GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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――――”ローレライ”の二度目の起動から、一夜(いちや)が明けた。

ミナト・”グラジオラス”の中心部から放たれた高出力の感応波(かんのうは)は、まるで地上の蠱毒(こどく)のように(おびただ)しいアラガミ達を、蜘蛛(くも)の子を散らすように退散させてみせた。

果たして、グラジオラスに閉じ込められた人々は、何ら消耗することなくこの危難(きなん)を凌ぎ切った。

だが、しかし。

その結果とは、灰域踏破船・クリサンセマムの面々にとり、”敗北”と同義でもあった。

加えて、その後、クリサンセマムにはグラジオラスの統領(オーナー)を名乗る人物、ニウロフ・トレイズからの”取引”の提案書が送りつけられる。

極めて慇懃無礼(いんぎんぶれい)なその書面を要約すれば、「グレイプニル本部・”アローヘッド”への護衛を(にな)うと誓うなら、対価として脱出に際しての”絶対の安全”を保証する」、というもの。

一方、近傍(きんぼう)に布陣する筈のグレイプニルの灰域踏破船団(キャラバン)への通信も並行(へいこう)して(こころ)みられていたが、依然として不通のまま。

そして、グラジオラスを遠巻きに包囲するアラガミの群れもまた、散逸する様子は無かった。

身動きを封じられてしまったクリサンセマムと、”猟犬部隊(ハウンドスクワッド)”。

だが、もはや彼らには勿論、グラジオラスの面々にも、時間は残されていない。

ならば、その雁字搦(がんじがら)めを打ち破る事にこそ、()けるのみ。

決断の期限は明朝(みょうちょう)、ローレライの効力が弱まるとされる時刻。

そして、いざその時に、ハウンドスクワッドの進むべき路とは、何処か。

望むべきを見定めておくべく、彼らは”とある思惑”を抱えて、遂に動き出そうとしていた。








#6 >> 「”Agnus Dei”」 Part.1

 

 

 

「――――あのユリハって女・・・・誰かに似てないか?」

 

その日の朝、クリサンセマムのブリッジには、”とある目的”の為にクルー達が集合していた。

 

分かり易く(ひと)()を作って集まる中、ユウゴが胡乱(うろん)な表情で呟く。

 

彼にしてはどうにも冴えない様子は、前日のローレライの影響もあるのだろう。

 

クリサンセマムはその効果の直下にいたが、キース謹製(きんせい)の”対感応波干渉防護(たいかんのうはかんしょうぼうご)システム”は適切に機能し、どうにか(ひど)倦怠感程度(けんたいかんていど)にまで影響を軽減してみせたのだった。

 

「なんか・・・・妙に、()()()がある気がしてな」

 

「私達の中の誰かに、ですか?

見た目や雰囲気は、イルダさんに似ているような・・・・?」

 

「・・・・そう、だろうか。

私には、もっと(あや)うい、というか・・・・」

 

今日はオペレーターブースを離れているエイミーは、傍らのルルと顔を見合わせた。

 

すると、その横のジークは一転して明快(めいかい)そうにその疑問に答えてみせる。

 

「誰って・・・・そりゃ、”リノン”に似てるんじゃねぇの?」

 

「・・・・言われてみれば、そうだな。

なるほど、それでジェットの奴、やたらと彼女を気にするのかもな・・・・」

 

「んー・・・・まぁ、今だってわざわざ自分で、一足先(ひとあしさき)に行っちまったくらいだしな」

 

「・・・・ねぇ。

リノンって誰のこと?」

 

「よぉ、クレア」

 

「おはよう」

 

と、遅れてそこに加わったクレアは、それで?、となんだか有無を言わせぬ調子で、更に2人へ問い詰める。

 

挨拶もそこそこに、彼女にしては珍しいぶっきらぼうさに、少し気圧(けお)されるジーク。

 

しかし、ユウゴは気にした(ふう)も無く、その”懐かしい名前”について答えた。

 

「なんのことはない、(まえ)の仲間さ。

()()()()()()()、な」

 

「それって・・・・?」

 

「リノン・ペニーウォートは、俺達より少し上のAGE(エイジ)の一人だった。

腕利きで、ガキの頃の(おれ)らは彼女達のお陰で生き延びられてたよ。

・・・・もっとも、その(おん)は結局、返せずじまいだったが」

 

「じゃあ、今はもう・・・・?」

 

当時のことに思いを()せているように、ユウゴは無言のままで頷く。

 

すると、クレアははっとして俯き、それから消え入りそうな声でごめんなさい、と呟いた。

 

「おいおい、そんな謝るなって。

本当に、随分と昔の話だしな。

そう言えば、ジェットとリノンは、特に(なか)()かったからな。

今更ながらに気にしちまうのも、アイツらしいと言えばそうかも知れない。

・・・・どうした、クレア?」

 

「ううん。

ごめんね、変なことを聞いて・・・・っ」

 

「・・・・ユウゴの()()()()()()も、昔からだよなぁ」

 

「・・・・あ?」

 

揶揄(やゆ)するような態度のジークに、ユウゴは要領を掴めない顔で目を瞬かせるのみだった。

 

 

 

「――――クレア」

 

その一方、ルルに声を掛けられたクレアは、何処かぼんやりとした笑みを浮かべた。

 

「・・・・ジェットって、年長者(ねんちょうしゃ)だからって、よく言うよね。

それはもしかしたら、その”大事な先輩”を尊敬してて・・・・(わす)れられないから、なのかなって。

もう、(むかし)のこと。

だからこそ、自分の中に大きく()って・・・・どうしても、()()()()

 

「・・・・そうだな。

尊敬する人の姿(すがた)が、今の自分を大きく()める。

その感覚は、私にも理解できる。

でも、ならその上で、()()()()()()()()()?」

 

「え・・・・?」

 

此処(ここ)にいる自分と、その感覚を否定することは、ないと思う。

憧れている人がいるとして、ただその(あと)を追うだけが(すべ)てじゃない。

決して(おな)じにはなれないし、その必要だって無いのだから。

なら、目指したい場所を()めるべきなのは、他の誰でもないクレアなんだろう」

 

揺るがない、自分の()を持ったルルの言葉に、クレアは強く揺さぶられていた。

 

何か、大きな気付(きづ)きを得られた気がして、胸の奥が熱く(うず)いている。

 

真面目、堅実、謙虚・・・・卑屈(ひくつ)

 

いつの間にか、すぐにそんな風に()(かた)まりそうになる、クレアという人間。

 

しかし、その内側に確かにある、”クレア”(じぶん)が今、奮わされている。

 

「・・・・どう、かな?

でも・・・・うん。

私は・・・・大事(だいじ)なことと、大切(たいせつ)なものとで、迷った(とき)

それなら、やりたいようにやらないとって、”今はもう知ってる”。

その筈、だよね」

 

「・・・・そうですよ!!

流石、クレアさんです!!」

 

と、なんだか(はか)()れない会話を()仲睦(なかむつ)まじそうな女性陣を前に、ユウゴとジークはこれを遠巻きに見つめるしかない。

 

その時、ブリッジのエレベーターが稼働し、開いた扉から勢いよくキースが姿を表した。

 

「皆、おまたせ!!

兄ちゃん達の”アリバイ工作”、完了したよ!!

でも、通信の方は使えないし、ダミー映像も単純なものだから、肉眼(にくがん)でも気付かれるかも知れない。

”用事”は素早く済ませてね」

 

「グラジオラスの反応は、こちらでも常に監視しておきます。

いよいよ、これからの私達を(うらな)う大事な”交渉”、ですね!!

皆さん、張り切っていってらっしゃい!!」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

――――クリサンセマムの運行を支えるエイミーとキースの支援を受け、ユウゴ達はグラジオラスの外部施設(がいぶしせつ)を進んでいた。

 

「ジェットの奴、ちゃんと話をつけられたんだろうな~?」

 

「大丈夫だろう。

見たところ、”彼女”の方もアイツにはかなり気を許しているようだしな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

”とある事情”によって通信が行えない為に、目論見(もくろみ)の結果は現地に行ってみなければ分からない。

 

そして、一行は施設の少し奥まった区画にある、集合場所(しゅうごうばしょ)に指定された部屋へ足を踏み入れた。

 

 

 

「――――驚いたな、本当に”図書館”なのか」

 

(ほこり)を被っちゃいるが、大した量だ。

・・・・持って帰って、イルダと少し()()か・・・・?」

 

其処(そこ)は、高い天井の広間に、多くの本棚が立ち並ぶ部屋だった。

 

こんな時代ではもはや希少(きしょう)紙書籍(かみしょせき)が数え切れないほど保管されている光景に、ルルとユウゴは興味深そうに見渡していた。

 

「でも、カビ臭ぇなぁ、此処(ココ)

”バガラリー”とかも、見れなそうだしよー・・・・」

 

「・・・・ジークに、こういう場所は少し難しいかもね・・・・」

 

「・・・・どういう意味だ、クレア?」

 

1人、気も()()()なジークを、ひっそりと()すクレアであった。

 

ひとまずそれ以上の言及(げんきゅう)は避け、視線を(めぐ)らせると、部屋の一角(いっかく)に”先客”を見つける。

 

読書用に壁際に置かれたろう古いソファで本を広げているその人物は、”交渉”の為に先に船を降りた、ジェットだった。

 

そして、仲間達に気付いたジェットは、横で寝ているフィムを起こさないよう、小さく手を挙げて応えた。

 

「優雅に構えてるじゃないか。

此処が待ち合わせ場所で、間違いはないんだな?」

 

「おう。

だが、時間まではまだ少しあるし、せっかくの機会なんだし、ってな」

 

呆れ半分に話しかけるユウゴに、なんとも図太(ずぶと)く答えるジェット。

 

一方、おそらくおとさんの真似をして絵本を読もうとした痕跡のあるフィムに、ルルは口元を綻ばせた。

 

「ふふふ・・・・フィムは、それに付き合いきれなかったのか」

 

「ジェットって、落ち着きねぇくせに(ほん)は好きだよなぁ。

たまにイルダやリカルドから、わざわざ()りて読んでるもんな」

 

(しか)り、ジェットの趣味は意外にも読書だった。

 

手遊(てあそ)びすらも許されなかった牢獄育ちの反動か、近頃はその知識欲のまま、手隙(てすき)の時には本を読み漁りたがるのだった。

 

「何を読んでたの、ジェット?」

 

クレアの問いに、読んでいた本の表紙を向ける。

 

タイトルは「北欧神話の世界」。

 

あまり難しい表記の使われない、低年齢向けの本だった。

 

「なんつーか、アラガミって、どうも()()()が無いな、ってよ。

コンゴウとかラーは、実際に神の名前みたいだが、ヴァジュラやバルムンクは武器の名前だし、クアドリガに至ってはただの乗り物らしいぜ。

特徴を捉えている、といえばそうだがな」

 

と、せっかくの発見を語るジェットだったが、古馴染(ふるなじ)みのユウゴとジークは、ふーん、と素気ない反応だった。

 

「・・・・ふふふ」

 

「おいおいなんだよ、クレアまで興味無しか?」

 

「あぁ、ごめん、違うの。

ちょっと、”昔のこと”を思い出しちゃって」

 

「まぁ、俺が読むのなんて、クレアの医学書みたいな役立(やくだ)つもんでもないけどな」

 

今でも医療について勉強を欠かさないクレアを思い出して、屈託なく話すジェット。

 

すると、クレアは首を横に振り、それから少し考える素振りの後、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「もっともっと、(まえ)のこと。

私の家族(かぞく)は・・・・”兄さん”は、体を動かすのも、読書も好きだったの。

ヴィクトリアス()を継ぐ為の勉強だったけれど、でもたまに私が何をしてるのかな、って見に行くと、そっちのけで教えてくれたりして。

たぶん、息抜(いきぬ)きついでに私に(かま)ってくれてただけなんだろうけど」

 

ジェットや、周囲の皆も、少しの驚きを浮かべていた。

 

クレアとはもうそれなりに長い付き合いだったが、自身のプライベートを語ることはかなり珍しかったからだ。

 

「へぇ・・・・クレアの家族の事を聞くのは、初めてだな。

クレアの兄貴ならたぶん、こいつらみたいな()まず(ぎら)いじゃない、真面目な性格なんだろうな」

 

「おい、言っとくが()()経済書くらいは読むからな」

 

「ユウゴ、お前もしれっと嫌味か、コラ・・・・っ」

 

後ろでひそひそと()めている様子には構わず、クレアはふと物憂(ものう)げな表情を浮かべ、ジェットとフィムを眺めた。

 

「・・・・ジェットは、少し兄さんに似てるかも。

こうしてじっと集中するところとか、年下の子を見ると構いたがるところ、とか」

 

「俺って、そんなか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「クレア・・・・?」

 

どうにもぼんやりとした様子のクレアへ、つい聞き返すジェット。

 

何か思い悩んでいる事でもあるのかも知れなかったが、しかしクレアはそれを明かそうとはせず、なんでもない、と首を振ってみせた。

 

「安心しろって、たぶん性格までは似てねーって。

クレアの兄貴だったら、ジェットみてぇに軽口だらけでうるさいタイプじゃないだろうしよ」

 

「へっ、そのまま返すってんだよ」

 

「――――ん・・・・んゅ~・・・・」

 

ジークやジェットを筆頭にしたこの口数では、いくら小声であろうと(となり)で寝入るのは難しかったのだろう。

 

フィムがふと目をぼんやりと開かせ、幼稚な仕草で起き上がっていた。

 

「悪い、起こしちまったか」

 

「・・・・おとさんも、みんなも、おそろい~。

いひひ」

 

途中で起こされても、寝起きの顔を()()と緩めるフィム。

 

なんともご機嫌(きげん)で愛らしい仕草に、クレアとルルが微笑みながら寄り添った。

 

「・・・・そうだな、皆揃(みなそろ)ったようだ」

 

しかし、ルルはふとその雰囲気を引き締めて、振り返る。

 

図書館(としょかん)の入口から、足音を立てながら現れる2人連れの人影があった。

 

その1人であるユリハは、昨日のボディースーツ型の戦闘服から、カジュアルな衣装に着替えていた。

 

深緑色で、頑強な生地を使ったアーミーズボンと、コンバットブーツ。

 

(いか)つい印象な下衣(かい)の一方、上衣(じょうい)には清貧(せいひん)(しろ)のクルーネックニット()()()にロンググローブ、というかなり薄手の出で立ちである。

 

というのも、その上衣はちょうどエプロンのような布面積(ぬのめんせき)であり、前面以外の肌色(はだいろ)がバックリと剥き出しにされているのが、かなり特徴的だった。

 

(・・・・クレアもそうだが、あんなデカいのが()いてて、よく戦えるもんだよな)

 

(あらた)めて、という風に感心するも、流石に口には出さないジェット。

 

さておき、ユウゴは、ユリハの傍に付き従っている()()()()へ声をかけていた。

 

「お前も来たのか、カミル」

 

「悪いかよ」

 

つっけんどんに返事をするカミル。

 

ジェット達にとっては招かれざる客ではあったが、彼がそうした理由(りゆう)については察しが付いていた。

 

「昨日の今日で、姉貴(あねき)を一人にさせるのは、心配だったか?

まぁ、とにかくこうして二人が来たわけだし、昨日の()()を聞かせてもらおうか」

 

「でも・・・・」

 

ジェットの言葉に、ユリハはそれとなく図書室を見回す仕草をする。

 

不安そうなその仕草の意味に、他の皆も(すで)に気付いており、ユウゴが先んじて声を発した。

 

「心配は要らない。

今この部屋は、盗聴(とうちょう)監視(かんし)への対策がしてある。

俺達の仲間に、そういうのに強いのがいてね」

 

「っ!!」

 

「・・・・昨日の、あの”木偶人形(でくにんぎょう)”の喋ってた事が、引っかかってな。

あいつは、俺達だって直前まで知らなかった”シールド機能”を、知ってるようだった。

もしやと思って調べてみたら、どうやら”ハッキング”ってのを食らった形跡があったらしい」

 

然り、ジェットは昨日、大型ガードロボットを通したやり取りの際、その発言(はつげん)の違和感を見逃さなかったのだった。

 

おそらく、相手(あいて)はクリサンセマムをかなり警戒していたらしく、グラジオラスの内部に入った時点から、船内の映像や通信までもを監視しようとしていた事が判明したのである。

 

ちなみに、これを調べ上げたエイミーとキースは、大事なクリサンセマムを()()()()にされたと、統領(オーナー)のイルダよりも怒り心頭であった。

 

「そういう訳で、此処で何を話そうと、暫くは気付かれないはずだ。

だから、あとは二人次第だ」

 

ジェットがそう(うなが)しても尚、ユリハとカミルは躊躇(ためら)う素振りを見せる。

 

すると、そこへ更に急かすようにユウゴが割って入った。

 

「もう皆、気付いてるんだよ。

グラジオラス(ここ)は、安全な場所なんかじゃない。

今、こうしてる間も、全員を道連(みちづ)れに追い詰められているとな。

だから、まずは今度こそ知らなきゃならない。

あの、”ローレライ”ってののことをな」

 

「っ!!」

 

「・・・・なぁっ、助けてくれって、言ってたじゃんかよ!?

なにも俺達だけじゃない。

あのガキ共の生命(いのち)だって、懸かってるんじゃねぇのか?

全部、お前ら次第なんだって!!」

 

焦れったそうにジークが声を上げた。

 

良くも悪くも感情的な彼であるが、その面倒見の良さで、本気でグラジオラスの人間達を心配していた。

 

そんな態度が、あるいはユリハの決意を促す一押(ひとお)しになったのかも知れない。

 

「・・・・ならば、その前に私とも”取引”をしてほしいの」

 

ユリハは姿勢を正し、()()を前にした緊張感を(あらわ)に、そう口火(くちび)を切っていた。

 

「貴方達がここを出ていく時には、子供達を全員、一緒に連れて行って。

あの子達の生命を救って・・・・そして、生きていくのを助けてあげてほしいの」

 

「あ、あの・・・・ユリハ?

それは――――」

 

気を張り詰めさせるユリハへ、声をかけようとするクレア。

 

しかし、ユウゴはそれを強引に遮って、進み出ていた。

 

「取引には、”対価”が必要だ。

だが、こちらは2つで、そちらは1つ。

こうも吊り合わないのなら、俺達としては応じないという判断もあり得る」

 

仲間達の戸惑う視線の中でも、ユウゴは冷厳(れいげん)な態度を崩さない。

 

それでも、ユリハは怯むことなく向かい合った。

 

「無茶な話というのは、分かっているわ。

だから、この取引には”私自身”を差し出すわ。

この先、貴方達が脱出する時には、私がアラガミと戦う。

殿(しんがり)でも(おとり)でも、仲間でもなく()駒扱(ごまあつか)いで結構よ」

 

「おい、ユリハ!?」

 

(たま)りかねて口を挟むカミルを制し、ユリハは迷いなく(まく)し立てた。

 

「それでも、私は皆を守らなきゃいけない。

他の仲間達も、そうしてずっと、(いのち)()けてきたわ。

子供達を・・・・シャロンを助ける為なら、私はどこまでも戦い続けてみせる。

だから、だから、どうか・・・・っ」

 

其処(そこ)までにしときな」

 

しかし、そうして無茶に気負(きお)う彼女に、ジェットがきっぱりと声を上げていた。

 

「それ以上は言わせられねぇな。

悪かったな。

ウチの参謀は、どのくらいユリハが本気なのか、確かめたかったんだろう」

 

「・・・・(ため)すような物言(ものい)いをしたのは謝るさ」

 

言外(げんがい)肯定(こうてい)とばかりに肩を(すく)めてみせるユウゴ。

 

彼が、()()()()()()を考慮しているということは、皆も承知の上だった。

 

そして、ユリハの決心の程もまた、揺るぎなく真っ直ぐであると、ジェットが見込んでいた通りであった。

 

ユリハは、一転(いってん)して雰囲気を緩ませたジェット達に、呆気に取られていた。

 

すると其処に、にこやかで何処(どこ)(ほこ)らしげな仕草のフィムが歩み寄った。

 

「あのね。

()()()()()じゃなくて、だいじょうぶ!!

おとさんたち、みーんなをたすける、から!!」

 

「え・・・・!?」

 

「フィム・・・・ジェットのそういうマネは、しなくていいんだぞ」

 

「ルル、人を()()()()みたいな言い方すんなよな。

・・・・ともかく、最初から此処(ここ)のチビ達は勘定(かんじょう)に入れてある、ってことだ。

ま、少なくない人数だが、幸い俺達の統領(オーナー)は、こういう事態には寛容(かんよう)なんでな」

 

「それじゃ・・・・」

 

まだ事態の変化を理解しかねて、しかし高まっている期待に頬を染めているユリハ。

 

しかし、話はそう都合の良いばかりではないと、ジェットは改めて真剣に()く。

 

「なぁ、ユリハ、カミル。

俺は昨日、この場所に”(てき)”がいるのをはっきりと見た。

弱い奴らを見下して、テメェのしたいように踏みつける・・・・そういう、見覚えあるクソ野郎をな。

そして、そう言う奴らはそれを(かえり)みもしないし、自分から退()きもしねぇ。

だったら・・・・そいつを押し退けて(さき)()くには、”戦う”しかないんだ」

 

「”戦う”・・・・博士と・・・・」

 

勇ましく言い放つジェットに、ユリハは何処か呆然として呟く。

 

例えるなら、回り道で避けてゆくのに慣れきって、一番の近道(ちかみち)に気付かずにいた、という顔。

 

そんな、(むね)のすくような感慨(かんがい)()()()()()、ジェットはふっと笑っていた。

 

「・・・・ユリハは、前から誰かに似てると思ってたんだが、やっと分かった」

 

「え?」

 

「追い詰められて、そこへいきなり現れた逆転のチャンスに、とにかく必死で食らいつこうとしてる。

この先、どうなるかなんて分からねぇ。

だが、それでも”大事なもの”の為に、絶対に退くもんか、ってな。

そうやって息巻(いきま)いてた頃の”俺達”に、そっくりだ」

 

言いながら仲間達を見回せば、これまた言外の肯定とばかりの笑みが居並(いなら)んでいた。

 

こうして、気付いてしまえば、単純なことだ。

 

立ちはだかるものに、逃げるだけではいつか追いつかれる。

 

打ち勝ち、乗り越えて、初めて今までより先へと向かえるのだ。

 

「あ、あの、私っ・・・・出来るの、かしら・・・・」

 

戸惑いと不安に揺れるユリハ。

 

其処へクレアが、彼女らしい柔らかな所作(しょさ)で寄り添った。

 

「大丈夫だよ、ユリハさん。

守りたい、大切(たいせつ)(ひと)が、他の誰かの身勝手な思惑(おもわく)で無くなってしまう。

そんなの許せなくて、だけど助けられるか分からなくて・・・・それでも、動き出せずにいられない。

そういう気持ち・・・・此処にいる皆、分かってるから」

 

(いつく)しみと決意とを乗せたその言葉に、異論を唱える者は居なかった。

 

このグラジオラスに渦巻く事情の全てが、分かった訳ではない。

 

しかし昨日、泣きじゃくりながら助けを求めたユリハと、シャロンの変貌ぶりとを見れば、判断するには十分な材料だと思えたからだ。

 

「そういう訳だ。

そろそろ、そちらも腹を(くく)ってくれ。

どちらに”懸ける”のかをな」

 

ユウゴは、含みのある言い方でユリハと、そして()()()を牽制する。

 

実際、彼女達が内通(ないつう)を行う可能性は、まだ捨て切れていない。

 

だからこそ、全てが不可逆(ふかぎゃく)となる前に、見極めねばならない。

 

内憂外患(ないゆうがいかん)の牢獄、グラジオラス。

 

外にはアラガミと灰域、中には謎の兵器”ローレライ”が待ち構える中を振り切り、脱出しようとするその時。

 

”敵”として見做(みな)すべきは何か。

 

そして、”守るべきもの”は何なのかを。

 

そんなハウンドスクワッドの(こころざし)に、ユリハは目に滲んだ涙を拭い、きっぱりと答えた。

 

「分かったわ。

私達も、覚悟を決めないといけないのね。

この地も、トレイズ博士も、私達を守ってはくれない。

生き延びるには・・・・シャロンの(ため)には、貴方達のように戦い、進んでみせねばならないのだわ」

 

(こころ)()れたクレアやジェット達、そして心配そうに(とな)隣り合うカミルにも答えるように、ユリハは顔を上げた。

 

するとその時、こうしてユリハが動かされる時、その切っ掛けになる”人物”について、ふとクレアが問掛(といか)けていた。

 

「聞いても良い?

ユリハさんはどうして、そんなにもシャロンを心配するの?」

 

「・・・・それはきっと、貴方達と同じ関係(かんけい)だからだと思うわ。

ねぇ、貴方・・・・フィム、っていうのよね?」

 

物憂げな表情のユリハは、以前のように話し合いから離れて待つ、小さな姿へ視線を移す。

 

「――――初めに貴方を見た時、驚いたわ。

昔のシャロンと、そっくりだったから」

 

この時、ふとジェットは昨日、ユリハと通信越しに話した時を思い出していた。

 

ユリハはあの時、実はジェットでなくフィムを見たことで、思わず言葉に詰まるぐらいに驚いていたのかもしれない。

 

「・・・・シャロンは、数年前に突然、このグラジオラスへと迷い込んだの。

ただの小さな女の子じゃないのは、明らかだった。

だけど、無垢(むく)で、寂しがりで、怖がっていた。

そんなあの子を放っておくなんて出来なくて、グラジオラスの皆で、(かくま)ったわ。

フィムみたいに愛らしい子で、直ぐに牢獄の皆とも仲良くなったわ。

私にも、良く(なつ)いてくれていた・・・・」

 

ユリハの語った経緯に、ユウゴはなんとも感慨深(かんがいぶか)そうに嘆息(たんそく)していた。

 

「随分と、思い切ったもんだな」

 

――――ヒト型アラガミは、十数年前の”厄災(やくさい)”以後、希少ながらも複数体《ふくすうたい》の存在が確認されているが、その発見は遺骸(いがい)の状態である事が(ほとん)どだ。

 

なぜならば、その身に宿る特殊な”力”は、特に”灰域種アラガミ”の標的とされていること。

 

そして、仮に保護しようとも、今度は”貴重な研究材料”として、血眼(ちまなこ)で探し回る一部の(やから)からの”干渉”を受ける可能性もある。

 

されど、そのようなリスクなどユリハ達は()(よし)もなかっただろうし、また知っていたとしても変わらなかったろう。

 

「・・・・けれど、()かっていたわ。

私達は、常に監視され、逆らうことも出来はしない。

・・・・分かって、いたのに。

シャロンのことを、あの人に・・・・”トレイズ博士”にだけは、知られてはいけなかった・・・・!!」

 

「つまりは・・・・ユリハの焦りも、シャロンの異変も、全ては此処(ここ)統領(オーナー)・・・・”ニウロフ・トレイズ”という人物が原因、なんだな」

 

ルルの言葉に、ユリハは激しい無念を噛みしめ、首肯する。

 

「トレイズ博士は、グラジオラスを修繕(しゅうぜん)した技術者団の一人よ。

あの、”フェンリル本部”に在籍していたのを、”厄災”に追われて此処へ流れ着いた。

”私のローレライを完成させるためには、この地は都合が良い”。

・・・・以前に、そう言っていたわ」

 

「・・・・研究者ってのは、どいつもこいつも()()なのかよ。

もしもキースまでそんなキモくなったらと思うと、ゾッとするぜ」

 

よほど自分の研究に執心しているのだろう口振(くちぶ)りに、ジークはそう吐き捨てる。

 

「・・・・都合が良い、と言うのは、グレイプニルの目が届きにくい以外にも、”渾沌(こんとん)淵崖(えんがい)”とか言う山岳地帯も含めているんじゃないか?」

 

一方で、その話へ冷静に意見したユウゴに、ユリハやハウンドスクワッドは目を見開いた。

 

「この辺りの地図と、アラガミの異常な密集を見てて、思ったのさ。

グラジオラスは、南西の平野以外(へいやいがい)を山脈に囲まれたミナトだ。

そして、山地(さんち)は高低差と峡谷(きょうこく)が複雑に入り組んでいて、一度追い込めればそうそう戻っては来れない」

 

「なら、そうしてあれだけのアラガミを追い込んで、殆ど争わせずに押し込め続けているのは・・・・”ローレライ”の力?」

 

ハウンドスクワッド参謀の分析に、更に付け加えるクレア。

 

2人の筋道立(すじみちだ)った推論に、他の一同は感心するのだった。

 

「・・・・あの山も、元は()()などとは無縁な、雪の被る綺麗な山脈だったわ。

だけど、”ローレライ”はそれすらも変えてしまった。

博士は、心血(しんけつ)を注ぐ研究の為なら、手段なんて選ばないわ。

何度も、何度もあの”悪魔の機械”を実験をして・・・・私達は・・・・っ」

 

語気の強さに(たが)わぬ、激しい感情を剥き出しにするユリハ。

 

(まさ)しく、自分達へ襲いかかり、奪い取ろうとする悪魔(アラガミ)を見るのと同じ剣幕だった。

 

「――――最初は傷ついて、戦えなくなったAGE達(エイジたち)だったわ。

それが出来なくなったら、次は成長したAGE候補の子達。

酷い時には、一日に3人も連れて行かれて・・・・その誰もが、帰ってこなかった」

 

「AGEを連れて行く・・・・あの、中央施設にか?」

 

ユウゴの問いに、しかしユリハは聞こえてないかのように俯き、拳を強く握りしめた。

 

()(がた)きを()えようと歯を食い縛り、その苦渋の味に再び涙を(にじ)ませながら、尚も言葉を続ける。

 

「――――”全ては、ローレライに()(ささ)ぐという栄誉。

しかし、ありふれたAGE()()では、触媒にすらならない”。

・・・・博士は、あの子達のことをそう言い捨てた。

役に立たない廃棄物(ゴミ)だったと、そう決めつけたわ・・・・っ!!」

 

「まさか・・・・っ」

 

ルルが、言葉を詰まらせた。

 

そもそもに、”感応波”という生体由来(せいたいゆらい)のものを扱う実験ともなれば、その”末路”を想像するのは容易(たやす)かった。

 

「より良い触媒を探して、博士は監獄から次々(つぎつぎ)に仲間達を連れ去り続けたわ。

でも、私は・・・・実験体No,D-29。

適正に劣るも、ミナトの防衛には使える()として、”D判定”とされた。

・・・・同じく不適合とされた仲間達と、この場所を守るためにずっと戦ったわ。

けれど・・・・けれど、実験は止まらなかった」

 

身体を酷く震わせるユリハに、ジェットは声をかけるべきか(まど)う。

 

だが、おそらく今すべきなのは、ユリハの言葉を、憤怒(ふんぬ)失望(しつぼう)とを受け止めきること。

 

その筈だと、ジェットは自分に言い聞かせた。

 

「いずれは、カミルも。

それでもダメなら、もっと幼い子達にまで・・・・。

・・・・でも、そうはならなかった。

シャロンを・・・・”ヒト型アラガミ”を使うことで、ローレライの安定起動に成功したから」

 

「っ!!

なら、シャロンの変化は、やっぱり・・・・!!」

 

「・・・・嫌がるシャロンを監獄から引きずり出して、博士はローレライを起動し続けたわ。

それから、シャロンが変貌(へんぼう)していくのはあっという間だった

一月(ひとつき)もしない内に、肌が真っ白になって、性格も変わっていった。

言葉も辿々しくなって、いつも見えない何かに怯えて、酷い頭痛でふらついて。

・・・・そんな状態で、私達の元に()()()()

”壊れ切ったら、触媒としての価値が下がる”・・・・そう言って・・・・!!」

 

ユリハの怒りと哀しみに、クレアは息を呑み、そして堪らなそうにフィムを見詰めた。

 

フィムと出会った当初、無垢な赤ん坊のようだった頃から今に至るまで、クレアは全てを知っている。

 

人と関わり、その繋がりで成長し、愛を覚えられる奇跡の存在を、残酷に使い潰す。

 

その行いに、言葉に言い表しきれぬ悲憤(ひふん)を掻き立てられていた。

 

「・・・・あの子は近頃、異常に長く眠るようになったわ。

眠りながら、起きている。

その逆なのかもしれないような、曖昧(あいまい)な状態。

ローレライの起動の度に、状態はもっと悪くなっていく。

記憶や、理性も薄まり出して・・・・だけど、私にはなにもしてあげられない!!

あの子を守ってあげたいっ。

でも、博士に逆らえば、私達は物資を絶たれ、3日と生きていけない!!

そして、ローレライを使わなければ、グラジオラスはアラガミの群れに呑み込まれるのだから!!」

 

「ユリハ・・・・っ」

 

悲鳴を上げて身悶えるユリハへ、カミルが身を乗り出す。

 

だが、その(まえ)に別の人物が、ユリハの慟哭(どうこく)を抱き締めていた。

 

同じように涙を流す、クレアだった。

 

「――――詰まるところ、あの”木偶人形(でくにんぎょう)”にとって、このグラジオラスは全部、自分の道具(オモチャ)って訳だ」

 

内心の業腹(ごうはら)さを押し隠したジェットの声は、わざとらしいくらいに平坦で、低かった。

 

「・・・・クソがよ・・・・っ。

相手はまだ()っこい子供じゃねぇか。

なんで・・・・よくも、そんな事が出来るんだよ・・・・!?」

 

「・・・・醜悪(しゅうあく)だ。

命を、何とも思っていない。

同じだ・・・・バランと」

 

「・・・・かわいそう。

シャロンも・・・・ユリハも・・・・」

 

同じ”ヒト”への非道な行いに、ギリギリで怒号(どごう)を抑え込んでいるようなジーク。

 

(おさ)えきれない嫌悪と憐憫(れんびん)に、(うつむ)くルル。

 

()えきれなくて、育まれてきた(いつく)しみの想いを口にするフィム。

 

その小さな頭を優しく撫でつつ、ジェットはふと思い当たっていた。

 

「・・・・一昨日、ユリハの救難信号は()()()()だったらしい。

最低限、ご自慢のオモチャの囮になれば、生きようが死のうが構わないってか。

ああ、合点(がてん)がいったぜ」

 

安全な場所に引き(こも)り、一方で其処を守る為に戦うものなど(かえり)みない。

 

そのような悪辣(あくらつ)さとは、例えAGE無しでもミナトを守れる、という絶対の自信があってこそ。

 

あまりにも身勝手で冷酷な(おこな)いに、ジェットは深く、深く(いきどお)る。

 

(はらわた)()えて身体は熱く、その一方で思考はやたらと冷え切っている。

 

それは相手への(いか)りを通り越して、()という認識(にんしき)にまで至った、ジェットの(くせ)だった。

 

「――――なぁ、皆。

先に謝っとくわ」

 

唐突なジェットの言葉に、仲間達の視線が集まる。

 

まずはユウゴが、なぜかそこはかとなく(あき)れた風に返事をしていた。

 

「どうするんだ、ジェット?」

 

「・・・・イルダは、勇敢さより慎重さを、って言ってたな。

それで言えば、外のアラガミも、中のローレライも、まともに付き合うべきじゃない。

そして明日、トレイズの協力に乗れば、俺達はせいぜい安全にこの場を()れるんだろう。

ただでさえ弱っているシャロンに、更にローレライを使わせるのと引き換えにな」

 

「っ・・・・!!」

 

昨日、寝台に縛られていたシャロンは、ジェットの見る限り、もはや(むし)(いき)といって過言ではなかった。

 

その境遇を哀れみ、助けようとしても、天秤にかけられるリスクの大きさに、ユウゴが嘆息しながら答える。

 

「だが、極めて安全で、確実な策ではある。

いや・・・・妥協(だきょう)をしてでも、そうするべきなんだろう。

ローレライの起動と同時に脱出するとなれば、シャロンを収容している暇も無い。

その、”ただ一つ”さえ諦めれば、俺達を含めた多くを救うことが出来る」

 

「そんなっ・・・・そんなの」

 

「おう。

そんなのは(スジ)が通らねぇさ。

お前達にだけじゃない。

他でもない”ハウンドスクワッド(おれたち)”自身にもだ」

 

身悶(みもだ)えるユリハを(さえぎ)り、ジェットが放った答えとは、決然として(いな)

 

だからこそ、ジェットは先に謝罪していた。

 

安全で確実で容易(たやす)い方法を()ねつけて、危険で不確実だが、全てを勝ち取れる道を行くことを。

 

そんなリーダーらしからぬ判断に対し、しかしハウンドスクワッドの仲間達は、次々に(おう)と答えてみせる。

 

「そんなキモいやつに、”助けてくださいお願いします”の握手をするって?

んなダセェ真似、こっちから願い下げだぜ。

俺なら、自分でアラガミをぶっ飛ばしまくるほうがマシだね」

 

「危険上等。

どんな任務だって切り抜けて、結果で黙らせる。

それが俺達、ハウンドスクワッドだろうよ」

 

「なによりも・・・・動き出さなきゃ、大事なものを(うしな)ってしまう。

それなら、迷うことなんてないよね。

勝手に諦めて、後悔するよりも、出来(でき)ると信じて精一杯(せいいっぱい)

それが、ヴィクトリアスの・・・・ううん、私達の戦いなんだから!!」

 

「我々は、言われるがまま、(なが)されるままでなく、確かに(たたか)ってきた。

生き抜く為、自分で(えら)んできた。

ならば、今度もまた戦うことを選ぶ、というだけだ」

 

「いひひひっ、やっぱり、かっこいいっ!!

おとさんたち、ハウンド()()()()!!」

 

ジーク、ユウゴ、クレア、ルル、フィム。

 

誰もがなんら恐れることも無い、その自信の程は蛮勇(ばんゆう)なのか、それとも真の勇壮の証か。

 

されど、皆に(みなぎ)る希望と情熱は、ユリハとカミルにとってはあまりにも(まぶ)しい姿だった。

 

 

 

「――――やれやれ、やっぱりそういう話になってたか」

 

ところが、その時。

 

突然に、話し合いの外から聞こえた()()の声に、一同は驚いて振り返る。

 

しかも、その先に立っていた人物は、つい目を疑ってしまうほどに悠々(ゆうゆう)とした様子でいた。

 

「リ、”リカルド”っ!?」

 

「ね、寝込んでるはずじゃなかったのか!!??

動いて大丈夫なのかよ!?」

 

素っ頓狂な声を上げるジェットとジークに、リカルド・スフォルツァは余裕綽々な態度で笑ってみせた。

 

「心配をかけて済まなかったな、皆。

だが、ひとまずその辺りは後にしよう。

先に、勢いばかりで突っ込もうとしている若人達(わこうどたち)へ、朗報を持ってきたぞ」

 

「・・・・リカルドも、そこまで違わないと思うが」

 

ルルのクールな指摘はともかく、リカルドが情報端末を差し出すと、その画面には膨大なデータが表示されていた。

 

「”グラジオラス中央施設”の内部構造と、警備情報だ。

どうやら、中には警備装置と連動したガードロボットだらけらしい。

半端な備えじゃ、返り討ちだぞ」

 

確かに、建物上面図や立体図、警備装置群(けいびそうちぐん)のスペックまでも網羅(もうら)されたデータに、ジェットは目を見張(みは)った。

 

「コイツをどこで?」

 

「あの”ローレライ”を危険視したのは、お前達だけじゃないってことさ。

さぁ、キースの欺瞞工作(ぎまんこうさく)の間に、船に戻ろう。

オーナー()が、”作戦”を用意してお待ちかねだ」

 

「ちぇっ、(おれ)らの考えそうなことはお見通し、ってかよ・・・・」

 

渡りに船、とばかりではあったが、あまりに見事なお膳立(ぜんだ)てぶりに、ジークはつい口を尖らせる。

 

一方、リカルドとはこれが初対面のユリハ達は、その緊張のほうが勝っているようだ。

 

「ああ、心配すんなユリハ。

リカルドも、俺達の仲間なんだ。

ついでに、安心(あんしん)もして良いぜ。

どうやら、とうとう()()が来たみたいだからな」

 

「”(なが)れ”・・・・?」

 

「状況は、()くはない。

だが、それを押し通ろうとする奴らが、どんどん集まって()()()に向かってくんだ。

そして、こういう(かん)じを追った先には必ず、一発逆転(いっぱつぎゃくてん)の好機があるもんだ。

俺達は、ようやく”勝負の席”に()けた、ってな」

 

「――――・・・・なんでだよ」

 

ところが、確かに勝ち目を見出しているジェットに対し、苛立(いらだ)った声が差し込まれていた。

 

「カミル・・・・?」

 

ただ1人だけ、険しい眼差しのカミルは、思わずユリハが心配して声をかけるほどだった。

 

しかし、そんな彼女を振り切ってまで、カミルは更に声を荒げた。

 

「お前らは、現実(げんじつ)が分かってんのか?

全部、トレイズに協力した方が、お前らには()なんだろ?

トレイズも、アラガミも、灰域も・・・・何か1つを抜けたって、また直ぐに追い詰められる。

しかも、お前はシャロンに(ころ)されかけた

そんな相手の為に無理をして、失敗すれば全部、()わりだ。

・・・・本気なのか?」

 

突き刺すような剣幕で、カミルはジェットを見上げる。

 

否や、()()()()()()()()()()激しい苛立ちと歯痒(はがゆ)さは、ジェットにとっては()につまされて分かってしまうものだった。

 

だからこそ、ジェットは不敵に笑い、真っ直ぐに向き合ってみせた。

 

「前にも言ったろ?

俺は、お前と同じ、こういう場所で育ったんだ。

俺と、俺の仲間を(くさり)(つな)いだ奴らに、同じように(うば)われた。

だが、その全部を()()()()()、此処まで来たんだよ」

 

「・・・・っ!!」

 

「だから、お前達が見ている現実は、他人事(たにんごと)なんかじゃねぇ。

そして、俺は・・・・俺達は二度(にど)と、”仲間”を見捨てないと決めてる。

それだけだ」

 

ジェットが語り、その仲間達(なかまたち)も笑みで(こた)える理屈とは、所詮(しょせん)は力を持つゆえの身勝手(みがって)さであるのかもしれない。

 

だが、カミル達を(しいた)げた者達や、アラガミと違うのは、その見詰める先が(おのれ)だけに(とど)まらないこと。

 

自分の心と、他者の命と、其処(そこ)(あず)けた己の”想い”までもを成し遂げる。

 

その為なら、立ち塞がるものを()()せ、切り拓く。

 

心のままに戦い、(しば)るものなど何も無い。

 

ただの自分勝手(じぶんかって)を振り(かざ)すより、ざっと3倍程は身勝手で、欲張りで、痛快な理屈だった。

 

 

 

「――――・・・・どうしたら、そうなれるんだ?

なんで、立ち向かえる?

オレ達と、何が違う?

オレは・・・・どうしたら皆を守って、ユリハを助けて、生きていけるんだ?」

 

「・・・・そいつは、お前だって見てきた筈だぜ。

自分一人じゃ、勝てない。

だったら、今を耐えて、生き抜いて、(さが)すんだ。

一緒に戦ってくれる、信じられる仲間達をな」

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 

 




・Tips.8

「カミル・グラジオラス」

年齢 11

未承認(みしょうにん)のミナト・”グラジオラス”に住まう、AGE候補生の少年。
現在の牢獄内では2番目に成長している為、他の子供達の纏め役ともなっている。
物心ついた時から厳しい監視生活に置かれていた故に、仲間達以外への不信感が強く、屈折した態度を取りがち。
しかし、数多くの先達(せんだつ)のお陰で生き長らえてきた事を(おお)きく受け止めており、同じように年少の子供達を守る為ならば、()(てい)する覚悟がある。
今や、唯一残ったAGEであるユリハとは仲が良く、互いに信頼を置いている。
それだけに、彼女の助けになれない今の自分の(おさな)さを、酷く歯痒(はがゆ)く感じているようだ。
また、その素養自体(そようじたい)は非常に高く、AGEとして最高峰の適正である”甲判定(こうはんてい)”を受けている。
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