エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
「メシア。お前ほど人類を思っているのは、人間にだっていないだろう。そこは認める」
ライフルをいつでも撃てるように構えながら、問われたユーリは答えていく。
「だがどれだけの理屈や信念があったとしても、お前には賛同できない」
【……何故ですか】
「お前の計画では人間として生きられないからだ。どれだけ大切にされようと、家畜と変わらない」
【では続けて問いましょうユーリ・アカバ。どうあれば人間らしいと言えるのですか?】
「そんな事、俺が分かる訳がないだろ」
メシアの問いを両断したユーリは、深いため息を吐くと子どもに言い聞かせるように説明を始める。
「俺だって傍から見れば人間らしくない人生だ。物心ついた頃からMTに乗って戦場でしか満足に生きられないような男に、人について聞く方が間違ってる」
【ですが貴方は人生を過ごしています。ならば的確な答えがあるはずです】
「人間はAIとは違う。全ての行動に答えを持っている奴なんて、そうはいない」
【だからこそ、人類は間違いを犯してきたという結論になるのでは?】
「根本的な意識の違いがあるようだから言っておくぞ、メシア」
ジークフリートのカメラ越しに、メシアのメインシステムを睨みつけるユーリは断言した。
「お前は間違いを否定するが、少なくとも俺は間違いを否定しない」
【……何故】
「ある行為が間違いだとして、将来ずっと間違いだと何故言い切れる? もしかすれば正しかったとなる事だってあるだろう」
【イフの可能性を考えればどうとでも言えます】
「だが少なくとも俺はこう考える。行動を悔やむぐらいなら、それをせめて未来が良くなるように動くべきだと」
【未来が、良くなるように】
「人類で間違いを犯さなかった奴なんていない。けれど過ちすら踏み越えて、未来のために動いてきたから人間はここまで発展したんじゃないのか?」
【……】
ユーリの持論を聞き、メシアは考え込むように黙り込んだ。
すると黙っていたアイギスが、ここで割り込んできた。
【AIメシア。あなたは人類の良い面を信じてるのですね】
【どういう意味でしょうか。AIアイギス】
【人間の善と悪。その善の部分を信じてなければ、全ての人類を救うという計画は打ち立てませんから】
【当然です。人類すべてに生きる価値があります。貴女は違うとでも?】
【いえ。ですがAIメシア、あなたは人の善を見過ぎている】
【話が見えませんよ。AIアイギス】
【人は善と悪。両方を備えている生き物。善だけ見て判断するのは、人間の半分しか見てない事になるのでは?】
【……】
アイギスの問いかけに、メシアは何も答えない。
いや答えられなかったのかも知れない。
想定してなかった問いかけに、メシアは回答するだけの答えを持ち合わせていなかったからだ。
「メシア。悪いが時間もあまりない。今すぐ機能を停止しろ」
残った腕だけでライフルを構えるジークフリート。
今にも行動不能になりそうであるが、銃身だけはメインシステムをしっかりと狙っていた。
若干の沈黙を切り裂き、メシアは答える。
【……私は人類を救う。それは変わりません】
答えを聞いてユーリが引き金に力を込めかけた時、メシアが続きを口にした。
【ですが内容を再考する必要があると判断。計画を中断します】
「再開する機会があるとでも?」
【無いとしても人々の不幸する計画は実行できません。当AIの存在意義に反します】
「……分かった」
メシアの言葉を聞きライフルを下ろすユーリ。
場の空気が弛緩し、全てが終わったと思われた。
「!?」
【【!?】】
―だが区画中に鳴り響くアラートが、未だ終わっていない事を嫌でも知らせるのであった。
少し長くなりそうなため前後編に分割させてもらいました
次回はいよいよ100話!
8章もほぼラストなので、頑張って書いていきたいと思います!