エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第91話 一つとなる意思

 突然現れたガスア軍に作戦指令室は、完全に混乱していた。

 

「国境の守備隊は何をしていた!」

「先手を打たねばやられてしまう! 今すぐに迎撃を!」

「そんな戦力がどこにある! まずは目の前の敵を叩くべきだ!」

 

 集められた士官たちが怒号と共に考えを述べていく中で、指揮官であるエリカと王であるユリウスだけは沈黙を貫く。

 

「指揮官! 防衛線の各部隊が指示を仰いでいます! どうなされますか!」

 

 オペレーターの問いかけに、エリカは即答せず考え込む。

 この場にいる誰もが彼女に注目し、挙動を伺う。

 やがてエリカはハッキリと、決意を込めた声で命令を下す。

 

「現れたガスア軍は気にせず、リビングデッドの対処のみに集中するよう各防衛線に徹底させてください!」

「り、了解!」

 

 戦線にエリカの指示が飛んでいく中、納得いかない士官たちが詰め寄ってくる。

 

「本当にいいのか! このままだと最悪挟撃という形に!」

「分かっています」

「ならば今から防衛線を崩してでも迎撃すべきだろう! 今なら先制する事も」

「少し落ち着きたまえ」

 

 今にも掴みかからんばかりの士官たちを止めたのは、静観していたユリウス王であった。

 この状況下でも王に突っかかるような者はおらず、皆一様にたちろぐ。

 ユリウス王は軽くため息を吐くと、エリカに問いかける。

 

「大尉。指示に不安はあるか?」

「いえ、ありません。いまある情報では最善手だと信じています」

「そうか。なら余も信じよう」

「し、しかし」

 

 一触即発の空気ではなくなったが、未だに何か言いたげな士官たち。

 すると王は立ち上がり、皆を落ち着かせるように口を開いた。

 

「気持ちが分からない訳ではない。だが今は一丸となって脅威に立ち向かう時だ。余を信じてついてきて欲しい」

「……了解しました。王よ」

 

 ユリウス王の言葉に士官たちは頷くと、自身の持ち場に戻っていった。

 再び座り込む王に対し、指示を飛ばし続けるエリカは短く礼を言う。

 

「感謝いたします」

「構わん。しかしガスアが動くとは。静観を決め込むと思っていたが」

「余程利益に目が眩まなければ、動かないと思われます。その上で大軍を動かし国境の部隊から情報が入らなかった事を考えれば、彼らは恐らく」

「指揮官! ガスアの艦隊が射撃態勢に入りました!」

 

 あるオペレーターの叫び声が作戦指令室に響き渡る。

 一様に新たな指示が出るのを待つ中、エリカが動揺する事なく命令を下す。

 

「指示は変わりません。リビングデッドのみに集中を」

「し、しかし!」

 

 徹底してガスアと戦わない方針のエリカに、不信感が指令室を包み込む。

 しかしその間にも帝国の艦隊は射撃準備を終え、ついに大艦隊による一斉射が襲い掛かった。

 

 ―ただしアーストン軍にではなく、リビングデッドに

 

「なっ!」

 

 誰かの声が指令室にいた皆の気持ちを代弁していた。

 大艦隊よるエーテル砲の一斉射にリビングデッドが飲まれていき、多くが大破となっていく。

 そしてガスアのMT部隊が次々と発進されるが、アーストン軍には目もくれずリビングデッドを攻撃していった。

 

「こ、これはどう言う」

「見ての通り。ガスアは火事場泥棒をするために来たのではなく、助けに来たんです」

 

 呆然とする一同にエリカは事実となった考えを話す。

 見ても信じられずにいる士官たちであったが、あるオペレーターがエリカを呼ぶ。

 

「指揮官! ガスアの艦隊から通信が!」

「メインモニターに」

 

 言われるがままメインモニターに繋げると、歴戦を生き抜いてきた事を感じさせる風貌の男が表示された。

 

「帝国軍所属のエーヘンバッハ大将だ。貴殿の名は?」

「アーストン軍。ブレイン大尉と言います。救援感謝しますエーヘンバッハ大将」

「全ては我らが皇帝の意思だ」

「エーヘンバッハ大将。この救援はガスアの総意、そう捉えていいのだな」

 

 ユリウス王が通信に割り込むと、エーヘンバッハは少しだけ驚きつつも答える。

 

「今やあの空中要塞は全世界の敵だ。無論渋る者もいたが、皇帝はこの大戦力を救援にと決断なさった」

「だが事前に通知して欲しかったものであるが」

「メシアがどう情報を監視しているか分からない以上、しない事が安全だと判断したまで」

「正しい判断だと思われます。こちらの作戦はリスクの少ない接触通信で送ります」

「了解した。共に人類の敵を打ち倒そう。ガスアとアーストン、そして全ての有志の力を借りてな」

 

 通信が切られると同時に、オペレーターたちが慌ただしく動き始める。

 

「各国から次々に援軍の承諾要請が来てます!」

「民間からもです! 既にリビングデッドと交戦中の傭兵もいる模様!」

「全ての援軍を承諾! 第二陣は一度補給に後退させ、第三陣はその援護を! 一気に戦線を押し上げます!」

 

 次々に指示を出していくエリカの横で、ユリウス王は戦況を見ながら呟く。

 

「見たかメシア。これが人類の意思だ」

 

 王の勝ち誇るような呟きは、誰にも聞かれる事なく溶けていくのであった。




大きな脅威に人類が一丸となって立ち向かう、王道な展開です
果たして人類は勝てるのか?
今後もご期待ください!
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