エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
部隊再編と共に所属するMTも増え、以前より手狭に感じるカゲロウの格納庫。
ユーリはそこで若手のメカニックが先輩に怒鳴られるのをBGMに、愛機であるジークフリートのコックピットで寝息を立てている。
だが開けっ放しにしていたため入り込んでいた光源が途絶え違和感を感じ取ったユーリが目を覚ますと、とある人物が呆れ顔で覗き込んでいるのが見えた。
「アイシャか」
「アイシャか。じゃないでしょう隊長。久々にシュミレーションに付き合ってくれる約束だったでしょ?」
「ああ、もうそんな時間か? アイギスも起こしてくれて良かったのに」
【申し訳ないですユーリ。かなり寝入っていたので】
「……どうでもいいですけど。アイギスってユーリに甘くないです?」
アイシャの疑問を無視しつつ、軽く肩を回しながらコックピットから出るユーリ。
自室だと仕事を押し付けられる可能性があるからと、二年前から癖となりつつある格納庫での昼寝。
今の所は大体のメカニックとアイシャしか知る者はいないがエリカに知られれば、すぐさま禁止令が出るのは目に見えていた。
(まあ、見逃がしている私も私なんだけど)
自分もたいがいユーリに甘い事を自覚しつつ、二人は連れだって格納庫から出ていくアイシャ。
まだ完全に眠気が取れてないのか、盛大にあくびをしながら歩くユーリを横目で見つつブリッジへと向かう。
「シュミレーションはしなくてもいいのか?」
「その眠そうな顔を見てたらやる気が失せました。……それに」
アイシャは一度立ち止まると、ユーリに振り返り実に挑戦的な笑みを浮かべる。
「眠くて負けましたなんて、英雄殿にさせる訳にはいきませんから」
「……はっ! 口は間違いなく成長してるようで何よりだよ」
この三年間、幾度も二人はシュミレーションをしてきた。
結果としてアイシャがユーリに勝った事は一度として無いが、彼女の操縦テクニックはエデンの中でもトップクラスとなりつつある。
ユーリもその事は感づいているし、冷や汗を掻く場面も何度もあった。
だが黙っていた方が成長の糧になると考え、本人には言わないようにしている。
「で? 何でまたブリッジに?」
「艦長が探していたから。多分作戦の相談だと思うけど」
「一々確認取らなくてもいいんだけどな」
話題を変えると同時に歩き始めたアイシャの後を追いながら、頭を悩ませるユーリ。
こちらの意思を尊重してくれるのは有り難いが、ユーリとすればエリカの方が詳しいのだから任せたいと言うのが本音である。
「それだけ信頼されているって事ですよ」
「プレッシャーに押しつぶされそうなんだが」
軽いやり取りをしながら歩き続ける二人。
この気安い雰囲気はエリカには出せない、アイシャだけの特権であった。
しかし楽しい空気もブリッジの扉を前にして霧散する。
二人は気を引き締め中に入ると、エリカはオペレーターと何かしら話し合っている最中。
もう少し暇を潰してから来ようかと考えるユーリであったが、行動に移す前にエリカが二人を視界に捉えた。
「来ましたね」
特徴的な白髪をかきあげながら、二人に歩み寄るエリカ。
今のカゲロウを代表する三人が集まり、見慣れているはずのブリッジのクルーもどよめく。
因みに副長も当然いるが、影が薄すぎて名前さえ記憶されてないのが現状である。
「次の作戦について意見を聞きたいのですが、ウェルズ少尉もよろしいですか?」
「勿論。役に立てるならば」
笑顔で承諾するアイシャに、同じく笑みを返すエリカ。
ユーリはそんなやり取りを見ながら、ボソッと言葉を漏らす。
「アイシャがいるなら、俺は要らないじゃないか?」
「いや駄目でしょ。責任者の自覚持ってよ隊長」
「その通りです。人の上に立っている立場である事、座学で長時間教え込んでもいいんですよ」
「……悪かったよ」
二人の本気の口調での苦言にユーリが白旗を振る。
いつもと変りないやり取りが繰り広げられ、場が和み始めてきた。
「さて。そろそろ本題に移りましょう」
だがエリカの一声によって、空気は真剣なものへと切り替わる。
マップをメインスクリーンに映し出しながら、エリカは間違いないか最終確認していく。
「随分と念入りだな。……まあ無理もないか」
「ええ。エデン、いえ我々にとって今回の敵は絶対に否定すべき存在ですから」
「だな」
力強く同意を示すユーリ。
アイシャも言葉こそ発さないが、目で強く頷く。
二人の意思を見て取ったエリカは深呼吸すると、マップを見つめながら宣言する。
「では始めましょう。『メシア教団』を壊滅させるために」
ようやく登場したユーリ
新たな敵に対して、どのように戦っていくのか?
乞うご期待!