エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
―新西暦五十九年は十二月、良く晴れた朝の事であった
アーストンの王都であるエリンにそびえる、天に向かって伸びるような記念碑。
それはメシアリベリオンにて、僅かではあるが出た被害者を弔うために建てられたものである。
「……」
その記念碑を囲むのは、文字通り様々な人々。
国籍や性別を始めとして職のあるなしや善悪すら問わず、建てられた広場にはとても収まり切れない人々がある時を待ち構えていた。
何とも言えない緊張感が一帯を包む中、ある二人の男が設置されたステージに姿を現す。
すると人々は一気に湧き、中には涙を流す者もいる程である。
だがこれから起きる歴史的な出来事を考えれば、無理もない事でもあった。
ステージに上がった一人が用意されたマイクの前に立つと、人々は言葉を聞き漏らさないよう黙り込む。
「皆、朝早くから集まって頂き感謝する。改めて名乗るまでも無いだろうが、ユリウス・ヴァン・アーストン三世である。そして隣にいるのがガスアの皇帝たるエーデン・ニコラウスその人である」
アーストン王であるユリウスと、ガスアの皇帝であるエーデン。
いわば世界を握る二大トップの登場に、再び会場が湧き立つ。
ユリウスからマイクから離れると、今度はエーデンが前に出て話し始める。
「皆の知っての通り。これから行われるのは正式な式典である。だがこのような場で行うのは、既存の形に捕らわれない。まさにこれからの未来を示すためでもある」
ユリウスより僅かに若いエーデンに対し、人々は拍手で答える。
中にはガスアと敵対していた国の者もいるはずであるが、広場は実に温かい空気に包まれていた。
そこにもう一度ユリウスが前に出て皇帝と王が並び立つ形となると、会場は再び緊張感が駆け巡る。
「メシアリベリオンから五か月が経った。あの戦争で我々は学んだはずである。人間同士、手が取り合えるはずだと」
「人々は分かり合える。だから我々は勝った。ならばこれからも共に戦える」
二人はそう言うと後ろで風に乗ってはためいていた、幾つもの旗に振り向く。
それは二大国家だけでなく、中小様々な国旗であった。
人々の注目が旗に向けられるのを感じ取ったユリウスは号令を出す。
「旗を下ろせ!」
すると存在を示すための国旗は、役目を終えたかのように下ろされていく。
広場からはすすり泣くような声がチラホラと聞こえており、今までの事を思い出したか泣き崩れる者を見知らぬ誰かが支える姿も見えた。
旗が全て下ろされるとユリウスは人々に向き直り、宣言する。
「今日この日をもってアーストン、ガスア。そして十を超える国の名は歴史から消える」
その言葉に多くの人が涙した。
会場に居る者だけでなく、様々な手段でこの式典を見ている多くの人がだ。
分かっていた事であり準備をしてきたが、実際に国が終わるとなれば思うところもあるだろう。
人々が涙する姿を見て、ユリウスにも込み上げるものがある。
だが王としての最後の仕事をやり遂げるため、再び後ろを振り向く。
「新たな旗を掲げよ!」
新たになびく旗に描かれているのはアーストンでもガスアでも、まして他の国のものでもない全く新しい紋章であった。
ユリウスとエーデンは声を揃え、新たな歴史の幕開けを宣言する。
「ここに連邦国家『エデン』の建国を宣言する!」
宣言に対してまず返ってきたのは沈黙。
だがそれも一瞬で、次に巻き起こったのは爆発が起きたかのような歓喜の声。
長い間休戦であったアーストンとガスアが手を取り、一つの巨大国家となる。
そんな歴史的瞬間を、人々は歓迎するのであった。
「メシアも多少は報われるかな」
【だといいですがね】
そして切っ掛けとなったメシアリベリオンで英雄と評されたユーリは、警備のためにジークフリート乗りつつアイギスと共にメシアの事を思う。
この一歩が、人類救済を志したAIへの手向けだと信じて。
「隊長! さぼってないで仕事して!」
「分かってるて。アイシャの奴、また一段と小言が増えたか?」
【ユーリには丁度いいと思いますが?】
「言ってくれるな。アイギス」
国が変わろうと、彼は変わらない。
この空の下、出来る事をやって生きるだけであった。
ユーリは未だ式典が続けられている広場にいる人々を見て軽くほほ笑むと、白い愛機で空を飛び続けていった。
ついに長かった八章も終わりを迎えました!
次回から幕間を幾つか書くつもりでいます
全体の七・八割は書き終えましたが、まだまだ続きますのでよろしくお願いします!