GODEATER3>>Remember Chains.   作:志乃木千進

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#6 >> 「”Agnus Dei”」 Part.2

「戻ったか、お前達」

 

協力を約束してくれたシャロン、カミルといったん別れ、ジェット達はクリサンセマムのブリッジへと戻る。

 

其処にはリカルドと同じく、絶対安静の筈だったアインが、頼もしい様子で居合わせていた。

 

旦那(だんな)!!

見た所、やっぱりそちらさんもしぶとかったようだな」

 

「本調子、とは言い切れない塩梅(あんばい)だがな。

しかし、こうして”ローレライ”が使われようとしているとなれば、おちおち寝てもいられん」

 

「やれやれ、アインさんもリカルドも、水臭(みずくさ)いぜ。

まさか、俺やジェットが目を覚ました頃からずっと、黙って(うら)で動いてたとは」

 

肩を(すく)め、冗談めかした調子で抗議するユウゴ。

 

此処までの道中、他のメンバーからも何度と無く突付(つつ)かれていたリカルドだったが、改めて弁明を図る。

 

(とこ)()せってたのは事実だが、アインさんはこの状況を利用(りよう)すべきと言ってな。

()(だま)すには、味方から。

イルダ(オーナー)とも相談して、ここは内密に動いた方が全員の為、ということでな。

なにせ、この船には一本気(いっぽんぎ)な連中ばかりだし、俺としても動きやすかったんだ」

 

「・・・・これ、俺らに隠し事はできないだろ、って言われてるよな?」

 

と、またも眉間(みけん)(しわ)でぼやくジークだったが、これに抗議や弁護が続くことはなかった。

 

悲しいかな、みんな自己分析は出来ているつもりだった。

 

「ま、正解かもしれないな。

ついでに、医療スタッフであるクレアも当然、この事は知ってたわけだ?」

 

「ご、ごめんなさいっ。

イルダさんとアインさんに打ち明けられて、医務室を管理する私が口裏を合わせれば、より万全だからって・・・・」

 

「いいさ。

なんとなく(みょう)だとは思ってたが、お前が隠し事なんて、よっぽど頑張ったんだろうしな」

 

「・・・・そんなに、分かりやすかった?」

 

「態度を見てりゃ、まぁな」

 

「・・・・そう、だったか?

流石、よく見てるな、ジェット」

 

感心するユウゴの一方、ひっそりと肩を落とすクレア。

 

しかし直後、彼女は何やら釈然(しゃくぜん)としない顔でジェットを見詰めたのだが、生憎(あいにく)とそれは誰にも気付かれなかったのだった。

 

「それで、ユリハやシャロン達を救う、作戦というのは?」

 

「それは、私達から説明するわ」

 

率先(そっせん)して話を引き戻したルルに、イルダが進み出る。

 

同時に、下段のオペレーションブースのエイミーが動き、ブリッジのメインモニターに作戦概要を映し出す。

 

<改めて、ハウンドスクワッドの皆さんには”グラジオラス中央施設”へ突入し、内部に(ぞう)されている”ローレライ”の起動阻止。

そしてその効果の鍵となるだろう、シャロンさんの救出を行っていただきます>

 

施設奥部(しせつおうぶ)には、グレイプニルにでも使われている最新鋭のガードシステムが配置されているようよ。

衝突は必至(ひっし)

となれば、皆には()()()()で突入し、防衛線の突破を図ってもらうわ」

 

リカルドの情報のお陰で、施設の構造は丸裸にされている。

 

しかし、それによって()(はか)れる道程(みちのり)の険しさに、ジェットは眉を(しか)めていた。

 

「随分と、派手にやることになりそうだな」

 

「だが、そうせざるを得ないだけの”理由”がある。

此処までの強攻策に出るように進言したのは、俺だ」

 

「旦那が?」

 

「俺は、このローレライシステムをよく知っている。

そして、開発者の”正体”と、その()()()()()についてもな」

 

「!!」

 

元々、計り知れない能力と経歴の持ち主だが、それがアインという男の(うつわ)でもある。

 

故に、一同はそれ以上は触れず、いよいよこの作戦の最大の()()()言及(げんきゅう)する。

 

クレアがその口火(くちび)を切り、アインとイルダへ問掛けた。

 

「ローレライを無力化するのは良いとしても、その(つぎ)はいったい、どうするんですか?

作戦が上手く行ったとしても、そうなると私達は、ローレライの効果無しに、外のアラガミと灰域を突破しないといけません」

 

「確かに・・・・およそ非常(ひじょう)難題(なんだい)ではあるが、それについては俺達なりの”回答”がある。

だが、その為にはグラジオラス中央施設の制圧と、メインシステムの掌握(しょうあく)大前提(だいぜんてい)だ。

そこに、お前達ハウンドスクワッドの知勇があれば、可能性は見出だせるだろう」

 

「兎にも角にも、まずはあの兵器を止めることから始まるわ。

今夜、0200(まるふたまるまる)

” ハウンドスレッド作戦 ”、その前哨戦(ぜんしょうせん)の決行よ」

 

「・・・・ハウンド、()()()()?」

 

珍しくきょとんとするルルに対し、ユウゴはその意図を察してふっと笑った。

 

「さしずめ、”犬ゾリ”(ドッグスレッド)を引くのは”俺達(ハウンド)”、ってか?

なら、せいぜい気張って走らないとな」

 

 

 

・・・・

・・・

・・

 

 

 

――――そして、遂に決行の時刻は訪れた。

 

ハウンドスクワッドは、ジェット率いる突入班と、万が一に備えて牢獄の子供達をクリサンセマムまで誘導する護衛班に分かれ、グラジオラスに再び侵入する。

 

そして、ジェット、ユウゴ、ジーク、クレアのチームは神機(じんき)を装備し、協力を約束したユリハと合流を果たした。

 

「ごめんなさい、流石に神機まで持ち出すことは出来なかったわ」

 

「なぁに、()()()みってな。

普通の武器で悪いが、護身用に持っときな。

使わせるつもりは無いけどな」

 

「まあ・・・・良いのかしら、頼り切ってしまって?」

 

「おう。

安心して道案内してくれよな」

 

「・・・・もう、調子いいんだから・・・・」

 

ユリハの案内に従い、ジェット達は()えて遠回りのルートでグラジオラス中央施設に潜入する。

 

今回はあくまでも奇襲作戦であり、ローレライがあると(もく)される”研究エリア”まで、見つからないに越したことはない。

 

故に、警備の手薄な施設外縁(しせつがいえん)を回り込み、いざ(こと)が起こるまでは発覚を避ける計算だった。

 

「・・・・妙な(つく)りだな。

居住施設には見えんが・・・・」

 

その途上、ユウゴは辺りを見回しながらそう()べる。

 

というのも、その一帯は広大なホールや通路が(いく)つも連なって続き、天井もやたらに高い。

 

照明が落ちているのも相まって、今までとは段違いの分厚(ぶあつ)い暗闇に包まれていた。

 

その上、家具(かぐ)らしいと言えば、4人掛(よにんが)けほどのベンチが点々とあるくらいで、代わりに大きな額縁やガラスケースの残骸が放棄されているばかりだった。

 

「って、うわっ!?

なんだこいつ!?」

 

いきなり大声を上げたジークの方を振り返るジェット。

 

すると、神機を構える彼は、暗闇の中に突如現れた、”巨大な怪物”と対峙していた。

 

(ただ)し、その相手はピクリとも動かず、またそもそもにその()()()()()()では、一歩踏み出した瞬間に崩れ落ちるだろう。

 

「で、でかいオウガテイル・・・・の骨か?」

 

「いや・・・・こいつは、恐竜の化石ってやつだな」

 

「キョー、リュー?」

 

「初めて、見た・・・・。

本当に、アラガミみたいに大きいんだね」

 

おっかなびっくりなジークの一方、知識として知っているジェットとクレアは、感心してその太古(たいこ)雄姿(ゆうし)を見上げる。

 

その横から、ユリハが微笑みながら補足する。

 

「此処は、元は”博物館”という場所だったらしいわ。

この地球の歴史を、様々な記録や資料を展示して伝える、という建物なのだそうよ」

 

「そいつは珍しいな。

こんな時でなければ、興味深いところだが・・・・」

 

ユウゴがそんな感想を呟いた途端、真っ暗な建物の中に、けたたましい警報が鳴り響いた。

 

更には真っ赤な非常灯があちこちに(とも)され、見るからに有事(ゆうじ)色合(いろあ)いで侵入者達を威嚇(いかく)する。

 

施設奥部(しせつおうぶ)に、高エネルギー反応!!

ローレライの起動シークエンスと思われます!!

更に、中央施設内に、動体反応多数(どうたいはんのうたすう)!!>

 

「おいおい、意外に(カン)が良いみたいだな。

なら、()()()も頼むぜ!!」

 

緊迫(きんぱく)したエイミーからの通信に応答するジェット。

 

グラジオラス内での直接衝突以外に、ドックのクリサンセマムの(なか)でも、作戦に欠かせない”戦い”が始まろうとしていた。

 

 

 

 

<――――クリサンセマム・”メインフレーム”、グラジオラスへ接続開始!!>

 

エイミーの報告を受け、クリサンセマム機関エリア・メインCPUルームに詰めていたキースは、にわかに目を輝かせた。

 

「よーし、来た来たぁ!!

準備は万端・・・・今度は此方(こっち)から仕掛(しか)けてやる!!」

 

言うや否や、目の前の制御盤(せいぎょばん)にかじりつき、凄まじい手さばきで操作を開始。

 

まさに、以前の意趣返(いしゅがえ)しとして、グラジオラスのシステムへ”クラッキング”を仕掛けようというのだった。

 

「・・・・メインドック、外部施設、牢獄エリアの隔離(かくり)は完了。

こっちは、大した事ない・・・・よほど興味(きょうみ)が無かったんだ。

けど流石に・・・・メインエリアのセキュリティは・・・・良く出来てる。

・・・・警備装置まで突付(つつ)ける、余裕は無いかな・・・・」

 

大きく見開いた(りょう)眼差し(まなざ)をモニターへ突き刺し、クラッキングに全力を傾注(けいちゅう)するキース。

 

誰に言うでもない独り言は、フル回転させている脳から思考が漏れ出ている結果だった。

 

<ローレライへのエネルギー充填、速いです!!

このままじゃ・・・・っ>

 

「大丈夫!!!!

・・・・確かに防御力は大したもんだけど、()()()()()のは想定してない作りだね。

どんなに完成された物だろうと・・・・ずっと()()でい(つづ)けられはしない・・・・っ。

(たたか)う中で、必ず(ほころ)びが出来て・・・・そこを、突くっ!!!!」

 

気迫を込めて、()めのキータッチ。

 

” Access Accepted ”と文字が表示され、キースは快哉(かいさい)と共に振り向く。

 

其処(そこ)には、技術者としての師匠たるアインが、弟子の見事な仕事に、珍しく笑みを浮かべていた。

 

 

 

<――――兄ちゃん、グラジオラスのメインシステムに侵入したよ!!

ローレライで追い払うのは、やらせない!!

この間に警備システムを突破して!!>

 

「っしゃぁっ!!!!

流石は俺の弟だぜ、キース!!!!」

 

「浮かれてるなよ、ジーク。

こっちもお出ましだぜ」

 

ユウゴの言う通り、施設奥(しせつおく)から幾つもの金属音が(つら)なり、迫り来る。

 

やがて現れたのは、ニウロフ・トレイズが操っていた大型ガードロボットの集団だった。

 

直立して地面を歩くだけでなく、4足状態で壁や天井を移動するものもおり、通路は完全に塞がれていた。

 

「っ・・・・素通(すどお)りは、出来ないようだわ」

 

「牢獄側へ回られなきゃ十分だ。

元から荒事(あらごと)は承知の上、ってな。

やるぜ、皆!!」

 

ジェットの(げき)に応じ、ハウンドスクワッドは一斉に展開する。

 

「行くぞ、クレア!!」

 

「はい!!」

 

まずはユウゴとクレアが銃形態(ガンフォーム)を構え、それぞれ”ショットガン”と、”アサルト”銃身(じゅうしん)での牽制射(けんせいしゃ)

 

その間にキースとジェットの順に、疾風の勢いで突っ込む。

 

対して、ガードロボットは内蔵された銃器を展開し、弾幕を張ろうとする。

 

しかし、その鼻先へ次々(つぎつぎ)爆発弾丸(ばくはつバレット)が打ち込まれ、爆風と衝撃に対応が遅らせられる。

 

「ブーストォっ!!」

 

その停滞(ていたい)に、先鋒(せんぽう)のキースが突き刺さる。

 

噴火鉄槌(ブーストハンマー)轟々(ごうごう)と火を吹き、その威力(いりょく)で装甲ごとガードロボットを叩き潰し、文字通りに布陣を()ち壊していく。

 

(つづ)(ざま)に飛び込んだジェットは、俊転二刀(バイティングエッジ)の小回りを活かし、ガードロボットの頭部カメラや関節部を的確に斬り飛ばして、戦闘力を奪う。

 

そして、そのまま駆け抜けて敵陣を()(みだ)すや、壁面(へきめん)を走って離脱。

 

空中で神機を変形させ、背後へと叫んだ。

 

「頼むぜユウゴ、クレア!!」

 

ジェットは”スナイパー”銃身を連射し、射撃体勢に入ったロボットを優先的に牽制する。

 

その間に、オラクルエネルギーを打ち切った2人が近接戦に移行し、それぞれの巨大な得物(えもの)を振り上げた。

 

「うおぉっ!!」

 

気迫と共に技構長剣(ロングブレード)(かか)げ、斬り込むユウゴ。

 

鋭利で長大(ちょうだい)な刃渡りで、ガードロボットを物ともせずに斬鉄(ざんてつ)し、次々に一刀両断に仕留める。

 

そして、其処へ続くクレアは、(たずさ)えた開咆長槍(チャージスピア)に気を込め、走る。

 

ドリルのような穂先(ほさき)が特徴的な彼女の長槍(ちょうそう)は、次の瞬間、先端が真っ二つに開き、そこから現れる更に長大な(きっさき)がオーラを放つ。

 

「てゃぁああああっ!!」

 

クレア本人よりも大きいかもしれない穂先を掲げ、怒涛の突進を放つ。

 

そのたおやかさとは裏腹(うらはら)な勇猛な一撃は、ロボットの装甲を容易(たやす)く貫き、ひしゃげさせた。

 

瞬く間に総崩(そうくず)れになったガードロボット達へ、更にジークが突っ込み、銃形態(ガンフォーム)を突き付ける。

 

(おせ)ぇぜっ!!」

 

押し込まれて固まったところへ、同じく”ショットガン”銃身の強力な散弾斉射(さんだんせいしゃ)が襲い、轟音と共に行動不能へと追い込んだ。

 

(しか)り、強大なアラガミをも討ち取る神機(じんき)の威力とは、まさに規格外。

 

そして、それを自在に振るう”神機使い(ゴッドイーター)”達の進撃(しんげき)は、対人兵器程度で止められるはずもない。

 

「凄い・・・・。

これが、ジェットの・・・・いいえ、”ハウンドスクワッド”の戦い・・・・」

 

先に宣言した通り、ユリハが銃を使う暇も無い圧倒的(あっとうてき)な戦闘で、ジェット達は防衛線を突破していた。

 

ガードロボットも、この衝突で蹴散(けち)らしたのが大半(たいはん)だったらしく、残りは足止めにもならない散発的遭遇(さんぱつてきそうぐう)が続くのみ。

 

ジェット達は速度を緩めること無く、(つい)に中央施設の最奥(さいおう)、鋼鉄の巨大ゲートへ到達していた。

 

「エイミー!!

”研究エリア”に到着した!!」

 

<了解!!

ゲートロック・・・・突破!!

開きます!!>

 

そして、ジェットの通信に応じ、セキュリティゲートが重々しく開かれていく。

 

その先は、これまでよりも一回(ひとまわ)狭小(きょうしょう)な通路があるようだった。

 

(おく)れて鮮明な電灯が光り出すも、やはりただ整然とした道が奥へ延びているのみ。

 

出迎(でむか)えは無し、か。

・・・・・ユリハ、此処から先は分かるか?」

 

「いいえ・・・・この区画に侵入出来るのは、博士(はかせ)たち技術者のみ、だったわ」

 

「リカルドのデータでも、この先はカバーしていない。

慎重に行くぞ」

 

「・・・・っ!!??」

 

するとその時、ある()()の存在に気付いたクレアが、大きく息を呑んでいた。

 

「どうしたっ?」

 

「ジ、ジェット、あれ・・・・!?」

 

動揺するクレアが指差す先、通路の片隅には、明らかな”人間の死体”が転がっていた。

 

不穏(ふおん)さを(かも)し出すその()()に、先んじて近寄るユウゴ。

 

「おい、よくドアップで見れるな、そんなの・・・・」

 

「・・・・白衣に、名札ということは、ここの研究者か。

完全に腐乱しているが、どうやら死因は機銃(きじゅう)で撃たれたことらしい」

 

ドン引きするジークだが、ユウゴは冷静にその()(ざま)を分析する。

 

その見立て通り、汚物塗(おぶつまみ)れの白衣の背中は、黒ずんだ大きな血痕が幾つも広がっていた。

 

そしてその()、ジェット達は再び奥を目指し、進み始めた。

 

だが、研究エリア内部は、奇妙なほど手薄だった。

 

警備装置の(たぐい)は全く無く、しかしその途上には、同じような(むくろ)(さら)に幾つも転がっていた。

 

アラガミ相手ならともかく、生々しい”殺人”の痕跡を目の当たりにして、クレアやジークは顔を青褪(あおざ)めさせていた。

 

 

 

「――――気付いてるか、ジェット?

この死体、どうも状態から見て、同じ時期(じき)に殺されたらしい」

 

「・・・・どいつも、逃げ出そうとしたのを後ろから撃たれた。

機密(きみつ)を守るためか、()()()()()()()なのか。

・・・・ユリハ、グラジオラスに来た技術者の人数は?」

 

「・・・・15人、確か」

 

「ならば、この時点でもう半分以上が既に死んでいることになる。

・・・・しかも、この施設の規模(きぼ)も、予想以上のものだ。

これだけの状態を維持するには、(もの)(かね)も、膨大に()る。

やはり、グラジオラスには何らかの(うし)(だて)があるんだろう」

 

「それだけじゃないぜ、ユウゴ。

此処を使ってる、あのトレイズとかいうのは、つまりこの死体を転がしたまま、長々と研究をしてたってことになる。

マトモな神経じゃ無ぇぜ」

 

「・・・・っぅ・・・・!!」

 

無惨(むざん)()(ざま)と、それを為出(しで)かした人間の邪悪さを想起(そうき)してか、思わず不安げに視線を彷徨(さまよ)わすクレア。

 

すると、後方を歩いて来ていたユリハが、何故か(あし)()めていることに気付く。

 

「ゆ、ユリハさん?」

 

「・・・・道はこっち、みたいだわ」

 

「えっ?」

 

「・・・・ついて来て。

シャロンが、呼んでる・・・・」

 

 

 

――――ユリハは、道中の幾つかの分かれ道を、何故か迷うこと無く進んで行く。

 

(なか)ば呆然として、本人にすらも理由が分からないようであったが、案内自体は正確であるようだった。

 

ジェット達は、進んで行った先で、今までになく広大な格納庫(かくのうこ)のような空間に辿り着く。

 

辺りには何らかの制御装置や、動力伝達用の巨大なケーブル、導管(どうかん)が密集しており、それらの中央には天井を貫いて()びる、巨大な鉄塔のような機械が()えられている。

 

「デカいな・・・・もしかして此処は、あのローレライの足元なのか?」

 

ユウゴの言う通り、鉄塔の装置は既に通電(つうでん)して随所(ずいしょ)から発光し、起動直前で止まっているローレライと見做(みな)せなくもない。

 

そして光源の真下には、亡国(ぼうこく)玉座(ぎょくざ)のような大仰(おおぎょう)な椅子があり、真っ白な肌色(はだいろ)の少女がぐったりと座らされている。

 

「 シャロンっ !!!!」

 

「うぉっと、待ちなってユリハ!!

おい、ジェット!!

(そば)になんかいるぞ!!」

 

ジークは(はや)るユリハを取り押さえつつ、玉座の(かたわ)らを指差す。

 

すると確かに、制御端末(せいぎょたんまつ)の密集したオペレーションブースのような場所が隣接(りんせつ)しており、そこで(さか)んに動く人影があった。

 

――――(いな)や、”細くやつれた”、とでも言い表すべき体格の、男性であるようだった。

病的(びょうてき)な青白い肌色に、顔にかけた眼鏡(めがね)はモニターの(ひかり)を反射し、頭を()()るたびに明滅している。

真っ白い頭髪は、粗雑(そざつ)に切られて長短(ちょうたん)もバラバラな上、ところどころが不自然にごっそりと抜け落ちている有り様だ。

おまけに、ヒクヒクと顔の(シワ)表情筋(ひょうじょうきん)痙攣(けいれん)させ、ギラギラと眼を血走(ちばし)らせた顔は、狂気的としか言いようがない。

 

その男は脇目も振らず、薄汚れた白衣の下の、虫の節脚(ふしあし)のような腕を(せわ)しなく動かし、制御端末と格闘していた。

 

見るからに異常に興奮し、苛ついた様子で、盛んに独り言を口走っているようだった。

 

「ああっ・・・・くそ、くそ・・・・っ。

これだから、下劣(げれつ)な知能の馬鹿どもめが。

なぜ、いつも私を(わずら)わせる・・・・。

そうだ、貴様らはいつも、揃いも揃って・・・・っ。

私の大業(たいぎょう)を前に、いつも私の(あゆ)みを掴まえる・・・・!!」

 

一向に制御装置から目を離そうとしないが、それでもユウゴは油断せず、神機を構えながら声を張り上げる。

 

「お前が、ニウロフ・トレイズ博士か?」

 

ところが、それに対する男の答えは、バンッ、と両手で激しく制御盤を叩くことだった。

 

「黙っていたまえよ。

こうして、貴様らの後始末をさせられている私が見えないのか?

それとも、貴様らは自らの(あやま)ちの有無も、その度合も理解できない能無しか?」

 

「なんだと、テメ――――っ」

 

「 貴様らがっ !!!!

システムに干渉(かんしょう)したせいで、ローレライは()()()()()()()()()!!!!

(もだ)えているのだ!!!!

私のローレライを、また苦しめるのか!!??」

 

「何を・・・・言っているの・・・・っ?」

 

啖呵(たんか)を切りかけたジークを(しの)ぎ、男は唐突にヒステリックな怒号を叫び散らていた。

 

その異様さに気圧(けお)され、嫌悪感と共に後退(あとずさ)ってしまうクレア。

 

「・・・・間違いないわ。

あの(ひと)()がりな言い草・・・・トレイズ博士よ」

 

高慢(こうまん)ちきで、神経質で、話も(つう)じやしねぇ。

()()()マッドサイエンティストのおでまし、ってな。

そのまま、テメェのオモチャで遊んでな。

だが、シャロンは連れて行かせてもらう」

 

ジェットは、以前にも散々に(わずら)わせられた”イヌカイ”という研究者を思い出しつつ、足を踏み出させる。

 

だがその瞬間、ユリハが鋭く声を上げる。

 

「危ないっ!!」

 

「なっ!?」

 

刹那、上方(じょうほう)の暗がりに破裂音と発射光(マズルフラッシュ)が連続で()ぜる。

 

間一髪、ジェットは降り注いできた(おびただ)しい機関砲を横っ飛びに避ける。

 

「ちぃっ!!

またガードロボットか!?」

 

「ち、()()っ。

なにあれ・・・・!?」

 

そう言うクレアの目は、広間の奥から轟音を立てて歩み出る、巨大な機械を捉えていた。

 

今までのガードロボットを更に二回(ふたまわ)りは凌ぐ重装甲の巨体に、野太く長い両腕を使った4足歩行で、震動を巻き起こす。

 

頭のない大猿(コンゴウ種)、といった巨大機械は、しかしその首があるべき(くぼ)みから複数のロボットアームを伸ばし、トレイズが居座るコントロールブースを掴む。

 

すると、なんと()()()()()()床から引き抜いて自分の胴体へ埋め込み、せり出した装甲板で(おお)ってしまった。

 

「な、なんだありゃ!?

あいつ、機械と合体しちまったぞ!!??」

 

「しかも、そのまま来やがる!!

避けろ、皆!!」

 

< 潰れろ、五月蝿(うるさ)羽虫(はむし)ども !!!!>

 

機械の身体の(きし)みか、トレイズの上げた奇声か。

 

高低(こうてい)の入り交じる駆動音を轟かせ、異様な戦闘機械(せんとうきかい)は巨大な前脚を振りかぶり、叩きつける。

 

ジェットの指示で全員が散開するが、しかしその動きを戦闘機械の全身に(はい)された機関砲が追い、狙い撃ちにする。

 

「――――無限に()()で、資源を()()らす()()がっ!!

貴様らが小賢(こざか)しく(たか)るほど、私の研究は(とどこお)る!!

食事、睡眠、排泄(はいせつ)、煩わしい能無しども!!

・・・・ああ、やはりっ、()()()()()ではローレライは完成し得ない!!!

人間など消えろ!!!!

私のローレライこそが、人間の未来なのだからぁ!!!!」

 

狂気に(まみ)れた言動で(もっ)て、トレイズは機械の巨体を暴れさせる。

 

それらに狙いも何もあったものではなく、傍にいるシャロンや、この部屋ごと破壊しかねない。

 

「ほざくな、くそったれ!!

当たれぇ!!」

 

機関砲を振り切り、側面を取ったユウゴが銃形態(ガンフォーム)を連射する。

 

だが、強力な散弾射撃が戦闘機械を()った途端、火花と共に弾かれ、消えてしまう。

 

「これ、対灰域装甲板(たいかいいきそうこうばん)!?」

 

「はぁ!?

何をきっちり準備整えてやがんだっての!!??」

 

然り、装甲の強度だけでなく、偏食因子(へんしょくいんし)の効果も(あわ)せたその防御力は、クレアの突撃や、ジークの鉄槌すらも弾いてしまった。

 

これが銃撃や、ユリハの小火器(しょうかき)では、(かす)り傷が(せき)(やま)だろう。

 

「トレイズ博士・・・・!!

どこまでも、シャロンを・・・・私達を(しいた)げるの・・・・!?」

 

狂乱と敵意をばらまく姿(すがた)へ、ユリハは悲痛に呟いた。

 

――――だが、ジェットは、こうして話も通じぬ()には、(たたか)(こう)するしか無いと知っていた。

 

生憎(あいにく)と、俺達はテメェの玩具(オモチャ)に用は無ぇんだ。

まして、アラガミと比べりゃただの木偶人形(でくにんぎょう)、ってな!!」

 

そもそも、壊せば不都合(ふつごう)の有りそうな機械に(あふ)れるこんな場所で、その巨体も威力も()かしきれよう筈がない。

 

間合いを見計(みはか)らい、機関砲の動きを見極めたジェットは、その一瞬の間隙(かんげき)を突き、(はし)る。

 

瞬発力を解放し、戦闘機械の前腕部(ぜんわんぶ)を駆け上がるや、変形させた薙刃形態(ていじんけいたい)を振りかぶる。

 

狙いは肩口(かたぐち)、その関節部。

 

御大層(ごたいそう)な装甲だろうが、”継ぎ目”は見えてるんだよ!!」

 

AGEとしての熟練の技で、装甲の奥の機構(きこう)を捉えきるジェット。

 

薙刃形態の短くも肉厚な刀身が、(くさび)のように深く突き立てられる。

 

そして、それを梃子(テコ)の原理で思い切り(えぐ)れば、ゴキン、という強烈な手応(てごた)えを返してくる。

 

途端に戦闘機械の左腕(ひだりうで)は爆発と共に力を失い、巨体を支えきれず、倒れ込んだ。

 

「今だ、行けっ!!」

 

猟犬達(ハウンドスクワッド)は、一斉に(おど)りかかった。

 

ユウゴの長剣が、右前腕の(ひじ)を抉る。

 

ジェットとクレアの攻撃が、腰椎(ようつい)に当たる可動部の導管類(どうかんるい)()じ切る。

 

そしてジークが、首元の操縦席の装甲を、大噴火(だいふんか)する鉄槌で無理矢理に叩き壊す。

 

「う、ぐっぅああああ!!??」

 

「――――今だ、行くぞっ!!」

 

「喰らってやるぜ!!」

 

生じた装甲の(ほころ)びを、全員の捕喰形態(プレデターフォーム)で引き剥がし、遂に操縦席を丸裸にする。

 

勝負は、そこで決していた。

 

「き、さま、らぁ・・・・っ!!??

AGE、(ごと)きがぁっ!!!!」

 

()()()()()()()()に言われちゃ形無(かたな)し、ってな」

 

火花を吹き出す制御盤に突っ伏し、怨嗟(えんさ)を吐き出すトレイズ。

 

それに対してジェットがそう吐き捨てた由縁(ゆえん)は、トレイズの腰椎へ太いケーブルが接続されていたからだ。

 

何の用途かは知らないが、”ただの人間”であるならあんな物は不要な筈だった。

 

「博士、もう動かないで。

シャロンを返してもらうわ」

 

倒れ伏すトレイズへ、ユリハは今にも引き金を引きかねない剣幕で銃を突きつける。

 

むしろジェットには、よく冷静でいられていると思えるほどだ。

 

この男は、彼女達を(さいな)んできた、積年の苦痛と苦悩の元凶なのだから。

 

「裏切るつもりか、実験体!!!!」

 

「味方だったつもりはないわ!!

貴方だってそうなのでしょう!?

私達は所詮(しょせん)、自分の興味の為に餌付(えづ)けしていた、ただの捨て駒!!」

 

「ならば飼い犬らしく、従っていろ!!

A()G()E()()()が私を、私のローレライを煩わせるな!!

貴様らのような前時代的(ぜんじだいてき)、非効率的な存在が()()をさらい、アラガミ共を間引(まび)くのに、どれほどの物資と時間を浪費するか、自覚しろ!!

ローレライは、アラガミの大軍や灰域にすらも、確実かつ十ニ分(じゅうにぶん)の効果を発揮する!!

それは今、この瞬間、貴様らのしがみついているこのグラジオラスが証明しているのだぞ!!??」

 

「威張ってるじゃねぇよ!!

俺らは知ってるんだぜ?

アンタのご自慢の()()()()ってのは、はっきり言って”欠陥品(けっかんひん)”らしい、ってな!!」

 

その時、問答をするユリハとトレイズに対し、ジークとユウゴが神機(じんき)を突きつけながら割り込んだ。

 

「貴様っ!!!!」

 

「――――ローレライには、重大な欠陥がある。

その強力な効果を発揮させるには、薬剤などの”処置”で、被験者の感応波(かんのうは)を無理矢理に増大させる事が不可欠だ。

だが、それによって、ほぼ間違いなく深刻な障害を残してしまう為、継続的な使用は不可能。

何より、そういった人道的見地(じんどうてきけんち)から、”厄災(やくさい)”が起きるとっくの(まえ)に破棄された、”負の遺産”だそうじゃないか」

 

作戦前、アインから聞いたローレライの”正体”を語られ、トレイズは更に目を剥き、言葉を失うほどの激怒を浮かべる。

 

ところが、ややあってトレイズは、今度は低く笑い出し始める。

 

何が可笑しいというのか、やがてそれは大きな哄笑(こうしょう)へとエスカレートしていく。

 

「まさか、それが大義名分(たいぎめいぶん)のつもりか、暴力しか能のない(おろ)者共(ものども)めが。

他ならぬ貴様らAGE(エイジ)こそが、最たる()()()()だろうにっ!!」

 

「なんだと・・・・っ!?」

 

「AGE・・・・アラガミと同じく、死の灰の中を()いずる(あさ)ましさよ!!

蛇蝎(だかつ)の如く()み嫌われる、その不浄(ふじょう)の力を得る為には、無数の犠牲があっただろう!?

人は、灰域に怯え(まど)い、まんまと禁忌(きんき)に手を染めた!!

そして幾度も、それに()まれたっ!!

貴様ら()()()()()()らい合いに、どれ程の生命が(うしな)われたか、知らぬでもないだろうっ!?」

 

狂気そのものの興奮のまま、トレイズはジェット達を、”AGE(エイジ)”を糾弾(きゅうだん)し始めていた。

 

まるで、これが正道(せいどう)と信じて疑わない様相で、極めて偏向的(へんこうてき)で、残酷な言い分を投げつける。

 

「・・・・ふざけんなよっ、テメェっ!!??

お前は、研究者(おまえら)だけは、()()を言うんじゃねぇよ!!!!

無理矢理に子供達(おれたち)を捕まえて、勝手に押し付けて回ったのは、お前らじゃねぇかよっ!!!!」

 

仲間を、家族を、理不尽に甚振(いたぶ)られ、奪われてきた過去に()けて、ジークが渾身(こんしん)の怒りで吼えていた。

 

「だが、私はっ!!

”私のローレライ”は違う!!!!

機械は裏切らぬ!!

技術は喪われぬ!!

ローレライは、野蛮(やばん)生殺与奪(せいさつよだつ)など、超越(ちょうえつ)してみせるのだよ!!

一握(ひとにぎ)りの崇高(すうこう)なる意思を昇華(しょうか)し、最短確実に、不要(ふよう)なモノを取り除いた未来を導くのだ!!」

 

それでも、今のトレイズには、どんな激しい言葉も届くはずはなかった。

 

この男の狂った眼差しに(うつ)るのは、所詮はただの自己陶酔(じことうすい)だけだったからだ。

 

とっくに現実を見失った者へ道理(どうり)()いたところで、理解どころか()こえた様子すらありはしなかった。

 

「ならば、貴様らはどうだ!?

己の分際(ぶんざい)()き違え、身勝手にも”新たな時代”を、(さまた)げているのだぞ!!

所詮、AGE(きさまら)などは”厄災”に、喰灰(しょくかい)(つら)なる、破滅の証左(しょうさ)!!

古き連鎖(れんさ)(けもの)の行いから抜け出せぬ人間の、(あやま)ちの歴史っ――――」

 

「何も見えてねぇんだよ、てめぇは」

 

その刹那。

 

急速にジェットが動き、薙刃形態を振りかぶっていた。

 

<ズガァンッ・・・・ッ!!>

 

渾身の力で叩き込んだ神機(じんき)が、けたたましい金属音を発する。

 

自分本位に騒ぎ立てるトレイズも、その()()に凶器を突き立てられては、黙らざるを得ない。

 

身勝手さに(ふけ)り、対話も望めぬならば、分かりやすい暴力で知らしめる。

 

(ふる)かろうが、それもまた明白な道理(どうり)だった。

 

(そと)()()()か、知らねぇのか。

ああ、確かにこのクソッタレな世界じゃ、どいつもこいつもロクな死に方すらしないだろうさ。

だったら今、テメェがそうならず呑気(のんき)に能書き垂れてられるのは何故(なぜ)だ?

そうして、屁理屈(へりくつ)をこねて地獄へ追いやったAGE(やつら)が、戦い続けてるからだ。

灰塗(はいまみ)れの真っ暗な場所でも、”大事なもの”を守り続けようと、歯を食いしばってるからだろうが」

 

追い詰められた狂人の言い草に、付き合うつもりなど無かった。

 

そうであっても、黙っていられるはずがなかった。

 

今、この男が吐き捨てた()()()()()()にも、確かに()った、願いと想い。

 

1人の”ヒト”としての未来(みらい)へ∣唾《つば》を吐きかける事など断じて許せはしなかった。

 

「俺から言わせりゃ、アラガミも、テメェら根性曲(こんじょうま)がり共も、大して変わりはねぇ。

()せて、追い詰められて、自分より弱い奴は()(もの)としか見てない糞共(クソども)だ。

その根性が、()扶持(ぶち)(かせ)がす手段が変わったくらいで、変わるか?

自惚(うぬぼ)れんな」

 

「ジェット・・・・っ!?」

 

ジェットの怒れる背中を案じる、クレア。

 

それを分かっていながら、容赦なくトレイズの(むな)ぐらを(つか)み上げる。

 

今まで、ジェットはどんな怒り、どんな理不尽に遭っても、人間相手に危害を与えることは無かった。

 

無意識にあった矜持(きょうじ)のようなものを、衝動(しょうどう)のままに乗り越え、叩きつける。

 

後ろで(えら)ぶるだけの腰抜け共が、よくも言えたものだ。

 

あまりにも幼稚で、身勝手だった。

 

あまりに残酷で、無責任に過ぎた。

 

ならば、こいつらも”痛み”を知れば、変わるだろうか?

 

AGEとして、ジェットが生き抜いてきた過酷(かこく)さ。

 

その中で(うしな)われてしまった者と、それでも決して(うしな)われず(つな)がっていくものを。

 

()からない。

 

また、見届けてやる義理も無い。

 

ジェットの()すべきは、守ると信じる者達の為、戦うことだ。

 

(かぎ)りある力も、()()り続ける時間(じかん)も、その為に()すると決めている。

 

だから、くどくどと説教を垂れてやるつもりはない。

 

ただ、この焼け爛れた世界で、それでも人が向き合わなければならない両刃(もろは)(ことわり)を、()()くれてやるまで。

 

「――――結局は、(だれ)かがやらなきゃならねぇ。

生きる為には、奪い取る。

助ける為には、”()”が流れるんだ。

AGE(おれたち)に押し付けた、その(きたね)()さを他人事みたいに(そし)る前に、まずはテメェで”血”を流してみな!!!!」

 

思い切り、頭突(ずつ)きをぶちかますジェット。

 

ぎへぃあ、のような、奇妙な悲鳴と共にトレイズは機械を背にして倒れ込み、悶絶した。

 

のたうち回り、大量の鼻血が(よご)れた白衣(はくい)を更に()める。

 

それでも、今までジェットが見てきた”痛み”の万分(まんぶん)(いち)にもならないが。

 

「・・・・適当に、見張っとけば良い。

こいつを此処で殺そうが、転がしとこうが、大して差なんてないだろうさ」

 

そう言ってジェットは、突き立てた神機を引き抜き、ユリハの方を振り返った。

 

所詮は外野(がいや)の自分達よりは、彼女が決めるべき判断ではある。

 

「・・・・彼を、拘束しましょう。

この人は、自分の仕業(しわざ)も、それに巻き込んだものも、何もかもを知らないわ。

だから、時間を掛けて、知らなければならない。

・・・・もう、何もかも遅すぎるのだとしても・・・・」

 

「ユリハ、さん・・・・っ」

 

諦観(ていかん)()()ぜにして呟き、気遣(きづか)うクレアの眼差しへ、銃を下げて応えるユリハ。

 

されど直ぐにその意識は、装置に繋がれたシャロンの方へと向けられた。

 

「シャロン・・・・っ!!」

 

ローレライの中枢装置(ちゅうすうそうち)から、小さな体を抱き上げるユリハ。

 

二度と目覚めぬ眠りにあるようなシャロンへ、必死に呼び掛け続けた。

 

その一方、ジェットはふと、巨大なローレライを見上げていた。

 

「ジェット」

 

その背中に話しかけてくるユウゴに、ジェットは(おもむ)ろに問う。

 

「ローレライの効果には随分と差がある、って気にしてたよな?」

 

「・・・・ああ。

だが、アインさんから聞いた、ローレライの原理(げんり)と”欠陥(けっかん)”とを聞いた今、ある程度の仮説は立てられる」

 

振り返って、ローレライの根幹(こんかん)とは、被験体の感応波で、アラガミの恐怖感や嫌悪感を()()させる装置らしい。

 

つまりそれは、装置の(かく)であるシャロンの恐怖感・嫌悪感が効果へ反映される、とも言えた。

 

()()()()であるフィムや、女性陣は(ほとん)ど無傷。

まだ年少(ねんしょう)なキースは症状が軽かったが、俺達やリカルド、アインさんは、死んでもおかしくなかった」

 

「そして、出会ったシャロンは、主にお前(ユウゴ)(ジェット)を敵視していた。

トレイズと同じ、”大きな男”を。

・・・・答えは、案外に単純だったな」

 

追い詰められて、自分というものを失いかけて。

 

それでもシャロンは、敵か味方か、守るべき相手なのかを(わす)れきってはいなかったのだろう。

 

「――――上等(じょうとう)だ。

だったら尚更、この大一番(おおいちばん)にいつまで寝てやがる」

 

ジェットはそう呟き、ユリハに抱き上げられているシャロンの元へ歩み寄った。

 

すると、ぐったりとしていたその身体が、唐突に震える。

 

まるで迫ってくる脅威に抵抗しようとするように、赤く光る双眸(そうぼう)を見開き、弱々しくも両手の爪を振り回そうとし(はじ)める。

 

<キィ・・・・ッゥウ・・・・ギ、グッ・・・・キ・・・・ィ!!>

 

「シャロンっ!?

ダメ、違うわっ・・・・この人は・・・・!!」

 

ジェットは神機を地面に突き立て、暴れるシャロンの両手を(おさ)えた。

 

そして、悪夢の中で身悶(みもだ)えているような彼女へ、強い感応波(おもい)を向ける。

 

「寝ぼけてるんじゃねぇ。

目の前を見ろ。

お前の敵はなんだ?

お前が戦うのはなんだ?

・・・・いつまでもやられっぱなしで、大事な人を泣かせてんな」

 

途端に、シャロンは目の前にいるジェットを初めて目にしたかのようにして、もがくのを止めていた

 

その大きな両眼と、初めて真っ直ぐに視線を(まじ)えたのを見届け、ジェットは徐ろに立ち上がる。

 

「こちらハウンド1。

グラジオラスの中央施設を占拠し、ニウロフ・トレイズは拘束した」

 

<了解!!

直ちに、グラジオラス・メインフレームの掌握にかかります!!>

 

「ぐ、くっ・・・・おのれ、この状況の(ほど)をも(はか)れぬ、愚物どもが・・・・っ。

・・・・よくも、知った風な、(くち)を・・・・!!」

 

「そいつはお互い様、ってな。

それに、戦いもせず見てるだけ、はテメェのお望みのご身分(みぶん)だろうよ。

だったら精々(せいぜい)、黙って見てな。

AGE(おれたち)の、行く未来(さき)をな」

 

振り返ることなく、冷厳に言い捨てるジェット。

 

そしてその時、通信機からイルダの声が全員へ届けられる。

 

<よくやってくれたわね、皆。

・・・・これでもう、後戻りは出来ない。

けれど、誰かに犠牲を()いるのでなく、全員で助け合い、勝利を得る。

私達には、それが出来るはずだわ>

 

 

 

思えば、クリサンセマムの統領(オーナー)として考えれば、リスクは小さければ小さいほどに良いだろう。

 

だが、この過酷な作戦を大きく()したのは、誰あろうイルダだった。

 

彼女は、後ろに控えるしかない非戦闘員ではあるが、しかし確かに知っている。

 

誰かを守り、救いたいのなら、突き当たった困難と戦い、前に進み続けるしかないことを。

 

 

 

<――――改めて、全員に()げます。

我々の課題は、3つ。

自分達と、グラジオラスの人々を守り抜くこと。

ローレライという兵器と、それに()る犠牲を否定すること。

そして、外を包囲するアラガミの大軍を相手に、一人も欠けることなく、生き延びてみせること。

・・・・いよいよ、最後の一手(いって)よ。

”ハウンドスレッド作戦”・・・・我々の総力を結集し、この窮地からの一点突破を(こころ)みるわ>

 

 

 

<<「「 了解っ !!!! 」」>>

 

 

 

クリサンセマムの全員の返事は、まるで結束と開戦の号砲のように、力強く上げられた。

 

 

 

>> To be Continued....

 

 

 

 




・Tips.9

「ニウロフ・トレイズ」

未承認のミナト・グラジオラスの統領(オーナー)の地位にある科学者。
尋常(じんじょう)ならざる人相(にんそう)の通り、その性格や情緒面(じょうちょめん)破綻(はたん)しきっており、自らの研究である”ローレライシステム”へ、信仰に近い執着を抱いている。
その完成の為ならば手段を選ぶこともなく、自身を人間の生理機能(せいりきのう)から解放する為、身体の一部を機械に置き換えてしまうほど。
優れた才覚の反面、人間として欠落している倫理観などは、(まさ)に天才的と呼べる人物ではある。
元は"フェンリル"の本部に所属し、若くしてローレライ計画をほぼ独力で立ち上げたものの、かつての”厄災”の(おり)、全てを失う。
その後は()(くだ)り、紆余曲折(うよきょくせつ)の果てにグラジオラスに辿り着き、これを私物化。
大勢のAGE達や、偶然に捕まえたシャロンを実験体に、ローレライの完成をもって”グレイプニル”への栄転(えいてん)を目論んでいたようだ。
その為の根回(ねまわ)しの産物か、グレイプニル本部・”アローヘッド”とのやり取りの痕跡が残っており、彼の研究に便宜(べんぎ)(はか)った”協力者”の正体も含め、詳細な調査が待たれている。
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