祝福の異端審問官   作:覚醒不知火

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第5話 親友と地獄

科学技術とは人類の英知の結晶である。

悪魔が大挙侵攻してきている現在において帝国の戦線が崩壊していないのは、偏に人類の科学技術により生み出された高性能な兵器の活躍によるものだ。

 

帝国において科学は異次元由来の力に対抗できる人類固有の物として取り分け重要視されている。

だが新たな技術を開発する科学者達は強い知識欲の持ち主でもあり、時折異次元の神々を崇拝し、異次元に存在する未知の物質や神々の持つ無限の知識を欲する事があるのも事実だ。

 

 

 

帝都の郊外に存在する研究室において白衣に身を包んだ、とある科学者がある実験を行っていた。

周囲に人はおらず、実験設備や宗教的な置物があるだけだ。

 

「後は・・・これを調整すれば」

 

科学者は独り言を呟きながら、目の前の機械を操作する。

幾つかの数値を調整した後、最後に科学者はレバーを引く。

 

「さあ!来い!未知なる異次元の存在よ!そして私に知識を授けろ!」

 

レバーが引かれたその瞬間、部屋の中心から青い光が発せられる。

 

「おお・・・」

 

光は少しずつ大きくなっていき、やがて一つの存在をこの世に現出させた。

その存在は異形と呼ぶべき者だ。

 

人間の様に四肢を持つが、肌は青く、手と足は爪は鳥の様になっている。

胴体は筋肉質で牛の様であり、肝心の頭は鳥の様なくちばしと牛の様な角で構成され、人と牛や鳥を掛け合わせた正に亜人と言うべき存在だった。

 

「やはり理論は間違っていなかった!あの天啓は正しくエキ神の掲示だったのだ!」

 

科学者はそれを見て目を血走らせながら狂喜乱舞し、手を合わせて神に祈る。

 

〔guu・・・・〕

 

「さあ異次元の使者よ!更なる知識を私に与えてくれ」

 

〔・・・a〕

 

「技術の無断開発に亜人の召喚・・・それをこの帝都でやるとはいい度胸だな」

 

「っ!」

 

その瞬間、部屋の入口から女性の声が響く。

科学者は驚愕しながら声の方向に目を向ける。

 

「異端審問官・・・っ!」

 

そこに居たのは返り血に塗れ、ロングソードを背中に背負った青髪の異端審問官であった。

 

「馬鹿な・・・腕利きの傭兵団を雇い警備の任務に就かせていたはず・・・」

 

「ん?・・・こいつらの事か?」

 

黒髪の審問官は科学者に向かって左手に持っていた複数の首を投げる。

 

「くっ・・・」

 

「ヨハン・マイヤー三等技術官、貴様を異端の容疑で逮捕する、無駄な抵抗は止めろ」

 

「くそ・・・くそ・・・捕まってたまるか!私の研究の偉大さを理解出来ぬ貴様らなどに!行け異次元の使者よ私を守れ!」

 

〔gugaaaaaa!!〕

 

科学者は亜人に命令し審問官に襲い掛からせた。

 

「無駄な事を・・・」

 

審問官は剣を両手で構えると、亜人を迎え撃つ姿勢をとる。

両者が接触しようとしたその瞬間、亜人の身体は頭から真っ二つに切断され、床に発光する青い血が広がった。

 

「亜人如きで審問官は倒せん」

 

「ひっ・・・!」

 

剣を科学者の首に突きつけ審問官は言う。

 

「もう一度言う、無駄な抵抗は止めて投降しろ、協力次第ではその無価値な命が助かるかもしれんぞ?」

 

「あぁ・・・」

 

科学者はその場にへたり込み、恐怖のあまり気絶してしまった。

 

「全く・・・末端とは言え科学庁に此処まで異端者が多いとは・・・今回で五人目だぞ」

 

審問官は剣を収めると懐からライターを取り出し、部屋に火を付ける。

火が部屋中に回る前に気絶した科学者を担ぎ建物の外に出た。

 

「いくら何でも多すぎるな・・・先日の暴動からあまり時間も経っていないと言うのに・・・」

 

時刻は夜であり、空には月と星が浮かぶ。

科学者を担ぎながら、空を見上げる審問官は月を見て呟く。

 

「・・・あいつにも協力して貰うか」

 

 

 

 

 

悪魔はどこだ?

早く殺さないと・・・殺さない・・・

 

『ねえラウラ・・・見て、私の腕がね増えたんだよ・・・これで武器をいっぱい持てるね』

 

違う、変異は喜ぶような事じゃない。

早く・・・切り落とさないと。

 

『あそこに食べ物がいっぱい・・・あれを取ってきてくれないか?腹が減ったんだ』

 

あれは幻覚だ。

この場に食料はもう殆どない。

 

『痛い・・・痛い・・・止めてくれ』

 

消毒した包帯に変えないと感染症を引き起こします。

皮膚が剥がれるのは激痛しょうが・・・

 

『お願いだ・・・殺してくれ、私はもうこんな場所、耐えられない』

 

諦めないでください。

何時か戻れますきっと・・・

 

『もう、あいつは無理だ・・・これ以上苦しめるくらいなら・・・いっそ』

 

分かっていますよ・・・

私が楽にしてきます。

 

 

『何故こんな事が起こったか分かるか?貴様が祝福されし愛し子だからだ』

 

違う!私は異端審問官だ!

貴様ら悪魔は嘘をついている。

 

『愛し子よ、祝福を受けよ神々はそれを望んでいる』

 

黙れ!

そのふざけた口を縫い合わせてやる!

 

『認めたらどうだ?自分の定めを』

 

うるさい!

私は愛し子などではない!

 

『この惨状を見てもそれが言えるか?お前の運命故に皆死んだぞ』

 

違う・・・

 

『何が違う?お前が愛し子である事実は覆らない』

 

止めろ・・・

 

『お前は神々の愛娘なのだ』

 

ちがう・・・私は・・・

わたしは・・・

 

 

ピーピーピー!ピーピーピー!

 

「っ!」

 

スピーカーから発せられる激しい音によって私の意識は一気に覚醒した。

悪夢を見ていたせいか全身が汗をかいている。

服と髪がべたつき不快感が体を覆う。

 

『リヒター審問官、呼び出しが掛かっています、宿舎一階にお越しください』

 

放送によって完全に目が覚めた私はベットから降り、冷蔵庫から水を取り出し喉の渇きを潤す。

コートに手を伸ばし羽織ろうとしたが、途中で手を止める。

 

「・・・シャワーだけでも浴びますか」

 

自分の不快感はいいとしても、流石に汗だくで赴くのは失礼に当たるだろう。

着ていた服を脱ぎ浴室に入り、ハンドルを捻ってシャワーヘッドからお湯を出す。

 

シャワーを浴びながら目の前の鏡を見れば、傷一つなく不自然な程に美しい自身の身体が目に入る。

 

私は温度上げる事によってお湯を熱湯に変え、身体を焼く。

一瞬だけ熱さを感じ肌も赤くなったが、直ぐに熱さを感じなくなり肌の赤みも引き、火傷になる事はなかった。

 

「くそ・・・」

 

苛立ちを感じながらもシャワーを浴び終え、私は新しい服に着替えてコートを羽織り、武器を装備して部屋を後にする。

 

 

「久しぶりだな・・・ラウラ」

 

宿舎の一階で私を待って居たのは、ロングソードを背中に背負い青色の髪を持つ一人の異端審問官だった。

 

「・・・呼び出したのはあなたでしたか、レア」

 

レア・シュナイダー、彼女は私の訓練生時代の同期で私の数少ない友人だ。

もっとも彼女自身が私をどう思っているかは分からない、だがレナとは何度も共闘した事があり"あの時"も一緒に戦った・・・

 

「ここで話すのもなんだ、歩きながら話そう」

 

私達二人は宿舎を後にし、街路を歩く。

 

レアは私と同じ異端審問官だが、彼女と私は所属している局が違うため最近は会えていなかった。

そんな彼女が私に会いに来たと言う事は異端関連で何かあったのだろうか?

 

「それで私に何の用が・・・」

 

「お前、また痩せたか?」

 

「?」

 

「服の上からでもわかるぞ」

 

レアはそう言うと私の腹や腰回りを服越しに弄り始める。

 

「いやあの・・・」

 

「やっぱりそうだ、前会った時よりも胴が細くっている」

 

私の話を無視し、彼女は私の身体を触り続けた。

まだ会いに来た理由を教えてもらっていないのだが・・・

 

「固形物が食べれないと言っても、これは細すぎだぞ」

 

「・・・もともとあまり食べませんし、最低限の栄養は点滴と流動食で取ってますよ」

 

「だとしても食べなさすぎだ、これからはもっとカロリーを取れ」

 

「あなたは私の親か何かですか?」

 

レアは何故かやたらと私の健康を気にしてくる。

生命維持と戦闘に支障が出ない程度の食事は取っていると言うのに・・・何故だ?

 

 

 

 

ラウラ・リヒター、あいつは私にとって何にも代えることの出来ない親友だ。

訓練生時代にラウラと同室になった事と助けられた事が関係の始まりで、当時は異端者や悪魔相手に共闘したり、日常生活でも何かと行動を共にしていた。

コルヴィッツ訓練場での日々は辛い事が多かったが、それ以上に充実していて、頼れる親友や仲間に囲まれていた当時は本当に楽しかったんだ・・・

だが"あの時"・・・あの忌々しい事件が起き、訓練場ごと異次元に飛ばされた事によって私達の関係は激変する事になる。

 

異次元は地獄だった。

神々の領域である、あの世界には無数の悪魔が跳梁しており、度々私達をあらゆる方法で害してくる。

人間の常識や法則が一切通用しない現象は人間の精神を摩耗させると共に実害を及ぼす。

 

私達は仲間と共に善戦しあの地獄で何とか生き延びようとしたが、仲間は一人また一人と死ぬか精神に異常をきたして異端者に成り果てていき、遂には食料も底をつき始め、最早私達は狂うか自死を選ぶしかない所まで追い詰められた。

 

結局は色々あって私は事件の数か月後、ラウラは一年程前に現実へ帰還することが出来たが・・・

私達の関係は変わってしまった。

 

異次元から帰還したラウラを見た時、私は驚愕した。

美しい黒髪は白髪へと変色し、その体は固形物を受け付けなくなっていたのだ。

異次元に居てそれだけの変化で済んだのなら、まだ喜ぶところだが問題は別にある。

 

ラウラの身体が事件当時から一切成長していなかったのだ。

 

異次元は時間の流れが現実と違う、だが現実に比べて時間が長くなる事は有っても短くなる事は有りえない。

唯一考えられるとすれば、それは異次元の神々だろう。

奴らは余りにも強大でかつ人類には想像もつかない権能を有している。

 

実際、異端者達の中には神々を信仰する事によって、実際の年齢にそぐわない若々しい肉体を獲得した者や数世紀単位で生き続けている者もいる。

人間一人の身体的成長を止めることくらい奴らには造作もない事だろう。

 

神々は基本的に自分自身を信仰する異端者達以外に祝福を与えたりはしないが、何かの策略か気まぐれの可能性もある。

 

だが一つ確実なのはそれがいい物では絶対にないと言う事だ。

神々の祝福は一見すれば利益しかもたらさない様に見えるが、実際には違う。

祝福を受けた存在は神々の気まぐれによって身体が変異し、人の形を逸脱したり、決して満たすことの出来ない欲望に苛まれる事もある。

 

だから私はラウラの体調を常に気にかけている。

祝福による変異の兆候や精神の異常が出れば直ぐに対処できる様に。

 

 

「・・・そういった事はいいので呼び出した理由を聞かせて下さい」

 

ラウラは前に比べて素っ気なく、明らかに私と距離を離そうとしている。

 

「まあいい加減、話すか・・・実はな・・・」

 

だが私にとってラウラは何にも代替することの出来ない親友だと言う事は変わらない。

個人に入れ込むなど異端審問官として恥ずべき行為かもしれない・・・だが

 

・・・私は親友を失いたくない。

 

 

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宣伝省発行 無知なる帝国臣民必読教本(改訂版)

 

忠実なる帝国臣民諸君!ごきげんよう!

 

本書は異端審問庁、粛清局の検閲を経て改訂された!

本来は悪魔に関して解説する予定であったが、臣民諸君への精神的影響を鑑み、代わりに栄光ある帝国諸軍について解説しよう。

 

3. 帝国軍とは何か

帝国軍とは、我ら偉大なる帝国の揺るぎなき盾であり、悪魔と異端、そして帝国の敵を打ち砕く鋼の拳である。

 

この強大な軍隊は、陸・海・空の三軍と、それらを支える属国軍により構成され、それぞれが己の使命を胸に、日夜帝国の安全と秩序を守り続けている。

 

陸軍は数百万の兵士を擁し、帝国の神聖なる大地を守る主力である。

歩兵は軍の根幹を成し、ライフルと銃剣を携え、どのような環境でも任務を遂行する鉄の意志を持つ戦士たちである。

砲兵は重厚な火砲を操り、敵陣を圧倒する破壊力を誇り、如何なる敵とて彼らの前には塵一つ残すことは許されない。

戦車は鋼鉄の巨獣として前線を突破し、敵の防衛線を粉砕する強力な攻撃力を持つ。彼らの前に築かれた防御陣地など無意味である。

 

これらの部隊は常に連携し、帝国の敵に対して正義の鉄槌を下すのだ。

 

また本項では解説しきれないが、帝国軍には偉大なる海の覇者、帝国海軍や、大空の騎士たる帝国空軍も存在する。

彼らの活躍は後ほど改めて紹介しよう。

 

 

 

今日の戒め 栄光は、帝国軍と共に歩む者に訪れる

 

 

【挿絵表示】

 

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