見てくださる方は原作との物語の進み方の違いも楽しみにしてくださっているとは思いますが、割とバツバツお話が進んでいくこともあるかもしれません。
間もなく補給室の奪還作戦が始まる。
鉄砲を持った大勢の人間をリフトで巨人たちのどまんなかに降ろす、とはまあ大胆な作戦だこと。とはいえ言い出しっぺのアルミンも当然鉄砲構えて降りるので文句あるやつはリフト降りろ、おん。っちゅう訳か。
上手いこと言いくるめてオレもリフト側に回されたわけだが、役目は囮兼巨人の視力を奪う、ではなく。 囮兼取りこぼしを獲る、なので鉄砲の代わりに剣の確認をしておこう。
「フレディ」
刃に反射する母親ゆずりの黒髪黒目な自分の顔を見ながら、母親が自らの家系に伝わる片刃の剣を手入れする姿を思い出していると、クリスタが声をかけてきた。
「んお?」
「もう、気の抜けた返事......でも、それなら大丈夫そうだね」
「は? 天使かよ」
おっといけねえ、微笑みかけられたことで魂が浄化されて肉体の外へ言葉として漏れ出てしまった。
訓練兵の期間中、天使だ可愛いだ好きだ結婚してくれだ言い続けたからか、クリスタは照れることは無くなった。今だって「はいはい、幻覚見えてるよ」なんて言いながらオレに集中しろと言ってくる。
でも二人きりの時とか、真剣に言うとちゃんと照れてくれるんだからやめられない。止まらない。
「死なない程度に頑張れよ、お前が死んだらクリスタは私が貰う」
「は? ふざけんな! クリスタはオレとユミルで仲良くシェアする約束だろ!」
「人のことをパンみたいに言わないでよ!?」
そんなクリスタを後ろから抱きかかえながら抜け駆けしようとするユミルを見て、オレの集中力は極限まで研ぎ澄まされる。クリスタは皆のものだろうが! パンよりも食べちゃいたいくらい可愛いんだから仕方ない!
「よし、そろそろいいぞ! リフトを降ろす!!」
なんてことを考えていると、良い時間になったのか一人の兵士が叫び、ゾロゾロと鉄砲を持った兵士たちがリフトに向かう。
「じゃあ、オレも行くか」
「頑張って」
「拾えるもんがあったら拾っといてやろう」
「なんなん、死ぬこと前提かよ。つかなんでそんな上からなんだよ」
非常に厳しいお言葉をユミルから頂戴し、思わずツッコんでしまった。ユミルはケラケラと満足そうに笑ってはいるが、目がね。コイツ、オレのこと好きすぎだろ。
笑顔のまま、まるでこちらを凝視するような目をしているユミル。そんなに心配されても困るのでそろそろケツの一つでも触ってやろうと手を伸ばしたが、オレの右腕は横から伸びたミーナの手に、襟首はルースに掴まれ拘束された。
「はいはい、いきましょーねー」
「犯罪者1名連行しまーす」
「なんっでだヨ! オレいつも触られ損じゃん!」
そのままズルズルと引きずられ、奥の方へと投げ飛ばされる。かと思えば、オレに蓋をするようにぴったり密着して次の人が詰められるようにするミーナとルース。
鼻腔をくすぐる二人の汗が混じった香りに、不覚にもまたたく間にキマってしまった。
「フレディ、準備はいい?」
「もちろんだアルミン! いつでもバッチコイ!!」
「う、うん? じゃあ、リフト投下を!」
アルミンの声でリフトが降ろされていく。
鉄砲の数には限りがあるので、四角形のリフトの中でそれぞれの辺に対して二列に並ぶ。
降りていく最中に退屈だったことと、レンガの壁が目の前にある圧迫感で壁に刃を立ててみると、当然のようにキリキリと嫌な音がしたのですぐ引っ込めた。のだが、ルースはこの音が苦手なのか膝をオレの太ももに叩き込んでくる。当たり強くない? お兄さん悲しいんだけど。
しかし、オレの悲しみなど意に介さずリフトは降りていき。やがて補給室が見える位置までやって来た。
地面までは下ろしきらず、補給室に入り込んだ巨人の顔と同じほどの高さでリフトは止まる。と同時に、マルコが周囲を確認。
「よし、数は増えてない......!」
大声で巨人を刺激しては作戦がパーなので、囁くような声でマルコが報告する。それでも、巨人しか居ない補給室内では驚くほどよく聞こえた。
お化け以外は自分の目で見たものを第一に信用するオレも確認したが、やはり数は7。天井の方に視線を向けてみると、お尻をプリッと突き出して待機している我らがアニちゃんのお姿が! おっひょ! 思わぬ幸運! 上を向いて歩こう!
いやーやっぱ良いケツしてる、枕にしてえなぁ。つか適当な位置同士でかち合うとかもうこれ運命でしょ、後ろの黒髪娘たちと一緒に毎日スープ作ってくれ。アニたんの横に居る二重人格クソ筋肉ダルマは知らん、野郎のケツには興味ねえんだ。刃ぶち込むぞコラ。
「作戦続行だ」
そしてマルコが指揮を執り、鉄砲を持つ全員がそれを構える。オレは鉄砲が無いのでいつでも飛び出せるようにリフトの縁に足をかけた。
身長と足の長さ的にちょっとしんどいっす。若干プルプルしてるけどカッコ悪いとこ見せられないので我慢だ我慢。
「ひぃッ!?」
ゆっくりと補給室を闊歩していた巨人がこちらに気づき、勢い良く振り向いてくれば誰かがそんな悲鳴を挙げる。
囮役は自主的に集まった面子で行っている。それなりに巨人を前にしても落ち着いていられるのが揃っているといっても、やはり抵抗手段がひ弱な鉄砲だけなら怯えるのも仕方ない。
すかさずマルコが「落ち着け!」と声を上げるが、構えられた鉄砲の先はほとんどが震えている。
真後ろにいるミーナとルースは鉄砲なんて使ったことないだろうに震えもないし呼吸も深いのだけども、なんなのこの娘たち。味方で良かったよ。
感心しながら射撃の時を待っていると、先にオレたちの存在に気づいた巨人が貼り付けた笑顔のような不気味な顔で近づいてくる。
その一体が近づいてくると、他の巨人たちも気づいたのか7体全ての注意がこちらに向く。巨人の見る世界がどのように写っているのかはわからないが、どの巨人も飛び込んできたり走ってきたりすることはなく、ゆっくりと一歩ずつ踏みしめて近づいてくる。
やがて銃口が不気味なほどまん丸な巨人の瞳に突き刺さりそうになったところで、指揮役のマルコが口を開く。
「用意......」
カチャリ、と引き金に指を置く音がいくつも響く。これから何が起こるかを理解していない巨人がまた一歩前進してきたところで、マルコが威勢よく声を上げた。
「撃てぇッ!」
撃鉄が落とされ、薄暗い補給室に火薬の光が稲妻のように走った。
一瞬のまばゆい光と音に思わず目を細めたが、オレはすぐさまリフトの柵によじ登る。上を見れば、待機していた7人が一斉に駆け出したところだった。
7人が飛び降りる直前、ほんの一瞬で視線を360度動かす。ほとんどの巨人は痛みからなのか目を押さえ煙を出していたが、ちょうどオレの背中側に居たやけにつぶらな瞳の巨人だけが弾丸を目に受けていないようなのが気になった。
その上には、サシャ。横にはコニーが並んでいた。
「セイ、ッやぁ!!」
視界を潰せていない巨人に不意打ちが失敗したら。そんな最悪の状況が一瞬頭の中を走ったオレは、渾身の力を込めて両手の剣を振り、タイミングを合わせて刃と柄とを固定するロックを解除し刃を射出。
刃は4分の1回転で切っ先を巨人の瞳に向け、巨人のまん丸お目々両方に突き刺さる。そのお陰か一瞬動きを完全に止めた巨人は、暗闇の中でサシャに討ち取られた。
しかし刃を失ってしまった以上、オレは援護する手段を失ったも同然。そのことに気づいて思わず冷や汗を流しながら呼びかける。
「状況は!」
「全体仕留めた! 補給作業に移るぞ!」
オレの呼びかけに答えたのはジャン。窮地をかいくぐり緊張から解かれたのか、少し不格好な笑みを浮かべながら報告する。
その声に、リフトからは歓喜の声が上がる。射撃の合図を出したマルコに至っては、安堵から膝の力が抜けたのかアルミンに支えられていた。
「やったね、フレディ」
「ミーナ」
7体の巨人が蒸発していく様を見て息を吐くと、ミーナの声が。その声に従い視線を下に落とすと、ミーナとルースが口角を上げ手を差し出していた。
それに同じように口角を上げ返し、両手に持った剣の柄を脇のホルダーに装着し、代わりに二人の手を取ってリフトの柵から降りる。トンッ、と衝撃を身体全体で吸収して着地すると、すぐにリフトが上へと持ち上げられていった。
「ひとまず、補給は何とかなりそうだね。後はここから撤退するだけ」
「巨人たちが入ってくる前に全員で補給を済ませちまおう。ルース、可能な限り高い建物が多くて見晴らしが良く、壁まで最短で向かえるルートとか。任せられる?」
「相反する条件ばかり突きつけてくるじゃん......でも、大体の道のりはもう決めてるんだ。このルートなら全員で移動しても安全性は高いと思う」
ガラガラと滑車によってリフトが上がっていくのを待つ間、地図を開いたルースに退路を示してもらう。
オレも物覚えが悪い方じゃなく、地図を見れば移動経路はすぐ頭に入ってくる方だけども。一度の襲撃想定訓練でトロスト区の地形をほぼ完璧に暗記してるルースには敵わないな。
「それじゃあ、脱出の時はそのルートを採用しよう。ここに来る時と同じように、人を上手く配置して一斉に脱出したいな」
リフトが上がるまでの間に、人員をどうするか考える。が、面倒なのでマルコに押し付けよう。この中に1人! オレの指示に従わなさそうなやつが居るんだ! そいつはライナーの指示には従うだろうが、今度はアニが従わなくなりそうだからな! ガハハ!!
なんて、正直笑い事じゃない。面倒くさいことこの上ないので、マルコに押し付けゲフンゲフン。任せるのだ。うん、そうしよう。それがいい。
やがてリフトが上の階に着くと、中に居た全員が我先にと飛び出し補給へと向かう。オレたちは最初にリフトに乗り込んだため、律儀に順番待ちをしてから最後に出ることにした。こういうのはね、最初に飛び出したやつが一番フラグ立つって相場が決まってるんですよ。
ゾロゾロと人が出ていって軽くなり、僅かに上へ持ち上がったリフトから最後に出ると、待っていてくれたのであろう大天使クリスタとユミル。そして何故か、アニとサシャの姿まであった。
「お疲れ様、フレディ」
「まっ、及第点ってとこか?」
「ありがとうクリスタ、んでもってなんでそんな厳しいんだよユミル。オレちょっとは仕事したぞ?」
つぶらな瞳に鋭い刃をぶち込んで、実質討伐補佐みたいなもんでしょ。とユミルに抗議してみるが「見てないものは評価のしようがないからな」と言われ流石に落ち込んでしまう。うわーんクリスタたん! オレ頑張ったのにぃ!
「そうですよ! フレディが私が倒した巨人の視界を奪ってくれなければ、動かれて狙いがズレたかもしれませんから!」
「芋女ならちょっと動かれるくらい対したこと無いだろうが」
「それはそうですけど」
「オイ! オレのやったことを肯定したいのか否定したいのかどっちなんだよ!」
生き証人のサシャがフォローを出してくれたかと思いきや、あっさり手のひらを返しやがった!
今になって考えれば、確かにサシャなら大丈夫だろう。となると、刃を失ってまで視界を奪いに行ったのはやはりリスクの高い行動だったかもしれない。仮に仕留め損なったとて、本来の目的ならサシャの方にヘイトが向いたところをオレが仕留める算段だったわけだし。
あれ? とするとオレ、結構ちゃんと無駄なことしてない? やだぁ~、焦りすぎて仲間のこと信用出来てないじゃないですかあ......。
《助けたいって気持ちがあるのは大切なことだし。それに、そういう積み重ねがこの娘たちのアルくんへの信頼に繋がってるんだから無駄じゃないよ》
フリーダぁ......お前たまには良いこと言ってくれるんだな。見直したぞ。
《アルくんを全肯定することが、私の生きがいなので》
やべぇよこの女、オレが世界を終わらせるとか言ってもニコニコしながら「手伝うよ!」とか言ってきそうな勢いじゃん。こじらせすぎだろ。
「そういえば、サシャとアニはどうして上に? 補給は?」
「これからしますよ! でも先に生存報告をと」
「補給してる時に大声で探されたら面倒だからね」
「わお、オレへのイメージそんななの」
心配性なところは認めるし、労ってやりたい気持ちは今もふつふつと湧き上がっているところだけど。人のことをまるで過保護なやつみたいに言いおって。
否定できないのが悔しいぜ。
「まあそれは置いとくとして。2人も無事だし作戦が成功してよかったな! ワハハ!」
ならばそのイメージ通りに務めてやろうと、サシャとアニの頭に両手を置いてワシワシと撫でてみる。
サシャはいつもみたいに百点満点の笑顔だが、アニがさも当然といったように頭を撫でられているのは、オレだけでなくユミルも驚いていた。「キャラ変わりすぎじゃねえかぁ?」等とつぶやいているが、お前がそれ言うか。
2人の頭を堪能したので、立体機動装置を装備し直して階段を降りていく。道中、ふとオレの両手にはサシャとアニの頭皮の香りが残っているのでは、と邪な考えが浮かんだ。
ので、それを確認しようと鼻に近づけてみた。ら、隣にいたクリスタがオレの脇腹に肘を当ててきた。
「フレディ?」
「......いやー、ちょっと......駐屯兵団はちゃんと掃除してんのかよ! 埃っぽいなぁ全く!」
鼻に近づけた手は、鼻を素通りして目に向かわせた。わざとらしく目がかゆいアピールをしてみると、訝しげな表情のクリスタは今にもオレの脇腹を突き刺さんとしていた肘を引っ込め。代わりに目をこするオレの手を掴んで止めた。
「擦るともっと痒くなるから、我慢して。外に出れば良くなると思うから」
「うん、そだね」
やれやれ、なんとかピンチを乗り切ったぜ。僕は己の欲に素直なお年頃の男の子なんです。仕方ないよ。
《変態とも言う》
うるせいやい。フリーダに言われたかない。
《そんな変態でも、私と血の繋がりがあるヒストリアはアルくんのこと大好きになっちゃうんだろうなぁ。ッチ、小さい頃に完全に性癖を歪めとくべきだった》
なんだよコイツ。どうにかしてくれよユミルちゃん......
デートする人
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アニ
-
クリスタ(ヒストリア)
-
ミカサ
-
サシャ
-
ユミル
-
ミーナ
-
イルゼ
-
リコ
-
憲兵団のお姉さん
-
フリーダ
-
ルース
-
キース教官
-
ライナー