GODEATER3>>Remember Chains. 作:志乃木千進
こうして、カミルとの”取引”を行うべく、ジェット達は一旦、クリサンセマムへと引き返した。
本来の目的である通信設備の確認もそこそこに、「貴重な食料を大量に持ち出したい」と切り出されたイルダの顔は、驚くやら呆れるやら。
身の安全を確保するための
「ついでに、”フェイス”にも相当にぼったくられたけどな・・・・」
と、ぼやくユウゴの
――――フェイスとは、その
まだ若いが、定番品の質と量を重視し、また”極めて堅実な商い”をする
ちなみに、今回の騒動に居合わせてしまったことに対しては、
「
そして、今はハウンドスクワッドからの大口注文を受け、損失の
「ま、お陰でこの先、
・・・・それにイルダだって、
「――――本当に持ってきたのか、お前ら・・・・?」
「おう。
さぁて、どうする?
こちとら文字通り、売るほどあるぜ?」
「ごはんっ、おかしっ、ぱーちっ!!」
果たして、ウキウキワクワクなフィムを先頭に、大荷物を抱えて現れたジェット達へ、カミルは
だが、やがて観念したように踵を返すと、セキュリティゲートを操作する。
すると、巨大で重厚な
「――――
ジェット達にしか聞こえないくらい、微かに呟くユウゴ。
一行の
整然と並んだ独房の扉は開け放たれており、監視の人員もいない。
電気や空調は生きているも、見るからに不衛生な環境で、使い古しの生活用品が通路や独房内に乱雑に広がっている。
光量が足らずに辺りは薄暗く、そのあちこちの物陰からは、見知らぬジェット達を
「皆、出てきていいぞ!!
こいつらは、
取引して、食べ物を持ってきたんだ!!」
「ホントだよ!!
この人たちは、怖いことはしないよ!!」
カミルと、先程の少年も一緒にって、大声で
するとようやく、寝台の下や、小さなチェストの後ろといった場所から、小さな人影が幾人も這い出してくるのだった。
「子供、ばっかり・・・・?」
「”
唖然として呟くクレアに声を掛けるユウゴ。
気のせいか、その声は
そしてルルもまた、僅かに目を細めながら、この過酷な環境を見渡す。
「どの子も、まだ幼いな。
それにこの人数・・・・カミルが気を張っていたのも理解できるな」
「・・・・服はビリビリ、道具はオンボロ。
腕も足も細くってよ。
・・・・ったく、
今回はついてきたジークも、つい声音に不機嫌さを滲み出させてしまう。
そしてジェットは、集まってくる興味と、それ以上の
「そんじゃ、早速”商談”と行こうぜ、カミル」
「おい、こんな所でか?」
「広くていいだろ?
皆に
「わーい、ぱーちぱーち!!」
ちなみに、フィムが言っている”ぱーち”とは勿論、皆でご飯を食べて楽しむ行為のことを指している。
フィムが最も楽しみにしていることの1つでもあった。
「も、もうジェット!?
ほら、フィムが真似しちゃうから・・・・っ」
「ははっ、まぁ良いじゃねぇか。
フィムも腹減っただろ?
とりあえずお菓子と・・・・で、俺は――――」
荷物袋から真っ赤なボールを取り出すジェット。
無論、これで遊ぶつもりなどでなく、自分の食べ物である。
「これ、知ってるか?
リンゴ、っていう
ちょいと固めだが、旨いんだ」
「おい、ずりぃぞジェット!!
俺だって、いい加減に腹ペコだっての!!」
言うや否や、ジークも荷物袋を放りだして座り込み、さっさと
そんな、なんともせっかちで
しかし、こういう時に一緒に
「ま、あんま気にすんなよクレア。
こんな人数がいたら、椅子だって足りない。
取引とは言え、此処は無礼講と行こう」
「まったく、もう・・・・。
・・・・ちょっと、見えちゃわないかな・・・・」
観念したように小声で呟きつつ、座り込むクレア。
そのまま、何度かの
「ねぇ、フィム。
これを持って、向こうの子達に挨拶してきてみたら?」
「あいっ!!
”ぱーち”は、みんなでおいしくたべますっ」
ビシッ、と敬礼をしたフィムは、お菓子を抱えて独房の子供達の方へ駆けていく。
「えとっ・・・・フィムは、フィムですっ。
このたびは、こんにちわ、していただきますっ。
んー、と・・・・おかし、ごいっしょに、たべよ!!」
誰の真似なのか、なんだかかしこまった
その様子に、ジェット達はひっそりと注意を向ける。
子供の警戒心を解くには子供、とは思えども、フィムの
ともかく、話しかけてきたフィムに対し、子供達はおっかなびっくりな様子のようだった。
しかし、ややあって1人の少年が、意を決して声を発していた。
「・・・・食べて、良いの?」
「いいよ!!
いつもはちょっとだけだけど、きょうはいっぱいいいよ、って。
いひひひっ」
無垢に笑うフィムから、お菓子を手渡される少年。
彼は、恐らく見たこともない食べ物の包み紙をおずおずと剥がし、そして意を決して齧り付く。
そしてその途端、目を輝かせ、素っ頓狂な声を上げていた。
「
少年は、無くなるのを惜しむように少しづつ、されど絶え間なく食べ進める。
そんな姿が、
「あ、あたしも、欲しい!!
ちょうだい!!」
「僕もっ!!」
そして、フィムが抱えていったお菓子はあっという間に子供達に行き渡り、皆で舌鼓を打ち始める。
盛り上がっているその輪の中で、もうフィムはすっかり彼らと打ち解けられているようだ。
「――――あの、僕達も食べて良いですかっ?」
「良いよ。
まだいっぱいあるからね」
やがて、遠巻きに見ていた他の子供達もやって来て、クレアやルルから菓子を受け取り、口々に美味しさを伝え合い、食べ進めている。
ひとまず、ジェット達の
「さぁて、お前もなんか食いな、カミル。
せっかくの情報料なんだぜ?」
「・・・・これで、貸し借りは無し、だぞ」
大喜びの仲間達の様子にため息をついたカミルは、ジェットと同じく床に座り込み、真っ赤なリンゴを手に取る。
そして、手本とばかりに先に齧り付くジェットのマネをして、リンゴに歯を立てた。
「
「おう。
上手く食うには、コツが居るんだ」
「・・・・けど、旨いな」
斯くして、フィムの言っていた通りにその場は”パーティ”の様相となり、監獄に似つかわしくない和気藹々とした声に満ち溢れるのだった。
「――――身銭を切った甲斐はあった、な」
「おう」
こんな打ち捨てられた場所では、そのやせ細った身体では、
そんな光景に、分かりやすく頬を緩ませているユウゴ。
その隣で、ジェットも満足気に微笑みながら、またリンゴを齧った。
監獄の子供達は、もうすっかり警戒を解き、滅多にないたくさんのご馳走に
特にフィムは、その
しかし、その一方で。
クレアやルル、ジークはともかく、顔も見た目も
「お前はともかく、俺までこうも
「ったく、ほっとけ。
・・・・しかし、ジークのやつはそうでもなさそうだな」
「アイツの場合、昔からそうだったしな。
まぁ、
するとその時、子供達に取り巻かれながらレーションを齧っていたジークが、何やら不機嫌そうに帰って来る。
「おいお前ら、何を揃って
言っとくけど聞こえてるからなっ」
「はっはー、
お前相手に、今さら隠す事なんか
「分かってやってるなら余計に腹立つわっ!!」
「――――なぁ」
すると、傍で粛々と食事をしていたカミルが、ふと呟いていた。
「・・・・お前達は、いつもこうやって騒いで、あんなに楽しそうにしてられるのか」
笑顔に溢れている監獄の中を見詰め、何処か
「おとさんっ」
それよりも前に、トテトテとフィムが駆け寄って来る。
「嬉しそうだな、フィム?」
「あのね、おとさんたちのこと、みんなにゆった!!
おとさんたち、とってもつよくて、かっこいい、って!!」
その後ろには数人の子供達がついて来ていた。
フィムの話を聞いて、好奇心が勝ったのだろう。
「フィムちゃんの、お父さん?
すっごい強い、”クリサンセマムの
「その、首のマフラー、長ーい!!」
「
「でもでも、ジークも凄く強いんだって!!
どんなアラガミだって、1人で纏めて”ドーン”ってする、って言ってた!!」
ほーん、と一同は、ジークの方を見やる。
誰も彼もが
「べ、別に嘘なんて
お、俺様のハンマーの威力だったらなぁ・・・・!!」
「・・・・やれやれ、まぁな。
だが、それは
確かに俺もジークも強い方だが、なにも一人で全部こなしてきた訳でもない。
俺達には仲間が・・・・ハウンドスクワッドがいるから、そういうデカい仕事だってこなせるんだ」
言いながら、ジェットはカミルに目をやった。
これを、先の質問の答えにするつもりだった。
「――――こうなるまで、色んな事に出くわしたが、
簡単じゃぁ無いが、特別なことでもない。
お前達に、それにカミルだって、大きくなったら出来るようになるさ」
「ほんとぉっ?」
「私も・・・・フィムのお父さん達や、”ユリハお姉ちゃん”みたいに、なれる?」
「おう。
現に、俺達は軍人でもなければ、ミナトのクソ
お前達と同じ、こういう場所で育った
子供達やフィムは、目を瞬かせて聞き入っていた。
だが、その一方で、カミルは
「・・・・俺達に、そんな時間なんて無いんだ・・・・」
――――その時だった。
監獄のセキュリティゲートが、
そして開いた扉の向こうから現れたのはやはり、
「「「ユリハお姉ちゃん!!」」」
その姿に、子供達はこれまでよりもひときわ喜びを
ユリハは、そんな彼らをしゃがんで抱きとめつつ、眼を丸くして監獄内を見渡した。
「み、皆・・・・!?
これは、いったい・・・・」
「・・・・ジェット。
彼女が現れた、ということは・・・・」
「さぁて、な。
ルル達は、それとなく辺りを警戒しといてくれ。
ユリハとは、俺が話をする」
「貴方・・・・ジェット・・・・っ」
「随分と皆に
それで、
「え、ええ。
あの、これは、一体・・・・?
これだけたくさんの食べ物を、どうして・・・・っ」
「なんのことはねぇさ。
全員そろそろ腹が減ってたし、ついでに此処の皆にもお
どうせなら、ユリハも食って行きな。
だいぶ減っちまったが、まだ色々残ってるからな」
「はい、ユリハねぇちゃんのおかし!!
この”チョコレート”っていうの、すっごくおいしいの!!」
ユリハに抱きつき、屈託ない笑顔でお菓子を差し出す少女。
他にも、その場の子供たち皆が幸せそうに笑っているのを見て、ユリハは眼を丸く見開く。
そして、戸惑い、
「その、傷っ・・・・さっき・・・・シャロンに・・・・っ」
「ん、ああ。
まぁ、うっかり気を抜いちまった
「――――あぁ・・・・本当に・・・・ごめんなさいっ。
貴方は・・・・貴方達は、私達にこんなにも良くしてくれて・・・・なのに、私は・・・・」
ユリハの瞳は
一体、何が彼女をそこまで追い詰めるのだろうか。
そして、声を震わせるユリハは、
だがその前に、ユウゴの低い声が
「悪いが、礼なら要らない。
俺達が求めているのは、
振り返るジェットへ、少し
「カミルにも言ったが、これはあくまでも俺達の”取引材料”だ。
そろそろ、こちらが提供した物資の、
あからさまに躊躇い、俯くユリハ。
ユウゴは、尚も鋭く切り込んだ。
「アンタ達の状況は、此処まで見てきて大体分かっている。
おそらく、このグラジオラスという場所は、もうまともに管理もされておらず、監視の人間すら残っていないんだろう。
それどころか、本来ならミナトの守備戦力であるAGEすら、もう
そして、なにやら”妙な兵器”を持っているようだが、もはやそれでも外のアラガミの
「・・・・その通りよ。
カミル・・・・皆をお願い」
「ユリハ・・・・」
ユリハは、傍に寄り添っていたカミルへ、意を決したような声音で告げる。
それから、おそらくこの監獄の
それを見届けて、ユリハはいかにも
「お答えします。
この、グラジオラスに
――――決心したユリハを加えて、ハウンドスクワッドの面々は地面に腰を下ろして、輪を作る。
まずは
「順を追って聞きたい。
まず、此処は何なんだ?
なぜ、
あらゆるものは瞬く間に
だからこそ、長く放棄されて来た地域であり、今回のグレイプニルの作戦においても、生存者探索は端から無視されていた。
1つ頷いたユリハは、徐ろに語り出す。
「確かにこのグラジオラスは、かつての”
・・・・もう何年も前、
けど、徐々に拡大していく灰域に対抗するため、ミナト・”グラジオラス”として
そして・・・・私も、AGEとなったわ」
おそらくは、当時の記憶を振り返り、
それは、ジェットにとっても
「・・・・なんでもかんでも、すごい勢いで無くなっていく頃だった。
逃げて、隠れて、それでもアラガミと、
そんな時代に放り出された、無力なガキが生きていくには、当時まだ定着率の低かった
・・・・いや、
「大人も子供も、どんどんいなくなっていった。
誰も、守ってくれない。
そんな余裕なんて無い。
生きる為には何でもやって、それでも、物も人も、何もかもが尽き果てていくんだ。
・・・・俺達は、遂に
ジェットとユウゴの重苦しい声に、誰もが押し黙ってしまう。
誰もが、当時の”厄災”――――
「・・・・酷いよ、そんなの・・・・っ」
そしてただ1人、”普通の
「・・・・あの頃は、どこもかしこも混乱して、沢山の人達が喪われてしまった。
それを食い止めるためには、手段なんて選んでられなかった、って・・・・
でも、だからって・・・・あんな子供達に、痛みを強いて、使い捨てていたなんて。
世界を、人類を守るための”
――――当時、新しい技術であるAGEの運用が確立するまで、
そして、その時の恐怖と喪失は
だが、クレアは今、改めて突きつけられたその事実に、激しい動揺を顕にする。
確かに、この中でクレアだけは、
だからといって、結局は”外側の人間”だと
むしろ、だからこそ彼女は、
そうして
「・・・・クレア。
ありがとう、私達の事を、
ユリハの
この現実と、これまでの言葉をどう受け止めれば良いのか、
ジェットも、今はそんな湿っぽさを遠ざけようとして、
「悪い、話を逸らしちまったな。
ともかく、普通のミナトならAGEは厳重に拘束され、監獄も管理されてる筈だ。
此処は、どうも違うみたいだな?」
「・・・・その理由はきっと、此処の
ジェットの話に、ユリハは胡乱な言葉を返していた。
「このグラジオラス周辺は、周囲の山岳と気流の関係で、
けれど数年前、とうとう活性化した灰域の濁流・・・・”
「・・・・あんなんを食らって、よく生きてたな」
「幸運、だったのかも知れないわ・・・・」
灰嵐の威力をよく知るジークが、思わず眉を顰める。
しかし、対するユリハの言い草は、まるでそうして
「――――ミナトとしての機能はほぼ失われ、当時の施設上層部は、早々に脱出してしまった。
・・・・私と仲間達は、ただ死を待つばかりで、取り残されてしまったわ。
だけど、幸いそれから少しして、グラジオラスに”技術者の集団”が訪れたの。
彼らは破壊された設備を修繕し、自分達が使う為に接収したわ。
そして、ミナトの資材である私達にも、最低限度の管理が施されるようになったのよ」
「・・・・そうして一先ず、拠点としての運用はされ始めた。
にも関わらず、
現状にまで繋がりそうなユリハの説明を聞いても、ユウゴは尚も疑問を
「一時的ならまだしも、
だが、グラジオラスは未だに
・・・・おそらく、それがまかり通っている原因は、例の”兵器”と、あのシャロンにある。
違うか?」
鋭い考察と共に、
そこへ更に、黙っていたルルが口を開いた。
「気になるのは、シャロンの様子が、フィムとは大きく
もしも・・・・
ルルが胸に秘めた想いが、その言葉に鋭さを帯びさせていた。
対して、ユリハはその追及にぐっと押し黙り、俯く。
そして彼女はふと、この話し合いの輪に寄り添うフィムを
その表情は、昔を懐かしむようであり、そして酷く悲しんでいるようでもあった。
「・・・・貴方の言う通りよ。
グラジオラスが修繕された、その”
この施設も、私達が生かされているのも・・・・シャロンがああなってしまったのも・・・・全てはあの、”ローレライ”を完成させる為なの・・・・っ」
「ローレライ・・・・?」
ひどく
まさに、その刹那。
< ヴォオオオオ・・・・―――― !!!!>
耳を
和やかな雰囲気だった監獄はにわかに
そして、ユリハはにわかに
「
「何だってんだ!?
何が起こってる、ユリハ!?」
ジェットの問いにも答えず、ユリハは
ほぼ同時、全員の無線機に、エイミーの声が飛び込む。
<皆さん、直ぐに船へ戻ってっ!!!!
グラジオラス周囲のアラガミが、一斉に行動を再開!!!!
それに応じて、ミナトの中心部に高エネルギー反応!!!!
あの”兵器”が、起動準備を開始したものと思われますっ!!!!>
「なんだと・・・・!?
くっ、全員すぐに戻るぞ!!
あんなものを、
<先輩達、聞こえるっ!?
あの兵器の影響から、クリサンセマムを保護するシールド機能を作ったんだ!!
船にさえ戻れば、被害は軽減できるはずだよ!!>
「まじかよ、キースっ!?
やっぱお前は天才だぜ!!」
なんと、1日経たずにこの危機への対抗策を完成させたと言う弟の活躍に、大喜びのジーク。
一先ず、これで仲間達の安全の
ならば、とジェットは、とある決断と共に声を発する。
「ユウゴ。
お前は皆を連れて、
言うや否やに1人駆け出すジェットの背に、クレアは叫ぶ。
「何をするつもりなの、ジェット!?」
「ユリハを追う!!
アイツだけ、ほっとけねぇだろ!!」
「な、何言ってるの!?
――――待って、ジェット!!」
開閉にもたつくゲートが幸いし、ジェットはどうにかユリハが開けたのと同じ
「エイミー、その兵器の起動ってのは、どれくらいかかる!?」
<わ、分かりません。
でも、前回起動時と比べて、出力上昇は
エネルギー充填に時間がかかっているのかも・・・・>
「そりゃありがたいな!!
どうにか出来る時間はありそうだっ!!」
持ち前の脚力を以て、施設通路を全速力で走るジェット。
先に行ったユリハの気配も、どうにかまだ追えている。
おそらく、彼女は逃げ出したのなどでなく、どこかを
そして、さっきの表情・・・・恐怖と必死さとは、
初めに出会った時、そしてあの”ローレライ”とやらを止めた時のように、
(――――結局、ただ俺の勘でしかねぇ。
だが、放ってはおけねぇ。
彼女も、そして彼女が心配してる、”もう一人”もよ・・・・!!)
ユリハは、このグラジオラスの中心部へと向かっているようだった
辛うじて、彼女の物音や、通過の痕跡を追うジェットは、
そして、もう何個目かのゲートを潜ったその時、突如として見える景色がガラリと変化した。
廃墟も同然だった景観から、極めて清潔で無機的な通路へと切り替わり、隅から隅まで管理の行き届いた鮮明な電灯で照らし出されていた。
いよいよ、接近禁止だとか言われていた”中央施設”にまで辿り着いたらしい。
そして、ユリハの気配はもうすぐ其処にあった。
「――――待って!!
止めてください、”トレイズ”博士!!
シャロンを連れて行かないで!!」
行く手に、監獄のゲートと同型ながら
その空間を
そして、独房の真ん中には寝台が1つだけあり、周りの白一面に同化するような、真っ白なヒト型が拘束されていた。
「ローレライを起動したのは、まだほんの数時間前でしょう!?
もっと休ませないと・・・・でないと、シャロンは!!」
「――――っ!?」
ジェットは、真っ白な独房の中に、寝台とシャロン以外にもう1つ、大きな姿があることに気付く。
白色の金属装甲を纏い、アラガミの少女が横たわる寝台を機械の腕で持ち上げる、異形の巨人。
おそらくそれは、ジェットも初めて見る、
「お願いっ!!!!
トレイズ博士、お願いです!!!!
シャロンは、もう限界なのっ!!
それ以上、ローレライを使わせては、シャロンは・・・・シャロンでなくなってしまうわ!!」
その時、半ば泣き叫んで訴えるユリハの声が届いたように、ガードロボットは歩みを止めた。
頭部の赤い
<”実験体・D-29”。
その部外者をラボへ近づけるなと言っておいたはずだ>
「ジェット・・・・っ!?」
冷徹な男性の声らしきに、驚いて振り返るユリハ。
その一方で、ガードロボットはただそれだけを告げるや、独房の奥側の大型ゲートへ、再び足を進め出す。
「だ、ダメっ!!!!
連れて行かないで!!!!
今直ぐ、私が出撃します!!
アラガミを此処には寄せ付けませんからっ!!!!」
<勝手にすれば良い。
私としては、AGEの役目
「どうか・・・・30分、待ってください!!
直ぐに、アラガミを撃退してみせますから!!」
あたかも
その腕を、ジェットは強く引っ掴んでいた。
「
「・・・・何を、言っているのっ。
放してっ!!
私は・・・・私が、行かなきゃ!!!!」
「冷静になれ。
外のアラガミの群れは、とんでもない数なんだ。
アンタ1人じゃ・・・・いや、例え俺達全員が出ていったとしても、勝ち目は無ぇよ」
「いいから、邪魔をしないでっ!!!!
だって、私がいかなきゃ、シャロンがっ――――!!!!」
ジェットの冷静な分析に、しかしユリハは激しく動揺し、声を荒げる。
すると、その時。
図らずも、2人の視線が独房内へ向いたのと同時、寝台の上のシャロンが動いた。
真紅の瞳を向け、混乱するユリハと、その隣のジェットを見る。
その途端、ジェットの身体に、キン、という強い
シャロンは、まるでユリハの意思を否定し、強引に引き止めているジェットを威嚇するように、顔を歪ませ、牙を剥く。
強度こそ弱いも、”ローレライ”と同じ苦痛をもたらす、シャロンの
<――――”クリサンセマムの
そう呼ばれているAGEだな?>
唐突に、ガードロボットが再び足を止め、ジェットへと話しかけていた。
「なんで知ってる?」
<それはどうでもいい。
重要なのは、お前達が”グレイプニル”との
その
「救援要請が、”規定違反”だ?」
油断なく、低く問いかけるジェットに対し、声の主はまるで気にする素振りなどなく、一本調子に話し続ける。
<喜ぶといい。
明後日、諸君は戦うことなくアラガミ共を制し、此処を大手を振って出ていくことが出来る。
この私の協力によって、だ>
「大した自信だな」
<ただし、それには条件がある。
脱出の際には私と、私の”ローレライ”を諸君の船で護送しろ。
そしてグレイプニルの本拠、”アローヘッド”まで、絶対の安全の保証と、確実な
「随分と注文が多いことだが、強気に見合った見返りは期待できるのか?」
<聞いていなかったのか?
この
あるいは、まだ信じられないというのならば、仕方ない。
前回と、
ただし、お仲間の下に帰って、出てこないことだ。
”ローレライの歌”によって、
結局、機械の巨人は、まるで
本当に機械そのものを相手にしていたような、どうあっても異質で、寒々しい不快感だけが残る相手だった。
そして、ジェットのこの感覚は、おそらくは正しい筈だろう。
「待って!!!!
博士、止めて!!!!
シャロンを、連れて行かないで!!!!」
尚も叫ぶユリハを
そして、ユリハは透明な壁にもたれ、止め処なく啜り泣いた。
聞いている方が
「――――ジェット・・・・!?
これは、一体・・・・!?」
ややあって、通路の方から幾つもの足音が聞こえる。
「クレア・・・・っ。
お前等も、なんで・・・・」
「ユリハ・・・・!?」
カミルを先頭にして、その道案内で駆けつけて来たろう仲間達。
そしてカミルは、さめざめと泣くユリハの姿に大きく動揺した。
「・・・・どうしてっ――――」
ところが、ユリハは、周りの様子やカミルのことなど見えていないように激昂し、激しい剣幕でジェットへ掴みかかる。
「どうして止めたのっ!?
貴方が止めなければ!!
私が、戦っていれば・・・・っ!!」
ユリハは言葉を詰まらせ、涙を
彼女とて、本当は分かっているのだろう。
それ故に、ジェットは改めて冷酷に告げねばならなかった。
「例え、ユリハが行ってたとしても、変わらねぇんだよ。
今、無理を通そうとしたところで、
「ただ見ていろと言うの!!??
あの子が、私達の為に、どんどんと弱っていくのをっ!!!!
シャロンがっ、あの子の心がっ!!
磨り潰されていくのを、ただっ!!??」
「・・・・ああ、そうだ」
パン、と音を立てるほど、ユリハはジェットの頬を手で
だが、彼女の激情は収まる様子はない。
何故なら
大事なものを奪われる、無念。
無惨に
そして、何よりも。
救いたいと伸ばした手を届かせ得ない、”己への憤り”こそが、激情の正体であるからだ。
「――――
どんなに仲間を助けたかろうが、やりたい放題に
噛み付いたところで、ただ
だから、今は・・・・
ジェットは、泣き濡れるユリハの瞳を目掛けて、真っ直ぐに投げかける。
他にやり場など無い、
「・・・・ごめん、なさい・・・・ごめんなさっ・・・・っ――――」
誰に言うでもない謝罪を繰り返しながら、ユリハは
ジェットの胸にしがみつき、
「――――お願い・・・・私達を、助けて・・・・っ。
もう、逃げ場なんて無い・・・・。
一緒に立ち向かう仲間も、もう皆、いない・・・・!!
なにより、シャロンには”時間”が無いわ・・・・っ!!
・・・・私だけではもう、此処を守ること・・・・耐え抜くことすら、出来ないの・・・・っ。
皆を、助けて・・・・っ!!
お願い・・・・っ・・・・!!!!」
たった独り、その心の中に溜め込んでいた
そして、やがて幼い子供のような声を上げ、
その身を
「・・・・ジェット、話は後だ。
”ローレライ”の起動が迫っている」
怯むことなく言うべきを言ってみせるユウゴに、ジェットは
このままローレライに巻き込まれ、そこで終わってしまえば、こうして逃げ出す意味すらも無くなってしまう。
”
大事なのは、泥を啜り、肝を舐めてでも生き延び、その先の
「――――なぁ、聞いてくれ。
今は、歯ぁ食い縛って耐えるしかない。
逃げて、隠れて、だが絶対にそれじゃ終われねぇ。
俺達は、
だから・・・・”その時”が来たなら、俺達は必ず勝つ。
二度と、
ユリハと、そして集った
そして、あくまでもこれは
この場に集う皆の
揺るぎないその
>> To be Continued....
・Tips.7
「シャロン」
非常に希少な存在である、コミュニケーション可能な”ヒト型アラガミ”の少女。
同じ種族であるフィムとは顔立ちこそ酷似するものの、肌色は
セミロングヘアの銀髪は、先端部が硬質化し、まるで急所である首筋周りを守る甲殻のようになっているなどの大きな
これらは単なる個体差ではなく、”グラジオラス”での過酷な”実験”の日々によって過度のストレスに
そして、現状の彼女は、人語こそ話せるも極めて攻撃的であり、特に成人男性に対しては、出会うや否やに殺意を
その一方で、ユリハ・グラジオラスと
余談だが、その名は”