エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第94話 苦境

「このぉ!」

 

 アイシャの気迫と共に振り下ろされた大剣が、リビングデッドの頭部を押し潰す。

 間違いなく動かなくなるのを確認すると、一息つく間もなく次の敵機の相手をしなければならない。

 そんな戦況が既に一時間以上も続けられていた。

 既に陣形も跡形もなくなっており、敵味方入り混じっての乱戦となっている。

 

「はぁ、はぁ」

 

 疲労が溜まっているせいか、大きく肩で呼吸するアイシャ。

 戦闘続きで碌に補給すらしてない彼女は、もはや時間感覚すら曖昧になってきていた。

 エルザとミーヤも乱戦となって離れ離れになってしまい、生存すら分からないという状況。

 そんな中でアイシャの脳裏に浮かんだのは、起死回生の一翼となっているユーリの心配であった。

 

「隊長、大丈夫かな」

 

 頭が回らない中で想像するのは、最悪の結末ばかり。

 だが浮かんだ考えを払拭するように奥歯を噛みしめ、迫るリビングデッドたちを大剣で薙ぎ払っていく。

 

「負けない! 勝ってみせる!」

 

 自分に言い聞かせるようなアイシャの叫びが、コックピットに響き渡る。

 比例するかのように動きも良くなっていき、獅子奮迅といった活躍を見せていた。

 

「……信じてるから」

 

 聞こえるはずのない応援を小さく口にしながら、苦戦している部隊の援護に回るアイシャであった。

 

・・・・・

 

「くそっ! 目で追うのがやっとだ!」

【ユーリ! 五時の方向!】

「間に合え!」

 

 ミカエルの腕に内蔵されているエーテル砲が、ジークフリートに向けて放たれる。

 避けるユーリであるが実際には装甲を掠っており、まさに間一髪であった。

 すぐさまライフルを構え照準を合わせようとするが、その前にミカエルは死角へと離脱していた。

 

【来ますユーリ!】

 

 探す間もなく今度は接近戦を挑んでくるミカエル。

 内臓式のエーテルサーベルを、寸前の所で同じくサーベルで受け止めるジークフリート。

 何とか食らいついてはいるが、ギリギリである事は誰の目にも明らかであった。

 

「チッ! 向こうも嫌な隠し玉を持ってたもんだな」

 

 押されている状況に思わず舌打ちをしながら悪態をつくユーリ。

 アーストンでも有数の腕をもつ彼が苦戦する理由。

 それはミカエルのスラスターの数にある。

 スラスターと一口に言っても姿勢制御や推進のためなどがあるが、とにかくミカエルはその数が桁違いに多い。

 人間が乗っていれば、間違いなく衝撃を受けて死ぬと言えば分かりやすいだろう。

 

【人が乗っていない利点を生かしてきましたね。このままではいつか押し負けます】

「分かってる!」

 

 ユーリはアイギスの分析に苛立ちながら答える。

 既に十五機。

 十五機がミカエルに返り討ちにされ、撃破された。

 このままではこの一機のために全滅という結末すらありえる。

 

【もう終わりにしましょう。ユーリ・アカバ】

 

 するとミカエルからメシアの機械音声が聞こえてきた。

 構えたまま警戒していると、ミカエルは戦闘態勢を解除する。

 

「……どういうつもりだ」

【言葉通りです。貴方が優れた力量を持っていようと、ミカエルに勝てる見込みはありません。ですから降伏し、メシアを受け入れてください】

「随分とお優しい言葉だが。他の奴らにも言うべきだったな。信用がないぜ」

 

 リビングデッドたちとは違い的確にコックピットを貫いていたミカエルを見れば、素直に頷ける訳もない。

 

【確かに。彼ら、あるいは彼女らには申し訳ないと思っています。それぞれ降伏勧告をしたのですが、受け入れてもらえませんでした。万が一があってもいけないので殺すしか無かったのです】

 

 メイアがそう言うと、ミカエルは両腕を広げ抱きしめるの待つかのようなポーズを取る。

 

【ですが貴方は特に死なせたくありません。AIと共に過ごし、共存ができるという生き証人である貴方には】

「悪いが断る」

 

 即答するユーリに、メシアはどこか困惑を音声に滲ませながら問いかける。

 

【何故でしょう。貴方の第一目標は生きる事のはず。こちらに来てくだされば願いが叶うと言うのに】

【見解の相違という物ですよ。メシア】

「アイギス」

 

 ユーリが答える前に、先ほどまで黙っていたアイギスが割って入る。

 

【AIアイギス。あなたには聞いていません】

【聞くに堪えない問答の前に止めたのです。AIだというのに理解が足りてないですね】

【判断するのは彼です。少し出しゃばりなのでは? プログラミングからやり直した方がいいですよ】

【それはメシアあなたでしょう。自分を棚に上げるのが上手ですね、設計からやり直してください】

【【……】】

(く、口が挟めない)

 

 どうやら考え方は致命的に合わないらしいAIどうしの口喧嘩に、内心引いているユーリ。

 このまま続くかと思われたが、メシアが方針を変える。

 

【これ以上AIどうしでの問答は無駄と判断しました。なのでまずはあなたを消します。AIアイギス】

 

 再びエーテル刃を展開させるミカエルが、隙を狙うように距離を測る。

 対してアイギスに打てる手があるかと聞けば、無いのが現状であった。

 スピードではミカエルが圧倒的に上回り、ユーリも反応するのがやっと。

 エーテルの残量も考えれば、絶体絶命なのは間違いなかった。

 

「……はぁ」

【ユーリ?】

「仕方ない。一か八かであのシステムを使う」

【!! ……ですが】

「出し惜しみできる状況でもない。信じてるぞ、アイギス」

【……分かりました】

 

 アイギスはユーリの提案を受け入れ、システムを立ち上げる。

 

【DEMS、起動】

 

 その瞬間、ユーリの世界は一変するのであった。




最初は短めの予定でしたが、筆が乗りました
ついに解き放立てるジークフリートのリミッター
DEMSとは果たして何なのか?
次回をご期待ください!
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