

「なんだか、そういう事(こと)になったみたい。

良かったら、貴方達もご一緒しない?

私達の船、クリサンセマムは輸送船(ゆそうせん)なの。

こうして、困ってる人や必要な場所へ、色々な物を運んで来たんだよ」

 

すると、クレアの言葉を聞いた小さな男の子が、ソワソワとしてカミルの方を見上げていた。

 

切望、と言い表して良いかもしれないその期待の眼差しに、カミルは嘆息(たんそく)と共に頷(うなず)いた。

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 




・Tips.6

「クレア・ヴィクトリアス」

年齢 18

神機タイプ
チャージスピア 「チェイストベリー」
アサルト 「プロビーメイター」
シールド 「ヨーマンウォード」

バーストアーツ 「None」



灰域踏破船・クリサンセマムのクルーである、”神機使い(ゴッドイーター)”の少女。
繊細(せんさい)な金髪に緋色(ひいろ)の瞳(ひとみ)、肌白(はだじろ)い美貌と、たおやかで生真面目な性格の持ち主。
軍人家系の名士である”ヴィクトリアス家”の息女でもあり、その名に誇りを持っている。
治安維持組織・グレイプニルの所属ではあるが、任務の為に乗り込むクリサンセマムや、その中で出会ったハウンドスクワッドの面々と意気投合し、同乗(どうじょう)を続けている。
AGE(エイジ)ではない為にバーストアーツこそ使用できないものの、衛生兵としての手際と心構えで、メンバーの支援に優れている。
平時はクリサンセマムの医療担当も預かっており、特に護衛対象(ごえいたいしょう)でもあるフィムや、何かと奔放で危険を顧みないジェットの事を気にかけている様子。
基本的には穏やかで心優しいが、一方で時に融通(ゆうづう)が効かないところが玉に瑕(きず)。
そして、あまり周りからは言及されないものの、やや目の毒な薄着な上に、年齢不相応(ねんれいふそうおう)なまでに抜群の曲線美である。
仲良しのルルやエイミー曰く、そのボリュームは今以(いまもっ)て発育(はついく)を続けている、らしい。
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