『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
それは、絶望的な光景だった。
『礼……を……言……う……これで……我は……完全体に……なれた……』
最強術である『シン・クリア・セウノウス』を打ち倒したと思ったら、その術が突然起き上がり、その身を異形の化け物へと変えた。
半ば呆然と見上げる二組のコンビを見下ろし、『シン・クリア・セウノウス』であった化け物は、その額を隆起させる。
「クリア!?」
それは先程まで戦っていたクリアの上半身だった。
『これは……抜け殻だ……既にクリアに蓄積した「力」は我の体に……全てを消滅する絶対的な「力」……「力」こそが我の本質……』
そこで突然、バリアに包まれたままのヴィノーが宙に浮かび上がる。
ちらりと見えたその瞳に理性は感じられず、魔本だけが光を放っていた。
『ヴィノー……お前も見事に完成した……生の心から調整し……限り無く心の力を生み出すエネルギー体となった……我が体の一部となって……人間界での生命を全うするが……いい』
ヴィノーの姿は『シン・クリア・セウノウス』だった化け物の胸元へと取り込まれていく。
そして無造作に、化け物の巨大な尻尾がガッシュ達へと振るわれた。
ブオンッ!
「うぉおおおおお!!」
スバァアアアン!
そんな雑な攻撃に当たるようなガッシュ達ではない。
ないが、避けた尻尾が当たった山をそのまま抉っていった事に、目を見開く。
明らかに消滅している上に、直接触れていない部分も消滅してしまっている……。
そもそもの大きさとしてまともに受けられそうにないにも関わらず、消滅の力すら備えているのだろう。
「なんだ……これは……この、魔力は……!」
たらりと、ゼオンの額に冷や汗が滲んだ。
いや、誰もがそれを見上げて焦燥の表情を浮かべている。
化け物が放つ圧力は尋常ではない。
魔力を感じとる事が出来ない人間の
それは何よりも、現状を作り出してしまった、清麿が顕著だろう。
隙と見て、
……結果、彼等の前には化け物が顕現してしまった。
「っ……! おい! デュフォー! 清麿! ボサッとしていないで指示を寄越せ! お前達の『
ゼオンが珍しく明らかな焦りを浮かべながら、言葉を並べた。
年相応な、不安を浮かべた表情で、すがるように。
勿論そこには、
デュフォーならば、『
そうして、いつもの平坦な声で指示を貰い、安心したかったのだ。
だが、その思いは、打ち砕かれる。
「…………ない」
ポツリ、デュフォーは視線を化け物から反らさず、目を見開いたまま小さく呟いた。
「な……に……?」
「答えが、『ない』……奴を倒す答えが……『出ない』……」
それは、ゼオンの記憶にほぼない程か細く、掠れた弱々しい声だった。
常に自信満々に……いや、当然の事だと言わんばかりに正しい道を指し示してきたデュフォーから出た声だと咄嗟に思えなかったくらいに。
ゼオンは驚愕を覚えながらも、視線を清麿へと向けた。
その懐疑的な……すがるような視線に清麿は歯を食い縛りながら、微かに首を横に振った。
本当に答えがない事に、打開策がない事に、ゼオンは頭を強く殴られたかのような衝撃を受けた。
デュフォーに視線を戻せば、目は化け物を見上げ続けて『答え』を出そうと試行し続けているようだ。
しかし、顔色は優れない……元より白かった肌をより蒼白に染め、その額には冷や汗が無数に浮かんでいる。
それは清麿も同じで、ギリギリと音が鳴る程に歯を噛み締め、険しい表情で化け物を見上げていた。
「……嘘だろ」
ゼオンは、頭を強く殴られたような衝撃を覚えていた。
これまで共に戦ってきて……デュフォーの出した『答え』が間違っていた事はなかった。
頼りきりになることこそなかったが、ゼオンが無条件で信じるものの一つだった。
ならば、今自分達は勝てないのか?
あのクリアだった化け物に負けて消されるというのか?
血の気が引く思いで化け物を見上げ、その威容に体に寒気が走り、手がカタカタと震える。
その瞬間だった。
「っ……! だが!」
「……ウヌ! 我々は勝たねばならん! 今この状態で奴を倒せる答えが出なければ、作り出すのだ!」
「奴に攻撃して、一番効果が出そうな場所が、あの化け物の眉間、クリアの額だ! その一点に力の限り、肉体の耐えうる限り攻撃する!」
清麿は諦めない。
僅かな可能性を信じて、現状を打開する為に、策とも言えない指示を打ち出す。
『答え』に繋がるかもしれないと、倒す『答え』を見つける為に。
隣に立つガッシュはその無謀とも言える指示を、思巡する間も無く頷き、従う。
その瞳に諦めの色は、僅かにも灯っていなかった。
「『最後の力の源』と見える球体を攻撃し続ければ、ダメージの蓄積から破壊への道が生まれるかもしれん! バオウの力も一点集中し、そこを撃ち抜く! 力を合わせて、一気に打ち砕けぇえええ!!!」
そんな二人が、 諦めず絶望に膝を折らず立ち上がる姿を見たゼオンは、目を見開いた。
その姿は、ファウードで相対した時に何度も見た姿だった。
何度も見た、瞳の輝き、不屈の闘志……。
本来、ゼオンとガッシュ、デュフォーと清麿の間には埋めがたい差が存在していた。
それが覆ったのは、二人が最後まで諦めなかったからだ。
幾人ものコンビがゼオンと相対し、消えていきながらも想いを繋げ……そして……。
「……弟に負けてばかりではいられんな」
ふと震えていた手を見下ろせば、その震えはもう……止まっていた。
「…………デュフォー、行くぞ。『シン・ソルド』だ」
「!? アレに近付くつもりか!?」
「ああ、それが一番適してるだろう?」
デュフォーは目を細めた。
確かに、人形の額という一点を狙うのに、『ジガディラス』は適しているとは言えない。
だが、そこには葛藤があった。
目の前の化け物に近付くリスクが、それでもなお答えの出ない不透明な状況にゼオンを向かわせるリスクが恐ろしかった。
「『答え』が出ないなら、俺がこの手で引きずり出してやる。俺達との戦いで『答え』を作り出したガッシュ達のように。……弟に出来て兄である俺が出来んなぞ、認められん。だから、頼むぞ、デュフォー! 俺達はまだ、明確な『答え』を見つけられていない!」
それでも、デュフォーが未知を恐れている事を察しながらも、ゼオンはそう言い切った。
自信に満ちた、真っ直ぐな、覚悟を決めた言葉だった。
ゼオンはデュフォーと暫し視線を合わせた後、即座に駆け出していた。
デュフォーならばやってくれると、全幅の信頼を置いて。
その背中を眺めたデュフォーは、一瞬だけ呆けていたが、ふと視界に入った清麿の持つ赤い魔本が、目映い光を放っているのが目に入った。
まだ絶望していない、諦めていない、心の力が強く込められているその光が……不思議と心地よかった。
「『バオウ・ザケルガァアアア!!!』」
ガッシュの放った雷の龍の帯電する体を駆け登るゼオンを見て、デュフォーもまた、覚悟を決めた。
既に死にかけているゼオンがこの攻撃の後無事でいられる確証はない。
それでもゼオンならば……きっと。
デュフォーの持つ銀の魔本が、目映い光を放つ。
ゼオンの姿が化け物の眼前へと辿り着いたその瞬間、その光は最高潮に達し、デュフォーの口が、大きく開かれた。
「『シン・ソルド・ザケルガァ!!!』」
常のデュフォーからは考えられないような、感情の籠った声だった。
ニヤリと笑みを浮かべたゼオンは、その手に現れた雷の剣を、強く握り締めた。
既に『バオウ』はクリアの額に、その牙を突き刺している。
雷の力の全てを牙の先に、その一点に集中して。
それに倣うように、ゼオンはその身を宙に投げ出し、その雷の剣を振り下ろした。
「クリアァアアアアアアアアアア!!」
ドォオオオオオオオオオオオオ!!!
ただ一点に、二人が受け継いだ王の雷の力がその一点に集約されていく。
魔界を救う為に、目の前の脅威を打ち倒す為に、その『答え』を作り出す為に。
「行け! 行けっ!」
「頼むゼオン!」
「砕けろぉおおおおおおおおおおおおお!」
渾身の力で、唯一の勝機を見出だす為に。
残る力、全てを絞り出すように……。
『……狙いは……良い』
クリアの抜け殻が僅かに瞳を開く。
『だが……やはり……圧倒的なのは……』
その口元が、弧を描く。
『力の差』
バシュウウウウウウウウウウウウ!!!
瞬間、化け物から放たれた全方位への消滅波が、無情にも『バオウ・ザケルガ』を粉々に打ち砕いた。
そして減衰する事もなく消滅波は、容赦なく清麿達に襲い掛かり、飲み込まんと迫る。
清麿の叫びが、その場に空しく響いていた。