エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第9話 過激派集団

 ―アーストン領空

 スコットから任務の説明を受けてから既に三日、ユーリを隊長とする特務小隊。

 通称『デュラハン隊』は、戦艦カゲロウに乗り込み目的地へと向かっている。

 そしてカゲロウ内部にある作戦室にて、三人の少女がユーリを待っているのであった。

 

「ついに実戦、ドキドキするね!」

「……気楽でいいわね、アンタは。これから作戦が始まるって分かってる?」

 

 ミーヤが興奮を抑えられない様子で声をかけるのに対し、アイシャは呆れた様子でジト目を返す。

 だがミーヤは気にした様子もなく、何時もの明るい調子で話し続ける。

 

「暗くなってもしょうがないしね! 大丈夫! 皆が力を合わせれば成功するって!」

「はいはい。精々フラグにならないよう頑張りなさいな」

 

 何を言っても無駄だと思ったのか、動物ように手で追い払うアイシャ。

 未だ喋り足りなさそうなミーヤを放っておき、一人我関する事無く黙ったままのエルザに声をかける。

 

「そっちはそっちで随分と落ち着いてるけど、緊張してないの? 筆記試験一位の秀才様は」

「……緊張はしています。ですけどカレリン軍曹に賛同する訳ではありませんが、いま表に出してもいい事はありません」

「も~エルザ! いい加減ミーヤって呼んでよ!」

「呼びません。カレリン軍曹こそ今は軍務中なのを忘れないでください」

「アンタらが幼馴染っていう事、未だに信じられないわね」

 

 二人の恒例となりつつあるやり取りを見ながら、アイシャはため息を吐き時間を確認する。

 11:41という数字を確認して、少し速く来すぎたかと心の中で再びため息を吐く。

 すると黙ったままミーヤに絡まれていたエルザが、突如思い出したように口を開く。

 

「少しお聞きしたいのですが」

「何よ」

「アカバ少尉について、どう思われますか?」

「何よ、突然」

「深い意味はありません。単なる世間話と思ってくれれば」

「……」

 

 アイシャは怪訝に思いつつもユーリについて考え始める。

 あのシミュレーション以来、何度か訓練を共にしたアイシャの答えは。

 

「MTの操縦技術に関しては、底が知れないわね。殆ど化け物よ」

 

 という畏怖とも称賛とも取れるような答えであった。

 五戦五敗

 最初のシミュレーションも含めた、ユーリとの戦績である。

 戦闘を重ねるその度に、驚異的な操縦技術の差を見せつけられたアイシャの率直な感想。

 それを聞いたエルザとミーヤも頷きを返す。

 二人も回数は違えど、差を見せつけられたのは一度ではない。

 

「それ以外は?」

「それ以外ねぇ。……対して話した訳じゃないけれど、少なくとも部下を犠牲にして手柄あげるような輩には見えないし。総合しても、いまは期待しているとしか言えないわね」

「……そうですか」

「そういうアンタは隊長の事どう思ってるのよ」

「私は」

「何だ、随分速く来てたんだな」

 

 エルザが何かしらを答えようとした時、ユーリがローランドとジェイドと一緒に作戦室に入ってきた。

 すぐさま敬礼をする三人の近くにユーリが座ると、艦長であるローランドが説明を開始する。

 

「早速だが今回の作戦について説明しよう。目的地はアーストン北部。目標は『アーストン解放戦線』の壊滅、及び同首領の確保だ」

 

 それを聞くと、ミーヤは首を傾げながら記憶を辿る。

 

「アーストン解放戦線って確か」

「最近北部を拠点に活動している過激派思想集団ね」

「『アーストンはその武力を持って速やかにガスア帝国を領土に収めるべき』、つまりはいまの休戦条約に反対する団体ですね」

 

 アイシャとエルザがまとめ終えると、ジェイドが補足説明を行う。

 

「まあ主な活動としては小規模のデモ行進を起こしたりするだけ。……だったんだけどね」

「どうやら強力な支援者を得たようでな。明日MTを使用した大規模なテロ行為を行う事が判明している」

 

 ローランドがそう言い終わると、目の前のモニターに映像が映し出された。

 

「奴らはかつて鉱山だった一帯を基地として利用。MTの総数は百を越えてるらしい」

「ただの過激派にそれだけのMTが集まるなんて、世も末ね」

 

 アイシャの言葉に苦笑いしながら、今まで黙っていたユーリがようやく口を開く。

 

「まあウェルズの言う事も分かるが、これには理由がある」

「理由ですか?」

 

 ユーリが頷くと、モニターが操作され別の画像に切り替わる。

 

「敵のMTの内、戦闘用なのは十数機。残りは工業用のMTを改造したものだ」

「殆どハリボテ同然ですね」

 

 エルザは淡々と表する。

 同じMTではあるが、いくら改造されているとはいえ工業用のMTが戦闘用のスペックに追いつける訳がない。

 

「それとこの部隊の他にも三大隊が動いているよ。どちらかと言えば彼らの手伝いが任務と言っていいだろうね」

 

 ジェイドの追加情報を聞いて、三人の緊張は解れつつあった。

 もしかしたら戦闘する機会すらないかもとすら思い始めていると。

 

「……三人共、よく聞け」

 

 ユーリの重く、それでいて低い声が作戦室に響く。

 それは気の抜けかけていた三人を引き締めるには十分であった。

 

「相手が工業用だろうと戦闘用だろうと撃ってくるのは実弾で、それは俺たちの命を奪いに来るものだ。死にたくないなら覚えておけ。どんなMTだろうと人間だろうと向かってくる以上は敵だ。一切の躊躇なく、考える事なく……殺せ」

「「「……」」」

 

 ユーリの言葉に対して、三人は何も言えなかった。

 何も言わせないだけの力が、その言葉にはあった。

 

「少尉の言葉は乱暴だが、間違っていない。油断は命を縮めるぞ」

 

 そうローランドが締めると、ユーリも黙って座る。

 緊張に冷や汗を掻いた三人を見ながら、ジェイドが別の画像を映し出す。

 

「じゃあ次に目標でもある敵の首領だね。名は」

「ジェイソン・グッドマン。元アーストン軍の大尉で、数々の軍法違反を理由に不名誉除隊させられた」

「詳しいですね」

 

 エルザのその声に対して、ユーリは心底嫌そうな顔をしながらため息交じりに答えるのであった。

 

「……少年兵時代の上官だ。不運な事にな」

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