エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第114話 救世主と呼ばれたAI

「つまり瓦礫となっていたパーツに残っていた記憶領域。それをイレーナたちが見つけて、機能を一部封印して再起動させたメシア。と言う訳か」

「ご理解頂き感謝します」

 

 通路を歩きながら説明を受け頷くと、メシアは満足そうに頷く。

 しかし何故か腕を組んで歩いてされている事にユーリは不満気であるが、救世主AIは気にした様子もない。

 この状況に一番文句を言いそうなアイギスは、イレーナと共に機能チェックに向かい別行動中であった。

 別れ際に気を抜かない様に注意を何度もされたユーリであったが、あまり効果は無かったようだ。

 

(……それにしても)

 

 ユーリは改めて腕に触れている感触が、人工の体である事を信じられないでいた。

 しっかりと温かみもあり、柔らかさも感じられる。

 こうしてメシアの顔をじっくりと見ても違和感は全く感じず、とても世界に喧嘩を売ったAIの姿だとは信じにくい。

 

「? どうしました?」

「いや。六十年も経てばAIでも性格が変わるものだな、と」

 

 とっさに出たユーリの言葉にメシアは納得すると、絡めている腕に力を込めて答える。

 

「この基地の管理補佐を任され二十年ほど。前では考えられない程、濃密に人と触れ合いました。体を得た数年は特にです。……今なら過去の行いが愚かであると、認める事が出来ます」

「メシア」

「人類の歴史は人が苦心して掴むもの。どれだけ近づこうが、或いは超えようが。AIが紡ぐ歴史では人類史とは言えない」

 

 淡々と言葉を口にしながらも、機械仕掛けの顔は悲しみを形作る。

 メシア自身もその事に気付いているのか、腕組みを止め先を歩き始めた。

 追及するつもりも無かったため、ユーリは疑問に思っていた事を聞く事にする。

 

「……それにしてもビーストからこの基地を守りきれたな。これだけの基地なら狙わそうなものだが」

「基地の周囲は奴ら。いえ、ここはビーストで統一しましょう。とにかくシールドを無効化する周波数を流し続けています。ビーストも学習しているので、基地一帯には積極的に近づきません」

「なるほど」

「ですが大群で攻められては持ちませんが。詰まる所、ビーストにとってそれだけの価値もない無いと見られているのが現状です」

 

 ビーストの総数などユーリには想像もつかないが、少なくとも五十のパイロットで防ぎきれるものでは無い事ぐらいは察した。

 力関係ではビーストの方が圧倒的に上である事を悟り、思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「分かった。じゃあ別の質問だ」

「大概の事には答えられると思います」

「じゃあ聞かせてもらおうか。この未来で、俺は一体どうなった?」

「……」

「気は使わなくていい」

 

 ユーリは凄む訳でも、悲観的になる訳でもなく。

 まるで夕飯を聞くような気軽さで問いかける。

 メシアは視線を左右に動かしていたが静かに、だがハッキリと答えた。

 

「ユーリ・アカバはビーストとの初の戦闘において味方を庇って死亡。もし我々が介入しなければ、数分後には死んでいたでしょう」

「……」

 

 その答えを聞いてもユーリの表情が変わる事は無い。

 ただ軽く何度も頷くのみで、大した感傷も無いように見えた。

 

「驚かないのですね」

「考えていた内の一つだからな。思っていたより真面な死にざまで良かったよ」

「死にたくないのでは?」

「今でも死にたくないさ。けどこうして生きてる以上、イフを聞かされても動揺はしないってだけだ」

「そうですか。思っていた以上に強いですね、マスター」

「おい。どさくさに紛れて何て呼んだ!」

「下に付くのですから間違いでは無いでしょう? それともご主人様と呼んだ方が?」

「……マスターでいい」

 

 本気で呼びかねないと感じ取ったユーリはマスター呼びを渋々承諾。

 メシアは表情を緩ませながら、シュミレーターへと再び向かい始める。

 肩を落としながら後を追いかけるユーリであったが、ため息を軽く吐き独り言を呟く。

 

「まあ何にせよ。俺が過去に戻れば未来も変わるんだ。少しは気合入れないとな」

 

 独り言を聞き逃さなかったメシアの足が急に止まる。

 俯き立ちすくむメシアを不思議そうに見つめるユーリは、戸惑いながらも声をかける。

 

「どうしたメシア」

「……本来」

「ん?」

「本来この事実をメシアから伝えるのは越権行為。ですが、他でもないマスターには知る権利があると考えます」

 

 言葉を口にしながら振り向くメシアの感情を見せない表情を見て、ユーリに緊張が走る。

 

「今から数日後。プロメテウスと共にマスターとAIアイギス、そしてメシアは過去に戻ります。……ですが」

 

 一度区切りユーリが理解してる事を確認すると、メシアはこの未来の人々が選んだ決断を口にする。

 

「過去に戻ってもこの世界は続いて行きます。そして送り出すのに力を使い切るこの基地は、二千人の人と共に滅ぶでしょう」

 

 この事実は、ユーリを絶句させるのに十分であった。




前回は更新できず申し訳ありませんでした。
ですが完結までは書き続けるので、エタる可能性は、ほぼゼロです。
是非最後までお付き合いをお願いします。
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