無事に奪還した駐屯兵団本部の補給室に降りると、やはり誰もが我先にと補給を済ませていたためすっかり出遅れてしまった。
適当に空いているところから立体機動装置のガスボンベにガスを、鞘には新しい刃を補充していく。
メーターギリギリのところまでガスを入れたボンベを拳で軽く叩けば、ボンボンと中の詰まった音が返ってくる。なんだかずいぶんと久しぶりにこの音を聴いた気がするな。
「おい、フレディ」
少し感傷的な気持ちに浸っていると、コニーが何やらニヤニヤしながら近づいてくる。
返事をするのが億劫だったので眉を上げて首をかしげてみると、コニーは隠し持っていた一枚の薄い木板をオレの前に突き出してくる。
「約束、忘れてねーだろうな? 一撃で仕留めたんだ、お前にはコレを付けてもらうぜ!」
「うわぁ、なんかそんな話してた気がするぅ......」
コニーが見せつけてきた木板には、刃で削り取った汚い字で『私はバカです』と掘られていた。
確か、オレの代わりに補給室に居た巨人への攻撃役をコニーに任せる代わり、成功したら私はバカですって書いたやつを背負うだかなんだかみたいな約束。話半分に流してたから忘れてたけど、コイツちゃんと根に持ってやがったのかよ。
まあ、ここで知らないふりをするのは男が廃る。オレはコニーから木板を受け取ると、コイツが開けたのか左右で高さの違う穴にその辺に置いてあった紐を通して板を背中側にし胴へくくりつける。
「どや!」
「な、なんで自信満々に付けてんだよお前!? キモチワリィ!」
付けろと言ってきたくせにおぞましいものを見るような顔をするコニー。あまりにも解せぬ。
しかし、これだとずり落ちそうだな。いっそ体中のベルトに上手いこと固定するか。
カチャカチャとベルトをイジリながら最適な位置を探し、立体機動などちょっとやそっとじゃ落ちないようにガッチリ固定しつつ、腕や方の動きを邪魔しないようにする。
「ったく、少しは恥ずかしがるとかしねえのか? 俺もう行くからな! バカが感染ったら困る」
「オレ感染された側なんだけど」
悲痛な声も届かず、コニーは走って外へ出ていく。多分、先に補給を済ませた奴らは順番に、何人かのグループに分かれて壁を登っていっているだろう。アルミンやジャンが先導してくれているだろうし。
「じゃあ、オレたちも行こうか」
周りを見て14班のメンバーと顔を合わせる。全員補給を終えてはいるようだが、何か言いたげな顔。
良き班長として班員の声を聞くのは重要なので待っていると、ルースが口を開いた。
「流石にそれは恥ずかしくて一緒に行動出来ないかも」
「でも約束したもんはしょうがないだろ? 我慢してくれよ」
「いや、その立派に約束を守る姿勢はいいんだけどさ。私は駐屯兵団志望だし、あまり悪いイメージを持たれたくないと言うか......」
「安心しろ、オレがリコちゃんに口利きしとく!」
グッ! と親指を立ててウインクすると、ルースは諦めたような笑顔で「ありがとう」と口元を引きつらせる。
班員の進路に影響を与えることはしたくありません。持てる限りの人脈を使って隠蔽します。
コツコツとブーツを鳴らし、オレたち5人は出口へと向かう。天気が回復したのか、外に出ると西日がやけに眩しく目に突き刺さる。
思わず目を細めると、建物の上に見慣れた人物が何名か立っているのが見えた。
「あれは、ミカサとアルミンか?」
何故か無防備にも屋根の上に立ち尽くすミカサとアルミン。そこから少し離れたところには、ジャンに加え、ライナーとフーバーまでも。
てっきり先に補給所を出た兵士たちと一緒に離脱したものだと思っていたが。おそらく、エレン巨人のことが気になるんだろう。
「ちょっと様子を見てくる、皆は先に行......かない、みたいだね」
「お供しますよ!」
サシャの言葉に頷いてからアンカーを射出して飛び上がり、ミカサとアルミンの側に着地する。屋根を踏んだ音でこちらに気づいたミカサは振り返ると、ある一点を指さした。
「フレディ、あの巨人が」
「......体力の限界、かな」
ミカサの指さす先には、エレン巨人が。しかし、最後に暴れるだけ暴れて巨人を蹴散らしたのか、バラバラになった大型の巨人、頭を潰された小型の巨人たちの真ん中でぐったりうなだれていた。
ユミルちゃんからのアシストで本来持てる力以上に上乗せされてはいるんだろうけども。何も考えずただ本能のままに暴れまわっていたからかエネルギー切れを起こしたんだろう。力任せに打ち付けたのか潰れた右手は再生の予兆を見せていない。
「どうにかして、あの巨人の秘密を解明できれば。もしかしたらこの絶望的情報を打破できるかと思ったんだけれど......」
「同感だ。このままここで野垂れ死にさせるのは勿体ない、なんとかしてあいつを保護する手段を確保して。とりあえずは延命させよう」
ミカサに便乗してライナーが言う。下心丸出しだぞオイ。
「正気かよ!? やっとここから脱出できるんだぞ!」
そこにジャンが噛みついていった。無駄なリスクを背負ってまで、敵か味方かわからないやつを庇えるほどの余裕は確かに無い。ていうか、延命させたとて誰かがここに残って他の巨人を倒し続けるハメになるわけだけども。
「けど、あの巨人が仲間になったとしたら!?」
おっと個々で超大型巨人の加勢だぁ! しかしジャン・キルシュタイン引かない! 引いてはいるけど引く姿勢は見せない! 知性巨人の可能性を捨てきれないデカブツよ薄鎧が再度畳み掛けます!
「......フン、くだらない」
あっとここでアニ・レオンハート! 全ッ然興味がなさそうです! 何ならこの中で一番ここから離脱して有耶無耶にしたそうな顔ですこれは深い事情がありそうだ!
多分、アニのことは心配しないで良さそうだ。少なくとも激しく対立することはない、ハズ? ともかくまずは先に脱出した奴らの心配を......って
「ァア!?」
思わず大きな声を出してしまう。慌てて口を手で塞ぐが、この場にいる全員から何事だという視線を向けられる。
やべぇよ、コニーのバカに付き合ってたらクリスタと離れちまったよ。人混みに流されて外に出ていったのは見えたけど、確かユミルが近くに居たような居なかったような。無事に離脱出来たんだろうか。急にそこが心配になってきてしまったんだけど。
《壁の上まで離脱して、中々来ないアルくんたちを心配してるよ》
な、なら良かったぜ......フリーダが居ると安否確認が捗ってしょうがない。他にも何人も生存が気になる人がいるけど、とりあえずデカい声を出した手前ごまかさないと。
「ごめん、大きい声出して。ミーナ、ちょっとオレの立体機動装置を見てくれない? なんか違和感が」
「え? うん、いいけど」
ミーナの背中を向けつつ、全員の視線がそれたところで適当なベルトを一つ緩めておく。そうすると真面目な彼女らしく、すぐにそれを見つけて締め直してくれた。
「はい、これつける時に緩んじゃったんじゃないかな」
「ぁあクソ、やっぱコニーのバカが感染っちゃったか」
私はバカです、と掘られた木板を指で弾きながら言うミーナに同意する。と同時に、背中に背負ったそれを見せることで急に大きな声を出した以上のインパクトを与えなんとか変なやつ認定を避けた。元からされてただろうしより強めただけかもしれないけど。
「ッ! あいつは......!」
今度はアルミンが大きな声を出す。足を僅かに震わせながら見開いた目が映し出すのは、ノロノロと歩く一体の細い巨人。
何故か既視感があるその巨人を凝視していると、突然エレン巨人が大きな声を上げて走り始める。
「あいつは、トーマスを食った奇行種......」
「え」
エレン巨人の叫び声の中でも、アルミンの声は何故か耳に通った。本来の14班のメンバーであったトーマス、彼を食ったのがあの巨人。
それを理解した瞬間、全身の血が沸き立つような感覚になり視界が狭くなる。理性的にこの状態はマズイと思うが、本能があの巨人を殺させようとしてくる。溢れ出てくる衝動を抑えようと、柄を握る。
「アルフレッド?」
心配そうな顔でアニがオレの横顔を覗き込んでくる。その間にもエレン巨人は雄叫びを上げながらトーマスを食った巨人に近づいていき、その顔を拳の無くなった腕で殴り貫いた。
だがそれだけでは満足出来なかったのか、うなじにかぶりついてトドメを刺すと、倒れた体を何度も踏みつけ、やがて足がだめになると馬乗りに鳴って骨が剥き出しの腕で殴り続ける。
人類の巨人に対する怒りと憎悪を具現化したようなその行動に、全員が釘付けになる。そんなエレン巨人の後ろにゆっくりと近づいている巨人を見つけ、オレは気づけば本能のままに走り出していた。
「あああああッ!!」
力を入れるためなのか、やるせない気持ちを爆発させただけなのか、どちらかわからない叫び声のまま巨人の首元にガスを吹かしながら突撃していく。
とにかく何かを思い切り殴りつけたい気持ちだった。バキン! という音にハッとすると、オレの両手に握られた柄から伸びていた刃は粉々に砕けていて。通り過ぎた先を振り返ると巨人の首はうなじに当たる部分を切り取られ、頭部がだるま落としのように短くなった首に乗っかり膝から崩れ落ちていた。
向かいの建物の上に着地し、自分の両手を見る。刃は根本からバッキリ折れていて、柄の一部は巨人と接触したのか肉の一部が付着している。
その肉をつまんで投げ捨てると、14班のアルミン、ミカサがこちらに飛んできた。
「フレディ! 大丈夫!?」
「急に飛び出すなんて貴方らしくない。それに、あそこまでの腕力があったとは......」
「ご、ごめんごめん。ちょっと、いや。かなり取り乱した」
うなじだけでなく、首もろとも切り飛ばしたのを見たミカサが驚いてオレの腕を見る。
オレもこの体がこんな馬鹿力が出せたことに驚きだ。でも、全力で剣を振ったお陰か自分でもわかるくらい頭に血が登っていたのがスッキリしている。そのせいか、刃一組を一撃でダメにしたことで自己嫌悪が。
「アニがミカサと一緒にボコスカ殴るから生まれた悲しき腕力なんですよね!? 大丈夫ですか!?」
「わ、私!? 関係ないでしょ、ほら手見せてみなって」
「どうしよう、今から補給室に戻って刃だけ取ってくる? それか私の渡すけど」
「背中のそれさえなければまだ決まってたね」
「ありがとう皆。ルース、やっぱリコちゃんに口利きするの辞めるね」
皆から心配されて涙腺が熱くなる。でも、トーマスが死んだ事実は変わらない。安否を気にしていた一人だ、でもあんなに冷静さを失ってしまう自分が。そして、抑えようのない衝動が体に刻まれたモノなのかと考えると、少し恐怖すら感じた。
腰に縋り付いて「お願いだからそれは簡便! 変人扱いされたくないから何卒口利きを!!」と必死にお願いするルースの肩に手をおいて引き剥がそうとするが、全く離れない。今更失言を悔いても遅いぞ小娘!
そんなやり取りをしていると、激しく胸を叩き慣らしていた心臓がようやく普通のリズムで鼓動する。と、今まさにルースがゴマをすっておきたい人物の声が聞こえてきた。
現在公開可能な情報
アルフレッド・ガイスギーチは、もともと人間離れした力を発揮するミカサ・アッカーマンの打撃、アニ・レオンハートの放つ鋭い蹴り、体格差の大きいライナー・ブラウンのタックルをモロに受けてもピンピンしていられるほど頑丈さには定評がある。むしろ気持ち的な問題か、女性二人からの攻撃には逆に元気になる始末。
彼自身の単純な力はミカサ・アッカーマンやライナー・ブラウンに劣ると思われているが、ある条件が揃えばその二人を遥かに凌駕するとキース・シャーディス教官は分析している。その条件とは、彼を苛立たせる等してやる気を出させること。
一度、アルフレッド・ガイスギーチは昼食を食べそびれた状態でライナー・ブラウンと対人格闘訓練を行った時。アルフレッド・ガイスギーチを制圧しようとしたライナー・ブラウンだが、空腹とライナー・ブラウンと訓練することの苛立ちからアルフレッド・ガイスギーチが軽く頬にビンタを放つと、ライナー・ブラウンの巨体がゆうに5メートルは宙に舞い直前の記憶障害を起こす事態になった。
この怪力は両親が先祖代々受け継いたものであり、母方には人間三人分の剣を扱った者、父方には巨木を引き抜いて戦った者など、様々な怪力自慢が存在している。
その話をガイスギーチ家の歴史文書及び王家の文書で知ったフリーダ・レイスは、アルフレッド・ガイスギーチ自身が無意識にその力を抑えようと、関係のない軽口を叩いて気をそらし手加減をしているのではと考察している。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー