僕の名前は斉木栗子。
超能力者である。
え? あの斉木楠雄の妹じゃないのかって?
何の話をしているんだ?
僕は元々「女」だ。
超能力を悪用して女性限定スイーツバイキングに並ぶために変身したんだろうとおもっているのかもしれないが、僕は戸籍も見た目も女だ。
僕の1番最初の超脳力はテレパシーだとされているが、それは僕が生まれて母と共に退院したあとの話。
実はそれよりも前から妙な現象があったと両親から聞いたことがある。
例えば僕が生まれる前に母の胎内の様子を見るとスライムだったりプーマだったり男梅みたいな顔をしていたりと……要するに胎児の時点で僕にはトランスフォーメーション、変身能力が備わっていた。
事前の検査では「男」として生まれるはずだったが、いざ出産の時に出てきた僕には「アレ」がついていなかったのだ。
一時は騒然となってしまったものの、機械の故障ということで僕はそのまま女の子として生を受けることになった。
生まれた瞬間に女だったのであれば、今も女として生活するのは当然のことだ。
ただ本来の性別は男であるためか、一人称は僕だし、趣味や好みも男の子寄りではある。
スイーツは男女問わず好きなやつと嫌いなやつがいるからどちらでも問題はない。
だが昨今は女性蔑視の時代を終えてむしろ女性優勢の時代が来ているためか、女性専用車両やレディースデー、相席食堂やマッチングアプリでは女性会員は無料といったサービスもある。
後者の無料に関しては女性の方が稼ぎが少ない、妊娠や出産で収入が落ちたり無くなったりすることを加味してのもので、決して女性が優位というわけでもないんだがな。
そんなわけでこの16年女性として生きてきた僕は女性として高度育成高等学校入学した。
クラスはDとこの学校では不良品として扱われるクラスだ。
僕としてはクラスなどどうでもよく、ただ目立たずに静かに過ごせればそれで良かったのだが、この学校は実力至上主義であり、弱ければ負け淘汰されるという仕組みになっていた。
これも僕にとってはどうでもよく、月々の生活が保証されていれば特に言うことはなかった。
ただ、このクラス恐ろしいほどに馬鹿だった。
過去に色々あったのは仕方ないにしろ、自己中心的な者が多い。
その上、教室や廊下、通学路、果てはスーパーやコンビニ、ショッピングモールに僕に対しての嫌がらせかと思わんばかりに大量に配置された監視カメラを見て何も感じない上に、クラスメイトの3分の1ではあるが生活態度も幼稚園児や小学校低学年のソレだった。
この学校では学内、学外問わずに常に生活態度が見られており、特に入学から5月までの1ヶ月間は厳しい目で見られると担任の茶柱先生が言っていた。
もちろん、心の中で。
そして減点方式で初めに与えられた1000ポイントから引かれていき、そのポイントの残り×100が来月の生活費になる。
超能力者の僕は実家で毎日衣食住を賄っているため問題はないが、本来貰えるはずの趣味のお金が無くなるというのは納得がいかない。
「じゃあ、櫛田さんの次の人、自己紹介お願いしてもいいかな?」
『斉木栗子。趣味は読書。よろしく』
(あれ? それだけ……?)
(なんか綾波レイみたいな子でござるな)
(メガネにショートボブであの感じどっかで……ああ、長門有希か)
どっちも世代じゃないだろお前らと思いつつ、僕は自己紹介なるイベントを早々に終わらせて、このクラスのまとめ役を買って出ようとしてくれている櫛田さんと平田のポストに『クラスの生活態度に気をつけさせるべし。遅刻、授業中の私語、携帯の使用、居眠りは高校生として恥ずべき』と書いた紙を投函した。
そして2人はその手紙を不審に思いつつも一理あると、僕の思惑通りに翌日にはクラス全体に注意を促してくれた。
しかし、それでも聞かないやつは聞かないもので、特に男子は初日にはゴミ箱を蹴り飛ばし、2日目から遅刻、居眠りと中々にやってくれる須藤を初めとして池、山内、本堂、外村が教師が注意しないのをいいことに授業中に喋ったり、関係の無いことをしていた。
女子はマシだが軽井沢、佐藤が中心になっておしゃべりをすることがあった。
僕はそれを不自然にならないように念力で抓ったり、椅子を蹴り上げたり、ケータイの画面を見たくなくなるように催眠をかけたりと超能力で止めてはクラスポイントなるものが減るのを必死に食い止めた。
須藤にはやや苦戦を強いられた分、トラウマを植え付けることができ、結果として5月には620と初期Dクラスを脱することができた。
はぁ、はぁ、超能力者を舐めるなよ……!
これで62000ポイントというお小遣いを手にすることができ、中間試験の退学など知ったことじゃない僕はルンルン気分でスイーツを食べに行こうとして、茶柱先生に声をかけられる。
「斉木、この後職員室に来い(チエから聞いた時は半信半疑だったが、まさか斉木があの斉木空助の妹だとはな)」
そういえば論文やらが大々的に発表されたりして知名度が上がったんだったか。
僕に負けることに興奮するというろくでもない変態ではあるが、やることはやっているんだな。
そんな天才の妹なら少しくらいはできるはずと思い込んでいる茶柱の期待を裏切ってアホの子を演じた。
カーテンに隠れていた綾小路に対して僕はこう言った。
『あれはダニエルです。ダニエルはとても背が高い。ダニエルは下駄箱に似ています』
知っていれば「いやナンシーだろ」と言われるようなことを言って職員室を出た。
目立つのは嫌だがここであったことは2人とも話さないだろう。どこかの施設の出身らしい綾小路は僕にかなり当惑していたが、気にしないことにした。
後から来た堀北さんと入れ違いになるが、彼女も茶柱に呼ばれたのだろう。
とりあえずは自分の過去の清算か、コンプレックス解消なのかは知らないが、生徒のことをAクラスに上がる道具だと思っている茶柱は教師とは思わないでおこうと、Dクラスじゃなくて今はCか。
CクラスがAクラスに上がる手伝いを拒んだ僕であったが、1つの問題が生じてしまった。
それは中間試験で赤点を取った生徒は即退学になるということだった。
退学になってクラスポイントが大きく減るということはないが、クラスメイトの数が減るということは今後行われるとされている特別試験とやらで大きな問題が生じると考えた。
それと1年生の1学期の中間試験にでのみ、過去問なる救済措置があるとこれまた茶柱からのテレパシーで聞いていたため、念写して取り寄せるもこれが本当に過去問か分からずに確かめるために確実に持ってそうな生徒会役員を尋ねた。
いたのは南雲雅という副会長で、テスト期間を迎える中でアポなしでやって来た僕を怪訝な目で見ていたが過去問の話をすると「へぇ」と興味深そうに頷いた。
「過去問を見せてやってもいいが、タダとはいかないな(元Dクラスなら確かに過去問はあった方が有利に進むだろうが……それにしても時期としては早すぎるな。まだテストの存在が公にされたばかりだろ。なんでそんなことがわかるやつが初期Dクラスに?)」
面倒くさそうだったので3年生の橘先輩にでも借りようと一礼して引き返すと南雲は引き止めてきた。
「おいおい! 待て待て! お前から言い出したんだろうが! なんで帰る!?」
だって、お金取るんでしょと卑しい矮小な男を見る目で南雲を見ると、何か気に障ったのか「うっ」とダメージを受けていた。
(なんだあいつ、俺をケチくさそうって目で見やがって……!)
実際ケチくさいというかケチだろ。
学年を運営する上でポイントは大事なんだろうが、入学したばかりの1年生からポイントを巻き上げるだなんて束ねる王の程度も知れる。
これなら3年生の方がいい返事をくれそうだと僕は無言で生徒会室を出ようとする。
「何の騒ぎだ? 外まで聞こえていたぞ南雲」
そう言って入ってきたのはこの学校の生徒会長を務める堀北学と僕が探そうとしていた橘書記だった。
僕は運がいいねと早速先程の話を橘書記に持ちかけた。
別にくれなくていいから過去問見せて欲しいんですと頼み込むと押しに弱いのか、彼女は「それくらいなら……」と見せてくれようとしたが、堀北会長が止めてきた。
「待て、橘」
「は、はい」
(この斉木栗子と言ったか、なかなか面白そうな生徒だ)
また変なのに目をつけられたかと思っていると、堀北会長はPDF化した過去問を見せてきた。
「それで? お前はこれをどうしたいんだ?」
念写過去問と照合もしたいから、買い取らせてもらいたいが、せっかくもらったポイントを過去問購入に使うのは勿体ないな。
確認するだけなので、1教科だけにしておこうと、1教科だけならいくらか訊いてみる。
「何? 1教科だけ? (苦手科目だけに絞るのか? もしくは4月にポイントを使いすぎたから出し惜しんでいるのか?)それは構わないが、こんなに早く過去問の存在に辿り着いたのは俺の知る限りでは歴代でもお前が初めてだ。そうだな……(今は南雲もいるし、あの話はできないな)」
あの話?
「いいだろう。条件付きだがタダで譲ってやろう」
生徒会に入れ。
入らなければ渡さんとか言わないだろうなと訝しんでいると、堀北会長は微笑を湛える。
「お前のような優秀な生徒は生徒会に入って欲しいところだが、無理強いは趣味じゃない(過去問の存在に気づいた洞察力、そしてそれを確かめるために俺のところまで来る行動力。しかも元Dクラスとはいえ、過去問の存在に気付けるだけの知力があるのであれば、これからテスト範囲の変更があることを含めても赤点を回避できるはずだ。なのに、1教科だけ欲しがるというのがどうにも解せない。まさか、他のルートから過去問を入手しているが、それが本当に過去問なのかが分からないから確かめるために俺のところに……?)」
キッショ、なんでわかんだよ。
パカって制御装置が開きそうになったぞ。
「会長本気っすか? こいつ元Dクラスって言っても多分身体能力とかコミュ力が下の方なだけで頭は良さそうですけど、そんな会ってすぐにスカウトなんて(俺ですら申し込んでからだったのに)」
「そ、そうですよ、会長(堀北くんが認めた!? 名誉なことではあるけど、女の子ってのが……)」
役員2人は気に入らないみたいですよと指を指すと2人から「先輩に指を指すな!」「先輩に指を指さないでください!」と怒られてしまう。
「ふっ、その生意気さ、是非とも生徒会に欲しいところだ(もしかすると、こいつは将来高育を背負って立つような生徒になる気がするが、まぁいい)交換条件というのは大したことは無い。1年生がこの学校についてどう思っているか、それをまた1学期が終わる前か夏休み中に聞かせて欲しいだけだ(と言っておけば、1年の役員がいない今なら、南雲は特に警戒しないだろう。連絡先の交換が条件だったが、過去問を送る時に交換できるから、わざわざ言う必要もあるまい)」
生徒会役員に生意気さはいらないだろ。しかし、生徒会長はどうにもこの南雲とやらを警戒しているらしいな。
まぁ1年でクラスどころか学年を支配下に置いているという統率力やカリスマのようなものは脅威かもしれないが、それは堀北会長にもできそうなことではある。
その話はまた後で聞けばいいだろうと、堀北会長からの申し出を受け入れた僕は過去問を受け取ることに成功する。
全く同じ問題が出る過去問があればクラスのヤツらの赤点はなんとかなるだろう。
対策やら勉強会はまたあの2人に丸投げすべく、ポストに入れておき、僕は僕でのんびりとさせてもらうことにした。
過去問と退学者を出さないように勉強会を実施しろと書いた紙が入っていたことに当惑しつつも、案の定、2人はこの過去問の存在を公にはせずに、勉強会を開くことを提案した。
ただ赤点組こと須藤と池と山内は事の重大さが分かっていないのか勉強会には参加する姿勢を示さなかった。
しかし彼らのことは堀北妹が綾小路と何とかすると言って引き受けてくれたため、僕は完全に出る幕なし。
そうなるはずだったが、この1週間後に並木道にある自販機の近くで堀北兄妹が喧嘩になる。
綾小路が仲裁に入って大事にはならなかったが、妹の方の堀北さんが2年前から何も成長していないことを見た目から判断した堀北会長は心底ガッカリしたとメガネのブリッジを上げた。
「お前には失望したぞ、鈴音。まるで何も成長していないな」
「そんな! 違います! 取り消してください! 私は……!」
「断じて取り消すつもりはない。俺の言ったことは間違っていない。間違っているのはお前だ」
マグマを纏い、日輪刀を構えてそうなセリフを吐いた堀北会長は妹へと言い放つ。
「同じ元Dクラスでも斉木という生徒とは大違いだな」
(斉木さん?)
(斉木が?)
おい、何余計なことを言おうとしているんだ?
「そのうち分かる。お前らが真に不良品ではないのならな」
意味深なことを言って寮へと引き返した堀北会長のせいで、僕はその次の日から2人にマークされる羽目になった。
「斉木さん、少し話があるのだけれど構わないかしら? (こんな地味な子が兄さんに認められる何かを持っていると言うの?)」
(斉木か、話したことは無いが、気になる生徒ではあるな。常に読書しているが、時折高円寺に絡まれている。あの自由人でクラスメイトのことなんてどうでもいいと思ってそうな高円寺がだ。それに生徒会長も目をつけているとなれば何か……)
今までは特に目立たない読書ガールとして過ごしてきたと言うのになんという醜態だ。
オーマイダーティー。
とりあえず、僕は迷惑顔をしておく。
「何、その顔は? 言っておくけど拒否権はないわ」
(堀北はすごいな。オレでも分かるくらいに迷惑そうな顔をされているのに……)
そんなんだから兄貴に成長してないと思われるんじゃないだろうか。
孤高と孤独を履き違えてこのまま孤立することになるぞ。
僕は『やれやれ』と読んでいた本を閉じずに堀北妹へと言う。
『人に何か頼み事をするには幼稚園児や小学生でも知っている大切な7文字があるんだが、ご存知ないか?』
「は? 何を言って」
本を持っている方の逆の手の指を折りながら僕は言う。
『お、ね、が、い、し、ま、す、だ。それも分からないような人からされる話は聞く気にならない』
「なっ!」
なっ、じゃねぇよ。
お引取りをと綾小路も含めて言うと、わなわなと震える堀北妹に綾小路が声をかける。
「(まぁ、斉木の言う通りだな)堀北、どうする?」
「いいわ……(こんなのに兄さんが……?)兄さんはそのうち分かると言っていたし、お手並み拝見といきましょう」
君に見せる手なんてないな。
少なくともあの赤点組を勉強机に向かわせられないうちは。
(斉木栗子、堀北の傲慢な態度もアレだったが、思ったよりも肝が据わっているというか、豪胆だな。この前の職員室での発言は未だに分からないままだが……なにかの暗号だったりするのか……? 綾小路も清隆もダニエルという名前とは一切関係ないはずだが……)
綾小路からの興味が少し上がりつつあるが、あいつは必要以上に声をかけてくることはないだろうし、今はダニエルで頭がいっぱいなので放置でいいだろう。
放課後の図書室はテスト前だし混むだろうから今日は自室で過ごすか。
もちろん実家の方と考えていたが、同じく読書の趣味を持つ椎名さんに桜餅もあるから是非とお呼ばれしたので、仕方なく、本当に仕方なくお邪魔することにするのだった。
栗子ルートとDクラスルートどっちも書きたいな〜うーん、合体ッ!!
って感じ
目立ちたくないって言いながらも変なこと言ってるけど……まぁ仕方ないってやつだ。
アホの子を演じるためには陣内か、アホのヨシコの2択だったからな……。
栗子の見た目は原作に制御装置ぶっ刺した以外変更点はなし。
綾波レイや長門有希みたいな感じの女の子。
ボクっ娘。
クラスメイトからの大体の印象▶︎地味だけどよく見たら可愛いミステリアスガール
堀北、茶柱からの印象▶︎なんなのこの人……/なんなんだこいつ……
綾小路▶︎面白そう。完全に未知の人間
高円寺▶︎私の勘が言っている。彼女は私の渇望を満たせるかもしれないとねぇ!(だがめちゃくちゃ雑にあしらわれている)
他クラスや他のクラスメイトはまた次回
明日は僕の住む地域で雨が降ればこちらか2年生編の投稿はあります
降っていなければないです