エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
【システムを切断しました。問題ありませんかユーリ?】
「体のあちこちがかなり痛むが……操縦に問題は無い」
ミカエルとの戦闘を終えた事により、DEMSを止めたアイギス。
この事によって感じなくなっていた痛覚や疲労感に襲われ、ユーリは顔を顰める。
出ていた事にも気付かなかった鼻血を拭いながら、ジークフリートのカメラ越しに全体を確認する。
「周りに変化は無しか。メシアの中核がどこかにあるはずだが」
【少なくともこのエリアには無いようですね。徹底的に探さなければ】
「ああ。……ジークフリートはどれだけ戦闘出来る?」
【損傷はかなり激しいです。ライフルも撃てても二発が限度かと】
「戦闘を避けるしかないか」
情報をやり取りし終えユーリは切れかかっているエーテルを確認しこの区画を出ようとすると、区画中に機械音声が響き渡る。
【流石ですユーリ・アカバ】
「わざわざ労いに来たのか? それともまだ隠し玉でも?」
【いえ。ミカエルが我が持つ最大戦力であり、一機しか存在しません。またアヴァロン内にあるリビングデッドも、三分の二が消失。要塞内だけで言えば此方の負けでしょう】
メシアの敗北宣言とも取れる発言を、ユーリは黙って聞いていた。
このAIがただ事実だけを伝えに来るとは思えなかったからだ。
そして予想通りメシアはしかしと前置きしてから、続きを口にする。
【未だ私のメインシステムを見つけるには至らず。そしてエリン郊外における戦闘も、此方の圧倒的有利。こうして何もしないだけで、僕の勝利は揺るぎない】
「……わざわざそんな事を伝えるなんて親切だなメシア。いいから本題を言え」
【では遠慮なく。今に来て俺はある疑問を抱いています。そして解決するには、あなた方が最適と結論付けました。故に、話をしましょうユーリ・アカバ】
メシアが言い終わると同時に頭上に隠されていた通路が開放させる。
MTが一機通るのがやっとな細い入口が完全に開かれると、メシアが続きを話し始める。
【本来であれば隠し通すべきでしょうが、あなた方はメインシステムへ案内します。小生からの誠意と思ってくれれば。では、お待ちしております】
全てを伝え終わるとメシアの声は聞こえなくなり、静かな空間へと戻る。
ユーリは一度深呼吸すると、黙って聞いていたアイギスに質問した。
「どうするべきだと思う。アイギス」
【本来であれば罠の可能性が非常に高く、止めるべきだと進言します。ですがメシアの行動パターンを考えれば、本気でしょう】
「だな。どのみち罠だとしても行く以外ありえないだが、肯定してくれて助かった」
【ではユーリ】
「時間が惜しい。最速でいく!」
最大推力を持って頭上にある通路に向かっていくユーリ。
中は入口並みに狭くなっており、少しでも操縦をミスすれば激突間違いなしだろう。
激痛に耐えながらミスなくただ突き進むユーリの元に、再びメシアの声が聞こえてきた。
【多くの戦争がありました。そして多くの罪の無い人々が死にました】
ただ朗読しているような言葉たち。
だが実際は自分たちに語り掛けているのだと理解し、ユーリは黙って操縦桿を操作していく。
【人間という種は大いなる知恵、そして運をもって繁栄しました。ですがそこには見えないだけで多くの犠牲がありました。繁栄を求めるのは、種として正しい行為。ですが犠牲をもたらす繁栄は、果たして正しいものなのでしょうか】
狭く曲がりくねった通路を突き進みながら、ユーリもアイギスも聞いていた。
人類救済を目指すAI、その心の静かな叫びを。
【全ての人類を幸福に。全ての人類に平和を。その上で人類の発展を。そんな考えを持つ事は悪なのでしょうか】
ついに出口が見え一気に突っ切るユーリ。
飛び出した手狭な空間には、いかにもメインシステムらしい装置が置かれているだけで、他には何も無かった。
だがそのような事を気にしてる余裕もなく、ユーリはただ目の前のシステムを逸らさず見つめ続ける。
このような状況で、メシアはユーリに問いかける。
【教えてくださいユーリ・アカバ。私が悪だとするならば、何が人類にとって正しいのですか?】
救世主と名付けられたAIの問い。
―それは人類の行く末を決める、極限の問いかけであった。
ついにメシアとの戦いも終わりを迎えようとしています!
果たしてどのような結末となるのか?
是非その目で確かめてください!