セイア「君が望むのなら、殴り合うとしよう、ナギサ」 作:Rayu278
移動したのは、正義実現委員会が居た為だ。処遇を考える為としてネルを連れ、揃い踏むティーパーティーの三人と共に訪れたのは、いつものテラス。
茶会の予定の無い夜のテラスは、いつも通りの静けさに包まれている。青みがかった空に浮かぶ朧月は、今日も晴れずに淡い光を降らせ、同じく静まり返ったトリニティをわずかに照らしている。
「………」
先頭を歩くセイアさんが、中央に置かれた丸机の横を通って、その奥に立ち────静かに、私達の方へ振り返る。
「随分と……熱が入っていた様だが」
言葉の端々に滲むのは、どこか怒りに似た色の様に思えて。
「……話をしましょう。腹を割って、真剣に」
それは此方も同じ事。何故、ネルの事を隠していたのか。納得のいく説明を要求するのは当然だと、セイアさんを見つめる。
「……ミカ、つったよな。端、寄っとくぞ」
張り詰めた雰囲気に居心地の悪さを感じてか、ネルは私の前を横切ってテラスの端の柵に背を預けた。
「……なんで私も?」
「あたしが一人になると、集中して話もできなそうなお嬢様がそこにいるんでな。逃げやしねぇけど、お前が見張ってりゃ邪魔にもなんねぇだろ」
……嫌味ったらしい言葉に、再び胸の内が軋む音がした。眉間に皺が寄ったのを自覚し、目を閉じて深呼吸で紛らわす。
「ネルさんの事。ミレニアムであった事。洗いざらい、話していただきます」
「……聞けば考えを改めると言うのなら、やぶさかではないが。君にそのつもりがあるのかね?」
「考えを改める、とは?……私の、何がそんなに気に食わないのですか?」
「EXPOの前にも飽きるほど言ったはずだが、これだ。言葉を紡ぐだけ無駄ではないかね」
「……そうやって逃げに走るのは、話し合いの放棄ではありませんか」
「……君に守ってもらう必要などない。そう言ってやれば満足か?」
「………それこそ、何度も言ったはずです。事実に基づいた判断ですから、感情の問題ではないと」
「私が示した行動を無視して『感情の問題』────私の我儘だとでも、言うつもりか?」
────駄目だ。これでは、何も変わらない。
揚げ足の取り合い。理不尽の応酬。不快感のぶつけ合い。真っ直ぐ目を見て話そうとしても、取り合う気が無いのだからどうしようもない。
……しかし。自覚したから何だという話だ。「互いに」胸を開かなければ、結局は同じ事。
心に靄がかかる。もや、もや。胸が詰まる様な感覚。何か、どうにか────
『────ナギちゃんも殴り合ってみたら?結構スカっとするよ☆』
「……セイアさん」
声調を、一つ落とす。落ち着きを保ったまま、よく言葉を選ぶ。
「私達は、どうやら……度が過ぎて頑固な、分からず屋の様です。…事ここに至って、まだ意地を張らずにはいられない。互いに譲らず、自分を貫こうと必死になってばかり……」
眉を顰め、静かにこちらの話に耳を傾けるセイアさんに。声が震えないように、腹に力を入れて────続ける。
「状況は違いますが……言葉が意味を成さない時、セイアさん。────貴方自身がした事を、忘れてはいませんよね」
「……!」
表情が、変わる。驚きを含んだ物に。目を、大きく見開いて。
「……そうか」
何かを考える様に、目を閉じるセイアさん。
数瞬。声を上げるべきか迷いを残したまま、口を開こうとしたその時。
「確かに、それも手だ」
そう言いながら、膝を曲げて足を持ち上げ、後ろ手で靴を脱ぐセイアさん。
白いタイツに包まれた両足が、冷たい筈のテラスの床に触れる。が、目を閉じたセイアさんの表情からはそれに対する反応は見て取れない。
「……あぁ。そうだね。言葉が意味を成さない時────言い得て妙だ」
続いて、袖を結っている紐に指をかけ、ゆっくりと引く。ボリュームのある付け袖が、ぱさり、と音を立てて地面に落ちた。
目を伏せたまま、ゆっくりと。丸机の外側から回り込むように、私の傍へ、セイアさんが来る。
「……あぁ」
見下ろした顔。見上げる顔。視線が交わり、たじろぐ私に────セイアさんは、告げる。
「君が望むのなら、殴り合うとしよう、ナギサ」
「っ……!」
自分から売った喧嘩でありながら、私の握り拳は震えている。その私よりも一回り以上も小さいセイアさんは、何故か覚悟の決まった表情で、真っ直ぐに此方を見据えているというのに。
拳を交えての喧嘩など、生まれてこの方した事が無い。トリニティの生徒たるもの、上品たれ────17年と少し。そんな物とは全く無縁の人生を貫いてきた私の背を、言葉に替え難い恐怖が這い上がる。
「……どうした。君と私の考えを折衷しても、納得の行く答えが出なかったんだろう。ならば、私の頬に一撃喰らわせてでも、君の信念を貫き通す必要があるのではないかね」
そうやって、滲む汗の不快感を感じながら、必死に悩んでいる私にぶつけられた言葉を聞いて。…かちん、と来た。自分は二度目だからと言って、簡単に物を言う。
そうだ。私はミカさんじゃない。力の制御が必要な程、自身の天賦の才に困らされてもいない。そんなもの、ひと欠片も持ち合わせていない。
「…覚悟は、宜しいですね…!!」
「何度言わせる気なんだい…。…ああ。いつでも来たまえ」
その言葉を皮切りに。握り直した、細身の拳を。踏み込んだ足の、勢いのままに。
大きく、横薙ぎに振るう────
……直前。セイアさんの姿が、私の視界から、消え────
「────っ゛あ゛」
露わになったセイアさんの細腕が腹部に突き刺さり、私の身体が、くの字に曲がる。
「────どうした」
力の入っていない腹に加えられた一撃。じんわりと痛む腹を抱え、咳き込む私に────セイアさんが言う。
「お求めは、殴り“合い”だろう────?」
沸々と、湧き上がる感情がある。それが、ゆっくりと顔を覗かせる。
私は、激情家だ。それはいい加減に認めなくてはならない。
学園を統べる立ち位置、ティーパーティーという席に座り。微笑みの仮面を貼り付け、皆の規範と、手本となるべく抑えつける事を選んでも────本来の人間性を隠し切るのは、並大抵の事ではない。
それを私は、欠点だと、思っていた。
……膝をついてはいられない。反骨心が、よろける体を支える。
脳が、興奮状態に移行する。腹部に溜まった熱が全身に行き渡り、沸々と湧き立つ錯覚。
顔を上げる。澄ました顔の狐が、幾分か私よりも小さい筈の、彼女が────此方を見下ろしている。
足に、改めて力を入れ直す。緊張は無い。握る手は、怒りに満ちている。
彼女への怒りではない。自分自身の情けなさに対しての物だ。
「う、あぁっ!」
「!」
銃声と同時に地を蹴り出す、徒競走の様に。……と言っても、その経験は無いのだが……。生まれて初めてのスタートダッシュに、バランスを崩しかけながらも────持ち上げた腕を、もう一度────ッ!
「ぐ」
横薙ぎに振るった腕は、セイアさんの横腹に。咄嗟に噛ませた細腕で防がれる、も────華奢な腕では衝撃を殺すに至らず、彼女の歯の隙間から苦悶が漏れる。
「ぅ……ッ」
そして、それは。生まれて初めて「殴る」という行為をした私にも、跳ね返る様に。
────痛い。
簡単に折れてしまいそうなセイアさんの腕でも、通った骨は信じられない程に硬い。これでは、ただぶつけただけと同じ事ではあるまいか。
じん、じんと痛む。ほんのり赤みを見せる素肌が目に入り、眉間に皺が寄る。こんな事を、どうして────と、抵抗が顔を見せた、瞬間に。
「あ、ぁあッ!」
顔面に、鋭い衝撃。ぐらり、と視界が揺れ、一瞬で思考を吹き飛ばす破裂音が響いた。
それが、セイアさんの平手の反撃によるものだと気付くまで、数秒の後れを要する程に。
────何を、考えていたんだったか。
「こ、のっ…!!」
先程の抵抗感は、どこへやら。一発、やり返してやらなければ。そんな思いに身を任せ────平手を、返す。
全くの、低次元。
ネルとミカ、方向性は違えど、疑うまでもない二人の実力者の目に映るのは、児戯にも近しいがむしゃらな喧嘩だ。小柄で華奢な身体のセイアが、どれだけ頑張ろうとその殴打の威力はたかが知れているし、負けず劣らず非力なナギサも、体格差を全く活かせない素人丸出しの立ち回り。
「………へぇ。アイツ」
しかし、百合園セイアの動きに注視していたネルは、直ぐにそれに気づく。彼女の動きの一部は、ネルの癖を真似た物だという事に。
所詮は素人の猿真似。膂力もスピードも比べるまでも無いが────条件が素人同士の殴り合いである以上、その付け焼き刃の技術も立派な武器として作用している。
ミレニアムで過ごした数日間の、その中でもたったの数回ネルの実力を目の当たりにしただけにしては、良く出来た動きと言えるだろう。箱入りのお嬢様でなければ、あるいは────セイアの虚弱体質を詳しく知らないネルは、そんな事を考えながら静観を続ける。
「ナギちゃん……」
隣で、同じく二人の格闘を見つめるミカ。止めるつもりなら彼女にとっては易い事。間に入って二人の腕を掴めばそれで仕舞いだ。
そうするつもりが無いのは、彼女が知っているからだ。極限に追い込まれ、煮詰まった物の考え方が解き解されていく感覚を。思い返せばあの時は、殴り合いの喧嘩と呼ぶにはあまりにも一方的だったと、内心で苦笑いをしつつ。
どこか冷静さを失わないセイアの動きに違和感はあれど、それよりも目を引かれるのはナギサの方だ。声を荒げて怒る姿は、17年と少しの間に幾度となく見かけたが────あそこまで鬼気迫る表情で事に望むのは、いつぶりか。
願わくばどうか、自分の時の様に良い方向に着地しますように────そんな祈りを胸に、彼女もまた静観を続ける。
軽い打撃音と、どこか気の抜ける雄叫びと、苦虫を噛み潰したような悲鳴が、テラスに響く────。
「あ、ぐっ…!」
真下から垂直に顎を撃ち抜かれ、視界がブレる。世界からほんの一刹那色が抜け、ちかちかと明滅しながら、遠のく意識を何とか引き戻す。────ここで倒れる訳には、いかない。
やけに鉄っぽい味の唾液を飲み下す。おそらく口内を切ったのだろうが、痛い箇所が多すぎて分からない。────だが、折れない。
「────ぁ、あぁああ゛────ッ!!!!」
ふらついた身体。前傾した上半身を起こさず、そのままセイアさんの方へ走り出す。手足でだめなら、身体でぶつかりに行く。ここでようやく、私は自身と相手の体格差と言うアドバンテージを自覚した。
「う、ぐ………っ!!」
突き出した両手を受け止められ、取っ組み合う形。顰め面、目線が交差する。
負けない。負けられない。そうやって歯を食いしばる私の顔を見る、どこか冷静なセイアさんの表情。
何故────?
そう、言っているように感じて。
「────こっちの、っ…!台詞、です、…!!」
曲げた肘を、体重を乗せて、一気に伸ばし、相手を突き飛ばす。
声も上げずに吹き飛んだセイアさんが、背中から地面に倒れた。此方を睨みつける彼女の顔に、鼻血が伝う。
「どうしてっ!!どうしてそうも、頑なになって、私の…私を!!」
気を遣う余裕も無い。頂点に達した激昂をこの場で発露しなければ、ぐつぐつと煮えたぎった腹の内が熱くて堪らない。
「私から、離れようとするんです!!」
「────君が、それを言うか!!箱庭に閉じ込め、保護と称して一人で先を往こうとする君が、私に、それを!!!」
跳ね返る怒号が、びりびりと空気を揺する。
「────っでは、着いて来れるのですか!!?何の根拠があってそう言い切れるのですか!?一度や二度上手く行ったからといって手放しに任せられる程、貴方の身体が強くないのは事実でしょう!?」
殴り。蹴る。一言、叫ぶ度。互いに。
「ならば君は、このままずっと私を蚊帳の外にするつもりか!!一人では限界がある事位、これまでで嫌と言う程学ぶ機会はあったろう!まだ分からないのか!?君一人で突き進む事の非効率性を!!」
必死に、叫ぶ。体裁もへったくれもない、醜態を晒しながら。
「私一人を使い潰して事足りるのなら十分でしょう!!」
「自棄の精神など唾棄すべき悪徳だ、ふざけるな!!!」
最早躊躇いも、言葉選びも無い。口汚い本心を乗せて、思いつく限りの暴力と共に。
届け、届けと。そう、女々しい願いを裡に隠し。
「傍に居る貴方に気を遣う余裕なんて無い!!なぜ、なぜ────っ!」
「その負担を私も背負うと言っているのだろうが!!────何、故……!!」
振るった、拳が、交差して。
「「どうして────私を、信じない!!!」」
互いの頬を────撃ち抜く。
口から垂れる血を拭う、ナギサ。鼻から垂れる血を払う、セイア。
鋭いクロスカウンターで開いた空間。その間に割って入る人影が、一つ。
「そこまでだ」
「…なぜ止める、ネル」
膝を着いたまま、鋭い目つきをネルに向ける。無謀と分かっていても、邪魔をするなら君であろうと────そう言いたげなセイアが、尾の毛を逆立てながら。
「興奮しすぎだ、セイア。────お互いに、言いてぇ事は言い切っただろ」
「………言いたい、事を」
深いため息の後、片手を挙げたネルは彼女の後方に立つ────ナギサとセイアを、誰よりも知る少女に、合図を出す。「後は任せる」────と。
「……はぁ。好き勝手搔き乱して、全部わかってましたー、みたいな顔でこっちに全振り?ムカつく。……まぁ、そうするつもりだったけどさ」
退いたネルの脇を通り、丸机に腰を預け────震える足を抑えて、立ち上がろうとするナギサの方へ、視線を向ける。
「……ナギちゃんは、セイアちゃんがいなくなるのが怖いんでしょ?」
「……は」
私は、激情家だ。一度頭に血が上ると暫くはそのまま、短慮を繰り返して後悔を積み重ねる幼い人間。それは、どれだけ強い立場になっても抜けない、私と言う人間の本質の一部。
感情に振り回され続ける様では、人は着いて来ない。此処に辿り着く道のどこかでそう思ったから、それに蓋をする事を覚えた。
紅茶が好きなのは、落ち着くからだ。香りが。味が。熱が。
湧き上がる怒りも、心沈む悲しみも、飛び跳ねたくなる様な喜びも────生まれた感情の凹凸を、出来る限り平らに均す為。平等で、誠実で、規範となる人間で居るべきだと。その為には、感情で動いてはいけないと。
「────エデン条約の時から、だよね。セイアちゃんから目を離さないようになったの」
トリニティにエデン条約の破綻を目論む“裏切り者“が居ると知った────セイアさんの死亡の報告を受けた時。
感情的になってはいけない。冷静に、ティーパーティーのホスト代理としてするべき事を。疑わしい人物を洗い出し、それ以上の被害を出す前に確実に事を終える。恙なく、エデン条約を成立させるために。
震える手で持ち上げたティーカップを口へ運び、じんじんと痺れた舌の所為で味も分からない液体の熱と、そこに含まれる微量のカフェインだけを、幾度となく喉の奥まで流し込んだ。
熱い目尻は拭って隠す。心を殺して事実のみを客観的に抜き出し、導き出した苦渋の決断を────嘲笑うかのように、世界は歪み、状況が変わる。
『────「あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ」……との事です♡』
『────「私達は他人だから」。ね、分かる訳ないじゃん?』
分からなくなった正解。信じられなくなった信念。────皮肉にも、私が無慈悲に排斥しようとした、補習授業部の皆さんに助けられたこの身で、何が出来るのか。
だから、先生の────皆さんの助力を得て、失ったと思ったすべてが。手放したと思ったすべてが、帰って来たあの明け方、日の下に決めた。
「私と、いっしょ。もう、二度と────」
「……二度と、同じ轍は踏まない」
感情のままに。隣人を愛する、心のままに。自分の、したいように。
理解し得ない他人であろうが、守りたい友人から手を離さない為に。
────あの一週間を乗り越えられたのは、紅茶のお陰なんかじゃなかった。
ただ、セイアさんが帰って来たのに、仕事が片付いていないだなんて────彼女の心配を助長する様な事には、なりたくなかったから。
ミカさんは満足そうに微笑んでから、セイアさんの方へと顔を向けた。
「セイアちゃんの方は……私との喧嘩の後くらいから、かな。────愚痴が増えたよね。聞かされるこっちの身にもなってほしかったなーっていうか!」
端的に言うなら、気に入らなかった。いつまで経っても、私を頼ろうとしないナギサの事が。無理していることくらい見ればわかるのだ、強がらずに頼ればいい。
件の“取引”以来、憑き物が落ちたように快方へ向かう身体。救護騎士団の言う通り快復とまでは言えずとも、既に最低限の業務くらいなら難なくこなせる程度には順調で。
だからこそ、もどかしかった。疲労を蓄積させ、それでも皆の前では何でもないかの様に振舞い、紅茶のカフェインで無茶を通して、夥しい量の仕事をやり過ごすナギサの姿を、指をくわえて見つめているだけの事が。
「だから、分かるよ。どういう経緯で、こんなに拗れちゃったのか。たくさん話を聞いたから、私は分かってる。────証拠が要る、って思ったんだよね。ナギちゃんの力になれるって、証拠が」
純粋に、君の力になれたなら。そんな内心を吐露するのが小恥ずかしい、と。それだけの、子供じみた理由だった。だから、私から言う前に君から認めて貰えばいいと。君が、手放しで私を頼る事が出来るようにと、口実を作りたかった。
そうして、がむしゃらに理由を求めて進むうちに────手段が、目的に挿げ替わっていた。たった、それだけの事。
それは、私が諭したあの時のミカと、同じ過ちではなかったか。
「色々あって戦力外な私が言えた事じゃ無いかもしれないけど……セイアちゃんは、賢いしさ。ナギちゃんに心配かけない範囲でも、ナギちゃんの助けになるのがどんな事か。……分かるんじゃないかな、って思って」
……愚直で、素直で、単純で。いつも通りの、楽観主義。机上の空論、理想論を、何の躊躇いも無く口に出す。
なればこそ、その純粋さに、どこか救われた様な心持ちの自分がいる様に思えて────。
「ははっ、酷ぇツラだな」
鼻血を垂らすセイアさんの顔に手拭いを押し付けながら、肩を貸すネル。同じく、アドレナリンが切れ、足の立たない私はミカさんの肩を借りる。
「……ナギサ」
おずおずと、セイアさんが声を上げる。
「……その。ミカが、代弁してくれた通り、だ。……少し、癪だが、異議は無い」
「セイアちゃーん?」
視線を泳がせるセイアさんの発言に、私の隣でミカさんが青筋を立てるのは置いておいて。
「……後生だ。手伝わせてくれ。君にも、偶にはゆっくりと休んでほしい」
ひとつ、深呼吸。友人の想いに、応える為に。
「……セイアさんの身体を心配するあまり、心情にまでは気が回っていなかったのだと、思います」
「────私が言えたことではないかもしれませんが……くれぐれも、無茶はなさらないでくださいね」