タイトル通りの話です。
習作ですが感想いただけると嬉しいです。

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初投稿です(ガチ)


本編

 4月某日

 

 

「君! 古代語研究部に入ってくれないかな!!」

 

 人々の出会いは一期一会と言うが、この時の出会いを偶然と表するか、はたまた運命と表するか

 それを決めるのはまだ暫く先の話になるのだろう。

 

「…………………………?」

 

 帰宅路を通行中、突然目の前に現れて何やら手作り感のあるチラシを差し出しながら話しかけられた黒髪の青年は胡乱な目で目の前の少女を見つめている。

 

「……あれ? 聞こえなかったのかな? ━━━━あっ! そうだった! ゆっくり話さないと聴き取り辛かったよね! 

 えっと、わたしの 部活に 入って 欲しいの OK?」

 

 長い金髪をポニーテールで纏め、見た目は幼なげに見える童顔の少女は反応のない青年に対して再度問いかける。

 

「えト……⦅3-″C@&⦆━━なぜ、自分が、でス?」

 

「あっ! 今の古代語だよね!? 黒髪黒眼の守人の一族がこの学園には1人居るって噂を去年聞いてからず〜〜〜〜〜っと探してたんだよ!! 

 正直もう噂は噂でしか無いと諦めていい加減新入部員を集めないと古代語研究部も廃部の危機だったんだけど、今朝たまたま通学中に噂の守人を見かけたって聞いて改めて探したら、まさか本当に逢えるなんて!! 運命ってあるもんだねー!」

 

「…………⦅3O%″ UHb$⦆」

 

「そうだ、自己紹介がまだだったね! 私はイリシア! イリシア・アルヴィオーレ! 友達はイリスって呼ぶよ! 守人君はなんて名前なのかな!?」

 

「名前……? 自分……クロウだ、でス、本当、ちがう、けど、言えナい、ニクイ、から、クロウで良いでス」

 

「んー? ━━━━! なるほど、クロウ君の名前は本当はクロウ君じゃ無いけど、私たちだと聴き取りや発音が難しいからクロウ君で良いって事だね! 了解だよ! よろしくクロウ君」

 

 そう言ってイリシアと名乗る少女は黒髪の青年━━クロウへと右手を差し出し、それを見たクロウは戸惑いながらも同様に手を差し出し握手を行いながら返事をする。

 

「……はい、よロしく、でス……黄色イ人」

 

「黄色い人!!? イリシアだよ! い り あ す! 私は良いけど初対面の人の髪や眼の事を言及するのあまりマナーがよく無いよクロウ君!」

 

「現代語、人ノ名前、自分、言えナい、ニクイ、それニ、自分は顔、名前、覚える、ない」

 

「む〜〜〜人の名前を覚えないって、それは失礼だよクロウ君……でも分かったよ、そう言うタイプの人もいるだろうし、私の事は部長って呼んでくれれば良いよ!」

 

「部長? ……自分、部活、入る、言ウ、ない」

 

「ええー! そんな事言わずに入部してよー! 今古代語研究部って部員私しか居なくて本当に危機的状況なの! お願い! 私を助けると思って入部してくれないかなぁ」

 

 そう言ってイリシアは両手を前に合わせて頭を下げて懇願する、そうして頭を下げながらも時折チラチラと視線を向ける様は非常にあざとい。

 

「あっ、もしかして既に何処かの部活に所属しちゃってる? 

 それだったら校則違反になっちゃうから無理強いは出来ないよね……」

 

「いイえ、何処カ所属、ない、デも、今年、所属スる、言われル、マす」

 

「えっ! と言う事はもしかして!?」

 

 澄んだ青色の眼にキラキラと星を浮かべながら期待を込めた視線を向けるイリシアに少し困った表情でクロウが答える。

 

「自分、話ス、得意、違う、それで、良イなら、部活入る、良イだ、でス」

 

 その言葉を聞いたイリシアはこれまで以上の笑顔を浮かべクロウの手を両手で握りしめる。

 

「全然大丈夫だよ!! ありがとうクロウ君! これで古代語研究部も安泰だよ!! そうだっ! もし良かったらなんだけど、クロウ君が大陸語をもっと話せるように私が協力するよ! どうかな!?」

 

「……? とにカく、こレかラ、よろしク、部長」

 

「━━━━━━うんっ! よろしくね♪ クロウ君!」

 

 

 

 突然だが、彼ら彼女らが住まうこの場所は【統一大陸総合魔法学院】と呼ばれる名の示す通り大陸中から魔法の才能を持つ学生が無数に住まう学園都市である。

 

 居住区と学科区を纏めた総面積はおよそ1,100㎢*1

 総人口約11万人だが、学院に所属する学生の数はその1割にも満たない。つまりこの土地に住まう大半は魔法に携わらない一般市民と言うことになり、魔法学院とは言うがその実、大陸有数の大都市でもあるのだ。

 

 その様な大都市の中でも一際巨大な施設である学院内総合資料館━━通称【大図書館】と名付けられた書庫である。この図書館には大陸中からありとあらゆる書物が蒐集されており、学生や教授が日夜研究に勤しむ場なのだ。

 

 そんな施設内の読書スペースの一角で一組の男女が向かい合い、女性は何やら非常に悩ましげな表情を浮かべ、何枚かの紙を片手に持ちながら眼前の男性を見つめていた。

 

「えっと……クロウ君、今回ここに来たのは来月に控えた中間テストに備えて、それと親睦を深めるのを兼ねた勉強会って事なんだけど……今日のこの小テストの結果って何かの間違いだったりするのかな?」

 

 そう言って金髪の女性━━イリシアは2点〜10点の間で採点された5枚のテスト用紙を黒髪の青年━━クロウへと差し出した。なお、彼の名誉の為……になるかは不明だが、今回行われた小テストは100点満点では無く20点満点方式であった事は提示しておく。

 

「ナニも、間違イ、ないデス、普遍的? に、試験、したデス」

 

「あぁ、そこは′普遍的′じゃ無くて′普通′って言い方が正しいよ! 

 ━━━━じゃ無くて!? この対して難しく無い確認テストで半分も点数取れないって、このままじゃ本試験赤点で退学になりかねないよ!!?」

 

「ハハハ、大変、デスね、部長」

 

 この学院赤点3つで即退学なんだよーと続けるイリシアに対しクロウは他人事の様に言いながら手元の子供向けの童話本を眺めている。

 

「《CX7M 4%M , PV%P 7″Z&35 $&3 ? %1D7+03PO %″7″ ……》」

 

「なんて??? いやわかんないけど、絶対ロクでも無い事言ってるでしょ!」

 

「ハハハ、そんナこト、ハハハ」

 

「むむぅ〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 無表情であからさまに心の篭らない笑い声を上げる同級生をポカポカと力なく叩く女子の姿があった。

 

「実の、とこロ、僕は、去年ハ、ズッと言語、と、普通的ナ、文化、を学ばさレ、ます。……普通的? 違う、基本的、でしタ」

 

「ほえっ!? じゃあクロウ君ってそもそも1年間ロクに勉強やテストを受けてこなかったって……こと!? 逆にどうして進級出来てるのかわからないじゃん!?」

 

「さァ? 詳しイ、コトハ、分かる、無イです、僕、爺様ト、2人、過ごし、ましタが、突然、ココ、連レらレます」

 

「さらに驚きの情報だよ!? クロウ君ってもしかして学院側から拐われた立場だったりするの!??」

 

「拐われル? ……それハ、違イます。

 爺様は、僕ニ、新しイ世界を、見る事、言イます……ました」

 

 話を聞き慌てた様子のイリシアにクロウはハッキリと告げる。

 

「もちロん、全てニ、納得、してなイです、でも、たっタ1人の、家族、爺様が、そう言ウなら、3年くらイ、知らなイ、世界を、学ぶます」

 

 普段気怠げな印象が強いクロウだが、その言葉と瞳には確かな覚悟が感じられた。

 

「━━━━そっか、クロウ君に取って、そのお爺さんは大切な家族で、お爺さんの言葉でこの学院に学んでいるんだね……」

 

 クロウの言葉から、彼の抱える背景を想像するイリシアだったがら「だけど」と話し始める。

 

「それはそれとして、学ぶからにはこの点数のままじゃ良くないよね! 大陸語の習得も大変だろうけど、こっちの勉強も頑張ろう!」

 

 机に置かれたクロウのテスト用紙(低得点)を持ち上げながら続ける。

 

「もちろん、私も私に出来る限りの協力はするからさ!」

 

 ニカーっと擬音が付きそうな輝く笑顔で机越しにずいっと顔を寄せるイリシアに対し、クロウは若干身を逸らして距離を取りながら答える。

 

「まぁ、部長の協力デ、大陸語の、しゅとくの早さハ、上がルました、ので、次の試験ハ、少しマシニ、なるト、思イます」

 

 しゅとくじゃ無くて習得だねー、ハイ分かります習得、習得……等と言葉の修正が行われつつ、話は一旦落ち着き2人は暫く図書館で勉強を続けるのであった……まぁクロウ側は傍目から見て大男が真剣な表情で可愛らしい絵の童話を読んでいるの為、非常にシュールな光景ではあるが、本人は至って真面目な為ツッコミを入れる野暮な者はこの場には居なかった。

 

 

 

 

5月某日

 

 

 

 ある日の放課後、いつも通り図書館へと足を運ぶイリシアはクラスメイトの女子に呼び止められていた。

 

「ねぇイリス……2年になってから貴女、例の【漆黒】と毎日一緒に居るらしいけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫って? と言うか【漆黒】って何? もしかしてクロウ君ってばそんな渾名付けられてたの!?」

 

「いや、だって黒だよ黒……眼か髪のどちらかが黒なら一般人に偶に見かけるけど、両方とも黒の人間なんて御伽話でしか聞いた事無いわよ……まして、此処は【統一大陸総合魔法学院】━━魔法適正のある人間しか学生として所属出来ない場所なのに……」

 

「んー……フィオナちゃんの言う事も分かるけど、クロウ君はちゃんと魔力はあるし、【七色魔法】はまだ習得してないらしいけど【古代魔法】を使いこなせてるから、魔法適正は全く問題ないって! 

 ━━まぁそれはそれとして、勉強方面がかなり壊滅的だったみたいだけど……」

 

「そうなの……? でもやっぱりイリスが心配だわ、漆黒……彼と同じクラスの知り合いから聞いたんだけど

 彼、クラスではほとんど人と関わらなくて、何を考えてるのかわからないって皆んな不安になってるみたい……」

 

「もぉ〜、そんな不安にならなくて大丈夫だってば! クロウ君は話してみると意外と親切だし、見た目ほど怖い人間じゃ無いよ!」

 

 そこまで話したイリシアは近くの時計を見て「あっ」と普段の集合時間が近づいている事に気が付く。

 

「ごめんフィオナちゃん! そろそろ行かないとクロウ君を待たしちゃうから私もう行くね! 心配してくれてありがとう! それじゃあまた明日ー!」

 

「あ! ちょっとイリス──!!?」

 

 呼び止める学友に手を振りながらイリシアは走り去って行った。

 

 

 

 

 

「━━━━━━と言う事で、今日はクロウ君のイメージアップの方法について話し合おうと思います!」

 

「━━━━どう言う事デ?」

 

 図書館に現着したイリシアが開口一番に言い出した事に、何の脈絡も無く困惑するクロウに対して彼女は続ける。

 

「今日私のクラスの友達から、毎日クロウ君と放課後過ごす事について心配をされちゃってね、私自身は他の皆にどう思われても全然気にして無いんだけど……クロウ君が変な誤解を受けるのは嫌だな〜って思うわけなの!」

 

「はぁ……? つまリ?」

 

「ズバリ! クロウ君が普段学院内でどう過ごしているかをリサーチします!」

 

「⦅+%6O3U$PP%″4%3,UHB$⦆」

 

「何を言ったの!!? 今何を言ったのかなクロウ君!! 怒らないから教えてくれるかな!?」

 

 真顔で呆れた様な声色で発せられたクロウの言葉に、フシャーと噛み付くイリシアだが。

 

「あー、優しイ部長ニ感謝、と言いましタ」

 

「━━━━なーんだ、うんうん、クロウ君はよく分かってくれてるねぇ!」

 

 あっさりと機嫌を直しニコニコと笑い出す……彼女はチョロく、そして純真(単純)だった。

 

「⦅Y? DG⦆……えっト、何から話スします?」

 

「そーだねぇ……そもそもクロウ君って古代語研究部(ここ)での活動以外で放課後何してるの? 友達とかと過ごしたりしてないの?」

 

「トモダチ……? 同年代の知り合イが、部長、以外、居なイ、でスね」

 

 去年ハそもそモ、クラスに所属してませンし━━━━と特に何も思う所がない様に平然と話すクロウにイリシアは絶句して片手で目頭を抑えた。

 

「━━━━待って、クロウ君……悲しい、それは悲しいよクロウ君!」

 

 クロウの発言が何か彼女の琴線に触れたのか、今度は両手を握りしめて声を張り上げて話し出す。

 

「私達は確かに魔法と言う偉大な学問を学ぶために、この学院の扉を叩いた身ではあるけれど! 

 ━━それはそれとして! 青春って言う大切な時期をそんな灰色で済ませては行けないんだよ!!」

 

「部長、声、大きイでス、ひとまズ、落ち着キ、ましょウ」

 

 ヒートアップするイリシアだが、詰められているクロウ側は落ち着いた様子でまぁまぁとなだめようとしている。

 ━━━━が時既に遅く、先程からマークされていたのか、音もなくイリシアの背後に近づいていた司書から雷が落ちるのは数秒後の事だった。

 

 

 

「━━うぅ〜、図書館内で騒いでいた私が悪いのは確かだけど、あんなに怒る事ないじゃん……」

 

「次、騒いだラ、出禁、言わレ、ましたネ」

 

 数冊の本を抱えながら歩くクロウとその後ろに続くイリシアだが、彼女の制服には若干の焦げ跡と普段は真っ直ぐに纏められている金髪のキューティクルは静電気を帯びた様に所々跳ね上がっていた。

 

「いや、やっぱり可笑しいでしょ……騒ぐのが駄目なのはわかるけど、だからって図書館内で雷落とす方が駄目でしょ……私が【雷魔法】適正が高い黄髪だからこの程度で済んでるけど、そうじゃ無かったらどうするつもりなのさ……」

 

「大陸ノ、人は、その辺リが、分かリやすイ、でスから、仮ニ部長が、赤髪だったラ、軽めノ【炎魔法】で、折檻されタ、カモですネ」

 

「むぅ〜、納得行かないなぁ……」

 

 あの司書さんめぇ〜とボヤきながらしゅっしゅっと虚空に拳を振るうイリシアをクロウは軽く笑いながら後ろ目で観察していた。

 

 

 一通り愚痴を済ませたイリシアは人気の無い公園で屋根付きの休憩スペースでクロウに運ばせていた本を広げていた。

 

「━━さて、話を戻すんだけど」

 

「話、続くンでスね……」

 

「戻すんだけど!!」

 

 バンと机に手を置きながらイリシアは言う。

 

「クロウ君に友達が居ないのは、そもそも皆んなクロウ君の事を良く知らないからだと思うの

 クロウ君自身も、余り人と関わろうとしないのも問題だけれど、ここからイメージアップをして行くには相当なインパクトが必要になるの……」

 

 そう言うと、イリシアは広げた本をクロウに見せつけながら、そこで! と続ける。

 

「クロウ君の得意分野! 古代魔法を使って、クロウ君が凄い人だって事を皆んなに伝えて行こうって計画だよ! その為に希少な古代魔法の本を借りて来たんだから!」

 

「はぁ、なるほド……希少な本ノ割に、持ち出シ、大丈夫、なんでスね?」

 

「本自体は希少だけど、古代魔法を研究しようって人がマイノリティだからねぇ〜、物が希少でも価値は低いんだよねぇ……」

 

 古代語研究自体がドマイナーだから私も部員集めが難航してる訳だし……と、遠い目をして話すイリシアに

 

「まぁまァ、僕ハ、嬉しイでスよ、部長ガ古代語を、知ル、してくレるのが

 ━━だかラ、部長も他者ヲ気にせズ、頑張る、しましょう」

 

「━━━━うん! そうだね! マイナーな学問だって言われても、私は古代語が好きだからね! 

 ありがとうクロウ君! 《*P41P+#》だよ!」

 

「━━━━!!?!? 急ニ、何を言ウだ、でス!??」

 

「あっ、照れてるなクロウ君! ふふーん、古代語研究をしていたおばあちゃんから教えて貰った言葉だよ! 『これからも仲良くしようね』って意味でしょ! そんなに顔真っ赤にして、クロウ君ってば初だねぇ〜」

 

「━━━━━━━━(スン)」

 

 クロウは無表情に、イリシアが笑顔になった所で、彼女考案の【クロウイメージアップ計画】の概要説明が始まった。

 

 

 

「じゃあこれ! この魔法はどうかな!? 『炎』と『花』って文字があるみたいだけど、花火の魔法だったりするかな?」

 

「…………いエ、『獄炎』『紅蓮花』でス、使うト、周辺一帯ヲ焼き尽くス、大きイ範囲ノ、魔法でス」

 

「めちゃくちゃ物騒!!? えっとじゃあ……こっちはどう? 『雪』とか『結晶』とかの単語があるけど、綺麗な感じの魔法なのかな?」

 

「…………あー、これハ、大陸語だト……ちょっト直訳は難しイ、使うト、色ンなモノ、凍らせテ、砕キます、人モ、こなごナでス」

 

「凍結魔法! 古代魔法特有の属性魔法だね! でもこっちも物騒!!? 

 うーん……本として残ってる古代魔法って広域殲滅系しか書かれて無いのかな……?」

 

 これじゃあクロウ君のイメージアップにならないよ〜と嘆くイリシアは自身が考案した『凄い古代魔法を皆んなに見せてクロウ君を凄いと思わせよう作戦』が企画倒れになりかねない事に危機感を感じていた。

 

 ━━━━実際、凄い魔法はある……あるが、大半が古代の戦争に使われたであろう強力な攻撃魔法に偏っており、これらを学友の前で使った所で逆にクロウの孤立が深まる事が目に見えている。

 

「もっとこう━━綺麗で、素敵な魔法は無いものかなぁ……花畑を使ったり、流れ星が流れるみたいな感じの魔法は……」

 

 半端諦めが入った瞳で、借りて来た古代魔法書をパラパラと捲るイリシアのボヤきを聴きながら別の魔法書を読み込んでいたクロウは何かに気づいたのか、声を上げる。

 

「あ━━『流星』流れル、星ヲ呼ぶ魔法、ありまス」

 

「━━━━本当っ!!? どれどれ! 見せて見せて!!」

 

 すぐさまクロウの示すページを確認するイリシアは拙い翻訳ながらも確かに、『星』と『流れ』、『呼ぶ』と言った単語がある事を読み取った。

 

「【流れ星を呼ぶ魔法】!! すごく良いよ! ロマンティックだし、これならクロウ君のイメージアップにもバッチリだね! 

 ねぇねぇ、どんな魔法か見てみたいから早速試して見ようよ!」

 

「エ……? 今、ココで、でスか?」

 

 一気にテンションを上げるている様子に対してクロウは何やら歯切れが悪い様子だったが、浮かれ気味なイリシアはその事に気付かず。

 

「そうだよ! 確かにまだ夕方だけど、流れ星を見る分には十分な時間帯だし、と言うか寮の門限も近いから今ぐらいの時間しか確かめられないよ! 

 ねっ、お願いクロウ君、試しで一回だけで良いから使ってみてよ!」

 

 両手を合わせて首を傾げながら可愛らしく頼み込むイリシアを見て、これは一度見せないと納得しないなと感じたクロウは溜息を一つ漏らす。

 

「━━━━わかりマした、でスが部長、危なイので、僕ノ後ろニ、居てくださイ」

 

「危ない? ━━あっ! そうだね、観賞用魔法だとしても古代魔法だもんね! 暴発とか失敗のリスクもあるのかな?」

 

「…………一応、確認、でスが、本当に良イんでスね?」

 

「うん、大丈夫だよ、この公園の周囲一帯は生活区じゃ無いし、ここに来る途中に顧問の先生にも魔法使用の許可は取っておいたから! 

 遠慮なくやっちゃって!」

 

 

 ━━━━その10秒後、2人の居た公園の中心地には隕石落下による巨大なクレーターが発生し、その衝撃によって周囲の街路樹や公園内の家具は軒並み薙ぎ倒され、外傷はないが制服が焦げ跡と土に塗れてドロドロに汚れた上で、教師一同から数時間に及ぶ説教により、泣きながら部長として謝罪に追われるイリシアであった。

 

 

【クロウイメージアップ計画】

 大失敗〜次回に期待しましょう〜

 

 

 

6月某日

 

 

 

 悲しきすれ違いによって、罪のない公園が一つ使用禁止になって早10日、幸いにも『古代魔法の実験中の不慮の事故』として処理された事で反省文の提出と言う非常に軽い罰で落ち着いた古代語研究部の2人は、放課後いつも通り【大図書館】に━━ではなく、使われていない空き教室に集まっていた。

 それと言うのも、先日の自然公園にクレーターを発生させた件で【大図書館】のとある司書が、注意されて追い出された腹いせに、こんな大事を起こしたと誤解してしまい、2人は怯えられながらも出禁宣告を受けてしまったのだ。

 途方に暮れていた所、部活の顧問として名前だけ借りていた教師が手を回し、空き教室(実際は物置部屋だが)を部室として用意してくれたと言う経緯があり、創設1年2ヶ月を経て古代語研究部は部室を手に入れたのである。

 切っ掛けはなんであれ、研究スペースを得た事は非常おめでたいことで━━━━

「めでたくない!! いや、実際部室を貰えたのが嬉しくないかって言われたら嘘になるけども! やらかしてしまった結果として得られた事をおめでたいなんて言える神経してないよ私は!!」

 

「ここ数日荒れてますネ、部長」

 

「〜〜〜〜っ!? う────……あの件以降クラスでも遠巻きに見られて居心地すっっっごく悪いんだよぉ…………」

 

「そうですネ、僕も割ト怖いモノを、見る目で見られマス、2年の初めのこロから、気を遣ッテ話しかけよウとしていタ、人も近寄らなクなりましタ」

 

「イメージアップどころじゃ無くなったよね……ごめんねクロウ君、私があの時ちゃんと話を聞いておけば良かったのに……」

 

 そこまで話すと、机に突っ伏してズーンと言う効果音が鳴るほどに落ち込むイリシアに対しクロウは向かい側から慰める様に軽く肩を叩く。

 

「いえいえ、魔法を使っタのは僕です、僕もちゃんト部長に説明すルべきでした」

 

 優しげな声色でフォローを入れるがこの男、実際はクラスで変に話しかけてくる人間が居なくなってラッキーと内心思っている為、彼女が落ち込む必要は全くなかったりする。

 

「うぅ……クロウ君は優しいなぁ…… 《*P41P+#》だよぉ、次こそはクロウ君の友達を増やして見せるからねぇ……」

 

「━━━━ッ……だかラ、部長、その言葉は、女性かラ男にあまリ言うべキじゃない、です」

 

「もぉ〜そんなに照れなくても良いじゃん、身持ちが固いなぁクロウ君は〜」

 

 その時、部屋の扉からノック音が3回響き、2人は会話を止めて部室の入口に注目する。

 

「失礼します、黒髪黒眼の男性はこちらにいらっしゃるでしょうか?」

 

 まだ幼さを感じる女性の声が発せられ、部屋の中の2人は目線を合わせて小声で話し合う。

 

「クロウ君、誰か知り合いの声?」

 

「いいエ、知らなイ声ですね」

 

「うーん……とりあえず待たせるのも何だから、答えるね━━━━はーい! どちら様でしょうかー!」

 

 そう応えながら扉に向かったイリシアがドアを開くと、そこには想像していた通り自分たちより1〜2つ幼そうなショートカットの緑髪でメイド服に身を包んだ小柄な少女と、その後ろに長髪の紫髪で高身長な男性が悠然と立っていた。

 

 

 

「━━━━どうぞ、粗茶ですが」

 

「あっ、これはどうもご丁寧に……ってこのお茶私が部室に持ち込んだ物なんだけど……」

 

 謎の二人組を部室内へ招き入れたところ、学生の筈だが何故かメイド服を着込んでいる少女が部屋の棚からティーセットを(無断で)取り出し、ソファで向かい合って座っている3人の前にティーカップを差し出していた。元々物置代わりに使われていただけあって、無駄に備品が充実している部室であった。

 

「えーっと……2年のイリシア・アルヴィオーレです、古代語研究部の部長を勤めています」

 

「同じク2年、クロウです」

 

 突然の来訪に戸惑いつつも自己紹介を始めたイリシアにクロウも一応と言った形で便乗すると、メイド服少女は恭しくスカートの両端を摘み上げながら一礼を行う。

 

「申し遅れました、ワタクシはレイラ、家名は特に御座いませんのでどうぞレイラとお呼び下さいませ」

 

「…………………………………………」

 

 謎のメイド少女━━レイラと名乗った少女にイリシアはよろしくと一声掛けた後、向かいのソファに足を組みながら座りクロウに対して鋭い視線を送り続けている男を見つめる。

 

「………………あのぉ、失礼ですが貴方は?」

 

 無言を貫く男の発する雰囲気に戸惑いつつ、恐る恐る訊ねるイリシアだが、その刹那、メイド少女がカッと目を見開き2人に詰め寄る。

 

「このお方をご存知ないと!? 【統一大陸総合魔法学院】設立以来歴代でも3本の指に入ると言われる超天才!! 

【ヴォルテイン公爵家の麒麟児】

至高の紫(ヴァイオレット)

【重力の貴公子】

 ━━━━ カイラス・ヴォルテイン様で御座いますわよ!!」

 

 パチンッ、とそれまで無言だった男は指を大きく鳴らし

 

「━━━━レイラ、騒がしいぞ」

 

 それは決して大きな声では無かった、親が子供を軽く叱る程度のニュアンスでしか無い筈の声だったが、部屋にいた全員に確かな重圧を感じさせる響きがあった。

 

「此方の事をわざわざ言の葉を重ねて伝える必要など無い、その様な称号なんぞを並べた所で此方の本質は何も伝わらないのだからな」

 

「━━━━嗚呼、申し訳ありませんヴォルテイン様、ワタクシは何と愚かだったのでしょう

 貴方様は貴方様であるだけで、尊く、凡夫たるワタクシ達に全てを伝えてくださっていると言うのに━━━━!」

 

「━━━━部長、コノ2人、頭が可笑しイのか?」

 

「シィー! きっとこの2人だけで伝わる世界があるんだよ!」

 

 初対面で碌に話してもいないが、既に面倒な人種だと感じているクロウは心底面倒だと表情に浮かべながらも話しかける。

 

「それデ、2人ハ僕に何か用事ガあります?」

 

「ふむ……彼方が例の【守人】とやらか……一見凡庸で、魔力量もそこまでと言った所だが……だからこそ興味深いな」

 

 こちらの問い掛けが聞こえて居ないのか、一人で何やら納得した様子でフフフと含み笑いを行う男に若干の苛立ちを覚えるが、一先ず相手の出方を待つ事にしたクロウだった。

 

「単刀直入に申す、守人よ此方と決闘せよ」

 

「なるほド、僕とけっとう………………決闘? ……………………何故?」

 

「何も難しく考える必要などありませんわ、ヴォルテイン様が決闘するとおっしゃったなら決闘を行うのがこの世界の理でございましょう?」

 

「ございませんけどっ!!? ヴォルテイン公爵って去年の夏に【魔法決闘大会】でぶっちぎりで優勝してた人じゃん!? 

 ……いやでも、公爵家って帝国の方で皇帝の次に偉い貴族様だよね……? 不味いよクロウ君!? 実際拒否権をどうとか言ってられない人だよコレ!?」

 

 

 

 

 場所は変わって、中庭に移動した一同。

 中庭と言えど、この学院は大陸一の規模故に、広さはちょっとした球技を行う事も可能な程広い。しかし、予め人払いは済まされて居たのかこの周囲には4人以外の人影は見当たらなかった。

 

「━━━━先日の彼方らが起こしたと言う⦅事故⦆の現場を偶然見かけたのだが……アレは此方の扱う⦅重力魔法⦆による最上級魔法【星墜とし】と同様の現象である事が一目で分かった、此方以外でそこまでの使い手が居るのかと驚嘆したものだが、調べさせて見れば件の者々は黄髪と黒髪、適正外の人間が使える魔法では無い……実に興味深いぞ」

 

「つまり、この前クロウ君が発動した古代魔法を確かめたいって事ですか……なら態々決闘なんてしなくても良くないですか?」

 

 中庭の中心で10m程の距離を取って向かい合うクロウと紫髪眼の男━━カイラス、改めて決闘の理由を話すカイラスに対してイリシアは不満を口にするが、彼はやれやれと言った具合に首を横に振る。

 

「十分な設備と準備、多大な詠唱によって使用される、実戦で何も役に立たぬ魔法等に此方は何も心惹かれぬ

 ━━━━魔法の歴史は戦争と共に有る、彼方もそう思うだろう? 守人よ」

 

「まぁ、そうなンじゃ、ないですかネ、僕はズット森奥で暮らスしたので、魔物以外ニ魔法を使ウ機会は無かっタですが、古代魔法ハ戦争想定な物ガ多いです」

 

「あーもう! ルールの確認ですけど

 ①重体な怪我を負わせたら駄目

 ②お互い初期位置からは動かない

 ③魔力切れ、若しくは降参した方が負け

 

 基本はこれでいいんですね!?」

 

「そして、決してあり得ない事ですが、万が一、億が一、一桁飛ばして京が一、ヴォルテイン様が敗北される様な事があれば、ヴォルテイン様とワタクシがあなた方の【古代語研究部】に入部する

 そうなれば部員数が4人になり、学院から支給される部費や設備も改善されますわね

 ━━━━さらに言えばヴォルテイン様が所属するとなれば、学院側から様々な優遇を受けられる事でしょう……不可能と言う点に目を瞑ればですがね!」

 

「無論、此方が勝利したからと言って何も望む事はしないと確約しよう、此度は此方らが急に押し掛けた側で有るからな、後で謝礼の用意をせよレイラ」

 

「かしこまりましたヴォルテイン様」

 

 圧倒的なまでの自信と敗北の可能性など微塵も考えて居ない様子の2人を睨むイリシアだが、何も反論は出来ない、気負った様子も無いカイラスが無意識に発している魔力量は、それだけで物理的な圧を感じる程強大であり、イリシアが小猫だとするとカイラスは巨大な象と言えるほど生物としての格が違う事を肌で感じているのだ……

 

「とは言え、瞬きの間に終わってしまっては観察しがいも無い故

 ……此度の決闘、此方は3小節詠唱までしか使わぬと約束しよう、中級魔法ならば多少は対応出来るであろう?」

 

「えっ……別ニなんでも良いですケど、後で文句言わなイで下さいヨ」

 

 余裕の笑みを崩さないカイラスに困惑しつつも右手を前に突き出し構えるクロウ、お互いの準備が済んだと判断したイリシアは声を上げる。

 

「━━じゃあ、2人とも用意はいいですか? 堂々たる決闘を! 

 3……2……1……始めっ!!」

 

 学院最強の重力魔法使いと、学院唯一の古代魔法使いの闘いが始まる━━━━━━

 

 

 

「参りました─────!!!」

 

 数分後、全身土塗れで五体投地敗北宣言を行う公爵貴族の姿が、そこにはあった。

 

「そ……そんな事が……これは夢ですわ悪魔ですわ……

【ヴォルテイン公爵家の麒麟児】

至高の紫(ヴァイオレット)

【重力の貴公子】

 カイラス・ヴォルテイン様がこんな無様なお姿を晒すなんてそんな━━━━━━キュン♡」

 キュンじゃ無いが? 何やら妙な扉を開きかけているメイドを尻目に、勝者であるクロウがイリシアに声をかける。

 

「…………部長、部員ガ2人増えまシた、やりまシたネ」

 

「え? あ? そうだね? ば、ばんざーい?」

 

 何が何やら分からない様子の彼女にはそう答えるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 この日【古代語研究部】の部員数が4人になった。

 

 

 

 

 

7月X日

 

《イリシアとカイラス 古代魔法ついて》

 

 古代語研究部の部室は、新人部員2人によって様相が大いに変わっていた。

具体的には、椅子や机と言った家具から食器や紅茶・コーヒー豆類までが贅を凝らした品へとグレードアップした。

某メイド女による「公爵家のカイラス様に相応しくありませんわー!!」との主張により、公爵家の資金力による大リフォームである。

なお部長のイリシアによる「弱小の文化部にそんな贅沢は……」と言う意見は封殺されていた。

 

 そんな部室内で大きなソファで寛ぐカイラスに対し、部屋の端の椅子で本を広げているイリシアは困っていた。

 

「(ううぅ……クロウ君もレイラちゃんも今日遅いなぁ……カイラス先輩と二人きりって、間が持たないよぉ!)」

 

 本日、ほぼ同時刻に部室に集まった二人だが、彼女からしてカイラスは本来雲の上の存在であり、関わる事など想像もしない立場であるが、ひょんな事から部活動の役割上とは言え、公爵家嫡男より上の立場になってしまうなど不運な事であろう……

 

「アルヴィオーレ部長殿」

 

「ひゃいっ!!?」

「そう緊張するものでは無い、此方(こなた)は公爵家の人間である前にこの学院の生徒である、その点に関して言えば彼方(かなた)と同じ立場なのだからな」

「あ、あはは、それはそうなんでしょうけど……やっぱり中々慣れないものでして――――」

「ふむ――では部長殿の緊張を解すべく、レイラと守り人殿が来るまで雑談に興じようか」

 

「――――古代魔法についてですか?」

机を挟み向かい合った状態に変わった二人は、カイラスが挙げた話題について話していた。

 

「うむ、先の決闘、此方が無様を晒す羽目になったが、守り人殿の使用する古代魔法の脅威度がどれほどの物か、部長殿はどう思案している?」

「うーん、どう思うかって言われましても、傍から見ていたら、カイラス先輩が次々に魔法を発動して、クロウ君がその都度対処していたとしか……」

「――――あの時此方は宣言通り三小節詠唱――中級魔法までを使用していたが、逆を言えば使用できる範囲全ての重力魔法を使い分けていた」

 

 カイラスが『浮かべ』と発すると机に並べられていたティーカップから紅茶が球体状に浮かび上がった。

 

「手前味噌だが、此方の中級魔法は一般魔法軍人の上級魔法と遜色ない威力が宿る……それに対し、守り人殿は全ての魔法に一種類の魔法で対応していた」

「え?そうなんですか?」

「左様、此方は古代語に明るい訳ではないが、詠唱の音は聞き分けられる、この浮遊魔法と同等の一小節程度の魔法で上級魔法相当を消失させた」

「確かクロウ君は《!AX》って連呼してましたね……えーっと、意味としては【消滅】とか【排除】って感じですね」

「所謂【消滅魔法】か、此方の所感では七色魔法でアレに対応できるのは些少だな、それこそ部長殿の様な【雷魔法】等の瞬きの間もない速度であればあるいは……か」

 部室の窓から学院を見渡しながらカイラスは続ける。

「この大陸で五指内の魔力を内包する此方が断じよう、学院内全生徒の中で決闘形式で守り人殿に勝利する人間は存在しないと」

「そ、そこまでなんですか? クロウ君と言うか、古代魔法って?」

「何より理不尽なのが魔力効率だな、此方の魔力量が十万とするなら守り人殿の総魔力量は多く見積もって五百程度だが、仮にあの決闘を続けたとしても魔力切れで此方が敗北していただろう」

 

 その言葉にイリシアは絶句する、あの決闘は時間にして10分に満たない物だったが、眼前の男はその短い時間内で数十数百発の魔法をクロウに打ち込み、クロウはそれら全てを相殺していたのだから。

 

「此方の魔力運用も其れなりの物と自負していたが、降伏した時点での魔力消費は総量の一割程度だったが、守り人殿は0.2~3割と程度の消費だろう

それも当然か、消費など皆無に等しい一小節魔法なのだから」

 そう言うとカイラスはフワフワと浮かせていた水球への魔法を解除しカップの中身を戻した。

「此方と同じ【紫眼】が数人で絶え間なく魔法を撃てば事なきを得るが、逆を言えば大陸最大級の戦力を数人揃える分コストが高すぎる、願う事なら守り人殿には平穏無事に暮らして欲しいものだ」

「(ほえー、すごいんだなぁクロウ君って)」

 

 クロウへの評価を聞き、漠然とした感想を浮かべているイリシアは意味深に自身を見つめるカイラスに気付くことはなかった。

 

 

 

7月T日

 

 

《クロウとレイラの場合》

 

 イリシアとカイラスの邂逅から数日後

 

「…………………………」

「…………ヴォルテイン様にイリス様、今日は遅いですわね……クロウ様は何か聞いていらっしゃいます?」

「――――――部長は、クラス仲間ト話があるソうで、長引イたら来れナいかも、と聞イていル……紫先輩についテはメイド後輩ノほうガ把握していルのでは?」

「あらそうでしたの、ヴォルテイン様は軽い用事との事ですわ……クロウ様、以前から思ってましたが、ワタクシの呼び方は兎も角、ヴォルテイン様に対して『紫先輩』とは不敬ではなくて?」

「守り人……古代文明ニ取って、名前は神聖ナ物です、伴侶や家族デ無ければ、呼ぶ事、憚られルです、不快にさせテいるナラ、すみません」

 クロウが謝罪したことに溜飲を下げたレイラは睨むのを止めて笑顔を見せる

 

「いいえ、そんな理由が御座いましたのね、こちらの方こそ申し訳ございません、不躾なのはワタクシの方でしたわね――――それはそうとクロウ様、せっかくの機会なので一つお聞きしたいことがあるのですが……」

「――――? まぁ、答えらレることナら」

「イリス様の事をいつ名前で呼ぶご予定なのでしょうか? ワタクシ気になって仕方ありませんの」

 

 クロウの動きが止まった、彼女の言っていることの処理が追いつかないようだ。

 

「――――――――!? ハッ!? ハァ!?? 何のことを言っているのかよく分からないなぁ!?」

「いえですから、特別に想う相手の名前を呼ぶ文化なのでしょう? ワタクシも一介の女子高生ですので、そういった話には目が無いのですのよ? お二方に出会ってまだ数週間ですが、クロウ様がイリス様に並々ならぬ――――」

「やめてほしいナ!! そう言う勘繰りは!? 自分――――僕は部長ニ対しテ、()()()()ノじゃない、だ、よ」

「…………あらあら、ワタクシの早とちりでしたのね、失礼いたしましたわ」

 そう言って謝罪をするレイラだが掌で隠していた口元はチャシャ猫のように二やついていた。

 

「……そうイうメイド後輩モ、紫先輩に対してノ、態度は、メイドに有るマじキ、って風に見エる、よ?」

 

 動揺を誤魔化すように座った眼でレイラを見つめる。

 

「ええ、ワタクシ別にヴォルテイン様の正式なメイドではありませんから」

「…………ン? え? メイドじゃナい?」

「はい、『公爵家に代々仕える~』とか『ヴォルテイン様とは幼い頃から~』とか、そういった背景は一切ない中等部時代に一目惚れをして追っかけをして居るなんちゃってメイドなんですよワタクシ」

「えぇ…………?」

 このメイド服も自作ですわーと続けるレイラをクロウは茫然と見つめていた。

 

 

 

 

翌日

 

《クロウとカイラスの語らい》

 

 

「――――と言う話ヲ、先日メイド後輩かラ聞いたんでスけド……」

「嗚呼、事実であるぞ、レイラは去年の春頃から此方の三歩後ろに控えるようになってな、特に不都合はなかった故好きにさせている」

「えぇ……」

 

 また別の日、本日は女性陣が遅れているようだ。

 

「去年、この学院ニ連れられテ、紫先輩は魔力量ガ目を引くノデ、何度か見かケて、何時もメイドを引き連れテるイメージ、あったノで、衝撃です」

「ほう、彼方は此方を認知していたか、彼方の立場を考えれば警戒して当然か」

「イエ別に、警戒ッテ程では」

「――――その拙い話し方も警戒の一環と言った所か? ()()()()()()()()()()殿()?」

 

「………………何が言いたい?」

 

 クロウから表情が消えた、元々無表情気味な男であったが、その黒い瞳には普段以上の暗さを宿している。

 

「此方も愚物ではない、彼方も『古代魔法への興味』等ど言う建前を信用していなかろう?」

「――――自分が、この学院への攻撃の準備を始めた……と考えたところか」

「結果的に杞憂だったがな、個人的な興味なのだが守り人殿よ、故郷を追われ、身内であった祖父を亡き者にされて尚、一年以上従順に過ごす理由を知りたい」

 

 カイラスは問いかけながらクロウを鋭く見つめている、偽証は許さないとその眼が雄弁に語っている。

 

「――――別に……そんな大層な理由じゃないですよ」

 

「確かに僕はこの国の貴族や皇族に故郷を追われました、祖父も殺され、この学院に拐われたのも事実です。

恨みはありますし、学院に連れられて1年は如何に関係者を可能な限り巻き込んで復讐してやろうかと考えていました。

――――でもまぁ、寝る場所も食料も教育すら与えられているんですから、復讐(それ)だけを考えて生き続けるのは非効率でしょう? 僕の人生はまだ数十年……種族的に考えれば数百年続くかもしれないのですよ? そう思えば、たかだか魔物くらいしか居ない森奥の故郷を奪われて、家族1人を失った位のことにいつまでもこだわって居られないだけです、そしてなにより――――──」

 

 クロウは知ってしまった、復讐なんて考えるのも馬鹿らしい、呆れるくらいの善人が存在すると言うことを、そんな善人に焦がれる胸の感情を……

 

「あの人をほんの僅かでも巻き込むかもしれない復讐なんて、僕にはとても出来ませんよ」

 

「…………なるほど、彼方の復讐心は彼女の愛により溶解したのか」

 

「愛とか辞めて下さいよ恥ずかしい、あと別に恨みが無くなったわけでは無いので、部長が亡くなった後でも復讐心が残ってたら普通に大陸全土の滅亡計画考えるので100年後とかに実行してるかもですね」

 

「……そうならない事を祈ろう」

 

 色々台無しであった。

 

「まぁ、紫先輩ガ、余計ナ事ヲ、言わナいナら、平和は保証、します、デス」

「それは続けるんだな?」

「急ニ、流暢ニ話し出しタら、部長が驚キますカら」

「――――やれやれ」

 

 どこまでもあの少女第一か、と公爵家嫡男は国の未来を憂いて溜息が漏れるのだった。

 

 

 

 

8月某日

 

 

【統一大陸総合魔法学院】には8月の中頃から2週間の長期休暇が存在する。

その休暇中に学生一同は里帰りであったり、旅行などのリフレッシュ期間として活用していた。

そんな中【古代語研究部】の面々はカイラスの手配した絢爛な馬車に揺られていた。

 

「いやー長期休暇もあっと言う間だったね~、あと4日で学院に戻んなきゃなんだもん」

「僕は別に、ずっと寮にいるカ学院都市内ヲ散策してた位なのデ、部長は帰省を楽しめましたカ?」

「私の故郷は学院ほど栄えてないけど、その分ゆっくりは出来たよ~、久しぶりに妹たちと買い物したりご飯食べたりして楽しかったし」

「良いことですネ、家族とは会える時に会って置くべキ、思います」

「うーん、そう思うともう1週間は休暇があれば良かったなー2週間は短いよ~」

「……去年から疑問だっタですが、皆勉学に学院に来てルのに、何故長期休暇を喜ブです? そもそも長期休暇ノ必要性とは?」

 

 クロウの素朴な疑問に対し、罰の悪そうな表情を浮かべるイリシアは答えに窮す様子であった。

その様子を見てか、馬車の前席で読書に勤しんでいたカイラスが助け舟を出した。

「守り人殿の疑問も最もだが、嘆かわしきかな学徒の者々が悉く敬虔な学び手では無いと言うべきか……学習意欲を維持する為にも纏まった休息も必需なのだよ」

「更に言うなら、教授達への休暇や学習期間を取る側面もある……正確にはこちらが本命だな、魔法の運用も日進月歩、学徒諸君へ最先端の教育を施すため、教授殿も日々邁進しているのだよ」

「流石ヴォルテイン様! 博識であらせられますわ!」

 

 レイラの太鼓持ちにも2人は慣れた様子で聞き流し、カイラスの話に感心しながら目的地へ向かうのだった。

 

 

 

 毛並みの良い大柄な馬数頭に引かれ、進み続けた一同は美しい湖の畔にある広大な屋敷に到着した。彼彼女等は本日、部活動の合宿と言う名目で休暇期間の残り3日を利用し、カイラスの実家のコネを使い、公爵家持ちの別荘地へ観光に繰り出していた。

 馬車から降りた一同を数十人の執事とメイドが並び、その代表二人が挨拶を行う。

「お待ちしておりました坊ちゃま、そして学友の皆様方、執事長のバトラーと申します」

「同じく、メイド長のシトリと申します、御用が御座いましたら何なりとお申し付け下さいませ」

 

「ふむ、久しいなバトラーにシトリ、少しの間だが世話になる」

「うわ~。やっぱ公爵家ってすごいんだなぁ……気後れしちゃうかも」

「メイドが沢山、メイドと言えバ、メイド後輩珍しク私服だ、ね?」

「流石に本業が居る場所で手作りのコスプレメイドを貫く勇気は持ち合わせていませんわよ?」

 

「ほっほっほ、個性的な学友様ですな――お荷物をお預かり致しますので、どうぞ屋敷でお寛ぎ下さい」

 

 そうして屋敷に案内された一同の夏合宿と言う名の行楽が始まるのだった。

 

 

 

 

「――――嗚呼、レイラは今猛烈に感動しております……ワタクシが今まで生きて来たのはこの日を迎えるためだったのですね!」

「大袈裟な事だな」

 

 荷物を屋敷に運んだ一同は、昼食までの時間に馬車を引いていた馬とは別の乗馬用の馬で湖畔回りを歩いていた。

 レイラはその際に「ワタクシ馬に触れた事も無くて……」との申告でカイラスと相乗りし彼が後ろからレイラを抱えるような形で手綱を握っていた。

 

「メイド後輩、顔ユルユルですネ……部長は馬、大丈夫です?」

「おおっと、思ったより高いし揺れるけど、大丈夫楽しいよ! クロウ君はなんかすごい慣れてるね?」

 

 イリシアの言う通り、彼女の騎乗は少しばかり不安定さがあるが、クロウは非常に落ち着いた様子で馬を歩かせていた。

 

「僕も乗馬自体は初めテですよ? 昔ケンタウロスの弟ニ、何度か乗せテ貰ったノで、その経験ガ聞いてるのカモです」

「そっか~ケンタウロスの弟さんが――ってそんな訳ないでしょ! クロウ君どう見ても二本脚じゃん!」

「腹違いのオトウトデス」

「クロウ君にしては珍しい冗談だね~、にしても、すごい綺麗な湖だね、水着も持ってきた方が良かったかな?」

 

 太陽光を反射してきらきらと輝く水面を眺めながらイリシアは残念そうな顔をしている。

 

「紫先輩ガ言うには、相当深サが有るそうナので、泳ぐハ危ないト思うデス」

「うーん残念、こんなに綺麗なのに……ちなみにクロウ君泳ぎの自信の程は?」

「マーフォークの妹と良ク泳いでマした、教えヨうとしテ来まシたが、人型の泳ぎじゃなカッたので自力でノ習得でしタが」

「ケンタウロスの弟どこいったー? それも腹違いの妹?」

「ソウデスネ」

「じゃあ空の飛び方なんかを教えてくれる妹か弟さんが居たりしたのかなー」

 

 からかうように笑いながら問いかけられたクロウは表情を変えずに答える。

 

「ハルピュイアに弟妹は居ませんガ、腹違いノ姉が居ますデス」

「腹違い多すぎでしょーお父さん何してんのさ~……一応確認だけど冗談だよね?」

「…………どうでしょうネ」

 

 曖昧な表情を浮かべるクロウを見てこの話を深堀するのは止めようとイリシアは決意したのだった。

 

 

 

 

 

 4人で食べるには多すぎる豪華な昼食を済ませた後、イリシアは開けた草原で身の丈ほどの長さの杖を抱え、瞳を閉じて集中していた。杖を構えた先には簡易的な案山子が立てられている。

 

「『雷龍』『轟き』『敵を穿て』!」

 

 杖を突きだし、イリシアが呪文を唱えると、龍を模した雷が案山子に襲い掛かり、一瞬後に対象の案山子は黒焦げになり形を失った。

 

「流石ですわ、ここまでの威力の『ドラゴサンダーレイジ』は初めて見ましたわ」

 

 イリシアの背後で見守っていたレイラはそう言って拍手を送る

 

「いやいや、私もこんな威力になったのは初めてだよ? カイラス先輩が用意してくれたこの杖凄いですね、魔法の発動体があるだけでこんなに違うんですか?」

「当然だ、そもそも此方は学院の発動体を用いない魔法を重視するカリキュラムにはほとほと呆れているのだよ……嘗ての戦場では如何に威力と発動を安定化させるか、研究を重ねた果てに最適化された補助具だと言うのに、安寧の時代が続くのも考え物だな……」

「とは言いましても、軍用の杖は非常に高価な物ですし、学生全員に配る訳にもいかないのでは? いえ、ヴォルテイン様の高貴な考えを否定するつもりはございませんが」

「軍用杖の支給は父上にも何度も提言しているのだがな、「卒業後に自ら行え」と歯牙にもかけられん、此方が国営に携わった暁には、帝國の未来を憂う者を動員せねばなるまい」

「まァ、その話ハ後ほどお貴族様トでもシテ貰って、続けマしょう部長」

 

 クロウの声掛けに頷いたイリシアは瞳を閉じて魔力を杖に込めていく。

 

「『MPQ?L2』『$$’X!』『1!E27'1』!」

 

 再び杖を突きだし叫ぶイリシアだが、期待に反し、今回は数秒待っても何も起きなかった。

 

「――――――だめかぁ~、なんでかなぁ……クロウ君が同じ詠唱したらちゃんと発動するのになぁ」

「ふむ、やはり古代魔法と七色魔法では発動の原理が異なると言う仮説が妥当か」

「そうなんですの?」

「喩えるなら此方ら人間種にエラを付ければ水中で呼吸が可能か? 機能を付属されても活用の仕方が検討も付かぬだろう?」

「僕は、生マレつき使えるのデ、使えナイ感覚が分かラないので、アドバイスも仕様なイですし」

 

 しばらく杖を抱えてしゃがみ込んでいたイリシアは、不意にパッと立ち上がった。

 

「まっ! 私たちの研究対象は古代語であって古代魔法じゃないからね、そこまで拘らなくてもいいよね!」

 

 そう明るく言うイリシアに三人は顔を見合わせて、揃って肩を竦めるのだった。

 

「嗚呼、物のついでだ守り人殿、そろそろ彼方達も近接戦闘の授業が始動する頃合だ、予習として胸を貸そうではないか」

 

 そう言うとカイラスは用意していた杖を二つ取り出し、一つをクロウへと投げ渡す。

 

「杖術の心得は……無い様だな、気にする事はない、近接戦に置いては棍棒と変わらぬ、訓練の規定は

①相手に攻撃を与える又は寸止め

②武器を取り落とさせる

③相手の体制を崩し地面に手を付けさせる

この3つの何れかを満たせば勝利となる」

 

「……理解しまシタ、ではお手柔らか――にッ!?」

 

 クロウが杖を構えようとした瞬間、カイラスは不意打ち気味にクロウの顔面すれすれに杖を突きだしていた。

 

「まずは一勝、さて此方が何勝するまでに真面に動けるようになるかな? 嗚呼、近接戦闘訓練であるが、魔法の発動も可能であるぞ?」

「…………行きまス!」

 

 その後、数十戦と続けたが、時には杖を蹴り上げられ、時には無詠唱による重力魔法によって重い力場や軽い力場の生成罠に翻弄され、また純粋な杖術の練度の差を埋める事が出来ず、クロウは一度としてカイラスに土を付けることは出来なかった。

 

 

 

 

「いやー、ボコボコにされちゃったねー、魔法式の決闘ではあんなに圧倒してたのに」

「――――近接戦闘ハ、身体能力より経験ガ物を言ウそうです、紫先輩ガ僕よリ経験に勝っていタんでしょう」

「おや? もしやクロウ君悔しがってる?」

「まぁ、ですが最終的に勝ツのは僕ですカラ気にしマせんよ……100年も経てバ紫先輩はヨボヨボですシ僕が確実に勝ちますデス」

「その勝利はとても虚しいと思うんだけど……クロウ君もヨボヨボになってて勝負にならないんじゃない?」

「僕は長命種なノデ、大丈夫です」

「そうだったの!?」

「この見た目ですガ年齢ハ確か32か3だっタ筈」

「一回り上だった!?」

 

 しれっと衝撃発言を受けながら、二人は屋敷への帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

――――その日の深夜、一人湖畔を歩くイリシアの姿があった、特に深い理由があるわけではなく、夜になって何となく寝付けずふらふらと散歩に出かけていたのである。幸いにも今夜は月明かりが眩しく、月光を遮る雲も無いため歩く分には何の問題もなかった。

 

「――――――ん? あれ? クロウ君だ、どうしたのこんな時間に?」

 当てもなく歩いていたイリシアだが、ふと気配を感じて振り返って先には湖畔の縁で月を見上げているクロウの姿があった。

 

「部長? 部長こそどうして此処に……いや、同じ理由ですかね、何となく目が覚めてしまって月を眺めてました」

 そう答えるクロウの眼は普段よりぼうっとしている様子であり、眠気はまだ残っているように感じられた。

 

「へぇ~、良いじゃん良いじゃん月見! 夏でも此処は湖だからか夜は涼しいし、明日も奇麗な月なら二人も誘って見に行こうよ!」

 コロコロと楽しそうに笑いながらイリシアはクロウの隣まで歩き、膝を抱えて座り込んだ。

「ほら、クロウ君も座ったら?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 隣り合う二人は暫し無言で月を眺めていた、温かい沈黙が流れる中イリシアが不意に体を傾けてクロウの肩に頭を預けた。

 

「――クロウ君はさ、今の学院生活楽しめてる?」

 

 頭を預け、月を見上げ続けながらイリシアは問いかける。

 

「正直、結構強引に誘った自覚はあるからちょっと不安だったんだよね、クロウ君にもやりたい事とかやらなきゃいけない事もあったと思うし、それなのに活動には毎回参加してくれてるよね? 私にとっては古代語の勉強や解読はすっごく楽しい事だし、クロウ君に色々教えてもらってとっても助かってるけど、私からクロウ君に渡せてるもの全然ないなぁって……へたっぴな喋り方を態と続けて、私に気を遣ってるのも気づいてるんだよ? クロウ君、本当は迷惑に感じてるなら正直に話して欲しいな……」

 

 

「……迷惑なんて思ったこと、一度もないですよ」

 イリシアの懺悔染みた告白に、クロウは月を見上げながら返答する。

「部長は普段からテンションが変に高くて、でも変になり切れない常識人な所があって、ちょっと不機嫌になっても適当に褒めたらすぐ機嫌が直るちょろい人ですが」

「まってまって、そんな風に思ってたの!?」

「で・す・が……4月に声をかけてくれた時、嬉しかったです、変な人だなーとは思いましたけど、悪い人じゃなさそうだったから勧誘に答えました、古代語研究部に入って――――部長に出会ってからの日々は、去年と比べられないくらい充実してました」

 

「こんなこと、素面じゃ恥ずかしくて早々言えませんけど……ありがとうございました、あの時僕を見つけてくれて、言葉じゃ言い表せないくらい感謝してます」

 

 演技も嘘もない飾り気のないクロウの言葉に、イリシアは頬を少し染めながら俯く。

 

「は――――はは、なんか恥ずかしいなぁ~クロウ君からそんな事言われるなんて……うん、よかった、こちらこそありがとうクロウ君、こんな零細な部に入ってくれて、クロウ君のおかげで今じゃ公爵家のご子息様がパトロンだよ? 私も去年までは考えられないくらい充実してるよ」

「紫先輩は今年で卒業ですから、来年は新入生を捕まえて部員の増加が必須ですけどね、メイド後輩も先輩を追っかけて部活止めそうですし」

 

 二人はその後も取り留めのない話を続けながら笑いあう、そしてどちらから合図することもなく自然に立ち上がり屋敷へと戻り始めた。

 

「さーて、明日は実家から持ってきた本を解読してもらうよ~、おばあちゃんが言うには暗号にもなってるそうだから一筋縄では行かないかもだし、早く寝よっか!」

「そうですね……あ、そうだ――――イリシア部長」

「んー? どうしたの?」

「《*P41P+#》 おやすみなさい」

 その言葉を聞いたイリシアはポカンとした後、顔をほころばせる

 

「うん! お休みクロウ君! 《*P41P+#》!」

 

 

 

 イリシアと分かれて部屋に戻ったクロウ、夜の暗闇で気付かれていなかったが、その顔色は真っ赤に染まっていた。

 

「……はぁ~、部長は何時になったら本当の意味に気付くのか……まぁ暫くは勘違いしたままでいて貰おう」

 

 いずれ真実に気付くか、クロウに教えられたイリシアは自身の過去の発言に悶え苦しむ事になるが、それはまだまだ未来の話であった。

 

*P41P+#(I LOVE YOU)

――――なんてね」

*1
東京都の約半分




不器用不愛想男×底抜けに明るいギャルのCP流行れ、皆にももっと作って欲しいな、作れ
俺もやったんだからさ~

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