エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第112話 プロメテウス

「プロメテウスとは神話において人類に火を与えたとされる神です」

 

 格納庫への道すがら、イレーナはプロメテウスの名の由来について話し始める。

 理解深めて欲しいという意図もあっただろうが、杖をついて歩く自分のペースに合わせてくれているユーリに気を使っての事であった。

 

「実際に神がいるかどうかは別にして、火は人間の文化において重要な物。そう言った意味では文明の象徴と言えるでしょう」

「だから名前を拝借したと?」

「ええ。中佐の世界へ六十年先の技術を送るですから、この名が相応しいと思いましてね」

「しかし技術と言われてもなぁ。詳しく無いぞ俺は」

 

 渋い顔をしながらイレーナの後を歩くユーリ。

 プロメテウスがどのような形をしているかは知らないが、ある程度の知識しか持たない自分に扱えるかが不安であった。

 

「心配せずとも手は打ってあります。それにプロメテウスは中佐も気に入ってもらえると思いますよ」

「?」

 

 意味が分からず首を傾げるユーリをよそに、イレーナはお終いとばかりに話を打ち切る。

 それから十数分して、ようやく二人は巨大な格納庫の前まで辿り着く。

 イレーナは音声認識によるロックを外すと、さながら神に遣わされた遣いのように、ゆっくりと開かれる扉の先にユーリを導く。

 

「さあ中佐。その目でプロメテウスをご覧になってください」

 

 声に誘われるまま格納庫の中に入るユーリ。

 そして目にしたのは完成間近と思われる、白を基調としたMTであった。

 

「これは」

「これが我々の希望であるプロメテウス。正式名称はジークフリート・プロメテウス」

「……ジークフリートの後継機か」

 

 ユーリはようやく自分が未来に呼ばれたのか合点がいく。

 只のMTではなく、ジークフリートの操縦においてユーリの他には適合者は居ない。

 

「初期のジークフリートをひな形に、単独で長期に渡る戦闘を考慮したスペックを備えてあります。そしてDEMSとアイギスは現在移植中です」

「これは……凄いな」

 

 呆然とユーリは感嘆する他に無かった。

 何よりも目を引く四つの大型スラスターは如何にも推力が出そうであり、頭部の四つの目による補足は速そうだ。

 知識不足なユーリに分かる事は少ないが、少なくとも技術の粋を込められているのは分かった。

 

「動力にはオリハルコンを直接搭載。補給を受けなくても戦い続ける事が出来ます。……生きる事が信条の中佐には不本意を強いる事とは思いますが」

「事情は分かってるつもりだ。責める気はない」

「……そうですか」

 

 ユーリはできるだけ明るく言ったつもりであるが、イレーナの表情はどこか浮かない。

 だが目の前のMTに気を取られ、ユーリは彼女の表情に気付きはしなかった。

 

「スペックの詳細は後で渡しますが、アイギスにも伝えておきます」

「助かる。一々説明を見ながらと言うのは肌に合わなくてな」

「急ピッチで仕上げてますが、完成するまではシュミレーターも慣れてください」

「悪いな。何から何まで」

「当然です中佐。あなたは我々にとって希望なんですから」

「英雄やら希望やら。全く似つかわしくない呼称だな」

 

 自虐的に笑うユーリに、イレーナは無表情で首を横に振る。

 

「少なくとも我々はそう思っていません。幼い頃から逆境を跳ね除けてきた中佐ならと、信じているのです」

「……まあ託された以上は善処するよ」

 

 語尾を強めて言い募られ、ユーリは萎縮しながら頷く。

 その反応にイレーナは頷くと、急に思い出したような表情を見せる。

 

「ああ言い忘れてましたが、アイギスの方には少し手を加えさせて頂いてます」

「……何?」

 

 ここで初めてユーリは怪訝な表情をイレーナに向ける。

 相棒であるアイギスに何かあるのではないかという不安から来るものであった。

 

「心配は無用です。手を加えるのはハードではなくソフトウェアですから」

「そう言われてもピンと来ないんだが」

 

 納得しきれないユーリにどう説明するかイレーナは考えていたが、向かって来ている人影を見て笑みを浮かべる。

 

「言うよりも後ろを見てもらった方が早いでしょう」

「後ろ?」

 

 言われるがままに振り向くユーリであったが、そこには一人の若い女性がフラフラと向かって来ているだけであった。

 

「何も無いが?」

「あの方と話せば分かりますよ」

 

 首を傾げるユーリだが、イレーナはそれ以上は語らない。

 仕方なく近づくと、その女性が美人である事に気付く。

 長い金髪を靡かせて歩く姿は、どこか人形めいた美しさを感じさせた。

 女はユーリが近づくのを確認すると、フラフラとした足取りはそのままに小走りになる。

 

「おい。無理しない方が」

 

 足を痛めていると思ったユーリは心配して声を掛けるが、女はスピードを緩める事無くそばに寄った。

 

「ユーリ。こうやって話せる日が来るなんて」

「……誰だ?」

 

 ユーリは記憶を探ってみるが、思い出せない。

 そもそも未来なのだから、知り合いがいる訳もないのだが。

 

「そう言われるのも当然ですね。何せこの姿になったのは先程ですから」

「……ちょっと待て。お前まさか」

 

 今までのイレーナとのやり取りも思い出し、まさかの考えが思い浮かぶユーリ。

 それを肯定するように女は笑顔を浮かべ、自分の名を口にするのであった。

 

「はい。AIアイギス。こうして体を得ました」




ついに明かされたプロメテウスの詳細。
そしてアイギスも人型ボディを得ました。
プロメテウスの活躍を待ちつつ、次回の展開にもご期待ください!
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