エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
―メシア教団
AIであるメシアを神格化しでいる宗教団体であり、人類をより良く管理するという目標を掲げて世界各地で活動している。
かなりの過激派であり特にエデン連邦を目の敵にし、彼らのテロによる被害は相当の数におよぶ。
現在ユーリたちが向かっているのは南部における大きな拠点の一つであり、カゲロウを中心とした八隻による摘発作戦を行う手筈であった。
「全く。メシアの影響が未だにあるとはな」
作戦開始時刻が迫る中、ジークフリートのコックピットにてユーリは愚痴るように本音を漏らす。
誰にも聞かせるつもりが無い言葉であったが、聞いていたアイギスが返答する。
【神輿にするだけであれば、AIメシア以上の者は今の所ありませんから】
「……だろうな。せめてもの手向けとして、さっさと名を利用する奴らを排除するか」
教団の兵力はMTを含めてかなりの総数と考えられている。
バックに企業や国が絡んでいるとエリカは睨んでいるが、細かな事にユーリは興味はない。
だが幾ら兵力があろうと、訓練を受けた連邦の精兵に敵う訳もない。
さらに言えば先日には中央部最大規模の拠点が落とされた事もあり、勢いは落ちている。
今回攻める拠点のMTも二十機ほどと見られており、八隻は過剰戦力と言える程であった。
それらは兎も角、改めてやる気を出すユーリに対しアイギスがある質問をする。
【ユーリ。機体の乗り換えを断ったと聞きましたが】
「まあな」
ユーリがジークフリートを愛機として五年。
上層部からは最新鋭機への乗り換えを打診されていた。
今の所は断っているが、英雄としての肩書がある以上、正式な命令が下るのも時間の問題であろう。
【気を使わなくても結構ですよ?】
アイギスはユーリが断る理由が自身にあると考えた。
現在アイギスの存在は、エデンとしても腫物扱いと言える。
高性能AIアイギスを次世代機に搭載すべきかどうか、軍部でも政治家の間でも意見が割れている状況であった。
「そうは言ってもな。今でも十分満足してるしな」
【立場というものもあります。何時までもこの機体に縛られる訳にもいかないでしょう】
「お小言は有り難く受け取っておくよ。だが今は目の前の事に集中しよう」
【同意はしますが。機体のせいで負けたなんて言わないでください】
「……アイシャにも似たような事を言われたな」
苦笑を浮かべるユーリの耳に、作戦開始を知らせる通信が入ったのは二分後であった。
・・・・・
作戦は順調に進んでいた。
降伏するようエリカが拠点に通信、だが返答のミサイルが飛んできたのが十分ほど前。
予定より多くのMTを配備していた教団であったが、開始数分にて半数以上が大破。
防衛機能も殆ど沈黙し、内部にも白兵部隊が突入されている。
既に逆転が不可能なほど、教団は壊滅していた。
「殆どやる事が無かったな」
【出撃と同時に二機を撃ち落として何を言っているんですか】
曇り空に良く映える白の装甲に傷一つなく、ジークフリートは空中から拠点を見下ろしていた。
残存兵力が駆逐されるのも時間の問題であり、余分な兵力は邪魔にしかならないため待機しているのである。
「……」
【ユーリ? どうしました?】
だが戦場に出ると同時に顔を顰めているユーリを心配して、声を掛けるアイギス。
ユーリは額を指で押しながら、どう言おうか悩んでいた。
「快勝、だよな」
【そうですね】
「他に増援も来ないな」
【ゼロとは言いませんが、低いかと】
「勝利は疑いようが無いな」
【何か気がかりな事でも?】
「……戦場に出てから不安がある。嫌な予感が拭えない」
戦場において何度も助けられた己の勘を、ユーリは信頼していた。
だがこの勝敗が決まった戦いにおいて未だ不安が募る事に、戸惑いを隠せないでいた。
【ブレイン艦長に索敵範囲を広げてもらいますか?】
「……一応頼む。何事も無ければいいんだが」
その言葉が切っ掛けだったのか、当人にも分からないだろう。
だが言い終わると同時に異常事態を知らせるアラートと鳴り響くのと、空中に巨大な穴が開いたのは刹那の差であった。
―この時から平穏に進んでいた時は、激流となるのである
ついに新たなる敵が次回登場です!
どのような敵が現れるか、ご期待ください!