エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第102話 王と戦乙女と、英雄と

 ―メシアリベリオンから五か月が経った

 

 乱れていたインフラも回復の兆しを見せ、傷跡こそ残るものの本当の意味で戦場となったアーストンは復興しようとしていた。

 平和な日々を過ごす王都エリンの一角に、老舗のレストランがある。

 アーストン建立当時からあるとされる店であるが、良心的な値段であり非常に人気があった。

 だがその人気店の奥に隠し部屋があり、人知れず来店したい客を迎え入れている事は、知られていない事実である。

 そんて本日、その隠し部屋にとある三人が訪れていた。

 

「うむ美味い。ここの料理は何を食べても外れがない」

 

 一人はアーストンを治めるべき王であるユリウス。

 内密に何度もこの店を訪れている彼は、変わらない味に舌鼓を打っていた。

 

「確かに。流石は老舗とされるだけはあります」

 

 二人目はメシアリベリオン阻止の立役者の一人であるエリカ・ブレイン。

 出される品を洗練された所作で口に運びつつ、王の言葉に対しても逐一反応を返していく。

 

「確かに美味いけど。俺のような奴が来ていい店か? ここ」

 

 そして最後は最大の戦功者であり、軍の内外問わず英雄と噂され始めたユーリ・アカバ。

 王の前であろうと何時もの悪態をつく姿は、仲間内なら呆れながら見ていた事だろう。

 

「はぁ。今更態度について言う気は無いですけど、場の雰囲気には慣れてくださいね。これから嫌でも会食しなければならない事が多くなるんですから。英雄殿」

「別に適材適所でいいと思うだけど。俺まで付き合う必要がどこにあるんだ? 戦乙女殿?」

「ふふ。仲がよいのようで結構な事だ」

 

 メシアリベリオンの後、二人は公な場でも顔を合わせる事も多くなり自然と前よりも親しくなっていた。

 ユリウスは若い男女のやり取りを微笑ましく見守っていたが、いい加減本題に入るべく給仕を部屋の外に出す。

 その事に気付いた二人も真剣な表情となり、隠し部屋の空気は張り詰めたものとなっていた。

 

「知っての通り。メシアを造り出し世界を転覆させようとしたアームストロング博士は、少将の手によって葬られた。そして一連の事実を知っているのはここにいる三人と少将に加えAIであるアイギス。この五人だけだ」

「はい。中尉も漏らしてはいませんね?」

「流石にな。言っていい事と悪い事の分別ぐらいはつく」

「よろしい。これが知られれば掴んだ平和が崩れかねん」

 

 ワインを一口飲み喉を湿らせると、ユリウスはユーリにとって重要な話題に切り込む。

 

「そしてアイギスの処遇についてなのだが」

「……」

「少なくとも中尉が現役である限りは廃棄されるような事は無くなった」

「感謝します」

「なに。作戦成功の一員である者を無闇に消したく無かっただけだ」

 

 メシアの一件でAIに対する信頼は地に落ちた。

 当然それはアイギスに対する意識も同じであり、軍部には消去すべきという意見が多く占めた。

 しかし集めたデータを無にする事を嫌う者や、AIを一つの命として見る者。

 何よりユーリ自身が反対したため五か月もの協議が重ねられ、ようやく存在が許された訳である。

 

「ですが今回の一件でAIに関する事業は一気に縮小するでしょう」

「確かに大尉の言う通り。仕方がないと言えばそれまでだが」

 

 ユリウスは椅子に背中を預け、二人を眺めながら口を開く。

 

「だがいつか必要な事ならば花開くだろう。君ら二人の才能が、必要な時にあったように」

「光栄です」

 

 エリカが立ち上がって臣下の礼を取るのに合わせ、ユーリも拙いなりの礼を取る。

 その様子を微笑みながら見守ったユリウスは二人を座らせると、外に待機していた給仕を呼び出す。

 堅苦しい会話はここで終わりという合図であった。

 

「さて食事を再開させよう。折角の記念すべき夜を、君たちと味わえた事を幸運に思う」

「……ええ。本当に」

「こちらこそ、本音で光栄だと思っていますよ。ユリウス王」

「うむ。では改めて乾杯するとしよう」

 

「明日にはアーストンという国が地図から消える事に」




次回ついに八章ラスト!
是非結末をご確認ください!
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