エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
第104話 再演の兆し
エデン連邦が建国し、三年の月日が経った。
アーストンとガスア。
この世界を代表する二大国家を中心として生まれた連邦に、諸外国は打つ手をこまねいていた。
積極的に戦争を起こさないエデンであるが、軍事力や生産力は超大国に相応しい力を持っている。
あらゆる面を持ってしても対抗案が浮かばず、数多の国が吸収されるか同盟の道を選んだ。
国土は全世界の三分の一を所有しており、このまま平和に統一されるのも時間の問題であった。
―あの事件さえ起こらなければ
・・・・・
新西暦六十三年 二月
小型戦艦カゲロウ通路
「まったく。どこ行ったんだか」
褐色肌が特徴的な軍服を着こんだ美女が、呆れた表情で誰かを探していた。
すると反対側から歩いてくるメカニックが二人を見かけたため、声を掛ける事に。
「ごめん。ちょっといい?」
「ん? あっ! う、ウェルズ少尉!」
「な、何でありますか!」
緊張した面持ちで敬礼する二人に対し、アイシャは落ち着かせるために優し気な笑みを浮かべる。
「そう緊張しなくてもいいから。たい……アカバ中佐を見なかった?」
「中佐ですか? いえ」
「自分も今日は見ておりません」
「ん、分かった。ありがとう」
軽く礼を言ってその場を去るアイシャであったが、二人の会話はよく聞こえていた。
「相変わらず美人だよな少尉。一度でいいからデートしてぇ」
「バカ言うな。英雄とされる中佐のお手付きって噂があるんだぞ。お前なんか歯牙にもかけないって」
(ったく。好き放題言っちゃって)
既に何度も聞いた噂話にゲンナリすると同時に、仕方ないとも思っているアイシャ。
ユーリ自身英雄として有名であり、今や伝説と化している人物。
その補佐を好き好んでやっているのだから、噂が立つのも無理と無理やり納得させる。
(ホント。どっちかに割り切れたらいいのに)
部下として信頼してくれているのはよく分かっているつもりだが、女として愛されているかは微妙である。
少なくとも悪い印象ではないと思うが、よく分からないまま三年間を過ごしていた。
そしてアイシャを悩ませている人物が、この艦内にもう一人いた。
「あ」
考えながらユーリを探す視線の先に、その人物が歩いてくるのが見えたアイシャ。
立場上無視する訳にもいかず、近づいてくるその人物に敬礼する。
「ブレイン艦長」
「ウェルズ少尉。丁度よかった」
二年前カゲロウの艦長となったエリカ・ブレインは、アイシャを確認すると足を止め質問してきた。
「アカバ中佐を探しているのですが、見かけませんでしたか?」
「実はこちらもでして」
「そう、ですか。……では見つけたら次の作戦について話し合うので艦長室に来るよう言ってもらえますか? そろそろブリッジに行かなければいけないので」
「分かりました」
「よろしくお願いします。少尉」
軽く頭を下げブリッジに向かうエリカの後ろ姿を確認すると、アイシャは息を大きく吐いた。
「……悪い人間じゃない事は分かってるんだけどなぁ」
艦長としての力量は勿論、人間性も問題ない事は重々承知している。
他の権力あるポジションを蹴ってユーリのいるカゲロウの艦長を指名した事に、アイシャとしては危機感を感じざるをおえないのだ。
「全く。それもこれも隊長がハッキリしないから」
ブツブツと文句を言いながら、アイシャは次のあてを探しに歩き始めるのであった。
九章始まりました!
果たしてどのような物語になるか、期待して見てください