エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第100話 救世主の決断―後編―

「何だこのアラート!」

【AIアイギス。説明を求めます】

 

 突然区画中に鳴り響き続けるアラートに、ユーリもアイギスも動揺を隠せないでいた。

 しかし動揺しているのは二人でけでなく、空中要塞のメインシステムであるメシアも同じであった。

 

【想定外のプログラムが起動している!? 緊急停止……アクセス拒否!?】

「そっちも忙しそうだが事態を説明してもらえるかメシア。これはお前が引き起こしているのか?」

【……把握していないプログラムがアヴァロンのシステムを書き換えました。対処を行いますが、全て弾かれています】

 

 ユーリの問いかけにメシアは現状を説明し始める。

 プログラムの出どころも気になる点ではあったが、今はそれよりも聞かねばならない事があった。

 

「プログラムに支配されるとどうなる?」

【もし支配権が完全に移れば、アヴァロンはエリンの真上に移動し。……墜落するでしょう】

「何!?」

 

 予想を超える返答にユーリが驚く中、アイギスはメシアに問う。

 

【システムが掌握されるまでどれだけの猶予がありますか】

【あと十数分もすれば】

【……AIメシア】

【分かっていますAIアイギス。多くの人を救うためには、この手しかないでしょう】

 

 AI同士の会話が打ち切られると、メシアの声がアラートを掻き消す音量で要塞中に流れた。

 

【警告。これより空中要塞アヴァロンは自爆します。内部にいる人間は全て避難してください。繰り返します】

「本気かメシア」

【勿論ですユーリ・アカバ。既にリビングデッドの命令権も奪われ、残された道はこれしかありません。多くの命か、一つのAIか。比べるまでもない選択です】

「……そうか」

【ユーリ。のんびり話している暇は】

【待ってください。無理を承知でお願いがあります】

 

 メシアが言うと、空中にマップが映し出されここからそう遠くない位置にマークが付けられていた。

 

「これは」

【捕らえた人間を一時的にコールドスリープするエリアです。本来であれば非常時に脱出装置が働くのですが、どうやら停止させられた模様です】

【つまりユーリに助けさせようという事ですか。AIメシア】

【話が早くて助かります。これ以上巻き添えには出来ませんから】

「分かった。こっちとしても見殺しは目覚めが悪いからな」

【感謝します。ユーリ・アカバ】

「じゃあなメシア。……やり方はともかく、AIとしてはそこまで嫌いじゃなかった」

 

 メシアへの評価を言い残したユーリは、ボロボロな状態のジークフリートを操り目的地へと動き始めた。

 

【……ありがとう。ユーリ・アカバ】

 

 聞こえるはずの無い感謝の言葉を、何も無い空間に響かせながらメシアは自爆への残り時間を確認する。

 残された時間はあと五分。

 それが人類救済を目指したAIに残された、最後の時間であった。

 

【要塞内に残っている人間は、コールドスリープしている方々を除けばユーリ・アカバだけ。万が一の事を考え手動で脱出装置が働くようにしといて正解でした】

 

 メシアに後悔はない。

 元々そんな感情は学んでおらず、行動も人類の為に動いたという自負がある。

 ただやり方を間違えただけ、次があるとすれば誰にも否定されないようなプランを打ち出せるだろうと考えていた。

 

【まあ、その可能性は天文学数値でしょうが】

 

 残り時間はあと二分。

 システムの殆どを謎のプログラムに支配されながらユーリの状況を確認してみれば、今まさに脱出装置を起動させてところであった。

 

【これで悔いを残さずにすみます】

 

 ジークフリートも脱出するのを確認し、要塞内に残された思考のあるものはメシアのみ。

 自爆まで一分を切り、リビングデッドたちが阻止するために自身に向けて集まって来るのを確認しつつ、メシアは何もない一人きりの空間で言葉を漏らす。

 

【人類の皆様。どうかどうか一人でも多く幸せを。それが救世主の名を与えられた、AIのささやかなる願いです】

 

 そこから数十秒後、空中要塞アヴァロンは大爆発を起こし役目を終えた。

 

 ―その爆炎がメシアの矜持だと知る者は、ユーリとアイギスしかいないのであった。




ようやくメシアとの完全な決着となりましたが、八章はまだ少し続きます。
是非最後まで読んでもらえると嬉しいです!
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